第69回「物販」

昨年の「VBB」から早四ヶ月。演劇の現場から離れていた私ですが、とはいえ色んな舞台を見には行っていた私ですが、この三月末には「春宵・読ミビトツドイテ」に、ゴールデンウィークには「スキップ」に、夏には「トリドクロ」に出演いたします。急に忙しくなってきました。やはり演劇は見るよりもやる方が楽しいよね。


さて、そんな演劇公演に行くと、つい寄ってしまうのが「物販コーナー」。パンフレットなどのその作品世界を拡げてくれるグッズがいっぱい並んでいて、気に入った作品ほど多くのグッズを買ってしまうという魔のコーナー、それが物販。
いや、「魔のコーナー」ではありませんよ。むしろ「夢のコーナー」です。その作品の全ての言葉が収録された戯曲本、作り手の思いを深く掘り下げるパンフレット、美麗なポスター、作品世界をイメージしたTシャツやスマホケース、さらには過去作品のDVDなど、まさに夢のコーナーです。
私は演劇人ですので、演劇を見に行ってグッズを買うことはあまりありません。いや、だって、ほら、作品に関する思いとか裏話とかは出演者から詳細に聞けますし。でも、映画を見に行ったらパンフレットを買っちゃうんですよね。スタッフ・キャストの細かいデータとか裏話とか載ってるし。気に入った作品だと、更にフィギュアとかキーホルダーとかも買っちゃうんだよなあ。まあ、好きなモノに対する反応ってみんな同じってコトでしょう。

でね、この「物販」ってのが今回ご紹介したい業界用語なのですが、そもそもコレって業界用語なのかな。要するに「物品販売」の略なんですけども、普通のお店ではこうは言わないよね。八百屋さんが「ウチでは野菜を物販してます」とか言いませんものね。演劇とかコンサートとか、そういった催し物でグッズを売る。そういった業界用語なんじゃないかと思います。

演劇公演において(コンサートとかでも同じだと思うのですが)悩みどころなのが、この物販なんです。何を売るのか、どれくらい作るのか、どうやって売るのか。コレ、結構な悩みどころなのです。

まず、何を売るのか。パンフレットはまあ定番として、他に何を売りましょう。戯曲はいい、過去作DVDもいい。問題なのは公演限定グッズです。Tシャツとかタオルなんてのも定番でしょうか。日常的に使えて、そんなに嵩張らなくて、手頃な値段。まあ、何枚あっても困りませんしね。
問題はココからです。もうちょっと凝ったものも出したい。スマホケースはどうか。クリアファイルはどうか。ハンカチ、しおり、ブックカバー。いずれも上演する作品のテーマや客層に合わせてスタッフが熟慮した結果です。
そうやって熟慮に熟慮を重ねて、結果としてあまりにも奇抜で突飛なグッズができてしまうこともママあるコトでして、そういう妙なモノを見つけた場合には、まあ笑って頂いて、その上で気に入ったら買って下さい。

更に問題なのが、どれくらい作るのかってコトですよ。まず、どれくらい売れるか判らない。パンフレットなどならば過去のデータからある程度は予測できます。予定動員人数の何パーセントとかね。戯曲本や過去DVDなどは次回公演や店舗でも売れますからいいでしょう。
問題は、またしても公演限定グッズです。公演のタイトルや出演者写真の入ったグッズは、基本的にはその公演でしか売れません。つまり、売れ残っちゃったらもうどうしようもないワケです。ツブシがきかない。きかなすぎる。コレがねえ、悩みどころなんです。
欲しがっているお客様がいらっしゃる限り、なるべく売り切れは避けたい。かといって、大量に売れ残るのも困る。特に奇抜なグッズの場合ほど売れ行きが読めませんからね。
かつて新感線で、名物キャラ「轟天」のストラップ(結構な大きさ)を作ったところ、フィギュア製作の最低ロット数が大きくて、大量の轟天フィギュア在庫が発生したことがあります。後にボールペンとシャープペン(ノックの所に巨大な轟天フィギュア付き)に再利用してなんとか売りさばきましたが、あの時は大変でした。

どうやって売るのかというのも大変なんです。販売時間が限られていて忙しいので物販専用のスタッフが必要ですし、お金を扱う関係からちゃんとした人にお願いしたい。新感線の場合はグッズの種類が多く、ワンステージのお客様数も多いので特に大変です。十数人の物販スタッフが、朝から在庫を確認したり品出しをしたりと大忙しなのです。まあ、その横で我々はストレッチなどをしているんですけどね。

