秘密保全法制定に反対する種々の意見書等を紹介しています。

先日紹介した「その1」では、法律家団体の反対意見やマスコミ団体の反対意見を紹介しました。

以下では、「その2」として、専門家の反対意見や昨年の新聞社説をご紹介します。
ただし、社説については、分量が多いので、分けて紹介します。


4.専門家の反対意見

(1)専門家からも、反対意見が出ています。

まず、憲法研究者の反対意見です。

浦部法穂の憲法時評 「秘密保全法制」

http://www.jicl.jp/urabe/backnumber/20111020.html

(2)次に行政法・情報法の専門家の批判です。
「運用次第で取材に支障」 秘密保全法制で藤原中央大法科大学院教授が講演 マス倫懇研究会 

 マスコミ倫理懇談会全国協議会の第10期第2回「メディアと法」研究会が11月9日、新聞協会会議室で開かれ、秘密保全法制の取材・報道への影響について、政府有識者会議の委員だった中央大法科大学院の藤原静雄教授に話を聞き、意見交換した。次期通常国会での法案提出が見込まれる中、参加者からは、取材活動が「教唆」だとして刑事罰の対象になるのではないかとの懸念が出された。藤原氏は、取材に支障が出るかどうかは法の運用に委ねられる部分が大きく、運用状況をメディアが監視し続けることが重要だと語った。
 尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突事件の映像流出を受け、政府は機密情報の管理強化を表明。「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」(座長=縣公一郎早大教授)が8月にまとめた報告書に基づき、法案作りを進めるとしている。
 報告書によると、保全措置の対象は「国の安全」「外交」「公共の安全と秩序の維持」の3分野。この中から、国の存立に関わる情報を各行政機関が「特別秘密」に指定する。適用範囲は省庁だけでなく、兵器に転用可能な技術開発を担う独立行政法人なども想定。さらに都道府県警察や、行政機関から事業を受託した民間企業や大学が持つ情報も対象に挙げている。
 特別秘密を扱う職員については、配偶者も含めて渡航歴や犯歴、精神疾患での通院歴、薬物・アルコールの影響などを調べ、適性を見極めるべきだとした。
 漏えいした職員には、5年または10年以下の懲役刑を科すよう提言している。自衛隊法の防衛秘密漏えいに対する罰則規定などとのバランスを考慮した結果という。
 特別秘密を業務上扱う職員に加え、捜査で秘密に触れる警察、検察や、予算作成時に秘密を知る財務官僚などが漏えいした場合も処罰すべきだとした。
 正当な取材活動は制限しないものの、情報を得ようと相手をそそのかす「教唆」行為は処罰するとしている。参加者からは「何をもって正当な取材と判断されるのか」(テレビ朝日・青木吾朗報道局次長)「酒を飲みながら話を聞くことが、粘り強い取材と見られるのか、教唆と取られるのか。恣意(しい)的に運用されるのではないか」(読売・丸山伸一論説副委員長)といった懸念の声が相次いだ。
 藤原氏は「取材の自由との関連は、外務省機密漏えい事件の最高裁決定を軸に据えて議論した。取材手法が社会観念上許されるか否かは、最終的には裁判所の判断だ」と述べた。その上で「取材先との付き合いの中で情報を得るのは、正当な取材といえるだろう」との見方を示した。
 参加者の宍戸常寿東大大学院准教授は「取材を受けた公務員が漏えい行為で処罰対象になった場合、報道機関にも捜査が及ぶのではないか」と指摘。藤原氏はこれに対し「個人情報保護法の第三者提供に関しても同種の議論があった。法の運用の問題だろう」と語った。
 法の恣意的解釈に歯止めをかけるには、メディアが運用状況をウオッチし続けることが必要だと強調。秘密保全法制についても、「教唆の処罰規定がある自衛隊法の運用などを検証した上で、声を上げるべきではないか」と述べた。

毎日新聞 2011年12月24日 東京朝刊
(3)そのほか専門家の批判を紹介した記事を紹介します。
秘密保全法案:反対意見続々と 識者に聞く

 政府が来年の通常国会への提出を目指している「秘密保全法案」に、研究者など各団体から反対意見が相次いでいる。外交、防衛、治安の幅広い分野で、国家の安全を揺るがしかねない情報を「特別秘密」とし、公務員らによる漏えいに対し厳罰を科すことで未然に防止しようという狙いだ。一方で、国民の知る権利や取材の自由は大きな制約を受けることになる。何が問題点なのか。識者に意見を聞いた。【臺宏士、日下部聡】

