上脇博之 ある憲法研究者の情報発信の場

憲法研究者の社会活動の一環として、ブログを開設してみました(2008年4月5日)。 とはいえ、憲法問題全てについて意見を書くわけではありません。 政治問題について書くときがあるかもしれません。 記録として残しておくために、このブログを使用するときがあるかもしれません。 各投稿記事の右下の「拍手」が多いようであれば、調子に乗って投稿するかもしれません。 コメントを書き込まれる方は、カテゴリー「このブログの読み方とコメントの書き込みへの注意」の投稿を読んだ上で、書き込んでください。 皆様のコメントに対する応答の書き込みは直ぐにできないかもしれませんので、予めご了解ください。 ツイッターを始めました(2010年9月3日)。 https://twitter.com/kamiwaki フェイスブックも始めました(2012年7月29日) http://www.facebook.com/hiroshi.kamiwaki.7 かみわき・ひろし

冤罪

布川事件再審無罪判決についてのマスコミ報道の紹介

昨日(2011年5月24日)、布川事件の再審判決公判で、水戸地裁土浦支部は、強盗殺人罪などで無期懲役が確定後に仮釈放された二人に無罪を言い渡した。
これは、逮捕から44年ぶりのことである。

この問題は、検察の問題だけではなく、裁判所の問題でもある。
この点についての私見はすでに投稿している。

私の評論「裁判所の改革も不可欠 検察チェックの機能高めよ」

最高検の厚労省元局長無罪事件についての検証結果報告について

今、感想を書く時間がないので、それらの投稿を読んでいただきたい。

また、すでにご案内したように神戸では救援美術展が来月上旬、開催される。
各地で同様な美術展が開催されていると思うが、救援活動の資金のために御協力をお願いしたい。

以下では、昨日の無罪判決についてのマスコミ報道の一部を、記録に残すために、紹介することにする。

2011/05/24 14:45 【共同通信】
布川事件再審で無罪、土浦支部 44年ぶり2人の名誉回復

 1967年、茨城県利根町で男性が殺害された布川事件の再審判決公判で、水戸地裁土浦支部(神田大助裁判長)は24日、強盗殺人罪などで無期懲役が確定後に仮釈放された桜井昌司さん(64)と杉山卓男さん(64)に無罪を言い渡した。逮捕から44年ぶりに2人の名誉が回復された。
 最高裁によると、戦後に発生し、死刑か無期懲役が確定した事件の再審無罪判決は、足利事件に続いて7件目。
 神田裁判長は判決理由で「現場で発見された毛髪や指紋は2人のものと類似しているとは言えず、客観的証拠は存在しない」と指摘。さらに、被害者宅前で2人を目撃したとの証人の供述は信用性に欠けるとした。

時事通信社(2011/05/24-19:19)
布川事件で再審無罪=目撃証言の信用性否定−無期確定2人・水戸地裁支部

 茨城県利根町布川で1967年、大工の男性=当時(62)=が殺害され、現金が奪われた「布川事件」の再審判決が24日、水戸地裁土浦支部であった。神田大助裁判長は、強盗殺人などの罪で無期懲役が確定し服役、仮釈放された桜井昌司さん(64)と杉山卓男さん(64)の自白供述について、「捜査官が誘導した可能性がある」と述べ、強盗殺人罪について無罪を言い渡した。
 再審無罪は、戦後に死刑か無期懲役が確定した事件では、昨年3月の足利事件以来で7件目。逮捕から約44年を経て、2人の名誉が回復された。
 検察当局は今後、対応を協議するが、控訴は見送られる公算が大きい。
 神田裁判長はまず、検察側が有罪の根拠とした目撃者証言を検討。このうち、犯行時間帯に被害者宅前で2人を見たとする供述について「経過や内容などからみて信用性に欠ける」と指摘。他の目撃証言を考慮しても「犯人性を推認させる証拠は何ら存在しない」と述べ、証拠能力を否定した。
 桜井さんの取り調べを録音したテープについては編集跡を認め、「中断前後で供述の趣旨が変わるなど、捜査官から何らかの働き掛けがあったことは否定できない」と述べた。
 その上で、桜井さんと杉山さんの自白供述についても、「犯行そのものに直結する重要な事項全般に変遷が認められる」と指摘。供述をまとめた調書について、「捜査官の誘導で作成された可能性を否定できない」と述べた。
 一方、再審開始の決め手となった目撃女性の証言は、内容が変遷していることなどから「全面的に信用するには一定のちゅうちょがある」とした。

読売新聞 5月25日(水)0時28分配信
「客観的証拠は存在しない」…布川事件再審無罪

 茨城県利根町布川(ふかわ)で1967年に起きた「布川事件」の再審判決で、水戸地裁土浦支部の神田大助裁判長は24日、強盗殺人罪などで無期懲役の判決が確定した桜井昌司さん(64)と杉山卓男さん(64)(ともに96年仮釈放)の強盗殺人について無罪(求刑・無期懲役)を言い渡し、「捜査段階の自白を支える有力な補強証拠が見あたらず、(自白の内容も)信用できない」などと判決理由を述べた。
 昨年7月に始まった再審公判では、確定審での有罪を支えた2人の「自白」と、現場近くで2人を見たとする目撃証言の信用性が焦点となった。
 判決で神田裁判長は「犯行現場で2人の指掌紋や毛髪は採取されておらず、(2人と犯行を結びつける)客観的証拠は存在しない」と認定。一連の目撃証言について「供述経過や内容、視認条件から信用性に欠ける」などとした。
 その上で、2人の自白調書について、犯行そのものや重要な事項の全般に変遷があること、客観的事実に照らして不自然な点があること、2人の間でも相違点があることなどを理由に「信用性を肯定できない」と指摘。「捜査官らの誘導により作成されたものである可能性を否定できない」とも述べた。
 桜井さんは窃盗、杉山さんは暴行などの罪にも問われていた。判決では、それぞれ懲役2年、執行猶予3年を言い渡し、強盗殺人について無罪とした。戦後の事件で無期懲役か死刑が確定した後、再審で無罪を言い渡されたのは、昨年3月の「足利事件」に続き7件目(7、8人目)となる。
 水戸地検の猪俣尚人次席検事は「検察側の主張が受け入れられなかったことは遺憾。判決内容を詳細に検討した上で、必要に応じて上級庁と協議して適切に対応したい」とコメントした。

毎日新聞 5月25日(水)1時19分配信
<布川事件>「自白誘導の可能性」裁判長が言及

 茨城県利根町布川(ふかわ)で67年、大工の男性(当時62歳)が殺害された「布川事件」の24日の再審判決で、水戸地裁土浦支部の神田大助裁判長は「強盗殺人の犯人と証明するに足りる証拠は存在しない」と、桜井昌司さん(64)と杉山卓男(たかお)さん(64)を無罪(求刑・無期懲役)とした理由を述べた。検察側が主張していた自白の信用性を否定し、誘導の可能性に言及した。検察側は控訴しない公算が大きい。
 2人は78年7月に最高裁で無期懲役が確定し、仮釈放中だった。死刑か無期懲役が戦後確定した事件の再審無罪判決は昨年3月の「足利事件」以来で、7件目になる。
 弁護側は「警察・検察が(無罪の)証拠を隠し、追認した裁判所にも責任がある」として誤審の原因解明を求めていた。しかし、判決で目立った言及はなく、足利事件の再審判決のような裁判長の謝罪などはなかった。
 2人と事件を直接結びつける物証はなかった。このため、再審公判でも(1)捜査段階での「自白」(2)近隣住民の「2人を見た」との証言−−の信用性が最大の争点となった。
 判決では、自白を裏づける証拠がないことなどから、その任意性や信用性は「慎重な姿勢で臨むことが強く求められる」とし、「客観的事実と合わない可能性が高い点がある」「2人の供述に多くの食い違いがある」−−などと疑問点を挙げた。
 そして「自白調書が誘導などで作成された可能性を否定できない」と弁護側の主張に沿う判断をし、「自白は信用できず、任意性も相応の疑いをぬぐえない」と結論づけた。
 また「バイクで現場付近を通りかかった際に2人を見た」との目撃証言も「供述経過や視認状況などから信用性に欠ける」と指摘した。検察側は、自白も目撃証言もいずれも信用できると主張してきたが、退けられた。
 2人は窃盗など別件で逮捕された罪も合わせて無期懲役が確定していた。再審判決は、強盗殺人は無罪としたが、別件は執行猶予付きの有罪とした。【原田啓之】

産経新聞 5月25日(水)7時56分配信
布川事件 無罪判決も「謝罪なく唖然」

 昭和42年8月に茨城県で起きた「布川事件」の再審で24日、無罪判決を受けた桜井昌司さん(64)と杉山卓男さん(64)。水戸地裁土浦支部で判決が言い渡された瞬間、桜井さんは顔を上に向け、杉山さんは目の前の神田大助裁判長をまっすぐ見つめた。桜井さんは閉廷後、「思っていた以上にほっとした」と話した。
 再審判決は、2人を犯人とする証拠は存在しないと指摘。物証がない上、2人の捜査段階での自白が「誘導された可能性」があるとして、自白の信用性、任意性を否定したことが決め手となった。
 また、「被害者宅前で2人を目撃したとの証人の供述は、合理的な理由がなく変遷しているものが多い」とした。
 ただ、閉廷後の2人の表情は険しく、支援者に万歳を促されても桜井さんは手を挙げなかった。弁護側が指摘してきた捜査手法の問題点や、それを看過した確定審での裁判所の責任について、判決で触れられなかったためだ。
 「(法廷で)言いたいことがあったが言えなかった。44年の疲れがどっと出た」と杉山さん。
 桜井さんは「悪かったとか何の言葉もなく、唖然(あぜん)とした。これがエリート裁判官の限界だろう」と吐き捨てた。
 判決後、東京高検の渡辺恵一次席検事は「遺憾と受け止めている。今後の対応については、判決内容を子細に検討し、水戸地検と協議したい」とコメント。茨城県警の岩城新治郎・刑事総務課長は「今後のことについては、水戸地検において検討されることと思います」とした。
 足利事件で再審無罪が確定した菅家利和さん(64)も裁判所に姿を見せ、「心からおめでとうと言いたい。無罪だと知って涙が出てきた」と、涙をぬぐいながら語った。

最高検の厚労省元局長無罪事件についての検証結果報告について

(1)昨日(2010年)12月24日、最高検察庁は、いわゆる厚労省元局長無罪事件についての検証結果を法務大臣の私的諮問機関「検察の在り方検討会議」に報告し、マスコミにも公表したようだ。
2010/12/24 17:57 【共同通信】
厚労省事件、組織的問題と認める 最高検が検証

 厚生労働省の元局長村木厚子さんの無罪が確定した文書偽造事件の捜査・公判について最高検は24日、検証結果と再発防止策を法相の私的諮問機関「検察の在り方検討会議」に報告。大阪地検特捜部が見立てに合わない不利な証拠を軽視して取り調べで誘導、大阪高検、最高検のチェックも不十分だった「組織的問題」と認めた。
 検証チーム座長の伊藤鉄男次長検事が報告後に記者会見し「誠に遺憾で、村木さんや国民の皆さまに深くおわび申し上げます」と謝罪した。
 検証結果は、主任検事だった前田恒彦被告(43)が証拠のフロッピーディスク(FD)を改ざんした背景として、村木さんの立件を「ミッション(使命)」とする前特捜部長大坪弘道被告(57)ら上司のプレッシャーが影響した可能性を指摘した。

2010/12/24 19:23 【共同通信】
厚労省文書偽造の検証報告書要旨 

 最高検が24日公表した厚生労働省文書偽造事件の検証報告書要旨は次の通り。

 【捜査の問題点】
 元主任検事の前田恒彦被告らは、公的証明書の作成が2004年6月8日から10日ごろと想定していたが、フロッピーディスク(FD)の情報では同1日に証明書データが完成しており、想定と合わなかった。
 前田被告は、1日はデータ作成日で文章を完成させた日と異なる可能性があり、データが証明書のもととなったとも断言できず、村木厚子元厚労省局長の関与を揺るがさず、今後の捜査で解明できると判断した。
 証明書作成の日時や状況は、村木氏の指示の有無および時期に直接かかわる極めて重要な問題点で、ただちに強制捜査に着手せず、捜査を尽くし逮捕の可否を慎重に検討するのが相当だった。現段階で証拠関係を冷静に検討すれば起訴すべきではなかった。
 村木氏の公判で、検察官調書の請求が却下された3人については、誘導等で客観証拠等と整合しない調書が作成されたと疑われるものが少なからず存在し、取り調べを反省すべき問題があった。
 前田被告は捜査指揮、証拠分析・整理、資料作成、上司への報告のほとんど全てを1人でしていた。FDなど証拠の問題点を他の検察官と共有せず、解決法を見いだせないでいたことがうかがわれる。消極証拠や供述の不整合などの問題点を上司に報告せず、決裁を得ようとする意識や姿勢に問題があった。
 前特捜部長大坪弘道被告は捜査会議を開くこともなく、元副部長佐賀元明被告に実質的な関与をさせず、重層的、組織的な検討をさせなかった。主要証拠の報告や提示も求めず、部下が消極的な意見を述べることを好まず、理不尽にしっ責することもあった。部下に消極証拠の報告をためらわせ、ひいては前田被告がFD問題を大坪被告に報告しなかった要因となった。
 検事正や次席検事は前田被告の報告書が不十分だったのに補充させず、消極証拠の有無や内容を報告させなかった。大阪高検や最高検もFD問題などを把握せず、捜査着手や処分を了承した。

 【公判上の問題点】
 改ざん判明後に徹底調査していれば、弁護人に改ざんの事実を明らかにする等の対応、場合によっては公訴の取り消しも検討されたと思われる。
 公判部長は改ざんの疑いを把握した以上、検事正から前田被告の公判立ち会いを指示された際、この問題に関する意見を述べるなど厳正な対応が必要だった。遅くとも論告までに調査等が実施されていれば、有罪を求めないなど適切な対応も検討されたと思われる。

 【改ざん、犯人隠避】
 検事による証拠改ざんは刑事司法の根幹を揺るがすもので断じて許されない。前田被告が、村木氏の関与がなかったと現実に考えていたと認めるのは困難。公判の紛糾や上司からのしっ責を避けるため改ざんをした。背景には、村木氏摘発が最低限の使命、と大坪被告から言われたことなどによるプレッシャーがあった可能性も否定できない。
 証拠改ざんを知った検事が隠蔽工作で犯人を隠避することは言語道断。検事正や次席検事は問題の重要性を軽視し、大坪被告らの「問題がない」との結論を安易に受け入れ、庁務をとりまとめる者の対応として問題だ。

 【再発防止策】
 (1)11年2月から、特捜部の独自事件は検事長が指揮し、最高検・高検に特捜係検事を配置する。
 (2)特捜部の独自捜査の身柄事件では、容疑者の取り調べの録音・録画を試行し、11年2月ごろまでに試行方針を策定、速やかに試行を開始する。
 (3)特捜部の独自捜査事件では、主任検事は上司や高検にすべての証拠書類、主要証拠物の写しを提出。証拠上の問題点や検討結果を報告する。
 (4)特捜部の独自捜査事件では、主任検事を総括的に補佐する検事を配置。消極証拠や証拠上の問題点を主任検事だけでなく上司にも報告する義務を負わせる。
 (5)特捜部の独自捜査事件で部長・副部長は、当初の見立てに固執せず、証拠に基づき変更し、引き返す勇気を持って、捜査からの撤退も含め適切な指導や決裁の在り方を周知徹底する。
 (6)公判担当検事は、捜査段階とは別の観点から証拠関係等を検討し、最終的に有罪判決を得ることが著しく困難と認められる場合等には、公訴取り消し等を行うべきか否かなどを検討する。
 (7)11年4月から順次、押収した電子データは複写物等を作成して原本を封印。内容の解析等は原則、複写物を利用する。
 (8)11年4月をめどに最高検に検証・指導担当の部署を設置し、再発防止策の実施状況の検証と必要な指導を行い、1年後をめどに検証結果を取りまとめて公表する。
 (9)公正な検察権行使に関する基本原則等を作成・公表し周知徹底する。
 (10)違法行為の発生への適正な対応を周知徹底。
 (11)検事の配置は、全国的な適材適所が重要な課題。11年の早い時期に結論を得るよう検討する。
 (12)取り調べメモの保管・管理の在り方につき、11年3月までに結論を出せるよう検討する。

(2)マスコミに公表されたのは、以下の2つの文書のようだ。

最高検察庁「いわゆる厚労省元局長無罪事件における捜査・公判活動の問題点等について(概要)」・・・A4用紙で表紙1枚、目次2枚、本文25枚

「検証結果報告書の概要」・・・A4用紙で4枚(これは上記の概要であろう。)

(3)私は、共同通信社の電話取材を受け、コメントした。
この配信記事を採用したと新聞には、私のコメントが紹介されているだろう(例えば「南日本新聞」「神戸新聞」は配信記事を掲載している)。

私のコメントは、事実関係の解明部分に対するものではなく、再発防止策に対するものである。

以前コメントした内容は、検察だけではなく、裁判所の改革も含めたものであったは、今回の私のコメント内容は、だいぶ短いため、検察改革に限定されているが、基本的にはそのときの趣旨の一部は同じである。

(4)時間がないので、以下、主たる再発防止策(全ての防止策ではない)に限定して簡潔に私の感想を書いておこう。

最高検の検証結果は、捜査体制が不十分だったことや検察内部のチェックが不十分だったことを認めたうえで、再発防止策まで言及している。
この点では、一定の前進が見られる。

だが、本気で再発を防止する気があるのか、その真剣さが感じられない。
言い換えれば、徹底的な改革を目指す姿勢が感じられないのである。

再発防止策における私の視点は、内部のチェック体制、外部によるチェック体制、裁判所との関係の3つである。

(5)内部のチェック体制

捜査体制が不十分で検察内部のチェックが不十分だったとなると、当然、検察官を大幅に増やさなければならないが、その点については明示されていない。
単なる配置転換で対応しているようにも読める。
検察官の人員は倍増すべきである。

