(1)「陸山会」裁判は、「裁判」でいえば、被告人小沢一郎氏の裁判(初公判は来月6日)とその元秘書ら3名の裁判があります。

「事件」で言えば、西松建設違法献金事件(判決では西松建設事件と表現)と土地取得をめぐる事件(判決では陸山会事件と表現)の2つがあります。

昨日(2011年9月26日)東京地裁は、3名の元秘書の裁判で、被告人大久保氏につき2つの事件で「有罪」、被告人石川氏と被告人池田氏につき土地取得をめぐる事件でそれぞれ「有罪」と結論づけました。

(2)私は、10日ほど前に、「陸山会」裁判について、以下のように述べておきました
元秘書ら3名につき、裁判所が、政治資金収支報告書への各不記載・虚偽記載を、例えば「共謀がなく無罪」「過失にとどまり無罪」と判断しない限り、不採用になった検察調書なしでも「違法性の認識、故意を認めて有罪」と判断する可能性は十分あるのです。

したがって、詳細な検討をしないまま、「東京地裁が検事調書の一部を採用しない決定をしたから元秘書ら3名は当然に無罪になる」というのは、乱暴な結論です。

(3)私が、なぜ、このように述べたのかと言えば、西松建設違法献金事件については検察側と被告人大久保氏の各冒頭陳述要旨(2009年12月16日)と後者の最終弁論要旨(2011年8月22日)を読んでいましたし、土地取得をめぐる事件では、検察側と被告人3名の各冒頭陳述要旨(2011年2月7日)と3名の最終弁論要旨(2011年8月22日)を読んでいたからです。
マスコミの裁判報道も参考にしました。

判決は、西松建設違法献金事件で公共事業における小沢事務所の「天の声」を認定していますし、土地取得をめぐる事件では水谷建設の裏金を認定しています。
しかし、両事件は、これらを認定してしなくても、十分「有罪」判決が下せる事件でした。

だから、私は、裁判を傍聴していないので、判決で小沢事務所の「天の声」を認定するのか、裏金を認定するのか、自信をもって予想できなかったのですが、その判断がなされなくても「有罪」判決がくだされる可能性が十分にあると言えたわけです(量刑は違ったでしょう)。

(4)3名の冒頭陳述要旨と最終弁論要旨を読むと、被告人3名の弁護士らの足並みは必ずしも揃っていなかったようです。
例えば、被告人石川氏は小沢氏から借入れた4億円(小沢氏が銀行から借入れ、さらに小沢氏から借入れた4億円とは別)を政治資金収支報告書に記載したと弁明しましたが、被告人池田氏はその4億円は記載する必要のない「預り金」と主張していました。

墓穴を掘ったような弁明もありました(次の投稿で紹介します)。

また、被告人らは無罪を主張しながら、有罪判決を予想していたようでもあります。
例えば、被告人池田氏の最終弁論要旨では「罰金刑相当」を求めていましたし、無罪を強く主張する被告人石川氏のそれも、無罪を主張する前に、「事案としては比較的軽微なもの」であり、「検察の禁錮2年間の求刑(・・・)というような刑罰をもって臨む事案ではない」と述べていました。

(5)この判決について、”検察調書を一部不採用にしながら、推認に基づいて「有罪」を下している”旨、評する意見があるようですが、それは、判決要旨をきちんと読まず、かつ「天の声」や裏金の認定を過度に重視したものでしょう。

私はそのような意見に同調しません。
”採用された調書と裁判における審理に基づいて下された判決”と受けとめています。
(なお、控訴がなされた場合(少なくとも石川氏は国会議員なので控訴する可能性が高いでしょう)、控訴審で「天の声」や裏金につき同じ判断がなされるかどうかは別です。)

(6)小沢一郎氏の元秘書ら3名の「陸山会」裁判で、検察は、被告人・大久保隆規氏に禁錮3年6月を、被告人・石川知裕氏に禁錮2年を、被告人・池田光智氏に禁錮1年を、それぞれ求刑していました。

昨日の判決は、被告人大久保氏を禁錮3年(執行猶予5年)、被告人石川氏を禁錮2年(執行猶予3年)、被告人池田氏を禁錮1年(執行猶予3年)とする有罪判決でした。

このような刑がくだされたのは、一方では、被告人3名が「反省の姿勢を全く示していない」結果であり、他方では、「小沢事務所と企業との癒着は、被告人らが小沢事務所に入所する以前から存在したもの」で「被告人らが作出したものではない」等の理由からのようです。

