石原美か子「うちに來るって本気ですか?」

うちに

植本 本日は、『うちに来るって本気ですか?』。これ、ほんきでいいんですよね。マジじゃなくて。
坂口 ははは。
植本 これさぁ、えんぶさんから出してますけど、編集長好き? こういうの。
坂口 シチュエーションコメディっていうこと? おもしろいのは好きですよ。
植本 分かりやすいからさ。話としてはね。
坂口 分かりやすいから嫌とかは全然ないですよ。
植本 なんでこれを選んだのかなって。でもこれあれなんだってね。高校の演劇部とか大学の演劇サークルとか。あとテアトル・エコーさんを始め、全国の劇団とかでもすごい上演されてるんだって。
坂口 これうちのヨムゲキシリーズなんですけど、最初に売れる部数はともかくとして、後からくる注文としては、売れてるんです。
植本 ドル箱なんだ、これ。
坂口 いやいやいや、いまだに初版を売っているわけですからね〜。
植本 書いてあったもんね。年間に10何件、上演許可の問い合わせ電話がかかってくるって。こんな財産持ってるんだ。えんぶさん。
坂口 だから、儲かりはしないって。
植本 あ、そう。



坂口 うち、昔、演劇ぶっく社でアートのサイトを作ろうと思って、見事に失敗したんですけどね。
植本 それ知らないもん。
坂口 いきなりですみません。それが下地になって今に、演劇キックという立派なサイトができているという、背景は一応、説明しておくとして。当時その中で、戯曲をというか、単行本も売りたいなと思って。コンテストをやったんですよ。
植本 ああぁん。
坂口 そのときは演劇が得意だったから。戯曲のコンテストをやったんです。
植本 そのときは演劇が得意だったから? ははははは。
坂口 そうそう。演劇の会社だったからね。そんで、これが1番になった。
植本 え、あれを狙ってたんじゃないの? 岸田國士戯曲賞みたいな。
坂口 んなもん、狙うわけないじゃん!
植本 だって、だって。へへへ。
坂口 まぁ、これ1回で終わっちゃったんですけど。
植本 あー、そうですか。
坂口 サイト自体が大変なことになっちゃたんで。そういう曰く因縁のある。



坂口 内容としては5人の兄弟。中産階級の。
植本 ははは、「中産階級」。そんな言葉が出てくるとは思わなかったな。
坂口 それなりに、なに。
植本 まぁ、そうですね。お金がすごくあるわけでも、ないわけでもない感じ。
坂口 一戸建ての近郊の。東京? 都心、都心じゃないね。悪くない場所の。
植本 一軒家なんですよね。
坂口 はい。
植本 庭があってっていう、
坂口 家に住んでる。

【登場人物】
御殿場 縁(長女 29歳 中小企業勤務)
御殿場 太一郎(長男 27歳 ミステリー作家)
御殿場 真琴(次女 24歳 大学院生)
御殿場 忍(次男 22歳 大学4年生)
御殿場 百子(三女 19歳 浪人生)
蝮田 聖巳(28歳 フリー編集者)
相良 不見夫(29歳 縁の紹介相手 保父)
※編集部注


植本 兄弟が5人で、そこに直接親は出てこないんだけど背景として、寝たきりのおじいちゃんがいたりとか、お母さんがいたりしますけどね。
坂口 居間でのシチュエーションコメディですね。5人は、
植本 女性3人と男2人ですね。
坂口 一番上のお兄さんが小説家、
植本 くずれ?
坂口 もどき。がいて。二番目が女の人になるのかな?
植本 え〜とね、うんん。長女がね、29歳なのさ。御殿場縁(ゆかり)さんっていう中小企業勤務の人がいて、次が長男のミステリー作家がいて。で、修士論文の締め切りが迫っている次女の大学院生。振られたのと就活で混乱している次男の大学生4年生。座敷童が見える三女浪人生っていう。
坂口 揃ってますよね。
植本 まぁ、何ていうの? その人たちと訪問者2名が入れ替わり立ち替わりする中での、人間違い。ざっくり言うとね。
坂口 そうですね。それがわりと読んでると腑に落ちるというか、上手に作ってあるなぁって。
植本 ぼくが言うのもなんですけど、お上手です。
坂口 その勢いさえ上手にお芝居を作っていけば、おもしろいものになるなと思ったんですよ。
植本 ぼくも思います。
坂口 で、ただその、何だろう。ちゃんと途中から異物というか、2人、勘違いをするお客さんが入ってきますよね。
植本 そうなんですね。あのー、なんていうの。家に来るはずの人が、2人いるんですけど、それが人違いで。上手く言えないけど。取り違えてるというか、受け手(家族)がね。
坂口 そうですよね。で、その中でさらに、その2人に曰く因縁があるというか。
植本 過去にね。
坂口 そうそう。過去にもあるし。本人たちも何か。何かを持ってる。何ですかね。一人は小説の締切を守らせて原稿を取ってくるのを請け負う立場の人。フリーの編集者が入ってきて、もう一人は長女の、
植本 婚活の、
坂口 相談所!
植本 そう、結婚情報サービス。
坂口 の、パートナーというか、ちょうどうまく出会った人。っていう、その2人が入ってくるんですけども。それが、とり違えられて。
植本 しかも男と女なのに取り違えますからね。
坂口 はい。そうですよね。でもそこのところはちゃんと理屈をつけて、上手に作ってあるんですね。知っている人が電話してて見てないとか。
植本 ふははは。はいはい。
坂口 作ってあるんだけど、やっぱり勢いで行っているから、もしかしたら、作り方によっては、そこらへんで混乱するかなと。
植本 そうそう、だからね、これよっぽど設計図をきちんと書いて、演出のときにやらないと。破綻をきたすかなと。
坂口 何回もやってみて、ああ、ちゃんとこれで分かるねっていうところで提出してくれないと、けっこう、最後の方はただただわーわー言って終わっちゃうっていうことも出てきちゃうかもしれない。それはそうとしてさ、この5人の兄弟が、わりとかわいらしいなと思っていて。5人の兄弟+座敷わらし。
植本 座敷わらしは実際に、いる体でね。



