『ドレッサー』ロナルド・ハーウッド

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植本 今回はロナルド・ハーウッド作、『ドレッサー』です。
坂口 これ、あれだよね。植本さんはもう十分読み込んでるっていうか、知ってる話だよね?
植本 映像で観たことがあって。三國連太郎と柄本明さんのかな。
坂口 え、それは、加藤健一さんじゃなくて?
植本 座長役の三國さんは変わらずに、加藤さんと柄本明さんのお二人がノーマンっていうドレッサーの役をやってらっしゃって。
坂口 あー、そうなんですか。
植本 多分、ぼくが観てたのは柄本明さんバージョンだったと思います。
坂口 へー。
植本 まぁ、なんて言うんですか。バックステージ物ですけど。
坂口 そうですね。
植本 よくできていて、よくでき過ぎている感もあるくらいな。
坂口 本当に。シェイクスピア絡みで、こんなにしっかりしたお芝居が作れるんだって思いました。
植本 すごいですね。
坂口 本当にすごいですね。
植本 なんかこれさぁ、1980年に書かれて上演されているんですけど、もう1年経たずに日本初演してるのね。
坂口 え、いつできた?
植本 1980年、日本初演が1981年で。映画が84年みたいですね。
坂口 書かれている時代背景は、
植本 1942年。
坂口 だからまぁ、第二次世界大戦頃のイギリスのお話ですよね。
植本 地方都市のとある劇場。



坂口 ガンガンドイツ軍の空爆がある中で、『リア王』を上演するっていう話ですよね。まずそこで、日本だったら空襲警報とかあったら上演中止ですよね。
植本 やらないと思いますよ。ターゲットにもされかねないし。
坂口 そうですよね。ここではもう、本当かどうかはしらないですけど、バンバン爆弾が落ちる中、上演してるっていう。
植本 大変な状況なんですけど、それが『リア王』の嵐の場面によく合ってるというか。
坂口 どこそこで時代背景とかその人たちの生き方が、うまくお芝居に絡んでくるっていうか。こんなに上手に作れるんだって。すごく思いましたよねぇ。
植本 大丈夫だった? ひひひ。
坂口 すごくおもしろかった!
植本 いつもちゃんと物語になっている戯曲を取り上げるたんびに、編集長大丈夫かなぁって思うんだけど。
坂口 いやいや、ここまで作られたら、こうやっぱりちょっと、素晴らしいって思いません?
植本 思います。構成も、一幕、二幕の分量も、笑いの入れ方も、すごく頃合いな感じで。
坂口 書かれていることは、舞台裏の一瞬に過ぎないけど、ものすごい人生、一般的な、ぼくらの人生にも引き込めるというか、世界感が広い! すごいせまい舞台裏の話なのに、こうイメージとしては人生そのものを見せられているみたいな作りになってるでしょ。
植本 ぼく、俳優なので、バックステージ物っていうのが、多分、一般の方より思い入れがあると思うんですけど、一般の方たちって、どうなんでしょうね。たとえば、『コーラスライン』であるとか、いっぱいあるけど。
坂口 これはスケールが違いますね。
植本 人間関係にしてもね、本当に『リア王』の中のリア王と道化みたいな感じが、座長と、ノーマンっていう、タイトルロールの「ドレッサー」、えっと、衣裳係兼付き人の関係にね、似ていて。
坂口 しかも主人公? ではないか、座長がもうかなりの年で。
植本 そうなんですよ、違う世界に行きかけている感じで。ま、一幕で座長が「無理だよ、俺、今日はできないよ」っていう感じで終始終わってますけど。
坂口 彼は疲弊していて。戦争中だっていういう影響もあって、街で錯乱して病院に連れて行かれたりしちゃう。
植本 そうですね。そこをまあ、抜け出してきて。何って言うんですかね、正気と狂気の狭間なので、「自分は(舞台に)立つ」みたいな感じで戻ってきますけど。でも最初のセリフが思い出せないみたいな。
坂口 で、すったもんだあって、黒塗りを始めちゃう。
植本 『オセロ』の。
坂口 そう、なだめすかして、じゃあ、始めようって、化粧始めるわけですよね。その時に顔を黒く塗り始めるっていう。
植本 黒人のメイクをし始める。オセロのね。
坂口 っていうところから、もうとってもわくわくしますよね。
植本 これ読んでてもおもしろいですもんね。
坂口 ドキドキします。



植本 登場人物が今言った、座長とドレッサーであるノーマンの他に、座長の奥さんがいたりとか、あと舞台監督が女性なんですけど、この方が機械のように動いておもしろいですね。
坂口 みんな座長と微妙な、
植本 距離感ね!
坂口 そう、あれ上手。舞台監督の女性で言えば、昔はすごい座長に恋心っていうか、何かあるんじゃないかって期待を抱いていたけど、20年くらい経っちゃって。今はそうでもない。
植本 そうそう。この主人公のノーマンと同じくらい、座長のことは分かっていて。夫人ももちろん、夫人がコーディリアなんですよね。ははは。
坂口 持ち上げるのがたいへん。
植本 最後、コーディリアが死んで、リア王が亡骸を持ち上げるところがつらい。彼女の体重が昔に比べて増えてるからって。
坂口 でもそれに絡んで言えば、若い女優、
植本 アイリーンっていう人が。
坂口 女優の卵というかね。
植本 うん。
坂口 あんまり上手くない人なのかな。
植本 座長が若い女性の方に気が行くんですけど。若い女性の方もまんざらでもない感じで。何か、いい役がもらえるならいいかっていう感じですよね。
坂口 すごいよね。そこらへんも。もうこのじいさんこの芝居が終わったら死んじゃうわけですよね。でももう、ちゃんと若い女性に対してアプローチしていく、積極的にね。しかも権力をかさにきて。っていうかさ。
植本 あぁ、そうね。セクハラ、パワハラというか。これあれ、問題があったらあれですけど、演劇の世界では普通にありますから。ふっふふふ。
坂口 これもう、絶対書こうね!
植本 あります、あります。
坂口 人間の世界に必ずあるんだと思うんだけどさ。芸能ごとの世界はより多そうですよね。
植本 そうなの。過労死とか、時給換算とかさ。
坂口 え、なに、急に具体的になってきた。
植本 うはははは。
坂口 わはははは。
植本 演劇の世界でそれを言い出したらって言うのがいっぱいあるでしょ。
坂口 しかもこの人はさ、絵空事で書いてるわけじゃないんだよね。
植本 そうなんです!
坂口 自分が劇団にいた?
植本 ドレッサーっていう衣裳係兼付き人を実際にやっていた!
坂口 だから現場の話なんだよね。けっこうね。
植本 しかもその時の座長さんもかなり有名なシェイクスピア俳優で、リア王とかオセロを持ち役にしていた方で。
坂口 だってイギリスのしかるべき演劇アカデミーを出ているんでしょ? この作家の人が。
植本 そうそう。
坂口 だから、ここに書かれてることはけっこう、真実なんだよね。
植本 ついてた座長さんの自伝も書いてるのね。
坂口 その人の話じゃないよって、断ってるけどね。だからすごくリアリティもありますよね。で、座長が「おれ、もうできねー」っていうのを無理矢理なだめすかしながら、本番にもっていくところまでは、おもしろいけど、ちょっと日本ではここまではないなっていう感じはするよね。
植本 あるんじゃないの?
坂口 そうなの?
植本 「今日、わたしできない!」っていう人いると思うなぁ。
坂口 は~。



