内閣官房報償費(機密費)情報公開訴訟における原告(私)の陳述書その1

内閣官房報償費(機密費)情報公開訴訟における原告(私)の陳述書その2

以下は、その3である。

検)楫鏗示請求文書に記載された情報と法に定める不開示事由との関係について
1.本件開示請求対象文書と全部開示・部分開示

前述の外務省報償費の支出に関する行政文書は、一般に、内閣官房報償費のそれよりも、機密性が高いと思われますが、それでも、全部不開示されておらず、部分開示が認容されているのですから、内閣官房報償費の支出に関する行政文書は、それと同様、否、それ以上に開示されるべきです。
また、前述した元官房長官の野中広務氏でさえ、以下のように述べ、内閣官房報償費の支出に関する行政文書の部分公開を主張しています。
「やはり外交的にはある程度公開できないものもあるのではないかと思います。ただ、その他のものについては公開していく、そういうやり方を透明化していくやり方がいいと思いますね。」「ある程度明確にして、不透明な、あるいは私的な官邸機密費の使い方ができないような状況を、きちっと仕組み的にしておくべきだなあ、と思いますね。」
つまり、外交上開示すれば重大な支障が生じる情報もあるでしょうが、それ以外は開示して透明化すべきであり、それを通じて内閣官房報償費の不当な支出がなされないような仕組みに改めるべきであるというのが、元官房長官であった野中氏の助言なのです。
外務省報償費の支出に関する文書について判例が部分開示を認容したということは、情報公開法は、国民らには部分開示請求権を保障していることになります。
したがって、部分開示できるにもかかわらず部分開示しないのは、違法であるだけではなく、国民らの部分開示請求権を保障しないことになり、権利侵害になります。
全部公開にするのか、部分公開にするのか、どの情報を不開示情報にするのかを判断する際に留意する必要があるのは、第一に、国務大臣、国会議員、一般公務員らの氏名は、支出の相手方であったとして、開示すべきであるということです。住民の「知る権利」を保障し国よりも早くから情報公開条例に基づいて情報開示を行ってきた地方自治体では、交際費・食糧費等の使途につき、相手方公務員の氏名や役職は開示されてきました。
第二に、「情報収集」であれば当然に機密として不開示情報になるとは限らない、ということです。前述の歳川氏の著書は、会計検査院の検査も領収書による使途の確認もなされていないため、「『情報収集』を名目にすれば領収書なしで会計検査を通るのだから、機密費を使う場合それを悪用するのは簡単だ。」「このようにして政府機密費は外部の干渉をいっさい拒否した聖域として保たれ、国民の目から完全に隠された事実上のブラックボックスとなってきたのである。」「複数の外務省関係者の話によれば、同省幹部らの飲食つきの会合や予算要求時に大蔵(現財務省)官僚を接待する『官官接待』などにも機密費が使われたが、そのような場合も『情報収集』を名目にすることが多かったという。具体的には、機密費の支出手続き書類に外国の在日大使館員名簿から適当に名前を選び、『A国大使館B氏と会合』などと記入、その目的を『情報収集』とするのだ。これで領収書なしで機密費が使える。」と書いています(歳川隆雄『機密費』63−64頁)。
税金である内閣官房報償費の使途を全部不開示にして主権者・納税者である国民にとって事実上のブラックボックスにしてしまえば、内閣官房報償費が裏金として使われる途を残すことになります。そうなると、主権者・納税者の不信感はますます増幅することになります。ですから、裁判所としては、そのような運用を認めるべきではありません。現行の情報公開法の規定どおり、各行政文書に明記されている情報の内容に応じて、全部開示か、部分開示かのいずれかとする判決を下すべきです。

