「トリドクロ」が始まりました! 始まっちゃいました! あと二ヶ月くらいあります! ステージアラウンド東京は大変だと聞いていましたが、ホントに大変です。スタッフもキャストも、毎日物凄い距離を歩いたり走ったりしていますよ!


でね、前回は「殺陣」について書いたのですが、今回も殺陣に関した用語です。今回ご紹介したい用語は「サンプラー」でして、正直に言ってコレは楽器用語です。ていうか、楽器の一種です。しかし、演劇の現場にも大変馴染み深い用語なのですよ。ええと、正確には「殺陣とかのある一部の演劇の現場」なんですけど。

サンプラーという楽器は、元々は実際の楽器の音をよりリアルに再現するために作られました。1960年頃に実用機が開発されたシンセサイザーという楽器は様々な波形を電気的に作り出すコトができるので、当時は「全ての楽器の音を再現できる」とまで言われていました。確かに、持続音(ロングトーン)だとかなりリアルに再現できます。しかし、音の鳴り始めのアタックの部分や、ノイズ成分の多い打楽器などは苦手なのです。そこで1980年頃に開発されたのがサンプラーです。
サンプラーでは、生の楽器の音を録音し、その波形をメモリに保存して、ボタンを押せばその音が出るようにします。波形を延ばしたり縮めたりすると音程が変わるので、それをキーボード(楽器の鍵盤の方ね)の音階に合うように調整してやれば、その音色で音楽を奏でるコトができるのです。

何しろ本物の楽器の音を録音して再生しているのですから実にリアルです。ドラムの皮の鳴りとか、トランペットのアタックの音とか、シンセでは作れない音色をリアルに再現できるので、すぐに流行の楽器となりました。
音ならば何でも再現できるので更に新しい使い方も出てきました。例えば「オーケストラ・ヒット」。オーケストラの全楽器で「ジャン!」と鳴らした音。これをアクセントに使います。有名なのはプログレバンド・Yesの1983年のヒット曲「Owner of a Lonely Heart」でしょうか。
また、人声をサンプリングするのも流行りました。PrinceがプロデュースしたChaka Khanの1984年のヒット曲「I  Fell for You」冒頭の「チャカチャカチャカ、チャカカーン」というフレーズはインパクトありましたよね。この二曲をご存じない方は、是非YouTubeとかで探してみて下さいな。
その後、HipHopやBreakBeatsなど、既存の曲の有名なフレーズをサンプリングして使用することで独特のグルーヴを作るのはもはや定番となっています。
このように、どんな音でもサンプリングできるサンプラーは様々な可能性のある楽器として大流行したのです。

で、そんな楽器が演劇とどんな関係があるのか。そろそろ本題です。かつての演劇、2000年くらいまでの演劇では、音効さんは以前にも紹介したオープンリールテープで音楽や効果音を出していました。長い音には有効なのですが、単発のSE、つまり銃声とか剣戟の音とかは苦手だったのです。しかもそれを連発で出したりするのはとても辛い。手が追いつかないのですね。
例えば昔の新感線の場合、その当時から殺陣は多かったのですが、剣戟の音は基本的にありませんでした。どうしても欲しい場合にはあらかじめ殺陣の音を作っておき、その音に合わせて殺陣をしていたのです。「カン、カン、キーン。キーン、ズバッ」みたいなSEをテープで編集して、その音の方に合わせて演技をしていたのね。それでもいいんだけど、やっぱり臨場感に欠けてしまうのです。

1986年頃、学生だった私は宅録と呼ばれる自宅録音音楽にハマっていました。ギターやシンセで多重録音して曲を作るのです。そんな中、音楽雑誌で語られる先進の楽器・サンプラーの存在を知り、先述のヒット曲で使われているサンプラーの音に衝撃を受けました。そこでハタと思いついたのです。何の音でも録音して再生できるのなら、舞台のSEでもできるんじゃないかと。役者の動きに合わせて剣劇のSEが出せるのではないかと。

そこで、ツテを辿って、色んな演劇の音楽・音効さんとして活動していた元・劇団そとばこまちの佐藤心さんがサンプラーを効果音マシンとして使っているという情報を得まして、そのサンプラー(Roland社のS-50)をお借りし、使い方も教わって、新感線の現場で効果音マシンとして使用したのが1988年の「星の忍者-風雲乱世篇-」。剣戟の音とか拍子木の音とかをサンプリングして、役者の動きに合わせて鍵盤を叩けば即座にその音が出る。感動しました!
もちろん現場では音効さんが操作をしてくれるのですが、そのセッティングをするのは佐藤心さんから教えを請うた私です。そして、出番の合間には音効室に行ってサンプラーを操作して効果音を出したりしておりました。
今回、この話を書くために佐藤心さんに確認を取りましたら、その時のサンプラーレンタル料は差し入れでもらったお酒・ズブロッカ(ロシアの強烈なウォッカ)の横流し一本だけだったという話を書けと言われました。そうなんです。予算がなかったんです。その節はすみませんでした。そんなロシア人っぽい顔の作曲家・佐藤心さんのHPはこちら→http://studio-shin.com/shinsato/

そして、その有用性を確信した私はすぐにRoland社のS-330というサンプラーを自腹で購入し、新感線の現場で大活用し始めたってワケです。現在の新感線ではチャンバラの音が普通に入っていますが、それを始めたのは実は私なのです。
当時のサンプラーは今はなき3.5インチのフロッピーディスクでデータ管理をしていました。本体に入るデータ量は数十秒程度、しかもそのデータローディングには数分かかるというシロモノでして、今となっては相当に貧弱なマシンでしたが、当時は夢のマシンだったのよ。
もちろん、今ではサンプラーという楽器は使わずにコンピュータのサンプリングソフトを使ってやっていますが、元々はサンプラーという楽器でやっていたんだよという話です。新感線の音効席にキーボーディスト並みに数段組のキーボードが並んでいるのはその名残です。昔とは比べものにならないくらいの音質と音数と容量になっていますけどね。


よく「演劇にサンプラーを持ち込んだのは誰だ」みたいな話が出ますが、当時は同時多発的にみんな同じ事を考えていたのだと思います。コレ、使えるんじゃね? みたいに。ただ、私は結構早くから採り入れていたんだよというコトを、ここにちょっと自慢げに書き込んでおこうと思います。是非拡散して下さい。
そんな殺陣も多い「トリドクロ」。豊洲のあたりで九月頭までやっていますよ!


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本文とは関係ありませんが、ある日のトリドクロ劇場入り口横に出店していたキッチンカー。公演中はほぼ全日なんらかのキッチンカーが出るようですので、是非ご利用下さい。


粟根まこと


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あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。演劇ぶっくコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み。


【出演情報】

ONWARD presents 劇団☆新感線『髑髏城の七人』Season鳥 Produced by TBS

髑髏城PR

作◇中島かずき 
演出◇いのうえひでのり
出演◇阿部サダヲ 森山未來 早乙女太一/松雪泰子/粟根まこと 福田転球 少路勇介 清水葉月/梶原善/池田成志 ほか
6/27~9/1◎IHIステージアラウンド東京
<お問合せ>0570-084-617(10時~20時)


◇コラム「粟根まことの人物ウォッチング」掲載の「えんぶ6月号」は全国書店で発売中!



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