植本 そんな感じで、一幕が楽屋のシーンが主なんですけど。二幕となると、またね、上演されている舞台と袖と楽屋が一体となって同時進行なんですよね。
坂口 ちゃんとシェイクスピアの『リア王』やってるわけでしょ?
植本 抜粋ですけどね。もちろん。
坂口 ああ。舞台はどういう構造になってるの? 観客席からは、舞台裏が見えてるわけでしょ?
植本 ぼくが観たやつは、下手前が袖で、上手奥が本舞台だったね。あっち向きに芝居してる。袖は袖でこっちを向いて太鼓を叩いたり、嵐のシーンの効果をやったりしていて。舞台を斜めに使っていましたね。
坂口 じゃあ、座長はどこにいるの? 座長の控え室は?
植本 楽屋の方にたぶん。さらにあっちだと思う。
坂口 じゃあこのあれはどこでやってるの? ドレッサーと座長の芝居は。
植本 それはもうここではない、一幕の時はもっと大きく使ってますけどね。
坂口 ああ、あああああ。そうか舞台装置が変わってるわけね。
植本 そうそうそう。でもその同時進行が、この翻訳の本だと、上下二段で書かれていますけど、おもしろいですね。
坂口 おもしろい。それも上手にクロスしている。まあ、当たり前なんだけど。お芝居の進行と一緒に舞台裏の様子が分かって。
植本 袖にはティンパニーが置かれ、嵐を表現するためにね。あと送風機とか。
坂口 そういうの全部見せてくれるわけでしょ? 芝居でも。実際に。
植本 うんうん。しかも登場人物も7人だから。本当にみんなでやってるんですよね。
坂口 だからそう、集中していく様もすごくよくわかる。盛り上がってくると、協力しないって言ってるようなやつまで。
植本 このオクセンビーっていうヤツなんですけど、まぁ、野心家で。役的にも『リア王』だとエドマンドっていう、人を騙す妾腹の役をやっていたりとか、『オセロ』だとしたら、仇役のイアゴーをやってる役なんですよね。しかも足が悪いので、あ、これはリチャード三世を表しているんだなと思ってたんですけど、要は悪役をずーっとやってる野心家の人が、興が乗ってっていうか、その日座長がとてつもなくいい芝居をしていたので、思わず、断っていた袖のね、鳴り物を手伝ってしまうっていう。
坂口 だってあれ、前の場面かな。断る、断り方もすごいステキじゃん。「やってちょうだいよ」って言ったら「やだ」って即答。



植本 そう断るっていって。その座長に対しては、自分で書いた脚本を読んでくれって言っていて。
坂口 あぁ、そうだね。
植本 ま、座長は読まないんですけど。
坂口 そうだよ! そこもすごく素敵だと思った。座長はそんなの読まないで、ほっとけって言ってるくせに、ぼくの出番はあったの? って。
植本 ぼくの役はどんなだ? ってノーマンに聞いていて。悲しい性、役者のね。
坂口 そうそう。そういうニュアンスが随所に出てくる。
植本 道化の役に抜擢された人もそうですね。
坂口 ああ、誰かが具合悪くて出らんない。捕まっちゃったか何かでね。
植本 それでまあなんか滑舌の悪いこの人が起用されるんですけどけっこうなお年でね。で、終わった後に、「自分どうでしたかぁ」みたいな。「できればもうちょっといい役をください、これからも」っていうのが、ちょっと泣きそうになります彼に「ビールをあげなさい」って言って。
植本 ああ!
坂口 ノーマンがあげようとすると、「小さいコップでね」って言う、こう。
植本 編集長、そういうとこ好きね。
坂口 好き! ものすごい素敵な場面だと思うんだよね。座長のね、気持ちのね。
植本 器が大きいんだか、小さいんだかってところでしょ。
坂口 いかにもありそうな感じがすごくしますよ。こうやって表に出てくる人っているよねって思ってさ。楽しかったなぁ。これ読んでて。
植本 なんか、年を取るともっと寛大になるのかなと思うと、全然そうじゃないんだな。