 ◇情報非公開、流れ助長−−現代史家・日本大講師、秦郁彦氏
 政府保有の公文書は国際的慣行に沿って一定の年月(例えば30年)が経過すれば極めて一部の例外を除き原則としてすべてを秘解除して公開する「自動的秘解除」方式を採用するよう私は訴え続けてきた。どんな文書でも担当官が全文に目を通してから秘解除する現行の方式では新たな秘密文書が増加していくスピードに追いつけないからだ。外務省だけは原則として30年経過した外交文書を公開すると宣言しているが、実際には50年以上経過した日ソ、日韓交渉の記録を出していない。
 国立公文書館は「80年原則」を唱えているが、「人手不足」を理由に100年以上前の文書を黒塗りのまま放置している。他省庁では年限さえ決めていないところが多く、問い詰めると1000年前の文書でも申請があれば検討して秘解除することもありうるとの答えにはあぜんとしたことがある。
 情報公開法(01年施行)は、こうした閉塞(へいそく)状況に風穴を開けると期待されたが、抱き合わせで生まれた個人情報保護法(05年施行)によって骨抜きどころか、かえって不自由になってしまった。個人情報の範囲がとめどなく広がり、児童の連絡簿さえ作れなくなる事態を招いている。著名人でも生存や没年を確かめられないので遠からず人名事典の刊行は不可能になりそうだ。
 国立公文書館で開示されたBC級戦犯の裁判記録では、以前は公開されていた被告の人名がアルバイトの手で全部消され(黒塗りされ)ている。館長に会って「せめて館長の判断で消してください」と要望したが、「政府の方針ですから」とにべもなかった。「紫式部や徳川家康でも消させているのか」と聞いたら、「人名はすべてと指示しているからそうなっているかもしれません」との返事だ。それでも外国人の名(多くは被害者)を消していないのは不思議である。
 世界最悪とも言える非常識がまかり通っている現状を改めるには、個人情報を含めた30年経過後の自動的秘解除方式しかない。政府はまず情報公開法、個人情報保護法の欠陥是正に着手すべきで、情報非公開に輪をかける秘密保全法は絶対に反対だ。

 ◇知る権利の保障、先に−−弁護士・田中早苗氏
 今問題になっているのは情報漏えいではなく、情報公開の不十分さだ。
 政府は東京電力福島第1原発事故の直後、放射性物質の飛散に関する情報を隠したため、多くの人が被ばくした。
 秘密保全法制の下では「公共の安全及び秩序の維持」を揺るがすという理由で、こうした情報も秘密に指定されることがあり得る。
 また、最近はクレジットカードやネット書店での購入記録など、プライバシーに関わる多くの情報がコンピューター上に蓄積されており、公安当局の情報収集に利用される可能性がある。名義を勝手に使われるなどして無関係の人が誤って「危険人物」扱いされることもあり得るが、秘密保全法制の下では、そのような情報収集自体が秘密になるため、誰もチェックできなくなる。
 「公共の安全と秩序の維持」が秘密の対象に加えられていることは大きな問題だと思う。
 「適性評価」も基準が曖昧で気味が悪い。日本という同質性の強い国でこれを行うと、家族の思想信条にまで食い込むような息苦しいものになるのではないかと懸念する。
 秘密を管理するのは公務員の中でも幹部や幹部候補だろう。今の人事は、出自や家族がどうであろうと、ある意味では純粋な能力主義によって行われているが、適性評価制度の下では幹部への登用に不透明な裁量が働く可能性がある。日本の公務員制度を変質させる恐れがある。
 政府は秘密保全法制の必要性を説くときに「他国にもあるから」という論理を持ち出すが、歴史の違いを考えるべきだ。
 日本が長らく強力な秘密保護法を持たなかったのは、戦前の体制への回帰を恐れた米国の意向や日本自身の反省があったからだ。政府が例示する欧米諸国の多くは、秘密情報でも50年後には公開が義務づけられるなど、情報公開の原則が確立している。
 日本で求められているのは秘密保全ではなく、先延ばしになっている情報公開法の改正など、国民の知る権利の保障である。(談)