(7)判決要旨は以下です。
日経新聞 2011/9/26 19:31
陸山会事件、西松建設事件裁判の判決要旨

 陸山会事件、西松建設事件の判決要旨は次の通り。

【西松建設事件】
 新政治問題研究会と未来産業研究会は西松建設が社名を表に出さずに政治献金を行うために設立した政治団体であり、西松建設の隠れみのにすぎず、政治団体としての実体もなかった。献金は西松建設が自ら決定し、両研究会を通じて実行。寄付の主体はまさに西松建設だった。
 岩手県や秋田県では、公共工事の談合で小沢事務所の了解がなければ本命業者にはなれない状況。小沢事務所の秘書から発せられる本命業者とすることの了解はゼネコン各社にとって「天の声」と受け止められていた。元公設第1秘書の大久保隆規被告は2002〜03年ごろから天の声を発出する役割を担うようになった。
 西松建設は公共工事の談合による受注獲得のために寄付しているのだから、同社としては西松建設による献金と小沢事務所に理解してもらわなければ意味がない。献金の受け入れ窓口だった大久保被告が理解していなかったとは到底考えられない。
 加えて、献金総額や献金元、割り振りなどの重要事項は、大久保被告が西松建設経営企画部長とのみ打ち合わせ、献金の減額・終了交渉でも大久保被告は「まあお宅が厳しいのはそうでしょう」と述べた。大久保被告も捜査段階で、両研究会が西松建設の隠れみのと思っていたとの趣旨を供述している。
 大久保被告は、両研究会からの献金について、衆院議員の石川知裕被告、元秘書の池田光智被告が収支報告書に両研究会からの寄付だと虚偽の記載をすることを承知していた。大久保被告の故意は優に認められる。
 両研究会からの寄付とする外形は装っているが、実体は西松建設から。他人名義による寄付や企業献金を禁止した政治資金規正法の趣旨から外れ、是認されない。

【陸山会事件】
 04年分収支報告書の「借入先・小沢一郎 4億円、備考・04年10月29日」との記載は、体裁から陸山会が小沢一郎民主党元代表から4億円を借り入れた日とみるのが自然かつ合理的。被告側が主張する「同年10月初め〜同月27日ごろまでに小沢から陸山会が借りた合計4億円」を書いたものとすると、それを担保にする形をとって小沢元代表名義で銀行融資を受け、転貸された4億円を記載しなかったことになり、不自然。
 加えて、石川被告が4億円を同年10月13日から28日まで前後12回にわたり5銀行6支店に分散入金したことなどは、4億円を目立たないようにする工作とみるのが合理的。4億円を原資とする土地取得も04年分報告書に載ることを回避しようと隠蔽工作をしたとも推認される。

 ■背景事情
 4億円の原資は石川被告らに加え、用立てた小沢元代表自身ですら明快な説明ができていない。原資の説明は困難。
 当時の水谷建設社長は胆沢ダム建設工事の受注に絡み、大久保被告の要求に応じて、04年10月に5千万円を石川被告に、05年4月に同額を大久保被告に手渡したと証言したが、ほかの関係者証言や客観的証拠と符合し、信用できる。一切受け取っていないという両被告の供述は信用できない。
 陸山会は04年10月ごろ、原資が明らかでない4億円もの巨額の金員を借り入れ、さらに石川被告自ら、水谷建設から5千万円を受領した。小沢事務所は常にマスコミのターゲットになっており、これらのことが明るみに出る可能性があったため、4億円借り入れの事実を隠蔽しようとしたと推認できる。

 ■石川、池田両被告の故意
 4億円や土地取得費用など合計3億5261万6788円の不記載について石川被告の故意は明らかに認められる。
 石川被告は「司法書士から『本登記を行った時が正式な所有権の移転』と聞いたので本登記の日を支出日にすることが正しいと思った」と述べるが、契約の経緯や内容を前提にすると、司法書士が述べたということ自体甚だ疑わしい。仮に事実でも故意を阻却しない。
 池田被告は4億円について「小沢元代表の純然たる個人資産で陸山会を含む関連5団体が預かっており、返済は『借入金返済』に当たらない。寄付合計1億5千万円も4億円の一部で陸山会資産でなく『寄付』には当たらない」と述べ、弁護人も故意がないという。
 しかし預かり金と言いながら「預かった理由や返済時期、5団体が分けて預かる理由や金額も分からなかった」などと述べ、著しく不自然、不合理で到底信用できない。
 「石川被告から『小沢代議士から4億円を借りている』と聞いた」と述べ、元代表が巨額な個人資産を預ける理由もないことを勘案すると、池田被告は4億円を借入金と認識しながら返済を報告書に記載しなかったと認められる。1億5千万円についての主張も信用できず、故意があった。