また、私見では、捜査担当とそのチェック・起訴担当に分けるべきであると考えている。
報告書を見ると、高検と最高検にそれぞれ「特別捜査係検事を配置」し、「証拠関係の十分な検討等」を行わせるようだが、果たして私見の立場に近いものなのか、不明である。
検察官の大幅な増員なしに極限定された者だけでその役割を期待しても、十分機能するのか疑問である。

さらに、「速やかに取調べの録音・録画の試行を開始する」としているが、これが「全面」的可視化を意味するのか、明記されてはいないし(一部だけだと、むしろ危険である)、「試行」にとどまるのも、気がかりである。

(6)外部によるチェック体制

前述の取調べの全面可視化は検察内部におけるチェックに役立つだけではなく、外部によるチェックにも役立つ。
これは前述したとおりである。

また、被告人側への証拠の全面開示が求められるが、報告書では言及さえされてはいない。

(7)裁判所との関係

法的根拠のないまま、裁判官(判事)と検察官(検事)との人事交流がなされ、検事が判事に起用されるなどしているが、これは三権分立、司法権の独立の観点から考えて問題であるから、速やかに止めて、両者の緊張関係を構築すべきであるが、報告書では言及さえない。

(8)以上が私の感想である。

冤罪、でっち上げを繰り返さないためには、改革は検察に限定すべきではない。
それゆえ、法務大臣は、検察の改革を徹底すべきであるが、それにとどまらず裁判官を倍増する等、裁判所改革も行う必要があるから、そのための第三者機関を設置すべきである。

元厚労局長無罪判決と地検特捜部証拠改竄事件その5(証拠改竄事件の新聞社説)

はじめに

(1)郵便不正事件における元厚労局長無罪判決と地検特捜部証拠改竄事件について、先日から投稿を行っている。
「その1」では、「大阪地裁判決の新聞社説」を紹介した。

「その2」では、「証拠改竄事件検事逮捕と元厚労局長職場復帰」についてのマスコミ報道に限定して紹介した。

「その3」では、郵便不正事件に関する新聞社の自社報道についての検証記事(ただし無料のインターネット版で入手するものに限定)を紹介した。

「その4」では、元局長が職場復帰した後、9月26日までの証拠改竄事件についてのマスコミ報道を紹介した。

(2)ここでは、証拠改竄事件についての新聞社説を紹介し、記録の残すことにしたい。

もっとも、全国の地方紙まで網羅して紹介するわけではない。
検索して無料で入手できるものだけを紹介する。
なお、漏れがあれば後で補充したい。


証拠改竄事件についての新聞社説

◇2010年9月22日

朝日新聞2010年9月22日(水)付社説
証拠改ざん―司法揺るがす検事の犯罪

 前代未聞の不祥事である。検察への信頼は根底から揺らいでいる。
 厚生労働省の元局長が無罪判決を受けた郵便不正事件で、大阪地検特捜部で捜査を指揮した主任の前田恒彦検事が、押収品のフロッピーディスクのデータを検察に有利なように改ざんした疑惑が明らかになった。最高検は証拠隠滅容疑で前田検事を逮捕した。
 物証などの偽造や改ざんは、ふつう容疑者の側が罪を逃れるためにする犯罪だ。捜査する側が客観的な証拠を捏造(ねつぞう)すれば、どんな犯罪もでっちあげることができる。戦前の思想犯事件を思い起こし、背筋が寒くなる。
 事件の「痕跡」が物や書類などに残されている客観証拠は、刑事裁判では揺るぎない事実として扱われる。有罪か無罪かを判断するための重要な材料であり、それを検察が改ざんするようなことがあれば裁判の根幹が崩れる。
 問題のディスクは元局長の共犯として起訴された元係長の自宅から押収された。その中には、実態のない障害者団体に発行したとされる偽の証明書などの作成データが入っていた。
 偽証明書の最終的な更新日時は「2004年6月1日」。ところが前田検事は、ディスクを保管中の昨年7月13日、専用ソフトで「2004年6月8日」に書き換えていた。
 特捜部は証明書の偽造を元局長が指示したという構図を描き、その指示が04年6月上旬だったという元係長の供述調書などを作成していた。「6月1日」では偽造の後に元局長が指示したことになり、つじつまが合わない。前田検事が供述調書に合わせるように改ざんした疑いが強い。
 最高検の検事が自ら捜査にあたるのは異例のことだ。身内だからといって決して手心を加えるようなことがあってはならない。徹底的に解明し、その結果を詳しく公表するべきだ。
 前田検事は東京地検特捜部に勤務していたときにも重要事件を担当し、事件の筋立てに合った供述を引き出す優秀な検事と評価されていた。
 ところが、元公安調査庁長官らによる詐欺事件の公判では、強引な取り調べが問題になった。別の事件では、調べた被告が起訴後に否認に転じたこともある。前田検事が過去に担当した事件で不正はなかったのか。それも明らかにしなければ疑念は晴れない。
 最高検は1人の検事が引き起こした不祥事と考えるべきではない。
 裁判員裁判が始まり、供述中心の捜査から客観証拠を重視する流れが強まっている。そうした中で、密室での関係者の供述をもとに事件を組み立てていく、特捜検察の捜査のあり方そのものが問われている。
 特捜検察を解体し、出直すつもりで取り組まねばならない。そこまでの覚悟があるか、国民は注視している。


読売新聞(2010年9月22日01時26分)
押収資料改ざん 地に落ちた特捜検察の威信(9月22日付・読売社説)

 刑事司法の根幹を揺るがす特捜検察の一大不祥事である。
 厚生労働省の村木厚子元局長に無罪判決が出た郵便不正事件に絡み、大阪地検特捜部の主任検事が、押収資料を改ざんした証拠隠滅容疑で最高検に逮捕された。
 村木元局長の部下だった元係長宅から押収したフロッピーディスクのデータを、特捜部の描いた事件の構図に合うよう書き換えた疑いが持たれている。
 事実とすれば、強大な捜査・起訴権限を持つ検事自らが、有罪証拠をでっちあげようとした前代未聞の違法行為だ。最高検は全容を解明し、関係者を厳正に処罰しなければならない。
 特捜部が描いた事件の構図は、村木元局長が2004年6月上旬、元係長に対し、自称障害者団体に発行する偽証明書の作成を指示したというものだった。
 ところが、押収したディスクには、偽証明書作成の最終更新日時が「04年6月1日午前1時20分」と記録されていた。
 主任検事は、これを「04年6月8日午後9時10分」に書き換えた。特捜部の見立てに合わないデータを意図的に改ざんした疑いがあると最高検は見ている。
 担当事件の捜査を統括する主任検事は、捜査の過程で見立てと異なる証拠が見つかれば、軌道修正したり、事件の立件を断念したりするのが鉄則だ。
 押収資料の改ざんは、検察捜査への信頼を損ね、刑事裁判の公正さをないがしろにする言語道断の行為である。
 主任検事は結局、ディスクを元係長側に返却し、公判に証拠提出しなかった。提出されていたら、村木元局長を強引に有罪に持ち込む物証となった可能性もあった。権力の暴走に戦慄(せんりつ)を覚える。
 さらに特捜部は、正確な最終更新日時のデータを記載した捜査報告書を作成していたが、これも証拠提出しなかった。公判前に弁護側の請求でようやく開示した。
 これら証拠資料の扱いについて特捜部や地検内でどんな議論があったのか、他に改ざんの関与者はいなかったのか、真相を明らかにすべきだ。上級庁の大阪高検、最高検の監督責任も免れまい。
 郵便不正事件では、特捜部の作成した供述調書の多くが「誘導の可能性がある」として、裁判で信用性を否定された。特捜検事の資質の劣化は極めて深刻だ。
 最高検には、身内への甘さを排した徹底捜査で、組織内部の病巣を取り除く責務がある。


毎日新聞 2010年9月22日 東京朝刊
社説:改ざん検事逮捕 司法の根幹が揺らいだ

 厚生労働省の村木厚子元局長に無罪が言い渡された郵便不正事件は、刑事司法の根幹を揺るがす驚くべき事件に発展した。
 大阪地検特捜部の主任検事が、証拠品として押収していたフロッピーディスク(FD)の更新日時を改ざんしたとして、最高検が証拠隠滅容疑で逮捕したのだ。
 法に基づき適正に刑事手続きを進めるのは、法治国家の大原則である。それを、法の執行に当たる検事が自ら破って「うその証拠」を作っていたとすれば、裁判制度そのものの信頼性にもかかわる。最高検が強制捜査に乗り出したのは当然である。
 改ざんしたのは、村木元局長の部下だった元係長の自宅から押収した偽証明書などのデータが入ったFDだ。捜査に都合がいいように、その最新更新日時を「04年6月1日」から「04年6月8日」に変えたという。1日だと、村木元局長の偽証明書作成の指示を証明するのに都合が悪かったとされる。
 法廷にはこのFDは証拠提出されなかった。だが、改ざん前のFDデータが印刷された捜査報告書が証拠採用された。結果的にそれが捜査の矛盾を示す格好になり、村木元局長の無罪判決の一因にもなった。
 では、改ざんまでしながら、なぜFDを有罪立証に利用しなかったのか。一検事の暴走とは理解しにくい面もある。上司の指示はなかったのか。特捜部内で他に知っていた者はいないのか。最高検は、徹底的に捜査を尽くすべきである。
 仮に、犯罪行為を知っていながら見逃していれば、刑事訴訟法に定められた公務員の告発義務に違反する。村木元局長の「冤罪(えんざい)」を検察として察知しながら、公判を遂行したならば、その罪は極めて重い。
 捜査のうえ、最高検は事件の全体像を国民に示すべきだ。法務省も関係者を厳正に処分する必要がある。
 村木元局長は、改ざんについて「非常に恐ろしい。検察はきちんと検証してほしい」と述べた。当然だ。
 法務・検察当局は、捜査とは別に、事件をしっかり検証しなければならない。特捜部の捜査手法も問われる。捜査の見立てが違った場合、組織としてどうチェックし、軌道修正するのか。一定のルール作りが必要だろう。そもそも検察は、第三者のチェックが働きにくい。検察権力を行使する側としての信頼性に疑問符もついた以上、検証には第三者を入れ、結果を公表すべきだ。
 また、国会も究明に乗り出すべきである。
 国民は、今回の事態を大阪地検だけのこととは考えないだろう。法務・検察当局は、検察全体への信頼が地に落ちたと認識すべきである。


東京新聞2010年9月22日
【社説】特捜検事逮捕 検察の重大すぎる犯罪

 検察が検察官を逮捕した。容疑はこともあろうに証拠隠滅罪。厚労省元局長に無罪判決が出た公文書偽造事件で押収証拠品のデータを改ざんしていた。捜査崩壊とでも言うべき重大危機である。
 村木厚子元局長に大阪地裁が無罪判決を言い渡した翌十一日の社説では「説明せよ 検察の暴走」と検察に捜査の問題点の調査と説明を求めた。しかし、事態はそれどころではなかった。
 最高検が逮捕したのは大阪地検特捜部でエースと呼ばれ、事件の主任検事だった前田恒彦容疑者。元局長の部下だった元係長がフロッピーディスクに作成していた偽造証明書のデータ更新日時を二〇〇四年「六月一日」から「六月八日」に書き換えていたという。
 真正の日付は、元局長無罪の強力な決め手だった。元係長は村木元局長から指示されたのは六月上旬ごろと供述しているのに、「一日」では指示の前に偽造したことになり、矛盾するからだ。
 しかし、改ざんされた八日ならば供述と合致し、検察には都合よくなる。このディスクは結果として公判では証拠採用されなかったものの、採用されていたら有罪の“証拠”になりかねなかった。
 なぜ、前田容疑者は改ざんしたのだろうか。今後の捜査で国民の前に検察は明らかにせねばならない。元局長の弁護人は「主任検事は、事件が冤罪(えんざい)と分かっていたのではないか」と会見で語ったが、そんな疑念すらわいてくる。
 過去、警察や検察の思い込みや自白の強要、ずさんな捜査は数多くの冤罪を生んできた。しかし検察が故意に証拠品を改ざんしたというのは前代未聞だろう。
 前田容疑者は、誤って書き換えたと言っているというが、誰が信じるだろう。上司を含め組織的な誤捜査という疑いはないのか。洗いざらい明らかにしてほしい。
 捜査はもちろん、検察には自らの使命をいま一度、肝に銘じてほしい。今回の事件を通じて明らかになったのは、自ら描いた構図ありきの強引な捜査だった。それが特捜の捜査かと国民を驚かせ、落胆させた。
 信頼回復には国民の納得できる十分な説明と厳正な責任の取り方しかない。
 誰かを罰するためでなく真実を解き明かす。これが正義を気取るのではなく、国民の期待する検察像だ。今回の事件は、その原点を忘れていた、あるいは忘れようとしていた証明でもある。


産経新聞2010.9.22 03:00
【主張】改竄の検事逮捕 「暴走」止められぬ組織か

 割引郵便制度を悪用した偽の証明書発行事件をめぐって、大阪地検特捜部の主任検事、前田恒彦容疑者が証拠品として押収したフロッピーディスク(FD)を改竄(かいざん)していたとして証拠隠滅容疑で最高検に逮捕された。
 事件をでっち上げようとしたのも同然の行為だ。検察にとって前代未聞の不祥事で、異例の逮捕も当然である。最高検にはこの際、徹底した真相の究明と、厳正な対処を求めたい。
 この事件では、1審無罪となった厚生労働省の村木厚子元局長の公判で、検察側が描いた事件の構図に沿って被告らの供述を誘導した疑いが指摘された。裏付け捜査を怠っていたことも明らかになり、控訴は断念された。
 FDの改竄もやはり、事件の構図に不都合な事実を隠すために行われたとみられる。
 村木元局長の部下の自宅から押収したFDには偽造証明書の文書データが保存されていたが、その最終更新日時は村木元局長が発行を部下に指示したと検察側が主張する時点より以前で、事件の見立てはつじつまが合わなくなる。
 このため前田容疑者は最終更新日時を書き換え、村木元局長の指示によって部下が偽造証明書を発行したという構図に合致させていた疑いが濃い。極めて悪質であり、信じがたい行為だ。
 結果的に改竄されたFDは証拠として提出されず、改竄前のデータに基づいて作成された捜査報告書が証拠採用された。仮に改竄された証拠が提出されていたら、冤罪(えんざい)を生んだ可能性もあるだけに、恐ろしさと怒りを感じる。
 法と正義を体現する検察官には、一段と厳しい職業倫理が求められている。大阪地検特捜部のエースだったという前田容疑者は、改竄について「誤ってやってしまった」と故意を否定したというが、納得できるものではない。
 先の無罪判決に加え、今回の証拠改竄で、検察に対する信頼は地に墜(お)ちた。
 今回の犯罪についても、前田容疑者の個人的な資質に起因するものと矮小(わいしょう)化してしまってはならない。「暴走」を組織としてチェックできなかったとすれば、それも大きな問題である。
 最高検をはじめ検察関係者は、このことを深く自覚すべきだ。そのためには、事件の全容を解明して出直すしかない。


◇2010年9月23日

朝日新聞2010年9月23日(木)付社説
大阪地検―なぜ声を上げなかったか

 大阪地検特捜部で起きた押収品のデータ改ざん事件で、「書き換えの可能性」が、地検トップの検事正にまで報告されていたことが明らかになった。
 検事正自身は「覚えていない」と話している。詳細はわからない。
 しかし、データを操作した前田恒彦検事ひとりがその事実を知り、村木厚子元局長の裁判が進む間、ただ抱え込んでいたわけではないようだ。
 同僚や公判を担当する検事にも同様の話が伝わり、「問題ではないか」との意見が一部にあった。それなのに、検事正への報告後も組織として向き合わず、うやむやにされたという。
 検察捜査と組織の根幹を揺るがす重大な指摘である。楽しい話ではない。だからこそ「ひょっとしたら」「事実としたら大変だ」と立ち止まり、不愉快な解明作業を直ちに始めるよう指示する幹部はいなかったのか。
 それが上に立つ人間の責務であり、求められる資質ではないか。
 不思議な点はまだある。
 元局長が郵便割引制度を悪用した証明書の発行を指示したとされる時期の食い違いだ。6月上旬とする検察側主張に対し、当の検察が改ざん前の押収品に基づいて作った捜査報告書には、証明書が作成されたのは6月1日未明である旨の記載があった。
 上旬に指示があったのなら、文書が先に出来ていたことになり、つじつまがあわない。捜査や公判準備にかかわった検事や事務官はどう考えたのか。
 証拠が相反する方向を示すことはままある。だが、村木さんの無罪の決め手になった矛盾だ。見落としたとすれば捜査のプロ集団としてお粗末だし、気がついていたのなら「自分たちが間違っているのではないか」という冷静な声がなぜ上がらなかったのか。
 不都合なことを見ない。黙る。
 それは、組織とそこに属する人間がしばしば陥る落とし穴である。日々の社会生活の中で私たちの多くが経験しているといっても過言ではない。
 しかし、人間の弱さで片づけていい問題ではない。強大な力を託された捜査機関はなおさらだ。皆が知らないふりをしたことによって、熱心に働いていた公務員が人生の貴重な時間を法廷闘争に費やさざるを得なかった。
 きのう復職した村木さんは、あしざまに言ってもおかしくない検察に対し「抱える問題が修正されるきっかけになればいい。検証を厳しく、温かく見守る役割を果たしたい」と述べた。人間の真の強さを感じさせる。
 今回の捜査と公判に何らかの形でかかわった検察関係者は、この言葉をかみしめながら、改めて自らの行動を振り返り、最高検による今後の捜査と検証にのぞまなければならない。
 それが村木さんへのせめてもの償いであり、国民に対する責任である。


