上脇博之 ある憲法研究者の情報発信の場

憲法研究者の社会活動の一環として、ブログを開設してみました(2008年4月5日)。 とはいえ、憲法問題全てについて意見を書くわけではありません。 政治問題について書くときがあるかもしれません。 記録として残しておくために、このブログを使用するときがあるかもしれません。 各投稿記事の右下の「拍手」が多いようであれば、調子に乗って投稿するかもしれません。 コメントを書き込まれる方は、カテゴリー「このブログの読み方とコメントの書き込みへの注意」の投稿を読んだ上で、書き込んでください。 皆様のコメントに対する応答の書き込みは直ぐにできないかもしれませんので、予めご了解ください。 ツイッターを始めました(2010年9月3日)。 https://twitter.com/kamiwaki フェイスブックも始めました(2012年7月29日) http://www.facebook.com/hiroshi.kamiwaki.7 かみわき・ひろし

憲法

「辺野古新基地建設の強行に反対する憲法研究者声明」(2019年1月24日)の紹介

本日(2019年1月24日)、私も賛同している「辺野古新基地建設の強行に反対する憲法研究者声明」が呼びかけ人らを通じて発表されました。
賛同者は130名を超え131名です。

辺野古新基地建設の強行に反対する憲法研究者声明

 2018年9月30日、沖縄県知事選挙において辺野古新基地建設に反対する沖縄県民の圧倒的な民意が示されたにもかかわらず、現在も安倍政権は辺野古新基地建設を強行している。安倍政権による辺野古新基地建設強行は「基本的人権の尊重」「平和主義」「民主主義」「地方自治」という、日本国憲法の重要な原理を侵害、空洞化するものである。私たち憲法研究者有志一同は、辺野古新基地建設に関わる憲法違反の実態及び法的問題を社会に提起することが憲法研究者の社会的役割であると考え、辺野古新基地建設に反対する声明を出すものである。
 辺野古新基地建設問題は、憲法9条や日本の安全保障の問題であると同時に、なによりもまず、沖縄の人々の人権問題である。また、選挙で示された沖縄県民の民意に反して政府が強引に建設を推し進めることができるのか、民主主義や地方自治のあり方が問われているという点においては日本国民全体の問題である。政府が新基地建設をこのまま強行し続ければ、日本の立憲民主主義に大きな傷を残すことになる。こうした事態をわれわれ憲法研究者は断じて容認できない。直ちに辺野古埋立ての中止を求める。

1 「民主主義」「地方自治」を侵害する安倍政権
 沖縄では多くの市民が在沖米軍等による犯罪や軍事訓練、騒音などの環境破壊により、言語に絶する苦しみを味わってきた。だからこそ2014年、2018年の沖縄県知事選挙では、沖縄の市民にとってさらなる基地負担となる「辺野古新基地建設」問題が大きな争点となった。そして辺野古新基地建設に反対の立場を明確にした翁長雄志氏が県知事に大差で当選し、翁長氏の死後、玉城デニー氏もやはり大差で当選した。沖縄の民意は「新基地建設反対」という形で選挙のたびごとに示されてきた。ところが安倍政権はこうした民意を無視し、新基地建設を強行している。こうした安倍政権の対応は日本国憲法の原理たる「民主主義」や「基本的人権の尊重」、「平和主義」、そして「民主主義」を支える「地方自治」を蹂躙する行為である。「外交は国の専属事項」などと発言し、新基地建設問題については沖縄が口をはさむべきではない旨の主張がなされることもある。しかし自治体にも「憲法尊重擁護義務」(憲法99条)があり、市民の生命や健康、安全を守る責任が課されている以上、市民の生命や健康に大きな影響を及ぼす辺野古新基地建設に対して沖縄県が発言するのは当然である。安倍政権の辺野古新基地建設の強行は、「地方自治」はもちろん、日本の「民主主義」そのものを侵害するものである。

2 沖縄県民が辺野古新基地建設に反対する歴史的背景
 そもそも沖縄の市民がなぜここまで辺野古新基地建設に強く反対するのか、私たちはその事情に深く思いを寄せる必要がある。
 アジア・太平洋戦争末期、沖縄では悲惨な地上戦が行われた。日本の権力者は沖縄の市民に徹底抗戦を命じた。ところがそのような徹底抗戦は、本土決戦を遅らせるための「時間稼ぎ」「捨て石」にすぎなかった。沖縄に派兵された日本の軍隊及び兵士の中には、沖縄の市民から食料を強奪したり、「スパイ」とみなして虐殺したり、「強制集団死」を強要するなどの行為に及んだ者もいた。「鉄の暴風」と言われるアメリカ軍の激しい攻撃や、日本軍の一連の行為により、犠牲となった沖縄の市民は9万4千人以上、実に県民の4人に一人にも及ぶ。アジア・太平洋戦争での日本軍の行動は、沖縄の市民に「軍隊は国民を守らない」という現実を深く印象付けることになった。
 その後、アジア・太平洋戦争が終結し、沖縄が米軍に占領された時代でも、「軍隊は国民を守らない」という現実は変わらなかった。朝鮮戦争や冷戦など、悪化する国際情勢の中、日本に新しい基地が必要だと判断した米軍は、いわゆる「銃剣とブルドーザー」により沖縄の市民から土地や田畑を強奪し、家屋を壊して次々と新しい基地を建設した。現在、歴代日本政府が危険だと主張する「普天間基地」も、米軍による土地強奪で建設されたという歴史的経緯を正確に認識する必要がある。さらには米軍統治下でも、度重なる米兵犯罪、事故、環境破壊等により、沖縄の市民は耐えがたい苦痛を受け続けてきた。

3 沖縄における「基本的人権」の侵害
 米軍や米軍人等により、沖縄の市民が耐えがたい苦しみを受けている状況は現在も変わらない。在沖米軍や軍人たちの存在により、憲法で保障されたさまざまな権利、とりわけ「平和的生存権」や「環境権」が著しく侵害、脅かされてきた。
平和的生存権(憲法前文等)の侵害
「平和的生存権」とは、例えば「いかなる戦争及び軍隊によっても自らの生命その他の人権を侵害されない権利」として理解され、豊富な内容を有するものだが、沖縄ではこうした権利が米軍人等による凶悪犯罪、米軍機の墜落事故や部品などの落下事故、住民の生活を顧みない軍事訓練により侵害され、脅かされ続けている。その上、いざ米軍が戦争などをする事態に至れば、沖縄が攻撃対象となる危険性がある。2001年のアメリカ同時多発テロの際、沖縄への観光客や修学旅行者は大幅に減少した。こうした事実は、有事となれば沖縄が米軍の戦争に巻き込まれて攻撃対象となると多くの人々が認識していることを示すものである。

◆峇超権」(憲法13条、25条)の侵害
 次に在沖米軍により、「良好な環境を享受し、これを支配する権利」である「環境権」が侵害されてきた。たとえば米軍の軍事訓練が原因となって生じる「米軍山火事」は1972年の沖縄復帰後から2018年10月末までに620件も存在する。沖縄県の資料によれば、嘉手納基地や普天間基地周辺の騒音は、最大ピークレベルでは飛行機のエンジン近くと同程度、平均ピークレベルでも騒々しい工場内と同程度の騒音とされている。こうした騒音のため、学校での授業にも悪影響が生じるなどの事態も生じている。米軍基地内からの度重なる燃料流出事故の結果、土壌や河川が汚染され、沖縄の市民の生活や健康への悪影響も懸念されている。沖縄にはあらゆる種類の「基地公害」があり、沖縄の市民は「環境権」侵害行為にも苦しめられてきた。

4 「平和主義」の侵害
 歴代日本政府は、「沖縄の基地負担の軽減」「抑止力の維持」を理由に辺野古新基地建設を進めてきた。しかし辺野古に建設が予定されている新基地には、航空機に弾薬を搭載する「弾薬搭載エリア」、航空機専用の燃料を運搬するタンカーが接岸できる「燃料桟橋」、佐世保の強襲揚陸艦「ワスプ」などの接岸できる、全長272mの「護岸」など、普天間基地にはない新機能が付与されようとしている。普天間基地には現在、「空飛ぶ棺桶」「未亡人製造機」と言われるほど墜落事故が多い「オスプレイ」が24機配備されているが、辺野古新基地には100機のオスプレイが配備されるとの情報もある。以上のような辺野古新基地の建設は、「沖縄の基地負担の軽減」どころか「基地負担の増大」「基地機能の強化」であり、米軍の「出撃拠点基地」「後方支援基地」「軍事訓練基地」としての機能が一層強化される。辺野古新基地建設は基地機能の強化となるものであり、憲法の基本原理である「平和主義」とは決して相いれない。

