(1)私たち「政治資金オンブズマン」は、いわゆる企業・団体献金の全面禁止を求めている
この企業・団体献金とは、企業が行う政治献金や労働組合などが行う政治献金である。

「その他の政治団体」は、これには含まれない。
政治資金規正法(会社等の寄附の制限)
第二十一条  会社、労働組合(労働組合法 (・・・)第二条 に規定する労働組合をいう。第三項並びに第二十一条の三第一項及び第二項において同じ。)、職員団体(国家公務員法 (・・・・)第百八条の二 又は地方公務員法 (・・・)第五十二条 に規定する職員団体をいう。第三項並びに第二十一条の三第一項及び第二項において同じ。)その他の団体は、政党及び政治資金団体以外の者に対しては、政治活動に関する寄附をしてはならない。
2  前項の規定は、政治団体がする寄附については、適用しない。
3  何人も、会社、労働組合、職員団体その他の団体(政治団体を除く。)に対して、政治活動に関する寄附(政党及び政治資金団体に対するものを除く。)をすることを勧誘し、又は要求してはならない。
4  第一項及び前項の規定の適用については、政党の支部で、一以上の市町村(特別区を含む。)の区域(地方自治法 (・・・)第二百五十二条の十九第一項 の指定都市にあつては、その区の区域)又は公職選挙法第十二条 に規定する選挙区の区域を単位として設けられる支部以外のものは、政党及び政治資金団体以外のそれぞれ一の政治団体とみなす。

(2)企業・団体献金が全面禁止されるべきなのは、その政治献金が企業・団体の設立目的の枠を超えるからである。
株主は経済活動をするために株券を購入している。
労働組合員は労働者としての地位を守るために組合員費を支払っている。
にもかかわらず、企業や労働組合がその集めた資金を特定の政党のために献金することになれば、株主や労働組合員の政治的思想・信条と衝突し、侵害することになる。

また、企業や労働組合の高額な政治献金は、利益誘導のためになされている。
これは、議会制民主主義における政治や行政、選挙を歪めることになる。

したがって、企業・団体献金は、法律で禁止されるべきなのである

企業や労働組合による政治資金パーティ券の購入も、その有益が高いがゆえに、実質は政治献金であるから、同様に禁止されるべきである。

(3)他方、それいがいの「その他の政治団体」は、政治的思想・信条などが同じ者らで結成されるから、企業や労働組合とは本質的に異なる。
つまり、個人の政治活動の延長として政治団体が結成されているのである。

「その他の政治団体」は、その会費や個人の寄付を集めて政治活動を行うのであるから、その寄付それ自体を法律で禁止すべきではない。
禁止すれば、憲法が保障する「結社の自由」(憲法21条)違反となる。

もちろん、個人の寄付に対する量的制限が必要なように、「その他の政治団体」の寄付にも量的制限は必要である。

(4)もっとも、「その他の政治団体」が企業や労働組合の作ったダミーの政治団体であり、そのダミーの政治団体が寄付をするとなると、企業や労働組合が脱法的に政治献金していることになり違法の評価を受けることになる。

西松建設の違法献金等は、その代表的な例である。

(5)ところで、公益法人の政治団体のとその寄付については、一昨年(2008年)、両者の峻別が問題になることは、すでに紹介してきた。

両者が峻別されなければ、会員の加入が強制される公益法人が政治献金することになるからである。
そうなると、同じように会員の政治的思想・信条の侵害がおきてしまうのである。

今年も、司法書士政治連盟の虚偽報告疑惑の問題を取り上げた。

そこでも、公益法人とその政治団体の峻別が必要であるという視点が重要になる。

このことは、これまで何度も指摘したことである。

だが、例えば「日本司法書士政治連盟」は、いまだに「日本司法書士会連合会」や「各本会」(都道府県の司法書士会)と「表裏一体」の「協力関係」を表明しており峻別を拒否し続いている。

http://hirotahiroshi.cocolog-nifty.com/blog/2010/05/post-6450.html

(6)さて、読売新聞が、労組や業界が結成したといわれる政治団体からの献金について報じた。
(2010年6月9日15時02分 読売新聞)
閣僚・民主幹部「脱企業・労組献金」の道遠し

