先日から、秘密保全法制定に反対する種々の意見書等を紹介しています。

その1」では、法律家団体の反対意見やマスコミ団体の反対意見を紹介しました。

「その2」では、専門家の反対意見や昨年の新聞社説をご紹介しました。
その際、新聞社説については分量が多いので、全てを紹介できませんでした。

そこで、以下では、「その2」で紹介しきれなかった新聞社説全てを紹介します(漏れがあるかもしれません)。


6.新聞社説(その2)

北海道新聞/2011/10/13 11:06
秘密保全法制 「知る権利」は大丈夫か

 政府は国の秘密情報の管理を徹底し、漏えいさせた国家公務員らに厳罰を科す法案を来年の通常国会に提出したい考えだ。
 防衛や外交に関する重要な情報を「特別秘密」に指定。ネット上などに流出して世界へ広がることがないようにする。
 背景には情報管理が不十分な日本政府とは秘密情報を共有しづらいとの各国政府の懸念があるという。
 しかし秘密の範囲を広げたり管理を厳しくすることで国民の知る権利を制限するおそれがある。
 既に国家公務員法や自衛隊法などが守秘義務を課している。現行法で不十分なのかも不透明で、慎重に進めるべきだ。
 法整備のきっかけは、沖縄県・尖閣諸島沖で昨年起きた中国漁船衝突の映像がネットに流出した事件だった。当時の仙谷由人官房長官は「罰則が軽く抑止力が必ずしも十分でない」と厳罰化する考えを示した。
 これを受け有識者会議が今年8月に報告書をまとめた。
 報告書は特別秘密の対象を防衛、外交、公共の安全・秩序維持に関する重要な秘密情報と規定。特別秘密を取り扱う者には居住歴や犯歴、薬物・アルコール依存がないかなどを調べる適性評価を実施するとした。
 国家公務員法が懲役1年以下としている守秘義務違反の罰則を同10年以下と重くすることも検討する。
 問題は知る権利との関係だ。
 特別秘密の指定範囲を広く取れば情報公開が制限される。厳罰化することで公務員が萎縮し、取材に対する制約が強まれば「報道の自由」を侵しかねない。
 また、独立行政法人や民間企業、大学が持つ情報も特別秘密の対象に含める方向だ。自由な研究活動を妨げる不安も生じる。
 報告書は法整備が知る権利を害さないと強調しつつ「運用を誤れば国民の重要な権利利益を侵害するおそれ」を指摘。「国民において運用を注視していくことが求められる」と行き過ぎを監視するよう促す。
 そうまでして新たな法制が必要なのか。慎重な検討が必要だ。
 きっかけとなった漁船衝突のビデオ映像には流出以前から公開すべきだという声があった。特別秘密に当たると言えるのか疑問だ。
 流出させた海上保安官は国家公務員法違反容疑で書類送検され起訴猶予となった。ネットへの漏えいは現行法で対処できないわけではない。
 民主党は情報公開推進を党是としてきたが政権交代後は後ろ向きだ。
 内閣官房報償費(機密費)の使途は未公開だし、情報公開法の改正も足踏みしている。秘密保全法制より先にやるべきことがある。