坂口 そうですね。そうですね。この台本を読んでて、人生けっこう悲しいなって感じにはなってこなっかったな。ぼくにとっては喜劇っていう感じだった。それは作者の意図なのか、ぼくの読み方がへんなのか、ちょっと分かんない。
植本 もちろん、最後はその、ずっと『我が生涯』っていう座長が自伝を書こうとしているんですけど。でなんとなく、あれ最初の言葉なのかな、いろんな人に感謝するでしょ? 奥さんだとか、
坂口 あの一緒にやってた俳優とかスタッフとかね。
植本 そして最後にって、ノーマンがやっと自分のことか! 書いてくれるのかって思ったら、「シェイクスピアに」っていう皮肉が効いていて。さっきも言いましたけど、座長とノーマンの関係がリア王と道化に似てるので、最後は道化の歌を歌って、一人でね、ポツンと孤独に歌って終わってますけど。
坂口 そうですね。すごくよくできてるね。ドレッサーのっていうか、人に仕える、受け入れられなさみたいなもの。自分の気持ちがなかなか人に受け入れられない。こんなに献身的にやってるのにって言うのは、分かるけど。分かるけど全体の流れとしては、そんなにそのことに思いがいかない。
植本 それは、あれなんじゃないの? あなたが編集長だからじゃないの?
坂口 偉いから? ははは。
植本 長がつくから。
坂口 ははは。献身してるやつなんか、いねえよ。そんな!
植本 世の中の、たとえばさ、家を守ってる人とかさ、誰かを守るために働いている人とかさ、上司のため、社長のために働いている人は、うんうんって思うんじゃないの?
坂口 結局、自分のために働いてるって、みんな。自分のことしか考えてないよ。
植本 まぁね。なんでそのね、ノーマンっていう、ドレッサーの役の人が献身的っていうか、こんなにフラフラになって倒れそうな座長を舞台に押し出していくのか。何でだろうね? とは思うけど。
坂口 そうですね。ま、とりあえず中止にしてもいいわけじゃん。
植本 うんうん。
坂口 要するに座長も、錯乱して病院に運ばれていくような状況なわけですよね。それは自分で帰ってきた訳だけど。なんで、彼がそんなにこだわるのか。彼の存在、
植本 意義だね。
坂口 これやんなかったら、おれは何なんだっていうようなことですよね。
植本 そうそうそう。



坂口 評論家に対する悪態みたいなのもすごいステキだったな。なんか。あんなやつらにはかまうなって座長が言いますよね。
植本 日本よりも批評家の立場が強いですからね。
坂口 それは批評対象に対しておもねらないからだよね。日本だって昔はあらゆる分野の評論家がもっと尊敬されてた。
植本 絶対書いてね。ふはははは。
坂口 はははは。
植本 最近だと、ノーマンは誰がやってるのかなぁ。西村雅彦さんとか、大泉洋さんとかかな?
坂口 そうだね。じゃあ、座長は?
植本 橋爪功さん、とか。
坂口 小っちゃいね。
植本 たっぱ?
坂口 そう。
植本 やめて。そういう役者さんに小っちゃいねとか言うの!
坂口 背の大きさだって。大きい人がやるもんだと思ってしまっていて。
植本 平幹さんもやってらっしゃいましたね。
坂口 へー、けっこう日本でもやられているのね。
植本 書かれてる翌年に、日本初演っていうのは、プロデューサーさんの鼻、っていうかすごいなと。日本でこれだけだと、全世界に一気に広がって行ったんだろうなって思いますね。だって2年向こうではロングランしたって言ってて。
坂口 あ、そうなんだ。ま、これはやりやすいといえば、やりやすいよね。シェイクスピアだし、出る人数も、限られてるし。2人、しっかりした俳優がいないと困るけど。
植本 ひはははは。
坂口 それに尽きるでしょ。回りの配役も重要だけどね。これおもしろい台本だったよなぁ。



植本 これあのー、ノーマンっていう役をやってみたいですね。
坂口 そうだよね。そうだよね。
植本 平幹さんみたいに両方やってみたいとは思いませんけど。座長の方は無理だと思うんで。
坂口 じゃあ、どうすんの?
植本 ノーマンの役をやってみたい、いわゆるこの演劇界、2の線で行っていない人たち(笑いながら)はみんなやってみたいんじゃないかな。
坂口 ああ、そうなんだ! そんな誰でもできるわけでもないよね。けっこう複雑な感情を表現できないと困るし。強いところは強いし。
植本 軽快さは必要。ノーマンっていう役で言うと。軽快さとか、あとは何て言うんですか笑いの感覚とか。
坂口 そうですね。ただ座長にうまく取り入るとかそこでの対応だけじゃない、
植本 弱さと強さがないと
坂口 存在の哀しみみたいな物が出てこないと、芝居が成立していかないじゃん。まぁ、みんなについて、そうなんだけど。とってもいいね。じゃあ、改名もしたしやるか!
植本 ひひひひひ。
坂口 そんとき誰なの? 座長は? 指名でいいよ、どうせ実現しないんだから。
植本 じゃあ、大谷亮介さん。わははは。
坂口 加納幸和さんじゃないんだ。ははは。
植本 わははは。加納さんやだよ!
坂口 なんで加納さんいやなの?
植本 加納さん近すぎて。
坂口 話題性もあるじゃん。花組芝居特別公演にしたら。
植本 ああ。
坂口 特別公演でさ、『ドレッサー』でさ。役者揃ってるじゃん。ほかのひとも。
植本 そしたら、おれに、このノーマンの役が回ってこない気がする。
坂口 わはははは!
植本 うちの劇団でやったら。
坂口 いやそれは、「これやんなきゃ辞める」とか言えばいいんだよ。
植本 わはははは! なんでそんな! おれそんな強くないのに。なんでそんな。
坂口 だって、あんた、一世一代。改名して。
植本 そしたら、「どうぞ」って言われちゃう。わははは。「どうぞお引き取りください」って言われるし。
坂口 しょうがないね。


植本 潤

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うえもとじゅん岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。


【出演情報】

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花組芝居『いろは四谷怪談』
脚本・演出◇加納幸和
出演◇花組芝居役者連 ほか
8/26〜9/8◎ザ・スズナリ
http://hanagumi.ne.jp/


