はじめに

(1)「陸山会」裁判の東京地裁判決について(1)では、ほぼ予想通り「有罪」判決がくだされたと書きました。

(2)「陸山会」裁判の東京地裁判決について(2)では、「西松建設」違法献金事件を取り上げました。

そして、同社自身が違法献金を認め、同社前社長は2つの政治団体がダミーであり他人名義で献金をしたと罪を認めていたこと、それを受け取った二階大臣(当時)の秘書も略式指揮されていたことに加え、検察側の冒頭陳述要旨における立証と被告人大久保氏側の冒頭陳述要旨と最終弁論要旨を読んでいたので、公共工事における小沢事務所の「天の声」を認定しなくても、被告人大久保氏の「有罪」判決になる可能性が高いと思っていたことなどを書きました。

(3)この投稿では、もう一つの事件である、土地取得をめぐる事件を取り上げます。

この事件は、小沢一郎元民主党代表の裁判(初公判は10月6日)とその元秘書3名の裁判とがあります。
先日(9月26日)に3名の有罪判決をくだした判決は、後者の裁判です。

(4)元秘書ら(元秘書3名全員かどうかは別にして)が有罪になると思ったのは、石川議員が当初、罪を認めていたからです。

したがって、元秘書ら(同上)は有罪になるのだろうなぁ、と漠然と考えていました。

もっとも、この事件の全体像は、当初、ほとんどわかりませんでした。
全体像がなんとなくわかるのは、元秘書ら3名が起訴された時ですが、それでも具体的な詳細はわからないままでした。

事件の詳細がわかるのは、冒頭陳述要旨を読んでからでした。
裏金の認定をするかどうか別にして、元秘書ら(同上)の「有罪」は確実と強く思ったのも、この時でした。

これまでの経過を振り返りながら、この事件を取り上げて検討してみましょう。

1.これまでの経過

(1)すでに紹介したように、2009年3月3日、東京地検は、小沢一郎民主党代表(当時)の資金管理団体「陸山会」および小沢氏が代表を務める「民主党岩手県第4区総支部」を家宅捜索し、「陸山会」の会計責任者で小沢氏の公設第一秘書の大久保氏や西松建設の前社長ら3人を逮捕しました。

(2)その10ヶ月後の2010年1月13日、東京地検特捜部は、民主党の小沢幹事長の資金管理団体による土地購入をめぐり、会計事務を担当していた石川知裕衆議院議員が、購入代金に充てた資金を収支報告書に記載していなかった疑いが強まったとして、政治資金規正法違反の疑いで、衆議院第1議員会館にある石川議員の事務所、小沢幹事長の資金管理団体「陸山会」、小沢氏の個人事務所、大手建設会社の「鹿島」などを一斉に搜索しました。
また、同月(1月)15日、東京地検特捜部は、小沢民主党幹事長の元私設秘書で「陸山会」の事務担当者だった石川知裕・衆院議員と、その後任の事務担当者だった元私設秘書の池田光智氏を政治資金規正法違反(虚偽記入)容疑で逮捕しました。
加えて、西松建設違法献金事件で、すでに起訴されている、小沢一郎民主党幹事長の公設第一秘書の大久保氏も再逮捕されました。

さらに、同月(1月)19日、東京地検特捜部は中堅ゼネコンの「山崎建設」と「宮本組」を政治資金規正法違反(虚偽記載)容疑で家宅捜索しました。

(3)この時点では、事前の全容はあまりわかりませんでした。
問題となる「4億円」は1つではなく、2つあるようなのですが、「陸山会」の政治資金収支報告との関係で、その事実関係をどのように受けとめたらいいのか、迷っていました。

(4)2010年2月4日、東京地検特捜部は、小沢一郎氏の元秘書ら3名を起訴し、小沢氏を不起訴にしました。
この時、石川議員は虚偽記載の罪を認めていました(後に無罪を主張)。
2010年2月4日18時13分配信 毎日新聞
陸山会事件 小沢氏不起訴 石川議員ら3人は起訴
(略)

 ◇石川議員「深くおわび」
 石川議員は4日、コメントを出した。

 私は、今般、私の軽率な判断に基づく行動により政治資金規正法違反の罪で起訴されました。
 このことについては、有権者の皆様、民主党支持者の皆様、私を支援してくださっている地元十勝をはじめとする支持者の皆様その他大勢の方にご迷惑やご心配をおかけしたことを深くおわび致します。
 私が収支報告書に不適切な記載をしたことに間違いなく、このことについては深く反省しておりますが、一部に報道されているような不正な資金を受け取ったことは断じてないことをお誓い申し上げます。その点ではどうか私を信じていただきたく存じます。
 今後とも、何とぞよろしくお願い申し上げます。

