長谷川伸『瞼の母』

Shin_Hasegawa

植本 長谷川伸『瞼の母』。なぜこれを?
坂口 映画ですね。中村錦之助主演で加藤泰監督のすごくおもしろい映画があったんですよ。
植本 あ、僕DVDで観てます。
坂口 木暮実千代がお母さん役をやって、中村錦之助の忠太郎がかっこいい。
植本 かっこいいね。キラキラしてるね。
坂口 任にあってるっていうか、早口で上っ調子の声と、切ない顔のすてきな中村錦之助がいてね。
植本 加藤泰監督って割と実験的なものを撮ったりする監督でしょ?
坂口 以前このコーナーでやった福田善之の『真田風雲録』をミュージカルで作ってますね。僕は加藤泰監督の任侠ものが大好きで、けっこう観てたんですよ。
植本 おー!俺のなかではこういう任侠モノと編集長はあんまり結びつかないんだけど(笑)。
坂口 70年頃とかに観たんですかね。池袋の文芸座とかでオールナイトでやってたりとか。
植本 一晩で名作が4、5本かかってるやつね。
坂口 そのあとで藤純子の『緋牡丹博徒』がね、何作かが彼の作品なんですね。どこを切り取ってもすごいかっこいい絵面で、しかも情感が激しく伝わってくる。ワクワクしながら観てました。


植本 すごく迷ったんです。『一本刀土俵入り』と『瞼の母』どっちにするって編集長に言われて。どっちも良いですけど。なんとなく『瞼の母』に。映画も観たことあったし。あとね2時間ドラマで一場面を演じたことがあるんです(笑)、お母さんのほうね。
坂口 あっはっはっはっは!
植本 ほんとに一場面ですよ。劇中劇みたいなね。それで思い入れがあって。でも戯曲として読んだときに編集長どう思うのかなって。
坂口 ヤクザのいいっぱなしのセリフみたいなのが好きですね。まあまあ、話をおっていくと、
植本 わりとシンプルですよね話自体は。
坂口 主人公の名前は…番場の忠太郎。どこ、関西?
植本 近江ですかね。よくわかってないんだけど(笑)。
坂口 お父さんが旅籠屋をやってるんだけど生活が乱れてて、五歳でお母さんが出て行っちゃう。
植本 多分暴力だったり、放蕩だったりっていうことなんですかね。
坂口 それでお父さんも12歳で死んじゃう。で、母を訪ねて諸国を巡っている。
植本 やくざになってね。
坂口 場面の最初は、千葉のほうの親分たちの諍いがあって、それに関わっていて、男友達と逃げてくる場面が金町の瓦焼きの家? そういうシーンから始まるんですね。
植本 弟分の半次郎っていうのと番場の忠太郎がね、半次郎を家に送り届ける感じなんですかね。
坂口 そうすると家には半次郎のお母さんと妹がいて。「堅気になれ」とかいろいろ言うなかで、追っ手の二人が。追っ手の二人も悪者だけど可愛いよね。
植本 そうですね。凸凹コンビみたいで。
坂口 そう。悪者だけど筋を通すというか。
植本 理由があってきてるわけだもんね。敵討ちですから。
坂口 親分のね。それをやって名をあげて出世したい。っていう1人ともう片方は乱暴者で「とにかくやっつけちゃいましょうよ」みたいなシーンがあるんだけど、ここもちゃんと定番。家の周りで子供たちが遊んでて、子供たちと乱暴者たちとのやりとりがあって。
植本 「こいつ知らねえか?」「知らない」「知らねえはずないだろ」みたいなね(笑)。
坂口 序幕としては場面をわかりやすくしつつ和ませていくみたいな。
植本 子供たちがでてくるのがいいですよねやっぱり。


坂口 番場の忠太郎は怪しい奴が来そうだからって待ってるんですね、すると二人がくる。そこで忠太郎が間に入って、
植本 半次郎を助け、
坂口 二人を斬り殺す。
植本 そうなんです。そこらへんの切った張った簡単に行われるので、
坂口 スバラシイ。
植本 ト書きでね「あ、もう死んだんだ」って思いますもんね。
坂口 争いの中だけど、ここで忠太郎が望んでること「お母さんを慕ってでてきた」事情みたいなものがみえてくる。
植本 そうなんですよね。半次郎のお母さんと妹は怪しんでるでしょ? 忠太郎のことも。だから自分の生い立ちを説明してね「親っていいな」みたいなことを(笑)。
坂口 僕ら感覚としては「親なんてそんな~」って思うけど、作家自体が母親と、
植本 3歳か4歳で生き別れになっていて。それもやっぱり父親の暴力だったりとか。
坂口 だから割と自分の感情も入ってるのかな。
植本 自叙伝的な作品って言われてますね。これね。
坂口 まあ二人をやっつけてじゃあ自分は江戸に。母親が江戸にいるらしい。といううわさで、、、。金町だからそんなに遠くない? 金町ってあの金町? 江戸川沿いなんだよね。
植本 そうなの?地理的なことはよくわからない。