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坂口眞人

さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

(文責)坂口眞人



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石原美か子「うちに來るって本気ですか?」

うちに

植本 本日は、『うちに来るって本気ですか?』。これ、ほんきでいいんですよね。マジじゃなくて。
坂口 ははは。
植本 これさぁ、えんぶさんから出してますけど、編集長好き? こういうの。
坂口 シチュエーションコメディっていうこと? おもしろいのは好きですよ。
植本 分かりやすいからさ。話としてはね。
坂口 分かりやすいから嫌とかは全然ないですよ。
植本 なんでこれを選んだのかなって。でもこれあれなんだってね。高校の演劇部とか大学の演劇サークルとか。あとテアトル・エコーさんを始め、全国の劇団とかでもすごい上演されてるんだって。
坂口 これうちのヨムゲキシリーズなんですけど、最初に売れる部数はともかくとして、後からくる注文としては、売れてるんです。
植本 ドル箱なんだ、これ。
坂口 いやいやいや、いまだに初版を売っているわけですからね〜。
植本 書いてあったもんね。年間に10何件、上演許可の問い合わせ電話がかかってくるって。こんな財産持ってるんだ。えんぶさん。
坂口 だから、儲かりはしないって。
植本 あ、そう。



坂口 うち、昔、演劇ぶっく社でアートのサイトを作ろうと思って、見事に失敗したんですけどね。
植本 それ知らないもん。
坂口 いきなりですみません。それが下地になって今に、演劇キックという立派なサイトができているという、背景は一応、説明しておくとして。当時その中で、戯曲をというか、単行本も売りたいなと思って。コンテストをやったんですよ。
植本 ああぁん。
坂口 そのときは演劇が得意だったから。戯曲のコンテストをやったんです。
植本 そのときは演劇が得意だったから? ははははは。
坂口 そうそう。演劇の会社だったからね。そんで、これが1番になった。
植本 え、あれを狙ってたんじゃないの? 岸田國士戯曲賞みたいな。
坂口 んなもん、狙うわけないじゃん!
植本 だって、だって。へへへ。
坂口 まぁ、これ1回で終わっちゃったんですけど。
植本 あー、そうですか。
坂口 サイト自体が大変なことになっちゃたんで。そういう曰く因縁のある。



坂口 内容としては5人の兄弟。中産階級の。
植本 ははは、「中産階級」。そんな言葉が出てくるとは思わなかったな。
坂口 それなりに、なに。
植本 まぁ、そうですね。お金がすごくあるわけでも、ないわけでもない感じ。
坂口 一戸建ての近郊の。東京? 都心、都心じゃないね。悪くない場所の。
植本 一軒家なんですよね。
坂口 はい。
植本 庭があってっていう、
坂口 家に住んでる。

【登場人物】
御殿場 縁(長女 29歳 中小企業勤務)
御殿場 太一郎(長男 27歳 ミステリー作家)
御殿場 真琴(次女 24歳 大学院生)
御殿場 忍(次男 22歳 大学4年生)
御殿場 百子(三女 19歳 浪人生)
蝮田 聖巳(28歳 フリー編集者)
相良 不見夫(29歳 縁の紹介相手 保父)
※編集部注


植本 兄弟が5人で、そこに直接親は出てこないんだけど背景として、寝たきりのおじいちゃんがいたりとか、お母さんがいたりしますけどね。
坂口 居間でのシチュエーションコメディですね。5人は、
植本 女性3人と男2人ですね。
坂口 一番上のお兄さんが小説家、
植本 くずれ?
坂口 もどき。がいて。二番目が女の人になるのかな?
植本 え〜とね、うんん。長女がね、29歳なのさ。御殿場縁(ゆかり)さんっていう中小企業勤務の人がいて、次が長男のミステリー作家がいて。で、修士論文の締め切りが迫っている次女の大学院生。振られたのと就活で混乱している次男の大学生4年生。座敷童が見える三女浪人生っていう。
坂口 揃ってますよね。
植本 まぁ、何ていうの? その人たちと訪問者2名が入れ替わり立ち替わりする中での、人間違い。ざっくり言うとね。
坂口 そうですね。それがわりと読んでると腑に落ちるというか、上手に作ってあるなぁって。
植本 ぼくが言うのもなんですけど、お上手です。
坂口 その勢いさえ上手にお芝居を作っていけば、おもしろいものになるなと思ったんですよ。
植本 ぼくも思います。
坂口 で、ただその、何だろう。ちゃんと途中から異物というか、2人、勘違いをするお客さんが入ってきますよね。
植本 そうなんですね。あのー、なんていうの。家に来るはずの人が、2人いるんですけど、それが人違いで。上手く言えないけど。取り違えてるというか、受け手(家族)がね。
坂口 そうですよね。で、その中でさらに、その2人に曰く因縁があるというか。
植本 過去にね。
坂口 そうそう。過去にもあるし。本人たちも何か。何かを持ってる。何ですかね。一人は小説の締切を守らせて原稿を取ってくるのを請け負う立場の人。フリーの編集者が入ってきて、もう一人は長女の、
植本 婚活の、
坂口 相談所!
植本 そう、結婚情報サービス。
坂口 の、パートナーというか、ちょうどうまく出会った人。っていう、その2人が入ってくるんですけども。それが、とり違えられて。
植本 しかも男と女なのに取り違えますからね。
坂口 はい。そうですよね。でもそこのところはちゃんと理屈をつけて、上手に作ってあるんですね。知っている人が電話してて見てないとか。
植本 ふははは。はいはい。
坂口 作ってあるんだけど、やっぱり勢いで行っているから、もしかしたら、作り方によっては、そこらへんで混乱するかなと。
植本 そうそう、だからね、これよっぽど設計図をきちんと書いて、演出のときにやらないと。破綻をきたすかなと。
坂口 何回もやってみて、ああ、ちゃんとこれで分かるねっていうところで提出してくれないと、けっこう、最後の方はただただわーわー言って終わっちゃうっていうことも出てきちゃうかもしれない。それはそうとしてさ、この5人の兄弟が、わりとかわいらしいなと思っていて。5人の兄弟+座敷わらし。
植本 座敷わらしは実際に、いる体でね。



坂口 それぞれキャラクターが立ってるというか、5人の会話がなんかちょっとほほえましく思えてくる。そこがけっこうなポイントだなと。
植本 そうですね。あのー、仕掛けもあるし、見えない座敷わらしを三女が手で扱うっていうのもあるし。あとトラップもあるでしょ。
坂口 そうそう。お兄ちゃんが推理作家で、自分の家に、
植本 いたずらに近いトラップがいっぱいあるんですよ。なんかそこを通るとロープに絡まってしまうとか。
坂口 とか、長女がもう結婚できないかもしれない、みたいに思ってるのに、ここでうまく出会っていく慌てぶりとか。それがメインの話なんですけどね。
植本 高校演劇とか、大学のサークルとかでやったときに、ま、友達同士じゃないですか。
坂口 はい。
植本 関係が作りやすいだろうなとは思いました。
坂口 なんかときどきに上手いつっこみっていうのかな。直接ストーリーには関係ないけど。
植本 関係性を表す。
坂口 上手にセリフが入っているから、観てる側はそれでけっこう和んでいく作りになってると思うんですよね。登場人物に親しみがわいてきますよね。



