（１）今月（２０１４年６月）１８日、東京都議会の一般質問で、ある女性議員が晩婚化や妊娠出産に関する都の支援策を求める質問中、「早く結婚しろ」「産めないのか？」「あいつ不倫してるんだぜ」などの不規則発言（ヤジ）があったようです。

当該女性議員（みんなの党の塩村文夏都議）は、その夜、「悔しくて眠れなかった」などとマスコミの取材に答えています。
日刊スポーツ［2014年6月19日21時49分］
塩村都議、やじに「悔しくて眠れなかった」

　東京都議会の一般質問で晩婚化や妊娠出産に関する都の支援策を求める質問中、「早く結婚しろ」などのやじを受けた塩村文夏都議（３５）が１９日、取材に応じた。
　前日１８日の一般質問で「産めないのか？」「あいつ不倫してるんだぜ」などのセクハラに当たる発言を浴び、涙をこぼした塩村都議は「つらい不妊治療を抱えた女性のことを思い出して悔しくて朝５時ぐらいまで眠れなかった」と唇をかんだ。
　発言内容について「議員としてアウトだと思います。ただ、問題認識を持って一言『不適切だった』と言ってくれればいいのに、まだ何もない」と話した。
　やじは自民党エリアから聞こえたと、複数の議会関係者が話している。
　みんなの党は都議団は、同党女性局長の参院議員、薬師寺道代氏（５０）とともに２０日午前９時、都議会議長宛に申し入れ書を提出する予定だ。
　塩村都議本人も地方自治法１３３条（侮辱を受けた議員は、これを議会に訴えて処分を求めることができる）に基づき、処分を求める。

（２）この不規則発言（ヤジ）には、大きく分けて、法的な問題と法的ではない問題（特に政治的な問題）の２つの問題があります。

ここでは、広義の法的な問題に限定して投稿し、法的ではない問題（特に政治的な問題）については別の機会に投稿することにします。


１．国会議員の免責特権と法的責任追及

（１）法的な問題として真っ先に思い浮かぶのは、議員の免責特権問題です。
具体的には、そもそも地方議会の議員の議会内の言動に”免責特権”が及ぶのか、及ぶとしても、不規則発言にも及ぶのか、という憲法上の論点です。

なぜこのような論点があるのかといえば、地方議会の議員の議会内の言動につき、憲法は明文の規定を置いていないからです。

そこで、国会議員の場合から説明することにします。

（２）国会議員には免責特権が憲法で保障されています。
第５１条 　両議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。

衆議院議員と参議院は、「議院で行つた演説、討論又は表決について」免責特権が及ぶのです。

（３）では、免責特権とは、なんでしょうか？
それは、議員個人が民事責任あるいはまた刑事責任を問えるような言動をしても、当該議員のこれらの責任を問わないという特権です。

例えば、ある国会議員が本会議の質問において、大臣の名誉を侵害する発言をしても、民事責任も刑事責任を問われないのです。

（４）ただし、当該国家議員は一切責任を問われないかといえば、そうではありません。
民事・刑事責任以外の責任は問えるのです。

前述の憲法第５１条は、「院外で責任を問はれない。 」と定められていますから、「院内では責任を問える」のです。
第５８条第２項　両議院は、各〃その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め、又、院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。但し、議員を除名するには、出席議員の３分の２以上の多数による議決を必要とする。