これで石川議員が有罪になるのだとは思いました。
起訴事実(後述)を見て、事前の全体像はなんとなくわかりましたが、事実関係の詳細についてはまだわからないところがありました。

(5)私がマスコミによる検察のリーク情報以外で、事実関係の一部を知ることができたのは、この元秘書3名ではなく、小沢一郎氏についての東京第5検察審査会の1回目の「起訴相当」議決の要旨(2010年4月27日)でした。

しかし、ここでの容疑は事件の一部だったことに加えて、議決要旨に記されている事実関係が十分具体的なものとは言えないため、これを読んでも事実関係の具体的な詳細は十分にはわかりませんでした。

また、東京第一検察審査会の「不起訴不当」議決要旨(2010年7月15日)を読んでも、同じでした。

さらに、東京第5検察審査会の2度目の「起訴相当」議決要旨(2010年10月4日)を読んでも、同じでした。

それらの議決で問題になった事実は、土地取得をめぐる事件の一部でしかなったのですから、私が事件の詳細を知ることができなかったのは、当然といえば当然だったのですが、その一部であれ議決の要旨からは具体的な詳細はわかりませんでした。

(6)事件の事実関係の詳細がわかるのは、検察側と元秘書ら3名の冒頭陳述要旨(2011年2月7日)を読んだときでした。
私は、同時に、石川議員が当初、罪を認めていた理由が分かりました。

もっとも、その後、検察調書の一部が不採用になりました。

私は、元秘書同士の共謀と裏金の認定については裁判を傍聴していないのでなかなか予想できませんでしたが、この事件で少なくとも2人(被告人石川氏と被告人池田氏)の「有罪」判決が出る可能性た極めて高い(被告人大久保氏は「西松建設」違法献金事件で「有罪」判決の可能性が高い)と予想したのです。

2.元秘書3名の起訴事実

(1)被告人大久保は衆議院議員小沢一郎の資金管理団体「睦山会」の会計責任者であった者で、被告人石川及び同池田は睦山会の会計責任者の職務を補佐していた者です。

(2)元秘書3名の起訴事実は以下のとおりです。

被告人大久保及び同石川は、共謀の上、2005年3月、東京都選挙管理委員会において、2004年分の収支報告書に、
小沢からの借入金4億円、
関連政治団体からの寄附合計1億4500万円、
土地取得経費約3億5200万円
を記載せず、
「本年の収入額」欄に5億4500万円過少、
「支出総額」欄に約3億5200万円過少
の虚偽の金甑を記入して、
総務大臣に提出した(被告人大久保については訴因愛更)。

被告人大久保及び同池田は、共謀の上、2006年3月、東京都選挙管理委員会において、2005年分の収支報告書に、
関連政治団体からの架空寄附合計3億円を記入し、
「本年の収入額」欄に3億円過大、
「支出総額」欄に約3億5200万円過大の虚偽の金額
を記入して、
総務大臣に提出した(被告人大久保については訴因変更)。

被告人大久保及び同池田は、共謀の上、2008年3月、東京都選挙管理委員会において、2007年分の収支報告書に、
関連政治団体からの架空寄附合計1億5000万円、
小沢への借入金返済4億円
を記蔵せず,
関連政治団体からの架空寄附合計7000万円を記入し、
「本年の収入額」欄に8000万円過少、
「支出総顛」欄に4億円過少の虚偽の金額を記入して、
総務大臣に提出した。

(3)以上が3名の起訴事実です。

簡単にまとめ直すと、起訴事実とは、
小沢氏からの4億円の借り入れとその返済を記載していないこと(いずれも不記載)、
政治団体間の資金移動を寄付として記載せず(不記載)、政治団体間の資金移動がなかったのに資金移動があったと記載したこと(虚偽記載)
土地取得経費3億5200万円を2004年分に記載せず(不記載)
以上の分、収入額や総額が虚偽であること(虚偽記載)
です。

(4)以上のうち、土地取得額の記載問題は、報告時期がずれているという問題(いわゆる期ズレの問題)です。
つまり、期ズレの問題は、起訴事実の一部に過ぎないのです。

(5)期ズレの問題は、あえて違法なものとして罪に問うべきかどうかは、もう少し事実関係を検討しないと何とも言えませんが、4億円の借り入れとその返済、政治団体間の資金移動の不記載、虚偽記載などは、後述しますが、金額が高額ですから「有罪」だろうと思えるものでした。
被告人石川議員が当初罪を認めていたのも頷けます。

