はじめに

(1)大阪市の橋下徹市長が同市職員の政治活動を「禁止」するなどの条例を制定する動き、および同条例制定については、これまで以下の投稿で批判してきた。

橋下・大阪市の職員の政治活動への罰則化条例案は二重に違憲!

橋下・大阪市長が市職員の政治活動を懲戒免職しても違憲!

政治活動「原則懲戒免職」撤回しても大阪市の条例案の問題は解消しない!

維新の会・公明党・自民党は公務員の政治活動の自由を侵害する点では「同じ穴のムジナ」だ!

大阪市職員政治活動制限条例はやはり実質的には政治活動「全面(ほぼ全面)禁止」条例だ!(政治活動には選挙権行使等は含まれない)

(2)大阪維新の会の「維新政治塾」に国家公務員や他の地方自治体の地方公務員が参加していることが分かり、マスコミが、これを大阪市職員政治活動「禁止」条例の立場に矛盾すると報じた。
スポニチ[ 2012年8月17日 17:57 ]
維新政治塾に公務員20人参加 「ダブルスタンダード」批判も

 橋下徹大阪市長率いる大阪維新の会の「維新政治塾」に、約20人の国家公務員や地方公務員が参加していることが17日、関係者への取材で分かった。大阪市では7月、市職員が政治的行為をした場合、原則懲戒処分とする条例案を橋下市長が提案し、成立したばかり。市職員の政治的行為の締め付けを強める一方、身内には甘い“ダブルスタンダード”との批判の声が出ており、市議会でも問題となりそうだ。
 関係者によると、塾生には原子力安全・保安院や財務省、国土交通省の職員のほか、県や市の職員が名を連ねている。大阪市職員は含まれていないという。
 6月に始まった塾には約880人が参加。一部塾生が9月半ばには街頭演説する予定。次期衆院選では、塾生を中心に候補を選ぶ。

産経新聞2012.8.18 08:43
どうやの? 維新塾に公務員 大阪市職員への規制と矛盾?

 橋下徹大阪市長率いる大阪維新の会の「維新政治塾」に、国家公務員や地方公務員が参加していることが物議を醸している。次期衆院選の候補者養成機関となる維新政治塾に公務員を受け入れる一方、大阪市は今月、市職員の政治活動規制条例を施行。公務員の政治活動を厳しく律しており、橋下維新の姿勢に「ダブルスタンダード」との批判も上がっている。
 維新政治塾には約880人が参加。講義のほか、候補者選抜を目的とした討論や、衆院選公約のベースとなる「維新八策」の策定に向けた議論も行われ、9月には塾生が大阪市内で街頭演説をする予定だ。
 橋下氏は昨秋の大阪市長選で市職員が平松邦夫前市長の支援態勢を組織ぐるみで敷いていたと問題視。7月市議会で、職員の政治活動規制条例案が維新、公明、自民各市議団の賛成多数で可決成立した。条例では、多数の人に政治的意見を述べることなど、罰則規定のある国家公務員並みに10項目の政治活動を禁止。違反者には「懲戒処分として戒告、減給、停職、免職の処分をすることができる」と規定している。
 次期衆院選に向け、維新は政党要件を満たすために現職国会議員の取り込みを目指す一方、塾生から候補者を選抜する方針だが、塾生に公務員が含まれていることに整合性を問う声もある。橋下氏に批判的な評論家、野田正彰さんは「明らかなダブルスタンダードで問題。公務員たたきに躍起になった結果、矛盾が生じたのだろう」としている。

(3)大阪維新の会の代表の橋下市長はこれに反論したようだ。
2012/08/19 15:42 【共同通信】
維新、公務員の政治塾参加OK 橋下氏がツイッターで

 大阪維新の会を率いる橋下徹大阪市長は19日までに、維新が主宰する政治塾に国家公務員や地方公務員が参加していることについて「非公開の会合で公務員の参加も許される」と短文投稿サイト「ツイッター」で持論を展開。
 大阪市では7月、橋下市長の強い意向を受け、市職員が政治的行為をした場合に原則懲戒処分とする条例が成立。塾での公務員受け入れをダブルスタンダードと批判する報道に対し、橋下市長は「もう少し勉強してもらいたい」と反発した。
 関係者によると、政治塾に参加している公務員は約20人で、原子力安全・保安院や財務省、国土交通省の職員のほか、県や市の職員らが名を連ねている。

中国新聞'12/8/19
公務員の政治塾参加OK 維新・橋下氏が反発

 大阪維新の会を率いる橋下徹大阪市長は19日までに、維新が主宰する政治塾に国家公務員や地方公務員が参加していることについて「非公開の会合で公務員の参加も許される」と短文投稿サイト「ツイッター」で持論を展開した。
 大阪市では7月、橋下市長の強い意向を受け、市職員が政治的行為をした場合に原則懲戒処分とする条例が成立。塾での公務員受け入れをダブルスタンダードと批判する報道に対し、橋下市長は「もう少し勉強してもらいたい」と反発した。
 関係者によると、政治塾に参加している公務員は約20人で、原子力安全・保安院や財務省、国土交通省の職員のほか、県や市の職員らが名を連ねている。
 大阪市職員は含まれていないが、橋下市長は「(市条例でも)勤務する役所の所管エリア外での政治活動は規制されない。政党機関紙を個人的に購入することや、政党の非公開の会合で政治的発言をすることは許される」と指摘している。