坂口 次の場面は江戸ですね。ここは全体の流れとはあまり関係のない。彼の感情を説明する場面というか。
植本 もう会う人会う人がお母さんに見えてしょうがないっていう。
坂口 でも、其処此処にそれぞれの事件があって情が通ってる。で、その場面ていうのが夏の街、音曲が入るんですね。ただの劇伴じゃなくて、その場その場で実際に起こっている“音”ですね。
植本 そうかこれこんなに季節がたってるんだ。
坂口 そうそう。そういう説明もしてあったよ。場面が違って見えるようにしなさいとかね。で、夏の夜で、三味線弾く乞食ばばあみたいな人が、酔っ払いに唄わせて、それで銭を稼いでる。
植本 なのにお代を払わないで行こうとしちゃうお客とかがいて。
坂口 それをみていた忠太郎が怒って...。もしやおっかさんじゃないかって思ったりする。これあれだよね、金町から場面が変わって、つたない三味線と歌が入って、江戸の夏の街の情景があって、見てる人の気分もまたさらっと変わるじゃないですか。でも忠太郎の想いがまたひとつわかりやすくでてくる。無駄がないと思うんですよね。


植本 忠太郎はどこいっても金の無心か、とか言われたりするんですけど、お金持ってるんですよね。100両。その100両も博打で儲けたお金なんですけど。だからその三味線弾きのおばあさんにも気前よくお金あげたりしてね。
坂口 「どうせ博打で稼いだあぶく銭だ」そんなこと言ってみたい。でも考えてみれば僕らの稼いだ金なんてみんなあぶく銭だもんね。
植本 それはたぶん、長谷川伸さん自体がそうなんじゃないかな。って言ってて。お弟子さんが池波正太郎さんなのかな。
坂口 そうですね。
植本 池波さんのエッセイとかで「長谷川伸さんはそういう人だった」みたいな。「ありがとうだけじゃだめだ。ちゃんとお金なり何か一緒じゃないとだめ。」みたいな。
坂口 あ~。
植本 なかなかできませんけど(笑)。
坂口 (笑)どうせあぶく銭なんだから。
植本 ありがとうはすぐいえるんですけどね~。


坂口 ははは。その反省は置いといて。で、夏のシーンになって、すぐ冬の街の様子、、、これはあれか、ここではまだおかみさんの家には来ないの?
植本 次じゃないの? どこだ、、、?(しばしページを一生懸命めくる二人)あ、これか。一瞬出てくる親孝行な息子がお母さんをおぶるっていうのが冬ですね。
坂口 仕事帰りの息子と、芝居かなんか見にいったお母さんが偶然に街で出会って。
植本 短いシーンだ。「疲れたかい、おぶってやるよ?」っていうと「そんなことをさせられないよ。馬鹿いってんじゃないよっ。」「息子だから恥ずかしくないよ。」みたいなね。
坂口 そんで?彼はどんな役割を果たすんだっけ?
植本 だれ?
坂口 番場の忠太郎。
植本 「いいなあ~~」て言うだけですよ。
坂口 それだけ~? ああ、、、親子の情愛。
植本 「幸せなおふくろさんと息子さんだ、羨ましいな」って一言だけ言って終わってますよこのシーン。
坂口 中村錦之介が言うといいんだよね~。本当に素晴らしい役者と監督が出会ったな、って。また映画の話になっちゃうんですけど。
植本 この、冬の夜の街、ってシーンは超短いです。
坂口 だから上手にシーンを入れて、観客の気持ちを盛り上げていくっていうかさ、気分も変えていく。すごく上手ですね。真っ黒い冬の夜ってあるでしょ? 芸者衆が出てくるでしょ? ここも歌っていうか、口三味線で、お姉さんとその仲間が小唄? を教えあったりしてる。そこで魚屋の二人と行き違う粋な場面がありますね。芸者がツンツンして行っちゃうと魚北って奴が「チェっ。業平様のお通りに気がつきゃしねえ」っていうさ、ちょこっと素敵な台詞を言ったりね。仲間が「でもお前なんか業平じゃねえよ」みたいなそういうやりとりって観客の心をくすぐる。「おっ」って思ったりしますよ。