京都新聞/2011/10/13 11:08
社説 秘密保全法  「知る権利」制限が怖い

 国防や外交など国の機密情報の流出を防ぐため、政府が新しい法律づくりに乗り出した。公開されると都合の悪い情報をむやみに秘密扱いとし、自由な報道を通した国民の知る権利を制限することはないか。情報統制の手段であってはならない、とまず指摘したい。
 新法は、特に秘匿性の高い情報を「特別秘密」に指定し、漏らした国家公務員や受注した民間企業関係者に現行より厳しい罰則を加えることが骨子となる。年明けの次期通常国会に提案を目指す。
 国には秘密にすべき情報があることは否定しない。秘密情報は、厳格に管理されるべきだ。ネット社会の進展により、重要情報がいったん流出すると瞬時に世界中へ拡散する現状にある。機密情報が簡単に外部に流れ出るようでは、安全保障や対テロ情報の共有が困難になり、国際的な信用を失う結果となる。
 現実には、情報漏えい事件は過去、数多く起きている。海上自衛隊員が本来は入手できないイージス艦の中枢システム情報を自宅に隠し持っていた事件や警視庁の国際テロ対策に関する資料がインターネット上に流出したことは記憶に新しい。政府が新法の検討を始めたのは、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件の動画が、海上保安庁の巡視船乗組員の手で投稿された事件が直接の契機になっている。
 法制化をにらんで、政府の「情報保全に関する検討委員会」(委員長・藤村修官房長官)が置いた有識者会議は8月に報告書をまとめている。これによると、特別秘密となるのは、「国の存立にとって重要なもののみ」とし、国の安全、外交、公共の安全と秩序維持の3分野を対象とする。所管大臣が該当する個別情報を特別秘密に指定するという。
 秘密にする必要がなくなった特別秘密は迅速に指定を解除するのは当然だ。また、開示すべき情報を政府が国民に明らかにする「情報公開」も加速すべきだろう。
 「罰則を設けることにより、特別秘密を取り扱う者に緊張感を与え、保全意識をより高める」のが重罰化の狙いという。現在の国家公務員法の守秘義務違反は「懲役1年以下または50万円以下の罰金」だが、報告書は5年か10年以下の懲役を想定している。これは、自衛隊法の定める防衛秘密の漏えいや日米相互防衛援助協定に基づき米政府から提供された装備品に関する情報漏えいの罪に相当する。
 法の適用を恐れ、公務員が報道機関からの取材を回避したり、これまでの取材手法を漏えいの教唆やそそのかしの罪に問うことはないのか。特別秘密の範囲がなし崩し的に拡大する懸念はないのか。法律の勝手な運用への歯止めを明文化してもらいたい。

熊本日日新聞/2011/10/13 16:57
秘密保全法制 「知る権利」が侵されないか

 官房長官をトップとする政府の「情報保全に関する検討委員会」が、外交・安全保障や治安に関する「特別秘密」の新設を定める秘密保全法案の策定を決めた。情報漏えいに対する厳罰化なども盛り込み、来年の通常国会に提出する方針だ。
 尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突の映像流出や、警視庁の国際テロ捜査文書流出を機に秘密保全法制の整備が叫ばれ、検討委は昨年12月から秘密の範囲や管理の在り方、罰則などについて議論を重ねてきた。
 政府が外交、防衛などの分野で、公表されればさまざまな不利益が生じかねない高度の機密を取り扱っていることは十分に理解できる。情報管理体制の充実は必要だろう。
 だが、この種の法制化で最も懸念されるのは、国民の知る権利や報道の自由が、目に見えないところで侵されることだ。秘密保全や情報保全の名の下、本来なら公開すべき情報や、単に政権にとって都合の悪い情報が隠蔽[いんぺい]される恐れがある。
 政府は法案化に当たり、知る権利や報道の自由を妨げることはないと強調しているが、そのためには秘密志向が行き過ぎないよう歯止めをかける仕組みが不可欠だ。情報管理と情報公開、二つの体制整備は常に、表裏一体でなければならない。
 政府検討委の下部組織である「秘密保全に関する法制の在り方に関する有識者会議」(座長・縣公一郎早稲田大政治経済学術院教授)が8月にまとめた報告書は、国の存立に関わる重要情報に限って、厳格な保全の対象とする新法制を容認した。
 また、罰則では最高刑を懲役10年とする案を示したほか、秘密に関与する者は配偶者も含め身辺を調べる「適性評価」の実施にも言及。一方で報告書は、新法制が「国民の知る権利との関係で問題になるものではない」としながらも、運用を誤れば「国民の重要な権利利益を侵害する恐れ」があるとも指摘した。
 ここで想起したいのは、秘密保全法制の機運を高めた映像流出の経緯である。昨年9月の中国漁船衝突事件を受け、11月に「sengoku38」を名乗る現職海上保安官が、衝突映像をネット上に投稿。同保安官は停職処分を受け退職、国家公務員法違反容疑では起訴猶予となった。
 当時の仙谷由人官房長官は有識者会議で、警視庁の文書流出と併せ、「事態は極めて深刻」と危機感を表明した。公務員倫理に欠ける情報流出が許されないのは当然だが、この問題では政府自ら映像を公開すべきだったとの指摘もある。逮捕された中国人船長の釈放をめぐっても、不透明な政府説明に批判が集まった。
 政治判断に基づく政府の情報秘匿はあり得ることで、否定はできない。半面、誤った情報や、事実と異なる説明による世論のミスリードは、政府と国民の信託を根本から裏切る点で、前者とは次元の異なる背信行為であることを銘記したい。政権交代後の調査で明るみに出た外務省の沖縄密約が典型である。
 秘密保全法制への疑念は、情報を握る政府への信頼が担保されていないことにつきよう。政府はまず、過去の密約や失政の再検証を徹底して行い、自らの情報管理の在り方や原則を国民に公開すべきである。