国会法も以下のような定めを置いています。

国会法第119条「各議院において、無礼の言を用い、又は他人の私生活にわたる言論をしてはならない。」
第120条　議院の会議又は委員会において、侮辱を被った議院は、これを議院に訴えて処分を求めることができる。
第121条　�ヽ撞脹，砲�いて懲罰事犯があるときは、議長は、先ずこれを懲罰委員会に付し審査させ、議院の議を経てこれを宣告する。
　��委員会において懲罰事犯があるときは、委員長は、これを議長に報告し処分を求めなければならない。
　�５聴�は、衆議院においては四十人以上、参議院においては二十人以上の賛成で懲罰の動議を提出することができる。この動議は、事犯があった日から三日以内にこれを提出しなければならない。
第121条の２　�＿餞�の終了日又はその前日に生じた懲罰事犯で、議長が懲罰委員会に付することができなかったもの並びに懲罰委員会に付され、閉会中審査の議決に至らなかったもの及び委員会の審査を終了し議院の議決に至らなかったものについては、議長は、次の国会の召集の日から三日以内にこれを懲罰委員会に付することができる。
　��議員は、会期の終了日又はその前日に生じた事犯で、懲罰の動議を提出するいとまがなかったもの及び動議が提出され議決に至らなかったもの並びに懲罰委員会に付され、閉会中審査の議決に至らなかったもの及び委員会の審査を終了し議院の議決に至らなかったものについては、前条第三項に規定する定数の議員の賛成で、次の国会の召集の日から三日以内に懲罰の動議を提出することができる。
　�Ａ案鷙爐竜�定は、衆議院にあっては衆議院議員の総選挙の後最初に召集される国会において、参議院にあっては参議院議員の通常選挙の後最初に召集される国会において、前の国会の会期の終了日又はその前日における懲罰事犯については、それぞれこれを適用しない。
第121条の３　�（腸饕罅�委員会その他議院内部において懲罰事犯があるときは、議長は、次の国会の召集の日から三日以内にこれを懲罰委員会に付することができる。
　　��議員は、閉会中、委員会その他議院内部において生じた事犯について、第１２１条第３項に規定する定数の議員の賛成で、次の国会の召集の日から三日以内に懲罰の動議を提出することができる。
第122条　懲罰は、左の通りとする。
　一　公開議場における戒告
　二　公開議場における陳謝
　三　一定期間の登院停止
　四　除名
第123条　両議院は、除名された議員で再び当選した者を拒むことができない。
第124条　議員が正当な理由がなくて召集日から七日以内に召集に応じないため、又は正当な理由がなくて会議又は委員会に欠席したため、若しくは請暇の期限を過ぎたため、議長が、特に招状を発し、その招状を受け取った日から七日以内に、なお、故なく出席しない者は、議長が、これを懲罰委員会に付する。

（５）また、当該国会議員の言動が免責されても、違法であることには変わりはありませんから、被害者は国家賠償法に基づき国の責任を問えるので、賠償請求することは可能である、と解すべきです。
つまり、被害者は泣き寝入りする必要はないのです。
なお、判例がありますが、ここでは、取り上げません。

（５）では、国会議員の不規則発言（ヤジ）にも、免責特権が及ぶのでしょうか？

及ばないというのが多数説です。
私は、一切及ばないというわけではなく、取り上げられている法令、予算案など国の政治や行政に関係する発言については及ぶという立場です。

ですから、
多数説でいえば、国会議員の不規則発言（ヤジ）については、当該国会議員が民事責任あるいはまたは刑事責任を問えるような内容であれば、いずれも責任が問えることになりますが、
私見では、そのような内容であっても、国政に関係するものであれば、問えないが、国政等に無関係のものであれば、問えることになります。

２．地方議会議員の免責特権と法的責任追及・・・多数説と判例

（１）では、地方議会の議員の言動については、国会議員のそれと同じように、免責特権が及ぶ（類推適用を認める）のでしょうか？

多数説は、地方議員には及ばないという立場です。
判例（地方議会議員公務執行妨害・監禁・職務強要被告事件1967年5月24日最高裁大法廷判決・刑集２１巻４号５０５頁・判時４８２号１４頁・判タ２０８号９４頁）も同じです。
憲法上、国権の最高機関たる国会について、広範な議院自律権を認め、ことに、議院の発言について、憲法５１条に、いわゆる免責特権を与えているからといって、その理をそのまま直ちに地方議会にあてはめ、地方議会についても、国会と同様の議会自治・議会自律の原則を認め、さらに、地方議会議員の発言についても、いわゆる免責特権を憲法上保障しているものと解すべき根拠はない。

そして、・・・言論の域を超えた実力の行使については、・・・議員の免責特権その他特別の取扱いを認めるべき合理的な理由は見出しがたいといわなければならない。

（２）この立場に立ては、地方議員の不規則発言（ヤジ）に免責特権が及ぶのかどうかを検討するまでもなく、当然に地方議会の議員には免責特権が及ばないことになりますから、
冒頭で紹介した、東京都議会議員の「早く結婚しろ」「産めないのか？」「あいつ不倫してるんだぜ」などの不規則発言（ヤジ）は、民事責任あるいは刑事責任を問えるようであれば、理論的には、そのいずれかの責任あるいはまたその両方の責任を問えるわけです。