植本 そしてこの物語の重要人物、金五郎って人が登場します。素めくらの金五郎。
坂口 これ、言っていいの?
植本 なんかね、でもこの人目が見えないわけじゃなくて“素すめくら”っていうイカサマの手法らしくて。博打用語の一つっていうか。
坂口 専門用語なんすかね。隠語が頭についてるくらいだからさ、相当だめなやつなんだよね。
植本 そうだね。悪い奴ってことがこれでもうわかってるんだね。その人が、忠太郎の本当のお母さんに恋をしてるっていうか、歳が金五郎は30歳超えたくらいなんですけど、女将さんは10も15も若く見える。っていうけど50は過ぎてる。歳の差がある。でも好き、好きっていうか。
坂口 好きっていうか店を乗っ取ろうっていう魂胆。
植本 そう。
坂口 いやったらしいよね。女将さんの設定もおかしいよね。常に若く見えるって、ずっとト書きに書いてある。
植本 そこおすんだっていう。やる女優さんも気持ちいいよね。
坂口 誰がやるんだよ~って思いますけどね。ちょっと、、、映画の木暮実千代は老けてたかな。
植本 (笑)きれいでしたけどね。


坂口 で、次の場面でやっと忠太郎のお母さんが経営している料亭「水熊」の場面になりますね。
植本 昔は仲が良かったという夜鷹が入ってきたりとか。
坂口 そうですね。
植本 夜鷹の人に対してもやっぱり忠太郎は「お母さんかな?」っていう、、、
坂口 ちょっと病気だよね。
植本 誰でもお母さんに見えちゃうから。
坂口 それで、そのおばあちゃんはお店の者とごちゃごちゃやって追い出されて。
植本 結局、忠太郎は夜鷹のおばあさんにもお金を渡すと、夜鷹のおばあさんはありがたがってね「私に最近こんなに優しい言葉をかけてくれた人はいない」って言ってお母さんの素性をちょっと話してくれるんですよ。
坂口 でも忠太郎はぐずぐずしてるんですね。立派なお店だし、自分が会いに行っていいものかどうか、店の者と門口でもめたりしている。その間に、お母さんの方にやっとフォーカスされて、、。
植本 見えないところで声だけするんでしょうね。「店先でなんかうるさいね、喧嘩かい」みたいなことがあって。
坂口 そこでは、綺麗な格好をしてお客さんに挨拶に出るため、娘が身支度をしています。
植本 看板娘っていうことですよね。
坂口 店の様子もそこでピシってわかる。娘を立てて。「そうか、そういう挨拶をするんだなー」っていうこともわかって。
植本 お客さんもそれを半分楽しみにきてるんだなあ。っていう。
坂口 お店の状況がわかっちゃう。
植本 お金があるってこともわかるしね。
坂口 そうそう。クレバーだよね彼は(笑)。そうこうしてると、わいわい言ってるのをおかみさんが聞き咎めて、
植本 連れてきなさいって。
坂口 私がこんな大所帯をはってんだから、男の一人や二人、すぐ追っ払ってやる。って。
植本 説教してやる!くらいなね。


坂口 で、連れてきて忠太郎と会います。映画だと結構、中村錦之助の忠太郎は感情過多でやりますね。泣いたり、早口でまくし立てたりするけどこの台本を読んでると、そんな感情よりもう少し抑えてやりとりをしているような、、、。
植本 内面というか。
坂口 そうですね、ちょっとこれを読んでて意外だな、この場面はこんな風に書かれているのかって思いましたね。そう、そんで、お母さんは立派な所帯を持っているから自分の息子だってわかっているんだけど「お前なんて知らないよ」って。
植本 その理由の1つは、娘のほうが可愛いっていうか、この子に何かあっちゃいけないっていうのが大きいみたいですね。
坂口 それもすごい説得力があるよね。ただお店を守ろうっていうんじゃ強欲ババアみたいに見えちゃうけど、娘がかわいい。っていうのが一つ入るとちゃんとお母さんにも気持がいきます。
植本 世間の評判だったりとかね。
坂口 お母さんもいろいろ悩んでるだな。っていうのがわかりやすく見えてくる。ここで素晴らしい台詞。「なんでヤクザになってここにくるんだい」っていう。あれは凄く印象に残りますね。「誰にしても女親は我が子を思わずにいるものかね、だがね、我が子にもよりけり。忠太郎さんお前さんも、親を訪ねるならなぜ堅気になっていないのだえ。」って「おかみさん。そのお指図は辞退すらぁ。親に放たれた小僧っ子がグレたを叱るは少し無理。」っていうのがさ、すごいかっこいい!
植本 「堅気になるのは遅まきでござんす」。ふふふ。
坂口 泣いちゃいます。読んでてもどうしようと思うようなかっこいいセリフ!
植本 上下の瞼を閉じたら昔の、幼いころの母親の記憶が蘇って瞼の裏にお母さんが見えるから、
坂口 で、それがタイトルになるんですね。
植本 だからそれでいいやって言って。