2.情報公開法第5条でいう「不開示情報」とその判断の際に十分留意されるべきこと
いわゆる情報公開法は、第6条で部分開示を定めています。その際、重要になるが、開示すべき情報と不開示すべき情報の判断基準です。
同法第5条は、「行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。」と定めています。
そして、同条は、不開示情報として、いわゆる、個人情報(第1号)、法人情報(第2号)、国の安全・外交情報(第3号)、公共の安全情報(第4号)、行政の意思形成過程情報(第5号)、行政執行情報(第6号)を挙げています。
ただし、不開示情報に該当するか否かを判断する際に十分留意しなければならないことが幾つかあります。本件に関係することのみ、以下、指摘します。
その第一は、個人情報(第1号)については、「公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」は不開示情報から除外されています。つまり、当該「部分」は個人情報であっても開示しなければならない情報なのです。
第二に、行政執行情報(第6号)においては、「公にすることにより、……当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」としており、したがって、単に「事務又は事業の遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」としていないことです。言い換えれば、「適正」ではない「事務又は事業の遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」については、不開示情報ではないのです。松井茂記『情報公開法[第2版]』(有斐閣・2003年)は、以下のように指摘しています。
「不開示とされているのは、これらの情報のうち『当該事務・事業の性質上訴の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの』である。支障が生じることが問題なのは、『適正な』遂行である。それゆえ、適正でない行政執行に支障が生じても、何ら非開示とすべき理由にはならない。」(278頁)
また、そこでいう「支障を及ぼすおそれ」ですが、「支障」とは実質的なものでなければならず、かつ、「おそれ」の程度も法的保護に値する程度の蓋然性が要求されるということです。松井茂記『情報公開法[第2版]』(有斐閣・2003年)は、以下のように指摘しています。「『支障』の程度は名目的なものでは足りず実質的なものが要求され、『おそれ』の程度も単なる確率的な可能性ではなく法的保護に値する蓋然性が当然に要求されることになる。」(278頁。279頁も同じ。)
以上のことを踏まえて、内閣官房報償費の支出に関する個々の行政文書について不開示情報になるかどうかについての意見を述べます。ただし、相手方が国会議員など公務員である場合については、最後に述べることにし、以下では、支出の相手方が民間人あるいは外国人である場合を前提にして、私見を述べます。

3.具体的な検討
(1)被告国の総論的主張とそれに対する反論

ア 被告国の総論的主張
内閣官房報償費の支出に関する行政文書(本件対象文書)は、「出納管理簿」「報償費支払明細書」「領収書等」「政策推進費受払簿」「支払決定書」の5つです。
被告国の説明によると、内閣官房報償費は、その使途に応じて「政策推進費」「調査情報対策費」「活動関係費」の3つの目的類型があります。
被告国の説明によると、「出納管理簿」「報償費支払明細書」「領収書等」は「政策推進費」「調査情報対策費」「活動関係費」の3つ全てに関わる文書で、「政策推進費受払簿」は「政策推進費」に関わる文書で、「支払決定書」は「調査情報対策費」「活動関係費」の2つに関わる文書です(内閣官房内閣総務官千代幹也「陳述書」(201年7月26日。以下、千代「陳述書」という。乙第20号証)9−10頁)。
千代「陳述書」は、以下のように述べ、本件対象文書を全部不開示にすることを主張しています(なお、「…」は省略を意味し、下線と[ ]は上脇による)。
・「内閣官房長官から内閣府大臣官房会計課長宛の請求書…など、内閣官房報償費が国庫から内閣官房長官に支出されるまでに作成される文書…は、具体的な使途との関連性が少ないため、平成15年11月以降、公開することといたしました。」(8頁)
・しかし、「内閣官房報償費という国の経費は高度な機密性を要する非常に特殊な費用です。内閣総務官としてその事務を掌理している私としては、その内容を明らかにすることに大きな限界があり、内容が公開された場合には計り知れない支障が生じると強く感じているところです。」(2頁)
「その[内閣官房報償費の]具体的な使途が明らかになると、…国益が大きく損なわれることになってしまいます。」(3頁)
・「内閣官房報償費については、請求書に記載された請求日や請求額を公開しただけで、そのときの内閣の重要政策課題や政治経済情勢と関連付ける等の方法で、具体的な使途を推測し、憶測を述べる記事が新聞、雑誌等に掲載され、世間の注目を集める結果になる…。」「仮に内閣官房費の仮に内閣官房報償費の具体的使途に関わる文書が一部でも開示された場合には、その使途と内政・外政上の重要案件との関係について、事実とかかわりなく様々な推測・憶測が大々的に報道されるなどして、被告が主張している様々な支障が現実のものとなり、収拾がつかない状態に陥ることは明らかです。」(8頁、9頁)

