(1)天皇と習近平・中国国家副主席との会見(及びその要請)の件で、小沢一郎民主党幹事長らと宮内庁長官とが対立した。

会見要請につき宮内庁が設けた「1ヶ月前」という慣行が守られず、小沢一郎民主党幹事長らのごり押しで会見が決まったのようだ。

(2)これまでの報道を幾つか紹介しておこう。
時事通信(2009/12/12-00:34)
両陛下の負担も考慮=会見要請の1カ月前慣行−宮内庁

 外国要人が天皇陛下と会見する場合、相手側の希望日が差し迫っていると、天皇、皇后両陛下の日程調整に支障を来たし、両陛下の生活にも想定外の負担を掛けるとして、宮内庁は原則1カ月前に申し出るよう以前から要請してきた。
 陛下が2003年に前立腺がん摘出手術を受け、翌年以降は健康へのご負担も考慮し、この慣行の厳格化を政府内で徹底しているという。
 慣行が守られなかったのは、05年にタイの要人との会見で1カ月に1日遅れたケースがある。
 しかし、これはタイが地震と津波の影響を受けたためといい、同庁の羽毛田信吾長官は「国の大小とか政治的重要性によって差を設けたことは全くない」としている。

朝日新聞2009年12月15日2時52分
「30日ルールって誰作ったの?」14日の小沢幹事長
民主党の小沢一郎幹事長は14日、党本部で定例記者会見を開いた。やり取りは次の通り。
(略)
【皇室外交】
 ――鳩山政権は政治主導を掲げているが、自民党時代と違う皇室外交のあり方について。
 「何?」

 ――皇室外交。皇室外交です。
 「あ、あー」

 ――どのような考えをお持ちか。
 「どういう意味?」

 ――習近平氏が来日したが、天皇陛下との会見が30日ルールにのっとらない形で今回行われる。
 「30日ルールって誰作ったの?」

 ――……。
 「知らないんだろ?君は。法律で決まっているわけでもなんでもないでしょ、そんなもん。それはそれとして、君は日本国憲法を読んでいるかね?ん?天皇の行為はなんて書いてある?」

 ――国事行為。
 「なんていうか、どういう風に書いてある?憲法に。国事行為は、内閣の助言と承認で行われるんだよ。そうでしょ?天皇陛下の行為は、国民が選んだ内閣の助言と承認で行われるんだ、すべて。それが日本国憲法の理念であり、本旨なんだ。ね?だから、あのう、なんとかという宮内庁の役人が、どうだこうだ、どうだこうだ言ったそうけれども、まったく日本国憲法、民主主義ちゅうものを理解していない人間の発言としか、私は思えない。ちょっともう、私には信じられない。しかも、内閣の一部局じゃないすか、政府の。一部局の一役人が、内閣の方針、内閣の決定したことについて、君らと同じような人らに会見して、方針をどうだこうだこうと言うのは、日本国憲法の精神、理念を理解していない、民主主義を理解していないと同時に、もしどうしても反対なら、辞表を提出したのちに言うべきだ。当たり前でしょう、役人だもん。ほうでしょ?だから、そういうところがマスコミも、もう全然理解せずに役人の言う通りの発言、あの、報道ばっかりしてちゃあいけまへん。ちゃんとよく憲法を読んで、そして天皇陛下のお体がすぐれないと、体調がすぐれないというならば、それよりも優位性の低い行事はお休みになればいいことじゃないすか。そうでしょ?はい、わかった?」

 ――陛下の健康上の問題にかかわらなければ、いわゆる1カ月ルールは……
 「いやだから、1カ月ルールっちゅうのは、誰が作ったんですかっつうんですよ」

 ――なくてもいいと。
 「なくてもいいもんじゃない。誰が作ったか調べてからもう一度質問しなさい。私は、これは、なんでもかんでもいいっつってるんじゃないんだよ。ルールを無視していいとかなんとかっつってるんじゃないんだよ。宮内庁の役人が作ったからって、金科玉条で絶対だなんて、そんな馬鹿な話があるかっつうんですよ。ね?天皇陛下ご自身に俺聞いてみたら、必ず、それは手違いで遅れたかもしれないけれども、会いましょうと、私は天皇陛下は必ずそうおっしゃると思うよ。わかった?」