坂口 それぞれキャラクターが立ってるというか、5人の会話がなんかちょっとほほえましく思えてくる。そこがけっこうなポイントだなと。
植本 そうですね。あのー、仕掛けもあるし、見えない座敷わらしを三女が手で扱うっていうのもあるし。あとトラップもあるでしょ。
坂口 そうそう。お兄ちゃんが推理作家で、自分の家に、
植本 いたずらに近いトラップがいっぱいあるんですよ。なんかそこを通るとロープに絡まってしまうとか。
坂口 とか、長女がもう結婚できないかもしれない、みたいに思ってるのに、ここでうまく出会っていく慌てぶりとか。それがメインの話なんですけどね。
植本 高校演劇とか、大学のサークルとかでやったときに、ま、友達同士じゃないですか。
坂口 はい。
植本 関係が作りやすいだろうなとは思いました。
坂口 なんかときどきに上手いつっこみっていうのかな。直接ストーリーには関係ないけど。
植本 関係性を表す。
坂口 上手にセリフが入っているから、観てる側はそれでけっこう和んでいく作りになってると思うんですよね。登場人物に親しみがわいてきますよね。



植本 こういうシチュエーションコメディ。上質なね。こういうの求められてるんだと思いますね。
坂口 これは、普通のところでも全然できると思うんだよなぁ。
植本 印象としては、『おそ松さん』とか、最近ありますけど。深夜のアニメっぽいんですよ。
坂口 『おそ松さん』ってなに?
植本 『おそ松くん』のちょっと大人になったときを描いている。
坂口 ちょっとやだね。
植本 大人気なんだよね。
坂口 そうなんだ〜。
植本 深夜のテイストがすごい匂ってきますね。
坂口 最近作品のチョイスがね、有名な人が書いたものとか、人気のある原作ものとか、そういうとこにいきがちですけど。こういうのを丁寧に、上手な俳優、おもしろい人がやれば、なんかもうちょっとまた別の演劇のお客さんっていうのかな、が開拓できるような気がするですよ。
植本 そうね。それこそシアタートップス。新宿にあった時代に、会社帰りの人が。
坂口 カクスコとか東京サンシャインボーイズとかね。
植本 そうそうそうそう。観に行ける感じの。お芝居。
坂口 そうですよね。というのが今はあんまりない? ない? ぼくの勘違い? でもやっぱりそういうところがちょっと乱暴になってる気がするですよ。
植本 うん、うん。



坂口 なんですけどね。そういうのがあるといいなぁって思いつつ、これを読んでいたんですけどね。
植本 いや、でも、こういうのが上演され続けるのはすごい大事だと思いますよ。何ていうの。本当にいろんな演劇があるので。わけ分かんなくておもしろいのは、それはそれでいいと思うし、こういうのがあっていいと思うし。
坂口 というわけで、くどいですけどこれはうちのヨムゲキシリーズです。
植本 噂でこの作品が、なんかいいなと思ってる人は、あ、えんぶが出してるんだって思って、紀伊國屋とかに探しに行くわけでしょ?
坂口 うん、でももう、たぶん、どこにも売ってないんじゃないかな。
植本 はははははは。
坂口 一時、全部引き取ったから。ネットでしか売らないっていうふうにして。だから今、たぶん、これヨムゲキをどっかで売ってるってことはほぼないと思う。
植本 あれ、紀伊國屋もないっけ?
坂口 ないと思いますね。なんで、ホームページから買ってください。
植本 演劇キックのここにあるやつ。そっか。
坂口 でもまあ、あれですよね。また、“えんぶ勇気のあるシリーズ”になるけど。なかなか立派なもんですよね。
植本 ふははは。そうだよ!
坂口 当時は無名なわけだからさ。
植本 何が当たるか分かんないでしょ?
坂口 へへへ。うん。こう、何、ヨムゲキのなかには今をとときめく人たちがいっぱいいるわけでしょ。宮藤官九郎さんとか、平田オリザさんとかさ。そういう中で、ぽこんとこういうのがあるっていうのがね、ちょっと楽しいかなと思って。
植本 だって、実際、これ売れてるわけだからさ。
坂口 そうね。ふふふ。売れてるっていってもね。
植本 ひはははは。
坂口 くどいけどさ。
植本 いやいや。
坂口 ほかのが売れなすぎるって。
植本 なかなか。だってさぁ、ご本人が演出した場合が一番おもしろいだろうなって思う戯曲もいっぱいあるじゃない。これはそうじゃないから。可能性がいっぱいあるんですよ。演出家さんによって。
坂口 なるほどね。
植本 そこじゃないですかね。やっぱり、やろうと思う人が多いのの、理由の一つは。
坂口 そうですね。
植本 松尾スズキさんのやろうと思ったときに、松尾スズキさんよりおもしろく、しかも若い世代の人ができるかって思うじゃない?
坂口 う〜ん、そうですね。確かに。
植本 この本にはそんな可能性がいっぱい詰まっているわけです。
坂口 じゃあ、ぜひ。あの、
植本 ネットから。はははは。