ただ、政治資金収支報告書を見ると、「4億円」の借入はそこに記載されているため、検察側の言うように本当に不記載なのか、少し迷うところがありました。

(6)以下では、これらの起訴事実を順に取り上げ、検察側の立証と被告人側の弁明を確認し、検討してみましょう。

まず、「4億円」の借入を取り上げます。

3.2つの4億円の借入・返済と不記載問題

(1)検察側の冒頭陳述要旨(2011年2月7日)によると、

被告人大久保と同石川は、小沢議員の指示を仰いだ上、2004年9月頃、陸山会において、同議員から合計4億円を借り入れ、同議員の自宅近くで売り出されていた土地(A地。以下「本件土地」という。)を売出価格の3億4264万円(税込)で購入することとした。

被告人大久保及び同石川は、この決定に基づき、同年10月5日、住宅開発販売会社(B社。以下「住宅開発販売会社」という。)との間で、睦山会が同社から本件土地を上記価格で購入し、同月29日に購入代金を完済するとともに所有権移転登記を行う旨の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。

被告人大久保及び同石川は、同月初めころから同月27日ころまでの間に、小沢議員からそのころまでに同議員に帰属するに至った合計4億円(以下「本件4億円」という。)を現金で借り入れた。

この合計4億円については、その中から、同月5日、住宅開発販売会社に手付金等1008万円、不動産売買仲介会社(C社。以下「不動産売買仲介会社」という。)に仲介手数料の一部500万円の合計1508万円を支払った。

残りの3億8492万円は、これを一括して陸山会の1口座に入金したのでは資金移動が目立ってしまう等の事情があったため、被告人石川氏が、同月13日、4銀行4支店を順次回って、各々3000万円ないし5000万円ずつ現金合計1億8000万円を陸山会の4口座に入金したのを始めとして、同日から同月27日までの間、ほぼ1000万円ないし5000万円の単位で、合計5銀行6支店に開設された陸山会の6口座にあえて12回(同一支店における一連の入金を1回と数えると10回)にわたって現金で分散入金した。

被告人石川は、同月28日、D銀行E支店の陸山会の口座以外の口座に入金した合計1億7000万円をD銀行E支店陸山会口座に振込送金して集め、同日の営業終了時点における同口座の残高を4億3537万9250円とし、その中から、同月29日、住宅開発販売会社に残代金3億3264万円、不動産売買仲介会社に仲介手数料の残金399万4300円、司法啓士に登記諸費用90万2488円の合計3億3753万6788円を支払い、本件土地賊入代金等合計3億5261万6788円を完済した。

その後、本件4億円をいずれ小沢議員に返済するよう被告人石川から引継ぎを受けていた同池田は、2007年5月1日、D銀行E支店陸山会口座以外の陸山会名義の口座から合計5500万円、第4区総支部名義の口座から合計9500万円、政経研究会名義の口座から1500万円,誠山会名義の口座から4000万円の合計2億500万円をD銀行E支店陸山会口座に移動して同口座の残高を4億4338万448円とした上、翌2日に同口座から4億円を現金出金し、そのころ、これを小沢議員に現金で一括して返済した。

本件土地を2004年10月に3億数千万円で買い受けたこと及びその代金を小沢職員から現金で借り入れた本件4億円で支払ったことを収支報告帯において明らかにした場合には、その由来如何について報道機関等が関心を持つことが必至であったが、小沢事務所においては、報道機関等から取材等を受けた場合に本件4億円の由来について明快な説明を行うことができず、そうなると、小沢事務所における資金管理等に対する疑念を深め、同借入れと時期を同じくして開札が行われた胆沢ダム堤体盛立(第1期)工事との関連に着目されて、同工事を受注した建設業者等に対し報道機関等による取材等が行われるなどして、本件4億円の原資が胆沢ダム建設工事受注に関し建設業者から謝礼として受領した違法な資金ではないかと詮索・追及され、ついには本件4億円の由来や上配F社からの平成16年10月の5000万円の受領事実等の小沢事務所における収入の実態が露見するおそれがあったため、被告人大久保及び同石川は、本件4億円の借入れを収支報告番に記載しないこと等により、そのような事態に陥ることを回避しようと企てた。