（３）当議会の女性議員は、刑事告訴する可能性もあるようです。
サンケイスポーツ2014.6.25 05:02
塩村都議、「産めないのか」発言者が名乗り出なければ告訴も

　東京都議会のセクハラやじ問題で、塩村文夏（あやか）都議（３５）が２４日、東京・有楽町の日本外国特派員協会で会見した。２３日に鈴木章浩都議（５１）＝都議会自民党会派を離脱＝が一部のやじを認めたものの、別のやじ発言者は不明のままで、このまま名乗り出ない場合、名誉毀損（きそん）罪などで告訴する考えを示した。
　１０８人の外国メディアが出席した会見。その中で、男性ジャーナリストから名誉毀損罪や侮辱罪での告訴を考えているか問われ、塩村氏は「（発言者は）１人ではなかったので、名乗り出てきてほしい」とした上で「（法的対応を）排除はしない。最終手段と思っている」とし、名乗り出てこない場合には告訴も辞さない考えを示した。
　やじについては「早く結婚しろ」と発言した鈴木氏のほか、「子供を産めないのか」などがあったと指摘されている。
　会見は約１時間に及び、デンマーク紙の記者は「日本でこんなことが起きるなんてびっくりした。５０年前の話かと思った」と話した。ドイツのジャーナリストは「ドイツで同じことをやったら議会はストップし、議員は直ちに辞職する」と指摘。やじの波紋は世界に広がっている。
（紙面から）

（４）また、それとは別に、議会は議員の責任を問えることになっています。
冒頭の記事も紹介していたように、地方自治法がこれについて定めています。
１３３条　普通地方公共団体の議会の会議又は委員会において、侮辱を受けた議員は、これを議会に訴えて処分を求めることができる。
第１３４条 　普通地方公共団体の議会は、この法律並びに会議規則及び委員会に関する条例に違反した議員に対し、議決により懲罰を科することができる。
○２ 　懲罰に関し必要な事項は、会議規則中にこれを定めなければならない。
第１３５条 　懲罰は、左の通りとする。
一 　公開の議場における戒告
二 　公開の議場における陳謝
三 　一定期間の出席停止
四 　除名
○２ 　懲罰の動議を議題とするに当つては、議員の定数の８分の１以上の者の発議によらなければならない。
○３ 　第一項第四号の除名については、当該普通地方公共団体の議会の議員の３分の２以上の者が出席し、その４分の３以上の者の同意がなければならない。
第１３６条 　普通地方公共団体の議会は、除名された議員で再び当選した議員を拒むことができない。
第１３７条 　普通地方公共団体の議会の議員が正当な理由がなくて招集に応じないため、又は正当な理由がなくて会議に欠席したため、議長が、特に招状を発しても、なお故なく出席しない者は、議長において、議会の議決を経て、これに懲罰を科することができる。

（５）つまり、東京都議会議員の「早く結婚しろ」「産めないのか？」「あいつ不倫してるんだぜ」などの不規則発言（ヤジ）については、民事・刑事責任とは別に、国会でも処分される可能性があるのです。

（６）なお、これに関する東京都議会の規則については、時間の関係で確認していませんので、ここではこれ以上取り上げません。


３．地方議会の免責特権と責任追及・・・私見

（１）私見は、国会議員の免責特権は国民代表からの要請であるとの立場に立ち、そうであれば、住民代表も同じように解するべきなので、地方議会の議員にも免責特権が及ぶことになります。

（５）では、地方議員の不規則発言（ヤジ）にも免責特権が及ぶのかですが、国会議員と同じように考えれば、そのヤジが当該自治体の政治・行政に関係するものであるかどうか、ということになります。

より具体的には、東京都議会議員の「早く結婚しろ」「産めないのか？」「あいつ不倫してるんだぜ」などは、塩村都議に対するヤジだったので、同議員の質問事項に関係するものであれば、免責特権が及ぶのですが、それに関係なければ、及ばないことになります。