植本 これね、本当にね、さっきも言ったけど、こういうのをやると鍛えられると思うよ。
坂口 おおー。なるほどね。それは。
植本 一つの答えに向かって。
坂口 何? みんなが一つの目的に向かいやすいからっていうこと?
植本 目的っていうか、正解。正解に向かいやすい。
坂口 正解っていうけど、正解? もうちょっと砕いて言うとどういうこと?
植本 この笑いはこうしないと起こらないっていう、そのおもしろさを最大限に引き出すための。このセリフとか間はこれじゃないとダメだとかっていうのは、わりと正解があると思いますよ。
坂口 ほああー、なるほどね。ま、考えたことないけどさぁ。
植本 いやいやいや。
坂口 だからみんな言うのか! 今日は上手くいかなかったとか。上手くいかない日があるとか。
植本 それはいろいろなんじゃない? それはいろいろあると思う。相手役と2人の関係のときもあるし、お客さんに左右されるときももちろんあるし。なんで? 昨日とこんなに違う客層なの、雰囲気なのって思うときよくあるじゃないですか。
坂口 それ、ぼくら1回しか行かないから、その時しか分かんないですけどね。ふーーん。そうかぁ。
植本 でもこういうのは、お客さんに左右されてる場合じゃない本の一つだと思うので。
坂口 はあ。
植本 構築していかないといけないから。
坂口 だから、今、ここまで勢いがあるっていうのかなぁ。なんかけっこう無理くりなシチュエーションコメディを作ろうって思う人はあんまりいないかもね。みんな安定してきちゃったし。こういうの作ってた人たちも。
植本 はいはいはい。ベテランの域にさしかかり。
坂口 そうそう。そういう人たちがもうほとんど、ね。もうちょっと落ち着いた作品に。
植本 当然の変化なんだけどね。
坂口 まぁ、自分の年齢や時代に合わせて変わっていきますからね。そういう意味では、これはちょっと。これも昔作った本なんだけど、おもしろいかなぁ。
植本 えんぶさんが出す本の中では異質ですね。
坂口 そう、ですかね。
植本 ふふふふふ。
坂口 でもみんな。狙いどころとしてね、若い人がね、もうちょっとこっちをやってもいいんじゃなかなという気はすごくするですよ。はちゃめちゃなシチュエーションコメディっていうか。丁寧なんだけど、はちゃめちゃ。そこらへんを睨んで頑張ってみてもいいかなぁって思って。
植本 分かりますよ。こういうのが上手にできる若い俳優さんたちは、そこからの、たとえば外部への出演とか、映像への出演も増えていくでしょう。
坂口 そうですね。僭越ながら、頑張れって思いますよ。
植本 こういうのがね、上手にできる人はね。
坂口 上手にできるためには、いろんなことをしないといけないとは思いますけどね。



植本 潤

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うえもとじゅん岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。


【出演情報】
こまつ座『イヌの仇討』

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作◇井上ひさし
演出◇東憲司
7/5〜23◎紀伊國屋サザンシアター

こまつ座 http://www.komatsuza.co.jp/

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坂口眞人

さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

(文責)坂口眞人



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デール・ワッサーマン『カッコーの巣の上を』

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植本 『カッコーの巣の上を』。小説を戯曲化したものですね。
坂口 あまりにも映画で有名ですね。
植本 そうねぇ。ジャック・ニコルソン主演、ミロス・フォアマン監督。
坂口 アカデミー賞とか。
植本 あの印象が強いよね。
坂口 なので、なんともそっちの方にイメージが行っちゃいますけど。
植本 もともとケン・キージーの小説が最初。1962年に小説が書かれて、翌年の63年にはデール・ワッサーマンが脚色して劇化、
彼は「ラ・マンチャの男」も書いてますね。そして映画が75年かな。
坂口 けっこう映画化までに時間が経ってますよね。だから映画で言うと、『俺たちに明日はない』とか『タクシードライバー』とかの。
植本 アメリカンニューシネマの頃です。
坂口 あのへんの一連の作品ですね。だからアメリカの傷口みたいな、ちょっと弱っちゃってるところを描くみたいな。



坂口 アメリカ北西部の精神病院での出来事ですね。
植本 ぼく2回舞台やってるんですよ。
坂口 あ、なんだ。そうなんだ!
植本 1回目は、吉田鋼太郎さんがマクマーフィの役で。その何年か後に、亡くなった今井雅之さんが同じ役で、ぼくは両方ともビリーっていう役なんです。
坂口 死んじゃう役ですね。
植本 そうそうそうそう。
坂口 あれ、なかなかいい役ですね。
植本 そうですね。
坂口 マザコンの。
植本 患者たちの中でも描かれてる部分が多いので。
坂口 そうですか。それはそれは……。今回はいきなりハンディがついてますね。
植本 いや、でも改めて読み返してみると、「いい作品だな」と思って。それぞれの役に特徴があるし。
坂口 ぼくの印象としては、ものすごいストレートな話で。
植本 ちゃんと物語なので。
坂口 ちょっと苦手だなと思いました。小説はインディアンのチーフという名前の人の目線で書かれているらしくて。生活していた場所を、お父さんの代で追われて、迫害を受けているっていうのかな。家庭内でもいろいろあって、自閉的になっちゃって精神病院に入っている。でっかい男の人の目線で書かれたのが小説。
植本 戯曲化されてもそのモノローグっていうか、口をきかないので、実際、インディアンのチーフ・ブロムデンという人。ナレーション的に音声で入ってきますけどね。



坂口 精神病院での患者たちと婦長と、病院側の人、婦長がメインになるんですけど、あとちょっと医者と看護婦と看護人、最後の方で夜警がいろんな階層を代表するようなイメージで出てきますけど、あとは患者が7人。病院の日常の出来事の、
植本 その中に外から異物が入り込んでくるという構成ですね。
坂口 美人で色っぽい40代の婦長がいて。その人が実質この場所の権力者。
植本 ま、支配している人ですね。
坂口 それで、この当時のやり方で、精神病を治療していこうということで、いろんな集団ミーティングみたいなこととか。
植本 集団療法ね。
坂口 そのやりとりがメインになっていきますね。その中でそれぞれのキャラクターが紹介されていくのが前半ですね。ご自分で演じられていると、どういう感じですか。
植本 ぼくやっぱり一番驚いたのは電気ショック、最後の方にはロボトミー手術というのが出てきますけど、「あ、実際にたくさんやられていたことなんだな」と思って。
坂口 そうですよね。
植本 60年以前、50年代とか40年代とか。
坂口 つい最近まで。
植本 はい。
植本 本当にすごい乱暴者に対して手術をして廃人にさせてしまうというのが。
坂口 でも懲罰と言う言葉は使わないで、「あなたのために治療をする」っていう上で酷いことをやる。このニュアンスは今でも健在ですよね。