イ 被告国の総論的主張の確認とそれに対する反論
被告国の立場は、第一に、請求書等の「内閣官房報償費の具体的な使途との関連性が少ない文書」を公開しているのですから、当該文書を公開しても、国益を大きく損なうことも、計り知れない支障が生じることもない、と判断しているということです。これについて私には異論はありません。
被告国の第二の主張は、内閣官房報償費の具体的使途に関わる文書の一部(部分)開示でもマスコミが推測・憶測を大々的に報じるから、全部不開示にすべきである、というものです。しかし、被告国は、「内閣官房報償費の具体的な使途との関連性が少ない文書」である請求書等を公開してマスコミが報じているのは、実際の使途ではなく、その推測・憶測にすぎないことを認めています。マスコミによる推測・憶測がなされることで、国益を大きく損ない、計り知れない支障が生じるのであれば、請求書等も開示しないはずですが、実際には、そのような運用はなされていません。マスコミによる推測は常に真実を言い当てているものであるとは限らないからでしょう。ということは、内閣官房報償費の支出に関する文書を全部開示または一部(部分)開示しても、そこからの推測が、請求書等を開示して行われる程度の推測と本質的に異なるものではないのであれば、開示しても国益を大きく損なうことも、計り知れない支障が生じることもない、ということになります。

(2)被告国の主張する「領収書等」に共通すると3つの支障とそれに対する反論 千代「陳述書」は、「政策推進費の領収書等」を全部公開すれば3つの支障が生じ(10−15頁)、「調査情報対策費のうち対価として使われた分の領収書等の情報が明らかになった場合の支障は、政策推進費に係る領収書等の場合と同様」だし(15頁)、「活動関係費に係る領収書等の情報が明らかになった場合に生じる支障」のうち、「情報収集や協力依頼等の相手方等に対して謝礼、慶弔費、活動経費を支払っている場合・・・の支障については、…政策推進費に係る領収書等…として使用された分で述べたのと同様」だし(17頁)、さらに、「領収書等以外の対象文書についても、…領収書等に記載された情報を明らかにした場合と同様の支障があります。」と主張しています(19頁)。そこで、ここでは、「領収書等」と「領収書等以外の対象文書」を全部公開した場合、被告国が主張する3つの支障について、被告国の主張を反論しておきます。
千代「陳述書」は、「政策推進費の領収書等」を全部開示すれば、第一に、「情報収集や協力依頼等の相手方との信頼関係を損なう」という支障が生じると主張しています(10−11頁)。具体的には、「仮に領収書等に記載された相手方の氏名等の情報が公にされることになれば、それだけで相手方との信頼関係が大きく損なわれることになります。」と説明し(11頁)、「領収書等に記録された個々の支払の額が公にされることになると、相手方は、 自らが受けた額と他者に支払われた額とを比較することができるようになります。常識的に考えて、このような事態が信頼関係に悪影響を与えることは明らかです。すなわち、相手方は、 自分が受け取った額が低いとの印象を受けた場合には、内閣が自分を低く評価し、重要人物と位置付けていないことによるものであるなどと考え、内閣官房長官や内閣に対し、不満、不快感を抱き、信頼が失われてしまいます。」と説明し(11頁)、「領収書等に記載された日付のみを取り上げてみても、それが公開されれば想像を交えた使途等が云々され、『内閣がカネで政策課題を解決しようとしている』などと批判する報道等が掲載されることが予想されます。」と説明し(12−13頁)、全部不開示を主張しています。
確かに、政策推進費の支払の相手方(政策推進費の受取人)の「氏名等」については、それが民間人であれば、原則として被告国の言い分も理解できます(例外は後述します)。
しかし、「日付」については、マスコミが報じるのは、前述した請求書の場合と同じように実際の使途ではなく、その推測・憶測にすぎません。ですから、領収書等に記載されている「日付」については、請求書で開示されているのですから、開示すべきです。
また、政策推進費の個々の「支払額」ですが、民間人の「氏名等」が不開示されるのであれば、「相手方は、 自らが受けた額と他者に支払われた額とを比較すること」は無意味になりますから、「信頼関係に悪影響を与えること」は考えられません。
千代「陳述書」は、領収書等を全部開示すれば、第二に、「我が国が外交上及び安全保障上不利益を被る」という支障が生じると主張します(13−14頁)。
しかし、「相手方」が外国人であれば、その「氏名等」を不開示にし、それ以外を全部開示しても、「相手方の氏名等」が不明である以上、そのような支障が生じることはありません。
千代「陳述書」は、領収書等を全部開示すると、第三に、相手方が「第三者による不正な工作等を受ける」という支障が生じると主張しています(14−15頁)。
しかし、前述したように、民間人や外国人が相手方であればその氏名等を不開示にし、それ以外の情報を全部開示しても、「相手方の氏名等」が不明である以上、そのような支障が生じることはありません。
以下、本件対象文書ごとに被告国の主張を確認し、具体的に反論します。