南日本新聞(2011年 10/13 付 )
社説 [秘密保全法制] 「知る権利」は守らねば

 政府の「情報保全に関する検討委員会」は、秘密保全のための法案を来年の通常国会に提出する方針を決めた。外交や安全保障、治安など国の存立に関わる情報を「特別秘密」と位置付け、漏えいに対する厳罰化などが盛り込まれる。
 法整備の背景には、尖閣諸島付近で昨年発生した中国漁船衝突の映像流出事件や、警視庁の国際テロ捜査文書流出事件がある。現行の国家公務員法は情報漏えいの罰則を「1年以下の懲役」と規定しているが、「漏えい防止の実効性に欠ける」との声は自民党政権時代からあった。
 外交や防衛などの分野で秘密が必要なのは理解できる。だが、国による情報統制の強化には、国民の知る権利や報道の自由を損なう懸念がつきまとう。法制化の論議には、慎重を期さなければならない。
 検討委員会は昨年12月、官房長官を委員長として設置された。下部組織として今年1月に有識者会議を発足させ、秘密の範囲や管理の方法、罰則などについて検討してきた。
 法案は有識者会議が8月にまとめた報告書を基に、罰則を懲役5〜10年以下で調整する。対象者には公務員のほか、政府の発注を請け負った民間企業関係者らも含む方向だ。職員の私生活や外国渡航歴を調査して秘密を扱えるかどうかを判定する「適正評価制度」の導入も検討する。
 法案化に当たっては、特別秘密の対象を限定し、明確化することが欠かせない。また、秘匿する必要がなくなった特別秘密の指定解除手続きも明記しておく必要がある。
 政府は国民の「知る権利」を害することはないと強調し、報道機関の正当な取材活動は処罰の対象外とするという。だが、取材の「正当性」はだれがどんな基準で判断するのか。国が恣意(しい)的に判断する余地が残るならば、報道の自由が侵害される可能性がある。
 国民の知る権利を担保する情報公開の仕組みが整っていないことも問題だ。このままでは行政機関が何のチェックも受けずに秘密を量産し、抱え込んでしまうことにもなりかねない。情報公開法改正案は先の通常国会で継続審議になったが、秘密保全の歯止めとする意味で見直しを求めたい。
 民主党は政権獲得前から「行政の透明化」を掲げ、情報の開示・非開示の判断で行政の裁量を狭めるよう訴えてきた。改正案の審議では、この姿勢を堅持すべきである。

神戸新聞社説(2011/10/14 10:08)
秘密保全法案 知る権利を損なわないか 

 憲法で保障された「国民の知る権利」を損ないかねない。そんな懸念を抱かせる法案づくりが進んでいる。
 外交や安全保障、治安の分野で国の存立に関わる情報を「特別秘密」と位置づけ、その情報管理を強化する。同時に、故意に漏えいした公務員に対する罰則を厳しくする。そんな内容だ。
 昨年、沖縄・尖閣諸島周辺で起きた中国漁船衝突の映像が海上保安官によってインターネットの動画サイトに流出した。事件を受け、8月に政府の有識者会議が情報保全強化に向けて新法策定を求める報告書をまとめた。それを基に、政府の検討委員会が来年の通常国会に法案を提出する方針を決定した。
 内部告発サイト「ウィキリークス」が米国の外交公電を入手、暴露するなど情報の流出は世界規模で広がる。国際テロ情報も飛び交う中、外国との間で情報共有するには法整備が不可欠とする。
 確かに情報管理は徹底すべきだ。しかし、国の都合で何でも機密扱いにしてよいはずはない。今の案では、そうした疑問が消えない。
 情報のどこまでを特別秘密として保全対象とするのか。その辺りをあいまいに済ませてはならない。秘密の範囲をどう定義し、指定するかも問題となる。
 有識者会議の報告によると、特別秘密として指定するのは外務省や警察など情報を作成、入手した行政機関としている。恣意(しい)的な運用が行われないか、十分に注視する必要があるだろう。
 また、特別秘密の管理責任を明確化するため、法案では諸外国の先進例に倣い、情報を取り扱う者が適性かどうか評価するとしている。そうした外国の制度を参考にするのは理解できるが、導入にあたっては日本の実情に沿ったものになるよう十分考慮しなければならない。
 法案は政府が保有する情報の漏えい防止を基本とする。だが情報によっては、国から事業委託を受けた民間事業者や大学も適用対象になるという。経済活動や学問の自由への国による干渉につながらないか、という問題も残る。
 罰則についても厳罰化の方針だが、それに伴い懸念されるのは、公務員らが萎縮し、本来隠すべきでない情報まで隠しかねないことだ。行き過ぎた情報管理は情報統制につながる恐れがある。
 国民の知る権利や報道の自由は、健全な民主主義の根幹を支える極めて重要な権利であることを忘れてはならない。
 公文書は国民共有の知的資源という原則に沿い、内容を見直すべきだ。