5 「辺野古が唯一の選択肢」という安倍政権の主張の欺瞞
 安倍政権は、東アジアにおける抑止力として在沖米軍基地が不可欠と説明する。しかし、沖縄に駐留している海兵隊は今後、大幅に削減されることになっている。しかも第31海兵遠征隊(31MEW)は半年以上も沖縄を留守にする、ほとんど沖縄にいない部隊である。実際に東アジア有事を想定した場合、兵力は少なすぎる。第31海兵遠征隊に組み込まれるオスプレイやヘリコプター運用のための航空基地が必要とされるために普天間から辺野古に移転されるが、第31海兵遠征隊は自己完結性を持たず、長崎県佐世保の強襲揚陸艦が沖縄に寄港し、海兵隊を積載して任務にあたる。安倍政権による「辺野古が唯一の選択肢」との主張は欺瞞といわざるを得ない。

6 おわりに
 日本本土の約0.6%しかない沖縄県に全国の米軍専用施設の約70.6%が集中するなど、沖縄には米軍基地の負担が押し付けられてきた。そこで多くの沖縄の市民は、これ以上の基地負担には耐えられないとの思いで辺野古新基地建設に反対してきた。ところが安倍政権は沖縄の民意を無視して基地建設を強行してきた。2018年12月14日には辺野古湾岸部で土砂投入を強行した。ここで埋め立てられているのは辺野古・大浦湾周辺の美しい海、絶滅危惧種262種類を含む5800種類以上の生物だけではない。「基本的人権の尊重」「民主主義」「平和主義」「地方自治」といった、日本国憲法の重要な基本原理も埋め立てられているのである。辺野古新基地建設に反対する人たちに対しては、「普天間の危険性を放置するのか」といった批判が向けられることがある。しかし「普天間基地」の危険性を除去するというのであれば、普天間基地の即時返還を求めれば良いのである。そもそも日本が「主権国家」だというのであれば、外国の軍隊が常時、日本に駐留すること自体が極めて異常な事態であることを認識する必要がある。「平和」や「安全」が重要なことはいうまでもないが、それらは「軍事力」や「基地」では決して守ることができないことを、私たちは悲惨な戦争を通じて歴史的に学んだ。アメリカと朝鮮民主主義人民共和国の最近の関係改善にもみられるように、紛争回避のための真摯な外交努力こそ、平和実現には極めて重要である。日本国憲法の国際協調主義も、武力による威嚇や武力行使などによる紛争解決を放棄し、積極的な外交努力などを通じて国際社会の平和創造に寄与することを日本政府に求めている。東アジアの平和は「抑止力」などという、軍事的脅迫によって達成されるものではない。辺野古新基地建設は、平和的な外交努力などによる平和構築を目指す日本国憲法の精神にも逆行し、むしろ軍事攻撃を呼び込む危険な政治的対応である。私たち憲法研究者有志一同は、平和で安全な日本、自然豊かな日本を子どもや孫などの将来の世代に残すためにも、辺野古新基地建設に対して強く反対する。

                                     以上
(賛同者) 
愛敬浩二(名古屋大学)
青井未帆(学習院大学)
青木宏治(高知大学名誉教授)
浅野宜之(関西大学)
麻生多聞(鳴門教育大学)
足立英(大阪電気通信大学名誉教授)
飯島滋明(名古屋学院大学)
井口秀作(愛媛大学)
石川多加子(金沢大学)
石川裕一郎(聖学院大学)
石塚迅(山梨大学)
石村修(専修大学名誉教授)
井田洋子(長崎大学)
伊藤雅康(札幌学院大学)
稲正樹(元国際基督教大学)
井端正幸(沖縄国際大学)
岩本一郎(北星学園大学)
植野妙実子(中央大学)
植松健一(立命館大学)
植村勝慶(國學院大學)
右崎正博(獨協大学名誉教授)
浦田一郎(一橋大学名誉教授)
浦田賢治(早稲田大学名誉教授)
榎透(専修大学)
榎澤幸広(名古屋学院大学)
江原勝行(岩手大学)
大内憲昭(関東学院大学)
大久保史郎(立命館大学名誉教授)
大津浩(明治大学)
大野友也(鹿児島大学)
大藤紀子(獨協大学)
岡田健一郎(高知大学)
岡田信弘(北海学園大学)
奥野恒久(龍谷大学)
小栗実(鹿児島大学名誉教授)
小沢隆一(東京慈恵会医科大学)
柏敏義(東京理科大学)
金澤孝(早稲田大学)
金子勝(立正大学名誉教授)
上脇博之(神戸学院大学)
河合正雄(弘前大学)
河上暁弘(広島市立大学)
川畑博昭(愛知県立大学)
菊地洋(岩手大学)
北川善英(横浜国立大学名誉教授) 
木下智史(関西大学)
君島東彦(立命館大学)
清末愛砂(室蘭工業大学)
倉田原志(立命館大学)
倉持孝司(南山大学)
小竹聡(拓殖大学)
小林武(沖縄大学)
小林直樹(姫路獨協大学)
小松浩(立命館大学)
近藤敦(名城大学)
齋藤和夫(明星大学)
斎藤一久(東京学芸大学)
斉藤小百合(恵泉女学園大学)
坂田隆介(立命館大学)
笹沼弘志(静岡大学)
佐藤修一(東洋大学)
佐藤潤一(大阪産業大学)
佐藤信行(中央大学)
澤野義一(大阪経済法科大学)
志田陽子(武蔵野美術大学)
清水雅彦(日本体育大学)
清水睦(中央大学名誉教授)
菅原真(南山大学)
妹尾克敏(松山大学)
芹沢斉(青山学院大学名誉教授)
高作正博(関西大学)
盧潅卮(青山学院大学)
高橋利安(広島修道大学)
盒桐痢憤γ粒惘‖膤惷擬)
睥漂産函焚縄大学)
高良鉄美(琉球大学)
竹内俊子(広島修道大学名誉教授)
竹森正孝(岐阜大学名誉教授) 
田島泰彦(元上智大学)
多田一路(立命館大学)
建石真公子(法政大学)
館田晶子(北海学園大学)
千國亮介(岩手県立大学)
塚田哲之(神戸学院大学)
土屋仁美(金沢星稜大学)
寺川史朗(龍谷大学)
内藤光博(専修大学)
長岡徹(関西学院大学)
中川律(埼玉大学)
中里見博(大阪電気通信大学)
中島茂樹(立命館大学)
永田秀樹(関西学院大学)
中村安菜(日本女子体育大学)
長峯信彦(愛知大学)
永山茂樹(東海大学)
成澤孝人(信州大学)
成嶋隆(獨協大学)
二瓶由美子(元桜の聖母短期大学)
丹羽徹(龍谷大学)
根森健(神奈川大学)
長谷川 憲(工学院大学)
畑尻剛(中央大学)
雜晶子(龍谷大学)
廣田全男(横浜市立大学名誉教授)
福嶋敏明(神戸学院大学)
藤井正希(群馬大学)
藤澤宏樹(大阪経済大学)
藤野美都子(福島県立医科大学)
古川純(専修大学名誉教授)
前原清隆(元日本福祉大学)
松原幸恵(山口大学)
水島朝穂(早稲田大学)
三宅裕一郎(日本福祉大学)
宮地基(明治学院大学)
三輪隆(元埼玉大学)
村上博(広島修道大学)
村田尚紀(関西大学)
本秀紀(名古屋大学)
元山健(龍谷大学名誉教授)
森英樹(名古屋大学名誉教授)
安原陽平(沖縄国際大学)
山内敏弘(一橋大学名誉教授)
結城洋一郎(小樽商科大学名誉教授)
横尾日出雄(中京大学)
横田力(都留文科大学名誉教授)
吉田栄司(関西大学)
吉田善明(明治大学名誉教授)
若尾典子(佛教大学)
脇田吉隆(神戸学院大学)
和田進(神戸大学名誉教授)
匿名希望1名
2019年1月23日段階131名


2015年11・3神戸憲法集会のご紹介、チラシの折込作業のお知らせ、「後援」名義申請の不承諾問題

2015年11・3神戸憲法集会について以下ご案内いたします。
そのあとに、チラシの配布を希望される団体・個人の皆さまへのチラシ折込作業の案内を致します。


1.2015年11・3神戸憲法集会

(1)
統一テーマ:「戦後70年、日本国憲法の値打ちを学ぶ

(2)日程:2015年11月3日(火):文化の日

12時から「西神中央駅」前で宣伝行動します。ご参加下さい。

開場:12時30分(受付開始)       開演:13時30分

(3)会場:神戸市西区の「西区民センター」2階の大ホール(なでしこホール)
(神戸市営地下鉄山手線の「西神中央駅」下車、徒歩5分程度)