(3)「政策推進費受払簿」は全部開示すべきです
ア 相手方が記載されない「政策推進費受払簿」が公開されることによって一般人に政策推進費の使途等を特定することは不可能なので、「政策推進費受払簿」には不開示情報は含まれていない!
すでに確認したように、「政策推進費受払簿」とは、内閣官房報償費の「政策推進費」に関する文書です。
千代「陳述書」によると、「政策推進費受払簿」とは「内閣官房長官が、内閣官房報償費から政策推進費として使用する額を区分する都度、…作成して」いる文書です。ですから、内閣官房長官が誰かに政策推進費を支払ったときのものではありません。
これに記載されている情報は、「年月日」「前回残高」「前回から今回までの支払額」「現在残額」「今回繰入額」「現在額計」「内閣官房長官(氏名、押印)」「確認((事務補助者)内閣総務官室(氏名、押印))」です。
これらの情報については、全部開示されている請求書(内閣官房長官が内閣官房報償費を請求している行政文書)における情報と比べてみましょう。

内閣官房報償費請求書    政策推進費受払簿
     年月日       年月日
              前回残高
              前回から今回までの支払額
              現在残額
    請求金額       今回繰入額
                 現在額計
内閣官房長官(氏名、押印)    内閣官房長官(氏名、押印)
官署支出官・内閣府大臣官房会計課長(氏名、押印) 確認((事務補助者)内閣総務官室(氏名、押印))

「政策推進費受払簿」には、前述したように、内閣官房長官が誰かに支払ったときのものではなく、その前に、同長官が単に受け取ったときのものですから、「相手方」は記されてはいません。ですから、千代幹也内閣総務官も、昨年(2010年)8月13日の証言で、「政策推進費をだれに配ったかというのは、受払簿からはわかりません」の証言しています(「証人調書」46頁)。
また、政策推進費を支出する場合の具体的な目的も明記されてはいません。千代幹也内閣総務官は、昨年(2010年)8月13日の証言で、具体的な目的は「出てきません」と証言しています(「証人調書」46−47頁)。
内閣官房長官が政策推進費を誰かに支払うために受け取っただけの「政策推進費受払簿」における内閣官房長官の氏名についてですが、請求書における内閣官房長官の氏名は開示されているのですから、それについても公開できるはずです。それが開示されたことで、「当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」とは到底いえないことは、あまりにも明白です。
「政策推進費受払簿」における事務補助者の氏名についてですが、請求書における官署支出官の氏名も開示されているのですから、それについても公開できるはずです。それが開示されたことで、「当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」とは到底いえないことは、あまりにも明白です。
「政策推進費受払簿」における「年月日」についてですが、請求書における「年月日」も開示されているのですから、それについても公開できるはずです。それが開示されたことで、「当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」とは到底いえないことは、あまりにも明白です。
「政策推進費受払簿」における「今回繰入額」についてですが、これは、前出したように、内閣官房長官が誰かに支払った金額ではなく、その前に、自らが取った金額です。請求書における請求額も、内閣官房長官が誰かに支払った金額ではなく、単に請求した金額であり、これについては、開示されているのですから、「政策推進費受払簿」における「今回繰入額」についても開示できるはずです。それが開示されたことで、「当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」とは到底いえないことは、あまりにも明白です。
「政策推進費受払簿」における以上の情報以外の「前回残高」「前回から今回までの支払額」「現在残額」「現在額計」は、請求書には記されていない情報ですが、そこには、例えば、政府が外交上重要な情報の収集・提供を依頼している「相手方の氏名等」は一切記されてはいませんから、それらが開示されても、政策推進費を受け取った「相手方」が誰であるのかを特定することは絶対に不可能です。
また、「推測」がなされるとしても、それは請求書等を開示したときになされる程度の「推測」と本質的に異なりません。それ以上の推測は不可能です。被告国は請求書等を開示しているのですから、「請求書等」を開示したときになされる程度の「推測」がなされるとしても、それを理由に不開示にすべきではないことは、国の実務が教示している結論です。
したがって、「政策推進費受払簿」を全部公開しても、「当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」とは言えませんから、「政策推進費受払簿」は全部開示すべきです。