 ◇きっかけは「尖閣ビデオ」流出問題 外交・防衛・治安が対象、罰則も
 秘密保全法案は、沖縄・尖閣諸島沖で中国漁船と海上保安庁の巡視船が衝突した様子を撮影した映像が10年11月にインターネットの動画投稿サイトに流出したことを受けて、仙谷由人官房長官(当時)が制定に意欲を示したことがきっかけだ。
 この時期、警視庁などが作成したとみられる国際テロに関する捜査資料のネット上への流出が重なり、情報保全が政治問題化。同年12月には官房長官をトップとする「政府における情報保全に関する検討委員会」が設けられ、その下の有識者会議で今年1月からたたき台づくりが始まった。
 今年8月、同会議が公表した報告書によると、「国の存立にとって重要な情報」だとして、「特別秘密」の指定対象は▽国の安全(防衛)▽外交▽公共の安全及び秩序の維持−−に関する3分野の機密情報だ。これらの情報は情報公開法でも不開示にできるとして「国民の知る権利を制約しない」としている。
 特別秘密の取り扱いにかかわる公務員らに対して、日本の利益を害する思想の持ち主かどうかや犯罪歴などの「適性評価」を実施し、対象者は配偶者も含めるという。
 罰則の上限は、故意の漏えいについて、自衛隊法に定める防衛秘密漏えいと同じ懲役5年と、MDA(日米相互防衛援助協定)秘密保護法などと同じ同10年とする2案がある。また、特別秘密にかかわらない一般人も社会通念上是認できない手段による情報入手については、「特定取得行為」として処罰を認めた。「たまたま文書を拾った」などの行為は処罰されないが、取材手法によっては含まれる。政府の検討委員会は「法案化作業に当たっては、国民の知る権利や取材の自由等を十分に尊重する」との留意事項を示した。
 民主党内には取材活動であっても規制するよう求める声もあり、メディア規制法と批判を浴びた個人情報保護法同様、「保全」を口実に不祥事や情報隠しに悪用するという落とし穴を法案に潜ませる懸念は大きい。
 それでは、報告書が参考とした防衛秘密制度は、どう運用されているのか。
 05年、南シナ海で中国海軍の潜水艦が火災事故を起こしたことを読売新聞が報じた。これに対して、陸上自衛隊警務隊は防衛省情報本部の1等空佐を防衛秘密漏えいで東京地検に書類送検(起訴猶予)。同省は懲戒免職処分にした。当時、識者らからは、付近の民間船舶の安全航行上、率先して公表すべき情報で、秘密には当たらない、との批判が出た。
 検討委員会事務局の内閣情報調査室が作成したリストにある8件の主要な漏えい事件のうち起訴は2件。MDA秘密保護法違反で起訴された元3等海佐の懲役2年6月(執行猶予)が最も重い確定判決だ。また、不起訴(起訴猶予)は4件と半分を占める。現行法による抑止が十分働いているとも言えるほか、リストには立法化して保護する必要性に疑問が残る「尖閣ビデオ」も含まれている。