坂口 で、仕方がないからこれで帰るんですけど、帰るんだけど、そこで店の者が気を利かせて、さっきの素めくらの金五郎に、なんか女将さんに因縁つけてるような奴だからアイツを痛い目に合わせろて頼むんですね。
植本 点数稼ぎでね。
坂口 それで金五郎は渡りに舟っていうか「おーし、じゃあやっつけておかみさんにいい顔して中に入り込もう」っんで。渡し場の場面になるのかな。展開が早いよね。
植本 雨が降ってきます。
坂口 あ~、雨も効果的だよね。荒川堤の場面になって、台本では二人組ですね。映画だともっと大人数ですね。これは台本の方が面白いね。あの、一人はヤクザ、、、
植本 浪人?
坂口 浪人が金五郎に3両で雇われて。顔に酒毒で赤い斑点が出てる。
植本 鳥羽田要助さんでしたっけ。酒毒って何? 飲み過ぎってこと?
坂口 飲み過ぎか、なんか悪い酒。当時だから悪い酒飲んで、、、。そうするとわかりやすいですね。あーそうかって思って楽しくて。で荒川堤で忠太郎は諦めて旅に出ようと。ここもいい場面ですよね。一方でお母さんと妹が追って来て「やっぱりあんなこと言ったけど、、、」
植本 妹の言葉が強いですよね。「なんてことすんの、お母さん。あんたの息子でしょ」って言って。
坂口 それでお母さんも息子として会いたいって、
植本 思い直す。
坂口 籠で追いかけてくる。そこで斬り合いをする場所に2人とも来るんだけど。着いたときにはもうやっつけちゃってる?
植本 1人をやっつけてのかな?
坂口 まずは浪人鳥羽田要助がやられるよね。ここもいろいろ定番のセリフがあって楽しい。「痩せても枯れても鳥羽田要助」って、かわいいよね。忠太郎が「お前は親があるか」とか聞いて「ない」と答えを聞いてから斬り殺す。
植本 ふふふ。そっか。まずは浪人が殺されて、はま(母)とお登世(妹)が「あれいないいない」ってのがあったあとだ。金五郎が殺されるのは。
坂口 そうそう。
植本 うん。せっかくお母さんと妹は探しに来たんだけど、なんていうのかな、、、「今さらもういいや」っていう、忠太郎の中ではね。
坂口 結局、向こうで2人が「忠太郎さんや~い」って遠くで呼んでるのを、木陰に隠れて出て行かないで最後、反対の方向に歩いて行くっていうのでお終いですよね。
植本 結局あれですよね、自分が出ていったらやっぱり迷惑がかかるって言うのが強いんだろうなぁ。
坂口 でも意地みたいのものもあって、会いたい気持ちと葛藤が隠れてる中村錦之介のアップでぐーーっとくるとたまらんですよね。また映画ですけど。ここで泣かないやつはおらんって言うぐらいのシーンになってます。お芝居はアップができないからちょっと違った表現になるんでしょうけど。