秋田魁新報社(2010/09/23 10:41 更新)
社説:検事の証拠改ざん 真相の徹底解明を急げ

 信頼が失われただけではない。検察が掲げる正義が根本から揺らいでいる。
 厚生労働省の文書偽造事件に絡み、担当した大阪地検特捜部の主任検事前田恒彦容疑者が証拠隠滅の疑いで逮捕された事件の波紋は広がる一方だ。
 文書偽造事件で厚労省元局長の村木厚子さんが無罪となり、驚かされたばかりである。それに追い打ちをかけるような不祥事に「特捜捜査」の在り方、さらに検察自体への不信も募る。
 主任検事は押収したフロッピーディスクのデータを改ざんしたとされる。これがまかり通るようなら、検察の思い描く構図に沿って立証でき、極端な場合、無罪を有罪にすることも不可能ではなくなるからだ。
 一体、なぜこんなことが起きたのか。異例の直接捜査に乗り出した最高検は、徹底究明しなければならない。
 最も留意が必要なのは、この主任検事だけの問題にとどまるのかどうか、つまり組織的な関与がなかったかどうかである。
 実際、今年2月ごろ、大阪地検内で改ざん情報が広く飛び交い、複数の地検幹部も把握していながら事実上、放置していた可能性が浮上している。
 もし本当なら、事態は一層深刻さを増す。改ざんを正すどころか、組織的に隠ぺいしていたことになるからである。
 元局長は「個人の問題に矮小(わいしょう)化してほしくない」と訴えている。真相の徹底解明は、無罪の元局長を逮捕・起訴したことへの贖罪(しょくざい)ともなる。
 今回の一件に限らず、ほかにも似たような問題がないかどうかの検証も不可欠だ。
 逮捕された主任検事がここ数年、携わったものだけでも防衛省の装備品納入汚職事件や小室哲哉音楽プロデューサー詐欺事件、小沢一郎民主党元幹事長の資金管理団体をめぐる収支報告書虚偽記入事件など数多い。
 疑わしさが残る限り、ほかの検事担当の事件へも検証・捜査対象を広げるべきだ。中でも特捜部が立ち向かう相手は政治家や官僚、大企業幹部ら「巨悪」が多く、時に捜査に強引さが潜む恐れがあるからである。
 検事が検事を調べる「身内捜査」がとかく甘くなりがちだという疑念にも、最高検はしっかり応えなければならない。
 徹底捜査を「宣言」するだけでは不十分。可能な限り捜査状況を開示するなど、いつにも増して国民に納得してもらえるような工夫が必要だ。
 捜査や検証によって「病巣」を取り除くと同時に、捜査手法や内部のチェック体制をはじめ「体質」を改善していく覚悟も忘れてはならない。体質が同じままではまたいつ病変が生じないとも限らないからである。
 検事が着けるバッジ「秋霜烈日」がいつまでも泣いていていいわけはない。厳しさが独善に陥らないように、一人一人が自覚し直さなければならないことは、今更言うまでもない。


◇2010年9月24日

読売新聞(2010年9月24日03時01分)
大阪地検特捜部 組織的隠蔽の批判は免れない(9月24日付・読売社説)

 大阪地検は組織ぐるみで疑惑を隠蔽(いんぺい)していたということではないか。
 郵便不正事件の捜査の過程で、大阪地検特捜部が主任検事による押収資料の改ざんの可能性を把握し、地検上層部にも報告していたことが明らかになった。
 最高検の捜査チームは、主任検事の上司だった当時の特捜部長や副部長から事情聴取した。
 証拠隠滅という犯罪を疑わせるに足る重大な情報を、地検幹部はなぜ放置していたのか。徹底した捜査で真相究明と関与者すべての責任を追及する必要がある。
 厚生労働省の元係長宅から押収したフロッピーディスクのデータを、主任検事が書き換えたらしいという情報を特捜部長らが把握したのは、今年2月頃だった。
 主任検事は当時、「ディスクに時限爆弾を仕掛けた」と、他の検事に漏らしていたという。
 ところが特捜部長らは、主任検事から「故意ではない」との説明を受けると、それ以上踏み込んだ調査をしなかった。
 また、特捜部長は検事正に対し、資料の改ざんを巡る情報があったが「問題はなかった」という趣旨の報告をしたとされる。
 「時限爆弾を仕掛けた」という発言は、主任検事の意図的な改ざんを疑わせるに十分な例えだったのではないか。「故意ではない」との説明を、うのみにしていたのであれば、身内に甘い、あまりにもお粗末な対応である。
 検事正も、特捜部の報告に、何ら疑問を抱かなかったのだろうか。地検トップとしての危機意識に欠けていたと言わざるを得ない。特捜部に対し、さらなる調査を指示するべきだったろう。
 最高検は、特捜部長をはじめとする地検幹部が、改ざんの事実関係をどの程度まで認識していたのかを調べ、仮に法に触れる行為が確認されれば、立件も辞さない覚悟で臨んでもらいたい。
 今回の事件を受けて、民主党内からは検事総長の進退問題に言及したり、取り調べの全面可視化を求めたりする動きが出ている。
 今後、特捜部が手がけた他の事件についても、供述調書の信用性などを疑問視する声が強まる可能性がある。
 今必要なのは、主任検事による資料改ざん事件の全容を解明し、国民に速やかに公表することだ。郵便不正事件の捜査全般の検証も怠ってはならない。
 組織の自浄能力を示すことが、失墜した信頼を取り戻し、検察が再生する唯一の道だろう。


◇2010年9月26日

毎日新聞 2010年9月26日 東京朝刊
社説:大阪地検幹部 組織ぐるみの不正封印

 組織ぐるみで不正を封印していた疑いが濃厚になってきた。
 大阪地検特捜部の主任検事が、郵便不正事件で押収したフロッピーディスク(FD)のデータを改ざんしたとされる事件である。
 今年1月下旬、主任検事は「FDに時限爆弾をしかけた。最終更新日時を変えた」と、同僚検事に話したという。意図的な改ざんをうかがわせる極めて重大な証言である。
 それを受け、同僚検事らが主任検事のデータ改ざんの可能性を特捜部の副部長(当時)に指摘した。
 だが、部長(同)と副部長は、主任検事の「誤って書き換えた」との言い分を聞いただけで済ませ、上司の検事正や次席検事(同)に「意図的でなく、問題はない」と報告したというのである。事実だとすれば、その対応は、不正の隠匿を図ったとみなされても仕方ないものだ。
 厚生労働省元局長の村木厚子さんの初公判直後で、偽証明書の作成日時が焦点として浮上していた。改ざんが表ざたになれば、公判の維持は難しくなっていただろう。主任検事の言い分を聞いただけで、調査をしなかったのは、それを恐れたからではないのか。
 そもそも、証拠物であるFDを、誤ってであれ、書き換えること自体が、あってはならない。
 最高検は、当時の特捜部長と副部長の聴取を進めている。改ざん問題の調査をしなかった理由は何か。十分に事情を聴き、刑事罰に当たる行為の有無を含め、責任の所在を明らかにすべきである。調査が実施されていれば、村木さんの無罪は、もっと早く確定していたはずである。
 また、検事正や次席検事の責任も重い。特捜部長から報告を受けた時、問題の重大性を認識しなかったのか。地検トップとして甘さがあったと言わざるを得ない。
 主任検事の意図的改ざんだとしても、なぜそこまで手を染めたのか。「動機」は、いまだはっきりしない。捜査が一段落した時点で、主任検事だけでなく、当時の上層部ら関係者の認識や行動について、最高検は国民に対し明らかにすべきだと、改めて指摘したい。
 それにしても、証拠品管理のずさんさにはあきれ返る。主任検事は、内規に違反する私有パソコンを持ち込み、改ざんに使ったというが、証拠品を私有パソコンで簡単に扱える体制に欠陥があるのは言うまでもない。
 特捜部は、検察の組織の中でも、第三者のチェックが最も働きにくい部署だ。だが、「身内意識」の弊害も明らかになった以上、検察は、特捜部の組織のあり方に大なたを振るう覚悟で、捜査や調査に当たらねばならない。


産経新聞2010.9.26 03:07
【主張】検事証拠改竄 組織の問題点を洗い出せ

 大阪地検特捜部検事による証拠隠滅事件は、最高検の捜査が進むにつれ同地検による組織的隠蔽(いんぺい)の疑いが強まってきた。検察史上これほどの不祥事は前代未聞であり、憤りを禁じ得ない。最高検には、迅速で徹底した捜査と検証結果の速やかな公表を求めたい。
 事件は、既に無罪が確定した厚労省元局長、村木厚子氏の不正を裏付けようと押収したフロッピーディスク(FD)のデータを主任検事だった前田恒彦容疑者が改竄(かいざん)したというものだ。
 疑惑は初公判後の今年2月には特捜部内で浮上していた。同僚検事が前田容疑者に問い合わせたものの、「間違ってデータを書き換えた」とあくまでも故意ではないことを強調したという。
 しかも前田容疑者は、独断で重要な物的証拠であるはずのFDを、押収先である村木氏の部下で共犯とされた厚労省元係長の自宅に郵送で返却していた。
 同僚検事らは、このような事実を上司の特捜部副部長、特捜部長に報告していた。この時点で、本人からの聴取など詳しく調査をしていれば、これほどの問題にはならなかったはずだ。
 しかし、特捜部長らは前田容疑者の言い分をうのみにし、問題を放置した。次席、検事正にも正確な情報が上がらなかったようだ。大阪地検全体の驚くべき対応の甘さ、危機意識の欠如といえる。
 また、押収証拠品をすぐに郵送で返却するなど、通常の捜査ではあり得ない。重要な証拠品は、判決が確定するまで特捜部内で厳重に保管されるのが通例である。
 政治家や官僚が絡んだ事件は、着手前から特捜部内で慎重に検討され、次席検事、検事正に報告のうえ、高検、最高検が承認する。途中でチェック機能が働かなかったことに問題の根幹がある。弛緩(しかん)しているのではないか。
 前田容疑者は、民主党の小沢一郎元幹事長の資金管理団体をめぐる政治資金規正法違反事件にも応援に加わり、秘書の大久保隆規被告の取り調べにあたった。このことから弁護側は、捜査段階で容疑を認めていた供述を翻し、全面的に争う姿勢に転じている。民主党の一部からは特捜部不要論まで噴出している。極めて問題だ。
 検察当局は、国民の信頼を取り戻すためにも、組織の問題点を洗い出し、自浄能力を示すべきだ。検察の将来を決しかねない。


◇2010年9月27日

東京新聞2010年9月27日
【社説】検事の犯罪 身内の隠蔽は許せぬ

 押収資料の改ざんが大阪地検幹部に報告されていた事実は重い。調査もしない幹部の失態は組織的な隠蔽(いんぺい)と同然で許されぬ。迅速な検証と厳格な処分がないと、検察はさらに国民の失望を招く。
 「フロッピーディスクに時限爆弾を仕掛けた」と、逮捕された大阪地検特捜部の主任検事前田恒彦容疑者は、同僚検事に話していたという。厚生労働省をめぐる郵便不正事件での押収資料の改ざんは、地検内部でうわさになり、上司の特捜部長や副部長にも報告されていた。
 なぜその時点で特捜部長らは内部調査を進め、事実を公表しなかったのか。身内をかばう意図があったのか、不祥事が表ざたになるのを防ぎたかったのか。調査を怠ったことは、重大な失態だと言わざるを得ない。
 しかも、特捜部長は検事正ら地検上層部に「公判に影響しないので問題ない」とも報告したという。押収品のデータ改ざん自体が犯罪だというのに、公判への影響という基準で「問題なし」とした特捜部長の判断は極めて問題だ。
 地検トップも問題の所在を見逃し、大阪高検でも「問題なし」で素通りしていたのなら、検察組織はまるでチェック機能を喪失しているといえる。最高検による、異例の特捜部長の事情聴取が進められ、地検トップらもその対象になるが、もはや単なる一検事の個人犯罪で済む問題ではない。
 最高検もいわゆる身内の論理に基づく検証作業で完結させてはならない。国会でも追及の的になるだろう。学識者や弁護士、市民など外部の第三者による目でも検証する必要があるのではないか。特捜検察の捜査の在り方そのものに「国策捜査」などと、かねて批判が絶えないからだ。
 検事が描いた事件の構図に沿う都合のいい証拠だけに目を向け、強引な取り調べを繰り返す。今回の郵便不正事件は、まさに特捜検察がはらむ、あしき体質が露呈しているといってもよい。
 前田容疑者は朝鮮総連をめぐる詐欺事件や小沢一郎元民主党幹事長の政治資金規正法違反事件などの捜査にも加わっていた。これらの過去の事件でも不適切な取り調べがなかったか、調査すべきである。
 仙谷由人官房長官は検察幹部の進退について「身の処し方は、株式会社組織とは違った厳正さが必要だ」と語った。幹部らは厳しさを表すという検察官徽章(きしょう)「秋霜烈日」に手を当てるときだ。

元厚労局長無罪判決と地検特捜部証拠改竄事件その4(証拠改竄事件検事逮捕後の報道)

はじめに

(1)郵便不正事件における元厚労局長無罪判決と地検特捜部証拠改竄事件について、先日から投稿を行っている。
「その1」では、「大阪地裁判決の新聞社説」を紹介した。

「その2」では、「証拠改竄事件検事逮捕と元厚労局長職場復帰」についてのマスコミ報道に限定して紹介した。

「その3」では、郵便不正事件に関する新聞社の自社報道についての検証記事(ただし無料のインターネット版で入手するものに限定)を紹介した。

(2)ここでは、「その4」として、元局長が職場復帰した後、昨日(9月26日)までの証拠改竄事件についてのマスコミ報道を紹介し、記録に残すことにしたい。
ゴチックは上脇によるもの。
ただし、検察のリークに基づく記事が多いので、各記事の信憑性については、ご注意いただきたい。
なお、重要な報道が漏れているかもしれない。後で補充する可能性がある。

1.証拠改竄事件における疑問点

証拠改竄事件が発覚した直後、この事件については、なかなかわかりづらい謎のような疑問点があった。
この謎・疑問点は、この事件が故意によるものなのか、それとも過失によるものなのか、個人によるものなのか、それとも組織的なものなのかを考える上で重要である。
その謎・疑問点については、毎日新聞がまとめているので、紹介しておこう。
毎日新聞 2010年9月23日 東京朝刊
障害者郵便割引不正:証拠改ざん 前田容疑者逮捕 謎多い「FD改ざん」

 データ書き換えは故意か、過失か。厚生労働省の村木厚子元局長(54)の無罪が確定した郵便不正事件に絡む証拠品のフロッピーディスク(FD)のデータ改ざんを巡っては、いまなお不可解な点が多い。証拠隠滅の疑いで最高検に逮捕された大阪地検特捜部の主任検事、前田恒彦容疑者(43)は、取り調べに「誤って書き換えてしまった」と供述、意図的な改ざんを否定し続けているという。最高検の捜査で、謎を解くカギは見つかるのか。
 ■FDをなぜ返却?
 前田検事がFDのデータを書き換えたのは昨年7月13日。同16日にはこのFDを、厚労省元係長、上村勉被告(41)側に返却している。FDは本来なら公判に提出すべき資料。裁判所に証拠提出をしない上、データを書き換えたものを被告側に返却すれば、改ざんが発覚することは予想がつきそうだ。

 改ざんしたのは、上村被告が障害者団体に渡す偽証明書をパソコンで作成した日付。「04年6月1日1時20分6秒」だった最終更新日時を「6月8日21時10分56秒」と換えた。6月8日なら検察の描く事件の構図と合うため、上村被告の弁護団は「弁護側の証拠として提出させる意図があったとすれば、許せない」と憤る。
 ■捜査報告書と矛盾
 大阪地検特捜部は、昨年6月14日に村木さんを逮捕し、同29日付で捜査報告書を作成した。村木さんと弁護団に証拠開示された報告書には、書き換え前のFD記録「6月1日」が添付されている。報告書が作成された後、FD記録を書き換え、矛盾する二つの日付が存在する状態になっていた。
 前田検事がFD記録を改ざんした昨年7月13日の時点で、報告書に「6月1日」のデータが添付されていることを知らなかった可能性もある。しかし、主任検事が報告書の内容を知らないと考えるのも不自然だ。
 報告書の「6月1日」のデータは、弁護側から「検察側のストーリーに矛盾する」と公判で厳しく指摘され、無罪の決め手になった。
 なぜ報告書は、検察側の主張と一致しない「6月1日」のままにしていたのか、謎は深まるばかりだ。
 ■データ元に戻さず
 前田検事が主張するように、故意に改ざんする意図はなく、誤って書き換えてしまったのなら、なぜ元の日付に戻して上村被告側に返却しなかったのか。
 FDデータ取り扱いに詳しい専門家は「データを改変するソフトをパソコンにインストールして日付を換えたなら、元に戻すことも同じようにできたはず」といぶかる。
 ◇大坪前特捜部長「答えられない」
 前大阪地検特捜部長の大坪弘道・京都地検次席検事は22日、定例会見で、特捜部長時代の部下の前田主任検事が逮捕されたことについて「私なりの存念がないわけではないが、コメントを控えたい」と話した。「どの時点で証拠品のデータ改ざんを知ったのか」などこの件に関する質問には、疲れた表情で「現時点では答えられない」と繰り返した。
 「(最高検の)聴取はまだないが、元上司だから恐らくある」と明かし、自身の責任の有無について問われると「時期が来たら……」と言葉を濁した。【古屋敷尚子】
 ◇検事の拘置決定
 大阪地裁の岡本康博裁判官は22日、証拠隠滅の疑いで逮捕された大阪地検特捜部の主任検事、前田恒彦容疑者(43)について、10月1日までの拘置を認める決定をした。