 ――小沢幹事長が平野博文官房長官に習近平・中国国家副主席との会見を要請したという報道がある。事実関係は。天皇陛下の政治利用だという議論があるが。
 「君も少し憲法をもう一度読み直しなさい。今、説明したじゃないですか。天皇陛下の国事行為、行動は、国民の代表である内閣、政府の助言と承認で行うことなんですよ。それで全部、国事行為、全部政治利用になっちゃうじゃない。諸君の理解が全くおかしいんだよ。マスコミの。そうでしょ?みんな何にするにしたって、天皇陛下は内閣の助言と承認だと、それは憲法にちゃんと書いてあるでしょうが。それを政治利用だっつうんだったら、何にも天皇陛下できないじゃん。内閣になんも助言も承認も求めないで、じゃ、天皇陛下個人で勝手にやんの?そうじゃないでしょ?うん。だから、事実関係だけっつうんだったらね、そんなことは勉強してから二問目は聞きなはい、もう少し。それで、事実関係として、政府の決めることですから。私が習近平副主席を、天皇陛下とお会いさせるべきだとか、させるべきでないとか、いうようなことを言った事実はありません」

時事通信(2009/12/15-00:41)
宮内庁長官の発言要旨

 宮内庁の羽毛田信吾長官の14日の発言要旨は次の通り。

 −(小沢一郎民主党幹事長の批判について)受け止めは。
 直接私が何か答える立場にはなく、特に申し上げることもないが、経緯は11日に申し上げた通り。
 日中関係の重要性にかんがみ、ご引見をお願いしたいということだったので、組織として首相、官房長官の統括に従うべき立場にあり、陛下にお願いをした。
 ただ、日中関係の重要性という理由でルールに特例を設けることについては、国の大小、相手国の政治的重要性を超えてお務めをしてこられた陛下の国際親善、外国とのおつきあいの在り方をないがしろにして、政治的なところから中立になさってきていることからも、非常に懸念の生じること。官房長官の指揮命令に従うのと同時に、陛下のお務めの在り方を守るという私の立場がある。

 −11日にも「なぜ辞表を出さないのか」という趣旨の質問があったが。
 今のようなことを懸念しているわけで、それを言い続け、今後も大事なことだから守っていただきたいと言うのは私の役回り。私は辞めるつもりはありません。

 −小沢氏は「1カ月ルールは誰がつくったのか」と言っているが。
 一つのルールの中で、陛下は国の大小だとか政治的重要性を超えたところでやっていらっしゃる。大国だから陛下にご配慮いただく、小さい国だからお会いしないということを陛下がなさるようなことがずるずる行われてきたらどういうことになるか。

 −小沢氏は、陛下の国事行為について憲法の規定にも触れていたが。
 内閣の責任でということであればこそ、方針に従った。一方で、憲法の一つの精神として言えば、陛下は政治的に中立でなくてはならない。その中でどうしたらいいのかと心を砕くのも私の役回りだ。
 官邸の方に陛下が今、ご体調が悪いからと言ったことは一度もない。

(3)小沢民主党幹事長の言い分は、他国の要人と天皇が会見することが憲法の定める「国事行為」であり、それゆえ内閣がそれに助言と承認を行うことになっている、というのである。
こう説明して、「1ヶ月前」慣行よりも憲法に基づき天皇との会見を実現したことは、「天皇の政治的利用」ではない、と反論しているのだ。

(4)ところが、14日の定例記者会見についての民主党のホームページを見ると、この点がわかりづらい。
「内閣の助言と承認」という表現はあるが、「国事行為」という表現がないからだ。
 天皇陛下と来日中の中国の習近平国家副主席との会見に関して、外国要人と天皇陛下との会見は1か月以上前に書面申請するとのルールに則らなかったと宮内庁側が主張している問題については、まず「法律で決まっているわけではない」と指摘。そのうえで、「天皇陛下の行為は国民が選んだ内閣の助言と承認で行われる。それが日本国憲法の理念であり、本旨である。宮内庁の役人がどうだこうだ言ったそうだが、まったく日本国憲法、民主主義を理解していない人間の発言としか思えない」と批判。さらに「民主主義を理解していないと同時に、もしどうしても反対であるならば、辞表を提出した後に言うべきだ」とも苦言を呈した。