植本 なんですけど、、、けどこれエンディングが3つありますよね。
坂口 そうですよね!
植本 それがちょっと編集長はきっとこれを蛇足ってゆうんだろうな、と(笑)。
坂口 でもこれで1番最初に書いたのがやっぱり1番いいわけですよね。あれですか? なんか記念公演みたいで人をいっぱい出したり派手にしたい、っていうのが。最後のやつかな?
植本 そうなの? 2つめは「おっかさんおっかさん」で終わってるんですよね。
坂口 会いに行くってこと?
植本 いや、遠ざかっていった2人に対して「おっかさん」って口に出してみたってことで終わるんだと思うんですよ、これが2つ目。
坂口 なるほどね。
植本 3つ目は、会いますね(笑)。親子二人と。「おっかさん」っていったら出てきますね。
坂口 僕は一番最初が良いと思うけど、でも作家がさ、色々考えてるっていうか、どうしようかってまだずっと思っている?
植本 どうなんだろうね。やればやるほどハッピーエンディングになっていくんだけど。
坂口 そうしたくなっちゃったのかなぁ。
植本 どうなんでしょう。でも定本として残ってるのはやっぱり一番最初のなんじゃないですかね。みんなそう思ってるんじゃないかなぁ?「それでいいんじゃない?」「会わなくていいんじゃない?」って。
坂口 そうですよね。それのほうが情感が残るような気がするんですよね。僕は最初の刺激が映画から始まったけどこれ台本読んでて、すごく落ち着いて、、、一方で落ち着いた台本じゃないですか。ほんとにあっという間に読めちゃう。でもいろんな感情が交錯してて多彩ですね。
植本 そうですね。ト書きの書き方が独特だなって。心情説明みたいな。例えば娘のお登世のとこで、()で心情が説明されてるんですけど(籠に乗り、心を川向こうに飛ばしている)、粋だなっておもって。
坂口 そうですね。書いてる人ののり加減っていうのがここにでてくる。説明だけじゃなくてね。
植本 こんなんでもやる側の役者としてはありがたい手がかりですよ。
坂口 へたな役者は遠くをみちゃう。
植本 あははははははは(笑)心を飛ばす、でね。
坂口 ていうのでさ、僕にとっては素敵な、ワクワクするような、、、
植本 股旅物の開祖っていわれてるじゃないですか、長谷川伸さんがね。自分好きなんだなって思って。こういうもの。渡世ものとか、ヤクザモノとか、股旅物。


坂口 僕はとっても久しぶりに心が躍った。
植本 これシンプルな話なんで割と上演時間も短いんじゃないかな。
坂口 そんなに思い込みが必要なお芝居ではないと思うから、書かれてることをちゃんとやればいいんじゃないかな。
植本 そうね。ふふふ。
坂口 誰かのこといってるわけじゃないよ(笑)。
植本 いやいや、そうねそうそう(笑)、たまにね。平均に照らし合わせて時間伸ばしたりする人いるからね。それあんまりやらなくても(笑)。
坂口 ていうかむしろ詰めてほしいよね、あらゆることにね。
植本 (笑)。

植本 純米

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うえもとじゅん岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。

【出演情報】
ONWARD presents
新感線☆RS『メタルマクベス』Produced by TBS
7/23〜8/31◎IHIステージアラウンド東京


坂口眞人

さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

(文責)坂口眞人


編集部注:長谷川伸作『瞼の母』は「青空文庫」で無料で読むことができます。

青空文庫ホームページ https://www.aozora.gr.jp/



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マーティン・マクドナー『ウィー・トーマス』

マーティン

坂口 今回は『ウィー・トーマス』
植本 マーティン・マクドナーですね。今、っていうかずっと前からですけど注目の作家さんですね。で、原題はこっちみたいですね。『The Lieutenant of Inishmore』
坂口 イニュシュモア。北アイルランドにある島の名前ですよね。
植本 その島の中尉っていう意味なんだって。階級。軍の。
坂口 でも自分たちが作った軍だよね。
植本 ウィー・トーマスって猫の名前なんだけど、これはもしかしたら日本向けのタイトルですかね。
坂口 北アイルランドの紛争の話ですね。舞台は1993年とかって…
植本 これ、上演まで7年位かかってるのかな。一回ロンドンの劇場に脚本を提出したらダメって。やっぱり過激って言うか、デリケートな問題を扱ってるから断られて、ロイヤルシェイクスピアカンパニーに提出したらやってくれた。


坂口 デリケートというと、北アイルランド紛争があって、上演された年代だとまだ紛争がおこってる、解決してない。まあ今も解決はしてないんだけど。ていう時代の話で、しかも過激派と言われている北アイルランドのIRA、
植本 そこから分離した、分派でINLAというのがあって、
坂口 そこに所属している戦士のパドレイク、
植本 自分で中尉って言ってるけど(笑)、
坂口 の話なんですね。しかも彼はその過激派ですら物足りない。戦闘している状態が生ぬるい、と。
植本 文中にもあるけど、彼はキ○ガイって皆に言われているくらい過激な男なんだよね。
坂口 そうですね。この話は彼だけじゃなくて、バカばっかりが出てきますね、。でもユーモアたっぷりでスピード感もあって、おもしろい。
植本 そうなの!ちょっとファンタジーにも思えるでしょ?