保育室:3階和室1

http://www.kobe-bunka.jp/facilities/nishi/

http://www.kobe-bunka.jp/nishi/nishi-content

(4)企画内容とタイムテーブル

開演:13時30分

〇焚饉埃己紹介

⊆膾甜圓△い気帖箆妥朕福κ叱妨憲法会議代表幹事・神戸大学名誉教授)

1薹(30分:13時40分〜14時10分)

 ・演者:劇団あすわかひょうご
 ・タイトル:「憲法が起きるまで 〜The Constitution Awakens」


な鷙(30分:14時10分〜14時40分)

 ・報告者:後藤浩・安保破棄兵庫県実行委員会事務局長
 ・タイトル:「沖縄と辺野古と憲法」


休憩(20分:14時40分〜15時00分)

ス岷(75分:15時00分〜16時15分)

・講師:吉田維一・弁護士(神戸合同法律事務所・兵庫県弁護士会憲法問題委員会委員長)
・タイトル:「70歳を前に躍動する憲法〜「劇団あすわかひょうご」3部作より〜」


κ腸颪△い気帖閉点鄰竜廖κ叱妨憲法会議代表幹事・兵庫労連議長)


2.チラシの折込を希望される団体・個人の方々へのご案内

上記神戸憲法集会でチラシの配布を希望される団体・個人の方々は、
当日午前11時までに
チラシ500枚を会場へご持参ください。
時刻厳守でお願い致します。

そして、午前11時からの
集会プログラム等への折込作業にご参加していただき
ご協力をお願いいたします。

3.神戸市・同市教育委員会、兵庫県・同県教育委員会の「後援」名義使用不承諾問題のご報告

(1)今回の憲法集会については、これまでのように神戸市と同市教育委員会に対してだけではなく、兵庫県と同県教育委員会に対しても、「後援」名義の使用を求める申請をしましたが、いずれも不承諾との回答でした。

(2)まず、そのマスコミ報道を紹介しておきます。
神戸新聞2015/10/13 14:15
護憲派集会 兵庫県、県教委も後援断る 神戸で11月開催

 護憲派の市民団体などでつくる実行委員会が、11月3日に神戸市内で開く予定の「神戸憲法集会」について、兵庫県と県教育委員会が後援依頼を断っていたことが分かった。政治活動に関わる可能性があると判断したという。同市と市教委も、後援を認めなかった。
 憲法公布日に合わせ、実行委が弁護士の講演などを計画。憲法集会の後援をめぐっては、神戸市と市教委が、昨春、昨秋、今春と3回続けて不承認としていたが、今回は「戦後70年の節目に当たる」(実行委)として県と県教委にも申請した。
 県と県教委によると、7日付の文書で通知。県の担当者は「憲法に対してさまざまな政治的主張がある中で、『政治活動に関わりがない』という順守事項に抵触する恐れがある」と不承認の理由を説明した。
 神戸市と市教委も、「後援を差し控える」とする文書を5日付で実行委に送付。担当者は共に「総合的な判断」としている。
 実行委は、後援を認めなかった理由について、詳しい説明を求めるという。
(小川 晶)

毎日新聞 10月13日(火)20時34分配信
<神戸憲法集会>後援依頼 兵庫県と神戸市など断る

 ◇「政治活動に関わりがない」に抵触の可能性を理由に
 11月3日に神戸市で護憲派の市民団体などでつくる実行委が開く「神戸憲法集会」の後援依頼を、兵庫県と神戸市、両教育委員会が断っていたことが分かった。県は「後援の要綱にある『政治活動に関わりがない』に抵触する可能性がある」と説明している。
 集会は憲法記念日のある5月と憲法が公布された11月に毎年開催。今年は「戦後70年、日本国憲法の値打ちを学ぶ」をテーマに弁護士が講演し、米軍基地の沖縄・辺野古移設問題の報告も予定する。
 神戸市と市教委は2014年から後援を断っており5日付で文書で通知。「総合的に判断した」(神戸市)と説明している。県と県教委には初めて後援依頼があり、7日付で文書で拒否を通知した。
 実行委は「事情説明を求めたい」としている。【井上元宏】

産経新聞2015.10.13 21:54更新
「護憲派」憲法集会の後援申請にノー 兵庫県「政治活動にかかわること禁止」
 護憲派の市民団体などでつくる実行委員会が11月3日に神戸市内で開く集会について、兵庫県と同県教育委員会が実行委からの後援申請を断っていたことが13日、分かった。県などは政治活動にかかわる可能性があると判断したという。
 県教委などによると、集会は、毎年春と秋に開催される「神戸憲法集会」で、弁護士の講演などが行われる。実行委から「今年は戦後70年の節目の年にあたる」として9月上旬、県と県教委に初めて後援申請があった。しかし、「憲法に対してはさまざまな政治的主張があり、政治活動にかかわることを禁止している後援の要領に抵触する恐れがある」と判断。今月7日付で文書で通知した。
 神戸市と同市教委は昨春から3回続けて不承認としており、今回も「特定の政治的立場に立って講演される可能性がある」として後援を断った。

(3)この問題については、以前、紹介した私たち神戸憲法集会実行委員会のご報告と批判をお読みください。

”後援”を不承諾した神戸市・教育委員会に抗議文を提出し、説明を求めましたが・・・

日本は安倍政権を筆頭に地方自治体も、立憲主義を否定する前近代的な国家・社会に突入しています。
恐ろしいことです。
この流れを阻止し、立憲主義を回復しなければなりません!

兵庫県憲法会議2015年度総会議案書のなかの「憲法をめぐる情勢」

先月(2015年7月23日(木)18時30分〜、兵庫高教組会館3F
憲法改悪阻止兵庫県各界連絡会議(兵庫県憲法会議)の2015年度総会が開催されました。


この総会の議案書の目次は、以下のとおりでした。
機  2014年度活動報告
供  2014年度会計報告
掘  〃法をめぐる情勢 
検  2015年度活動方針(案)
V   2015年度役員(案)
此  2015年度予算(案)

以下では、このうち「憲法をめぐる情勢」の箇所だけをご紹介します。

掘〃法をめぐる情勢 

1. 全国的な情勢
(1)戦争法案の国会提出(5.15)…昨年7月の閣議決定を踏まえて、次の2法案が国会に提出された。新法として海外派兵恒久法としての国際平和支援法(「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律」)と次の10本の法律(自衛隊法、PKO等協力法、周辺事態法、船舶検査活動法、武力攻撃事態対処法、米軍行動関連措置法、特定公共施設利用法、海上輸送規制法、捕虜取り扱い法、国家安全保障会議設置法)を改正する平和安全法制整備法(「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律」)。この2法案は、(瞳海鮹羈砲箸垢訛捷餬海侶鎧力行使への全面的な支援(兵站)を可能にすること、国連PKOとは異なる国連非統括の治安維持活動への参加、「任務遂行型」の武器使用容認、F盂佞亮膣囘判断に基づく集団的自衛権の行使、な瞳嚇の武器等防護のための武器使用、国外犯処罰規定の新設など、自衛隊がグローバルな規模で、武器の使用=武力行使を展開する体制を築くものであり、憲法に真っ向から違反する「戦争法案」という性格を持っている。
 この法案に対しては、圧倒的多数の憲法学者が「憲法違反」の声を上げ、日弁連、各都道府県弁護士会、SEALDs(Students Emergency Action for Liberal Democracy – s)(自由と民主主義のための学生緊急行動)、女性たちのレッドアクションなどなど多様な反対運動が展開されている。歴代内閣法制局長官、自民党の幹事長経験者なども反対の声を上げ、従来の保革の枠組みを超えた反対の声が広がっている。世論調査では過半数が法案に反対を表明し、内閣支持率も不支持が多数を占めるに至っている。国会審議で追い込まれた与党は95日間という戦後最長の国会延長を強行した。そして、安倍首相は、「まだ、国民の理解が進んでいないのも事実だ」と審議不充分を認めたうえで衆議院で強行採決をした(7.16)。これは文字通りのファッショであり、民主主義の破壊である。

(2)日米防衛協力の指針(ガイドライン)の改定(4.27)…1997年ガイドラインが18年ぶりに改定された。この改定は戦争法案を先取りするものであるが、 屮▲献◆β席人涼楼莎擇咾海譴魃曚┐臣楼茵廚畔源通り、グローバルな規模で、◆嵎浸から緊急事態までのいかなる状況においても」「切れ目のない」共同軍事行動を展開することを約束し、そのため「日米両政府は、新たな、平時から利用可能な同盟調整メカニズムを設置し、運用面の調整を強化し、共同計画の策定を強化する」としている。
 日米安保強化の最前線となっている沖縄の辺野古新基地建設について、沖縄県の第三者委員会が仲井真前知事の「埋め立て承認」の手続きに4つの法的瑕疵があるとする報告書を提出し(7.16)、翁長知事による「取り消し」が8月にも行われる状況が生まれている。