ここで[国事行為」という表現がないのは、この原稿を書いた人物が憲法における「国事行為」について全く知らなかったか、もしくは、他国の要人との天皇の会見が「国事行為」ではないと知っていたかのいずれかだからであろう。

(5)そして、問題の会見が今月15日に行われた。
毎日新聞 2009年12月15日 東京夕刊
天皇特例会見:陛下、習中国副主席と会見 副主席「心から感謝」

 天皇陛下は15日午前、来日中の中国の習近平国家副主席と皇居・宮殿「竹の間」で会見した。陛下と習副主席が会うのは初めて。天皇陛下が中国の政府要人と会うのは、昨年5月に国賓として来日した胡錦濤国家主席以来。陛下は、胡主席が副主席時代の98年に来日した際も皇居・宮殿で会見している。【真鍋光之】
 宮内庁によると、会見は午前11時から24分間行われた。冒頭、陛下は「今回の訪日によって、両国間の理解と友好関係が一層、増進されることを希望しております。胡錦濤国家主席はお元気ですか」と尋ねた。習副主席は「元気です。現在は中央アジアを訪問しています」と返答。「今回このような形でご引見いただいたことを心から深く感謝いたします」などと礼を述べた。
 陛下は昨年5月の四川大地震に触れて復興状況を尋ね、習副主席は、地震の際の陛下、日本政府、国民からの見舞いや援助に対して感謝。さらに陛下の即位20年を祝った。
 習国家副主席は15日午前、天皇陛下との会見に先立ち、横路孝弘衆院議長、江田五月参院議長と会談した。

 ◇「会見は当然」「配慮欠如」 閣僚ら発言
 天皇陛下と中国の習近平国家副主席との会見が特例的に設定された問題に関し、15日は閣僚らの発言が相次いだ。亀井静香金融・郵政担当相は閣議後の会見で「習氏は次の主席だから、お会いするのは当たり前。政治的かどうかは役人が判断することじゃない」と反論した。仙谷由人行政刷新担当相は「政治利用うんぬん、というのが政治利用的、政治的な話になる」と述べた。
 菅直人副総理兼国家戦略担当相は「陛下の体調に気を使うのが宮内庁長官の仕事の大きな部分。100%こちら、100%あちら、ということではない」と述べた。また、「宮内庁長官は他の行政庁とはやや性格の違うところもある」と話し、長官の対応に一定の理解を示した。
 この問題で、自民党の谷垣禎一総裁は15日の会見で、「天皇の憲法上の象徴たる地位と矛盾のないよう(内閣の助言と承認は)慎重に配慮すべきだ。政府、与党首脳の中に極めてデリケートな配慮が必要という意識がまったく欠如しているのではないか」と批判した。

(6)その後、小沢民主党幹事長は、他国の要人との天皇の会見が「国事行為」でなかったことを認めたようだ。
【共同通信】2009/12/21 19:29
小沢幹事長会見の詳報 

 小沢一郎民主党幹事長の記者会見のうち、天皇陛下と習近平中国国家副主席の特例会見などに関するやりとりの詳報は次の通り。

 【天皇特例会見】
 ―幹事長は14日の記者会見で、記者に憲法をよく読み直しなさいと言った。私も読んだが、外国の賓客との会見は国事行為とは書いておらず、岡田克也外相も公的行為だとの認識だ。あらためて国事行為だという認識か聞きたい。

 「憲法で規定している国事行為には、そのものはない。しかし憲法の理念と考え方によれば、天皇陛下の行動は内閣の助言と承認によって行われなければならない。天皇陛下には全くのプライベートはないに等しく、日本国の象徴、日本国民統合の象徴というお立場にあるわけだから、その意味では、ご自身で自由にあっち行ったりこっち行ったりはできない。天皇陛下の行動の責任を負うのは内閣だ。国民の代表、国民が選んだ政府、内閣が責任を負う。内閣が判断したことについて、天皇陛下がその意を受けて行動なさることは当然だと思うし、天皇陛下にお伺いすれば、喜んでやってくださるものと思っている」
(略)