被告人石川は、小沢議員からの本件4億円の借入れについては公にできないと考えていたが、従前から、陸山会において不動産を購入する際、当該不動産を贈入することができる手持ち資金を保有しているにもかかわらず、そのような資金の余裕があることを公にしないようにするため、あえて手持ち資金で定期預金を組んでこれを担保に融資を受けた資金で不動産を購入しており、被告人石川自身もそのような手続をしたことがあったことから、これを参考にして,本件土地購入についても、その代金が2004年10月に支払わ
れたことが判明した場合に備えて、報道機関等からその原資を問われるに至ったとき、銀行からの借入金で聯入した旨の虚偽の説明を行うことができるようにしようと考え、陸山会など小沢蟻員の関連政治団体の資金を集めて定期預金を組んでこれを担保にして銀行借入れを行うこととした。

被告人石川は、報道機関等から銀行関係者への取材等が行われることになれば,本件土地購入代金が銀行からの借入れより前の2004年10月29日午前中までに本件4億円によって支払い済みであることが露見し、ひいてはその資金の由来を追及されるおそれがあると考え、これを回避するため、収支報告書に融資元の特定の銀行名までは記載しないで済むように、小沢議員に上記の銀行借入をしてもらった上、これを陸山会に転貸してもらうこととした。

そこで、被告人石川は、同月下旬ころ、同大久保に対しその旨提案したところ、同被告人も、被告人石川と全く同じ考えであったことから、「そうしておいた方がいい。」などと言ってこれを了承した。
以上により、遅くともこの時点までに、被告人大久保及び同石川の間で、小沢議員からの本件4億円の借入れについては、その後陸山会から小沢蟻員に返済するものも含めて、2004年分以降の陸山会の収支報告書に一切記載しないことなどについて共謀が成立するとともに,仮装原資として小沢職員を経由しての銀行借入を行うことが企てられた。

この共謀等に基づき、被告人石川は、同月28日の午後遅い時間になって、急きょ、D銀行E支店に対し、陸山会が新たに預け入れる4億円の定期預金を担保に、小沢議員に対して4億円を融資してもらいたい旨申し込み、これを小沢議員から陸山会に転貸してもらうこととした。

同月29日午前中、被告人右川は、本件土地の残代金等合計3億3753万6788円を決済する一方,同残代金等を支払った上で、D銀行E支店から小沢議員が4億円の融資を受ける際の担保とする同額の定期預金を預け入れるためにはD銀行E支店陸山会口座の残高が3億円余不足することから、同日午前9時過ぎから午前10時過ぎころまでの間に、3銀行3支店を順次回り、民主党岩手県第4区総支部の口座から合計7000万円、政経研究会の口座から合計9500万円、誠山会の口座から2000万円、睦山会の他の口座から合計'億2000万円の合計3億500万円をD銀行E支店陸山会口座宛てに振込送金した。

このようにして前記残代金決済の後、同口座の残高が4億300万3349円となったことから、被告人石川は、同日午後1時過ぎころ、同口座から4億円を振り替えて陸山会の定期預金として預け入れ(以下「本件定期預金」という。)、これを担保として、D銀行E支店から小沢一郎に対する、返済期限を2005年10月31日とする4億円の融資(以下「本件定期預金担保融資」という。)を受け、利息等を天引きした3億9536万2314円を同支店の小沢一郎名義の口座にいったん入金した後、同口座から4億円をD銀行E支店陸山会口座に振込送金した。

なお、その後2007年2月に国会議員に係る一連の事務所費疑惑の一環として本件土地購入費用を含む陸山会の事務所費が問題とされた際、小沢事務所は、報道機関に対し、本件土地購入の原資が本件定期預金担保融資による借入金であった旨虚偽の説明を行うとともに、小沢議員経由で融資を受けたことについても、真実は小沢事務所の申出によるものであるのに、銀行側の都合によるものである旨虚偽の説明を行った。

2005年3月ころ、被告人石川は、前年10月の同大久保との前記共謀に基づき、陸山会の2004年分の収支報告書作成に当たり、本件4億円の借入れ及び本件土地取得費用等の支払等をいずれも記載せず、また、第4区総支部からの合計7000万円及び政経研究会からの合計7500万円(同年11月24日に政経研究会に戻した2000万円を除く。)の資金移動についても、これらの寄附自体が急きょであったため、その不自然さから本件土地購入の原資を偽るための偽装工作の一環であることを看破されるおそれがあるものと考えて記載せずに、その原案を作成した(同収支報告書には,平成16年10月29日付けで「借入先小濯一郎金額\400,000,000」と記載しているが、これは前記の共謀のとおり、銀行からの定期預金担保融資4億円を小沢議員から転貸してもらった分の借入れとして記載したものである。

