長らく上演されておりました「ラストフラワーズ」もついに無事千秋楽を迎えることができました。ご来場頂きました皆様、ありがとうございました。ご来場頂かなかった皆様、次回はぜひお願い致します。知らなかった皆様、実はそんな公演が行われていたんですよ。またの機会にお願いします。


さて、その「ラストフラワーズ」大阪公演の会場はシアターBRAVA!。OBP(大阪ビジネスパーク)というエリアにあります。この地は戦時中は「大阪砲兵工廠」という軍の工場があった場所でして、集中的な空襲を受け終戦後も不発弾が多く、なかなか再開発されないエリアでした。そして私が子供の頃、その広大な敷地はやっと再開発されはじめ、長い期間を掛けてまっさらなビジネスエリア・OBPと生まれ変わったのでした。
ビジネスエリアですので、休日や夜間はあまり人がいません。しかも、シアターBRAVA!はその端っこにありますから、なおさら淋しいエリアです。興行の前後には大勢のお客様で賑わいますが、劇場の中に居る人々には実感は無く、我々にとってはこのあたりはあまり人がいないエリアなんだなというのが正直な感想です。
だって劇場に入る頃には出社ラッシュは終わっていますし、劇場を出る頃には帰宅ラッシュが終わっています。ランチの時間は本番準備中ですし、要するにあんまり人を見かけないんですよ。梅田やなんば、天王寺のように昔からある街では無く、いかにも造られた街、ビジネスニュータウンって感じなんですよ。

だったのですが、そんなある日の夜に、驚くような光景を目にしました。昼公演だけだったその日、公演が終わって梅田辺りに出てマッサージを受けたりご飯を食べたりした後に劇場あたりに戻ってきましたら、物凄い人混みです。劇場前の歩道を埋め尽くす人の群れ。みなさんおそろいのタオルとかウチワとかを持っています。若い人から壮年、老年まで、幅広い年齢層の人々がシアターBRAVA!の前を京橋駅に向かって歩いて行きます。人の波とはよく言ったモノで、普段この辺りに人を見かけない私としては相当驚きました。
その時私は思いました。「ああ、ライブがハネたんだな」と。

シアターBRAVA!から第二寝屋川を渡った向かいには、大規模コンサートで有名な「大阪城ホール」があります。数万人規模のライブイベントが行われるそのホールは、最寄り駅こそJR大阪城公園駅ですが、地下鉄大阪ビジネスパーク駅や、JRと京阪の京橋駅にも近いのです。数万の人々が目の前を歩いている。普段人を見かけない歩道を埋め尽くして京橋駅を目指して歩いている。全く驚きました。
まあ、我々の興行が終わった直後も規模こそ違え似たような光景なんでしょうが、残念ながら後片付けをしている我々には見ることのできない光景です。だからこそ新鮮に映ったのですが、ここで私が問題にしたいのは、ふと浮かんだ言葉の方です。
「ああ、ライブがハネたんだな」。

演劇人ですから、普段から演劇用語に囲まれて生活しています。しかし、その日はもう舞台は終わり、リラックスタイムを過ごしているタイミングです。マッサージも受けてご飯も食べて、すっかりリラックスしきった私の脳裏に「ライブがハネた」という舞台用語が閃いてしまったのが面白かったのです。
いくら演劇人だからといって、普段から舞台用語で話しているワケではありません。しかし、フトした瞬間に演劇用語が出てきてしまうのは職業病のようでもあり業のようでもあり。サガと言ってもいいかもしれません。

ここで言う「ハネる」という舞台用語は「本番が終わる」という意味です。かつて芝居が小屋がけで行われていた頃、本番が終わってお客様を見送る時には、小屋の周囲を覆っているムシロを跳ね上げて送り出しました。そこから「ムシロを跳ね上げる」=「舞台が終わる」という意味になり、舞台本番が終了することを「芝居がハネる」と言ったのです。そこから音楽業界にも波及し「ライブがハネる」とも言うようになったのです。まあエンタメ業界で本番が終わることをハネると言う様になったってコトですよ。
反対に舞台やライブが始まることを「幕が上がる」と言いまして、今では一般的にも使われる様になりましたね。「新しい時代の幕が上がる」なんてね。こちらは舞台と客席を仕切っている緞帳を上げるトコロからきています。まあ「始まる」の言い換えでしょうか。

そんなワケで、本番も終わってすっかりリラックスした私が夜道で思わず舞台用語を思い浮かべてしまったある晩でした。凄いよね、一日で何万人も動員するって。我々も負けずに頑張っていきたいと思います。無理だけど。


brava

こちらが今回の大阪公演会場のシアターBRAVA!を裏側から見たところ。以前、舞台の上には大量のバトンが吊ってあって、客席から見える額縁の倍以上の高さがあると書きましたが、この写真だとそれが判りやすいと思います。
右側のグレーがロビー、黄色が客席、真ん中の黒いのが舞台、左のグレーが楽屋です。ほら、舞台部分だけ異様に天井が高いでしょ。


粟根まこと


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あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。演劇ぶっくコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み。

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【公演情報

月影番外地その4『つんざき行路、されるがまま』

作◇福原充則   演出◇木野 花

出演◇高田聖子、粟根まこと、竹井亮介、植田裕一、田村健太郎

11月7日(金)~16日(日)◎下北沢ザ・スズナリ

公式HP http://tsukikagebangaichi.blog.fc2.com/



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