イ 月1〜3回の定期に支出されている政策推進費について、内閣官房長官の行動と付き合わせることで「支払目的・内容や支払相手先等」を「特定」することも絶対に不可能!
千代「陳述書」は、「政策推進費受払簿に記載された作成日付、金額(前回残額、前回から今回までの支払額、現在残額、今回繰入額及び現在額の合計)等の情報が公になった場合、政策推進費の一定期間における支払総額や一定時点における繰入額が明らかになり」、「その当時の内政上、外政上の政策課題等を照らし合わせることにより、政策推進費の支払の目的・内容や支払の相手先等が特定又は推測されるおそれがあ」る、と説明しています。
しかし、例えば、「政策推進費受払簿」における「年月日」は、そもそも内閣官房長官が誰かに政策推進費を支払った年月日ではなく、単に政策推進費を受け取った年月日にすぎません(参照、千代幹也「証人調書」76頁)。請求書における年月日が開示されても、「特定の事業との関係」を「特定」することや「支払目的・内容や支払相手先等」を「特定」することが不可能であるように、「政策推進費受払簿」における「年月日」が開示されたからといって、「特定の事業との関係」を「特定」することや「支払目的・内容や支払相手先等」を「特定」することが不可能です。
この結論は、「年月日」以外の情報が全て開示されても、同じです。
また、そもそも内閣官房長官の行動については、国民がそれを全て漏らさず把握することは不可能です。内閣総理大臣(首相)については「首相動静」として新聞報道されています(これでも内閣総理大臣の行動は全て把握できるわけではありません)が、「内閣官房長官動静」というようなマスコミ報道記事は、そもそもありません。内閣官房長官の具体的行動については、マスコミ報道の個々の記事を手がかりに、それをつなぎ合わせて把握するしかありませんが、その作業によって内閣官房長官の具体的行動を全て把握することは不可能です。
私は、ある新聞社のデータベース(有料)で、2006年9月1日における安倍晋三内閣官房長官の行動を調べてみました。そうすると、時刻や場所がわかる記事は、「安倍晋三官房長官(51)は1日夕、広島市内で記者会見し、自民党総裁選出馬を正式に表明し、新憲法の制定や教育の抜本改革などを柱とする政権構想を発表した。・・・」だけでした。その翌日(同年同月2日)の安倍晋三内閣官房長官の行動についても同様に調べてみましたが、「安倍晋三官房長官は2日午後、自民党総裁選に向け松山市で開かれた党四国ブロック大会の討論会で、後継首相になった場合の道州制導入に関し「次の任期中に骨格を決めるのが第一弾だ」と述べ、党総裁として一期目の任期である3年間で道筋を付けたいとの意向を表明した。」だけでした。結局、この両日、安倍内閣官房長官は、1日の夕方、広島市内もどこかで記者会見し、2日午後、松山市で開かれた党四国ブロック大会の討論会に参加していることしかわかりませんでした。つまり、安倍内閣官房長官のそれ以外の行動は、マスコミ報道では全くわからないのです。
もちろん、他のマスコミ報道を追加して収集すれば、以上以外の情報も収集できるかもしれませんが、しかし、マスコミは内閣官房長官の全ての行動を網羅して報道されているわけではないからです。これでは、内閣官房長官の行動を把握できるとは到底言えません。
一般人が内閣官房長官の行動の一部を知ったからといって、政策推進費受払簿には政策推進費の支払の相手方の氏名等は記されていない以上、「特定の事業との関係」を「特定」することも「支払目的・内容や支払相手先等」を「特定」することも、絶対に不可能です。
また、「推測」がなされるとしても、それは請求書等を開示したときになされる程度の「推測」と本質的に異なりません。それ以上の推測は不可能です。被告国は請求書等を開示しているのですから、「請求書等」を開示したときになされる程度の「推測」がなされるとしても、それを理由に不開示にすべきではないことは、国の実務が教示している結論です。
したがって、「政策推進費受払簿」は全部開示しても、「当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」とは言えませんから、「政策推進費受払簿」は全部開示すべきです。

