こんにちは。虹法師です。本日は「荷電粒子と物質の相互作用」をテーマに過去問を考えていきましょう。
まずは質量の小さい電子が走るβ線もしくは電子線について。これらがどんなときに発生するか押さえておきましょう。もう一度図をお示ししますのでイメージをつかんで下さい。
原子核の壊変に伴い直接原子核から電子が飛び出してくるものがβ線です。
まずは質量の小さい電子が走るβ線もしくは電子線について。これらがどんなときに発生するか押さえておきましょう。もう一度図をお示ししますのでイメージをつかんで下さい。
原子核の壊変に伴い直接原子核から電子が飛び出してくるものがβ線です。
同じ電子の流れでも、γ線が周りの電子を蹴飛ばす事によって電子が出てくるモノ。これが内部転換電子(ICE)。
特性X線が周りの電子を蹴飛ばす事によって電子が出てくるモノ。これがオージェ電子。
人工的に加速器などで電子を加速した場合は電子線となります。
発生原因は異なっても、高速で走る電子であることに変わりは無く、エネルギーが等しければ物質との相互作用は同じです。
電子線はまっすぐ飛ぶか。よく問われる問題です。
α線は質量が大きいため、ほぼ直進しますが、β線は原子とのクーロン力などで酔っ払いの歩行のようにジグザクと進みます。
空気中では90Yからのβ線(2.26MeV)で8.4m、32Pからのβ線(1.71MeV)で6m最大飛びます。
電子線がエネルギーを失うのは軌道電子との相互作用による衝突損失と原子核のクーロンの場との相互作用による制動損失があります。イメージとしては衝突がパチパチと音がし、制動がブレーキをかけたようなキッキーと音がする感じでしょうか。下表の最後の比率の式で、例え鉛に90Yの2.26MeVのβ線が飛び込んだとしても、制動損失によりX線に変換されるモノは2割程度に過ぎません。
X線を発生させるX線管はフィラメントから出る熱電子を高電圧で陽極に加速・衝突させて発生させます。陽極の物質としては通常タングステンが用いられますが、高温に耐えるよう融点が高いこと、そして制動損失の比率が高くより制動X線を発生させるよう原子番号が大きいことが理由です。
(1) 制動X線は連続スペクトルを示すこと
(2)高エネルギーのβ線は制動X線の発生を防ぐため、無闇に原子番号の大きな物質で遮蔽せず、プラスチックのような原子番号の低い物質で先ずβ線を減らし、その周りを鉛など高原子番号物質で覆うようにした方がよいこと
はよく問われる観点です。
(2)高エネルギーのβ線は制動X線の発生を防ぐため、無闇に原子番号の大きな物質で遮蔽せず、プラスチックのような原子番号の低い物質で先ずβ線を減らし、その周りを鉛など高原子番号物質で覆うようにした方がよいこと
はよく問われる観点です。
比電離とは、ある物質中を荷電粒子が単位長さ進むときに生ずるイオン対の数です。同じ質量を持つ荷電粒子なら電荷が大きいほど、同じ荷電粒子なら速度の遅いほど、比電離は大きくなります。よってβ線は、「エネルギーが低いほど比電離は大きくなる」のです。
β線と物質の相互作用に関する過去問を眺めてみます。
β線と物質の相互作用に関する過去問を眺めてみます。
2010年問7
電子線と物質との相互作用に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A.電子線のエネルギー損失は、主に原子核との相互作用により起こる。
B.同じエネルギーの電子でも、物質が異なれば、到達する深さは異なる。
C.衝突阻止能は、電子線のエネルギーが高いほど大きい。
D.制動放射線は、プラスチックよりも鉄の方が発生しやすい。
1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD
正解は4のBとDです。
2013年問6
β線と物質の相互作用に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A.β線は、物質の中で直進する。
B.β線は、物質の原子番号が大きいほど後方散乱しやすい。
C.β線のエネルギーが高いほど、制動放射によるエネルギー損失の寄与が大きい。
D.β線の比電離は、同じエネルギーのα線の場合よりはるかに大きい。
1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD
正解は3のBとCです。
電子は物質との相互作用でジグザグに進むと申し上げましたが、大きく曲がって発生源の方向に戻ってくる場合があります。これを後方散乱と呼びます。原子番号の大きい物質ほど後方散乱を起こしやすくなります。
2013年問17
90Sr線源を0.5cm厚の蓋付きの鉛容器に収納して、この容器の外側からGM管式サーベイメータで測定したところ、バックグランドよりも有意に高い値が検出された。検出された放射線は、次のうちどれか。
1 β線
2 γ線
3 β線と制動放射線
4 制動放射線
5 β線とγ線
正解は4の制動放射線のみです。