2.「FDに時限爆弾仕掛けた」(!?)と特捜部幹部の対応

前述の謎・疑問に対する答えになるかどうかわからないが、改竄容疑の検事は「FDに時限爆弾仕掛けた」という(!?)。
また、大阪地検特捜部幹部は、改竄の事実を知らされ、どう対応したのだろうか?
朝日新聞2010年9月23日4時30分
「FDに時限爆弾仕掛けた」 改ざん容疑の検事、同僚に  
 大阪地検特捜部が押収したフロッピーディスク(FD)のデータが改ざんされた疑いのある事件で、証拠隠滅容疑で逮捕された主任検事の前田恒彦容疑者(43)が同僚検事に「FDに時限爆弾を仕掛けた」と伝えていたことが朝日新聞の取材でわかった。データを書き換えた動機を示唆する発言とも受け取れるが、前田検事は逮捕後の調べに「誤って書き換えてしまった」と意図的な改ざんを否定している。
 最高検によると、前田検事は昨年7月、厚生労働省元係長の上村(かみむら)勉被告(41)=公判中=が作成した偽の証明書の最終更新日時を「04年6月1日」から「04年6月8日」に改ざんしたとされる。朝日新聞の取材に対し、昨年7月のFD返却後にデータを見た上村被告の弁護人は、最終更新日時が「6月1日」と記された捜査報告書と異なることに驚き、単独犯を主張する上村被告にとって不利になる証拠ととらえて表に出すことをためらったという。
 検察関係者によると、今年1月に大阪地裁で開かれた村木氏の初公判で、FDに記録された最終更新日時内容が問題になった。このため、同僚検事の一人が東京地検特捜部に応援に行っていた前田検事に電話をかけ、「FDは重要な証拠なのに、なぜ返却したのか」と聞いた。これに対し、前田検事は「FDに時限爆弾を仕掛けた。プロパティ(最終更新日時)を変えた」と明かしたという。
 さらに同僚検事が、最終更新日時が「6月1日」と書かれた捜査報告書が特捜部の手元を離れ、厚労省元局長の村木厚子氏(54)=無罪確定=の裁判を担当する公判部に引き継がれたことを伝えると、驚いた声で「それは知らなかった」と語ったという。
 こうしたことから、前田検事はデータを書き換えることで上村被告側を混乱させるほか、捜査報告書が公判に出なければ捜査段階の供述調書の補強になると考えた可能性がある。これらの仕掛けを「時限爆弾」と表現した疑いがある。
検察側は村木氏の公判で、同氏が上村被告に偽の証明書を発行するよう指示した時期について6月上旬と主張していた。一方で弁護側は、証拠開示された捜査報告書の日付を根拠に検察側の主張は矛盾していると反論。今月10日の地裁判決も「検察側の主張と符合しない」と指摘した。
 前田検事がFDの最終更新日時を6月8日と改ざんしたとされることについて、検察関係者の一人は朝日新聞の取材に「検察側ストーリーに合う日時だ。だが、返却したFDがどんな形で表に出たら検察側に有利に働くと前田検事が想定していたのか分からない」と話す。(板橋洋佳、野上英文)

(2010年9月24日03時03分 読売新聞)
前田容疑者「FDに時限爆弾仕掛けた」と同僚に

 郵便不正事件を巡る証拠品のフロッピーディスク(FD)改ざん事件で、最高検に証拠隠滅容疑で逮捕された大阪地検特捜部主任検事・前田恒彦容疑者(43)が1月、同僚検事に「FDに時限爆弾を仕掛けた」と話していたことがわかった。
 特捜部幹部は同部の検事らから「事実を発表すべきだ」と進言されながら、FDの調査をしなかったことも判明。最高検は23日、当時の大坪弘道・大阪地検特捜部長(現・京都地検次席検事)と佐賀元明・同副部長(現・神戸地検特別刑事部長)の事情聴取を行った。
 検察関係者によると、1月27日に開かれた厚生労働省の村木厚子元局長(54)(無罪確定)の初公判で、障害者団体と認定する証明書の作成日時が問題となった。
 このため、証明書を作成した同省元係長の上村(かみむら)勉被告(41)(公判中)の取り調べを担当していた同僚検事が、東京地検特捜部に応援として派遣されていた前田容疑者に問い合わせたところ、前田容疑者は「(証明書の作成日時が記録されていた)FDに時限爆弾を仕掛け、上村被告側に返した」と、更新日時を書き換えたとの趣旨の話をしたという。
 同僚検事からこの話を聞いた公判担当の女性検事は1月30日、佐賀副部長に公表するよう訴え、佐賀副部長は当時の大坪部長に相談した。
 しかし、前田容疑者はこの後、「誤って書き換えた」と説明したため、大坪部長らは2月3日、大阪地検の小林敬検事正や当時の玉井英章・次席検事(現・大阪高検次席検事)に「意図的ではなく問題ない」と報告した。小林検事正らは報告に疑問を挟まず、前田容疑者に事情を聞くことすらしなかった。

産経新聞(2010年9月25日 13:31)
使用ソフト「書き換え専用」 前田容疑者の「故意明らか」 証拠FD改竄

 郵便不正事件で押収されたフロッピーディスク(FD)を改竄(かいざん)したとして、証拠隠滅容疑で逮捕された大阪地検特捜部主任検事、前田恒彦容疑者(43)。最高検の調べには「過失だ」と主張し続けているが、「チェックのため」としながらも書き換え専用ソフトを用いたなどの“客観的事実”と主張との間には、矛盾点が浮かびつつある。証拠隠滅罪の成立には「故意」が必要だが、最高検は「故意は明らか」として全容解明を進めている。

 ■「爆弾」の意図
 「時限爆弾を仕掛けた」。前田容疑者が漏らしたとされる「爆弾」の狙いは何だったのか。

 最高検によると、前田容疑者は昨年7月13日、厚生労働省元係長の上村勉被告(41)=公判中=のFDに記録された偽の証明書の最終更新日時を「2004年6月1日午前1時20分6秒」から「2004年6月8日午後9時10分56秒」に書き換えたとされる。
 前田容疑者は改竄から3日後にFDを上村被告側に返却した。
 特捜部は関係者の供述から、厚労省元局長の村木厚子さん(54)=無罪確定=が上村被告に偽の証明書作成を指示した時期を「6月上旬」と断定。上村被告が公判で「指示があった」と主張し、量刑などで有利になるようFDを証拠申請すれば、この見立て通りになる−。そんな筋書きを描いたとの見方もある。
 だが、上村被告は公判では「単独犯」を主張。「爆弾」は不発に終わった。

 ■チェック機能なし
 捜査関係者によると、前田容疑者は最高検の調べに対し、「USBメモリーにコピーして操作しているつもりだったが、間違えてFD本体を書き換えてしまったようだ」と述べ、意図的な書き換えを否定した。
 FDに触るきっかけについては「上村被告が証明書の作成日時を改竄していないか調べるため、FDの中身を確認した」と主張したという。
 しかし、この言い分には不自然な点がある。
 前田容疑者はデータの書き換え専用ソフトを私物のパソコンにダウンロードした上で、証明書の更新日時を書き換えていた。このソフトには前田容疑者が供述したような「改竄の有無を調べる」というチェック機能はなく、あくまで書き換え専用だったというのだ。

 ■都合のいい日
 最高検が重視している“客観的事実”は、前田容疑者が書き換えた「6月8日」という日付だ。
 特捜部が村木さんから上村被告への指示を「6月上旬」と見立てていたことに加え、前田容疑者が「6月8日」にこだわったとみられる理由がある。障害者団体「凛の会」側が厚労省の証明書がなかったため、郵便局で割引制度の適用を受けられなかったのが「6月8日」だった。これを機に、同会はその2日後に上村被告が作成した偽の証明書を使って、その2日後に制度の適用を受けている。
 つまり、FDの正規のデータである「6月1日未明」のままでは、村木さんの指示が5月31日以前になり、特捜部の見立てと合わなくなる。「6月8日夜」であれば、特捜部が描いた構図とつじつまが合う。
 捜査関係者は「『6月8日』は前田容疑者にとって最も都合のよい日。わざわざ『6月8日』に書き換えたことが、故意性の立証材料になる」としている。

(2010年9月25日 読売新聞)
前田容疑者、押収FD起訴後入手…検察構図と相違 焦り改ざんか

 郵便不正を巡る証拠品のフロッピーディスク(FD)改ざん事件で、大阪地検特捜部主任検事・前田恒彦容疑者(43)(証拠隠滅容疑で逮捕)が改ざんしたとされるFDは、厚生労働省の村木厚子元局長(54)(無罪確定)の起訴まで別の検事が保管していたことが、検察関係者の話でわかった。起訴後に前田容疑者に引き継がれたといい、最高検は、FDを確認した前田容疑者が既に出来上がっていた事件の構図と合わない内容だったことに焦り、改ざん行為に走ったとみている
 FDは昨年5月26日、元係長・上村勉被告(41)(公判中)宅の家宅捜索で特捜部が押収した。
 検察関係者によると、上村被告の取り調べは刑事部から応援で派遣された検事が担当。FDはこの検事の執務室に保管されていたが、同7月4日に村木元局長と上村被告が起訴された後、前田容疑者が引き継いだ。
 特捜部は、郵便局から割引適用を受けるための証明書提出を求められた自称障害者団体が厚労省側に発行を要請、村木元局長が上村被告に指示して作らせた――との構図を描いており、団体が証明書発行を頼んだのは「早くても2004年6月8日」としていた。
 ところが前田容疑者が見たFDのデータは、証明書の作成日時が「04年6月1日」となっていた。前田容疑者は昨年7月13日、私用パソコンを職場に持ち込んで「04年6月8日」に修正し、同16日付で上村被告側へ郵送で返却した
 最高検は、前田容疑者が事件の構図にFDの内容を合わせたとみている。ただ、公判に証拠提出された捜査報告書は元のデータ通りの日時が記されており、不可解な経緯をさらに調べる。

毎日新聞 2010年9月25日 11時32分
特捜検事逮捕:「過失」報告、なぜ不問? 検事正ら聴取へ

 大阪地検特捜部主任検事による証拠データ改ざん事件を捜査している最高検は一両日中にも、大阪地検の小林敬検事正、玉井英章前次席検事(現大阪高検次席検事)からも事情を聴く模様だ。今年1月末〜2月初めごろ、主任検事、前田恒彦容疑者(43)=証拠隠滅容疑で逮捕=がフロッピーディスク(FD)のデータを書き換えた疑惑が地検内部で問題になり、報告を受けたとされる小林検事正らは徹底調査に乗り出さなかった。地検幹部は衝撃の事実を、なぜ見過ごしたのか−−。
 大阪地検では1月末、前田検事が同僚検事に「証拠品のFDのデータを変えた。時限爆弾を仕掛けた」などと話し、検事らの間で騒ぎになった。2月初め、佐賀元明前特捜部副部長(現神戸地検特別刑事部長)が、前田検事に確認したところ、「誤って書き換えてしまった」と説明を受け、大坪弘道前特捜部長(現京都地検次席検事)に報告。大坪前特捜部長はそれを受け、小林検事正と玉井前次席検事に「誤ってデータを書き換えたが、公判に証拠提出しておらず問題はない」と報告し、2人は了承したとされる。
 前田検事はFDデータを書き換える専用ソフトで、郵便不正事件の「偽証明書」作成の日付を変更した。元検察幹部は「故意にしろ過失にしろ、証拠品の内容を変えてしまう可能性がある行為自体、検察官としてやってはならない」と話す。「過失」としても厳正に対処すべき事案で、地検が「問題なし」と判断したのは大きな疑問だ。
 今年1月6日付で就任した小林検事正。郵便不正事件の捜査にはかかわっていない。しかし、着任早々の同27日、厚生労働省、村木厚子元局長の初公判があり、検察側は偽証明書が作成された日付について、弁護側から厳しい追及を受けた。追い打ちを掛けるように、地検内部で前田検事の「証拠品改ざん疑惑」が表面化する。
 小林検事正が次々に持ち上がる異例の事態を前に、「検事間のトラブルで、問題ない」という大坪前特捜部長の報告をうのみにしたとは考えにくい。改ざん疑惑を「調査しない」と決めた背景には何があったのか。
 小林検事正と玉井前次席検事は取材に対し「一切ノーコメント」を貫いている。

産経新聞(2010年9月26日 08:17)
見返りに公判担当指示 前田容疑者へ 告発検事の口止め? FD改竄 非公表

 大阪地検特捜部が郵便不正事件で押収したフロッピーディスク(FD)の最終更新日時が改竄(かいざん)された事件で、主任検事の前田恒彦容疑者(43)=証拠隠滅容疑で逮捕=の同僚検事から“内部告発”を受けた特捜部幹部が、改竄を公表しないことを同僚検事に納得させるため、厚生労働省元局長、村木厚子さん(54)=無罪確定=の公判に前田容疑者を立ち会わせていたとみられることが25日、関係者への取材で分かった。
 改竄を伝える“内部告発”に対し、地検が今年2月、「過失で問題ない」として事実上黙殺していたことはすでに判明しているが、同僚検事は改竄の公表と併せて前田容疑者の公判立ち会いも求めていたとされ、特捜部幹部が公表しない見返りとして応じた可能性が高いという。最高検は大坪弘道前特捜部長(現京都地検次席検事)らへの任意の事情聴取を通じてこの経緯を把握したもようで、小林敬検事正らにも説明を求めるとみられる。
 村木さんの公判は、今年1月27日以降、計23回にわたって開かれた。
 関係者によると、同僚検事は1月末、前田容疑者が「(押収元に返却した)FDに時限爆弾を仕掛けた」と話したことを受けて上司に改竄疑惑を報告したが、2月3日、大坪前部長ら特捜部幹部と小林検事正ら地検上層部の協議で「証拠管理上のミスにとどまる」とされ、調査と公表は見送られた
 この決定前日の2月2日、同僚検事は村木さんの共犯とされた障害者団体元メンバー、河野克史被告(70)=1審有罪、控訴中=に対する証人尋問で初めて公判に立ち会った。
 特捜部幹部は公表の見送りを同僚検事に伝え、前田容疑者には公判立ち会いを指示。結局、前田容疑者は、村木さんの上司だった塩田幸雄元部長(59)が2月8日に「事件は壮大な虚構」と証言して以降、9月10日の無罪判決まで、大半の公判に立ち会った。
 同僚検事が前田容疑者にも公判立ち会いを求めた理由について、関係者は「『公判に出た人間しか、証拠改竄を隠し通す不安が分からない』と考えたからではないか」としている。
 関係者によると、大阪地検で主任検事が特捜部に在籍したまま公判に専従するのは異例だったが、前田容疑者の立ち会いは表向き、公判での劣勢を盛り返すためとされていたという。

前特捜部長ら きょう3度目聴取
 押収FDの改竄事件で、最高検は26日に、大坪前特捜部長と佐賀元明前特捜部副部長(現神戸地検特別刑事部長)を改めて任意で事情聴取する。2人の聴取は23、24両日に続き3度目で、最高検は組織的隠蔽(いんぺい)の有無について解明を急ぐ。カギとなる大坪前部長らの聴取を踏まえ、小林検事正と玉井英章前次席検事(現大阪高検次席検事)を週明けにも聴取する方針だ。
 また、前田容疑者から改竄を示唆する発言を聞いたとされる同僚検事や、村木さんの公判担当検事らからも、すでに聴取したことが捜査関係者への取材で分かった。最高検は、同僚検事らと大坪前部長らの供述に食い違いがあることなどから、大坪前部長らの再聴取に踏み切るとみられる。
 捜査関係者によると、最高検に対し、同僚検事らは「改竄の疑いがあることを上司に伝えた。(検事正らに)報告し、公表すべきだと主張した」と話した
 一方、大坪前部長は「改竄の疑いが強いとまでは聞いていない」などと説明。「前田容疑者からは『誤って書き換えてしまった』と説明を受けた。わざとではないと判断し、検事正に『問題ない』と報告した」と話したという。最高検は、大坪前部長らが問題の深刻化を避けるために情報を部内にとどめようとした可能性もあるとみて、経緯などを詳しく確認する。

NHK9月26日 19時28分
“涙ながらの訴え”問題にせず

 大阪地検特捜部の主任検事が、押収した証拠を改ざんしたとして逮捕された事件で、主任検事がフロッピーディスクのデータを書き換えた可能性があることを知った検事が、当時の特捜部幹部に「たいへんなことで公表すべきだ」と涙ながらに訴えていたことが検察関係者への取材でわかりました。しかし、幹部らは「わざとではなかった」として問題にせず、最高検察庁は当時の特捜部長らから26日も事情を聴いて詳しい経緯を調べています。
 大阪地検特捜部の主任検事、前田恒彦容疑者(43)は、証拠として押収したフロッピーディスクのデータを改ざんしたとして、証拠隠滅の疑いで逮捕されました。検察関係者によりますと、ことし1月から2月にかけて、厚生労働省の村木元局長の裁判でフロッピーディスクのデータが問題になったあと、前田検事が、同僚の検事にデータを書き換えたことを打ち明けたということです。
 同僚検事は、この話を村木さんの裁判を担当していた別の検事に伝え、この検事は特捜部の佐賀元明前副部長に「前田検事が書き換えをした。村木さんは無罪だ。たいへんなことだから公表すべきだ」と涙ながらに訴えたということです
 これを受けて大坪弘道前特捜部長らは、前田検事から直接聞き取りをしましたが、本人が「誤って書き換えた」と説明したため、フロッピーディスクの調査もしないまま、大阪地検のトップの検事正に「問題はない」と報告したということです。最高検は大坪前特捜部長らから26日も事情を聞いて、当時、どのようなやり取りが行われたのか、さらに調べています。


3.大阪地検特捜部は改竄の事実を最高検に伝えていないのか!?

