現在、豊洲六丁目のIHIステージアラウンド東京では新感線☆RS「メタルマクベスdisc2」が絶賛上演中です。disc2は10月25日まででして、来月11月9日からはdisc3が始まります。私は現在disc3の稽古中ですよ。

disc1から2、そして3と三種類のメタルマクベスを続けてお送りいたしておりますが、基本的には同一脚本、同一演出で行われます。一応そういう建前になっておりますが、出演者が変われば結果的に変わってしまうというのは今までにも書いてきた通り。ツキドクロでも上弦と下弦が変わってしまったのと同様です。
変わってしまう要因にはいくつかあります。まず、演出のいのうえさんが飽き性なんです。このネタ、こないだもやったからちょっと変えよう。いや、変えないと言ったのはアナタですよ。なのに変えちゃう。まあ、飽き性じゃあしょうがないですよね。

しかし、それ以前に、台本の段階で変わっている場合があるんです。宮藤官九郎さんが書く台本の段階で、ちょこちょこと変わっているのです。もちろんいのうえさんからのリクエストなんですが、この役をこの人が演じるのならば、ちょっとだけ設定を変えて書き直して頂く。こういう台本の書き方を「アテ書き」といいまして、コレが今回ご紹介したい専門用語です。
アテ書きとは「演じる役者のキャラクターに当て込んで書く」という意味ですね。つまり、役者のパーソナリティありきで台本を書くということです。それによって役のリアリティが増すワケです。

本来、演劇の脚本、つまり戯曲というのは基本的に普遍的なモノですので、誰が演じても構わないものです。役者ならばどんな役どころでも演じられて当然です。この俳優ならばこの役を見事に演じられるだろう。そのような思惑の元に、既に書き上がった戯曲からキャスティングを決定するというのが一般的です。古典や旧作を上演する場合は当然そうですし、新作書き下ろしの場合でもキャスティングとは関係なく、作者の書きたいキャラクターで書かれるのが普通です。あるいは、演出意図として、あえて似ていない俳優に演じさせるコトによって意外な演劇体験を引き出すといった高等テクニックもあります。

でも、どうせなら演じる役者と役どころのパーソナリティが似ている方が演じやすいし、観客としても感応移入がしやすいじゃないですか。そこで取られる手法が「アテ書き」です。
既に出演者が決まっていて、そして作者が出演者のことをある程度判っている場合、演じる俳優のキャラクターに寄せて脚本を書くコトがあるんです。それがアテ書き。この人にこういうことを言わせるとリアリティがあるだろうな、ハマりそうだなという前提で書くのです。そりゃハマるだろうさ寄せて書いてるんだから。これは演劇の手法として大変有効です。そして、劇団☆新感線の場合、その多くがアテ書きなんです。

新感線では、座付き作家の中島かずき先生とは長いつきあいですので、劇団員のパーソナリティがダダ漏れです。熟知していらっしゃいます。だからアテ書きしやすいんですよね。何度も上演している「髑髏城の七人」などでは、大まかなストーリーは一緒ですが、演者によってキャラクター設定などを変えて、つまりアテ書きをして変化をつけているワケです。
最近では色々な作家先生にも書いて頂いていますが、まあ出演者の大まかなキャラクターはご理解頂いているので、ややアテ書き寄りになります。もちろん「メタルマクベス」でも宮藤官九郎先生に部分的にアテ書きして頂いて、シーズンごとの特徴を出して頂いています。有り難い話です。

さらに、いのうえさんによる(そんな用語はありませんが)「アテ演出」とでも呼びたくなるような、役者のキャラクターに寄せた演出も行われるコトがあります。そのためには台本のセリフをちょっと変えちゃうなんてコトもなきにしもあらずです。もちろん作者の了解は得ていますが。
舞台は生き物です。稽古によってどんどん形を変えていきます。同じセリフでも言い方を変えることによって全く違う意味にするコトもできます。ソコが演出の妙なのですが、そこに役者のキャラクターが上乗せされれば更にリアリティが増すワケです。

ただ一つ誤解しないで頂きたいのは、そんな現場ばかりではありませんし、新感線だって全てがアテ書きではないという事です。あくまでエッセンスの一つとしてアテ書きという手法を使っているだけです。そのあたりの加減もまた演劇の面白いトコロなんです。
そういえば、チェーホフの有名な戯曲である「桜の園」にはシャルロッタという手品の得意な家庭教師が登場します。これはあくまで私の想像ですが、初演の時にシャルロッタを演じる役者さんの特技が手品だったのではないでしょうか。そしてチェーホフがその役者さんにアテ書きしたのではないでしょうか。勝手な憶測ですが、そう考えるとちょっと面白いでしょ。

そんなこんなの「メタルマクベス」。disc1と2をご覧頂いた方なら、そのアテ書きの違いもお判り頂けると思います。もちろん本筋は全く同じですのでどれか一本を見て頂くのも良し、複数を見て違いを楽しむのも良し。やたらと暑かった夏も終わって過ごしやすい季節となりましたので、ぜひ豊洲六丁目にお越し下さいませ。


sanpouji

本文とは関係ありませんが、前々から実際に見てみたかった、横浜にある恐るべき上げ底寺院・三寳寺。どう、この上げ底っぷり!


粟根まこと

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あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み。


【出演情報】

ONWARD presents
新感線☆RS『メタルマクベス』disc3
Produced by TBS
11/9(金)~12/31(月)◎IHI ステージアラウンド東京(豊洲)

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