0.8MeV以上の高いエネルギーを持つβ線の質量飛程(一般の教科書ではともに飛程と書かれていますが、虹法師は単位がg/cm2の方を区別し質量飛程と呼ぶことにしています)は
R=0.542E-0.133(g/cm2)
でしたね。アルミの比重(g/cm3)は約2.7ですから、最大飛程は
(0.542×2.28-0.133)/2.7=0.408
すなわち0.5cmのアルミ板で止めることができます。文科系の人は式を覚えるより、「イットリウムのβ線でも0.5cmのアルミで止まる」と記憶した方がいいと思います。ならば比重が11.34である0.5cmの鉛板では完璧に遮蔽されます。しかし、鉛との制動放射により、透過力の強い制動X線が発生し、これが観測されるのです。
2014年問7
β線と物質との相互作用及びそれに伴って生じる制動放射線に関する次の記述のうち、正しいものの組合せはどれか。
A.制動放射線は、原子核のクーロン場との相互作用により生じる。
B.β線の飛程は、最大エネルギーのほぼ2乗に比例する。
C.β線のエネルギーが高いほど比電離も大きい。
D.制動放射線のエネルギー分布は、連続スぺクトルを示す。
1 AとB 2 AとC 3 AとD 4 BとC 5 BとD
正解は3のAとDです。
次にα線など重粒子線と物質の相互作用に関し説明いたします。α線など重荷電粒子は、β線と比べて短い距離で大きな電離を引き起こし、また電子と比べて遙かに重く殆ど直進するように見えます。
実は極めて稀ですが、α粒子が原子核に向かって飛んだ時は、ほぼ反対方向に跳ね返されることがあります。これは原子核とのクーロン力による弾性散乱です。ラザフォードはこの現象を突き詰めて、原子は大部分がうつろな空間だが、その中心のごく微小な領域に、プラス電荷を帯び、原子の質量の大部分を集結させた核があるという原子モデルを考案しました。こうしてエネルギーを失うのが放射損失です。
荷電粒子は、物質の内部を通過する際エネルギーを失っていきますが、そのエネルギー損失を進行方向の単位長さ当たりで表現したものが線阻止能(eV/μm)です。長さが分母に来ていますから、質量阻止能に変換する時は分母に密度を掛ける、則ち密度で割った値(eV・cm2/g)となります。
よって物質の原子番号の1乗に比例し、荷電粒子の電荷の2乗に比例し、速度の2乗に反比例することとなります。
失われた方から測定していくと阻止能ですし、単位長さ当たりどれだけエネルギーを与えたかで定義されるものが線エネルギー付与(LET)です。単位長さあたり生成される電子-イオン対数で表したものが比電離です。これら3つは、荷電、原子番号、速度の比例関係はほぼ同じと考えて良いです。
陽子線やα線、重粒子線は、止まる瞬間に大きな比電離となるブラッグ曲線を描きます。これは速度が落ちてエネルギーが小さくなるため、比電離は増加するからです。この性質ががん細胞をピンポイントで叩く、粒子線治療に活用されています。
R1-物5
次の( A )、( B )に入る数値として、適切な組合せは次のうちどれか。
運動エネルギーが等しい重荷電粒子に対する物質の衝突阻止能は、おおよそ、荷電粒子の質量の( A )乗に比例し、電荷の( B )乗に比例する。
( A ) ( B )
1. 2 1
2. 1 2
3. 1 1
4. -1 1
5. 2 -1
R2-物8
荷電粒子に関する次の記述のうち、正しいものの組合せはどれか。
A.α粒子は原子核の近傍を通過すると大きく散乱されることがある。
B.質量衝突阻止能は、物質の原子番号が高いほど大きい。
C.荷電粒子が物質中を通過するとき、単位距離を進むごとに失う平均のエネルギーを線阻止能という。
D.β線の空気に対するW値は、約34eVである。
1 ACDのみ 2 ABのみ 3 BCのみ 4 Dのみ 5 ABCDすべて
正解は1のACDのみです。
線阻止能を密度で割った概念が質量阻止能です。線阻止能は単位当たりの長さの損失ですから、重い物質を通過するほど値は大きくなります。つまり通過物質の原子番号にほぼ比例します。ところがこれを密度で割った質量阻止能は重い物質も軽い物質もあまり変わりません。よってBの「質量衝突阻止能は、物質の原子番号が高いほど大きい」は誤りです。
線阻止能を密度で割った概念が質量阻止能です。線阻止能は単位当たりの長さの損失ですから、重い物質を通過するほど値は大きくなります。つまり通過物質の原子番号にほぼ比例します。ところがこれを密度で割った質量阻止能は重い物質も軽い物質もあまり変わりません。よってBの「質量衝突阻止能は、物質の原子番号が高いほど大きい」は誤りです。
2007年問7
α線に関する次の記述のうち、正しいものの組み合わせはどれか。
A.エネルギーを失う過程では、放射損失の方が衝突損失より大きい
B.空気中での比電離は、その飛程中の全行程において一定である。
C.β線に比べて、比電離が大きい
D.物質中を通過する際、進路はほとんど直線である。
1 AとB 2 AとC 3 BとC 4 BとD 5 CとD