植本 こういうシチュエーションコメディ。上質なね。こういうの求められてるんだと思いますね。
坂口 これは、普通のところでも全然できると思うんだよなぁ。
植本 印象としては、『おそ松さん』とか、最近ありますけど。深夜のアニメっぽいんですよ。
坂口 『おそ松さん』ってなに?
植本 『おそ松くん』のちょっと大人になったときを描いている。
坂口 ちょっとやだね。
植本 大人気なんだよね。
坂口 そうなんだ〜。
植本 深夜のテイストがすごい匂ってきますね。
坂口 最近作品のチョイスがね、有名な人が書いたものとか、人気のある原作ものとか、そういうとこにいきがちですけど。こういうのを丁寧に、上手な俳優、おもしろい人がやれば、なんかもうちょっとまた別の演劇のお客さんっていうのかな、が開拓できるような気がするですよ。
植本 そうね。それこそシアタートップス。新宿にあった時代に、会社帰りの人が。
坂口 カクスコとか東京サンシャインボーイズとかね。
植本 そうそうそうそう。観に行ける感じの。お芝居。
坂口 そうですよね。というのが今はあんまりない? ない? ぼくの勘違い? でもやっぱりそういうところがちょっと乱暴になってる気がするですよ。
植本 うん、うん。



坂口 なんですけどね。そういうのがあるといいなぁって思いつつ、これを読んでいたんですけどね。
植本 いや、でも、こういうのが上演され続けるのはすごい大事だと思いますよ。何ていうの。本当にいろんな演劇があるので。わけ分かんなくておもしろいのは、それはそれでいいと思うし、こういうのがあっていいと思うし。
坂口 というわけで、くどいですけどこれはうちのヨムゲキシリーズです。
植本 噂でこの作品が、なんかいいなと思ってる人は、あ、えんぶが出してるんだって思って、紀伊國屋とかに探しに行くわけでしょ?
坂口 うん、でももう、たぶん、どこにも売ってないんじゃないかな。
植本 はははははは。
坂口 一時、全部引き取ったから。ネットでしか売らないっていうふうにして。だから今、たぶん、これヨムゲキをどっかで売ってるってことはほぼないと思う。
植本 あれ、紀伊國屋もないっけ?
坂口 ないと思いますね。なんで、ホームページから買ってください。
植本 演劇キックのここにあるやつ。そっか。
坂口 でもまあ、あれですよね。また、“えんぶ勇気のあるシリーズ”になるけど。なかなか立派なもんですよね。
植本 ふははは。そうだよ!
坂口 当時は無名なわけだからさ。
植本 何が当たるか分かんないでしょ?
坂口 へへへ。うん。こう、何、ヨムゲキのなかには今をとときめく人たちがいっぱいいるわけでしょ。宮藤官九郎さんとか、平田オリザさんとかさ。そういう中で、ぽこんとこういうのがあるっていうのがね、ちょっと楽しいかなと思って。
植本 だって、実際、これ売れてるわけだからさ。
坂口 そうね。ふふふ。売れてるっていってもね。
植本 ひはははは。
坂口 くどいけどさ。
植本 いやいや。
坂口 ほかのが売れなすぎるって。
植本 なかなか。だってさぁ、ご本人が演出した場合が一番おもしろいだろうなって思う戯曲もいっぱいあるじゃない。これはそうじゃないから。可能性がいっぱいあるんですよ。演出家さんによって。
坂口 なるほどね。
植本 そこじゃないですかね。やっぱり、やろうと思う人が多いのの、理由の一つは。
坂口 そうですね。
植本 松尾スズキさんのやろうと思ったときに、松尾スズキさんよりおもしろく、しかも若い世代の人ができるかって思うじゃない?
坂口 う〜ん、そうですね。確かに。
植本 この本にはそんな可能性がいっぱい詰まっているわけです。
坂口 じゃあ、ぜひ。あの、
植本 ネットから。はははは。



植本 これね、本当にね、さっきも言ったけど、こういうのをやると鍛えられると思うよ。
坂口 おおー。なるほどね。それは。
植本 一つの答えに向かって。
坂口 何? みんなが一つの目的に向かいやすいからっていうこと?
植本 目的っていうか、正解。正解に向かいやすい。
坂口 正解っていうけど、正解? もうちょっと砕いて言うとどういうこと?
植本 この笑いはこうしないと起こらないっていう、そのおもしろさを最大限に引き出すための。このセリフとか間はこれじゃないとダメだとかっていうのは、わりと正解があると思いますよ。
坂口 ほああー、なるほどね。ま、考えたことないけどさぁ。
植本 いやいやいや。
坂口 だからみんな言うのか! 今日は上手くいかなかったとか。上手くいかない日があるとか。
植本 それはいろいろなんじゃない? それはいろいろあると思う。相手役と2人の関係のときもあるし、お客さんに左右されるときももちろんあるし。なんで? 昨日とこんなに違う客層なの、雰囲気なのって思うときよくあるじゃないですか。
坂口 それ、ぼくら1回しか行かないから、その時しか分かんないですけどね。ふーーん。そうかぁ。
植本 でもこういうのは、お客さんに左右されてる場合じゃない本の一つだと思うので。
坂口 はあ。
植本 構築していかないといけないから。
坂口 だから、今、ここまで勢いがあるっていうのかなぁ。なんかけっこう無理くりなシチュエーションコメディを作ろうって思う人はあんまりいないかもね。みんな安定してきちゃったし。こういうの作ってた人たちも。
植本 はいはいはい。ベテランの域にさしかかり。
坂口 そうそう。そういう人たちがもうほとんど、ね。もうちょっと落ち着いた作品に。
植本 当然の変化なんだけどね。
坂口 まぁ、自分の年齢や時代に合わせて変わっていきますからね。そういう意味では、これはちょっと。これも昔作った本なんだけど、おもしろいかなぁ。
植本 えんぶさんが出す本の中では異質ですね。
坂口 そう、ですかね。
植本 ふふふふふ。
坂口 でもみんな。狙いどころとしてね、若い人がね、もうちょっとこっちをやってもいいんじゃなかなという気はすごくするですよ。はちゃめちゃなシチュエーションコメディっていうか。丁寧なんだけど、はちゃめちゃ。そこらへんを睨んで頑張ってみてもいいかなぁって思って。
植本 分かりますよ。こういうのが上手にできる若い俳優さんたちは、そこからの、たとえば外部への出演とか、映像への出演も増えていくでしょう。
坂口 そうですね。僭越ながら、頑張れって思いますよ。
植本 こういうのがね、上手にできる人はね。
坂口 上手にできるためには、いろんなことをしないといけないとは思いますけどね。