5.新聞社説(その1)
(10月8日付・読売社説) (2011年10月8日)
秘密保全法制 「取材の自由」の制約が心配だ

政府は、国の存立にかかわる重要情報を「特別秘密」に指定し、漏洩(ろうえい)させた国家公務員らに厳罰を科す「秘密保全」法制化の作業に着手した。
次期通常国会に、新法として法案提出をめざすという。
もとより国家の秘密情報は厳重に管理しなければならない。一方で、秘密指定の範囲や処罰対象を広げすぎると、国家による情報統制の恐れが出てくる。
国民の知る権利や報道機関の取材の自由にも配慮した、慎重な議論が求められよう。
日本では、外国情報機関などが関与した情報漏洩事件がたびたび起きている。最近では尖閣ビデオや、警視庁の国際テロ情報の流出など、政府の内部情報がネット上に漏れ出て短時間で拡散するケースも相次いでいる。
これほど重要情報の管理がずさんでは、日本の国際的信用は失墜し、防衛、テロ関連などの情報共有にも支障が出かねない。
政府の「情報保全に関する検討委員会」の下、有識者会議がまとめた報告書によると、特別秘密の対象とするのは、「国の安全」「外交」「公共の安全と秩序維持」の3分野の情報だ。
新法の別表に具体的事項を列挙しておき、これに該当する情報を、所管大臣が個別に特別秘密として指定するという。
特別秘密を管理する公務員、委託業者らは、事前に行政機関の長による適性評価を受ける。秘密保全の実効性を高めるため、人的管理を徹底するのが狙いだ。
問題は、対象3分野の範囲と、どういう情報が秘密指定対象になるのかが、あいまいなことだ。
「国家のあらゆる情報を秘密指定して、国民に必要な情報まで隠そうとしている」という批判も出ている。秘密指定を限定的にし、かつ明確化することが肝要だ。
厳罰化の影響も懸念される。国家公務員法の守秘義務違反の懲役は「1年以下」だが、特別秘密の漏洩には「5年以下」や「10年以下」の適用が検討されている。
厳罰を恐れ、公務員らが報道機関の取材に応じなくなるのではないか。処罰規定が恣意(しい)的に運用されて、報道機関の通常の取材までが漏洩の「そそのかし」「教唆」などに問われる事態は生じないか。なお疑念が残る。
取材の自由の制約は、国民の知る権利の侵害につながる。
今後、関係省庁間の協議や与党との調整などが行われる。取材の自由について、明文規定を盛り込むことも検討されるべきだ。

日経新聞 (2011/10/8)
新たな「秘密保全法」への危惧

 国防や外交にからむ機密情報の漏洩を防ぐため、政府が新しい法律をつくろうとしている。国民の知る権利を侵すことにならないか、危惧を持たざるを得ない。
 法案づくりは、有識者会議(座長・県公一郎早大教授)が8月にまとめた報告をベースに進め、次の通常国会への提出を目指している。
 報告によれば、国防、外交、治安の3分野を対象に国の存立にかかわる秘密情報を「特別秘密」に指定し、漏洩した場合には5年または10年以下の懲役刑や罰金刑を科す。特別秘密を扱う職員を少数に限定し、配偶者も含めて犯歴や薬物・アルコールの影響などを調べ、適性をチェックすることも提言した。
 最高機密に接する職員の管理を徹底し、これまでより重い罰則を設けることで漏洩抑止効果にも期待する――これが新しい法律の考え方だ。
 政府が新法の検討を始めたのは、昨年、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件のビデオがインターネット上に流出したことがきっかけだった。
 報告が言うように、どんな機密情報もいったん流出すればまたたく間に世界規模で広がる時代だ。そうした事態になれば、情報を共有する諸外国との関係が損なわれ、国益、国の安全に悪い影響がある。悪質な漏洩を防ぐ仕組みづくりは国にとって大切なことである。
 それでも新法への懸念は拭えない。問題はまず、何を特別秘密とするかだ。政府は対象をなるべく限られたものにし、法律によって範囲をできる限り分かりやすくするという。しかし、内閣や外務省、警察庁など各機関に対象を指定する権限がある以上、特別秘密の範囲が恣意的に広がる可能性は否定できない。
 また、管理強化や厳罰化が特別秘密を扱う職員だけでなく全職員を萎縮させ、隠すべきでない情報の公開にも消極的になることが心配だ。
 さらに、報告は独立行政法人や民間企業、大学も場合によっては法律の適用対象になるとしている。自由な研究、情報交換を無用に妨げる恐れはないのだろうか。
 政府は「国民の知る権利や取材の自由を十分に尊重する」としている。それが空念仏にならないよう、法案の中身を精査する必要がある。