東京新聞2011年10月14日
【社説】秘密保全法制 「知る権利」を侵すな

 政府が進める秘密保全法制は、外交などの秘密をさらに厳重な国家管理下に置くものだ。国民の「知る権利」を侵しかねない法律制定に強い懸念を持つ。
 秘密保全法制が射程に入れているのは(1)国の安全(2)外交(3)公共の安全および秩序の維持−の三分野である。
 行政機関が所有する秘密情報の中でも、重要なものを新たに「特別秘密」と規定して、保全措置の対象とする。故意に漏えいした場合は、懲役五年以下か、十年以下の厳罰を科すという。

◆あいまいな特別秘密
 国家公務員ばかりでなく、事業委託を受けた独立行政法人や民間事業者までも適用対象となる内容だ。政府は次期通常国会に提案する方針である。
 まず問題なのは、特別秘密とは何か判然としていないことである。政府の有識者会議の報告書では「事項を別表などで具体的に列挙する」としている。
 ただし、秘密の指定はそれぞれの行政機関が権限を握る。これでは行政の恣意(しい)が働く恐れがある。政府・行政にとって、不都合な情報は意図的に特別秘密と指定することができよう。
 報告書では特別秘密について、形式的な秘密ではなく、保護するに値する実質的な秘密であることを要件としている。しかし、「実質秘」だと判断するのも、行政機関に任されているから、結果的に不都合な情報は覆い隠される。
 そもそも、この法制は昨年、尖閣諸島沖で起きた中国漁船と海上保安庁の巡視船の衝突事件をきっかけに着手された。海上保安官が衝突ビデオの映像をインターネット上で流したことが、政府の逆鱗(げきりん)に触れたのだ。
 国家公務員法の守秘義務違反に当たるとこぶしを振り上げてみたものの、検察側は刑事責任を問うのは困難だとして起訴猶予処分の判断をした。

◆情報公開の改良こそ
 このため、当時の仙谷由人官房長官が「抑止力が十分でない」と発言し、有識者会議を立ち上げたのが経緯である。つまり、政府にとって尖閣ビデオ問題は、外交上の不都合な情報を隠したかったからに他ならない。
 衝突映像を多くの国民はネットやテレビで目の当たりにした。こうした情報をも特別秘密として、政府が秘匿し続ける可能性があるのだ。まさに情報統制そのものではないか。
 むろん公務員は萎縮するに違いない。守秘義務違反なら一年以下の懲役などの定めがあるが、これが大幅に厳格化・厳罰化されるからだ。
 取材の自由への脅威にも十分になりうる。「正当な取材活動は処罰対象とならない」としているものの、公務員への「そそのかし」は処罰対象と判断される恐れがあるからだ。取材活動は国民の利益にかなう情報について、知恵や努力を働かせ、相手を説得して獲得するものだ。説得行為をそそのかしとみなすのだろうか。
 有識者会議の報告書は、違法な取材の事例として、「沖縄密約」を暴いた外務省機密漏えい事件を挙げた。だが、密約は政府が「沖縄をカネで買い戻すという印象を持たれたくない」と隠し続けたものである。
 返還協定に含まれない巨額な「秘密枠」などのカネは、密約であるがゆえに、国会の承認を受けることなく、米国に支払われた。議会制民主主義を無視した歴史の汚点でもある。
 同種の情報を特別秘密として封殺できるのが、今回の法制の特質でもある。外交などに秘密が伴うのは理解できるとしても、憲法を踏みにじっていいはずがない。「知る権利」を脅かす法制は、民主主義への挑戦状とも受け止められる。
 福島第一原発の事故でも、政府や東京電力などは重要情報を秘匿したり、情報操作を続けた。放射能の拡散予想を長く公開しなかった事実などは、国民の生命や財産をないがしろにしたのと同然だ。
 時代の潮流は、情報を閉ざすことではなく、情報をできるだけ国民に公開することだろう。
 情報公開法に「知る権利」を明記することで、行政サービスではなく、行政機関の義務として公開するという発想に百八十度転換できる。同法の改正こそ目指すべき方向である。そもそも「開かれた政府」は、民主党の党是ではなかったのか。