同4億円については、2005年10月及び2006年3月に各2億円が返済されて完済しているところ、同返済については、陸山会の2005年分の収支報告書及び同2006年分の収支報告書に2004年10月29日付けの「小澤一郎からの4億円の借入金」の返済として各々、借入金返済欄に「¥200,000,000平成17年10月30日小澤一郎」、「¥200,000,000平成18年3月31日小澤一郎」と記載されている

2004年に小沢議員が新たに有することとなった資産等を記載したところの2005年4月5日付けの同議員の資産等補充報告書においても、睦山会の収支報告書の上記記載と同様に、同議員の2004年における新たな借入金として、本件定期預金担保融資4億円に相当する「借入金400,000,000円」の記載及び同議員の同年における新たな貸付金として、同議員が陸山会に転貸した本件定期預金担保融資4億円に相当する「貸付金400,000,000円」の記載がなされている

被告人石川は、同大久保に対し、上記の収支報告書原案等を示しながら、「小沢先生からお借りした4億円と、土地購入の件は外しています。」などと報告したところ、同大久保は、既に2004年10月に同石川との間で共謀したとおりの収支報告番原案であったことから、同原案どおりの虚偽の内容で同収支報告書を完成させて提出することを了承した。そこで、同石川は、上記のとおりの虚偽内容の収支報告書を完成させて提出した。

被告人池田は、2008年3月ころ,同石川を介しての同大久保との共謀に基づき、陸山会の2007年分の収支報告書作成に当たり、2007年5月2日ころの4億円の一括返済やその原資の一部とした第4区総支部から9500万円、政経研究会から1500万円及び誠山会から4000万円の各寄附を記載せず、また、同年中に支出された陸山会の費用のうち約7000万円については、この寄附の不記載も一因となって、上記約7000万円に見合う収入を計上しなければ、収支報告書上、収入より支出の方が約7000万円過大となり、収支報告書上のつじつまが合わなくなっていたことから、そのつじつまを合わせるため、真実は、陸山会が2007年1月25日に第4区総支部から5000万円、同年9月25日に政経研究会から2000万円の各寄附を受けた事実がないのに、これらの寄附を受けた旨虚偽記入した陸山会の2007年分の収支報告書原案を作成した。

その上で、被告人池田は、同大久保に対し、上記の収支報告書原案等を示すなどしながら、「小沢先生から簿外で借りた4億円の返済については、収支報告書から外しておきましたから。」などと報告したところ、同被告人も、この点についても2006年10月に同石川と共謀したとおりであったことから、前同様に、同原案どおりの虚偽の内容で同収支報告書を完成させて提出することを了承したため、同池田は、上記のとおり収支報告書を完成させて提出した。

(2)以上は、「4億円」の借入とその返済に関する検察側の冒頭陳述要旨の主要部分です(裏金の部分は割愛している)。

(3)これを読むと分かるのは、検察側の説明では、「4億円」は2つある
一つは、小沢氏から陸山会が借入した4億円
もう一つは、銀行から小沢氏に借りてもらい、小沢氏が陸山会に転貸しした「4億円」

検察の説明では、陸山会の2004年分の政治資金収支報告書には、転貸しを受けた「4億円」は記載しているが、その前に小沢氏から借りた「4億円」は記載しておらず、それらの返済についても、転貸し分は2005年分と2006年分の政治資金収支報告書にそれぞれ2億円ずつ返済した旨記載しているが、当初の小沢氏から借入れた分は2009年分の政治資金収支報告書には記載していない、というのです。

