日刊☆えんぶ『粟根まことの未確認ヒコー舞台:UFB』は2019年2月20日に引っ越しました。
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第92回「下調べ」

「偽義経冥界歌」の稽古も順調な二月。でも他の月よりもちょっと短くて稽古日数詐欺が発生する二月。今作では山のように殺陣があってホント大変なんですよ。いや、私は楽なんですけどね。

さて、そんな演劇の稽古においては、様々なアプローチの方法があります。例えば以前にも書きましたが「サブテキスト」を用意するという方法。サブテキストというのは、戯曲に明確には書かれていないが、セリフやト書きから類推されるそのキャラクターの人物像を拾い出して、役に対する理解を深めていく方法論です。その人物の生い立ちや境遇、そして考え方を想像するコトによってそのキャラクターを創造していくのです。
あるいはエチュードと呼ばれる即興劇で自由に人物像を拡げたり、ディスカッションを繰り返すことで理解を深めたり、役を交換して演じてみるコトによってお互いの役を理解し合ったり、演出家や団体によって様々な方法論があるのですよ。

また、下調べという方法もあります。もはや演劇用語でもなんでもない一般名詞である「下調べ」でして、これが今回ご紹介したい用語なのですが、演劇ならではの特殊な意味はありません。通常通り「あらかじめ調べておくこと」であり、なんかそれっぽい演劇用語を考えてみたんだけど特にないんだよね、該当する専門用語が。
要するに、演じる役についてあらかじめ調べておくことなんですが、これはその役の人物が実在したとか、創作だけどハッキリしたモデルがいるとか、あるいは小説などの原作がある場合にしか使えません。だってそうでなければ調べようがないからね。

例えば、「IZO」の時には勝海舟を演じましたが、そんな時には海舟の評伝を読んだり、海舟の出てくる幕末物の小説を読んだりしました。私はしませんでしたが、海舟の出てくる映画やドラマを見てみるのもいいでしょう。そうやって演じる役柄に対する理解度を深めていくわけです。
「シレンとラギ」では高師直がモデルの「モロナオ」を演じましたが、それをキッカケに初期室町について調べていくと、あまり詳しくなかった時代背景について興味が沸いてくるんですよ。
まあ、正直に言いますと、こういった下調べが役作りに役立つとは限りません。ていうか、大抵役には立ちません。しかし、演じる上での足がかりになるというか、拠り所にはなるワケです。なんだか色々調べることによって想像力の広げ方のとっかかりになるのです。

あるいは特定のモデルがいない場合でも、時代劇の稽古をしている時には時代小説を読むとか、SFっぽい話をしている時にはSF小説を読むとか、まあ気分だけでも盛り上げていこうとしたりもします。自己満足でしかないとは思うのですが、なんだかそういうのが好きなんですよね。

もちろん、役者さんがみんなそんなアプローチをしているワケでは無く、下調べを全くしないで、あくまで目の前の戯曲との格闘だけに集中する俳優さんもたくさんいますが、私にはこういう下調べをするというアプローチが向いているのだと思います。そういうタイプなんですね。調べ好き。

「偽義経冥界歌」で私が演じるのは源頼朝。そう、あの頼朝さんですよ。歴史の授業で習う、鎌倉幕府を作った人。私が子供の頃には「イイクニ(1192)作ろう鎌倉幕府」だったのですが、最近の学説では守護・地頭の任命権を得た1185年あたりが主流となりつつあるようです。まあそれはさておき、誰もが知っていて、伝記もたくさん残されている偉人ですから下調べも簡単です。
子供の頃から歴史物が好きだった私は、子供向けの字が大きな「平家物語」とか「義経記」とかを読んでいて、ていうかそんな全集があったという家庭環境に感謝しておりますが、まあ子供心にも義経って格好いいなあとか思っておりましたが、頼朝には特に思い入れはなかったんですよね。