◆悪夢の再現ではないか
 一九八五年の中曽根康弘首相時代に「国家秘密法案」が出されたが、メディアや世論の反対によって廃案に追い込まれた。悪夢がよみがえったような印象である。政府情報に投網をかけて丸ごと覆い隠すような法制には、強い憤りを禁じ得ない。

新潟日報/2011/10/15 18:41
社説 秘密漏れ厳罰化 知る権利を脅かすものだ

 政府の「情報保全に関する検討委員会」が情報漏えいの厳罰化を決めた。
 外交や安全保障、治安に関する「特別秘密」の情報漏れを取り締まる。来年の通常国会に、これを盛り込んだ法案を提出する方針だ。
 国民の知る権利を縛り、メディアを統制する道具になる恐れがある。情報の適正管理という国の一義的な責務よりも、厳罰化だけが強調される状況に危うさを禁じ得ない。
 現行の国家公務員法は、公務員が職務上知り得た秘密を漏らした場合に1年以下の懲役または50万円以下の罰金と規定している。
 これを懲役5〜10年以下とし、公務員のほかに政府から受注した民間企業関係者らも含む方向で、法案づくりが進められている。
 現行の罰則について、8月に政府の有識者会議は報告書で「漏えい防止の実効性に欠ける」と指摘した。
 外国からの信頼感を高め、情報共有を進めやすくしたいとの狙いが厳罰化にはある。ただ、そのことと、厳罰化が実効性を持つかどうかは別だ。
 今回の議論は、昨年の中国漁船衝突の映像が海上保安官の手でインターネットに流出した事件がきっかけだ。
 仮に、もっと罰則が重かったら事件は起きなかっただろうか。この種の事件は思想的背景を持った確信犯的なケースが多い。厳罰化による犯罪抑止効果には限界がある。
 見逃せないのは副作用の強さの方だといえる。検討委は法案について、対象とする「特別秘密」を限定し明確化するとしている。
 それでも常に、法を使う側が拡大解釈をする懸念は消えない。公務員や国民の側の混乱も想像に難くない。個人情報保護法の導入時の誤解や過剰反応は記憶に新しい。
 国民が必要とする情報の開示に支障を来すようでは困る。その情報伝達の多くの部分をメディアによる取材、報道が担っている。
 取材源が取り締まりを恐れて情報提供を拒めば、権力を監視する機能が果たせなくなってしまう。それは公共の利益に反するだろう。
 国が守るべき秘密とは何なのかの定義があいまいだった。1977年の最高裁決定が「非公知の事実で、実質的にもそれを秘密として保護するに値するもの」としていた。
 ただ、いま定義付けることの意味があるかは疑問だ。問われているのは、国の情報管理能力である。防衛関連企業へのサイバー攻撃などで、政府の体制不備が指摘されている。
 秘匿情報の解除手続きの制度化など、国民の側に立った情報公開の強化こそ、先行されるべきだろう。