坂口 でもこれあれですよね。一幕目とか読んでると、リズミカルにいろんな小さい事件を起こしつつ、みんなの紹介をしていくっていうのがあって、気持ちよく読んでいける感じがします。
植本 本当にみんな、個性的っていうかキャラクターがはっきりしているので、どの役もおもしろい、患者の役もおもしろいと思いますよね。
坂口 そういう意味ではキャラクターが立ってる。
植本 でも演じる側としては、そこで必ず葛藤があると思うんです。たとえば身体が不自由な人のお芝居を演じなきゃいけないときとか、やり過ぎてもいけないし、やらなすぎてもいけないっていうのが、これ永遠の命題かなと思うんだけど。
坂口 植本さんのビリーも「やり過ぎてはいけない役だな」と思ったですよ。吃音になったりもしますよね。きっとちょっとおどおどしたりもしてるんですよね?
植本 そうですね。もちろん、どっかでは失礼があってはいけないっていうのはあるし、あと、オーバーアクトになってはいけない。でもね、自分でストップかけちゃうと、そこで終わっちゃうので。
坂口 ああ。
植本 あるからね。
坂口 演出者などがチェックしてくれるんですね。
植本 そうですね。あと兼ね合いで。多少オーバーアクトにしても大丈夫な役もあるんですよ。人には見えていないものが見える役のマーティニとか。は、けっこう大丈夫なんじゃないかなと思うんですけど。あとは爆弾を作るスカンロンという役とか。



坂口 そういうことで言えば、主役になっている、
植本 マクマーフィ。
坂口 乱暴者で、戦争、朝鮮戦争の退役軍人? で勲章とか。
植本 そうなんですよ! 戦場ではいっぱい勲章をもらって。
坂口 世の中に出てきたら折り合いがつかないで。
植本 そうそう。何回か喧嘩をして刑務所に入れられるんだけど、強制労働が嫌で精神病を装ってこの施設に来ますね。 
坂口 そういう意味では正常?
植本 そう。
坂口 正常なんですね。
植本 社会的には不適合っていう烙印を押されてる。
坂口 それは永遠のテーマですよね。戦争は人を殺して褒められる社会だから、世の中は真逆だから。その折り合いをつけるのはなかなか普通の人間では辛いですよね。永遠のテーマをはらみつつ。戯曲では婦長が管理する側のシンボル。でマクマーフィがそれを逸脱して行こうとする、
植本 自由の象徴的な存在ですね。
坂口 それでずーっと進んで行くんですけど、その中でマクマーフィと婦長のキャラクターがとても強烈に描かれてるっていうか。何て言うんですかね。
植本 婦長さんも難しいでしょ。ただの悪人になっちゃうじゃないですか。きっとそうでもないんだろうし。
坂口 これ読んでるだけだと、いやなおばさんっていうふうに見えちゃいますよね。マクマーフィの方も結構うっとうしいおじさんって思っちゃうから。そういう意味ではチーフ、領地を追われたインディアンの目線で書かれた小説っていうのが一番接しやすいのかなと思いました。これ一番読んでみたいのが小説で、二番が映画、最後が演劇かなとちょっと思いました。



坂口 二幕目になると疑似のバスケットか何かを患者たちが。
植本 ああ、あとテレビね。
坂口 それは一幕目の終わりだね。
植本 あ、そっか。
坂口 権利を主張する、マクマーフィとか。
植本 夜しかテレビを見れないんですけど、昼にワールドシリーズをやってるから見せろって言うと、当然婦長さんは却下して。多数決で決めようっていうときに、数が足りなくてマクマーフィがチーフに「お前も上げろよ」って言う。「あーやっぱり上げないな」とみんながガッカリしてると手をゆっくり上げ始めている。ちょっと感動的でしょ?
坂口 随所にチーフの心が動いていく感じが見えてきて。彼がしゃべり出す時とか、ものすごく心を奪われるっていうか「お、いいぞ」って。だから彼に感情移入をついしちゃうんだけど、そんなことないの?
植本 いや、あると思いますよ。もちろん。大きな構想の中ではさ、アメリカの歴史の中でインディアンが土地を追われてるのと、たぶん、これが重なってるんだろう。精神病院に入れられる、隔離っていうことでいうとね。
坂口 原作者もそこが書きたかったのかなぁと。