高知新聞社説2011年10月09日08時24分
【秘密保全法制】知る権利は守られるのか

 政府は、国の存立に関わる情報を「特別秘密」と指定し、漏えいに対する厳罰化を盛り込んだ新たな法律をつくることを明らかにした。
 来年の通常国会に法案を提出するというが、安易な情報統制によって国民の「知る権利」が侵されたり、報道の自由が制約される―そんな懸念が拭えない。
 政府の情報は本来、国民が共有すべき財産であり、可能な限り公開していくべきだと私たちはこの欄で主張してきた。懸念が現実とならないよう、慎重かつ開かれた議論が求められる。
 厳罰化は、昨年発生した中国漁船衝突の映像流出事件を受け、政府が設置した有識者会議が8月にまとめた報告書で提言していた。
 現行の国家公務員法が「1年以下の懲役」と規定する漏えいの罰則を、「防止の実効性に欠ける」として「懲役5〜10年以下」とする。対象者は公務員のほか、政府の発注を請け負った民間企業関係者らにも広げられる見込みだ。これについても現場が萎縮し、情報交換や取材に消極的になるといったマイナスの影響が否定できない。
 議論のきっかけとなった映像流出事件では、映像が海上保安庁のネットワーク内で一時、広範囲に閲覧可能だったことなど、情報管理のずさんさも問題視された。
 厳罰化を進める一方で、何が秘密情報に当たり、それをどう管理し、情報公開を進めていくか。そうした国の基本姿勢は明確になっていないことも疑問だ。
 今後、法制化の議論で最も重要な論点となるのは特別秘密の範囲だろう。報告書は、外交や安全保障、治安など国の存立に関わる分野と位置付けているが、必要以上に広げられることがないようにしなければならない。
 報告書は、報道機関の正当な取材活動は処罰の対象外としている。だが、取材の「正当性」を国が恣意(しい)的に判断する余地は残されている。
 政府も「知る権利や取材の自由を十分尊重する」とし、特別秘密の対象や処罰の範囲を限定する考えを示してはいる。その方向は当然として、結果的に情報公開に後ろ向きになるようなら、国民は到底受け入れられない。
 今後、関係省庁などと議論を進める中で、国民の利益が脅かされることがないよう、厳しくチェックしていく必要がある。

信濃毎日/2011/10/11 18:17
社説 秘密保全法 「知る権利」は大丈夫か 10月10日(月)
 
次の通常国会に「秘密保全法案」(仮称)を提出する方針を政府が決めた。国民の「知る権利」を制約しかねない危険をはらんでいる。前のめりの法制化には賛成できない。
 尖閣諸島付近で昨年起きた中国漁船の衝突事件がきっかけだ。記録映像が現職海上保安官の手によってネット上に流出、情報管理のあり方が問われた。
 安全にかかわる情報が簡単に漏れるようでは問題だ。米国との協力や近隣諸国との安全保障対話にも支障がでかねない。管理態勢の見直しは必要である。
 だからといって、一足飛びに秘密保全法の制定に進むのがいいか、疑問が残る。
 法制化は有識者会議がさきごろまとめた報告書をもとに進める。(1)防衛など「国の安全」(2)外交(3)公共の安全・秩序の維持—の3分野で、「国の存立に重要な情報」を新たに「特別秘密」に指定。公務員が故意に漏らしたときの罰則を強化する方向だ。特別秘密を扱うことができる人物を調査、管理する適性評価制度も設ける。
 適性評価制度をつくるのはいいとして、一番の問題は何を秘密とするかあいまいなことだ。
 これまでの議論では、各省ごとに大臣が特別秘密とするかどうかを判断する方向だ。これでは、国民に知られて困る情報を各省が勝手に隠す心配が残る。
 報告書には、報道機関の「正当な取材活動」は処罰の対象外とすることがうたわれている。どんな取材活動が「正当」か、政府が判断するようでは報道の自由は成り立たない。
 有識者会議の報告をベースにする法制化は容認できない。
 秘密とは何だろう。元毎日新聞記者が逮捕・起訴された外務省機密漏えい事件で、最高裁は1978年に判断を示している。
 「秘密とは、非公知の事実であって、実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるものをいい、その判定は司法判断に服する」
 役所が指定するだけでは秘密にはならない。裁判所の厳密な判断が要る、というのだ。
 漁船衝突事件から今度の法制化に至る経過を見ていると、秘密保全の法制化がはらむ問題の重大さを政府がどこまで分かっているか、心配になってくる。
 いま必要なのは情報管理の適正化であり、規制強化ではない。職員の意識改革や適性チェック、漏出防止技術のレベルアップなど、やるべきことはたくさんある。