(3)防衛省設置法改正(6.10)…いわゆる「文官統制」を廃止し、新たに防衛整備庁を設置するもの。背広組の官房長や局長が「防衛大臣を補佐する」という規定が削除され、統合幕僚長、陸海空各幕僚長が官房長や局長と対等に防衛大臣を補佐することとされた。またこの改正と合わせて自衛隊の運用についても背広組が担ってきた「運用企画局」を廃止して、制服組主体の組織である「統合幕僚監部」に部隊運用業務を統合することとなる。戦争法案が現場の判断での武器使用=武力行使を広範に認めていることと合わせ、制服組の暴走が危惧される。防衛装備庁は、防衛生産・技術基盤の維持・強化のために武器の調達を合理化するため武器の開発・生産・購入といった権限を一元化して、兵器産業の育成・強化をも進めるものである。また「防衛装備移転三原則」に基づく武器輸出を積極的に推進する役割を担うものでもある。

(4)70年談話…日本国憲法の原点はアジア・太平洋戦争に対する総括にある。その到達点は「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を進んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました」と言明し、植民地支配と侵略戦争の歴史に対する謝罪と反省を明らかにした95年の村山首相談話である。歴史修正主義を体現する安倍首相は8月に「70年談話」を出すとしているがその内容に注目していく必要がある。

(5)生活と暮らし…2030年度の電源構成で原発の割合を20〜22%にする「長期エネルギー需給見通し」を経産省有識者会議が決定した(7.16)。九州電力鹿児島県川内原発を皮切りに、関西電力高浜原発、四国電力伊方原発などの再稼動の危険性が高まっている。TPP交渉が大詰めを迎えているが、その行方は暮らしと生活に深刻かつ重大な影響を及ぼすことになる。

(6)教育…文部科学省が小中学校の道徳を「特別な教科」とする新学習指導要領を告示(3.27)。2014年1月改定の教科書検定基準に基づく中学校教科書への検定が公表され、社会科への検定強化が明らかになった。学長への権限集中を背景にして、大学への露骨な介入が進められている。文部科学省が人文社会系学部、教員養成系学部の淘汰を促す通知を全国の国立大学に出し(6.8)、下村文科相が入学式・卒業式での日の丸・君が代の要請(6.16)など、運営費交付金の格差的配分を圧力に大学の自治・学問の自由の委縮状況の危険性が生じている。18歳選挙権の成立に伴い高校での主権者教育の必要性が一層高まっているが、自民党内には「政治的中立性の確保」の名のもとに教員に罰則を課す案が浮上している。

(7)雇用・労働法制…労働者派遣法の大改悪、「生涯ハケン」「正社員ゼロ」社会へ。労働基準法改悪による「残業代ゼロ」法案の推進、裁量労働制の拡大、ジョブ型社員(限定社員制度)、解雇の金銭解決制度など雇用における異常な規制緩和の推進がはかられ、働く人の保護のための資本への規制強化から、企業活動を重視する規制緩和路線への転換が乱暴に押しし進められようとしている。

(8)選挙制度…昨年12月14日の総選挙は、改めて小選挙区制の弊害を明らかにした。小選挙区選出部分で自民党は48%の得票率で75%の議席を占め、小選挙区で投じられた票の何と2541万票が議席に反映されない「死票」となっている。投票率は52.66%という「衝撃」の戦後最低投票率を記録したが、48%の投票が「死票」となるという小選挙区制の投票への無力感も要因になっている。参院選の格差是正は、自民と4野党の6増6減・2合区案と公明・民主の10合区案に収れんされてきているが、ここでも「全国民を代表する選挙された議員」(憲法43条)という憲法的要請を踏まえた比例代表要素の実現が課題となっている。公職選挙法が改正され、18歳選挙権が成立した(6.17)。来年の参院選から適用されることになる。

(9)再婚禁止・夫婦別姓…女性の再婚禁止期間と夫婦別姓を認めないことを定めた民法の規定の合憲性の訴訟について、最高裁大法廷は、11月4日に口頭弁論を開くことを決定(6.25)。年内にも初の憲法判断を示す見通し。

(10)明文改憲…明文改憲の本丸である第9条改正の前に、環境権、緊急事態条項、財政規律条項の新設を2017年の通常国会で発議・国民投票という方向を言明していたが(船田元自民党憲法改正推進本部長)、6月4日の衆院憲法審査会で与党推薦の参考人を含めて3人全員が戦争法案の憲法違反を明言したため、その後審査会は開催できない状況になっている。「日本会議」が昨年10月「美しい日本の憲法をつくる国民の会」を結成して、「9条の会」に対抗して地方から憲法改正の声を高めようとしている。1000万人署名、地方議会決議を追及し、来年の参院選での憲法改正国民投票を呼び掛けている。

2.兵庫県内の情勢

☆「特定秘密保護法」に反対する運動で兵庫県弁護士会と憲法共同センターの共同のとりくみが発展し、昨年7月の集団的自衛権行使の憲法解釈変更の閣議決定後デモ行進や宣伝行動が毎月おこなわれるようになった。今年6月21日、弁護士会が主催の「集団的自衛権&特定秘密保護法」反対の集会にはら弁護士120人を含む9000人の県民が結集した。今年の「戦争法案」閣議決定後、反対運動は一気にひろがった。新温泉町議会で「廃案」、尼崎市、豊岡市、加西市が「慎重審議」を求める意見書を採択した。兵庫県議会は、憲法会議などで請願したが不採択となった。

☆憲法共同センターは全県でブロック会議をおこない毎週の宣伝行動などをよびかけ、各地域での集会・デモ・宣伝行動がひろがっている(別紙)。青年・学生のシール投票えの対話宣伝や「標的の村」映画会上映会にネットでの参加が広がったり、新日本婦人の会による「レッドアクション」が各地でとりくまれ、一人でプラカードを掲げて街頭に「立つ」宣伝など、「この情勢に何かしたい」という誰もが「一人」でもできる行動も広がった。また「明日の自由を守る若手弁護士の会」が「憲法カフェ」を始めとする各層・各団体での講師活動など、草の根での「憲法学習」を広げた。

☆憲法会議主催の「神戸憲法集会」では、神戸市・神戸市教育委員会は「後援申請」を繰り返し「不承諾」とした。「政治的中立性を損なうおそれ」との不承諾理由は、自治体の「憲法尊重擁護義務」を否定する重大なものであり、憲法会議としてその都度、抗議し、撤回を要求した。久本神戸市長は、今まで後援してきた非核「神戸方式」記念集会への後援も間違っていたと記者会見で表明するまでになっている。。      

☆兵庫県が、阪神間の防災訓練に米軍の参加(オスプレイ参加も)を要請した。開催地芦屋市を中心に300人以上の参加で抗議集会が行われた(14年8月)。県の防災計画を米軍の関与を認めるものに改定するなど、「防災」を口実とした軍事一体化の動きが目立つ。秋には、陸上自衛隊中部方面隊で、日米共同指揮所訓練(ヤマサクラ)も計画されている。

☆今年1月、但馬地域で米軍機の低空飛行が目撃され、オスプレイを含む低空飛行訓練の再開、強化が危惧される。地元では、約80人の参加で「オスプレイ・米軍機低空飛行訓練を許さない但馬の会」が結成され、現地調査活動が行われた。

☆三田市で、中学3年生に自衛隊募集要項がいっせいに送りつけられ、教育委員会が名簿を自衛隊に提供したのではないかと疑われている。「トライアルウイーク」の研修先に自衛隊が選ばれる事例も各地で起こっている。自衛隊が自衛官募集担当者の会議で、安定した自衛官確保のため、学校教育への「働きかけ」、学校との「連携強化」などを提案しているなど、自衛隊の学校教育への介入の事態に注目する必要がある。

☆非核「神戸方式」は、40周年記念集会に260人が参加し、日米ガイドラインによる日米軍事同盟態勢の強化にたいするクサビの役割をいっそう明確にしている。核兵器廃絶の運動ではNPT再検討会議に、兵庫県から50人が参加。核兵器署名が寺院・教会訪問、高校門前など従来にない範囲で取りくまれた。平和行進には例年の3〜4割り増しの参加者があるなど関心の強さを示した。

☆毎週金曜日に関電前で行われてきた原発反対の「関金行動」は160回に達し、「原発ゼロ」の態度を明確にしない兵庫県や関電との交渉、県知事抗議集会・デモなどの諸行動が行われた。西宮市、芦屋市、姫路市、尼崎市、灘区など県下各地で「原発ゼロの会」が立ち上げられ、粘り強く闘われている。

☆またくらしを守る運動では、消費税各界連や「なくす会」による毎月の宣伝行動がおこなわれ、国保相談活動・年金者組合による「意義申し立て」行動がひろがった。子育て世代を中心に、「中学校給食実現」を求める運動も各地で取り組まれ、8割の自治体で実現している。
 以上のとりくみは、安倍政権の支持率を低下させ、安倍政権打倒の運動に発展しつつある。

「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(9):自民党改憲にとっての「押しつけ憲法」論の意味

「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?
このテーマで、これまで8回投稿してきました。

「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(1):天皇が命じて審議され「改正」が公布された

「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(2):日本国憲法の世界史・日本史上の意義

「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(3):ポツダム宣言に合致する日本国憲法

「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(4):環境権など「新しい人権」の保障を否定している

「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(5):自民党政権は戦争していても「戦争はしていない」と説明!