植本 これね、一幕か二幕か忘れたけど、あれが好きなの。「ぼくたちは拘束されてないんだ」っていう。患者たちが「自由意志で入ってる」
坂口 半分以上の患者たちが。そんなのありなの?
植本 そうなんだね。さっきもちょっと言ったけど、社会とちょっと合わなくて、不適合っていうか社会と合わなくて自分から入って。例えばハーディングだと奥さんと合わなくて、ちょっとゲイ疑惑のある。
坂口 でもそれもさ、自分一人の意思じゃないんよね。家族とか地域の雰囲気とかの中で、自分が進んで入らざるを得ないような状況になってるんだろうと思うんだ。でも彼ら、自尊心もたくさんあるから「入れられた」というよりも、「自分から入った」ということを言っているような気がしますよね。全然話が、あれだけどさ、ミシシッピーの話があったでしょ? 最後、気違い病院に連れて行かれちゃう。あ、気違いって言っちゃいけないね。
植本 ハハハ。これじゃなく? 映画?
坂口 芝居。文学座とかでやってたやつ。
植本 ああ、欲望(『欲望という名の電車』)?
坂口 そうそう! 「欲望」の最後で連れて行かれるよね? もちろんあれは女性ですけど、時代的にはこういう時代なのかな。
植本 あーーー! どうなんだろう?
坂口 あれも戦争から帰ってきた人が出てきたけど。あれは前の戦争だね。
植本 ニューオリンズだっけ?
坂口 場所や状況こそ違うけど、ぼくはそのときにふと思って。「彼女もこういう事情で精神病院に入れられちゃうのかなぁ」と思ったりして。ちょっと人ごとではなかったですね。
植本 ふふふふふ。
坂口 だって、彼女切ないですよね。見てて。
植本 あの、ブランチね。虚言で、嘘を塗り固めて自分を守っていく。なんで他人事じゃないと思うの!? おれあんまそんなこと思ったことないけど。そうなの?
坂口 それは、その……一歩間違えば、ブランチかなぁって思ったんで。
植本 この頃のアメリカって、黒人運動もあるし、インディアンの解放運動もあるし、脱宗教みたいのがきっと。ヒッピーも出てくるからね。とか。
坂口 小説の方でいうとまさにそうだし、映画もタイムリーな時代に作られているんですよね。



植本 誰かが書いていたんですけど、マクマーフィをイエス・キリストにたとえるならば、最後に密告するのがビリーっていう。「誰にやられたの?」「マクマーフィ」と答える姿がユダに例えられるだろうって。インディアン、チーフが最後に窒息させるんですよね。ロボトミー手術をされたマクマーフィを枕で。
坂口 そうですね。
植本 それを「ロンギヌス」って言ってましたね。
坂口 なにそれ?
植本 「ロンギヌスの槍」って言って、磔になったキリストを槍で刺す人ですね。盲目なんですよね。血を浴びて目がみえるようになったとかっていう人らしくて。
坂口 それはあれだよね、最後にキリストが死んでいるかどうかを確かめる人だよね? あ、それで目が見えるようになったんだ。
植本 なんだって。チーフも耳が聞こえないっていう設定だったり、そこを重ねてどなたかが書いている。ふーんって思って。



坂口 なるほどね。そういうふうに言ってくれると、ちょっと「あああー、そうか」って。彼を見るに堪えないで殺しちゃうというのはすごく分かるんですけど。
植本 人形のようになったマクマーフィをね。
坂口 それを見ているのはすごくいやだって。その、そこの前後の過程でさ、なんか、何て言うんですかね。マクマーフィがなんか簡単に負けちゃう。……簡単に負けちゃう。それがちょっと、自分的にはいやですね。さらに言えば、チーフも出ては行くけど、この先ただつらい思いをするような気がしますもんね。
植本 みんながいろいろ思うんだけど。たぶんチーフも大変なことの方がいっぱいね、待ってるんだろうなと。
坂口 そういうことでは、救いがないと言えば簡単だけど、それを越えて、看護婦長にマクマーフィがそんな簡単に負けちゃうのは、いくら物語の上とはいえぼくは見たくはないんですね。だからとっても気持ちの悪い幕切れ。だったな。
植本 カッとして婦長の首を絞めて、後ろから警備員たちに殴られて気絶して、ロボトミー手術をされちゃうというストーリーなんですけど。
坂口 それがリアルと言えばリアルかもしれないけど。
植本 脱出し損ねたっていうことですもんね。酔っ払っちゃって、気づいたら朝になっちゃってたっていう。「あああ!」ってみんなが思うところですよね。「あああ!機を逃しちゃった」っていう。
坂口 そのまぬけさも含めて。人の良さと、一時は気の弱さみたいのも出てたり。でも突っ張って突っ張って頑張って行くわけじゃないですか。あのお芝居で観客が共感していくのは彼! 彼、がんばれ! ってずっと思って観ていくと思うんですよ。
植本 そうね。テレビのところでも最初の多数決だと、何人かしか手を挙げないので、ほかの患者を責めるときに、「おれはやってみた」「おれは挙げてみた」「おまえ達はなにもしなかっただろ」と。なるほど主役のセリフだなと思った。



坂口 だからさ、はしご外されちゃったみたいで、読み手としてはね。映画だったらぼくはいいと思うんです。映画ならオッケーだけど、芝居でそれは嫌なんだな。何でなんだろう?
植本 演劇だと説教くさくなる?
坂口 う〜ん。か、何なんですかね。同じエンディングでも映画はオッケーだけど、芝居はいやだすごく思いました。
植本 演出家さんが変わってもダメかねぇ?
坂口 それは分かんないけど。ぼくはこのままだとあんまり見たくないなと思いましたね。
植本 その何ていうの、精神病院っていうのも、今のイメージとちょっと違うっていうか。心療内科みたいのとはちょっと違うじゃない? それこそロボトミーとか出てくるとどんだけ恐ろしいところだ!って、ね。
坂口 そうですよね。だけど、『時計仕掛けのオレンジ』とかもあれだけど、そんなにさ、こんな風に陰惨な形では出てこない。「うぁーやられちった!」みたいなさ。出てくるけど。そうね。今やるのは、どうなんだろうな……。やっぱりちょっと。
植本 今さ、端的に言っちゃうとさ、これ戦争が終わった後の話じゃない。今、戦争が始まるかもしれないという時期だからちょっとずれてるのかもしれないと思うのね。日本でもいたでしょ? 戦争から帰ってきて、ちょっと廃人になってる。
坂口 いっぱい居ましたよね。