ことほど左様に、物販というのは大変なんですよ。では何故そんな大変な思いをしてまで物販をするのか。それはもちろんお客様により楽しんで頂くためなのですが、それに加えて重要な収入源でもあるのです。
小劇場公演の場合、チケット収入は全て製作費に廻ります。というか、弱小劇団では大抵の場合、ギリギリか赤字です。となればグッズの販売利益が重要になるワケですよ。もちろん大した収入ではありませんが、それでも重要なのです。


春の「春宵・読ミビトツドイテ」は、まさに弱小劇団。カフェスペースでの公演です。多分、何らかのグッズ物販もあるかと思います。ええと、もしも公演が面白くて、もしも何か気になるグッズとかがございましたら、お買い求め頂ければ幸いです。


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本文とは関係ありませんが、目黒辺りで見つけた素敵な階段(谷戸前川の暗渠沿い)


粟根まこと


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あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。演劇ぶっくコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み。


【出演情報】

ゼータクチク vol.2
『春宵・読ミビトツドイテ』
【構成/演出】わかぎゑふ
【出演】草彅智文 亀山ゆうみ 植本潤 粟根まこと
3/22(水)~26(日)
cafe&bar 木星劇場



◇コラム「粟根まことの人物ウォッチング」掲載の「えんぶ4月号」は全国書店で3/9発売予定!



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第68回「オープンリール・テープデッキ」

先日オンエアされたテレビ朝日の「はくがぁる」にて劇団☆新感線のムチャブリ学が取り上げられました。公演の宣伝でもなんでもなく、普通の番組で特集して頂いてとても有り難かったです。高田聖子さんもトークに参加していて、まーきわどい裏話も沢山でて楽しかったですね。


さて、先日、成河さんがご出演の「わたしは真悟」を拝見いたしました。楳図かずおさんの漫画を原作にしたミュージカルです。作品も良かったのですが、何といっても成河さんの身体表現が素晴らしい。

その「わたしは真悟」で演奏を担当していたのがトウヤマタケオさんとOpen Reel Ensemble。この音楽もまた作品に合っていて興味深かったのですが、特に気になったのがOpen Reel Ensembleさんなのです。
このアーティストはちょっと変わっていて、普通の楽器を使うのではないのです。演奏するのはオープンリール・テープレコーダー。え? 何? オープンリール・テープレコーダー?

そう、オープンリール・テープレコーダーとはオープンリールテープを使うテープレコーダーのコトでして、ちょっと言い直しただけでまったく説明になっていませんが、かつては一般にも使われた、世代によってはまったく知らないオーディオ機器です。ご存じない方のために、先日行った「It's a Sony展」で撮影したソレをお見せしましょう。
It's a Sony展については私のBlogをご参照ください。
http://awanemacoto.blogspot.jp/2016/12/082its-sony.html


opendeck

ええと、コレです。カセットテープ(も判らない世代もいるか…)が出るまでは、テープレコーダーといえばコレだったのです。テープ幅も広く、回転も速かったため、カセットよりも高音質で録音でき、オーディオマニアの間では長く使われてきた製品です。
とはいえ、私が子供の頃には既にカセットが普及していましたから、オープンテープなんて使うことはなかったのですが、大人になってから使うこととなります。
それは、演劇の音効さんの現場でした。私は若い頃には舞台の音効さんもやっていたのです。

演劇の「音効さん」というのは、音響効果、つまりBGMや効果音を担当するスタッフ(ちなみに声や楽器のマイクの音を担当するのは「音響さん」です)。今でこそ音効さんはコンピュータで制御された機器でBGMを出しますが、かつてはこのオープンリール・テープレコーダー(以下オープンデッキ)で音を出していたのです。

演劇で使用するオープンテープでは、曲の頭にリーダーテープと呼ばれる白色の無音テープを付けておきます。そこにマジックで曲ナンバーを書いておくのね。オープンデッキではテープを引っ張りだして駆動部に巻き付けなければなりませんが、リールを手で回して微調整ができます。ですから、音を取り出す再生ヘッドと呼ばれる部分にこのリーダーテープの部分を当てておけば、再生ボタンを押すと同時に曲の頭からドンピシャ再生することができるのです。

当時の音効さんは数台のオープンデッキを並べ、一台から音楽を再生している間に、別のオープンデッキを操作して頭出しをしておきます。時には数台から同時に音を流しながら、数台のデッキの頭出しをしなくてはならず、しかも音量調整もしなくてはならず、忙しいったらありゃしない。ガンガンに曲を繋いでいる時のヒップホップDJみたいな状況です。

レコードの頃からCDの時代になっても、DATやMiniDiscの時代になっても、オープンリールの「簡単に切り貼り編集ができて、曲の頭が視認できて、手で回して微調整できる」という特徴ゆえに、長い間、音効さんが使うのはオープンデッキだったのです。
それが今では全ての曲と効果音をコンピュータに取り込んで、コンピュータ上で波形編集し、ボタン一発で頭出しができる時代になってしまいました。凄いですねえ。