(4)以上の経過は、大阪市職員の政治活動を禁止する条例が違憲・違法であるとの問題とは別に、同条例がどのような政治活動を許容しているのか、その解釈が問題になりだしていることを意味している。

と同時に、大阪市の同条例が今後どのように運用されるのかという問題にもなってゆくだろう。

そこで、橋下市長の弁明を少し検討してみよう。


1.違憲の条例をさらに拡大解釈していないか?、橋下市長の弁明は妥当か?

(1)橋下市長は「(市条例でも)勤務する役所の所管エリア外での政治活動は規制されない。政党機関紙を個人的に購入することや、政党の非公開の会合で政治的発言をすることは許される」と指摘しているという。

(2)「維新政治塾」には、大阪市職員はいないといういことなので、国家・地方公務員の塾生の場合には、国家・地方公務員各法違反になる場合のほかは、条例違反ではなく、条例の立場との整合性が問題になる。

(3)さて、「勤務する役所の所管エリア外での政治活動」については、確かに、地方公務員の場合には、「一応」弁明としては成り立っている。

地方公務員法第36条第2項
2  職員は、特定の政党その他の政治的団体又は特定の内閣若しくは地方公共団体の執行機関を支持し、又はこれに反対する目的をもつて、あるいは公の選挙又は投票において特定の人又は事件を支持し、又はこれに反対する目的をもつて、次に掲げる政治的行為をしてはならない。ただし、当該職員の属する地方公共団体の区域(当該職員が都道府県の支庁若しくは地方事務所又は地方自治法第二百五十二条の十九第一項 の指定都市の区に勤務する者であるときは、当該支庁若しくは地方事務所又は区の所管区域)外において、第一号から第三号まで及び第五号に掲げる政治的行為をすることができる
一  公の選挙又は投票において投票をするように、又はしないように勧誘運動をすること
二  署名運動を企画し、又は主宰する等これに積極的に関与すること
三  寄附金その他の金品の募集に関与すること
(以下、略)

しかし、留意しなければならないのは、条例第3条があることだ。
(本市の区域外から行う政治的行為)
第3条 職員が法第36条第2項第1号から第3号まで及び前条各号に掲げる政治的行為を、電話をかけ、又はファクシミリ装置を用いて送信する方法その他の方法により、本市の区域(当該職員が区に勤務する者であるときは、当該区の所管区域。以下同じ。)外から本市の区域内にあてて行った場合は、当該政治的行為は本市の区域内において行われたものとみなす

この規定によると、所管区域外であっても「電話をかけ、又はファクシミリ装置を用いて送信する方法その他の方法により」所管区域内にあてて行われると、所管区域内において行われたものとみなされてしまうのである。

つまり、大阪市以外の地方自治体の地方公務員が大阪市から自己の所管区域内にあてて、ツイッターなど何らかの手段により、条例で禁止される政治活動を所管区域内に発信すれば、条例の立場に矛盾することになる。

しかし、地方公務員の塾生は、そのような行為をしていないことを確認しているのだろうか?

(4)また、「勤務する役所の所管エリア外での政治活動は規制されない」という弁明は、国家公務員の場合には原則として通用しない。

人事院規則は、以下のように適用範囲を定めている
(適用の範囲)
1  法及び規則中政治的行為の禁止又は制限に関する規定は、臨時的任用として勤務する者、条件付任用期間の者、休暇、休職又は停職中の者及びその他理由のいかんを問わず一時的に勤務しない者をも含むすべての一般職に属する職員に適用する。ただし、顧問、参与、委員その他人事院の指定するこれらと同様な諮問的な非常勤の職員(法第八十一条の五第一項に規定する短時間勤務の官職を占める職員を除く。)が他の法令に規定する禁止又は制限に触れることなしにする行為には適用しない。
2  法又は規則によつて禁止又は制限される職員の政治的行為は、すべて、職員が、公然又は内密に、職員以外の者と共同して行う場合においても、禁止又は制限される。
3  法又は規則によつて職員が自ら行うことを禁止又は制限される政治的行為は、すべて、職員が自ら選んだ又は自己の管理に属する代理人、使用人その他の者を通じて間接に行う場合においても、禁止又は制限される。
4  法又は規則によつて禁止又は制限される職員の政治的行為は、第六項第十六号に定めるものを除いては、職員が勤務時間外において行う場合においても、適用される。

もちろん、国家公務員の塾生がどのような政治的活動をするのかが分からなければ、国家公務員法に違反する、あるいは、条例の立場と矛盾する、とは断じ得ないないのだが、ここでは、橋下知事の弁明は、国家公務員の場合には原則として通用しないことだけは確認しておきたい。

橋下市長は、国家公務員の場合についての弁明をしているのだろうか?