 ■大久保被告の故意、共謀
 土地の本登記を05年に繰り延べるため、仲介業者との交渉をした際、大久保被告らは購入原資を既に確保し、当初の契約内容通り04年10月29日に残代金を完済し、所有権移転登記を受けることができた。完済後も仮登記にとどめるのは契約の経緯として極めて異例。
 当時の大久保被告は小沢事務所の資金確保を図る立場だった。大久保被告も石川被告と同様、4億円借り入れがマスコミの関心の対象になることを危惧していた。
 明示的にせよ黙示的にせよ、石川、大久保両被告が意思を通じていたことが強く推認され、そうでなくても石川被告が大久保被告に登記の繰り延べ交渉を依頼した際、隠蔽の一環として、その必要性と対応を説明し、認識を共有したとみるのが自然かつ合理的。大久保被告が異例の交渉をしていることが証左。
 池田被告も石川被告から引き継ぎを受けるなどし、4億円を報告書に記載しないこと、仮装のため設定した定期預金担保融資にかかる借入金4億円や転貸金4億円は返済も含め記載しても構わないことなど、隠蔽について石川被告の意図と方法の説明を受け、認識を共通にしたことが認められる。大久保被告は池田被告との間でも意思を通じ合ったといえる。
 大久保被告が報告書の提出に関し、法的義務を負う会計責任者だったこと、小沢事務所での役割や立場を考えれば、大久保被告は4億円借り入れを隠蔽する多大な利害関係があった。石川、池田両被告による報告書の虚偽記入や不記載は大久保被告にとっても自らの犯罪と評価されるべきものといえる。大久保被告に概括的な故意が認められ、共同正犯としての責任も肯定できる。
 04年分報告書の4億円や土地取得費用などの不記載、05年分報告書における土地取得費用などの虚偽記入、07年分報告書の4億円返済の不記載、これに関わるつじつま合わせのための虚偽記入や不記載も大久保被告の故意、石川、池田両被告との共謀が認められる。
 07年分報告書の架空寄付合計7千万円については池田被告が前記認識に基づき計上したと認めるに足る証拠はなく、池田被告から大久保被告に報告があったとも認められない。大久保被告の故意や共謀を認定するにはなお合理的な疑いが残る。

【量刑理由】
 西松建設事件での報告書の虚偽記入は、03〜06年までの4年分、額は陸山会の報告書では計2100万円、民主党岩手県第4区総支部については計1400万円に上る。
 小沢事務所は談合を前提とする公共工事の本命業者の選定に強い影響力があり、影響力を背景に公共工事の受注を希望する企業に多額の献金を行わせていた。規正法の規制の下で、引き続き企業からの多額の献金を得るため、他人名義の寄付を受け、報告書上、明らかにならないよう虚偽記入した。
 陸山会事件では、04年分報告書の不記載総額は8億9700万円余り、05年分と07年分では5億5千万円、虚偽記入の総額は3億7千万円(大久保被告については3億円)に上っている。
 陸山会は原資を明快に説明するのが難しい4億円を小沢元代表から借りて本件土地を購入。取得時期が、談合を前提とした公共工事の本命業者の選定に対する影響力を背景に、小沢事務所が胆沢ダム建設工事の下請け受注に関し、水谷建設から5千万円を受領した時期と重なっていた。
 そのような時期に原資不明な4億円もの資金を使って高額な不動産を取得したことが明るみに出れば、社会の注目を集め、報道機関に追及され、5千万円の授受や、小沢事務所が長年にわたり企業との癒着の下に資金を集めていた実態が明るみに出る可能性があった。本件は、これを避けようと敢行された。
 規正法は、政治団体による政治活動が国民の不断の監視と批判の下に公明かつ公正に行われるようにするため、政治資金の収支の公開制度を設けている。
 それなのに本件は、現職衆院議員が代表者を務める政治団体に関し、数年間にわたり、企業が隠れみのとしてつくった政治団体の名義による多額の寄付を受け、あるいは4億円の存在が発覚しないように種々画策し、報告書に多額の不記載や虚偽記入をしたものである。規正法の趣旨にもとる悪質な犯行だ。
 しかも、いずれの事件も長年にわたる公共工事をめぐる小沢事務所と企業との癒着を背景とするもので、法の規制を免れて引き続き多額の企業献金を得るため、あるいは、癒着の発覚を免れるため、国民による政治活動の批判と監視のよりどころとなる報告書に意図的に数多くの虚偽記入などをした。
 法の趣旨を踏みにじり、政治活動や政治資金の流れに対する国民の不信感を増大させ、社会的影響を見過ごすことはできない。被告らは不合理な弁解を弄して責任をかたくなに否認し、反省の姿勢を全く示していない。
 大久保被告は、自らいわゆる天の声を発する役を担当し、企業との癒着に基づいた小沢事務所の資金集めに深く関わっていた。犯情は他の被告に比べて相当に重い。石川被告が果たした役割は非常に重要で責任は大きい。池田被告が果たした役割も重要である。
 他方、小沢事務所と企業との癒着は、被告らが事務所に入る前から存在し、被告らがつくり出したのではないなどの事情も認められ、刑の執行を猶予するのが相当だ。〔共同〕

(8)次以降の投稿では、西松建設違法献金事件と土地取得をめぐる事件について、それぞれ個別に取り上げて検討してみようと思います。

(つづく)