坂口 キ○ガイの革命家が外国に行っていて、はじめのシーンは、その留守をあずかってるお父さんの家ですね。
植本 そのお父さんの友達? みたいな少年が死んだ猫を連れてくる、っていうところから始まります。
坂口 頭がぐちゃぐちゃになった猫を連れてきて。あんたんとこの猫だろって。その猫はキ○ガイ革命家...キ○ガイばっかり言っちゃいけないね(笑)なんだっけ、
植本 (笑)革命家のパドレイク。
坂口 その猫はパドレイクがもう15年も可愛がってた猫で、彼が留守の間お父さんが預かってた。で、猫が死んだのをパドレイクが知ったら「俺たちは殺されちゃう」くらいの心配をしてるわけですよね。ここで、頭の欠けた猫の死体がでてきます。
植本 脳みそがぼとっと落ちたりとかそういう描写もありましたもんね。


坂口 で、次のシーンになると、北アイルランドの本土でパドレイクが男をリンチをしてますね。
植本 (笑)しかも逆さ吊りですよ。
坂口 (笑)足の指の爪を剥いだりしている。
植本 そうそう。
坂口 結構過激で、血だらけっていうシーンになって。 そこにお父さんから電話がかかってくる。
植本 ちょうど、リンチを受けている人の乳首を切るっていうシーンでね。どっちの乳首を切る? 早く答えねえと両方切るぞ! みたいなシーンで、切られる寸前にお父さんから電話かかってきてね。でると、猫の容態が悪いって。ホントはもう死んでんだけどね(笑)。
坂口 だけど、リンチされてる男も麻薬の売人で、実は麻薬を販売したお金は、過激派組織の資金源になってるっていう、複雑な関係があって、これが後で仲間に襲われる話に関わってくる。で、飼い猫が心配なのでそのリンチは途中で終わって、
植本 彼は島に帰ります(笑)。
坂口 でもこれは罠だったんですよね。
植本 パドレイクの命を狙ってるのが同じ組織INLAの3人組なんですけど、彼が自分勝手であまりにも手に負えなくなったから、ちょっと、殺すかっていう。
坂口 で、パドレイクがかわいがっている猫を殺して、彼が心配して帰ってくるところを暗殺するっていう作戦ですね。でもこの3人組にしても、お父さんと少年にしてもものすごくマンガ的ですね。
植本 とぼけてるね。


坂口 これね、現実にそういう当事者がいるのに、この島の人たちがこんなにまぬけに描かれてていいのかな? 戯曲としては面白いけど。例えば...どこでもいいけど、革命運動がおこってて、こういう場所があってそこにいる革命の戦士たちがこんなに間抜けだよって、書けないでしょう!
植本 (笑)勿論その作家のマーティン・マクドナーがそこの人っていう。イギリス育ちなんだけど両親ともアイルランド人でっていうのがあるから。自分の土地のこと書いてるんだろうけど、やっぱりご本人も過激な人らしくて、敵が多いみたいな、ね(笑)。
坂口 革命の方に心を惹かれていたら、とても許せないと思いますね。そのことで凄惨な出来事が全部わやになって面白がって観れるけど。
植本 分かってて書いてるんだろうね。挑発的な、ね。
坂口 でも戯曲は面白い。
植本 これあれですよ、イギリスのローレンス・オリビエ賞のコメディ賞を受賞してるんですよ。


坂口 一方で、女の子が出てきて、それはちょっと可愛い話でもありますよね。
植本 お父さんのところに猫の死体を持ってきた少年の、妹。
坂口 16歳っていったかな...
植本 キ○ガイのパドレイクに恋心を抱いている。
坂口 空気銃の射撃が上手。
植本 次々と牛の目を銃で撃って潰していった、っていうエピソードがあります。
坂口 で、彼女もその過激な思想側にいる、猫好きの女の子なんだよね。彼女とパドレイクの恋愛話みたいなのが現在進行形でちょくちょく入ってくる。あれはちょっと可愛い話ですね。最後はともかくとして....
植本 そうね。パドレイクも最初相手にしてないじゃない、子供だし、女の子だからって。でもそのうちに、射撃の腕を認めて(笑)。
坂口 まぁ、自分が助けてもらったんだよね。
植本 そうそう。さっき言ってた三人組が暗殺しにきた時にそいつらの目を彼女が得意の空気銃で打ち抜くっていう(笑)。
坂口 素晴らしい技を発揮するんだけどね。だんだん彼と彼女がもしかしたら好きかもしれないみたいな、感情が近づいてく...
植本 二人でタイトルにもなってるウィー・トーマスっていう軍を作ろうみたいなね(笑)。
坂口 あれ、上手に書けてるなって思いますよね。その割にまわりの男5人があまりにも間がぬけてる。くどいけど、そこが面白い部分でもあるんですけどね。