山陽新聞(2011/10/16 9:09)
[社説]秘密保全法制 懸念募る「知る権利」侵害

 国の重要な機密情報の漏えいを防ぐため、政府は厳罰化などを盛り込んだ新たな法律づくりを進めるという。来年の通常国会への法案提出を目指す方針だが、安易な情報統制につながらないかとの懸念を抱く。
 法制化のきっかけとなったのは、昨年起きた中国漁船衝突事件の映像が、海上保安官によってインターネット上に流出した問題である。政府が設置した有識者会議が、今年8月にまとめた秘密保全法制の在り方に関する報告書を基に法案を検討していくことになる。
 報告書によると、「国の安全」「外交」「公共の安全と秩序維持」という3分野を対象に、所管大臣が国の存立に関わる情報を「特別秘密」として指定する。罰則は懲役5―10年以下で調整する見通しで、国家公務員法の守秘義務違反の1年以下より大幅に重くなる。対象者は公務員のほか、政府の発注を請け負った民間企業関係者らも含む方向という。
 重要な情報が簡単に外部に漏れることは問題だ。ネット社会の進展などもあって、いったん流出した情報は瞬時に世界に広まり影響を及ぼす。国民の安全や国益、他国との信頼関係を損なうことにもなる。情報管理の見直しは必要だ。
 しかし、法制化によって国民の知る権利を侵す事態を生じないか危惧される。報告書は法案を作る際は国民の知る権利や、取材の自由を尊重するよう求めているが、果たして担保できるのか懸念はぬぐえない。
 問題の一つが特別秘密の範囲のあいまいさである。罰則によって守るのに値する重要な情報か否かの判断は、行政機関が握る。都合の悪い情報を隠すことに使われて、対象が拡大することにもなりかねない。
 国民の知る権利につながる報道の自由についても同様だ。報告書は、正当な取材活動は処罰の対象外としているが、その正当性については国が恣意(しい)的に判断する余地を残している。さらに、罰則の強化は公務員らを萎縮させ取材を困難にしかねない。詰めるべき点は多い。
 国が有する情報は国民のものであり、できる限り公開していくのが本筋である。その姿勢や手だてを欠いたままでの秘密保全法制整備となれば、国民の不安や不信は募ろう。
 本来なら公開すべき情報を「特別秘密」という名のもとに国民から遠ざけてしまう事態を招いてはならない。禍根を残さぬためにも、開かれた十分な議論を求めたい。

毎日新聞 2011年10月18日 2時30分
社説:秘密保全法制 情報隠しの恐れ消えぬ

 国の存立にとって重要な情報を公務員が漏えいすることを防ぐため、政府は来年の通常国会に秘密保全を目的とした新たな法案を提出する準備を始めた。
 「国の安全」や「外交」「公共の安全及び秩序の維持」に絡む情報の中から「特別秘密」を指定し、漏えい者には「懲役5年または10年」を上限に罰則も科す方向だ。
 昨年起きた尖閣諸島沖の中国漁船衝突を巡るビデオ映像流出事件が直接のきっかけだ。当時の仙谷由人官房長官が有識者会議を発足させた。会議が8月にまとめた報告書が法案作りのベースになる。
 「特別秘密」は、高度の秘匿必要性が認められる情報のみを対象とするという。その範囲は法律上可能な限り明確化するというが、指定の権限は各行政機関にある。恣意(しい)的な運用で指定範囲が広がる可能性は捨て切れない。結果的に国民の「知る権利」が制限されることを懸念する。
 警視庁の国際テロ情報が昨年、インターネット上に流出した。国際社会が情報を共有できる時代だ。一国の不手際で重要な情報が漏えいしては世界全体の不利益になる。また、日本の国益も損なう。先ごろ、防衛機密を持つ三菱重工業へのサイバー攻撃が明らかになったが、外からの攻撃も含め、政府として情報管理を徹底するのは当然だ。ただし、それが「秘密保全法制」に直結するかは、慎重に検討すべきだ。規律の徹底などまず取り組むべきこともある。
 日本の場合、既に防衛の分野では、自衛隊法上の防衛秘密規定などによって、厳しい罰則を伴う法規制の網がかけられている。欧米では、「国家秘密」を基本的に国防情報としている国もある。国防以外の情報については、特に精査が必要だろう。
 沖縄返還交渉での日米密約文書を巡る問題では、外務省など政府の不誠実な対応が訴訟を通じて明らかになった。文書を廃棄したのかどうかいまだに明らかでない。「外交」にかかわる「特別秘密」指定が、都合の悪い情報の隠れみのとして使われるのでは、との疑念はぬぐえない。
 また、治安・公安情報を念頭におき、警察の持つ情報も「特別秘密」に指定する方針だ。個別の公安事件に及べば、国民に知らせるべき警察情報との仕分けが課題になる。
 情報提供に対する公務員の萎縮を招く恐れも十分にある。さらに「正当な取材活動は処罰の対象とならない」とは言うが、取材者が漏えいの教唆などに問われる可能性も残る。
 「特別秘密」が適切に指定・解除される仕組みが担保され得るのか。「知る権利」のみならず、正当な「情報公開」が阻害されないかの観点からも、法案の内容を点検したい。