植本 今日さ、対談して、戯曲もざーっと読めるし、物語だから読んで欲しいんですけど、映画もね、おすすめなんですよ。精神病院をみんなでバスで出かけて、釣りに行くっていうシーンがあって。あれ、たぶん、映画オリジナルなシーンなんですけど、みんな楽しげで。これは劇だから、精神病院内で終わってるから。そこが映画と演劇の違いでおもしろいと思ったんですよ。
坂口 これ! 映画ですよ。映画観た方が何倍もおもしろいと思うな。自分はね。自分は。なんでこんなに、別にけなしている訳ではないんだけど、久しぶりに読後感が。
植本 気持ちが悪かったの?
坂口 うーん、なんか「この終わり方かい!」っていう風にちょっと思っちゃったんだなぁ。…それはぼくの至らなさっていうか。
植本 いやいやいや、いろんなことを経験なさっての上での発言ですから。
坂口 年取ってくると、ぼくあんまり、自分を「年取ってくると」とか言わないんだけど。
植本 言わないね。
坂口 年取ってくると、やっぱりそれなりの多少光が見えたり、ハッピーエンドとまではいわないけど。
植本 ああー、一筋の光?
坂口 何かが欲しくなるかもしれない、ね。
植本 ふふふふ。そうなんだ!
坂口 ちょっとそうなのかもなーって思いますね。うん。…なんで。だからいろいろ思いました。



植本 今日のまとめとしては、「まずは映画から入れ」はははは。
坂口 映画観ればいい!
植本 はははは。おかしいよね。演劇の企画で。はははは。
坂口 んーーーーーーー。でも今の時期に両方あるとしたら、もうやってないけど、どっかで観ることができるわけでしょ?
植本 もちろん、DVDでも観れるし、あの映画のファンも、わりと若い人もあの映画は観てる人が多いんだと思うんだよね。
坂口 うーーーん。
植本 もしまだ観たことのない人がいたら、ぜひDVDを。いいのかそれで!
坂口 あと、小説ね。小説も読んでみて。
植本 編集長の意見ですからね。
2人 わはははは。



植本 潤

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うえもとじゅん岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。


【出演情報】
こまつ座『イヌの仇討』

チラシ-thumb-262xauto-427
作◇井上ひさし
演出◇東憲司
7/5〜23◎紀伊國屋サザンシアター

こまつ座 http://www.komatsuza.co.jp/

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坂口眞人

さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

(文責)坂口眞人



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天野天街『それいゆ』

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坂口 天野天街さんの『それいゆ』、まずは感想から。
植本 まず一番最初、この戯曲を出版したということで、えんぶは価値がある会社だなぁと思ったね。その勇気と、
坂口 ははは。
植本 冒険心と。
坂口 御本人が後書きで言ってますよね。これは「ある時空間を作るための設計図だ」って。
植本 おれも最初にそう思った! 読み進めていく時に、「これは本当に設計図だな」って思ってたら、後書きに書いてあった。その通りだった。あとさ、文字がだんだん小さくなっていったりとか。時々、一行だけ文字が大きかったりとか、その他にも図的なものがあったりとか。
坂口 配置図みたいのとかね。

配置図
『それいゆ』(天野天街著)配置図など


植本 そうそうそう、誰がはけるのとか。記号があったりとか。まぁ、本当にただの戯曲じゃないなって。
坂口 一番、思ったのは、これの頃はよく観てたんですけども、やっぱりノスタルジックな感じで、アングラっぽい不思議な雰囲気の舞台だから、そっちの方のイメージが強くて。言葉は、それにこう、ついてくるっていうか、あんまり具体的に耳に入ってこない感じがしてたですよ。仕草とか雰囲気が強い公演だったから。今回読んでみて、いろいろおもしろい言葉とか。
植本 ふふふふふふ。意味のあること言ってたみたいなね。
坂口 そう! 断片というか。短い会話の繰り返しで、しかもそれも意味のないような会話の繰り返しなんだけど。そこから受け取れそうで受け取れなさそうなもどかしさっていうか。おもしろかったです! ぼくは。
植本 今日は「どういうストーリー」って説明できないから、そういうことを話していきましょうね。
坂口 そうですね。



植本 独特の群舞があったりとか。あとは群読っていうか、多くの人数で同じセリフをしゃべったりとか。これ、あれじゃないの? ある程度のスピードを持ってやらないと、ダメな本じゃない? 本ていうか、作品。
坂口 そうですね。
植本 気持ちを込めてゆっくりやられてもダメでしょ。
坂口 かなりのスピードだったと思います。実際。
植本 だから、稽古が大変なんじゃないかなと思って。相当稽古しないとダメだし、なかなか、じゃあ、ちょっと誰かが出れなくなって代役っていうのもむずかしいんじゃない?
坂口 セリフが重なったり、言葉尻から同じ言葉でつないでいくみたいなのもいっぱいあるし。本当にスピード感っていうか、ああ言ったら、こう言う感じでずーっと進んで行きますからね。
植本 同時多発って言えば平田オリザさんのようでもあり、言葉遊びは野田秀樹さんのようでもあり。
坂口 でもどっちも全然違うっていう。すてきにナンセンスですね。

セリフ重なる

『それいゆ』(天野天街著)冒頭ページ、セリフ重なる部分(黄色)