塩村都議の質問事項は、晩婚化や妊娠出産に関する都の支援策を求める質問なので、そのような支援策を求めることをあえて批判する趣旨で発せられたものと考えられますので、当該ヤジについても免責特権が及ぶことになり、民事責任・刑事責任を問えないことになりそうです。

もっとも、その場合でも、
国家賠償法に基づき東京都に賠償請求することは理論的に可能です。

（６）ところが、必ずしもそうなるとは限らないようです。

現時点では、「早く結婚しろ」とヤジった議員は判明しております。
名乗り出た当該議員（鈴木章浩都議）は、「早く結婚していただきたいという思いがある中で、あのような発言になってしまった」と弁明しているからです。
ログミー-2014/06/24
【全文】「塩村議員に早く結婚して欲しかった」 鈴木章浩議員”セクハラヤジ問題”謝罪会見書き起こし
・・・・

記者：フジテレビ・ホソガイです。どうしてこのような不適切な発言をしてしまったのでしょうか？

鈴木：少子化、晩婚化の中で、早く結婚していただきたいという思いがある中で、あのような発言になってしまったわけなんですけれども、本当にしたくても結婚がなかなかできない方の配慮が足りなかったということで、いま深く反省しています。
・・・・

これが本心となると、当該ヤジは、都政の政策の問題ではないし、塩村都議の質問事項に関係しないことになるので、当該ヤジについて免責特権は及ばないことになります。
つまり、法的責任あるいはまた刑事責任が問えるようであれば、いずれかの責任または両方の責任が問えることになります。

（７）また、以上の責任とは別に、私見でも前述した地方自治法に基づく処分は可能になります。


おわりに

（１）以上は、広義の法的責任の問題です。

この責任は、いまだに一切とられていません。

また、「犯人（容疑者）」はまだ１人しか判明してはいません。
ほかの「犯人（容疑者）」は特定・確認さえされていません。

（２）にもかかわらず、鈴木章浩都議の辞職や他のヤジの発言者の辞職を求める決議案も、他のヤジ発言者の特定求める決議案も、都議会で否決さたようです。
朝日新聞2014年6月25日21時38分
他のヤジ発言者の特定求める決議案、都議会が否決

　東京都議会で晩婚化対策を質問した塩村文夏（あやか）都議（３５）が「早く結婚した方がいい」とヤジを浴びた問題で、都議会は２５日、信頼回復と再発防止に努める決議案を可決した。他のヤジの発言者の特定を求める決議案も提出されたが、最大会派の自民などの反対で否決された。国内外から批判されたが、都議会は事実上の幕引きを図る構えだ。
　可決した決議案は「女性議員に対し、人権侵害と言われかねない不規則発言が発せられ、都民の信頼を損ねた」と指摘。「二度と起こらないよう再発防止に努める」と記した。自民、公明など５会派が提出した。
　この決議案に先立ち、共産は、ヤジを認めて自民会派を離脱した鈴木章浩都議（５１）の辞職や、他のヤジの発言者の辞職を求める決議案を提出したが、否決された。塩村都議が所属するみんなの党は、他の不規則発言をした議員の特定を求める決議案を出したが、反対多数で否決された。
　都議会は２５日に閉会した。閉会後、塩村都議は「他の発言を聞いた議員もいる。すべてが解決したわけではない」と述べた。塩村都議は、「まずは自分が産めよ」「子どもを産めないのか」というヤジも聞いたと説明している。
　自民の吉原修幹事長は「所属議員に聞き取ったが、『早く結婚した方がいい』以外のヤジを聞いた議員はいなかった」と述べ、問題に一定の区切りが付いたとの認識を示した。海外から女性蔑視に厳しい指摘が相次いだなか、野党の一部は反発しているが、事実解明は進めない構えだ。
　舛添要一知事は「女性の尊厳を傷つけたヤジは許されない」と批判する一方、都議会の姿勢については「決定と判断を尊重したい」と述べるにとどめた。（前田大輔）

これは前述の法的責任追及のうちの一部に関するものですが、都議会自民党などの多数派は自浄能力はないようです。

（３）法的責任とは別に、法的ではない責任（特に政治的責任）を問うこともできます。
繰り返しますが、これについては、別の機会に投稿することにします。