茨城新聞/2011/10/12 11:08
社説 秘密保全法制 知る権利を守るには

 政府の「情報保全に関する検討委員会」は、秘密保全のための法案を来年の通常国会に提出する方針を決めた。既に有識者会議が秘密保全法制の在り方について報告書をまとめており、これを踏まえ、行政機関の「特別秘密」の新設をはじめ漏えいの罰則強化や秘密を扱う公務員の「適正評価制度」導入などを柱に法案化の作業を進める。
 尖閣諸島付近で起きた中国漁船衝突の映像流出事件や警視庁の国際テロ捜査文書流出事件をきっかけに秘密保全法制整備の必要性が叫ばれ、昨年12月に官房長官を委員長とする検討委員会が発足。有識者会議で今年1月から秘密の範囲や管理の方法、罰則などについて検討が重ねられ、8月に報告書が提出された。
 政府は法案化の作業に当たりインターネットなどを通じ一般から意見を募るとし、国民の「知る権利」と取材の自由を害することはないと強調する。だが現在、それを担保するだけの情報公開の仕組みは整っていない。行政機関が何のチェックも受けずに秘密を“量産”し抱え込んでしまうことにもなりかねない。外交や防衛などの分野で秘密が必要なのは理解できる。ただ秘密指定は最小限にとどめ、一定期間が過ぎれば公開するのが大前提だ。法案に指定解除の手続きをきちんと盛り込むのはもちろん、先の通常国会で継続審議になった情報公開法改正案についても、秘密保全への歯止めとする観点から見直しを求めたい。
 有識者会議の報告書にある秘密保全法制の“設計図”によれば、行政機関は秘密情報の中でも漏えいなどによって「国の安全や外交、公共の安全と秩序の維持」に重大な影響を及ぼすものを「特別秘密」に指定。取り扱う職員について私生活や外国への渡航歴、懲戒処分歴などを調査する「適正評価」を行う。配偶者も調査の対象になる。
 過失による漏えいも罰せられる。罰則は2001年の自衛隊法改正で新設された「防衛秘密」を参考に懲役5年以下を目安の一つにしているが、日米相互防衛援助協定の秘密保護法にある「特別防衛秘密」の懲役10年以下にすることも考えられるという。政府の発注を受けた民間企業などの関係者らにも適用されることになる。
 防衛秘密も特別秘密に取り込み、外交や防衛、治安にかかわる情報の漏えいを根元から絶つのが狙いとしている。だが秘密指定を行うのは行政機関であり、それが罰則で守るに値するかどうか誰も確かめようがない。
 民主党は「行政の透明化」を掲げて、情報公開制度の見直しに取り組んだ。当初の見直し案で最も注目を集めたのは、情報公開請求に行政機関が不開示などを決定し、その是非が訴訟で争われた場合に裁判官が非公開の場でじかに文書に目を通し判断する「インカメラ審理」の導入だった。
 ところが法案化作業の過程で外務、防衛両省や警察庁が反発。情報公開法改正案では「国の防衛や外交、公共の安全と秩序の維持」に重大な支障を及ぼす場合は裁判所への文書提出を拒否できることになった。新法の特別秘密はこの「例外」にぴったり当てはまる。開示も不開示も行政機関の思うままになったのでは、知る権利が大きな制約を受けることは避けられない。改正案の審議では、その点を肝に銘じてもらいたい。

