１月１４日以来の全壊神社の続報である。地域の守り神である神社にしては珍しく、山懐の切り盛りされた地盤上に建てられていたこの鎮守様の震源距離は水平距離にしてわずか６ｋｍ。 地盤の側方変位と不同沈下が著しく、建物地盤の最大沈下量は４３ｃｍ、床の最大傾斜角は４．５°（１/２０）に及んでいた。 地盤調査の結果、拝殿に向かって右側が地山にありながら、左１/３ほどが、盛り土と思われる軟弱地盤上に載っていたことが被害の主要原因だったのだ。 そして、激烈な地震動を物語るかのように、床を剥がせば礎石の据えられた地盤には、幾筋もの地割れが入っていた。
床解体、被害の少なかった本殿切り離し作業のあと、４日間ほどのかけて曳き家作業により地上高さ約１．６ｍまで高揚げされ、敷き石や、拝殿などの基壇をつくる亀腹石などを番付（番付については、http://blog.livedoor.jp/niigata_sumai/archives/51336529.html
を参照）の上、一つずつ取り外したあとは、いよいよ地盤の補強工事である。 地盤補強に必ずしも高揚げは要件ではないが、今回は耐圧板基礎を打設する関係上、揚げたところでこの薬液注入作業となった。 写真は地面に穿孔注入のためのマシンをセットしているところで、ここからセメントミルクを軟弱層の深いところから入れて行く。
この薬液加圧注入の歴史は古く、昭和２０年代後半の御母衣ダムの建設で大規模に使用されたのが最初とされ、以後軟弱地盤の固化や、トンネル工事や海上空港の建設などの土木工事で一般的に行われるようになったと言われている。 地盤深くの支持盤上、軟弱地盤底部から注入された薬液は、「瞬結」といって微細な土の隙間に浸入して数分のうちに固化するもので、この大きな注射針状のものを約２５cmピッチで引き抜きながら、薬液を地盤全体に浸透させていく。 この技術によって既存の建物がある所でも、駐車場２台分程度のプラントヤード（作業スペース）と機械の進入路さえ確保できれば、軟弱層の補強、地盤改良することが可能である。
地震に強い建物、耐震性の高い建物であっても、この神社のように、切り盛り地盤、軟弱地盤、液状化を起こし易い砂質地盤の上にあっては、無被害でとどまることができない。 適切な地盤対策なくして修理された、中越地震被災の建物が、再び全壊の憂き目に遭った例を多数見聞したことは既述の通りである。 そのなかで今回執られた薬液加圧注入工法（別名グラウト工法）。 まずは地盤ありきの建物であることを訴えるように、中越沖最後と思われる被災建物の修復工事は、いま地中の人の目に見えないところから進み始めたところである。