 8日に発足した菅内閣で、民主党の閣僚と主な党幹部の計22人のうち、菅首相を含む19人が2008年に企業・団体献金を受けていたことが9日、わかった。
労組や業界が結成した政治団体からの献金を含めると、献金総額の7割を超える閣僚は6人に上り、5000万円を超える閣僚もいた。民主党は選挙公約などで「企業・団体献金の禁止」を掲げて政治資金規正法の改正案作成に取り組む一方、政治団体からの献金は対象外としている。識者からは「献金の抜け道を残した骨抜き改革」などの指摘も出ている。
 民主党所属の閣僚・党幹部22人の政党支部と資金管理団体について、08年分の政治資金収支報告書を調べたところ、企業、団体や労組・業界が結成した政治団体からの献金が最も多額だったのは直嶋経済産業相の5550万円。自動車業界の労組、労組の政治団体からのものが大半を占めていた。
 100社以上から約2536万円を集めたのは岡田外相。大手繊維企業とその労組などから受けた川端文部科学相の約1993万円と続いた。菅首相はNTT労組の政治団体から500万円を受けていた。
 個人献金を合わせた献金総額のうち、企業、団体や労組・業界が結成した政治団体からの献金額の割合が全体の50%以上を占めたのは、直嶋氏(99・6%)、川端氏(97・1%)、岡田氏(74・5%)ら11人に上った。長妻厚生労働相と輿石東参院議員会長らはゼロだった。
 民主党は昨年8月の衆院選に続き、今夏の参院選でも、「企業・団体献金の禁止」を選挙公約に掲げる予定。ただ、党本部では、「労組などの政治団体は対象外」としている。
 このため、読売新聞は7、8の両日、民主党の新閣僚と党役員の計22人から、「企業・団体献金」についての考え方を聞いたところ、8人が回答したが、菅首相を含め14人は無回答だった。
 回答した8人は、千葉法相、野田財務相、長妻厚労相、山田農相、前原国土交通相、北沢防衛相、蓮舫行政刷新相の7閣僚と、細野豪志幹事長代理。いずれの議員も禁止の対象について、「すべての企業・団体」としたが、長妻厚労相を除く6閣僚は08年に、企業、団体や労組・業界が結成した政治団体から献金を受けている。
 岩井奉信・日大教授(政治学)の話「民主党の政策は、企業や団体が政治団体を通して献金できる道を残すもので、意味がない。それより、政治家が複数の政治団体を持ち、それぞれが献金の受け皿となることで資金の流れが見えにくくなっている現状を改め、透明性の高い献金の仕組みをつくることを優先すべきだ」
 ◆企業・団体献金=企業のほか、労働組合及び公務員の職員団体などの「団体」からの献金を指し、政治団体は含まない。政治資金の調達を政党中心にすることなどを目的に1999年の政治資金規正法改正で、政党と政党の政治資金団体以外への献金を禁じられた。ただ、企業や労組がつくる政治団体は、政治家の資金管理団体などにも献金できる。

この読売新聞の記事は、正直言って、私がこれまで指摘してきた視点を踏まえないものであるといわざるを得ない。

(7)繰り返しになるが、まず、企業・団体献金にはその他の政治団体の寄付は含まれないので、前者は法律で全面禁止すべきであるが、後者は法律で全面禁止すべきではない。

その他の政治団体には、企業や公益法人や労働組合等の政治団体も含まれるので、それらの政治団体の寄付は法律で禁止すべきではない。

ただ、企業や公益法人や労働組合等の政治団体が、例えば、企業や公益法人や労働組合のダミーの政治団体であり、その政治団体が政治献金をすれば違法な政治献金である場合が生じるので、法律上問題視すべきは、政治団体がダミーでないかどうか、企業や公益法人や労働組合等の政治団体が企業や公益法人や労働組合等と峻別されているかどうかという点である。

(8)しかし、前掲の読売新聞の記事は、このような視点で問題を指摘しているわけではない。
「峻別が実際なされていないのではないか」とか「労働組合等のダミー団体ではないか」ということが具体的な事実を示して書かれている記事ではない。

その点では、現時点で記事にする価値があったとは思えない。

(9)まさか当該記事は、「その他の政治団体の寄付も禁止すべきである」あるいは「企業・団体献金の全面禁止はすべきではなく、透明性を高めることだ」という趣旨でなのだろうか(後者かな)!?

もし、そうだとなると、当該記事は大いに問題である、ということになりそうだ。