(4)では、被告人石川氏と被告人池田氏は、これに対して、どう反論、弁明しているのか、見てみましょう。


4.元秘書らの認否意見と冒頭陳述(2011年2月7日)とそれへの感想

(1)被告人石川氏の「公訴事実についての認否意見」「冒頭陳述」(2011年2月7日)によると、石川氏は、簡潔に以下のように述べていました。

起訴状には、収支報告書に、睦山会が小漂議員から借用した4億円の記載がないとされていますが、私としては記載したつもりでおります。
私は、2004年10月12日頃、小澤議員から現金4億円を受け取り、10月27日までに陸山会のいくつかの銀行預金口座に何回かに分けて入金し、28日にりそな銀行の預金口座に集めました。
他方、10月29日に、陸山会のりそな銀行口座には、他の関連団体から合計3億円以上の資金を集めましたので、合計7億数千万円の資金が集まっていました。
10月29日には、この7億数千万円の資金の中から、不動産業者に世田谷の土地代金等の支払をし、りそな銀行に陸山会名義で4億円の定期預金を組み、この定期預金を担保として小澤一郎名義で4億円の借入を行い、その資金は、小澤一郎名義の口座から直ちに陸山会の口座に移したのです。
勿論、この定期預金を組むことも、それを担保に借入をすることも、りそな銀行からは前日の内に了解をもらっており、29日は事務手続をしただけです。
以上の結果、事務手続上は、陸山会が小澤一郎から合計8億円の借入を行ったことになりました。然し、りそな銀行からの4億円の借入は、陸山会の資金を定期預金にして、それを担保に借りただけであり、本当の借主は陸山会であり、小澤一郎は名義借に過ぎませんでした。
そこで、2005年3月に収支報告書を作成するとき、小澤先生からは実質的には4億円しか借りていないので、「小澤一郎、4億円」とだけ記載したのです。
そして、この記載は、2004年10月12日頃に小澤先生から借りた分の記載であると思っていたのです。

10月29日に実行されたりそな銀行からの定期預金担保による借入を記載しなかったのは、睦山会自身の保有した4億円を定期預金にして同額を借り入れたのみであって睦山会としては収支総額に変化はなく、借りたとの実感が存在せず、更に、そのような記載をすると睦山会は合計8億円の借入を行ったとの趣旨の記載になるが、これは実態に反するとの思いがあったからである。
政治資金規正法がこれをも借入による収入として記載することを要求するのであれば、判断の過娯に過ぎない。

(2)被告人池田氏は、冒頭陳述(2011年2月7日)によると、以下のように述べていました。

本件公訴事実に関して、被告人石川から2005年7月の会計事務の引き継ぎまでの間に引継ぎを受けたのは、)楫鐡效呂僚衢権移転登記は2005年1月7日に行われたので、2005年分の収支報告書に本件土地を記入すること、本件土地購入に際して、小沢議員から4億円の提供を受けている(以下,かかる4億円を「本件4億円」という。)ので、将来、小沢議員に返還する必要があること、という程度のことのみであった。
かかる部分的で抽象的な内容での引継ぎの結果、本件4億円は小沢議員の純然たる個人資産であり、関連政治団体の預金口座において一時的に預かり保管されているが、将来小沢議員に確実に4億円を返還する必要があり、決して費消してはならない金員であると理解した。

2007年5月2日に小沢職員に本件4億円を返還したが、そもそも、本件4億円は、小沢職員の純然たる個人資産であって、睦山会の預金口座にて一時的に預かり保管されていたものに過ぎず、睦山会の「預かり金」と評価すべきものであって、睦山会の資産ではなかった。
したがって、本件4億円を小沢議員に返還したことは、もともと睦山会の資産に該当しない金員を返還したにすぎず、睦山会の支出ではないから、収支報告番への記入を要しない。

当日の2007年5月2日に本件4億円を小沢議員に返還したことについて、本件4億円は小沢議員の純然たる個人資産であって、陸山会及び関連政治団体の預金口座にて預かり保管されている「預かり金」であると理解していたことから、本件4億円の返還が、収支報告書への記栽を要するとされる可能性すら認識していなかった。

(3)以上は「4億円」の借入についての被告人石川氏と被告人池田氏の弁明です。

両者の言い分は同じではありません。
むしろ矛盾しています

小沢氏から借入れた「4億円」は2004年分政治資金収支報告書に記載していると主張しているのが被告人石川氏で、当該「4億円」は「預り金」にすぎないから報告義務はないから、その返済を2007年分政治資金収支報告書に記載しなかったと主張しているのが被告人池田氏なのです。

被告人石川氏の弁明が真実で妥当だとなると、被告人池田氏は政治資金規正法上の不記載の罪に問われることになります。
他方、被告人池田氏の弁明が妥当だとなると、被告人石川氏は虚偽記載の罪に問われることになります。

私は、この時点で、どちらかが有罪になると簡単に予想できたのです(それでも両者が無罪になる論理はありますが)。

(4)では、どちらの主張が妥当なのでしょうか?

まず、被告人石川氏の弁明は通用するのでしょうか?