西日本新聞/2011/10/24 11:51
社説 秘密保全法制 「知る権利」の侵害恐れる

 国防や外交など国の秘密情報が漏れるのを防ぐため、政府が新しい法律づくりに動きだした。来年1月召集の通常国会への法案提出を目指している。
 国の存立や国民の安全に関わる情報の管理は、もとより厳格でなければならない。国に「秘密」にすべき情報があることも否定しない。
 しかし、情報管理の名の下に、国民が本当に必要とする情報までが政府によって「秘密」にされるならば、国民の「知る権利」が侵害されることになる。
 秘密情報を保全するための法制定の動きに、そんな危惧を覚える。新法が政府による情報統制の手段になるようなことがあっては絶対にならない。
 もし、新法制定の背景にそうした狙いがあるのなら、民主主義に欠かせない国民の「知る権利」を守るために、そんな法律はつくらない方がいい。
 それでも新法が必要というなら「知る権利」と、それを支える「取材の自由」を保障する規定の明文化を求める。
 時代の潮流は情報を国民の目から遠ざけることではない。正しい情報をできるだけ早く国民に公開することだろう。
 東日本大震災に伴う福島第1原発事故の放射能漏れや拡散状況をめぐる政府や東京電力の対応が、正確な情報公開の必要性をあらためて感じさせた。
 今回、政府が国会提出を目指す秘密保全法制は、行政機関が所有する秘密情報の中で特に秘匿を要する情報を「特別秘密」に指定し、漏らした場合の罰則を厳しくするというものだ。
 特別秘密の対象となるのは、国の安全や外交、公共の安全と秩序維持に関する秘密情報で、外務、防衛、警察など所管省庁の大臣が個別に指定する。
 現行の国家公務員法の守秘義務違反の罰則は「懲役1年以下」だが、特別秘密の漏えい罪には「懲役5年または10年以下」の適用を検討しているという。
 厳罰化によって特別秘密を扱う公務員らの緊張感と保全意識を高めようというわけだろう。なるほど秘密指定と罰則強化で情報漏えいは減るかもしれないが、問題は「知る権利」との関係だ。
 時の政権の政治判断で、特別秘密の範囲がなし崩し的に拡大する懸念はないのか。刑罰を恐れて公務員らが報道機関の取材に応じなくなるのではないか。
 行政機関が萎縮して、隠すべきでない情報の公開にも消極的になることが心配だ。処罰規定が恣意(しい)的に運用され、通常の取材が漏えいの「教唆」や「そそのかし」の罪に問われることはないのか。
 「取材の自由」の制約は、国民の「知る権利」の侵害につながる。
 秘密保全法の制定を求めた政府の有識者会議の報告書でさえ「(法律の)運用を誤れば国民の重要な権利・利益を侵害する恐れがある」と指摘している。
 民主主義の根幹でもある「知る権利」を脅かす法制だ。新法が本当に必要かどうかを含めて慎重な検討を求めたい。