大阪地検特捜部は改竄の事実を最高検に伝えていなかった(!?)という。
時事通信社(2010/09/24-22:23)
改ざん疑い、最高検に伝えず=特捜部、5月の調査に−検事証拠隠滅

 大阪地検特捜部検事の前田恒彦容疑者(43)が証拠品のフロッピーディスク(FD)を改ざんしたとされる事件で、最高検が5月に、FDのデータに関し文書で質問したにもかかわらず、当時の特捜部長らが改ざんの可能性について報告していなかったことが24日、検察関係者の話で分かった
 最高検は、特捜部幹部が問題の表面化を避け、情報を部内にとどめようとした可能性もあるとみて、前日に続いて24日も大坪弘道・前特捜部長らを事情聴取した。
 村木厚子厚生労働省元局長=無罪確定=の公判で大阪地裁は5月26日、改ざん前のFDに記録された偽証明書の「6月1日」という最終更新日時と、検察側が偽証明書発行について村木元局長の指示があったと主張する日時との矛盾を指摘し、供述調書の証拠採用を却下。無罪の公算が大きくなった。
 検察関係者によると、最高検はこれを受け、5月末に、日時の矛盾について理解していたのかどうかなどをただす質問書を地検に送った
 質問書は大坪前部長や佐賀元明・前副部長らに配布された。大坪前部長らは、2月にFDの書き換えについて前田容疑者から詳しい報告を受けていたが、回答書にはその内容を記載せずに返送したという。

朝日新聞2010年9月24日15時0分
改ざん疑惑、最高検調査に伝えず 大阪地検特捜部

 大阪地検特捜部が押収したフロッピーディスク(FD)をめぐる証拠隠滅事件で、最高検が5月、厚生労働省元局長の村木厚子氏(54)=無罪確定=らの捜査段階でFD内の文書データをどう評価していたのか、などについてただす質問書を地検に送っていたことが朝日新聞の取材でわかった。特捜部と公判部はこの調査の約4カ月前にデータ改ざんの疑いを把握していたが回答書には盛り込まず、最高検には改ざんを伝えなかったという。
 朝日新聞の取材に対し、地検特捜部主任検事の前田恒彦容疑者(43)=証拠隠滅容疑で逮捕=から厚労省元係長の上村(かみむら)勉被告(41)宅で押収したFDの文書の最終更新日時を改ざんした、と打ち明けられていた特捜部関係者は「問題を抑えようとしたととらえられても仕方がない」と話している。
 村木氏の公判では、弁護側が捜査報告書に「04年6月1日」と記されたFD内の偽の証明書の最終更新日時などを根拠に「客観証拠と検察側の主張が矛盾する」と指摘。大阪地裁は5月26日、同氏から「04年6月上旬」に偽の証明書の発行を指示されたとする上村被告らの供述調書について「検事が誘導で作った」などとし、証拠採用しないと決定した。検察側は立証の柱を失い、村木氏の無罪が濃厚となった。
 検察関係者によると、最高検は決定の2日後、地検に(1)最終更新日時と上村被告らの供述が矛盾することを理解していたのか(2)特捜部から事件を引き継いだ公判部は矛盾にいつ気づいたのか――など9項目の質問を送った。質問は大坪弘道・特捜部長(現・京都地検次席検事)と佐賀元明・副部長(現・神戸地検特別刑事部長)、前田検事、公判担当検事ら捜査と公判に携わっていた複数の関係者に配られた。
だが、この調査に先立つ1〜2月に改ざんの疑いを把握した大坪部長、佐賀副部長、公判担当検事らはこれを指摘しなかった。この結果、「複数の厚労省関係者が村木氏の関与を認めたため、更新日時が事件の筋と矛盾すると判断する決め手にはならなかった」などとした地検としての回答書が作られた。
 また、回答書では前田検事の村木氏らに対する捜査について「更新日時の重大性を十分に認識せず、村木氏の関与を認めた供述と両立すると安易に考えた」とする反省点を指摘していた。しかし、ここでも改ざんの疑いに触れることなく、回答書は最高検に送られたという。(板橋洋佳、野上英文)


4.改竄検事は「故意」と認めたのか!?

改竄した検事は否定していた。
しかし「故意」を認めたと9月24日付朝日新聞は報じたが、9月26日付午前のテレビ朝日の報道は、「依然、容疑を否認している」と報じている。
果たしてどちらが真実なのか?
2010年9月23日 2時35分 更新:9月23日 2時45分
特捜検事逮捕:「改ざん意味ない」 前田容疑者、故意否定

 郵便不正事件で証拠品として押収されたフロッピーディスク(FD)のデータを改ざんしたとして、証拠隠滅の疑いで逮捕された大阪地検特捜部の主任検事、前田恒彦容疑者(43)が、最高検の調べに対し「故意ではなく過失だ」と供述し、容疑を否認し続けていることが分かった。最高検は意図的な改ざんとみて調べているが、前田検事は「(裁判で証拠とされた)捜査報告書に正しいデータが残されている以上、FDを改ざんする意味がない」と主張しているという。
 前田検事は09年7月中旬ごろ、FD内に記録された偽証明書のデータの最終更新日時を「04年6月1日1時20分6秒」から「04年6月8日21時10分56秒」に改ざんした疑いが持たれている。
 前田検事が改ざんしたFDは証拠として裁判に提出されず、09年7月16日にFDの所有者の厚生労働省元係長、上村勉被告(41)=虚偽有印公文書作成・同行使罪で公判中=側に返還された。一方、改ざん前のFDの記録は「捜査報告書」に添付されて開示され、弁護側の請求で証拠採用された。捜査報告書は特捜部の事務官が作っていた。
 前田検事は逮捕前の大阪地検の内部調査に「いろいろやっていたらFD自体のデータを書き換えてしまった」と説明。検察関係者によると、逮捕後の最高検の調べには「捜査報告書があることは知っていた。わざわざ改ざんするわけがなく、書き換えて遊んでいただけだ」という趣旨の供述をしているという。
 最高検は、04年6月上旬に厚労省の村木厚子元局長(無罪確定)が上村被告に偽証明書の作成を指示したという特捜部が見立てた構図に合わせるため、前田検事が改ざんしたとみて捜査している。
 また、大阪地検が改ざんを把握したとされる2月ごろ、前田検事は同僚の検事とトラブルになっていたという。
 検察関係者によると1月末〜2月初めごろ「前田検事が郵便不正事件の証拠を改ざんしている」と、公判担当の検事らを巻き込んで検事同士のけんかになっているとの話が地検内で広まった。前田検事の上司が事情を聴いた結果、特捜部としては「問題になるようなデータ改ざんではない」と判断。大坪弘道特捜部長(当時)が小林敬検事正と玉井英章次席検事に「検事の間でトラブルはあったが問題はなかった」と報告した。その後、データ改ざんについて地検内で取り上げられることはなかったという。

朝日新聞2010年9月24日
前田検事、故意の改ざん認める 否認から一転 最高検

 大阪地検特捜部が押収したフロッピーディスク(FD)のデータが改ざんされた疑いのある事件で、証拠隠滅容疑で最高検に逮捕された同部検事の前田恒彦容疑者(43)が、「故意にデータを改ざんした」と認める趣旨の供述を始めたことが分かった。大阪地検の調査や逮捕後のこれまでの調べでは「誤って書き換えた」と意図的な改ざんを否定していた。
 最高検は、郵便不正事件で捜査の主任を務めていた前田検事が特捜部の描いた事件の構図に沿わない証拠を都合よく改ざんした可能性があるとみて、書き換えた理由やその後の上司らへの説明状況などを調べている。
 最高検の調べによると、前田検事が改ざんした疑いがあるのは、厚生労働省元係長の上村(かみむら)勉被告(41)=虚偽有印公文書作成・同行使罪で公判中=の自宅から昨年5月に押収されたFD。昨年7月、大阪地検内に私物パソコンを持ち込み、専用ソフトを使って最終更新日時が「04年6月1日」だったのを「04年6月8日」に書き換えたとされる。
 検察関係者によると、今年1月に大阪地裁で開かれた厚労省元局長の村木厚子氏(54)=無罪確定=の初公判で、FDに記録された最終更新日時が問題になった。FDは昨年7月に上村被告側に返却されていたため、同僚検事の一人が、東京地検特捜部に応援に行っていた前田検事に電話をかけて「重要な証拠なのに、なぜ返却したのか」と聞いた。これに対し、前田検事は「FDに時限爆弾を仕掛けた。プロパティ(最終更新日時)を変えた」と明かしたという。
 検察側は、2004年の「6月上旬」に、村木氏が上村被告に偽の証明書を発行するよう指示したのではないかと疑っていた。そうした内容の上村被告の捜査段階の供述調書もあった。だが、証明書のデータが入っていたFD内の最終更新日時は「6月1日未明」。これでは、村木氏の指示が5月中にあったことになり、検察側の主張が崩れかねない状況だった。

テレビ朝日(09/26 11:54)
前特捜部長らを再聴取へ 前田容疑者は否認のまま

 大阪地検特捜部の主任検事が資料を改ざんしたとして逮捕された事件で、最高検は、当時の上司だった特捜部長らから26日に再び事情聴取する方針を固めました。
 大阪地検特捜部の検事・前田恒彦容疑者(43)は、捜査で押収したフロッピーディスクの文書データの日付を改ざんした疑いが持たれています。前田容疑者は依然、容疑を否認しているということです。
 最高検は、データが書き換えられたことを1月ごろに前田容疑者から聞いた同僚検事にすでに話を聞いています。この同僚検事らは、大坪弘道前特捜部長らに改ざんの疑いを伝えたにもかかわらず、大阪地検は「問題ない」と判断したということです。
 最高検は26日、大坪前部長らから3度目の事情聴取を行い、改ざん疑惑を地検の幹部に報告した経緯について改めて説明を求める方針です。

元厚労局長無罪判決と地検特捜部証拠改竄事件その3(マスコミの自社報道の検証)

はじめに

(1)郵便不正事件における元厚労局長無罪判決と地検特捜部証拠改竄事件について、先日から投稿を行っている。
「その1」では、「大阪地裁判決の新聞社説」を紹介した。

「その2」では、「証拠改竄事件検事逮捕と元厚労局長職場復帰」についてのマスコミ報道に限定して紹介した。

(2)ここでは、「その3」として、郵便不正事件に冠する新聞社の自社報道についての検証記事を紹介する。

ただし、ここで紹介するものは、無料のインターネット版でここ数日検索して入手できたものに限定する。
言い換えれば、ここで紹介する以外でも新聞社の自社報道継承記事が実際に紙面では掲載されているようだが、無料のインターネット版では現在入手できないので、残念ながらそれらについてここでは紹介しないし、新聞社の一つ一つにアクセスして検索していはいないので紹介できない、ということである。

なお、読者の皆様から教えていただければ、追加して紹介したい。

(3)果たして検証の名に値するのか・・・・。


◇新聞社の自社報道についての検証報道

(1)毎日新聞社

毎日新聞 2010年9月14日 大阪朝刊
障害者郵便割引不正:村木元局長無罪判決 報道・経過と検証 「疑問」抱きつつ

村木元局長の逮捕を伝える昨年6月15日の毎日新聞夕刊 厚生労働省の村木厚子元局長(54)が大阪地検特捜部に逮捕され、無罪判決を受けた事件について、毎日新聞は大阪本社社会部の司法担当記者らが中心になって取材した。毎日新聞はどんな論議をし、どう報道したのか。その検証の中で、再認識したのは容疑者側への取材の重要さだった。

 ◇軽視できぬ検察情報
 「何だこの原稿は。容疑者の言い分ばっかりじゃないか」。昨年6月14日の村木元局長逮捕を伝える紙面を巡って、編集局内で議論になった。社会部から「不正なことを認めるわけがない」という事前に取材した村木元局長の反論が大量に出稿されたからだ。編集局内では「厚労省局長という権力者におもねっている」「もっと特捜部の話を出せ」との声が上がった。それを押し切る形で、村木元局長の言い分は社会面トップで紙面化された。
 この原稿をまとめた社会部の玉木達也記者(45)は、事件の舞台となった04年当時、東京本社社会部で厚労省を担当。障害保健福祉部企画課長だった村木元局長も度々取材していた。村木元局長が、係長の上村勉被告(41)に不正な証明書の作成を指示したとして、特捜部の捜査線上に浮かんでからは、本人だけでなく職場の同僚にも取材を重ねた。旧労働省出身の村木元局長の仕事ぶりは旧厚生省側から注視されており、不正ができる環境になかった▽企画課長が社会参加推進室の係長(上村被告)に直接指示することはない−−。取材の結果からは、村木元局長への容疑は不当に思えた。
 一方で、大阪地検特捜部の担当記者には、取り調べ中の容疑者らが、村木元局長の事件への関与を供述しているという情報が入ってきた。こうした検察情報に基づく内容も報道した。
 郵便料金割引制度を悪用した倉沢邦夫被告(74)が「村木課長に(料金割引を認める)証明書の発行を催促した」と供述(09年6月16日夕刊)▽上村被告が「村木課長から『適当でいいから証明書を出しておいて』と指示された」と供述(同17日夕刊)▽上村被告が「村木課長に偽の証明書を渡した際、『もう忘れるように』と言われた」と供述(同18日夕刊)−−などの記事だ。
 こうした供述は検察側のストーリーに沿ったもので、公判では強引な取り調べで無理やり供述調書に署名させられていたことが明らかになっていった。
 元特捜担当記者は「検察の構図に当初は疑問もあったが、関係者の供述などから、村木元局長の容疑は徐々に固まりつつあるように感じた。元局長が権力者である以上、元局長の関与を示す供述を報じないという選択肢はなかった」と振り返る。
 村木元局長の起訴後、玉木記者は拘置所で接見し、改めて「無実主張」を09年7月30日朝刊で報道した。村木元局長の話は逮捕前と変わっていなかった。
 クロかシロか。現場の記者も悩みながら報道を続けた。

 ◇無理感じた特捜の構図−−玉木達也記者の話
 厚労省企画課長時代の村木元局長には、障害者問題で頻繁に取材した。
 村木元局長が捜査線上に浮上した時、予断を排し、本人と周辺を改めて取材した。そして、特捜部の事件の構図にかなり無理があることが分かった。一方、特捜部の捜査力も知っている。「特捜は何か決定的な証拠を握っているのではないか」との思いもあった。
 「無実」との確信はなかった。ただ「無実の可能性」を記事でしっかりと伝えるべきだと思った。散々悩んだ結果が、村木元局長の逮捕を伝える紙面で、村木元局長の言い分をまとめた長文の記事を掲載することだった。
 無罪判決が出た今、もっと報道できることがあったのではないかと自問している。
==============
 ◆郵便不正・偽証明書事件の経過◆
04年 6月    凜の会に偽証明書が発行される
09年
    4月16日 大阪地検特捜部が凜の会代表の倉沢邦夫被告を郵便法違反容疑で逮捕
    5月26日 元係長の上村勉被告と凜の会設立者の河野克史被告を虚偽有印公文書作成・同行使容疑で逮捕
    6月14日 村木厚子元局長を同容疑で逮捕
    7月 4日 元局長、上村、倉沢、河野被告を同罪で起訴
10年
    1月27日 元局長、大阪地裁の初公判で無罪主張
    4月27日 倉沢被告に一部無罪判決(虚偽公文書関係で元 局長らとの共謀を認めず)
    5月10日 検察側が控訴
      11日 起訴内容を認めた河野被告に有罪判決
      21日 河野被告が控訴
      26日 元局長公判で、大半の供述調書を却下
    6月22日 検察側が元局長に懲役1年6月求刑
      29日 弁護側、改めて無罪を主張し結審
    9月10日 大阪地裁が元局長に無罪判決

毎日新聞 2010年9月14日 東京朝刊
障害者郵便割引不正:村木元局長無罪・毎日新聞報道検証 容疑者側への取材さらに

 厚生労働省の村木厚子元局長(54)が大阪地検特捜部に逮捕され、無罪判決を受けた事件について、毎日新聞は大阪本社社会部の司法担当記者らが中心になって取材した。毎日新聞はどんな論議をし、どう報道したのか。その検証の中で、再認識したのは容疑者側への取材の重要さだった。
 「何だこの原稿は。容疑者の言い分ばっかりじゃないか」。09年6月14日の村木元局長逮捕を伝える紙面を巡って、編集局内で議論になった。社会部から「不正なことを認めるわけがない」という事前に取材した村木元局長の反論が大量に出稿されたからだ。編集局内では「厚労省局長という権力者におもねっている」「もっと特捜部の話を出せ」との声が上がった。それを押し切る形で、村木元局長の言い分は社会面トップで紙面化された。
 この原稿をまとめた社会部の玉木達也記者(45)は、事件の舞台となった04年当時、東京本社社会部で厚労省を担当。障害保健福祉部企画課長だった村木元局長も度々取材していた。村木元局長が、係長の上村勉被告(41)に不正な証明書の作成を指示したとして、特捜部の捜査線上に浮かんでからは、本人だけでなく職場の同僚にも取材を重ねた。旧労働省出身の村木元局長の仕事ぶりは旧厚生省側から注視されており、不正ができる環境になかった▽企画課長が社会参加推進室の係長(上村被告)に直接指示することはない−−。取材の結果からは、村木元局長への容疑は不当に思えた。
 一方で、大阪地検特捜部の担当記者には、取り調べ中の容疑者らが、村木元局長の事件への関与を供述しているという情報が入ってきた。こうした検察情報に基づく内容も報道した。
 郵便料金割引制度を悪用した倉沢邦夫被告(74)が「村木課長に(料金割引を認める)証明書の発行を催促した」と供述(09年6月16日夕刊)▽上村勉被告が「村木課長から『適当でいいから証明書を出しておいて』と指示された」と供述(同17日夕刊)▽上村被告が「村木課長に偽の証明書を渡した際『もう忘れるように』と言われた」(同18日夕刊)と供述−−などの記事だ。
 こうした供述は検察側のストーリーに沿ったもので、公判では強引な取り調べで無理やり供述調書に署名させられていたことが明らかになっていった。
 元特捜担当記者は「検察の構図に当初は疑問もあったが、関係者の供述などから、村木元局長の容疑は徐々に固まりつつあるように感じた。元局長が権力者である以上、元局長の関与を示す供述を報じないという選択肢はなかった」と振り返る。
 村木元局長の起訴後、玉木記者は拘置所で接見し、改めて「無実主張」を09年7月30日朝刊で報道した。村木元局長の話は逮捕前と変わっていなかった。
 クロかシロか。現場の記者も悩みながら報道を続けた。


(2)産経新聞社
産経新聞2010年9月23日(2010年9月23日 08:27)
郵便不正 本紙報道を検証 検察の構図 どう報じたか

 大阪地検特捜部の主任検事が証拠隠滅容疑で逮捕される異例の事態に発展した郵便不正事件で、虚偽有印公文書作成・同行使罪に問われた厚生労働省元局長、村木厚子さん(54)に対し、大阪地裁が10日に下した無罪判決が確定した。判決は特捜部が描いた事件の構図を全否定する内容だった。産経新聞は村木さんを逮捕する前後の捜査や公判をどう取材し、どう報じたのか検証した。 (紙面は大阪本社発行最終版)