日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(6):個人主義も基本的人権も実質否定!

日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(7):徴兵制も「合憲」!?

日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(8):ハーグ陸戦条約の適用はありません

以上の投稿は、あえて大きく分ければ、2つに分けられます。

一つは、第1回から第3回まで及び第8回の投稿です。
もう一つは、第4回から第7回までの投稿です。


14.「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値しないのではないか

(1)第1回から第3回まで及び第8回の投稿を読んでいただければわかるように、日本が「ポツダム宣言」を受諾した以上、日本は、その「ポツダム宣言」に反する大日本帝国憲法を維持することはできなかったので、新しい憲法を”制定”(大日本帝国憲法を改正)するしかありませんでした。
それは、「ポツダム宣言」に反するものであってはならなかったわけで、日本国憲法は「ポツダム宣言」に反せず、合致していました。

(2)ところで、「日本国憲法=押しつけ憲法」論には、「日本国憲法が無効である」とする立場と、「新憲法を制定すべきである」あるいは「日本国憲法を改正すべきである」という立場があるでしょう。
いずれの立場にせよ、日本国憲法=押しつけ憲法」論は、そもそも理論に値するのでしょうか?
前者は法的議論で、後者は、政治的議論です。

まずは、前者から検討しますが、その検討は後者にも妥当する部分が多々あります。

(3)前者の検討においては、幾つかの論点があります。

第1は、日本への「押しつけ」があったといえるのかどうか?
第2は、日本国憲法が「押しつけ憲法」といえるかどうか?
第3は、「日本国憲法が無効である」とする「日本国憲法=押しつけ憲法」論に根拠があるのかどうか?
第4は、「日本国憲法=押しつけ憲法」論が妥当なのかどうか?

(4)まず、第1の論点ですが、
GHQ案が日本側に提示されたことは事実ですので、これが日本への「押しつけ」と評しうるものかどうか、ということになります。

当時の支配層は大日本帝国憲法とほとんど変わらない松本案(憲法問題調査委員会「憲法改正要綱」)をつくったことを考えれば、当時の支配層にとっては、明らかに「押しつけ」だったことでしょう。

また、GHQ案の提示は、100%日本人の手で日本国憲法がつくられたわけではないことになるでしょうから、その限りで「押しつけ」があったことになると考える立場もあるでしょうが、
他方では、100%GHQがつくったわけでもないとして、それは、日本国憲法”制定”過程における極一部であるとして、あえて「押しつけ」とまでは考えない立場もあるでしょう。

(5)次に、第2の論点です。
日本国憲法が「押しつけ憲法」といえるかどうか?

第1の論点で「押しつけ」を感じるとまでは言えないという立場であれば、日本国憲法が「押しつけ憲法」と受けとめることはないでしょう。

他方、「押しつけ」を強く感じた立場であれば、日本国憲法が「押しつけ憲法」と受けとめることになるのかもしれません。

しかし、「押しつけ」を少ししか感じなかった立場では、日本国憲法を「押しつけ憲法」とまでは受けとめないでしょう。

というのは、日本国憲法の”制定”過程は、GHQ案の提示だけではないからです。
まず、当時の民間草案(特に憲法研究会「憲法草案要綱」)が参考にされていますし、かる、これは、自由民権運動における憲法制定の努力を反映しているからです。
また、日本政府が「憲法改正草案要綱」を発表したほぼ1ヶ月後に戦後第1回の衆議院選挙(1946年4月10日)が20歳以上の男女による普通選挙で施行されましたから、日本国民は、「憲法改正草案要綱」を意識して投票しているからです。
さらに、毎日新聞の世論調査によると日本国憲法の基本原理を受け入れていましたし、民意が反映した帝国議会は、その調査結果を知って審議していましたし、その上、帝国議会では修正もされたからです。
当時の吉田茂首相は、紹介したように、1949年に国会で「政府は憲法改正の意思は持っていない」と答弁し、日本国憲法の再検討をしなかったからです。

また、日本政府が「ポツダム宣言」に反する松本案しか考えられなかったからGHQ案の提示がなされたので、「ポツダム宣言」を「押しつけ」と評する必要がないと考えれば、GHQ案の提示も「押しつけ」とは言えないと考える立場もあるでしょう。

(6)では、第3の論点です。
「日本国憲法が無効である」とする「日本国憲法=押しつけ憲法」論に根拠があるのかどうか?

日本国憲法が「押しつけ憲法」とまでは受けとめない立場であれば、そもそも日本国憲法が無効だと考える余地はないでしょう。

日本国憲法が「押しつけ憲法」と受けとめる立場であっても、「日本国憲法が無効である」とする「日本国憲法=押しつけ憲法」論の根拠を見い出すことは、ほとんど不可能です。
というのは、しばしば、いわゆるハーグ陸戦条約の適用を引き合いに出す見解があるものの、この見解が有意義であるためには、戦時国際法であるハーグ陸戦条約が休戦後にも適用されるし、かつポツダム宣言に優先して適用されるという立場に立たなければなりませんが、この立場は通説ではありません。

そうなると、「ポツダム宣言」が無効であると主張するか、さもなければ、日本国憲法が「ポツダム宣言」に反すると主張するしかありませんが、前者は無茶です。

(7)以上の検討からすると、日本国憲法が「ポツダム宣言」に反するとの結論に至らない限り、「日本国憲法が無効である」とする「日本国憲法=押しつけ憲法」論に根拠は見当たらないことになりますが、日本国憲法が「ポツダム宣言」に反すると評しえないことは、明らかでしょう。

それゆえ、日本国憲法”制定”過程において「押しつけ」があったとの立場に立ったとしても、日本国憲法が「押しつけ憲法」と評しうるわけではないでしょうし、たとえ「押しつけ憲法」と評さざるを得ないとしても、必然的に日本国憲法が無効になるとの結論に至るわけでもありませんし、そもそもその根拠も見出せません。

(8)要するに、日本国憲法は「ポツダム宣言」に反しないので、「日本国憲法が無効である」とする「日本国憲法=押しつけ憲法」論は、その根拠も見出し難く、そもそも理論に値しない無謀な主張であると言っても過言ではないのではないでしょうか。

(9)では、次に、「日本国憲法=押しつけ憲法」であるとして新憲法制定または憲法改正を主張する政治論の立場について検討します。

しかし、この立場においても、当時の占領に適用されない(適用されても優先適用されない)ハーグ陸戦条約を引き合いに出すのは、不適切です。

(10)政治論であれば、まず、当時の国民が、如何に「押しつけ」と強く感じ、日本国憲法に対し如何に強く反対していたという事実を上げなければ、何の説得力もありません。

たとえそれに成功しても、それだけでは不十分です。
今の国民も「押しつけ」と感じ続けており、日本国憲法に対し強く反対しているという事実をあげなければ、なりません。

ところが、、「日本国憲法=押しつけ憲法」論を主張する自民党は、前者の事実さえ指摘してはいません。
毎日新聞の「憲法改正草案要綱」についての世論調査で「象徴天皇制」に賛成が85%、「戦争放棄」に賛成が70%という結果が出ていましたが、自民党は、その実を否定できるほど、当時の国民が「押しつけ」を強く感じ、日本国憲法に対し強い反対があったという事実を指摘してはいません。

(11)これでは、新憲法制定または憲法改正を主張する「日本国憲法=押しつけ憲法」論が真っ当な理論とは到底思えません。



15.自民党改憲にとっての「日本国憲法=押しつけ憲法」論の意味

(1)日本国憲法の改正論を主張する場合、あえて「日本国憲法=押しつけ憲法」論を主張しなければならないわけではないでしょう。

ましてや「日本国憲法=押しつけ憲法」論が理論に値しないのであれば、尚更です。

(2)しかし、自民党は、あえて「日本国憲法=押しつけ憲法」論に立場に立って改憲論を主張してしまいました。

これは、何を意味するのでしょうか?