東奥日報2011年10月25日(火)
「知る権利」侵害する恐れ/秘密保全法制化へ

 政府は国の秘密情報を保全するための法案づくりを始めた。外交や防衛、治安など国の存立に関わる情報を「特別秘密」に指定し、漏えいに対する厳罰化などを盛り込み来年の通常国会に提案する方針だ。
 ネット社会となり情報管理が難しくなっている。防衛、外交など諸外国と共有する情報が流出すれば信頼関係も損なわれよう。国が機密情報の管理を徹底するのは理解できる。だが、国民の「知る権利」や取材の自由が必要以上に制限されて侵害されないか、懸念は拭えない。
 尖閣諸島付近で起きた中国漁船衝突の映像流出事件や警視庁の国際テロ捜査文書流出事件をきっかけに昨年12月に「情報保全に関する検討委員会」が発足。同委有識者会議が検討を重ね8月に報告をまとめた。
 報告によると、「特別秘密」は、秘密情報の中でも漏えいなどにより「国の安全や外交、公共の安全と秩序の維持」に重大な影響を及ぼすもので、行政機関が指定するという。
 過失も含め漏えいした場合は、国家公務員の守秘義務違反の懲役「1年以下」より重い「5年以下」や「10年以下」などを想定している。政府の発注を受けた民間企業などの関係者らにも適用されることになる。
 特別秘密を取り扱う職員は少人数に限定し、私生活や外国への渡航歴、懲戒処分歴などを調査する「適正評価」を行う。配偶者も調査の対象とする。
 政府は報告書を基に法案化の作業に当たる。一般から意見募集もし、国民の「知る権利」と取材の自由を害することはないと強調するが、心配は尽きない。
 秘密指定を行うのは行政機関であり、それが罰則で守るに値するかどうか外部からは確かめようがない。行政機関の思惑で指定の範囲が広がりかねない。
 報告でも指定を限定するよう要請、また必要がなくなれば特別秘密の対象から外すよう求めている。だが、恣意(しい)的な運用を排除する仕組みを担保できるのか疑念がある。
 そもそも、秘密保全を法制化するなら、情報公開の仕組みを整える必要がある。知る権利を明記し公開範囲を広げる情報公開改正法案は先の通常国会で継続審議になった。成立を急ぐべきだ。情報公開が不十分なまま「秘密保全」が先行するのは後先が逆だろう。
 一方、報道機関の正当な取材活動は処罰の対象外としたが、正当性を誰がどのような基準で判断するのか、教唆に問われる恐れはないか。これも恣意的な判断があってはならない。
 また厳罰化により、特別秘密に関わらない職員が萎縮し、取材への対応が消極的になる恐れもある。
 省庁に都合の悪い文書は廃棄してまで隠す。情報公開に対する消極姿勢は、沖縄返還に関わる日米密約問題でも明らかだ。
 秘密保全法制化は情報公開制度の改正を踏まえ、その必要性から議論すべきではないか。「知る権利」や報道の自由を侵害してはならない。

琉球新報2011年10月25日
社説 秘密保全法制 情報統制招く法必要ない

 政府が制定を進める「秘密保全法制」が危うい方向に急加速している。国の都合で「秘密」を分厚くし、原発事故で露見した情報統制と表裏一体の法となりかねない。
 国民の「知る権利」に背を向け、憲法秩序に抵触する動きだ。そもそも法制化する必要があるのかが厳密に問われるべきだ。
 同法制の骨格は、(1)国の安全(2)外交(3)治安―に関し、国の存立に関わるとする情報を「特別秘密」とし、漏らした公務員らに厳罰を科して情報保全態勢を強めるものだ。
 国が新たに「特別秘密」を定め、それを故意に漏らした公務員らに懲役5年以下か、10年以下の厳しい刑に処すと定める。
 独立行政法人の職員や民間事業者までも適用の対象となる。経済活動や学問の領域にまで国が干渉しないか。公務員は萎縮し、報道の自由を揺るがす恐れもある。
 政府の有識者会議は、特別秘密は限定すべきだとし、具体的に列挙することや、必要がなくなれば対象から外す措置を求めている。それは、逆に憲法が定めた権利に抵触する恐れが強いことを示す。
 問題の核心は、特別秘密が何を指すのかが漠然としていることだ。
 秘密の指定は行政機関が権限を握る。公になることを不都合と見なした途端、特別秘密と指定することが可能となる。特別秘密は保護に値する実質秘であることを要件としているが、「実質秘」とする判断も行政機関に任される。
 米軍や防衛秘密を守る法律はそれぞれあり、国家公務員法も守秘義務を規定する。有識者会議は、守秘義務違反の罰則の懲役刑が1年以下とされ、漏えいへの「抑止力」が不十分と主張している。
 法律が甘いために重要情報が漏れ出すから、厳罰による威嚇力で歯止めをかけようとする発想だ。
 秘密法制は、尖閣諸島沖で起きた中国漁船と巡視船の衝突事件で、国が隠したかった衝突映像が流出したことがきっかけだった。国民のほとんどが目にした衝突映像のような、国にとって不都合な情報を恣意(しい)的に隠す可能性は否めない。
 沖縄返還協定に含まれない巨額の「裏負担」は、国会承認を経ずに米国に渡った。民主主義を踏みにじる密約さえも特別秘密として永久に封印できることになる。
 密約を暴いた記者の取材活動が違法な情報入手例に挙げられていることに情報統制の意図が透ける


(おわり)