■逮捕前
 村木さんを最初に報じたのは、厚労省元係長の上村勉被告(41)=公判中=が逮捕された翌日の昨年5月27日付夕刊1面。
 《『厚労省幹部から受け取る』倉沢容疑者が供述》との見出しで、障害者団体「凛(りん)の会」元会長、倉沢邦夫被告(74)=1審一部無罪、検察側控訴=が特捜部の調べに、厚労省発行の証明書を「当時課長だった現局長から直接受け取った」と供述している、として局長だった村木さんの関与を匿名で報道した。
 前日の26日、検察担当記者が厚労省で村木さんに取材を求めたが、応じてもらえなかった。当時は国会会期中。局長室前で待機し、答弁のため国会へ移動するときに複数回取材を試みても無言のままだった。
 それから数日間、日中は厚労省、夜間は自宅マンション前で接触を試みた。しかしいずれも空振りに終わった。このため、厚労省広報室を通して「凛の会にも倉沢という人物にも心当たりはない。どうして私が偽の証明書を手渡したと言っているのか分からない」とするコメントを入手した。
 関係者取材で上村被告が偽の証明書作成の動機を「自己保身のため」と供述していることをつかみ、6月2日付朝刊1面で報道。焦点だった村木さんの指示を否定する内容だったが、それ以降の報道は他社と同じ村木さんに疑惑を向けたものになった。
 6月13日夜、検察幹部らの取材を通じて14日にも逮捕の可能性があると知り、14日付朝刊1面トップで《厚労省局長を聴取へ》と報じ、入手済みの村木さんのコメントを掲載した。

■逮捕後
 14日午後、村木さんは逮捕された。休刊日だったこの日をはさみ、15日付夕刊1面で《証明書偽造容疑で厚労省局長を逮捕》と報道。捜査関係者の話として「『凛の会のことも証明書のことも知らない。倉沢容疑者に会ったこともない』と全面否認している」という供述も合わせて報じた。
 村木さんは厚労省で仕事ぶりや人柄の評価が高く、社会面では「上司、部下ともに慕われていた」とも書いた。しかし当時、検察幹部は「すべて証拠でがんじがらめ。有罪は確実」と断言していた。その証拠とは上司や部下、凛の会関係者らの供述調書だった。後の公判で供述が相次いで覆され、「取り調べに問題がある」と調書の証拠採用まで却下されるが、当時はそこまで予測できなかった。
 これまで裁判所が同じ法律のプロである検察官が取った調書に信頼を寄せていたのと同様に、本紙も検察情報による供述内容に信用性があると判断。「供述」を中心に、村木さんの関与を示す続報を記事化した。
 20日朝には、大阪拘置所で村木さんとの接見を終えた弁護人に取材。「日常業務から考えて証明書を偽造するなんてあり得ない」「(政治家の口利きは)特別記憶に残っていないし、政治家とやりとりする理由もない」「(倉沢被告に)少なくとも記憶に残る会い方はしていない」という主張を同日付夕刊で報じた。ただ、記事は社会面2段見出しの地味な扱いだった。
 捜査段階では、女性キャリア逮捕の衝撃や国会議員に波及する可能性もあり、報道合戦が過熱した。確かに冷静さを失い、検察の構図に沿った報道に傾いた感は否めない。

マスコミは高い自律を 村木さん 一問一答

 村木厚子さんは判決後の16日、産経新聞の報道について次のように語った。
 ――逮捕前後の関係者の供述報道について
 「取り調べの内容が流れるのがいいのかという問題はあるが、情報が取れたのに書くな、というのは難しいと思う。でも『あれだけを書くの?』と問いたい」

 ――今後の報道に何を求めるか
 「マスコミには権力と戦い、チェックし、悪い者を指弾するという高いミッションがある。競争は激しく、手柄を立てたい意志の強い人もいる。どうやって行き過ぎないように自分を律するか、易きに流れず能力を高めるか、自分たちの中で検証して後の取材に生かしてほしい」

 ――逮捕前に取材に応じなかったことについて
 「検察から名前が出ているのに呼び出しがない状態が続いた。マスコミの方に間接的に聞いた検察の状況を前提に取材に応じるよりも、やはり私が本当に話すべき相手は検察だったと思う。ああいう状況では、疑われている側には打つ手がない」

 ――公判段階の報道について
 「産経新聞の詳報は、膨大な1日の公判のポイントが書かれていて、とてもありがたかった。支援者が詳報を読んで裁判の中身を知り、理解してくれていた」

問答形式で公判「詳報」
 村木さんをめぐる報道で特徴的だったのは、公判では一転、無罪を前提とした報道が目立ったことだ。
 刑事事件では当初、ほとんどの弁護人が一切の取材を拒否するが、公判での主張が固まった段階で取材に応じる方針に転換する場合がある。このとき捜査段階には実現しなかった被告側の取材が容易になるという「逆転現象」が生じる。
 今回もその典型だった。村木さんと弁護人は保釈後と初公判前後、判決前後の計5回、記者会見を実施。各公判終了後も弁護人が常に取材に応じた。ただ、産経新聞は公判段階で被告・弁護側と検察側のいずれにも偏らないように努めた。
 証人17人のうち、共犯とされた上村、倉沢両被告など15人の証人尋問や村木さんの被告人質問のやりとりを問答形式で詳細に再現した「詳報」を計15回掲載。検察側と被告・弁護側の攻防の様子が客観的に分かる報道を試みた。
 ただ、5月26日の第20回公判で主要な供述調書の証拠採用が却下されると、検察側の劣勢が明らかになった。本紙も無罪の公算が大きいとの見方を強め、判決前には捜査の問題点を検証する企画記事を朝刊1面で5回連載した。

検察と一定の距離を 元東京地検特捜部長・中央大学法科大学院教授、宗像紀夫弁護士
 逮捕当初、「村木厚子さんが犯行に関与したのは間違いない」という検察の見方が垂れ流しで報道されていた印象がある。
 マスコミは捜査段階で容疑者側の主張を聞くよう努力すべきだ。ほとんどのマスコミは検察ワンサイドの報道しかしていないようにみえる。同じ問題について容疑者の弁護人にも取材し、「捜査当局はこう見ているが、一方でこういう見方もある」と容疑者側の言い分も十分に吸い上げた上で掲載すべきではないか。捜査側の見立てを垂れ流しにするだけではマスコミの存在価値はない。
 今のマスコミは「従軍記者」のごとく検察と全く同じ立場で、同じ方向を向き、一体となっているように感じる。しかし、検察はあくまで事件捜査の一当事者でしかない。マスコミは検察と緊張関係を保つため、検察の「磁場」から離れ、一定の距離を置いて検察情報に疑問を持ちながら報道すべきだろう。
 私自身、現役時代にマスコミから教えてもらうことも多かった。検察とマスコミは社会正義実現という目的に向かい、節度を守って互いに情報を交換する、整理するという関係が理想的だろう。

公式の場で問い質せ ジャーナリスト・江川紹子さん
 捜査機関とメディアの問題点は重なる。東京地検の会見が雑誌やフリーの記者にもオープン化されたが、その会見に出席して感じるのは、検察が容疑の認否といった基本的なことすら答えないのに、司法記者がそんな「検察の流儀」になじんでいることだ。後から個別で聞くのでなく公式の場で言わせないとだめ。個別で勝手なことを言い、それが報道されてもだれも責任を取らない。
 郵便不正事件では、検察側情報に基づく供述報道が一斉になされた。検察は都合の悪い情報は出さない。“フィルター”がかかっていることを踏まえた上で報道することが重要だ。
 産経新聞では、村木厚子さんの逮捕や関係者供述など検察側情報による記事は1面に掲載されたのに、村木さんと接見した弁護人の情報に基づく記事の扱いは小さかった。これでは読者の印象に残らない。弁護側情報の扱いを考え直すべきだ。
 一方で各社で唯一、証人尋問などのやりとりを記した「詳報」を紙面やインターネットで報じた。通常の記事は記者の見方に沿ってしまいがちだが、“生の素材”を読者に提供して判断をゆだねる客観報道に徹したのはよかった。

報道にも大きな責任 枚方談合事件で無罪が確定 小堀隆恒・元枚方市副市長
 私は大阪地検特捜部に逮捕されてから一貫して無罪を主張したのに、逮捕翌日の新聞各紙の紙面では「全面的に認めている」と書かれた。私が事件に関与していたと思わせる記事で埋め尽くされたことで、いまだに「談合にかかわった副市長」という印象を持つ市民も少なくない。
 市の広報課長を務めたこともあり、報道機関のスタンスはわかっているつもりだった。正しいものは正しく、悪いものは悪い。悪しき権力をただす役割を担う報道機関に対し、私も畏敬の念を持っていた。
 しかし、事件をめぐる報道によって私の思いは間違っていたんだと思った。報道機関に対する信用というものはなくなった。記者が足で稼ぎ、事実を把握し、その上で市民に知らせるのが当たり前の話ではないか。確かに検察の捜査は人権侵害だった。だが、その検察に沿った記事を書いた報道機関も大きく加担したことを忘れないでほしい。
 郵便不正事件でも同じことが起きた。新聞は一度立ち止まって自らの役割を見つめ直してほしいと思う。検察や報道機関の批判記事を書けと言っているわけではない。本当のことを報道してもらいたいだけだ。

犯人視しない報道を模索 社会部長 内野広信
 厚労省元局長の村木厚子さんの無罪判決が確定した郵便不正事件は、犯罪報道のあり方について改めて考えさせられる事件となった。
 障害者団体の意を受けた国会議員が口利きをし、厚労省の担当部長―課長―係長の流れの中で偽造証明書が作成されたというのが特捜部が描いた事件の構図であった。
 少なくとも、偽造証明書が物証としてあり、厚労省が発行したのは事実であった。どのようなルートで発行されたのかに注目が集まり、本紙は捜査当局や関係者らの取材を重ねる中で、当初、特捜部の構図が正しいとの見通しを持っていた。
 特に知能犯事件の場合、当事者の供述が事件の行方を左右するとの経験から、昨年5月に元係長、上村勉被告が逮捕されてから、上村被告や障害者団体幹部らの「供述」を記事の核にして報道した。供述の「有無」に取材の力点を置いて、特捜部の捜査の方向性を追った。
 ただ、特捜部が捜査を有利に進めるため報道機関に意図的に捜査情報を流す「検察リーク」に乗るなどという関係が本紙と特捜部にあったわけでは決してない。
 一方、村木さんは昨年6月に逮捕されてから一貫して否認を続け、取材の中からも信じられない特捜部の捜査のずさんさが見えてきた。
 このため、公判段階での報道は、従来の裁判報道にとらわれず、検察と弁護側双方の主張をわかりやすく伝えるため、公判でのやりとりを可能な限り再現する「詳報」のスタイルで報じてきた。
 日本では起訴された被告は99%以上が有罪判決を受けているうえ、今回の事件の捜査機関は巨悪を眠らせないという強い使命感と高い捜査力のある特捜部だった。過去の実績による「信用」を前提にして、捜査段階での報道が引きずられてしまったという指摘は認めなければならない。
 さらに、特捜部の主任検事が犯罪行為をしてまで事件を作り出そうとしていた驚くべき実態が明らかになってきたが、報道機関としてなぜ事件の「真相」あるいは「構図」に迫りきれなかったのか検証していきたい。
 昨年5月から始まった裁判員制度で、報道機関は裁判員に予断を与えないよう配慮するよう求められ、犯罪報道のあり方が問い直されている。犯人視しない報道とはどのようなものなのか。今回の報道を反省し、捜査情報をどう扱っていくべきか、さらなる模索を続けなければならない。

元厚労局長無罪判決と地検特捜部証拠改竄事件その2(証拠改竄事件検事逮捕と元厚労局長職場復帰)

はじめに

(1)郵便不正事件における元厚労局長無罪判決と地検特捜部証拠改竄事件について、先日から投稿を行っている。
「その1」では、「大阪地裁判決の新聞社説」を紹介した。

(2)ここでは、「その2」として、「証拠改竄事件検事逮捕と元厚労局長職場復帰」についてのマスコミ報道に限定して紹介し、記録に残すことにしよう。
他の報道の紹介は別の投稿で行うことにする。

1.「大阪地検取り調べメモ廃棄」事件

すでに紹介したが、郵便不正事件における元厚労局長の無罪判決が大阪地裁で下されたのは、今月(9月)10日である。
その直前に、この事件の取り調べメモが、最高検の通知に反して廃棄されていたことが、報じられた。
朝日新聞2010年9月8日5時1分
大阪地検が取り調べメモ廃棄 最高検通知に違反

 郵便割引制度を悪用した偽の証明書発行事件で、関係者の取り調べの際につけたメモ(備忘録)を廃棄していた大阪地検特捜部の複数の検事の対応が、最高検の通知に反するものだったことがわかった。地検の内部調査の結果、刑事部などもほぼすべてを廃棄していたことが判明。地検は6月、公判で捜査段階の供述調書の信用性などが争いになると予想される場合は、メモを通知に従って適切に保管するよう各部に指示した。
 複数の検察幹部が朝日新聞の取材に対し、最高検の通知と大阪地検での取り調べメモの取り扱いについて認めた。
 取り調べメモについては、最高裁が2007年12月、警察官の備忘録について「個人的メモの域を超えた公文書」として証拠開示の対象になるとの初判断を示した。
 これを受けて最高検は08年7月と10月、検事や副検事が容疑者の発言や質問事項などを記すメモの取り扱いについて各地検に通知。取り調べ状況が将来争いになる可能性があると捜査担当検事が判断した場合、(1)メモを公判担当検事に引き継ぐ(2)公判担当検事はメモを一定期間保管する――ことを刑事部長名で求めた。
 ところが、今年1月に始まった厚生労働省元局長の村木厚子被告(54)=10日に判決公判、無罪主張=の公判で、昨年2月以降の特捜部による捜査で村木元局長の事件への関与を認めたとされる元部下らの取り調べメモがないことが発覚。3〜4月に証人として出廷した特捜部の6人の検事と副検事が「必要なことは調書にしたので、メモは破棄した」と説明した。
 村木元局長の事件への関与をめぐっては、元部下らが元局長の公判などで捜査段階の説明を翻し、「調書はでっち上げ」などと証言。特捜部の調書が元部下の意思通り作成されたかどうかが焦点となっていた。
 地裁は5月、検察側が証拠採用するよう求めた43通の調書のうち34通に関し「誘導で作られた」などとして採用しないと決定。裁判長は特捜部の検事がメモを廃棄したことにも言及し、「メモは有罪立証の有用な資料となりえる」との見解を示して捜査に疑問を投げかけた。
 この指摘を受け、地検が容疑者らの取り調べを担当する刑事部や公安部などの対応も調べたところ、メモのほぼすべてが廃棄されていたことが判明。廃棄の詳しい理由については調べなかったという。
 郵便不正事件の捜査に携わった検察幹部は「取り調べメモが公判で必要かどうか、部内で検討されたことはなかった」と話している。(板橋洋佳、野上英文)


2.押収資料の改竄疑

郵便不正事件における押収資料が大阪地検特捜部の検事により改竄されたことが、無罪判決から10日ばかりして報じられた。
そして、この件で最高検は捜査に乗り出した。
朝日新聞2010年9月21日5時40分
フロッピーの日付、検察に都合よく 押収資料改ざん疑惑

 厚生労働省の偽の証明書発行事件をめぐり、大阪地検特捜部の主任検事が証拠のフロッピーディスク(FD)を改ざんした疑いが明らかになった。「遊んでいるうちに書き換えてしまった」という検事の弁解に、弁護人は「ありえない」と不信感を募らす。検事はなぜ有罪無罪を左右しかねない行為をしたのか。
 検察捜査への信頼を揺るがす証拠の書き換えを行ったのは、今回の捜査を現場で指揮した主任検事(43)だった。厚生労働省元係長の上村(かみむら)勉被告(41)=虚偽有印公文書作成・同行使罪で公判中=のフロッピーディスク(FD)をいじった理由について地検の聴取に、上村被告がデータ改ざんをしていないか確認するためだったと説明している。
 しかし、上村被告の弁護人は20日、朝日新聞の取材に、「改ざんの有無を調べるのであれば、専門機関に鑑定を出すはずで、検察官個人が調べるなどあり得ない」と指摘する。さらに、正確なデータが書かれた特捜部の捜査報告書が公判で証拠採用されていなければ、同省元局長の村木厚子氏(54)=一審無罪=が「冤罪になった可能性が高い」と述べた。上村被告も弁護人を通じ「検察に対して恐怖心を覚える。こんなことが当たり前になると、誰でも逮捕されてしまうのではないでしょうか」とコメントした。
 記録改ざんの疑いが浮上しているFDの文書データは、上村被告が自称障害者団体「凛(りん)の会」(のちの白山会、東京)向けに作成した偽の証明書をFDに最終保存した日時だ。村木氏の公判に影響を与える重要な証拠で、FDは昨年5月26日、上村被告の自宅から押収された。FDの押収後に調べた特捜部の捜査報告書などによると、初めは「04年6月1日午前1時20分06秒」と記録されていた。
 検察側は、上村被告が村木氏から証明書の不正発行を指示されたのは6月上旬であり、上村被告が証明書を作成したのはその後という構図で関係者の供述を集めていた。証明書が6月1日未明に保存されていたという証拠は、検察側にとって都合の悪いものだった。
 FD内に記録された証明書の最終更新日時が書き換えられたのは昨年7月13日。検察側の構図と合う「04年6月8日」とされ、FDは3日後の昨年7月16日、上村被告側に返却された。
 しかし、FDはその後、公判で証拠としては採用されず、代わりに、証明書の最終更新日時を「6月1日」と正しく記載した特捜部の捜査報告書が証拠採用された。捜査報告書は村木氏側に証拠として開示され、村木氏側から公判に証拠請求されたためだった。主任検事は、裁判を担当する地検公判部に捜査報告書が引き継がれたことを知らず、報告書はそのまま村木氏側に開示されたとみられる。
 捜査報告書の存在の重要性に気づいたのは、大阪拘置所での勾留(こうりゅう)中に開示証拠をチェックしていた村木氏本人だった。検察が描いた構図と、上村被告が文書を保存した日時がずれていると、弁護団に連絡した。弁護団は今年1月の初公判の弁護側冒頭陳述でこの証拠を生かして、「検察側の主張は破綻(はたん)している」と訴えた。
 この結果、村木氏の指示について「04年6月上旬」とする検察側の主張と証明書の作成時期が合わなくなり、今月10日の村木氏の判決公判で裁判長は「検察側の主張と符合しない」と指摘した。

 朝日新聞の取材に応じた検察関係者は、「主任検事が同僚に『見立てに合うようにデータを書き換えた』と打ち明けた」と証言した。書き換えの理由を「FDを弁護側が公判に証拠として提出してきたら、公判が検察側に有利に進むと考えたのかもしれない」とみている。(板橋洋佳、野上英文)