ちなみに、21日の記者会見についての民主党のホームページを見ると、小沢幹事長が間違っていたことがわかりづらい内容になっている。
天皇陛下の国事行為に関して、外国要人との会見は「憲法には国事行為とは書いていない。しかし、天皇陛下の行動はすべて内閣の助言と承認に基づき、行動の責任は内閣が負う。内閣が判断したことについて、天皇陛下が行動するのは当然」と述べ、先の中国の習近平国家副主席と天皇陛下の会見は、当然との見解を改めて示した。

(7)日本国憲法は、天皇の国事行為について以下のように定めている。
第7条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
1.憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
2.国会を召集すること。
3.衆議院を解散すること。
4.国会議員の総選挙の施行を公示すること。
5.国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
6.大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
7.栄典を授与すること。
8.批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
9.外国の大使及び公使を接受すること。
10.儀式を行ふこと。

この規定以外には以下がある。
第6条 天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。
2 天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。

つまり、日本国憲法はその第6条と第7条で「天皇の国事行為」について定め、これについては「内閣の助言と承認により」行われることになっているのである。

(8)しかし、以上の規定を見ると、日本国憲法の挙げている「国事行為」には「外国の要人と会見」は明記されてはいない。

したがって、小沢民主党幹事長の当初の説明は誤っていたのである。
だからこそ、後の記者会見で、その説明を変更したのである。

(9)では、小沢民主党幹事長の変更された説明は憲法上正しいのであろうか?
宮内庁長官の説明は憲法上正しいのであろうか?
「1ヶ月前」という慣行はどのような意味があるのであろうか?

日本国憲法には以下のような規定がある。
第4条 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。
2 天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。

この規定によると、天皇は「国政に関する権能」がないだけではなく、「憲法の定める国事に関する行為」しかできないのである。

もちろん、天皇にも私的な生活があるから私的行為はできるが、公的行為としては「憲法の定める国事に関する行為」しかできないのである(二行為説)。

ということは、外国の要人と天皇が会見することは、純粋に私的に会う場合は別にして、公的には憲法上許されてはいないのである。

(10)なお、「国事行為」以外に「公的行為」(あるいは「公人としての行為」または「象徴としての行為」)を認め、それは「内閣の助言と承認により」行われると解する見解(三行為説)があるが、この立場は憲法解釈論としては間違っている。

それは、天皇を政治利用することに途を開くことになるからである。

皇室外交といわれることがあるが、天皇や皇室には憲法上外交権はない。

(11)以上の憲法の規定から言えることは、要するに、天皇は「国政に関する権能」がなく、「憲法の定める国事に関する行為」しかできないのであるから、天皇の行う国事行為は、実質的な決定があった後に、それを形式的・儀礼的に国事行為を行うだけなのである。

例えば天皇は内閣総理大臣や最高裁判所長官を任命するという国事行為を行うわけであるが、その実質的な決定は国会の内閣総理大臣指名であり、内閣の最高裁判所長官使命だから、天皇は各指名と異なる人物をそれぞれ任命することはできないのである。
衆議院の解散という国事行為についても同様であり、まず内閣が衆議院の解散を行った後、天皇はそれを形式的儀礼的に行うのであって、内閣が衆議院を解散してもいないのに、天皇が衆議院を開催することはできないのである。

国事行為以外に公的行為を認められないのは、その実質的決定について憲法はなんら定めていない以上、天皇にそのような公的行為を行うことは認められないのである。
前提となる実質的な決定がない以上、内閣も助言と承認をすることはできないのである。

(12)日本国憲法を遵守せず、天皇に国事行為以外の公的行為を行わせ、政治利用してきたのは、自民党政府である。
また、「1ヶ月前」という慣行は宮内庁が独自の判断で決定したものであり、憲法上のルールではない。
「この慣行を守っていれば政治的利用がない」ということにもならない。

(13)小沢一郎民主党幹事長のごり押しは憲法上問題であるが、これまで国事行為以外に公的行為を天皇に行わせてきた自民党政府の行為も、憲法上問題なのである。

いずれの政治利用も憲法は許容してないから、認めるべきではない。

(14)先週末、ある市民運動の会議の後に、この件で数名の憲法研究者と話し、お互いの憲法解釈を確認しあったが、その全員が基本的に(細かい説明は別にして)以上の憲法解釈が妥当であるということで一致した。