岐阜新聞2011年10月12日(水)
社説 国民の「知る権利」保護を  秘密保全法制

 政府の「情報保全に関する検討委員会」は、秘密保全のための法案を来年の通常国会に提出する方針を決めた。既に有識者会議が秘密保全法制の在り方について報告書をまとめており、これを踏まえ、行政機関の「特別秘密」の新設をはじめ漏えいの罰則強化や秘密を扱う公務員の「適正評価制度」導入などを柱に法案化の作業を進める。
 尖閣諸島付近で起きた中国漁船衝突の映像流出事件や警視庁の国際テロ捜査文書流出事件をきっかけに秘密保全法制整備の必要性が叫ばれ、昨年12月に官房長官を委員長とする検討委員会が発足。有識者会議で今年1月から秘密の範囲や管理の方法、罰則などについて検討が重ねられ、8月に報告書が提出された。
 政府は法案化の作業に当たりインターネットなどを通じ一般から意見を募るとし、国民の「知る権利」と取材の自由を害することはないと強調する。だが現在、それを担保するだけの情報公開の仕組みは整っていない。行政機関が何のチェックも受けずに秘密を“量産”し抱え込んでしまうことにもなりかねない。
 外交や防衛などの分野で秘密が必要なのは理解できる。ただ秘密指定は最小限にとどめ、一定期間が過ぎれば公開するのが大前提だ。法案に指定解除の手続きをきちんと盛り込むのはもちろん、先の通常国会で継続審議になった情報公開法改正案についても、秘密保全への歯止めとする観点から見直しを求めたい。
 有識者会議の報告書にある秘密保全法制の“設計図”によれば、行政機関は秘密情報の中でも漏えいなどによって「国の安全や外交、公共の安全と秩序の維持」に重大な影響を及ぼすものを「特別秘密」に指定。取り扱う職員について私生活や外国への渡航歴、懲戒処分歴などを調査する「適正評価」を行う。配偶者も調査の対象になる。
 過失による漏えいも罰せられる。罰則は2001年の自衛隊法改正で新設された「防衛秘密」を参考に懲役5年以下を目安の一つにしているが、日米相互防衛援助協定の秘密保護法にある「特別防衛秘密」の懲役10年以下にすることも考えられるという。政府の発注を受けた民間企業などの関係者らにも適用されることになる。
 防衛秘密も特別秘密に取り込み、外交や防衛、治安にかかわる情報の漏えいを根元から絶つのが狙いとしている。だが秘密指定を行うのは行政機関であり、それが罰則で守るに値するかどうか誰も確かめようがない。
 民主党は「行政の透明化」を掲げて、情報公開制度の見直しに取り組んだ。当初の見直し案で最も注目を集めたのは、情報公開請求に行政機関が不開示などを決定し、その是非が訴訟で争われた場合に裁判官が非公開の場でじかに文書に目を通し判断する「インカメラ審理」の導入だった。
 ところが法案化作業の過程で外務、防衛両省や警察庁が反発。情報公開法改正案では「国の防衛や外交、公共の安全と秩序の維持」に重大な支障を及ぼす場合は裁判所への文書提出を拒否できることになった。
 新法の特別秘密はこの「例外」にぴったり当てはまる。開示も不開示も行政機関の思うままになったのでは、知る権利が大きな制約を受けることは避けられない。改正案の審議では、その点を肝に銘じてもらいたい。