朝日新聞2010年9月21日12時44分
証拠隠滅容疑で最高検が捜査 改ざん疑惑「疑い濃い」

 郵便不正事件で主任検事が証拠として押収したフロッピーディスク(FD)を改ざんした疑惑をめぐり、最高検の伊藤鉄男次長検事は21日午前11時から緊急の記者会見を開き、「報道を素直に見れば、何らかの犯罪になる疑いが濃い。もはや捜査せざるを得ない」と述べた。
 最高検刑事部の検事らを21日に大阪に派遣し、証拠隠滅容疑で捜査を始めたという。最高検が自ら捜査に乗り出すのは極めて異例だ。
 伊藤次長は、改ざんした疑いのある主任検事を逮捕する可能性については明言を避けたが「ありとあらゆる事実解明をする。何ら特別扱いはしない」と語気を強めた。
 主任検事の言い分については「供述内容は言えない」と明かさなかった。改ざんに対する上司らの組織的関与については「そういうことを含めて調べる」と述べた。
 伊藤次長によると、最高検には20日に大阪高検から連絡があったという。伊藤次長は、大阪地検の聴取は「調査」、最高検は「捜査」と言葉を使い分け、「疑惑自体を非常に深刻に受け止めている。だからこそ、最高検主体で徹底的にやる」と約15分間の会見を結んだ。


3.検事の逮捕と地検トップへの報告

証拠改竄事件で、最高検は、大阪地方検察庁の前田恒彦検事を証拠隠滅罪で逮捕したが、前田検事はデータ書き換えの可能性があると特捜部幹部に知らせており、地検トップの検事正に「書き換えのうわさがあるが問題ない」と報告していたことが大阪地検の調査でわかったという。
朝日新聞2010年9月22日0時54分
発覚当日スピード逮捕 検察、にじむ危機感 改ざん疑惑

 郵便不正事件で大阪地検が証拠として押収したフロッピーディスク(FD)が改ざんされた前代未聞の検察不祥事。朝日新聞の報道で疑惑が発覚した21日、最高検による主任検事の逮捕という初めての事態まで一気に進んだ。展開の速さに、問題の深刻さと検察組織の危機感がにじむ。この日2度目の会見に臨んだ最高検幹部は「事実関係を徹底的に捜査し、早急かつ厳正に対処する」と苦渋の表情で説明した。失墜した信頼回復への道は険しい。
 最高検による緊急の記者会見は21日午後9時すぎ、東京・霞が関の法務・検察が入る合同庁舎の20階で始まった。検事総長に次ぐナンバー2の伊藤鉄男次長検事のほか、池上政幸刑事部長と刑事部の八木宏幸検事が前に並んだ。最高検幹部らが居並ぶ会見は異例だ。
 「最高検は先ほど、大阪地方検察庁検事・前田恒彦を証拠隠滅罪で逮捕した」。伊藤次長は冒頭、緊張した面持ちで逮捕容疑を読み上げた。詰めかけた記者やカメラマンは約50人。無数のフラッシュを浴びる中、「重大、深刻に受け止め、事実関係を徹底的に捜査し、早急かつ厳正に対処する」と続けた。
 無罪判決を受けた村木厚子・厚生労働省元局長に対する控訴断念も発表。「上訴権を放棄する。基本に忠実な捜査が不徹底だった。村木元局長にご負担をおかけしたことを申し訳なく思う」とわびた。
 最も質問が集中したのは、大阪地検の幹部や同僚、部下らがデータ改ざんを承知していたのかという点。伊藤次長は「やってみないと分からない。予断や先入観を持たずに徹底的にやる」。約40分の会見で「徹底捜査」という言葉を何度も繰り返した。
 前田検事は逮捕前日の20日、大阪地検の聴取に「遊んでいて、誤って書き換えてしまった」と答えたとされる。この点について伊藤次長は「証拠隠滅罪は故意犯。我々は過失ではないと考えている」と明確に否定。データ改ざんの動機については「現時点ではよく分からない」と述べるにとどめた。
 最高検は21日、朝日新聞の朝刊の報道で問題が発覚するとすぐに、7人の検事からなる捜査チームを編成。捜査に情が絡まないよう、特捜部の検事や、前田検事と懇意の検事はメンバーから外した。
 大阪入りした捜査チームは、21日午後8時40分に大阪地検内で前田検事の逮捕状を執行。スピード逮捕の理由については「とにかく早急の着手が一番誠実な対応だ」と力を込めた。

朝日新聞2010年9月22日15時1分
資料書き換え疑惑、地検トップに報告 特捜部幹部ら 
 
 郵便不正事件をめぐって大阪地検特捜部が押収したフロッピーディスク(FD)のデータが改ざんされた疑いのある事件で、証拠隠滅容疑で逮捕された特捜部主任検事の前田恒彦容疑者(43)からデータ書き換えの可能性があると知らされた特捜部幹部らが、小林敬(たかし)検事正に「書き換えのうわさがあるが問題ない」と報告していたことが地検の調査でわかった。
 小林検事正は22日までの朝日新聞の取材に対して「書き換えられた疑いがあると報告を受けたのであれば覚えているはずだが、そういう言葉は覚えていない」と説明している。
 最高検によると、前田検事は昨年7月、同5月26日に厚生労働省元係長の上村(かみむら)勉被告(41)=虚偽有印公文書作成・同行使罪で公判中=の自宅から押収されたFDの文書の更新日時が「04年6月1日」だったのを「04年6月8日」に改ざんした疑いがある。
 検察関係者によると、前田検事は地検の調査に対し、今年1〜2月に特捜部副部長と同僚検事に電話で「(上村被告側へのFD返却直前に)データを書き換えた可能性がある」と打ち明けたという。前田検事は、1月に始まった同省元局長の村木厚子氏(54)=無罪確定=の公判でFDの最終更新日時が問題になったことを同僚検事から知らされ、当時応援に行っていた東京地検特捜部から電話で伝えたという。
 地検の調査によると、前田検事の説明は、副部長から大坪弘道・特捜部長(現・京都地検次席検事)、同僚検事から村木氏の公判担当の検事2人に知らされた。その後、大坪部長らは地検トップの小林検事正と当時の玉井英章・次席検事(現・大阪高検次席検事)に「前田検事がFDのデータを書き換えたといううわさがあるが、意図的に変更した事実は考えられず問題ない」などと報告したという。
 データが書き換えられたとのうわさは特捜部内に広まったが公表されず、FDの返却を受けた上村被告側にも伝えられなかった。公判担当の検事2人も、そのまま村木氏の裁判の審理に立ち会っていたという。
 玉井前次席検事は22日までの朝日新聞の取材に「報告は受けていない」と説明している。(板橋洋佳、野上英文)


4.大阪地検特捜部の控訴の正式断念と元局長の職場復帰

大阪地検が控訴を断念するのではないかとの報道は、すでになされていたが、21日、大阪地検は、正式に控訴を断念した。
また、元局長は、22日、職場に復帰した。
毎日新聞 2010年9月22日 東京朝刊
障害者郵便割引不正:証拠FD改ざん容疑、特捜主任検事を逮捕 村木元局長、無罪確定

 厚生労働省の村木厚子元局長(54)に無罪が言い渡された郵便不正事件で、証拠品として押収したフロッピーディスク(FD)のデータを改ざんした疑いが強まったとして、最高検は21日夜、大阪地検特捜部の主任検事、前田恒彦容疑者(43)を証拠隠滅の疑いで逮捕した。証拠品のデータ書き換えは、現職特捜検事の逮捕という極めて異例の事態に発展した。また、大阪地検は同日、控訴を断念し、上訴権を放棄したと発表した。元局長の無罪が確定した。
 前田検事の逮捕容疑は、09年7月中旬ごろ、パソコンを使用してFD内に記録された偽証明書のデータの最終更新日時を「04年6月1日1時20分6秒」から「6月8日21時10分56秒」に改変し、他人の刑事事件の証拠を変造したとしている。
 最高検は21日、捜査が適正に行われたかを調査する検証チームを発足させた。年内に調査結果を公表する方針。法務省は、当時の大阪地検幹部らを処分すべきか検討する。
 前田検事は20日までの大阪地検の調べに「誤ってデータを書き換えた」と説明し、意図的な改ざんではないと主張したとされる。最高検は21日に大阪高検や地検から報告を受けて対応を協議し、捜査を開始することを確認。前田検事を取り調べた結果、強制捜査が不可欠と判断した。
 最高検刑事部の検事を主任に、東京高検、東京地検の検事も含めて検事7人の捜査態勢を整え、同日夜には大阪府枚方市の前田検事の自宅や大阪地検庁舎内の前田検事の部屋を捜索した。前田検事の動機を調べるとともに、当時の上司らからも事情を聴き、組織的な関与の有無を解明する。
 問題のFDには、厚労省元係長、上村勉被告(41)=虚偽有印公文書作成・同行使罪で公判中=が作成した偽証明書のデータが保存されていた。09年5月の押収時点では、更新日時は04年6月1日だったが、弁護側に返却された後で調べたところ、6月8日に書き換えられていた。
 検察側は公判で、村木元局長が04年6月上旬ごろ、偽証明書の作成を部下だった上村被告に指示したと主張した経緯があり、前田検事が検察側の構図に合うようにFDのデータを改ざんした疑いが持たれている。【三木幸治、野口由紀】

 ◇最高検、村木氏に謝罪
 21日午後9時過ぎから会見した最高検の伊藤鉄男・次長検事は「事実関係を徹底的に捜査したうえで、早急厳正に対処する」と話し、無罪判決について「基本に忠実な捜査が不徹底だったと言わざるを得ず、村木元局長にご負担をかけたことを申し訳なく思っています」と謝罪した。

 ◇「捜査の根幹、瓦解」
 長期間に及ぶ内偵捜査で徹底的にブツ(物証)を集め、政治家や官僚らの罪を問う。「最強」だったはずの特捜部への信頼が失墜した。法務・検察当局の幹部は一様に「ブツをいじるなんて、信じられない」と繰り返した。
 「まさに捜査の根幹が瓦解する話」。特捜経験のある検察幹部は肩を落とした。「特捜部はきつい調べをすると言われるが、それは堅いブツと供述内容が違う場合。ブツの方を変えるとは、魔がさしたというよりも、よほどのプレッシャーがあったとしか思えない」
 特捜部は、主任検事が物証から事件のストーリーを描き、捜査を進める。別の検察幹部は「見立てや筋がなくては、捜査なんてできない。証拠も集まらないし、前に進まなくなる」と説明する一方、「見立てにこだわりすぎるからミスが生じる」と解説した。
 「大阪地検固有の問題だ」という声もある。検察幹部の一人は「とにかく事件をまとめればいい、証拠は後からついてくる、という雰囲気があった」。別の幹部は「派閥色が強く、上司や同僚にものを言えない雰囲気がある。今回も改ざん疑惑を知っていながら、声を上げられなかった検事や事務官がいるのではないか」と話した。
 組織的関与が発覚した場合、一気に「大阪特捜解体論」が噴き出す可能性も否定できない。
 無罪判決に加え、データ改ざんの発覚で、検察当局への批判がさらに高まるのは必至。取り調べの録音・録画(可視化)を含めた捜査の透明化への圧力が強まりそうだ。【鈴木一生、山本将克】

 ◇村木元局長「涙がこぼれた」
 検察の控訴断念を受け、村木厚子元局長は「さすがに、この1年3カ月あまりのことを思い、涙がこぼれました。前田検事の逮捕の件は、報道で知りました。証拠の改ざんのみでなく、本件全体を通じての問題点をきちんと検証してくださることを期待しています」とのコメントを出した。

朝日新聞2010年9月22日21時15分
「おかえりなさいがうれしかった」 復職の村木元局長

 郵便不正事件で無罪判決が確定した厚生労働省の村木厚子さん(54)が22日、職場復帰した。同日夕方、省内で開かれた記者会見で「『おかえりなさい』と言ってもらえたのが、本当にうれしかった」と、笑顔で喜びを語った。そして「一生懸命仕事がしたい」と意欲を見せた。
 村木さんは21日付で大臣官房付で復職となり、22日正午前に復職後初めての登庁。厚労省の玄関では、大勢の同僚らに拍手で迎えられた。
 記者会見で一日を振り返った村木さんは、まず「建物に足を踏み入れて、職場の人たちの顔を拝見でき、帰ってきたんだなと実感がわいた」。細川律夫厚労相から辞令交付された後は、雇用や子ども政策の最近の動向などを勉強したという。
 逮捕から無罪を勝ち取り職場に戻るまで、1年3カ月。その間、役所は政権交代も経験していた。「どう政策決定が行われていくのか、まだ実感出来ていない。これから」と話す一方、職場を離れてみて「厚労省の政策は、本当に重たい責任を負っている」と感じたという。
 勾留(こうりゅう)中も、後輩職員が10分の面会のために大阪まで駆けつけてくれた。「この場所に自分の仲間、同僚がいる」。「仕事をするとか社会のために働くとか、大事な柱をもう一回取り戻せたのは、非常にうれしく思う」と語った。

元厚労局長無罪判決と地検特捜部証拠改竄事件その1(大阪地裁判決の新聞社説)

◇はじめに

(1)いわゆる郵便不正事件で、大阪地裁は、今月(9月)10日、厚生労働省の元局長に対し無罪判決を下した。
朝日新聞2010年9月10日
村木元局長に無罪判決 大阪地裁 郵便不正事件

 郵便割引制度をめぐる偽の証明書発行事件で、虚偽有印公文書作成・同行使罪に問われた厚生労働省の元雇用均等・児童家庭局長、村木厚子被告(54)の判決公判が10日、大阪地裁であった。横田信之裁判長は、検察側が描いた事件の構図の大半を否定。「村木元局長が証明書の発行を部下に指示したとは認められない」と述べ、無罪(求刑懲役1年6カ月)を言い渡した。大阪地検は、2週間の控訴期間内に今後の対応を上級庁と慎重に協議する。
 村木元局長は2004年6月、自称障害者団体「凛(りん)の会」(東京、後の白山会)が郵便割引制度の適用を受けるための偽の証明書を発行するよう、担当係長だった上村(かみむら)勉被告(41)=同罪で起訴、公判中=に指示したとして、昨年7月に起訴された。
 検察側は、凛の会元会長の倉沢邦夫被告(74)=一審・同罪は無罪、検察側控訴=が石井一(はじめ)・参院議員(76)に証明書が発行されるよう頼み、石井議員が当時の塩田幸雄・障害保健福祉部長(現・香川県小豆島町長)に口添えした「議員案件」だったと指摘。捜査段階の上村被告らの供述に基づき、当時課長だった村木元局長が塩田元部長から指示を受け、上村被告に証明書を不正発行させたと主張していた。
 ところが、上村被告は今年2月の村木元局長の公判で、「調書はでっち上げ」「証明書の発行は単独でやった」と説明を一転。横田裁判長は今年5月の公判で、上村被告らの供述調書計43通のうち34通について、「検事の誘導で作られた」などとして証拠採用しないと決定。残りの9通や関係者の手帳などの客観的証拠などから、証明書発行が議員案件だったのか▽村木元局長が上村被告に発行を指示したのか――などを検討した。
 判決は、検察側が石井議員と倉沢元会長が面会して口添えを頼んだと主張した「04年2月25日午後1時ごろ」について指摘。この日は石井議員が朝から千葉県成田市のゴルフ場にいたことが公判で明らかになったことを踏まえ、「面会は不可能だった」と述べた。
 「石井議員の口添えを受けて村木元局長に発行の便宜を図るよう指示した」とする塩田元部長の捜査段階の供述については、「議員の機嫌をとるために証明書を発行する必然性はない」とし、信用性に乏しいと指摘した。
 そのうえで、判決は証明書の発行が「議員案件」ではなかったとし、村木元局長から上村被告への発行の指示は認められないと結論づけた。(平賀拓哉)

(2)この無罪判決は、裁判の途中から、ある程度予想されるものであったが、判決後、この事件は、地検特捜部(の検事)による証拠改竄事件へと新たな展開をみせている。

そこで、以上について投稿するが、投稿しようと思って溜め込んでいたものもあり一度に投稿しきれないので、何回かに分けて投稿する。

(3)まず、ここでは、大阪地裁の判決に関する新聞社説を幾つか紹介し、記録に残すことにしたい。

(4)それらの社説(下記参照)における主張には、(一部社説の例外があるものの)幾つかの共通点がある。

第一に、大阪地裁特捜部に対して捜査の検証を求めていることである。
社説の見出しに明記しているものもある。

第二に、全ての取調べの可視化(全部録画)を求めていることである。
もっとも、社説の見出しには見られない。

しかし、第三に、死刑執行の停止を求めていないことである。


◇新聞社説

毎日新聞 2010年9月11日 2時33分
社説:元厚労局長無罪 検察捜査の徹底検証を


 大阪地検特捜部が摘発した障害者団体向けの料金割引制度を悪用した郵便不正事件で、厚生労働省の元局長、村木厚子被告に対し、大阪地裁は検察の描いた構図をことごとく否定した上で、無罪を言い渡した。検察は、捜査の問題点を徹底的に洗い直し、国民の信頼を取り戻さなければならない。
 実体のない障害者団体が、厚労省から偽の証明書の発行を受け、企業のダイレクトメールを大量発送して、郵便料金約80億円の支払いを免れたというのが事件の内容だ。検察は、国会議員が口添えした「議員案件」だったと主張し、村木元局長が部下の元係長に偽の証明書の作成を指示したとして、虚偽有印公文書作成の罪などで起訴した。
 判決は、元係長が独断で偽の証明書を作成したことを認めた上で、元局長との共謀を明確に否定した。検察が描いた「議員案件」との筋書きも退けた。
 元局長は一貫して無罪を主張し、関係者も法廷で、元局長の関与を認めた捜査段階の供述調書の内容を相次いで覆す証言を行った。
 裁判では、検察が取り調べの経過などを記したメモをすべて破棄していたことも明らかになった。メモは最高裁が「捜査上の公文書」との判断を示し、最高検も「適正な管理」を全国の高検、地検に通知していたという。調書の任意性を立証する上で、廃棄はいかにも不自然に映る。
 一方で、元係長が拘置中に取り調べ内容などを記録した「被疑者ノート」の記述は、元局長の関与を否定した法廷証言と合致した。今回の裁判は法廷で示される証拠をより重視する裁判員裁判の対象ではないが、判決は客観的証拠に基づき法廷証言の信用性を認め、検察の供述調書の大半を裏付けが不十分と退けた。
 「密室の犯罪」を扱う特捜検察では、関係者の供述を積み重ねる手法が常道とされる。ただ、捜査の過程で、自ら描いた構図と異なる供述が出ても軌道修正されにくい。今回の判決は特捜検察の捜査手法のあり方を厳しく問う結果になった。
 捜査の透明性を確保するうえで、取り調べの全過程を録音・録画する可視化の実現が急務である。千葉景子法相はコスト面などを理由に可視化の対象事件を限定して法制化する方針を示しているが、限定することが妥当なのか、幅広い論議が必要だろう
 元局長は逮捕から5カ月以上も身柄を拘束された。起訴後も長期間にわたり拘置されたが、逃亡や証拠隠滅の恐れがあったのか疑問を抱かざるを得ない。元局長の身体的、精神的な苦痛は計り知れない。検察は控訴を断念し、元局長の一刻も早い名誉回復を図るべきだ。