その弁明は他の事実に矛盾します。

というのは、被告人石川氏は転借りした「4億円」を記載していないことを認めていますが、にもかかわらず、転借りした「4億円」は、検察の冒頭陳述で説明されているように2005年と2006年に2億円ずつ小沢氏を介して銀行に返還されており、2005年分と2006年分の政治資金収支報告書に返還の記載がなされているからです(当初の小沢氏から借入れた「4億円」が返還されたのは2007年です)。

借り入れのとき記載しなかった「4億円」について、返還では報告するのは、矛盾しています。

そうすると、2004年分の政治資金収支報告書に記載されている小沢氏からの4億円の借入は、検察側の主張するように銀行からの転借り分の「4億円」だという方が辻褄があいますので、当初小沢氏から借入れた「4億円」は記載されていないというのが、真実でしょう。

すでに紹介した被告人池田氏の陳述が被告人石川氏の弁明の嘘を暴いていることになります。

被告人石川氏は、小沢氏からの4億円の借入を報告していないことを自覚していたから、当初は罪を認めていたのでしょう。

(5)では、被告人池田氏の「預り金」の主張は通用するのでしょうか?

2004年10月に、小沢氏を介して銀行から「4億円」借り入れできたので、当初の小沢氏から借入れた「4億円」をすぐに返済したというのであれば、「預り金」の主張は理解できないわけではありません。

しかし、2004年に借入れた「4億円」もの大金を2007年に返還して、それでも「預り金」だと主張するのは、通用しませんし、通用させてはいけません
すぐに返済しなかったのは、本件4億円がなければ陸山会の資金運営に支障が生じたからでしょう。
それなのに「預り金」という弁明が許されるのであれば、政治資金規正法は遵守しなくてもいい法律だ、ということになってしまいます。

同法は真実の収支を報告させ、それを国民の不断の監視と批判に委ねているからです。
記載されなければ国民は適正な判断ができません。
(目的)
第1条  この法律は、議会制民主政治の下における政党その他の政治団体の機能の重要性及び公職の候補者の責務の重要性にかんがみ、政治団体及び公職の候補者により行われる政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするため、政治団体の届出、政治団体に係る政治資金の収支の公開並びに政治団体及び公職の候補者に係る政治資金の授受の規正その他の措置を講ずることにより、政治活動の公明と公正を確保し、もつて民主政治の健全な発達に寄与することを目的とする。

(基本理念)
第2条  この法律は、政治資金が民主政治の健全な発達を希求して拠出される国民の浄財であることにかんがみ、その収支の状況を明らかにすることを旨とし、これに対する判断は国民にゆだね、いやしくも政治資金の拠出に関する国民の自発的意思を抑制することのないように、適切に運用されなければならない。
政治団体は、その責任を自覚し、その政治資金の収受に当たつては、いやしくも国民の疑惑を招くことのないように、この法律に基づいて公明正大に行わなければならない

(6)この「4億円」という高額な借入の不記載、返済の不記載だけで、小沢氏の元秘書らは「有罪」でしょう。
「無罪」だと結論づける方が難しいでしょう。


5.政治団体間の資金移動の不記載、虚偽記載についての被告人石川氏の主張とそれに対する感想

(1)被告人石川氏は、「公訴事実についての認否意見」によると、政治団体間の資金移動の不記載、虚偽記載について以下のように主張していました。

訴状には10月29日に、民主党岩手県第四区総支部から7000万円、小沢一郎政経研究会から7500万円の寄付を受けたのに記載していないとされていますが、記載していないことは事実です。
然し、これについては陸山会の収入であるとか、寄付を受けたなどという認識は全くなかったので記載しなかったのです。
私は、陸山会、民主党岩手県第四区総支部、小沢一郎政経研究会などの小澤先生関係の団体の通帳及び銀行印も保管して、団体相互間の資金のやり繰りを担当していました。
その中で、先ほど述べたように、陸山会で資金が必要だったので、仮に資金移動しただけです。これらの資金は、元の団体の方で必要があればいつでも元に戻すつもりでした。現実に11月には、少し戻しているはずです。要するに財布は一つだったのです。
このように、いわば身内の間におけるやり繰りに過ぎなかったので、収入とか支出という認識もなく、収支報告書にも記載しなかったのです。寄付と言う意識もありませんでした。
後任者が、どのような理解をして、どのような事後処理をしたのかはわかりませんが、私の意識は上記の通りでした。

(2)被告人石川氏は、政治団体間の資金移動についての不記載を認めた上で、複数の政治団体の政治資金について「財布は一つ」と説明しています。
正直に答えたのでしょうが、驚くべきことです。

政治団体は、それぞれ独立して、それぞれの政治活動をするために結成し、存続するものですが、小沢氏の政治団体は、カネ集めをするための手段に過ぎなかったようで、政治団体間の資金移動は、担当者の意のままになっていたようです。