ですが、正月には頼朝の本拠地である鎌倉に行って源氏の守り神である鶴岡八幡宮に初詣したり、頼朝の墓参りをしてみたり、地元の資料館に行ってみたりすると、なんだか気分が盛り上がってきました。頼朝の評伝を読んで初めて知った事実もありますし、どんどん興味が沸いてきました。
なんたって古代からの朝廷による貴族政治を打破し、江戸時代まで続く中世の武家政権の基礎を作った人ですし、武家の棟梁と呼ばれ、鎌倉殿とも呼ばれる強烈なカリスマ性と政治手腕の持ち主です。実に魅力的な人物なんだなあと改めて感じました。

と、ここまで書いておいて何ですが、「偽義経冥界歌」における頼朝像には全く役に立ちませんでした。だって全然違うんだもん。いや、違ってはいないのですが、今作ではそういう人物像では描かれていません。戦わないしカリスマ性もありません。なんとも情けない、そして目つきの悪い頼朝さんです。中島かずきさんが私にアテ書きして下さった結果、そんな頼朝像が出来上がり、その通りにいのうえさんが演出しているので、なんとも情けなく目つきの悪い頼朝さんが出来上がりつつあります。
そのあたりは是非とも劇場でご確認頂きたいと思いますが、東京公演は来年の二月です。今年は大阪・金沢・松本公演しかありませんので、東京在住の皆様におかれましては是非とも地方遠征などして頂きたく思います。なんたって二年に渡って東京公演しかしていなかったんですからね!


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鎌倉に取材旅行に行った際、駅前で見つけた「i-ZA鎌倉」という商業施設。いいよね、こういうネーミング。ロゴも流鏑馬をモチーフにしてるし。


粟根まこと

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あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み。


【出演情報】

劇団☆新感線『偽義経冥界歌』
3/8-21◎フェスティバルホール(大阪) 金沢・松本公演もあり。


◇コラム「粟根まことの人物ウォッチング」掲載の「えんぶ2月号」は全国書店で発売中!

第91回「シケ」

賀正! 謹賀新年! 今年もよろしく! やあ、どうも。劇団☆新感線の粟根まことです。昨年は大晦日まで公演を行っていた私です。一年半ほど豊洲に通っていた私です。そして今年からは豊洲に通わなくても良い私です。さらば豊洲! いや、別に豊洲が悪いワケではないんですけどね。

さて、そんな豊洲で昨年末まで上演しておりました「メタルマクベスdisc3」では、終演後に何回かアフタートークがありまして、私も年の瀬の12/26に参加させて頂きました。浦井健治さん、柳下大さん、橋本じゅんさんと私という、劇中に出てくるヘビメタバンド「メタルマクベス」のメンバー四人でのトークです。
劇場の感想とか、様々な裏話とかを気ままに喋らせて頂いたのですが、その中でカツラの話が出ました。私が演じるパール王というキャラクターは歴代(初演、disc1、disc3の私も、disc2の河野くんも)長髪のカツラを乗せています。
disc3のパール王はパープルの長髪をオールバックにして王冠を乗せているのですが、額の両側から数本ずつの毛束が横側に垂れ下がっているのです。ご覧頂いた方にはお判り頂けると思うのですが、ご来場頂けなかった方々や、後方の席だったので髪までは判らなかったという方は、  twitterに掲載された写真をご参照下さい。

https://twitter.com/STAGE_AROUND/status/1075550727798308864

この、額の両側の触角みたいなヤツですね。コレが常に視界の端っこでフラフラしているのです。で、首を動かすと先っぽが口の中に入ってきてセリフが言いにくいのさ。あと、一度毛先が鼻の中に入ってきてクシャミが出そうになったこともあったのさ。
しかも、パール王は眼鏡を掛けているので、アクションで激しく動くと眼鏡フレームの上に乗っかってきたり、ツルの内側に入り込んできたりするのさ。レンズも入っていないのでフレームの輪っかの中を貫通したりもするのさ。そりゃもう邪魔なのさ。
なので、時々こっそりと小さく息を吐いたり、小さく首を動かしたりして毛先を逃がしたりしておりました。なかなか扱いが難しいヤツなのです。