(3)それは、自民党の改憲が日本国憲法を受け入れた上で、それを、より発展させようとするものではないということ、言い換えれば、日本国憲法の正当性(正統性)を否定することで、日本国憲法を本質的に否定した改憲を目指しているということなのです。

この点は、第4回から第7回までの投稿で確認できました。

(4)すなわち、自民党の冊子漫画や自民党「日本国憲法改正草案」を読むと、それらが求める改憲が実現してしまうと、日本国憲法とは正反対の憲法が誕生することがわかります。
より具体的に言えば、日本は、自衛戦争、さらには義務になる他衛戦争も行い、アメリカに追随して多国籍軍の戦争にも参戦することになりますから、日本国憲法の戦争放棄は完全に放棄されます。

自民党流の9条改憲論者は、しばしば、改憲が戦争抑止になると主張していますが、アメリカは実際戦争し、日本は後方支援もしてきたのですから、そのような主張は、デマのたぐいでしょう。

そのうえ自民党は、すでに紹介したように、戦争していても「戦争はしていない」と言い張りことになります。

(5)自民党は、日本国憲法の平和的生存権を削除しようとしています。
このことからわかるように、戦争放棄の放棄は、人権侵害に帰着します。

自民党は、基本的人権も実質的には否定し、基本的人権尊重主義は放棄しています。
環境権などの「新しい人権」も保障する気はないどころか、むしろ否定しようとしています。

(7)要するに、自民党が理論的根拠のない「日本国憲法=押しつけ憲法」論をあえて主張したのは、日本国憲法とは本質的に正反対の憲法を目指しているからなのです。
決して日本国憲法を、より発展させた憲法にしようとしているのではないのです。


最後に

これまでの投稿で取り上げたものも含め、また、取り上げなかったものについては、以下の拙著を参照してください。

単著『自民改憲案 VS 日本国憲法    緊迫! 9条と96条の危機』

単著『安倍改憲と「政治改革」  【解釈・立法・96条先行】改憲のカラクリ』

共著『高校生と教師の憲法授業』

http://www.kikanshi-book.com/憲法研究者-上脇博之の本/

http://www.kikanshi-book.com/ご注文-お問合わせ/

(おわり)

日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(8):ハーグ陸戦条約の適用はありません

日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?
このテーマで、これまで7回投稿してきました。

「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(1):天皇が命じて審議され「改正」が公布された

「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(2):日本国憲法の世界史・日本史上の意義

「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(3):ポツダム宣言に合致する日本国憲法

「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(4):環境権など「新しい人権」の保障を否定している

「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(5):自民党政権は戦争していても「戦争はしていない」と説明!

日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(6):個人主義も基本的人権も実質否定!

日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(7):徴兵制も「合憲」!?


13.「ポツダム宣言」受諾後の占領にハーグ陸戦条約の適用はない!

(1)第3回の投稿で、私は、日本政府は「ポツダム宣言」を受諾した以上、これに反する憲法は国際法上つくれない旨、書きました。

(2)ところが、これに対し、占領中の憲法”制定”はハーグ(陸戦)条約違反であるから日本国憲法は無効だという趣旨の意見が、私のブログを転載したBLOGOSで複数書き込まれています。

そういえば、自民党の冊子漫画の16ペイジでも、「ハーグ条約には『占領者は占領地の現行法律を尊重すべし」とあるが・・・・」と紹介しています。

http://jimin.ncss.nifty.com/pdf/pamphlet/kenoukaisei_manga_pamphlet.pdf

BLOGOSにおける書き込みは、この冊子漫画を読み、それを鵜呑みにして書き込んだか、誰かの主張を読み、それを鵜呑みにして書き込んだか、あるいは、意図的にデマを書き込んだか、のいずれかでしょう。

(3)法律学者で、「日本国憲法がハーグ(陸戦)条約違反で無効である」旨、主張する者は、ほとんど見られないので、その主張は論外の主張ですから、私があえて、これに応答する必要もないとは思いますが、一応、解説しておきましょう。

(4)まず、当該条約ですが、それは、1899年にオランダのハーグで採択され、1907年に改定されたもので、「陸戰ノ法規慣例ニ關スル條約」です。

該当する条文は以下のようです。
第四三條 國ノ權力カ事實上占領者ノ手ニ移リタル上ハ占領者ハ絶對的ノ支障ナキ限占領地ノ現行法律ヲ尊重シテ成ルヘク公共ノ秩序及生活ヲ囘復確保スル爲施シ得ヘキ一切ノ手段ヲ盡スヘシ

(5)この「ハーグ陸戦条約」は、その名称からもわかるように、戦時国際法です。
ですから、この条約の適用があるのは戦争(交戦)中の場合ですし、同条約第43条の適用があるのは戦争(交戦)中の占領者です。

それゆえ、交戦後(休戦中)の占領には適用がありません。

日本国憲法が”制定”されたのは、日本が不条件降伏した後ですから、そもそも「陸戰ノ法規慣例ニ關スル條約」=ハーグ陸戦条約の適用はないのです。

ですから、そもそも適用されない条約を考慮して日本国憲法”制定”過程を論述する必要はないのです。

(6)かりに百歩譲って、
ハーグ陸戦条約の適用が日本の無条件降伏後の占領にも適用があるとしても、ハーグ陸戦条約は一般法であり、ポツダム宣言・降伏文書という休戦協定は特別法であり、「特別法は一般法を破る」という原則がありますから、ポツダム宣言・降伏文書という休戦協定が優先的に適用されることになります。

「特別法は一般法を破る」という原則は、法学部で必ず学ぶ原則です。

(7)また、千歩譲って、
かりにハーグ陸戦条約が同時に適用されるとしても、日本国憲法の”制定”は、ポツダム宣言に反しないですし、大日本帝国憲法の改正手続きに従って帝国議会で行われましたので、同条約第43条に違反しないという法的論理も、考えられるかもしれません。

(8)学説の通説は上記(5)・(6)の立場です。

ですから、法律学者で、ハーグ陸戦条約を持ち出して日本国憲法が無効であると主張する見解はほとんんどないのです。

私も通説が妥当だと思います。

(9)BLOGOSには、これを踏まえた反論めいた書き込みもありますが、あえて応答しなければならないような真っ当な意見ではないので、私の応答は、以上で十分でしょう。

それにしても、自民党には、真っ当な法的知識のある者はいないのでしょうか!?

(10)ところで、「ポツダム宣言」には、新憲法の”制定”は明記されていないとの意見もありますが、すでに紹介した「ポツダム宣言」の内容からすれば、大日本帝国憲法が存続できるはずがないことは、あまりにも明白です。

日本政府は、「ポツダム宣言」を黙殺し続けて戦争を継続するという選択肢はなかったでしょう。
そうであれば、「ポツダム宣言」の受諾を「押しつけ」と評し得ないでしょう。、
あの内容の「ポツダム宣言」を受諾した以上、日本は、それに反しない新憲法を”制定”(大日本帝国憲法の改正)をするしかなかったのです。

(つづく)

日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(6):個人主義も基本的人権も実質否定!

「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?
そこのテーマで、これまで5回投稿してきました。

「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(1):天皇が命じて審議され「改正」が公布された

「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(2):日本国憲法の世界史・日本史上の意義

「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(3):ポツダム宣言に合致する日本国憲法

「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(4):環境権など「新しい人権」の保障を否定している

「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(5):自民党政権は戦争していても「戦争はしていない」と説明!

今回で、6回目の投稿になります。


10.個人主義を利己主義と説明して否定し、実質的に基本的人権も否定!