植本 潤

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うえもとじゅん岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。


【出演情報】
こまつ座『イヌの仇討』

チラシ-thumb-262xauto-427
作◇井上ひさし
演出◇東憲司
7/5〜23◎紀伊國屋サザンシアター

こまつ座 http://www.komatsuza.co.jp/

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坂口眞人

さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

(文責)坂口眞人



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デール・ワッサーマン『カッコーの巣の上を』

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植本 『カッコーの巣の上を』。小説を戯曲化したものですね。
坂口 あまりにも映画で有名ですね。
植本 そうねぇ。ジャック・ニコルソン主演、ミロス・フォアマン監督。
坂口 アカデミー賞とか。
植本 あの印象が強いよね。
坂口 なので、なんともそっちの方にイメージが行っちゃいますけど。
植本 もともとケン・キージーの小説が最初。1962年に小説が書かれて、翌年の63年にはデール・ワッサーマンが脚色して劇化、
彼は「ラ・マンチャの男」も書いてますね。そして映画が75年かな。
坂口 けっこう映画化までに時間が経ってますよね。だから映画で言うと、『俺たちに明日はない』とか『タクシードライバー』とかの。
植本 アメリカンニューシネマの頃です。
坂口 あのへんの一連の作品ですね。だからアメリカの傷口みたいな、ちょっと弱っちゃってるところを描くみたいな。



坂口 アメリカ北西部の精神病院での出来事ですね。
植本 ぼく2回舞台やってるんですよ。
坂口 あ、なんだ。そうなんだ!
植本 1回目は、吉田鋼太郎さんがマクマーフィの役で。その何年か後に、亡くなった今井雅之さんが同じ役で、ぼくは両方ともビリーっていう役なんです。
坂口 死んじゃう役ですね。
植本 そうそうそうそう。
坂口 あれ、なかなかいい役ですね。
植本 そうですね。
坂口 マザコンの。
植本 患者たちの中でも描かれてる部分が多いので。
坂口 そうですか。それはそれは……。今回はいきなりハンディがついてますね。
植本 いや、でも改めて読み返してみると、「いい作品だな」と思って。それぞれの役に特徴があるし。
坂口 ぼくの印象としては、ものすごいストレートな話で。
植本 ちゃんと物語なので。
坂口 ちょっと苦手だなと思いました。小説はインディアンのチーフという名前の人の目線で書かれているらしくて。生活していた場所を、お父さんの代で追われて、迫害を受けているっていうのかな。家庭内でもいろいろあって、自閉的になっちゃって精神病院に入っている。でっかい男の人の目線で書かれたのが小説。
植本 戯曲化されてもそのモノローグっていうか、口をきかないので、実際、インディアンのチーフ・ブロムデンという人。ナレーション的に音声で入ってきますけどね。



坂口 精神病院での患者たちと婦長と、病院側の人、婦長がメインになるんですけど、あとちょっと医者と看護婦と看護人、最後の方で夜警がいろんな階層を代表するようなイメージで出てきますけど、あとは患者が7人。病院の日常の出来事の、
植本 その中に外から異物が入り込んでくるという構成ですね。
坂口 美人で色っぽい40代の婦長がいて。その人が実質この場所の権力者。
植本 ま、支配している人ですね。
坂口 それで、この当時のやり方で、精神病を治療していこうということで、いろんな集団ミーティングみたいなこととか。
植本 集団療法ね。
坂口 そのやりとりがメインになっていきますね。その中でそれぞれのキャラクターが紹介されていくのが前半ですね。ご自分で演じられていると、どういう感じですか。
植本 ぼくやっぱり一番驚いたのは電気ショック、最後の方にはロボトミー手術というのが出てきますけど、「あ、実際にたくさんやられていたことなんだな」と思って。
坂口 そうですよね。
植本 60年以前、50年代とか40年代とか。
坂口 つい最近まで。
植本 はい。
植本 本当にすごい乱暴者に対して手術をして廃人にさせてしまうというのが。
坂口 でも懲罰と言う言葉は使わないで、「あなたのために治療をする」っていう上で酷いことをやる。このニュアンスは今でも健在ですよね。



坂口 でもこれあれですよね。一幕目とか読んでると、リズミカルにいろんな小さい事件を起こしつつ、みんなの紹介をしていくっていうのがあって、気持ちよく読んでいける感じがします。
植本 本当にみんな、個性的っていうかキャラクターがはっきりしているので、どの役もおもしろい、患者の役もおもしろいと思いますよね。
坂口 そういう意味ではキャラクターが立ってる。
植本 でも演じる側としては、そこで必ず葛藤があると思うんです。たとえば身体が不自由な人のお芝居を演じなきゃいけないときとか、やり過ぎてもいけないし、やらなすぎてもいけないっていうのが、これ永遠の命題かなと思うんだけど。
坂口 植本さんのビリーも「やり過ぎてはいけない役だな」と思ったですよ。吃音になったりもしますよね。きっとちょっとおどおどしたりもしてるんですよね?
植本 そうですね。もちろん、どっかでは失礼があってはいけないっていうのはあるし、あと、オーバーアクトになってはいけない。でもね、自分でストップかけちゃうと、そこで終わっちゃうので。
坂口 ああ。
植本 あるからね。
坂口 演出者などがチェックしてくれるんですね。
植本 そうですね。あと兼ね合いで。多少オーバーアクトにしても大丈夫な役もあるんですよ。人には見えていないものが見える役のマーティニとか。は、けっこう大丈夫なんじゃないかなと思うんですけど。あとは爆弾を作るスカンロンという役とか。