さて、この触角みたいなほつれ毛のコトを、業界用語で「シケ」といいます。理容用語というか、歌舞伎用語というか、カツラ用語というか、まあとにかく歌舞伎や大衆演劇の舞台で使われるカツラで、耳の前あたり、つまり鬢(びん)のあたりなどからパラッと一筋垂れている乱れ髪のことですね。
江戸時代には頭髪は男も女も鬢付け油で固めていることが普通なので、通常は髪はキチンと整っています。しかし、非常に貧乏で身だしなみに構っていられないとか、気が動転しておかしくなっているキャラクターの場合にシケを垂らします。つまり、シケが垂れているキャラクターは通常ではない状態だというコトを表します。
それとは別に、ワザとシケを垂らすことで色気や哀愁を表す場合もあり、「色シケ」と呼んだりします。色男とか花魁などの場合ですね。アレがあるとなんとなく色っぽく艶っぽく儚い感じが出ますからね。
また、耳の後ろ側からそこそこまとまった量のシケを垂らす場合もあり、これは女性ならばお姫様やお嬢様の気品を、男性ならば立役や悪役の威厳を出す場合に使われ、「棒ジケ」と言ったりもします。
このように、歌舞伎などでは役柄を表す要素としてのシケが重要なのです。シケの垂れ方や場所によってそのキャラクターが際立ってくるのです。

和ガツラの場合ならばシケと呼ばれるこのほつれ髪ですが、洋ガツラの場合はどう呼ぶべきなのでしょうか。そこが判然としなくてアフタートークでは触角と表現しましたが、後にヘアメイクさんに確認しましたところ、洋ガツラでもやはりシケと呼ぶそうです。なので私の今回の髪型にはシケが付いていると言って良いワケです。
アニメなどでもシケのような特殊な髪型が多く見られますよね。異様にとんがった髪型とか、まさしく触角のような髪型とか。いわゆる「アホ毛」ですね。最近ではアニメを原作とした、いわゆる2.5次元の舞台も増えてきていますので、あの特殊な髪型を再現するために洋ガツラでもシケが増えてきています。なので今回のパール王もああいう髪型なんですね。ヘアメイクの宮内さんのこだわりです。

そんなこんなのメタルマクベスdisc3。この原稿が掲載される頃には無事に終わっているはずです。無事に終わっていればいいな。そして今年もご愛顧頂ければいいなとか思う年末でした。それじゃ今年もよろしく! そして行くぜ旅公演!

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クリスマスの時期に豊洲駅前の建設現場に出現した巨大ツリー。こりゃでかいわ。


粟根まこと

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あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み。


【出演情報】

劇団☆新感線『偽義経冥界歌』
3/8-21◎フェスティバルホール(大阪) 金沢・松本公演もあり。


◇コラム「粟根まことの人物ウォッチング」掲載の「えんぶ2月号」は1/9全国書店で発売!

第90回「ステージドリンク」

さあ! いよいよ終わります! 約二年に渡ってお送りして参りました劇団☆新感線のIHIステージアラウンド東京ラウンド。「髑髏城の七人」と「メタルマクベス」、合わせて8作品9バージョン。いやあ、長かった。なんとか無事に大晦日まで回しきりたいと思います。