(4)「(報償費)支払明細書」も全部開示すべきです
千代「陳述書」によると、「(報償費)支払明細書」は、「国の会計検査において」「内閣官房報償費に係る領収書等の証拠書類」をせず、それに代わり、提出する文書です(23頁)。
「(報償費)支払明細書」に記載される情報は、「取扱責任者氏名」「年月日」「前月繰越額」「本月受入額」「本月支払額」「翌月繰越額」「支払年月日」「支払金額」「合計」(額)「使用目的」「取扱者名」「備考」です。
つまり、「(報償費)支払明細書」には、会計検査院に対して開示しても支障のない限度での項目だけを記載したものなのです。
ですから、支払相手方はどこにも記載されないままです。千代幹也内閣総務官は、昨年(2010年)8月13日の証言で、これを認めています(「証人調書」48頁)。
また、「支払目的」欄には、「政策推進費」「調査情報対策費」「活動関係費」のいずれかが記載されているだけです。
したがって、「(報償費)支払明細書」に記録されている全ての情報が開示されても、一般人は内閣官房報償費の相手方を「特定」することは絶対に不可能です。
また、「推測」がなされるとしても、それは請求書等を開示したときになされる程度の「推測」と本質的に異なりません。それ以上の推測は不可能です。被告国は請求書等を開示しているのですから、「請求書等」を開示したときになされる程度の「推測」がなされるとしても、それを理由に不開示にすべきではないことは、国の実務が教示している結論です。
したがって、「(報償費)支払明細書」に記録されている全ての情報が開示されても、相手方との信頼関係を損なうことはありえませんし、「当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」とは言えませんから、「(報償費)支払明細書」は全部公開すべきです。