(1)自民党の冊子漫画の28ペイジ・29ペイジでは「今の日本の憲法は個人主義的」と表現し「日本じゃ 国の安全に反してもワガママOKってこと!?」「それじゃ 困るような気が・・・」と書いており、59ペイジでは「個人の自由が強調されずぎて なんだか家族の絆とか 地域の連帯が希薄になった…」と書かれています。
つまり、個人主義をあえて利己主義と曲解したうえで個人主義を否定すべきであるかのように書かれています。
また、27ペイジでは、日本国憲法における「公共の福祉」を「公益」「みんなの利益」と勝手に言い換えてしまっています。

さらに、29ペイジでは、「ドイツの基本法」が「結社」につき「禁止」できる規定を規定を紹介し、「結社とか宗教団体って中には怖いのもあるからなぁ・・・」と語らせ、しかし日本国憲法のもとでは「どんなに危険な結社や宗教団体でも簡単には解散させられないんだ」と語らせ、結社や宗教団体の禁止・解散が可能な憲法にした方がよいかのように書かれています。

http://jimin.ncss.nifty.com/pdf/pamphlet/kenoukaisei_manga_pamphlet.pdf

(2)日本国憲法は、「すべて国民は、個人として尊重される。」と定めています(第13条)が、自民党「日本国憲法改正草案」(2012年)は、「全て国民は、人として尊重される。」としています。
これについては、「個人」が「人」に変わっただけで本質的には変更はないと受けとめるのか、「個人」が「人」に変えられてしまい本質的に変更されてしまったと受けとめるか、なのですが、自民党「日本国憲法改正草案」が前文で「日本国民は、・・・和を尊び」と明記しているため、個人主義を否定していると解することになりそうです。
前述の自民党の冊子漫画では、その本音が語られているのでしょう。

(3)個人主義の否定は、基本的人権保障の変質を帰結するはずです。

自民党「日本国憲法改正草案Q&A」は、「今回の草案では、日本にふさわしい憲法改正草案とするため、まず、翻訳口答調の言い回しや天賦人権説に基づく規定振りを全面的に見直しました。」と解説しています(Q2の答)。
また、別のところでは次のように解説されています(Q13の答)。
権利は、共同体の歴史、伝統、文化の中で徐々に生成されてきたものです。したがって、人権規定も、我が国の歴史、文化、伝統を踏まえたものであることも必要だと考えます。現行憲法の規定の中には、西欧の天賦人権説に基づいて規定されていると思われるものが散見されることから、こうした規定は改める必要があると考えました。
例えば、憲法11 条の「基本的人権は、……現在及び将来の国民に与へられる」という規定は、「基本的人権は侵すことのできない永久の権利である」と改めました。

(4)この解説によると、自民党「日本国憲法改正草案」が天賦人権説を否定したいことがわかります(ただし、基本的人権が「侵すことのできない永久の権利」という文言を残しながら「現在及び将来の国民に与へられる」という文言を削除し、これをもって天賦人権説を否定したと解説しているのは不可解です。憲法について全く無知な人物が解説しているのでしょう。)。

(5)そこで注目すべきは、日本国憲法の最高法規の章に規定されている第97条が自民党「日本国憲法改正草案」で全面削除されていることです。
この規定は最高法規の章で、基本的人権が「人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果」であり「過去幾多の試錬に堪へ」てきたからこそ「現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」と定めています。
つまり、人権保障が人権獲得闘争の結果だからこそ、そのとても重要な基本的人権を保障している日本国憲法は最高法規であるということを将来の国民にも知らせているのです。

これに比して自民党「日本国憲法改正草案」がその規定を削除しているのは、自民党が「基本的人権を保障しているから日本国憲法が最高法規である」という考えを否定し、「人権保障が人類の獲得闘争の結果である」ことを国民に知られたくないからなのでしょう。
ここには、「人権が国家によって国民に与えられるものにしたい」という本音が隠されているのではないでしょうか。
これは、形式的には基本的人権の表現は残されているものの、実質的には基本的人権を否定していることを意味しています。

(6)そこで、注目したいのが、基本的人権の制約原理です。
これにつき、自民党「日本国憲法改正草案」は、どう変質させているのか、です。

日本国憲法は、人権を制約するものとして第12条及び第13条で「公共の福祉」を採用していますが、両条項以外で「公共の福祉」が明記されているのは、主に経済的自由権が保障されている第22条及び第29条です。

第12条・第13条の「公共の福祉」は、人権の総論的な規定ですから、すべての人権に妥当する制約です。

一方、第22条・第29条の「公共の福祉」は、憲法が社会権を保障したがゆえに、それとの相関関係で経済的自由権が制約されることになるから(居住、移転の自由は別)、あえて明記されているのです。

したがって、「公共の福祉」という表現は、同じであっても、その憲法上の意味は異なるのです。
すなわち、第12条・第13条の「公共の福祉」は、すべての基本的人権に妥当するがゆえに、そもそも人権が存続するために人権内部に必然的に存在している制約です。
基本的人権を複数の者が行使し、それらが衝突した場合に、それを調整するのが、その典型です。
一方、22条・第29条の「公共の福祉」は、経済的弱者を保護するために大きな経済活動に対する制約です。
国家が政策的な判断で経済的自由権を制約できるのがその典型です。

(7)ところが、自民党「日本国憲法改正草案」は、その「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」に変更しているのです。
自民党「日本国憲法改正草案」
(国民の責務)
第12条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければならない。国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。
(人としての尊重等)
第13条 全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。

この変更について自民党「日本国憲法改正草案Q&A」は次のように解説しています(Q14の答)。
従来の「公共の福祉」という表現は、その意味が曖昧で、分かりにくいものです。そのため学説上は「公共の福祉は、人権相互の衝突の場合に限って、その権利行使を制約するものであって、個々の人権を超えた公益による直接的な権利制約を正当化するものではない」などという解釈が主張されています。
今回の改正では、このように意味が曖昧である「公共の福祉」という文言を「公益及び公の秩序」と改正することにより、憲法によって保障される基本的人権の制約は、人権相互の衝突の場合に限られるものではないことを明らかにしたものです。

ここでは、基本的人権の制約を「人権相互の衝突の場合」に限定しないことが正直に告白されています。
したがって、自民党は、基本的人権を日本国憲法の保障するものとは本質的に異なるものにし、国家による制約を広く認めようとしているのです。

(8)なお、自民党「日本国憲法改正草案」は、営業の自由を帰結する職業選択の自由から「公共の福祉」を削除し、「公益及び公の秩序」も盛り込んでいません。
大企業の経済活動を規制する憲法上の根拠を削除したかったのでしょう。

(9)自民党「日本国憲法改正草案」では、このように制約原理の観点からしても基本的人権についての理解が根本的に変質されることになることは必至です。
このことは、自民党「日本国憲法改正草案」が総論規定(第12条)に、日本国憲法にはなかった「自由及び権利には責任及び義務が伴う」という一文を挿入させていることからも明らかです。
そもそも憲法の保障する「自由及び権利」が必然的に「責任及び義務」を伴うはずがありません。
これでは、基本的人権を実質的に否定していることは確実でしょう。

(10)さらに驚くべきなのは、自民党「日本国憲法改正草案」は、総論的な規定である第12条・第13条とは別に、あえて個々の自由権を保障している規定の中で「公益及び公の秩序」を挿入している規定があります。
つまり、総論的な制約とは別にさらに当該自由権を制約しようとしているのです。
その代表が「集会・結社・表現の自由」に対する制約です(第21条第2項)。
自民党「日本国憲法改正草案」
(表現の自由)
第21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。

前述の自民党の冊子漫画では「危険な結社や宗教団体」の禁止・解散を望むような記述になっていましたが、これは、以上の自民党「日本国憲法改正草案」の立場を具体的に示したものでしょうが、「危険な」の理解次第では、体制を批判する反体制的なものが禁止・解散・制限させられ、多数派によって濫用られるおそれがあります。

(11)また、自民党「日本国憲法改正草案」は、「政党」につき統治機構の章(国会の章)に明記しています(第64条の2)。
自民党「日本国憲法改正草案」
第四章  国会
(政党)
第64条の2   国は、政党が議会制民主主義に不可欠の存在であることに鑑み、その活動の公正の確保及びその健全な発展に努めなければならない。
2 政党の政治活動の自由は、保障する。
3 前2項に定めるもののほか、政党に関する事項は、法律で定める。

これにより自民党は、、国会内政党や体制内政党に対する特権付与と国会外政党や反体制政党に対する冷遇・差別が憲法上許容しようとしていることがうかがえます。

自民党「日本国憲法改正草案Q&A」は、「憲法にこうした規定を置くことにより、政党助成や政党法制定の根拠になると考えます。政党法の制定に当たっては、党内民主主義の確立、収支の公開などが焦点になるものと考えられます。」と解説されています(Q23の答)。
しかし、政治資金の収支の公開は政党だけではなく政治団体も公開されるべきで、現に政治資金規正法ではそうなっています。
また、党内民主主義については、政治論としては許容されても、自由権の保障からは許容されず、各政党の自律的な判断に許されるべきです。
さらに、違憲である政党助成法も自民党「日本国憲法改正草案」では「合憲」になり、反体制政党を弾圧する恐れのある政党法の制定も憲法上許容されることになるのです。

冊子漫画では、ナチスの「反省」に基づくことを何ら言及せずにドイツの立場が紹介されています。
ドイツでは、かつて、ナチスを肯定する政党・政治団体が禁止・解散させられたわけですが、ドイツ共産党なども禁止・解散させられ、濫用されました。

日本では、かつての侵略戦争を「侵略戦争ではない」と言い張る議員を抱えた自民党が禁止・解散させられることになるはずですが、多数派は自民党ですから、そうはならず、野党(の一部)が禁止・解散させられ、濫用される恐れがあるでしょう。

(12)そうすると、国民代表のあり方までも日本国憲法のそれから大きく変質することでしょう。
最終的には、名実ともに安倍右翼自民党の事実上の独裁政治が可能になります。

(つづく)

「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(5):自民党政権は戦争していても「戦争はしていない」と説明!