植本 お父さんおもしろいですよね。本当に。
坂口 で、まあ彼(パドレイク)が猫が心配で戻ってくるんですよね。その間、お父さんと少年は猫が死んじゃって怯えてる。
植本 どうしようかって考えて、他の猫で代用できないだろうかっていう。ウィー・トーマスは黒猫なんだけど、茶色い猫を捕まえてきて、靴墨で黒く塗ってみようって。
坂口 で、実際塗るんだよね(笑)。
植本 そう(笑)、でも全然上手に塗れない上に靴墨臭くてね。
坂口 ここのお父さんと近所の少年のやり取りも、けっこう漫才っぽいというか、どうでもいいようなバカなことが上手に作ってあるなあ、と。この猫も後でまた、とても重要な役割を、ね。
植本 そうとても重要。でまあ、酒飲みながらこの猫に靴墨を塗りたくってるんですけど眠くなって、じゃあ明日早く起きて続きやろうかっていうんだけど、そのフリがまたお笑いのフリと一緒でしょ(笑)。「絶対起こせよ、絶対起こせよ」って。頼んで...見事に二人とも寝坊しちゃう(笑)。
坂口 寝坊してると、パドレイクが来ちゃう(笑)。
植本 「おい、これはどういうことだ!」って。
坂口 彼が戻ってきて、
植本 怒り狂って、パドレイクがその靴墨を塗った代用の猫を殺しちゃうんですけど(笑)。
坂口 そこもまたポイントですよね。
植本 なんだこれ!って言って殺してバスタブに入れちゃう。
坂口 でもその猫は実際、最後でわかるんだけど女の子の
植本 付き合いかけの女の子、マレードの可愛がってた猫だったっていう。それを怒り狂ってパドレイクが殺しちゃうんだよね。
坂口 まあ、その時は誰の猫か知らなかったんだけどね。
植本 マレードが、主人公って言ったらあれですけど、パドレイクを殺しますね。
坂口 自分の猫を殺したってわかったときにね。
植本 さらに最後にオチがあるじゃない(笑)。


坂口 そうですね(笑)。でもその前に、お父さんと少年の2人がパドレイクに殺されそうになるんですよね。いい感じですよね~。お父さんのことも平気で殺そうとしてるもんねパドレイクは。けど例の3人組に襲撃されて...
植本 3人だから強いんですよ、人数的に。パドレイク捕らえられてね。
坂口 そこでマレードが銃の上手さを生かして、3人の目を撃って、目を、つぶしちゃうんだね。
植本 それで形勢は逆転します。
坂口 結局、3人はパドレイクに殺されちゃうでしょ。
植本 目が見えないからさ、歌舞伎のだんまりみたいなシーンになってて(笑)。
坂口 そうですね。で、3人銃殺されますね。
植本 1人なんてバラバラにされて、ものかげに引っ張られていってぐちゃぐちゃにされてますね。
坂口 猫を殺した張本人ね。ここらへんの描写もすごい。十字架みたいなのが事前に作ってあって。
植本 お父さんと少年がいろいろごまかすために作った。
坂口 その十字架を殺した奴の口から突っ込んで、喉から後ろにいって
植本 貫通してるでしょ(笑)。
坂口 残りの2人の死体は切り刻まれてる。しかも切り刻んでる人はお父さんと少年。
植本 あ!そうそう!死んだあと、死体をね。
坂口 パドレイクに命令されて、死体を切り刻んで...
植本 埋めるんだか捨てるんだか知らないけど。
坂口 だから舞台は血だらけ...ですよね。どうやったかちょっと興味がありますよね。