植本 でも、あれ何て言うの? 単語を紙に書いて、それを裏にして横にすると違う言葉になってるっておもしろいね。
坂口 そういうのが随所にあって。なんとも話すのにはとても困る。あれですね。
植本 いや・・・でもまぁ避けては通れない天野天街さんだと思うんですけど。
坂口 全体のイメージみたいなものはなんとなく、こう、もの悲しいと言ったらおかしいけど、なんかこう、決してただ、言葉でふざけたりたくさんしてるけど、楽しい話が続くわけではないですね。むしろ、逆。っていうか。
植本 そうですね。もちろん原爆とか、戦争のことに触れられるし。
坂口 言葉のやり取りは、なんだろう、かなりおもしろい、ギャグっぽい感じで会話がずーっと進んで行くじゃないですか。
植本 うんうん。それがね、笑えるか笑えないかは、また別っていうか。笑えるところももちろんあるし、あの、ギャグなんだけど、たぶん、通り過ぎていくだろうなというところもあるし。
坂口 そうですよね。観客はほとんど仕草の部分では感じられるけど、言葉のやり取りではかなり分からないかもしれないですね。読めばいっぱい分かるけど。「もう6時」=「もうろくじじい」じゃねぇよとか。
植本 あれだ! 何だっけ? 「ショートケーキ、いちごの」=「消毒液イチコロ」っていう。
坂口 そういうのがいっくらでも出てくるし、書いてある言葉の中では、読めば違う意味の言葉が書いてあったりしました。
植本 たとえば、返事の「はい」っていうのが、降ってくる「灰」って漢字で書いてあったり。これたぶん、舞台上では分からないだろうな。戯曲を読まない限り。
坂口 だからそういう意味では、この戯曲は大変価値がある。
植本 わはははは!自画自賛だ。
坂口 いや、素晴らしいなって思いますよね。
植本 演劇ぶっく30年の中で一番いい仕事じゃないですか。
坂口 ひでー!
植本 わははははは。
坂口 勇気のある出版社だって思いますよ。ふふふふ。



植本 なんかね、途中から大人数対大人数になるでしょ? 愚連隊全員ていうのと、毛マンコ全員っていうやつね。そこらへんになると、なんかギリシア悲劇みたいだった。
坂口 そうですね。読みやすくなるっていうか。
植本 何かが変わるんですよね。途中から。
坂口 途中からそうですね、ずーっと読みやすく、意味は相変わらずなんですけど、読みやすくなりました。前半はもう本当に、会話そのものっていうか、セクションセクションはおもしろいんだけど、ずーっとわかんない。わかんないっすね。
植本 あの、作者の天街さんには失礼なんですけど、ぼく、上にある登場人物、読んでないんですよ。誰が何を言ってるかを。ひたすらセリフだけを読んでいったので。あ、あれ、突然これ3人で言ってるな、というのはみてるけど。そこは重要だよね、きっと。
坂口 やってればね。
植本 へへへへ。
坂口 しかもさ、「正太郎」っていうキャラクターが途中から複数になったり、別の人が正太郎になったりするでしょ。で、それが一部夢だったりとか、いろんな仕掛け、どこまでが夢で、どこが本当かわかんないですよね。一人の人物の歴史みたいなものも途中で語られて、時代も紀元2500何年とかって。戦争前の国民学校に入って、そのあとB29とかの話が入ってくるんですね。作家の感性で目配せしながら、配置してるんでしょうけど。
植本 編集長が当時観てた頃って、おもしろかったから?
坂口 すごくおもしろかったですよ。
植本 維新派とどんな感じなの? 2つを比べると。
坂口 維新派はね、外にイメージが開いていく感じですかね。逆に少年王者舘は内側に入り込んでいく感じでしょうか。どちらもそのなかに強烈な叙情が入ったりしてね。もう、分かんない中で、涙が止まんないみたいなことがありました。少年王者舘は動きもコミカルですよね。チラシを見ると、ちょっとそういうイメージが。
植本 素敵なチラシですよね、毎回。


soleil
チラシ画像

坂口 親しみやすいというか。
植本 ま、この作品だとちょっと下世話な話題も出てくるし、下ネタ的なね。
坂口 演じている人たちもわりと、ぼくらに近いと言ったらへんな、
植本 生活感のある?
坂口 存在そのものがもうちょっと近いっていうのかなぁ。そんな気がしました。とても楽しい、楽しいというか、おもしろがって観てるっていう感じでしたね。
植本 ただでさえトリッキーなのに、一つか二つ先のセリフを言っちゃうっていう設定があったりとか、場面をちょっと間違って先行して出てきちゃって1回袖にはけるとか台本にありますよね。
坂口 で、実際また戻ったり。
植本 そうそう。
坂口 10回繰り返すとか。
植本 あった!
坂口 同じセンテンスを、
植本 百万遍だっけ?
坂口 もあるし、10回のところもあるんですよね。よくお芝居でね、前衛的な匂いのするお芝居では繰り返したりするシーンもありますけど。これはちょっとそれとは違う、遊び心たっぷりな感じですよね。
植本 そうそう、ちょっとユーモアを含んだ。好きなだけ繰り返せっていう。
坂口 全体的にただならぬユーモアを含んでますよね。でもこれ読んでると、なんかちょっと痛いっていう。部分もけっこう伝わってくるし。切ないっていう部分も伝わってくるし。人との関係みたいのも、ふざけているわりには、シビアに書かれているような気がして。なんか。うーん。なんか夢を、悪夢とは言わないけど、あ〜おかしな夢見ちゃったなぁっていう感じはずっとしますよね。
植本 今回一番思ったのは、あ、演劇って多種多様なんだなって思った。
坂口 本当ですね。本当にそう思うし、しかもお芝居も観てると、本当にどう受け止めてもいいんだって、ぼくの勝手だ!ってすごく思いましたね。