そんな12月。今年の12月は例年より暖かいですが、そろそろ寒気もやってきそうですね。寒い冬でも舞台ではたいへん汗をかきます。新感線のような激しい舞台でなくても汗はかくんです。声を出すってのもかなりな運動なんですね。
となると水分補給が欠かせません。汗で失った水分を補填するためにも、ザラザラしてしまったノドを潤すためにも、こまめな水分補給が大事なんです。
頻繁に楽屋に帰れれば問題ないんですよ。自分で用意した飲み物もあるし、制作部さんんが用意してくれたウォーターサーバーやコーヒー、また差し入れで頂いた飲料なんかがたくさんありますから。
ただ、問題なのは出番の関係でしばらく楽屋に帰れない時。いっぱい喋ってアクションして、舞台ソデに戻ってきたらすぐに早替えしてまた出番。そんな時に活躍するのが「ステージドリンク」です。

このステージドリンクという用語は本来は音楽業界の言葉です。ライブの最中にボーカリストをはじめとするメンバーが飲むドリンクのこと。ステージ上で飲むからステージドリンク。判りやすいですね。コレが演劇業界では「舞台ソデで飲むドリンク」のコトを指すようになりました。演劇の舞台上では好きなタイミングで飲むことはできませんからね。
私が子供の頃は「スポーツ中には水を飲むな」なんて言われたりもしていましたが、今では適度な水分摂取が推奨されています。演劇でも汗をかかないために水分は控えた方がいいという説もありますが、演劇もある意味スポーツみたいなモノでして、水分は補給した方がいいと思います。だってどうせ汗はかくんだし。

ステージドリンクは基本的にPETボトルなどのフタができる物に決められています。舞台ソデには照明や音響の電子機器がたくさんあります。なので転かしたりしても零れないための注意です。もちろんドリンク置き場もそういった機器のないところに定められています。
ただ、その中身は人によって様々です。一番多いのはミネラルウォーターですが、ポカリスウェットなどのスポーツドリンクも多いですね。汗で失われた電解質を補給するためです。経口補水液の場合もあります。
また、最近では水に溶かすタイプのアミノ酸飲料やクエン酸飲料も人気です。もうね、何かにすがりたくてしょうがないんですよ。ちょっとでも疲れを取って、水分も補給でして、パフォーマンスが上がるヤツ。ステージドリンクは緊張の続く舞台でのひとときのオアシスとも言えるのです。

そんな必需品であるステージドリンクですが、通常の劇場の場合ならば上手ソデか下手ソデのどちらかに一本置いておけばほぼ事足ります。主役さんクラスになると出番が多くて上手と下手に一本ずつ置いたりもしますが、まあそんな程度。ところが、IHIステージアラウンド東京では勝手が違うんですね。何しろ舞台がいっぱいあるから。
この連載でも何度か書いていますが、ステージアラウンドは回転する巨大な客席の周りを取り囲むように何面もの舞台が設置されています。舞台裏の総延長は250m以上。上手とか下手とかのレベルではないのです。もう、ずっと舞台。あのシーン、あのセット。クライマックスあたりでは楽屋に帰ることなく次々と舞台裏を移動しながらの出番が続きますので、水分を補給するのも大変です。
それほど出番のない私でも、髑髏城の時はステージドリンクを二本用意して、しかもシーンによって移動させながら使っていました。メタルマクベスでは一本で済んでるけど。人によっては何本も用意していたようです。もちろん、場合によってはスタッフさんが持ってきてくれたり、大御所さんの場合はお付きの方が持っていたりもしますけどね。

そんなこんなのドリンク事情。年齢が増すごとに水分補給の重要さを感じております。皆様も汗をかかない冬だからといって水分補給を疎かにしないようにして下さいね。なんたって乾燥していますから。

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本文とは関係ありませんが、現在建設中の下北沢駅東口。来年からはこちらが劇場街への最寄り口となりそうです。


粟根まこと

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あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み。


【出演情報】

ONWARD presents
新感線☆RS『メタルマクベス』disc3
Produced by TBS
11/9(金)~12/31(月)◎IHI ステージアラウンド東京(豊洲)

◇コラム「粟根まことの人物ウォッチング」掲載の「えんぶ12月号」は全国書店で発売中!

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