(3)他の政治団体間の資金移動についての被告人らの主張はこれ以上紹介する必要はないでしょう(細かい数字は、次の投稿で紹介します)。


6.いわゆる期ズレ問題についての被告人石川氏の陳述とそれに対する感想

(1)いわゆる期ズレ問題については、裏金を理由にしている検察の冒頭陳述ではなく、被告人石川氏のそれを紹介することにしよう。

本件土地売買契約後、2004年の収支報告書は2005年9月ころに公表されることとなるが、その頃には民主党の代表選挙が挙行される可能性及び小澤議員が立候補する可能性が高いとの予想を抱いていた。ここに、本件収支報告書に本件土地取得を記載すると、マスコミが小澤議員の睦山会が高額な土地を取得したとして騒ぐおそれがあるとの危倶感を抱いた。
民主党代表選挙実施及び小澤議員の立候補の可能性については、以下のような情勢が存在した。即ち、当時の民主党においては、代表が、鳩山、前原、岡田と短期間で交代している経過にあり、水面下では次は誰かと指導者間の勢力争いがあり、岡田代表が失脚して次期代表選挙が何時行われかも知れないとの不穏な空気が流れていた。又、小泉首相が郵政民営化に反対する議員を抵抗勢力になぞらえる等していて何時衆議院の解散が行われるかもしれないとの情勢にあり、当時の民主党代表岡田克也氏の下では民主党が選挙に敗退
するかも知れず、その場合には岡田代表が引責辞任しなければならず、その結果民主党代表選挙が挙行される可能性があるとの見方がささやかれていた。そして、かかる民主党代表選挙が実施されれば、次は小濯議員が立候補するであろうことは衆目の一致するところであった。

ここで、最初に考えたことは、本件不動産買取及び売買代金支払いの翌年への延期であった。そうすれば、本件不動産取得が記載された政治資金収支報告書の公表も1年間先延ばしにできると考えたのである。
そこで、本件不動産取引の仲介を行っていたミブコーポレーションに打診したが、売主がそこまで待てないとのことで拒否された。
次いで、次善の策として、所有権移転登記の時期を3カ月ほど延ばして2005年1月に出来ないかと蒋想し、上記ミブコーポレーションから紹介された本件土地売買についての登記を担当していた司法書士に相談したところ、代金全額を支払っても仮登記だけしておいて本登記だけを先延ばしにする方法を教えられた。仮登記をしておけば権fリの保全上も心配ないとのことであった.
当然のことながら、不動産取引の経験を有しなかった被告人石川は仮登記ということについてもこの時初めて知ったのである。
かくて、ミプコーポレーションの担当者に連絡して、予定の10月29日には売買代金の全額を支払うが、取り敢えず仮登記手続のみ行って、本登記手続は2005年1月に行なうこととし、その通り実行された。
2005年3月、本件収支報告書作成に当り、2004年10月に支払った本件土地取得費用等支出を記載しなかったが、それは、収支報告書の記載方法に関する具体的なマニュアルもない中、法律の専門家と思っていた司法書士の適法であるとの確認も取れていたので、それが適法な処理であれば土地代金等の支出についても、土地所有権の本登記が完成し完全な所有権を取得できた時に計上すればよいと判断したためである。

(2)以上が、いわゆる期ズレ問題についての被告人石川氏の冒頭陳述です。

被告人石川氏は、明らかに不動産取得の公表時期を1年遅らせようと画策したことを「自白」しています

司法書士に相談しているので、裁判所が「過失にとどまる」と判断すれば、期ズレにつき被告人石川氏の無罪もありうるのかもしれないものの、不動産取得の公表時期を1年遅らせようと画策したことを裁判所が重視すれば、裏金の認定をしなくても、期ズレ問題についても被告人石川氏の「有罪」判決は十分ありうるだろうと、私は予想したのです。


7.裏金の認定をしなくても元秘書らは十分「有罪」にできた!

(1)以上、紹介したように、裏金問題を検討するまでもなく、
元秘書らは、4億円の借入とその返済を記載しなった点で、
また、政治団体間の資金移動を記載せず、資金移動がなかったのに資金移動があったと虚偽記載した点で、
「有罪」判決がくだされることは確実でした。

さらに、いわゆる期ズレ問題については、
裏金問題について検討しなくても、
不動産取得の公表時期を1年遅らせようと画策したとの「自白」を重視すれば、
「有罪」判決も十分ありうるだろうと私は予想したのです。

(2)なお、被告人同士の共謀については、検察調書の一部不採用があったために、裁判を傍聴していなかったので、どのような認定になるのか、十分予想できませんでした。

小沢事務所と企業の癒着の問題については、次の投稿で取り上げます。

(続く)