植本 どなたかが、このお芝居の感想として書いてあったんですけど、「天野天街さんは、死から生を見てる」みたいなことを言ってる方がいて。あと、あの、一対多数でやり合うところがあるでしょ、さっきギリシア悲劇っぽいなぁって言ったけど、「ロックコンサートとかのコールアンドレスポンスに似てるね」って書いてる人もいて。
坂口 なるほどね。
植本 だからスピード感は必要なんだろうなって思うし。どうなんだろうね、出演されてる方たちはどんな思いでやってらっしゃるのかなとは思います。大変だから。これ。完成させるには。
坂口 そうですね。天野さんの世界の作り手として参加してるっていう形にならないと、ちょっとついて行けないかもしれないですね。
植本 着地点が、分かってないとっていうか。
坂口 でもね。今回読んでみると、少年王者舘のスタイルじゃなくても、もっと思い切って別のスタイリッシュな形で演じられても、成立しそうな気がしなくはなかった。
植本 設計図だからね。それこそ。
坂口 そう。だから別の家を建てちゃうっていうか、家じゃないな、タイムマシーンか何か分かんないけど。作っちゃうっていうのはあるかもしんない。
植本 労力は大変だと思うけど、設計図としたら、それをね、違う人がそれを元に作って、まったく違うものになったら、それはそれで素敵ですね。
坂口 戯曲を読んで、あ、得したかなって思いましたね。
植本 うん! これほら、しかもさ、最後にネタ帳みたいのが載ってるでしょ?
坂口 はい、そうですね。
植本 これ見ても分かんないけど。じゃあなにかって。
坂口 ふへへへへ。ああ、こうやって考えたり、イメージをしてるんだっていうのは分かりますよね。


イメージ

『それいゆ』(天野天街著)特別付録/それいゆネタ帳


植本 これどうしたの? 向こうが載せてって言ってきたの?
坂口 いやーーー。もうこの頃の記憶はまるでないんで。さっぱり分かんないんですけどね。
植本 うひゃやひゃひゃ。これ、ここにコダーイの曲って書いてあるから、おれ昨日、コダーイの曲聞いちゃった。どんなんだっけなと思って。
坂口 へー。音楽もね、
植本 こと細かに指定されてますね。たぶん、オリジナルだったりもするんだろうけど。
坂口 美空ひばりの曲とかも。
植本 『真っ赤な太陽』とか。
坂口 ありましたよね。太陽が2つあるっていうのが、けっこう出てきません?
植本 最後の最後で、ぺらっぺらの太陽が2つ出てきて、それが重なって一つになるっていうすごいイメージ。タイトルがね、「それいゆ」
坂口 そうですね。
植本 「それいゆ」は太陽。もしくはひまわり。
坂口 太陽が何のイメージなのかぁってちょっと思ったりもしますよね。太陽、太陽。
植本 不気味。月ほどじゃないけど、2つ太陽があるとちょっとおれは不気味な感じがしますけど。
坂口 もう1つは原爆?原発?って。
植本 なるほど。
坂口 自分なりに思いつつ。でもそこまでは全然ね、読み取れないんですけど。漠然とそうなのかなぁなんて思いながら読んで。でもあれですよね。どっちにしてもスピードっておっしゃりましたけど、これ読んでるときもスピード感で読むしかないっすよね。
植本 そう! グワーって飛ばして読んで。
坂口 意味とかもう考えてもしょうがないから。本当に。



植本 卓球の試合みたいだった。読みながら。
坂口 卓球上手なの?
植本 昨日、世界ランク1位、2位、5位を破って優勝したのが日本人です。そんなことを思いながら読みました。そうだ、あれ、あの、この本を読む前に、天野天街さんが、熊本の地震のときのお手紙を書いていて、あともう一つは、松本雄吉さんが亡くなったときにお手紙を書いていて。それがまるで詩のようなお手紙なんですよ。あ、こんな詩的なお手紙を書く方なんだと思ってこの台本に取りかかったので、あ、なるほどって思いました。なるほど、こういうものを書くのか。
坂口 ふ〜む。
植本 だってさ、本当にこれは戯曲を読まないと分かんないけど、さっきも言ったけど、「はい」が「灰」になったり、カタカナがいっぱい出てくるし。読みにくくはなかったですけど。そこにね、ひっかかってると読み進めないので。
坂口 これは植本さんがやってくださいって言われたら、どうするの? 役者として。
植本 なるほどね。
坂口 やれるの? やれなくはないよね。
植本 もちろん、やるんですけど。さっきも言ったように、どの役っていうので読まなかったので、それぞれの役がどういう人かっていうことではなく、書かれているセリフをガーッと読んだので、じゃこの役でお願いしますというのはないです。ふふふふふふふ。
坂口 そうだね。これはね、もう、観てるときに、「分かりやすい」「分かりにくい」とかっていう部分は超越している感じですよね。もう。本当にあるがままを楽しむっていう以外に。ぼくはちょっと一回離れたんですけどね。今、だからどういうことをやられているかは、ちょっと分かんないですけどね。



植本 後書きに書いてたけど、長年作曲されてた方がこの作品の前年に亡くなってるのかな。だから死に対しての考え方が、見え方が変わりって書いてありましたよね。それで作風がちょっと変わったから、出演者には迷惑っていうか、やりにくかった、覚えにくかったかもということも書いていらしてたけどね。
坂口 これたいへんですよね! 役者は。
植本 それこそ本当に来た球打つみたいなことだから。ひたすら稽古なんじゃない。
坂口 役者さんはそういう意味では、けなげで献身的な感じがしますもんね。ダンスとかもあるし。
植本 あ、そうだ。
坂口 独特の振付のダンスがあったりして。
植本 あのー、名古屋? 名古屋が本拠地?
坂口 そうですね。
植本 ぼく不勉強でね、観たことがないので、もし今後も東京でやってくださるなら、ぜひ観たいです。
坂口 たぶん8月にやるのでは。
植本 どこらへんでやってるんだろう。
坂口 スズナリとかじゃないですかね。
植本 ああー、いいなぁ。それくらいの小屋だったら。すごーい楽しみ。


植本 潤

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うえもとじゅん岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。


【出演情報】
こまつ座『イヌの仇討』

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作◇井上ひさし
演出◇東憲司
7/5〜23◎紀伊國屋サザンシアター

こまつ座 http://www.komatsuza.co.jp/

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坂口眞人

さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

(文責)坂口眞人



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