坂口 そういうことで言えば、主役になっている、
植本 マクマーフィ。
坂口 乱暴者で、戦争、朝鮮戦争の退役軍人? で勲章とか。
植本 そうなんですよ! 戦場ではいっぱい勲章をもらって。
坂口 世の中に出てきたら折り合いがつかないで。
植本 そうそう。何回か喧嘩をして刑務所に入れられるんだけど、強制労働が嫌で精神病を装ってこの施設に来ますね。 
坂口 そういう意味では正常?
植本 そう。
坂口 正常なんですね。
植本 社会的には不適合っていう烙印を押されてる。
坂口 それは永遠のテーマですよね。戦争は人を殺して褒められる社会だから、世の中は真逆だから。その折り合いをつけるのはなかなか普通の人間では辛いですよね。永遠のテーマをはらみつつ。戯曲では婦長が管理する側のシンボル。でマクマーフィがそれを逸脱して行こうとする、
植本 自由の象徴的な存在ですね。
坂口 それでずーっと進んで行くんですけど、その中でマクマーフィと婦長のキャラクターがとても強烈に描かれてるっていうか。何て言うんですかね。
植本 婦長さんも難しいでしょ。ただの悪人になっちゃうじゃないですか。きっとそうでもないんだろうし。
坂口 これ読んでるだけだと、いやなおばさんっていうふうに見えちゃいますよね。マクマーフィの方も結構うっとうしいおじさんって思っちゃうから。そういう意味ではチーフ、領地を追われたインディアンの目線で書かれた小説っていうのが一番接しやすいのかなと思いました。これ一番読んでみたいのが小説で、二番が映画、最後が演劇かなとちょっと思いました。



坂口 二幕目になると疑似のバスケットか何かを患者たちが。
植本 ああ、あとテレビね。
坂口 それは一幕目の終わりだね。
植本 あ、そっか。
坂口 権利を主張する、マクマーフィとか。
植本 夜しかテレビを見れないんですけど、昼にワールドシリーズをやってるから見せろって言うと、当然婦長さんは却下して。多数決で決めようっていうときに、数が足りなくてマクマーフィがチーフに「お前も上げろよ」って言う。「あーやっぱり上げないな」とみんながガッカリしてると手をゆっくり上げ始めている。ちょっと感動的でしょ?
坂口 随所にチーフの心が動いていく感じが見えてきて。彼がしゃべり出す時とか、ものすごく心を奪われるっていうか「お、いいぞ」って。だから彼に感情移入をついしちゃうんだけど、そんなことないの?
植本 いや、あると思いますよ。もちろん。大きな構想の中ではさ、アメリカの歴史の中でインディアンが土地を追われてるのと、たぶん、これが重なってるんだろう。精神病院に入れられる、隔離っていうことでいうとね。
坂口 原作者もそこが書きたかったのかなぁと。



植本 これね、一幕か二幕か忘れたけど、あれが好きなの。「ぼくたちは拘束されてないんだ」っていう。患者たちが「自由意志で入ってる」
坂口 半分以上の患者たちが。そんなのありなの?
植本 そうなんだね。さっきもちょっと言ったけど、社会とちょっと合わなくて、不適合っていうか社会と合わなくて自分から入って。例えばハーディングだと奥さんと合わなくて、ちょっとゲイ疑惑のある。
坂口 でもそれもさ、自分一人の意思じゃないんよね。家族とか地域の雰囲気とかの中で、自分が進んで入らざるを得ないような状況になってるんだろうと思うんだ。でも彼ら、自尊心もたくさんあるから「入れられた」というよりも、「自分から入った」ということを言っているような気がしますよね。全然話が、あれだけどさ、ミシシッピーの話があったでしょ? 最後、気違い病院に連れて行かれちゃう。あ、気違いって言っちゃいけないね。
植本 ハハハ。これじゃなく? 映画?
坂口 芝居。文学座とかでやってたやつ。
植本 ああ、欲望(『欲望という名の電車』)?
坂口 そうそう! 「欲望」の最後で連れて行かれるよね? もちろんあれは女性ですけど、時代的にはこういう時代なのかな。
植本 あーーー! どうなんだろう?
坂口 あれも戦争から帰ってきた人が出てきたけど。あれは前の戦争だね。
植本 ニューオリンズだっけ?
坂口 場所や状況こそ違うけど、ぼくはそのときにふと思って。「彼女もこういう事情で精神病院に入れられちゃうのかなぁ」と思ったりして。ちょっと人ごとではなかったですね。
植本 ふふふふふ。
坂口 だって、彼女切ないですよね。見てて。
植本 あの、ブランチね。虚言で、嘘を塗り固めて自分を守っていく。なんで他人事じゃないと思うの!? おれあんまそんなこと思ったことないけど。そうなの?
坂口 それは、その……一歩間違えば、ブランチかなぁって思ったんで。
植本 この頃のアメリカって、黒人運動もあるし、インディアンの解放運動もあるし、脱宗教みたいのがきっと。ヒッピーも出てくるからね。とか。
坂口 小説の方でいうとまさにそうだし、映画もタイムリーな時代に作られているんですよね。



植本 誰かが書いていたんですけど、マクマーフィをイエス・キリストにたとえるならば、最後に密告するのがビリーっていう。「誰にやられたの?」「マクマーフィ」と答える姿がユダに例えられるだろうって。インディアン、チーフが最後に窒息させるんですよね。ロボトミー手術をされたマクマーフィを枕で。
坂口 そうですね。
植本 それを「ロンギヌス」って言ってましたね。
坂口 なにそれ?
植本 「ロンギヌスの槍」って言って、磔になったキリストを槍で刺す人ですね。盲目なんですよね。血を浴びて目がみえるようになったとかっていう人らしくて。
坂口 それはあれだよね、最後にキリストが死んでいるかどうかを確かめる人だよね? あ、それで目が見えるようになったんだ。
植本 なんだって。チーフも耳が聞こえないっていう設定だったり、そこを重ねてどなたかが書いている。ふーんって思って。