Open Reel Ensembleさんは、機器のこういった特長を生かして、手でスクラッチしたり逆回転させたり回転速度を変えたりしながら演奏するグループ。時々テレビで紹介されたりしていたので気になっていたんですよ。初めて生で演奏する光景が見られて興奮しました。シーンによっては舞台上の演技を見たりバンドの演奏風景を見たりで忙しく楽しい舞台でした。
てなワケで、今回は「オープンリール・テープレコーダー」をご紹介しましたが、よく考えたらコレ、単にオーディオ機器の名称でしたね。


粟根まこと


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あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。演劇ぶっくコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み。



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第67回「1ベルと本ベル」

明けました! 新年明けました! おめでとうございました! ありがとうございました! 昨年はなにかと大変な年でしたが、2017年はいよいよドクロイヤーが始まります。本当のドクロイヤー(七年ごと)は来年だけど、今年から来年に掛けてがドクロイヤーってコトですよ。今年も大変そうですが、頑張っていきましょう!

まあ、そうはいっても私自身の大変さはまだ先なのです。もう年が明けたんで情報が出ていると思いますが、私は「シーズン鳥」に出ますので、大変なのは初夏からです。その前に春にも舞台の予定がありますが、まだ言えないんですよ。とりあえずこの冬は結構暇にしていて、観劇の日々というワケ。色んな劇場の客席に出没しております。
普段は出演する側ですから、本番直前にはそれなりに緊張とかしておりますが、舞台を見る側になるとさすがに緊張はしません。緊張はしないのですが、客席について始まるまでの間にはそわそわしたりしますね。特にブザーが鳴ったりアナウンスが流れたりしていよいよ始まるとなった瞬間。そわそわワクワクしますよね。観劇好きな皆様にはお判り頂けると思います、この感覚。

で、今回ご紹介したい演劇用語はそのブザーについてです。まあ、ブザーだったりベルだったりしますが、最近の演劇ではあまり聞かれなくなりました。例えば劇団☆新感線の場合、5分前には「間もなく開演いたします」というアナウンスが流れ、本番前には例の「ズンッタンッ、ズンッタンッ」という曲が流れます。あれが約3分。そして開演直前には新幹線の発車ベルである「プルルルル」が鳴り響きます。そして開演。
このように、劇団によって、あるいは演目によって流れたり流れなかったりする直前のベルですが、クラシックのコンサートなどでは必ず流れますよね。昔はベルだったそうですが、最近では「ビーーー」というブザーです。コレにはもちろん専門用語がありまして、5分前に流れるのが「1ベル(いちべる)」または「予ベル(よべる)」、開幕直前に流れるのが「2ベル(にべる)」または「本ベル(ほんべる)」と言います。現場によって異なりますが、私にとって馴染みの深い言い方は「1ベルと本ベル」ですかね。
名前の由来はもちろん一回目のベルと二回目のベルだから、あるいは予告のベルと本番のベルだから。なぜだかゴッチャになって「1ベルと本ベル」と言っちゃうんですよね。ちなみに、このブザーの長さには実は決まりがありまして、基本的に15秒なんですよ。大抵の劇場にはこのブザーのボタンがありまして、舞台監督からの合図があると音効さんが腕時計を見ながら15秒間押すのです。

演目によって違いますが、この1ベルが鳴ったり5分前のアナウンスが流れたりすると、そろそろだなとオープニングから出番のある役者が楽屋を出て行きます。新感線では「オット」と呼ばれる気合い入れがあるのがこの5分前。そして体をほぐしたり小道具を準備したりしながら舞台ソデで本ベルを聞くワケです。そして照明が溶暗して、開演。みんなが一番緊張する瞬間ですが、客席にもなにやらワクワク感が流れる瞬間でもあります。

私だってたまには新感線の公演に出ない時だってあるんです。なのでその時には一観客として見に行くのですが、本番前に例の曲が流れるとやっぱりそわそわしちゃうんですよね。今日は観客、今日は出ない。判っているのにそわそわしちゃう。これはもうしょうがない。新感線劇団員のサガです。
今年から来年に掛けてのドクロイヤーではシーズン花鳥風月があり、その内の何回かは出演しませんので客席で見るワケですよね。その度にあのそわそわ感を体験しなくてはならないのです。出ないのに。出演してないのに。そわそわしちゃう。なにやら理不尽な気もしますが、コレはサガとして受け入れていくしかないのです。皆様におかれましては是非とも何度も豊洲でワクワクして頂けますれば幸いです。

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本文とは関係ありませんが、横浜・港の見える丘公園からのベイブリッジ。初めて行きましたが、結構小高いのね。クリスマスシーズンだから人で一杯でしたけど。


粟根まこと


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