山陽中央新報('11/10/12)
論説 : 秘密保全法制/知る権利守る仕組みが必要

 政府の「情報保全に関する検討委員会」は、秘密保全のための法案を来年の通常国会に提出する方針を決めた。既に有識者会議が秘密保全法制の在り方について報告書をまとめており、これを踏まえ、行政機関の「特別秘密」新設をはじめ漏えいの罰則強化や秘密を扱う公務員の「適正評価制度」導入などを柱に法案化作業を進める。
 中国漁船衝突の映像流出事件や警視庁の国際テロ捜査文書流出事件をきっかけに秘密保全法制整備の必要性が叫ばれ、昨年12月に官房長官を委員長とする検討委員会が発足。有識者会議で今年1月から秘密の範囲や管理の方法、罰則などについて検討が重ねられ、8月に報告書が提出された。
 政府は法案化の作業に当たりインターネットなどを通じ一般から意見を募るとし、国民の「知る権利」と取材の自由を害することはないと強調する。だが現在、それを担保するだけの情報公開の仕組みは整っていない。行政機関が何のチェックも受けず秘密を”量産”し抱え込むことにならないか。
 外交や防衛などの分野で秘密が必要なのは理解できる。ただ秘密指定は最小限にとどめ、一定期間が過ぎれば公開するのが大前提だ。法案に指定解除の手続きをきちんと盛り込むのはもちろん、先の通常国会で継続審議になった情報公開法改正案についても、秘密保全への歯止めとする観点から見直しを求めたい。
 有識者会議の報告書によれば、行政機関は秘密情報の中でも漏えいなどによって「国の安全や外交、公共の安全と秩序の維持」に重大な影響を及ぼすものを「特別秘密」に指定。取り扱う職員について私生活や外国への渡航歴、懲戒処分歴などを調査する「適正評価」を行う。配偶者も調査の対象になる。
 過失による漏えいも罰せられる。罰則は2001年の自衛隊法改正で新設された「防衛秘密」を参考に懲役5年以下を目安の一つにしているが、日米相互防衛援助協定の秘密保護法にある「特別防衛秘密」の懲役10年以下にすることも考えられるという。政府の発注を受けた民間企業などの関係者らにも適用されることになる。
 防衛秘密も特別秘密に取り込み、外交や防衛、治安にかかわる情報の漏えいを根元から絶つのが狙いとしている。だが秘密指定を行うのは行政機関であり、それが罰則で守るに値するかどうか誰も確かめようがない。
 民主党は「行政の透明化」を掲げて、情報公開制度の見直しに取り組んだ。当初の見直し案で最も注目を集めたのは、情報公開請求に行政機関が不開示などを決定し、その是非が訴訟で争われた場合に裁判官が非公開の場でじかに文書に目を通し判断する「インカメラ審理」の導入だった。
 だが法案化過程で外務、防衛両省や警察庁が反発。情報公開法改正案では「国の防衛や外交、公共の安全と秩序の維持」に重大な支障を及ぼす場合は裁判所への文書提出を拒否できることになった。
 新法の特別秘密はこの「例外」にぴったり当てはまる。開示も不開示も行政機関の思うままになったのでは、知る権利が大きな制約を受けることは避けられない。改正案の審議では、その点を肝に銘じてもらいたい。

朝日新聞 2011年10月12日(水)付
社説 秘密保全法制―「知る権利」守れるのか

 政府が機密情報の管理を強化する法案をつくり始めた。来年の通常国会に提出するという。
 ウィキリークスによる米国の外交公電の暴露に象徴されるように、ひとたび情報が流出すれば、瞬時に世界を駆けめぐる。政府が情報管理に万全を期すのは、あたり前のことだ。
 しかしながら、私たちは新しい法案が大きな副作用をもたらすことを心配する。
 たとえば、国民に知られては都合の悪い情報を、政府が隠す手段に使わないか。公務員の情報公開に対する姿勢を萎縮させてしまわないか。運用しだいで、国民の知る権利も、取材・報道の自由も侵しかねないことは明らかだ。
 法案の下敷きは、尖閣諸島沖の中国漁船ビデオの流出事件を機に、政府が設けた有識者会議が8月にまとめた報告書だ。
 それによると、国の安全、外交、治安の3分野で、国の存立に関わる重要情報を、担当大臣らが「特別秘密」に指定する。
 特別秘密を扱えるのは、配偶者を含めて、犯罪歴や薬物の影響などを調べあげた上で、秘密を守れると認めた人物に限る。
 国家公務員法の守秘義務違反の懲役は1年以下だが、特別秘密を漏らした場合は、5年か10年以下に強化する。
 だが、そもそも「特別秘密」とは何か。その範囲が恣意(しい)的に広がらないか。公務員のプライバシーへの配慮は十分なのか。漏洩(ろうえい)をそそのかした者も罰することで、正当な取材活動が罪に問われないか……。
 現時点では、詰めなければいけない点があまりも多い。
 すでに防衛分野だけは、01年の自衛隊法改正で、特に重要な秘密を「防衛秘密」にして、漏らしたときの罰則を強化している。新聞記者に防衛秘密に当たる情報を提供した航空自衛隊幹部が懲戒免職になった事例もある。こうした運用の是非を、まず検証してみてはどうか。
 国際テロ対策など、諸外国との情報共有が必要な場面が増えたことが、法案づくりの背景にあることは理解する。
 だが、政府が新法を制定したいのならば、もっと本気で情報公開を進めることが不可欠だ。
 まずは、国会でたなざらしにされている情報公開法改正案を早急に成立させるべきだ。知る権利の保障を明記し、情報開示をさらに進める内容に異論はないはずだ。さらに、懸案の官房機密費の将来の公開にも道筋をつけてほしい。
 こうした情報公開を進化させる手立てを講じてから、管理強化の法案を検討すべきだ。


(つづく)