坂口 なるほどね。そういうふうに言ってくれると、ちょっと「あああー、そうか」って。彼を見るに堪えないで殺しちゃうというのはすごく分かるんですけど。
植本 人形のようになったマクマーフィをね。
坂口 それを見ているのはすごくいやだって。その、そこの前後の過程でさ、なんか、何て言うんですかね。マクマーフィがなんか簡単に負けちゃう。……簡単に負けちゃう。それがちょっと、自分的にはいやですね。さらに言えば、チーフも出ては行くけど、この先ただつらい思いをするような気がしますもんね。
植本 みんながいろいろ思うんだけど。たぶんチーフも大変なことの方がいっぱいね、待ってるんだろうなと。
坂口 そういうことでは、救いがないと言えば簡単だけど、それを越えて、看護婦長にマクマーフィがそんな簡単に負けちゃうのは、いくら物語の上とはいえぼくは見たくはないんですね。だからとっても気持ちの悪い幕切れ。だったな。
植本 カッとして婦長の首を絞めて、後ろから警備員たちに殴られて気絶して、ロボトミー手術をされちゃうというストーリーなんですけど。
坂口 それがリアルと言えばリアルかもしれないけど。
植本 脱出し損ねたっていうことですもんね。酔っ払っちゃって、気づいたら朝になっちゃってたっていう。「あああ!」ってみんなが思うところですよね。「あああ!機を逃しちゃった」っていう。
坂口 そのまぬけさも含めて。人の良さと、一時は気の弱さみたいのも出てたり。でも突っ張って突っ張って頑張って行くわけじゃないですか。あのお芝居で観客が共感していくのは彼! 彼、がんばれ! ってずっと思って観ていくと思うんですよ。
植本 そうね。テレビのところでも最初の多数決だと、何人かしか手を挙げないので、ほかの患者を責めるときに、「おれはやってみた」「おれは挙げてみた」「おまえ達はなにもしなかっただろ」と。なるほど主役のセリフだなと思った。



坂口 だからさ、はしご外されちゃったみたいで、読み手としてはね。映画だったらぼくはいいと思うんです。映画ならオッケーだけど、芝居でそれは嫌なんだな。何でなんだろう?
植本 演劇だと説教くさくなる?
坂口 う〜ん。か、何なんですかね。同じエンディングでも映画はオッケーだけど、芝居はいやだすごく思いました。
植本 演出家さんが変わってもダメかねぇ?
坂口 それは分かんないけど。ぼくはこのままだとあんまり見たくないなと思いましたね。
植本 その何ていうの、精神病院っていうのも、今のイメージとちょっと違うっていうか。心療内科みたいのとはちょっと違うじゃない? それこそロボトミーとか出てくるとどんだけ恐ろしいところだ!って、ね。
坂口 そうですよね。だけど、『時計仕掛けのオレンジ』とかもあれだけど、そんなにさ、こんな風に陰惨な形では出てこない。「うぁーやられちった!」みたいなさ。出てくるけど。そうね。今やるのは、どうなんだろうな……。やっぱりちょっと。
植本 今さ、端的に言っちゃうとさ、これ戦争が終わった後の話じゃない。今、戦争が始まるかもしれないという時期だからちょっとずれてるのかもしれないと思うのね。日本でもいたでしょ? 戦争から帰ってきて、ちょっと廃人になってる。
坂口 いっぱい居ましたよね。



植本 今日さ、対談して、戯曲もざーっと読めるし、物語だから読んで欲しいんですけど、映画もね、おすすめなんですよ。精神病院をみんなでバスで出かけて、釣りに行くっていうシーンがあって。あれ、たぶん、映画オリジナルなシーンなんですけど、みんな楽しげで。これは劇だから、精神病院内で終わってるから。そこが映画と演劇の違いでおもしろいと思ったんですよ。
坂口 これ! 映画ですよ。映画観た方が何倍もおもしろいと思うな。自分はね。自分は。なんでこんなに、別にけなしている訳ではないんだけど、久しぶりに読後感が。
植本 気持ちが悪かったの?
坂口 うーん、なんか「この終わり方かい!」っていう風にちょっと思っちゃったんだなぁ。…それはぼくの至らなさっていうか。
植本 いやいやいや、いろんなことを経験なさっての上での発言ですから。
坂口 年取ってくると、ぼくあんまり、自分を「年取ってくると」とか言わないんだけど。
植本 言わないね。
坂口 年取ってくると、やっぱりそれなりの多少光が見えたり、ハッピーエンドとまではいわないけど。
植本 ああー、一筋の光?
坂口 何かが欲しくなるかもしれない、ね。
植本 ふふふふ。そうなんだ!
坂口 ちょっとそうなのかもなーって思いますね。うん。…なんで。だからいろいろ思いました。



植本 今日のまとめとしては、「まずは映画から入れ」はははは。
坂口 映画観ればいい!
植本 はははは。おかしいよね。演劇の企画で。はははは。
坂口 んーーーーーーー。でも今の時期に両方あるとしたら、もうやってないけど、どっかで観ることができるわけでしょ?
植本 もちろん、DVDでも観れるし、あの映画のファンも、わりと若い人もあの映画は観てる人が多いんだと思うんだよね。
坂口 うーーーん。
植本 もしまだ観たことのない人がいたら、ぜひDVDを。いいのかそれで!
坂口 あと、小説ね。小説も読んでみて。
植本 編集長の意見ですからね。
2人 わはははは。



植本 潤

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うえもとじゅん岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。


【出演情報】
こまつ座『イヌの仇討』

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作◇井上ひさし
演出◇東憲司
7/5〜23◎紀伊國屋サザンシアター

こまつ座 http://www.komatsuza.co.jp/

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坂口眞人

さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

(文責)坂口眞人



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