(5)「出納管理簿」は「支払相手方等」を含め全部公開でも良い場合があるようです
千代「陳述書」によると、「出納管理簿」とは、「事務補助者は、内閣官房報償費の出納管理のため、月ごとにまとめた上で、さらに当該該年度に係る累計額で、当該年度等における内閣官房報償費全体の出納状況を一覧することができるように、内閣官房報償費の出納がある都度、…記載して作成」する文書です。
そこに記載されている情報は、「年月日」「摘要(使用目的等)」「受領額」「支払額」「残額」「支払相手方等」「月分計」「累計」「立会人(事務補助者)」「確認者」です。
このうち、「支払相手方等」以外の情報は、前掲の「(報償費)支払明細書」に記載されている情報と基本的に異なるものではありませんから、これらの情報が開示されても、「特定の事業との関係」を「特定」することも「支払目的・内容や支払相手先等」を「特定」することも、絶対に不可能ですし、「当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」とは到底いえないことは、あまりにも明白です。
「支払相手方等」の欄には、「(注)本欄は記載した場合、支障があると思われる場合は省略することができる」と記載されていますから、原則として、開示されれば支障がある「支払相手方等」はそもそも記載されていないことになります。
したがって、「支払相手方等」が記載されていなければ、「出納管理簿」は全部開示しても、「特定の事業との関係」を「特定」することも「支払目的・内容や支払相手先等」を「特定」することも、絶対に不可能ですから、「当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」とは言えないことになります。
また、たとえ「支払相手方等」が記載されていても、その情報は、「開示されても支障がある情報ではない」と判断されて記載されていることになるので、「支払相手方等」が記載されている「出納管理簿」を全部開示しても、「当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」とは言えないことになります。
もっとも、これに対しては、千代幹也内閣総務官は、昨年(2010年)8月13日の証言で、「支払相手方は全部書いている」と証言しています(「証人調書」25頁)ので、反論が予想されます。実際に、そうであれば、「本欄は記載した場合、支障があると思われる」か否かの判断をせずに支払相手方を書いていることになります。つまり、本欄は記載した場合、支障がある人物の氏名も記載されているし、支障がない人物の氏名も記載されているということになります。内閣官房報償費の支払相手方は全て不開示にしなければならないのであれば、そもそも「(注)本欄は記載した場合、支障があると思われる場合は省略することができる」と記載する必要はありません。このような記載があるということは、支払相手方の氏名が開示されても支障がない人物にも支払われるということが、内閣官房報償費にも想定されているのです。ですから、裁判所は、「支払相手方の氏名が記されていれば当然不開示にする」と判断せずに、開示すれば支障があるか否かを個別に判断していただきたいのです。

(6)「支払決定書」は「支払相手方等」以外の全ての情報を開示すべきです
千代「陳述書」によると、「支払決定書」とは、「調査情報対策費と活動関係費を支出するとき」「取扱責任者である内閣官房長官が、調査情報対策費又は活動関係費の1件又は複数件の支払に係る支払決定を行うために…作成」する文書です。
そこに記載されている情報は、「年月日」「内閣官房長官(氏名、押印)」「金額」「支払目的」「支払相手方等」「支払及び確認年月日」「(事務補助者)内閣官房内閣総務官室(氏名)」です。
千代「陳述書」は、「支払決定書に記載された支払相手方等、支払目的、作成日付、金額等の情報が明らかになると、情報収集や協力依頼等の相手方、これらの諸活動に利用した会合場所の事業者、交通事業者等のほかに、具体的な支払目的、支払内容や支払決定を行った時期、支払額が明らかになり」、「特定の時期に作成された支払決定書の量や作成頻度が明らかになるだけでも、その時期に生じていた政治事案等と対比したり、他の時期の作成量や作成頻度と対比したりして、 これらと特定の事案との関係が推測され、内閣官房報償費の具体的使途が推測されることになり」、「相手方との信頼関係が損なわれることになります。」と説明しています(20頁)。
しかし、「支払相手方等」の欄に全く記載がない場合や、「支払相手方等」(ただし原則として民間人)を不開示にし、他の情報を全部開示したとしても、開示される情報は、「年月日」「内閣官房長官(氏名、押印)」「金額」「支払目的」「支払及び確認年月日」「(事務補助者)内閣官房内閣総務官室(氏名)」ですから、これらが開示されても、相手方の氏名等は不明のままですし、一般人が内閣官房報償費の具体的な使途を特定することは不可能ですから、「相手方との信頼関係が損なわれる」ことは、ありえせん。
「調査情報対策費」と「活動関係費」が1つの「支払決定書」にまとめて支出されている場合、支出金額は両者の合計額であり、そのうち、調査情報対策費が幾らの金額で、活動関係費が幾らの金額なのか、全くわかりませんし、支出日などについても同様に全くわかりません。また、支出内容について代表的なものしか記載されていないでしょうから、その具体的使途について一般人が代表的な支出内容以外を特定することは不可能です。
ただし、「支払相手方等」が、以下のような民間人である場合には、不開示にする必要はありません。