南日本新聞( 9/11 付 )社説
[村木元局長無罪] 検察は過ちの検証必要

 郵便制度悪用に絡む厚生労働省の文書偽造事件で、虚偽有印公文書作成・同行使の罪に問われた元局長村木厚子被告に対し、大阪地裁は無罪判決を言い渡した。
 検察側は懲役1年6月を求刑し、村木被告は一貫して無罪を主張していた。
 横田信之裁判長は判決で「偽造証明書の作成を部下に指示したことは認められない」と共謀を否定した。
 公判ではかつての上司や部下が、大阪地検特捜部による捜査で元局長の関与を認めた供述調書の内容を否定し、横田裁判長は「検察が誘導した可能性がある」などとして大半を証拠採用せず、検察は立証の柱を失っていた。当然の判決である。
 検察は判決を厳粛に受け止め、猛省を促したい。判決を今後の教訓とするために捜査の在り方を検証し、その結果を明らかにすべきだ。
 公判で浮き彫りになったのは、あらかじめ事件のストーリーを決め、それに沿った供述を容疑者に押しつけて有罪判決にもちこむという検察の捜査の構図である。
 従来の特捜事件によくある構図であり、今回の文書偽造事件でも起訴時には「十分な証拠」がそろっていたはずだっだ。
 だが、出廷したかつての上司や部下が捜査段階の供述を覆した上に、検察官の無理な取り調べを相次いで暴露し批判したことで、検察が描いた事件の構図は崩れたといえる。
 決定的だったのは、証拠採用された村木被告の部下だった元係長上村勉被告の「被疑者ノート」だ。
 ノートには、「冤罪(えんざい)はこうして始まるのか」「密室では検察に勝てない」など心情が克明につづられていた。密室での検察のずさんな捜査が浮かび上がってくる。
 検事や副検事ら取調官が取り調べの際に書いたメモを破棄していたことも問題になった。メモの取り扱いをめぐっては、最高検察庁が事件の着手前に必要な期間保管するよう各地検に通知していたのに守られていなかった。
 これでは検察に都合の悪いメモを意図的に破棄したのではないかとみられても仕方あるまい。
 裁判員制度のスタートで刑事裁判は書面審理から口頭主義へと軸足を移したこともあり、調書に向ける裁判所の目はおのずと厳しくなっている。こうした中で、冤罪を生まないために取り調べの全面可視化0件を一刻も早く導入する必要がある。

[京都新聞 2010年09月11日掲載]
「元局長は無罪」  供述誘導の捜査を批判

 「村木元局長は無罪」。大阪地裁の判決は明快だった。
 郵便の割引制度をめぐり偽の証明書が発行された事件で、横田信之裁判長は虚偽有印公文書作成・同行使の罪に問われた厚生労働省元局長・村木厚子被告の関与を、全面的に否定した。
 実体のない障害者団体・凛(りん)の会の設立者が国会議員に厚労省への口添えを頼み、上司の依頼を受けた村木元局長が部下の係長に指示して証明書を作成させた−大阪地検特捜部が描いた事件の構図は判決でことごとく崩れた。検察完敗といえる。
 判決は客観的事実より都合の良い供述を強引に得ようとした特捜部の捜査手法を断罪した。検察当局は、国民の信頼が大きく揺らいだことを重く受け止めるべきだ。
 元局長の関与を認めたとする供述調書について内容を覆す証人が相次いだことや公判での証言重視が今回裁判の特徴だった。結果的に8人の供述調書43通のうち、核心部分である係長の調書など34通が検察の誘導の可能性があるとして証拠採用されなかった時点で無罪判決は自然な流れだった。
 判決が理由説明で「いかに調書が多く、迫真性があるとしても、客観的な証拠で裏付けられなければ評価できない」とした点は説得力がある。
 密室で作成された供述調書の重視に傾きがちだった従来の裁判から、公判での証言を尊重するようになった点を評価したい。新しい裁判像として他の裁判にも示唆を与えるのではないか。
 公判を通じて、検察捜査のずさんさが浮き彫りにされたのも今回裁判の特徴だった。
 凛の会設立者が議員会館で国会議員と会い厚労省への口添えを頼んだと検察が主張する日に、当の議員は千葉県でゴルフをしていたことなど、裏付け捜査不足は著しい。取り調べのメモをすべて廃棄したとの検察の主張も、常識的に考えて信じがたい。
 公判で自らの単独犯行と訴えた元係長をはじめ、証人たちが相次いで検察の強引な取り調べを批判したのは、無実を訴える元局長の一貫した姿勢も影響していよう。
 特捜部が証拠も不十分なまま、自らが描く事件像に被告たちを引き込んだとすれば冤罪(えんざい)の構図そのものだ。
 無罪判決を受けた村木元局長は一日も早い現場復帰を願っている。今回の捜査には検察内部からも批判の声が出ているのだから、公判や判決での批判を覆す客観的証拠がないのなら、潔く控訴を断念してはどうか。
 事件は、密室での取り調べが冤罪を生む恐れをあらためて示した。その危険を避けるには、やはり取り調べの可視化が不可欠だろう。諸外国が採用している弁護士同席の是非も含め、早急に検討を進めるべきだ。

日経新聞社説2010/9/11付
全面敗北を喫した特捜検察

 この捜査・裁判は、特捜検察の歴史に残る失態だろう。
 障害者団体向けの郵便料金割引制度を悪用させるニセ認定書を厚生労働省が発行した事件で、大阪地検特捜部が逮捕、起訴した厚労省雇用均等・児童家庭局長(逮捕当時)村木厚子被告を大阪地裁は無罪とした。
 単に有罪立証に失敗したのではない。特捜検察が従前から、被告側の主張を破る決め手の証拠に使ってきた捜査段階の供述調書を、裁判所がほとんど全面的に排斥した結果の無罪である。検察は控訴を断念し、むしろ捜査経過と取り調べ実態の厳密な検証を急ぐべきだ。
 検察の起訴の支えは、村木被告の犯行関与を認めた、他被告や厚労省関係者の供述調書だった。その関係者らが法廷証言で次々に供述を覆すと、検察は供述調書43通を証拠として申請した。ところが裁判所は、うち34通を「検察官の誘導があった」と判断し証拠採用しなかった。
 証拠になった調書についても、内容の信用性(真実性)を子細に点検し、判決でその大部分を「事実と反する疑いがある」「不自然」「信用性が高いとはいえない」「客観的証拠による裏付けのない供述調書は、内容に具体性、迫真性があるようにみえても、信用性は大きく低下する」と結論づけた。
 捜査官が、客観的証拠を根拠にしない強引な取り調べをして容疑者や事件関係者から虚偽の自白調書・供述調書をとり、それが冤罪(えんざい)を生んできたのは事実だ。取り調べの様子を録音・録画する可視化を、日本弁護士連合会などが求める一番の理由も冤罪防止にある。
 裁判員裁判を機に、一部の事件で調書作成時の最後の場面を録音・録画するようにした検察・法務当局は、現在、取り調べ全体を可視化する是非を内部で検討している。
 今回の裁判を通じて、検察の精鋭と自他共に認める特捜部でさえも無理な取り調べと調書作成をしている疑いが濃厚になったわけで、検察・法務当局は適正な取り調べを担保する手段を講じる必要があるのではないか。「来年6月以降のできる限り早い時期に検討をとりまとめる」という悠長な態度を改め、可視化に踏み出すべきである。

朝日新聞2010年9月11日(土)付
村木氏無罪―特捜検察による冤罪だ

 あらかじめ描いた事件の構図に沿って自白を迫る。否認しても聞く耳をもたず、客観的な証拠を踏まえずに立件する。郵便不正事件での検察の捜査はそんな強引なものだった。
 大阪地裁は昨日、厚生労働省の局長だった村木厚子被告に無罪を言い渡した。村木被告は、郵便割引制度の適用団体と認める偽の証明書をつくり、不正に発行したとして起訴されていた。
 村木被告は大阪地検特捜部に逮捕された当初から容疑を否認し、一貫して無実を訴えていた。判決は証拠とかけ離れた検察の主張をことごとく退け、「村木被告が偽証明書を作成した事実は認められない」と指摘した。
 検察は、ずさんな捜査を深く反省すべきだし、村木被告の復職をさまたげるような控訴はすべきでない。
 偽証明書は、村木被告が障害保健福祉部の企画課長の時、障害者団体として実態がない「凛(りん)の会」に発行された。企画課長の公印が押されており、村木被告の容疑は、部下だった係長に偽造を指示したというものだった。
 係長は捜査段階で容疑を認めたが、公判では村木被告の指示を否定した。取り調べで係長は、偽造は自分の判断だと訴えたが、検事は取り合わなかった。参考人だった厚労省職員らも公判で強引な取り調べの実態を証言した。
 大阪地裁は係長らの調書を信用せず、証拠として採用しなかった。検察側の立証の柱はもはや失われていた。
 特捜部が描いた構図は、「凛の会」会長が民主党の国会議員に口添えを依頼し、厚労省では「議員案件」として扱われていた、というものだ。
 だが、議員会館で口添えを頼んだという当日、その議員はゴルフ場にいたことが公判で明らかになった。特捜部はそんな裏付けすら怠っていた。
 検察の捜査をめぐっては、東京地検特捜部が1993年に摘発したゼネコン汚職で、検事が参考人に暴行を加えて起訴されるという不祥事が起きた。その後も、特捜部に摘発された被告らが「意に反した調書をとられた」と公判で訴えるケースは少なくない。
 特捜検察に対する国民の信頼が揺らいでいるということを、検察当局者は真摯(しんし)に受け止めるべきだ。
 特捜検察はかつてロッキード事件やリクルート事件などで、自民党長期政権の暗部を摘発した。政権交代が可能になったいまでも、権力の腐敗に目を凝らす役割に変わりはない。
 冤罪史は「自白」の強要と偏重の歴史である。今回の事件もその列に加わりかねなかった。
 検察は、これを危機ととらえねばならない。弁護士や学識経験者も加えた第三者委員会をつくって検証し、取り調べの可視化などの対策を打つべきだ。それとともに報道する側も、より客観的で冷静なあり方を考えたい。

産経新聞2010.9.11 03:13
【主張】村木元局長無罪 「秋霜烈日」の原点に戻れ

 郵便不正事件で大阪地裁は虚偽有印公文書作成・同行使罪に問われた厚生労働省の元局長、村木厚子被告に無罪を言い渡した。
 証人が次々と捜査段階の供述を覆し、立証の柱となる被告らの供述調書の大半が証拠採用されなかったことから、予想された判決である。検察は重く受け止めねばならない。
 捜査はジグソーパズルのようなものだ。事件の全体像を描き、証拠となるピースを集め、当てはめて犯罪という絵を浮かび上がらせる。もとよりピースがすべてそろうとはかぎらないし、当初の構図と異なることもある。
 厚労省の証明書が偽造されて障害者団体向け割引郵便制度が悪用された今回の事件で、大阪地検特捜部が偽の証明書発行にあたって厚労省幹部の関与と政治家の口利きを疑ったのは無理もない。
 が、描いた構図に固執するあまり、一貫して容疑を否認する村木元局長らの取り調べは想定するストーリーに誘導され、脅迫まがいの言動もあった、と公判で明らかにされた。横田信之裁判長はそうした捜査を厳しく指弾し、供述調書43通のうち34通もの証拠申請を却下した。極めて異例である。
 しかも障害者団体の関係者が面会して口利きを依頼したという日に、当の政治家がゴルフをしていたという“アリバイ”が起訴後に確認された。こんな初歩的な裏付けを怠っていたとは大失態だ。
 供述偏重と強引な取り調べの背景には、検察の捜査力そのものの低下も指摘される。また、今回のケースによって取り調べの可視化の議論が加速するだろう。
 しかし、検察が巨悪に挑む最強の捜査機関であり、法の正義の砦(とりで)であることに変わりはない。「秋霜烈日(しゅうそうれつじつ)」の記章は、秋の冷たい霜と夏の厳しい日差しから、検察官の厳正な職務と理想像を象徴している。まずは指摘された捜査批判に真摯(しんし)な検証で応え、その原点に立ち返ってほしい。
 われわれ報道する側も、一方的な捜査情報に寄りかかって事件の構図を見誤っていなかったかを反省し、自戒したい。
 村木元局長が法廷で述べた言葉は重い。「真相究明のための権限や手段を持つ検察が、常に真実に迫ることのできる機関になることを心から望んでいます」
 国民の検察への期待と信頼も、その一点につきる。

東京新聞2010年9月11日【社説】
村木元局長無罪 説明せよ 検察の暴走

 特捜の捜査がこれほど否定された判決もないだろう。厚生労働省の公文書偽造事件で村木厚子元局長に無罪が言い渡された。裁判員時代にこのずさんである。検察当局はよく調べ説明すべきだ。
 公判で大半の調書が不採用となった時、私たちは「特捜検察は猛省せよ」との見出しで捜査のずさんさを憂えた(五月二十九日)。その裁判の判決理由は「供述調書は信用性が高いといえない」「客観的証拠と符合しない」と何度も指摘し、言い換えれば丁寧に捜査の矛盾を列挙した。これが精鋭とも呼ばれる特捜が手掛けた捜査への評価だった。
 元局長の部下の元係長らの供述調書の大半は「誘導された疑いがある」と証拠採用されず、この日の無罪判決は想定はされていた。
 それにしても、裁判が明らかにした捜査の実態は恐ろしくなる。
 自称障害者団体が郵便割引制度を悪用しようと民主党の石井一参院議員に口利きを頼み、キャリア官僚の村木元局長が部下の元係長に偽の証明書を発行させた−。大阪地検特捜部のシナリオは壮大だった。しかし事実を丹念正確に積み上げていたなら、自分たちの誤りに気づいたのではないか。
 村木元局長は一貫して否認したが、取り調べは当時の上司や部下らから、時には強引に、都合のいい供述だけを集めた。村木元局長の指示を供述調書では認めたとされた元係長は「違うと言ったが、聞き入れてもらえなかった」と、弁護士差し入れの被疑者ノートに書きとめていた。
 元係長のフロッピーディスクに実際に残っていた偽証明書の作成日は、「指示された日」より前だった。これらは裏付け捜査で容易に分かったはずだ。
 この事件は裁判員裁判の対象犯罪ではないが、もし裁判員裁判で捜査機関の出す証拠がずさんだったのなら、と考えれば怖くなってしまう。警察や検察の取り調べをすべて録音録画する全面可視化への動きは時代の要請でもある。
 特捜は、政財界の汚職や経済事件を手がけることが多い。証拠の乏しい密室の犯罪では供述を引き出すことが重要になる。しかしだから誤れば社会的影響は大きく、綿密に供述などの証拠を照合する慎重な姿勢が当然、必要になる。それを忘れては国民を裏切ることになる。
 特捜が国民の信頼を回復しようとするなら控訴よりも、なぜ暴走したのか、なぜ防げなかったのか、検証しぜひ説明すべきだ。

(2010年9月11日01時43分 読売新聞)
村木元局長無罪 検察はずさん捜査を検証せよ(9月11日付・読売社説)

 検察の完敗といえる内容だ。判決は「犯罪の証明はない」として、検察が描いた事件の構図をことごとく否定した。検察は一連の捜査を徹底検証しなければならない。
 郵便不正に絡む偽証明書発行事件で、虚偽有印公文書作成などの罪に問われた厚生労働省元局長の村木厚子被告に、大阪地裁が無罪判決を言い渡した。
 大阪地検特捜部が立証しようとしたのは、村木被告が国会議員からの口添えを背景に、自称障害者団体への偽証明書の作成を部下に指示した、という構図だった。
 捜査段階では、村木被告の上司や部下が特捜部の筋立てに沿った供述をしたが、裁判に入ると相次いで供述内容を覆した。特に、村木被告から直接指示を受けたとされた元係長は、自らの単独犯行だったと証言した。
 公判で地裁は「検事の誘導があった可能性がある」として元係長らの供述調書に信用性を認めず、証拠として採用しなかった。判決も「検察官の主張する事実の中核は客観的状況と合わず、認定できない」と断じている。
 特捜部が誤った筋立てに沿った調書を作成し、それを根拠に被告らを起訴したということだろう。思い込みに基づく、ずさん捜査と言われても仕方あるまい。
 事件捜査では、容疑事実を裏付けるため、関係者の証言や物的証拠を十分に集めた上で起訴するのが基本だ。ところが特捜部が、口添えしたと見ていた国会議員を聴取したのは、村木被告を起訴した後のことだった。
 こうした捜査方針は、上級庁である大阪高検や最高検の了承を得て決められていた。基本を欠いた地検の捜査をチェックできなかった上級庁の責任も重大だ。
 さらに特捜部は、取り調べの際に作成したメモを廃棄していた。取り調べメモについては、最高裁が「裁判手続きにおいて証拠開示の対象になる」との判断を示している。不都合な証拠を隠したとも受け取られかねない。
 検察は過去、ロッキード事件やリクルート事件など、数々の政官界汚職を摘発してきた。今回のように、裁判の過程で次々と捜査の問題点が露呈するようでは、これまで得てきた国民の信頼を損ねることになろう。
 検察には控訴する道も残されているが、今必要なのはメンツを捨てて捜査を再点検することだ。
 検察官の資質も問われよう。若手検事の指導も含め、組織全体の見直しが急務である。
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