(5)次に、「政党機関紙を個人的に購入すること」についてであるが、これも、確かに法律によっても条例によっても禁止されてはいない。

条例は、「政党その他の政治的団体の機関紙たる新聞その他の刊行物を発行し編集し配布し又はこれらの行為を支援すること」を禁止している(ただし地方公務員法は禁止していない)し、人事院規則も「政党その他の政治的団体の機関紙たる新聞その他の刊行物を発行し、編集し、配布し又はこれらの行為を援助すること」を禁止している(ただし国家公務員法それ自体は禁止していない)が、政党機関紙を購入すること自体は禁止してはいない。

(6)ただし、この程度のことは、本来あえて政治活動に含めるほどのことではない、というのが、私見である。
政党機関紙を購入することは、当該政党を支持して購入する者もあれば、当該政党の主張・見解を知るために購入する者もある。
後者は、政治的ではあるが、党派的ではない。
法律、条例が想定する政治活動は、政党の場合には党派的なものである。
したがって、購入しているだけで、そのどちらであるのかは即断できないのだから、政治的ではあっても、一応、経済活動である、と考えるべきであろう。

(7)次に、「政党の非公開の会合で政治的発言をすること」についてであるが、これも、確かに法律等や条例は禁止してはいない。

人事院規則は「集会その他多数の人に接し得る場所で又は拡声器、ラジオその他の手段を利用して、公に政治的目的を有する意見を述べること」を禁止しているし、条例も「集会その他多数の人に接し得る場所で又は拡声器、ラジオその他の手段を利用して、公に政治的目的を有する意見を述べること」を禁止している。
だが、「政党の非公開の会合で政治的発言をすること」までは禁止してはいない。

これは、政治活動の自由として保障されるが、一応、結社の自由として理解しておいた方がいいだろう。

(8)もっとも、この点は、「維新政治塾」の場合は、問題になる。
以下、それについて検討する。


2.国家公務員等の「維新政治塾」への参加は、条例の立場と矛盾しないか?

(1)最後の問題は、国家公務員や他の地方公務員が「維新政治塾」に参加することを、条例の立場との関係で、どう評価するのか、である。

これにつき、橋下市長は、一応「(市条例でも)・・・政党の非公開の会合で政治的発言をすることは許される」と主張することで、反論した気になっているようだ。

(2)そこで、まず疑問に思うのは、「維新政治塾」はそもそも非公開なのか、ということである。

例えば、石原慎太郎・東京都知事が今年6月23日、「維新政治塾」で講演したとき、マスコミは報じている。
朝日新聞2012年6月23日21時53分.
石原氏、維新政治塾で講演 「一緒に頑張ろう」

 石原慎太郎・東京都知事が23日、橋下徹・大阪市長の維新政治塾で講演した。自らも政治塾を立ち上げ、橋下氏との連携を模索する石原氏は、新党設立も意欲的。だが、両氏の政策に違いがあり、第三極結集につながるか不透明だ。
 大阪市の中央公会堂。「闘いに勝ちましょう。皆さん、戦士になってください」。橋下氏が塾生約900人に檄(げき)を飛ばした。その後、非公開で講演した石原氏は「東京で政治塾を立ち上げようと思っている。一緒に頑張ろう」と呼びかけたという。
(略)

確か私の記憶に間違いがなければ、テレビも報道していたのではなかろうか。
したがって、「維新政治塾」は非公開ではないはずである。

(3)もっとも、これに対しては、それは「講演」であったから塾生が発言する場でないとか、マスコミの取材だけを許していたのであって、一般の方々にまで公開していない、との反論がありうるだろう。

そうであれば、
「講演」以外は非公開にするのか?
「講演」以外でもマスコミだけ公開するのか?
という疑問が生じる。

もし、「国家公務員や地方公務員の塾生が取材しているマスコミを利用して」政治的発言を外部に発信すれば、違法との解釈もありうるのではなかろうか!

(4)これについても、マスコミが編集の際に配慮して国家公務員等の政治的発言を報道しなければいいとの反論もありうるだろう。

(5)しかし、先に紹介したマスコミ報道によると、「9月には塾生が大阪市内で街頭演説をする予定だ」とある。

国家公務員や地方公務員の塾生がこの街頭演説をし、橋下市長ら大阪維新の会が、それを許してしまえば、国家公務員については違法行為を許したことになり、また、地方公務員の場合には、条例との立場とは矛盾する行為を許したことになる。

維新政治塾が塾生に街頭演説をさせるのは、それが塾生には必要と判断したからだろう。
そうであれば、塾生が国家公務員であれ地方公務員であれ、全員に街頭演説をさせることになるはずである。

そうではなく、公務員の塾生は街頭演説をさせない、とすでに決まっているのだろうか?
橋下市長は、そのような弁明をしているのだろうか?

(6)独裁政治を肯定する橋下市長は、まさに独裁者らしく、違憲の法律・条例を「合憲」と言いくるめた上で、公務員の塾生を他の塾生と同じように扱い、大阪市職員とは異なる扱いをする、すなわち「特権化」するのだろうか!?