「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?
このテーマで、これまで4回投稿しました。

「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(1):天皇が命じて審議され「改正」が公布された

「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(2):日本国憲法の世界史・日本史上の意義

「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(3):ポツダム宣言に合致する日本国憲法

「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(4):環境権など「新しい人権」の保障を否定している

今回は5回目の投稿です。


8.「平和のために改憲する」と説明!

(1)自民党の冊子漫画の37ペイジでは「軍隊があるから戦争になるってわけじゃないでしょ」と書かれ、42ペイジでは「どこかの国が日本に攻めてきた時の自衛権の行使」を認めることは何となく書かれているものの、また、「自衛隊の国際貢献」につき「世界の中でどこまで自衛隊がすべきなのかも議論しないとね」とは書かれているものの、「平和が一番大事!! そのためにこそ憲法を考える必要がるんだよなぁ」とまるで自民党の改憲が「平和のために改憲する」かのごとく書かれています。

自衛権の行使に、他国を守るための集団的自衛権(他衛権)の行使が含まれるのかどうか全く説明されていませんし、自衛隊の国際貢献が軍事活動であることも、一切説明されていないのです。

http://jimin.ncss.nifty.com/pdf/pamphlet/kenoukaisei_manga_pamphlet.pdf

(2)自民党の「日本国憲法改正草案」(2012年)は、自民党が日本国憲法の平和主義とは本質的に全く異なる憲法を構想としていることがわかります。
自民党「日本国憲法改正草案」
(前文)……
我が国は、先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し、今や国際社会において重要な地位を占めており、平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に貢献する。
……
(平和主義)
第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。
2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。
(国防軍)
第9条の2 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。
2……。
3 国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。
4 ……。
5 ……。
(領土等の保全等)
第9条の3 国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。
(内閣総理大臣の職務)
第72条…… 
2……
3 内閣総理大臣は、最高指揮官として、国防軍を統括する。blockquote>
(3)自民党の「日本国憲法改正草案」は、まず、前文を全面的に改訂し、「我が国は、先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し…」とし、日本国憲法の前文にあった「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し」という文言を全面的に削除しています。

日本国憲法は、かつての侵略戦争が「政府の行為」によって引き起こされ、それによって「戦争の惨禍」が起こったから、日本国としてそれを再び繰り返さない、と反省しているのですが、自民党の「日本国憲法改正草案」はこれを否定したいのでしょう。

(4)日本国憲法は第9条で「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使」を「永久に」「放棄」し、「陸海空軍その他の戦力」を「保持しない」し「国の交戦権」を「認めない」と規定しています。

しかし、自民党の「日本国憲法改正草案」は、「我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため…国防軍を保持する」と改め(第9条の2)、「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない」と定めながらも(第9条第1項)、「自衛権の発動を妨げるものではない」と定めています(同条第2項)。
その結果、戦力の不保持などを定めた日本国憲法第9条第2項は削除されています。

(5)ここでは「自衛権」という表現はありますが、「集団的自衛権」という表現はありません。

これにつき、自民党の「日本国憲法改正草案Q&A」によると、「自衛権」には「個別的自衛権や集団的自衛権が含まれている」と解説されていますので(Q8の答)、個別的自衛権の行使による自衛戦争、さらには、「我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全」と直接関係のない集団的自衛権(他衛権)の行使を認め、アメリカ等の外国の戦争に参戦することを認めているのです。

(6)ところで、第二次安倍晋三政権は、2014年7月1日、集団的自衛権行使を「合憲」に変更する「解釈改憲」を強行しました。
そしてマスコミの報道によると、政府は、「集団的自衛権などに関する想定問答」の「問4 要件が曖昧。武力行使に「歯止め」がないのではないか。戦争に巻き込まれるのではないか」という問に対し、「集団的自衛権の行使は「権利」であり「義務」ではない。備えであり、実際に行使するか否かは政策の選択肢。時の内閣が、あらゆる選択肢を比較しつつ、国民の命と平和な暮らしを守り抜く観点から主体的に判断。」と回答しています(ただし、インターネットでこれは発見できません)。

しかし、この説明は明らかに間違いです。
集団的自衛権の行使を認めることは、共同防衛・相互防衛を念頭に置いていますし、集団的自衛権とその行使を条約で定めれば、条約締結国の間では、その行使は「義務」になるからです。

2014年4月21日、米国家安全保障会議(NSC)のメデイロス・アジア上級部長は「日本による集団的自衛権の法的根拠見直しを支持する」と述べ、日本の集団的自衛権容認が「日米同盟の相互運用性を高める」とし、同席したローズ大統領副補佐官は、日米安全保障条約に基づき、「米国が日本を防衛する義務を順守することに、何の疑いもない」と強調したので、当然、日本が集団的自衛権を行使することも義務になるとアメリカも認識していることでしょう。

自民党の冊子漫画では、自衛権の行使については、言及がありますが、そこに集団的自衛権(他衛権)行使が含まれているとの解説もありませんから、当然、それが「義務」であるとの説明はありません。
 
(7)また、自民党の「日本国憲法改正草案」は、「国防軍は、……国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動…を行うことができる」と定めています(第9条の2第3項)。
これにつき自民党の「日本国憲法改正草案Q&A」は、「国防軍の国際平和活動への参加を可能にしました」、「集団安全保障における制裁行動についても、同様に可能である」と解説しています(Q10の答)。
つまり、いわゆるPKOにも、国連の安全保障理事会の決議による軍事的制裁活動(国連軍や多国籍軍(連合軍)による軍事的制裁)にも、「国防軍」を参加させることができる、というのです。
条文では、「国連(国際連合)」という文言が明記されてはいません。
となると、「国際的に協調して行われる活動…」とは、必ずしも国連によるものに限定されていない可能性がありそうです。

いずれにしても、自民党の冊子漫画には、とても重要である、「多国籍軍」等による戦争への日本参戦についての説明はありません。


9.自民党政権は戦争していても「戦争はしていない」と説明!

(1)自民党の冊子漫画には、9条改憲を危惧する発言では、「戦争」という表現はあります(34ペイジ以下)が、9条改憲を肯定する発言では、不思議と「戦争」という表現が使われてはいません。
むしろ、前述したように「平和のために改憲」するかのごとく書かれています。

http://jimin.ncss.nifty.com/pdf/pamphlet/kenoukaisei_manga_pamphlet.pdf

(2)自民党「日本国憲法改正草案」の第9条第1項は、「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。」と定めていますが、同条第2項は、「前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。」と定めています。

これを素直に読むと、(個別的)自衛権の行使による自衛戦争を肯定していますし、前述したように「自衛権」には他国を守るための「集団的自衛権」も含まれると解説されているので他国の自衛戦争に日本の国防軍も参戦することになりそうです。
つまり、自民党「日本国憲法改正草案」は、日本が「自衛戦争」も「他衛戦争」も行うことを認めているのです。

(3)ところが、この点につき、自民党「日本国憲法改正草案Q&A」は、以下のように驚くべき解説を行っています(Q7の答)。
新たな9 条1 項で全面的に放棄するとしている「戦争」は、国際法上一般的に「違法」とされているところです。また、「戦争」以外の「武力の行使」や「武力による威嚇」が行われるのは、
/略目的の場合   ⊆衛権の行使の場合    制裁の場合
の3つの場合に類型化できますが、9条1項で禁止されているのは、飽くまでも「国際紛争を解決する手段として」の武力行使等に限られます。この意味を,痢嵜略目的の場合」に限定する解釈は、パリ不戦条約以来確立しているところです。
したがって、9条1項で禁止されるのは「戦争」及び侵略目的による武力行使(上記 砲里澆任△蝓⊆衛権の行使(上記◆砲箙餾鬱ヾ悗砲茲訐裁措置(上記)は、禁止されていないものと考えます。

(4)この解説によると、「9条1項で禁止されるのは「戦争」及び侵略目的による武力行使(上記 砲里漾廚箸△蠅泙垢里如国防軍の「個別的自衛権行使による自衛戦争」は「武力の行使であり戦争ではない」と説明されることになりそうです。
また、国防軍の「集団的自衛権(他衛権)行使によるアメリカ等の戦争への参戦(他衛戦争)」も自民党政権によると「参戦していない」と説明されることになりそうです。
多国籍軍の制裁戦争への参戦も同様でしょう。

(つづく)
Categories
あし@
livedoor プロフィール

nihonkokukenpou

TagCloud
livedoor × FLO:Q
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