植本 形勢逆転があって、さっき言ったけどマレードにパドレイクも殺されちゃって。女王誕生みたいな。「私が今日から中尉です」みたいなことを言ってます。
坂口 猫好きの少女がある日、いきなり自立するっていう。自分が可愛がっていた猫を殺されてね。
植本 そうそう。
坂口 だって、1日前は全然従順な少女みたいな感じだった。
植本 もう最後は、恋人よりも猫の方が大切だったか!っていう感じの(笑)。
坂口 怒り狂ってますもんね。そういう展開は悪かない。
植本 だって好きでしょ?ダメな男どもの頂点に立つ女性とか。
坂口 (笑)ちょっとこれは特殊だよね? いいけど。彼女は役としてとっても、
植本 かっこいい!
坂口 やるならこの役しかない!というくらいの感じですよね。で、彼女は帰っていっちゃうんですね?
植本 そう、出てっちゃう。そうするとお父さんと少年が取り残されて、そこに死んだはずのウィー・トーマスが現れる。じゃあ、最初に連れてきた猫の死体はあれはなんだったの? ああ、別の猫だったていう話で。それで二人は怒りがわいてきて「この猫、ウィー・トーマス殺してやる!」っていうんだけど殺せないのね。猫やっぱり好きなの。じゃあご飯あげようかって(笑)。


坂口 でもさ、そのあとすごいよね、猫がもしもご飯を食べたらこういう台詞、食べなかったらこっちの台詞って、台詞が2つありましたよね。
植本 だからこれ本物の猫使うっていうことだからね。
坂口 まあユーモアって言えばユーモア。そこで本物使うなら相当なことやってないと。
植本 え?訓練された猫ってこと?
坂口 違う違う。その前のシーンで。本当にバラバラ死体いっぱいあって血みどろになってるわけでしょ。それもかなりリアルにやっとかないと、おもしろくない。
植本 これ、本当に本物の猫でやったかな!? どうなんだろ。猫ってそんなことできんのかな。
坂口 あんまりできないよね。猫はね。犬なら...
植本 ご飯があればくるか?
坂口 別に放せばくるかもしれないけど、パニックになる奴もいるだろうし。
植本 と思うよ。萎縮して腰が引けちゃう猫だっていると思うからさ。
坂口 猫にとっては迷惑な話だよね。
植本 いやいやいやいや(笑).
坂口 少なくともナショナルシアターでは本物を使ったんじゃないの?
植本 どうかな?
坂口 これ本物使わないと劇そのものが“ちゃちく”なっちゃわない? ただのおふざけになっちゃいますよね。
植本 最後、本物の猫がいい演技をしたら、すごいいい拍手だと思う(笑)。
坂口 ね。それしかないような気がするんだけどなぁ。


植本 この作品、完成度は高いですね。まだこれを書いた頃作者は若かったと思うんですけど。
坂口 はい。
植本 ちゃんと起承転結で、読後に爽快感がある(笑)。
坂口 すごくシャレも効いてるし、ユーモアもたっぷりだし。でもなぁ...北アイルランドの人が観たらどう思うんだろう・・・。
植本 やっぱ、そこなんだ(笑)!
坂口 すごく思うんだよ。書かれた当事者が辛いっていうか...今ある出来事に対してね、あいつら馬鹿だからこうなっちゃったよっていうことはないのでは、やっぱり。
植本 実際にたくさんの人たちが亡くなってもいるわけですからね。
坂口 もっと複雑な話ではあるわけだから。それをただただお芝居の面白さを作るために単純化していって、単調な人物像が描かれちゃうと、それはやっぱり気になるんだよ。ひっかかって。だから素直には喜べないけど、でもとてもおもしろかった。
植本 すごい犠牲の上に成り立ってる本だという、実際はね。
坂口 いってみれば事件物とかじゃないですか。日本人だったらもうちょっと違った書き方をするのかなーって。でもこの人なりに違った書き方をしてるのか。だからカリカチュアライズしたりしてるのか。かもしれないよね。
植本 そっちに行ったんですよね方向的にね。
坂口 だから...いいのか。
植本 だからきっと今のことを鑑みて作品作ったとき、編集長は「つまんない」って言いそうじゃない(笑)?色んな両方に配慮した作品の時に
坂口 うーん、難しいね(笑)。配慮の仕方だと思うんだけどね。


植本 よかったです。現在進行形のバリバリ活動中の作家さんを取り上げられて。日本にはいるかもしれないけど。なかなか海外だと偉人化されたレジェンド達の作品が多いからね、このコーナー。
坂口 でも思うんだよなあ...残虐...残虐じゃん。会話のユーモアとか登場人物のアホらしさがなかったらものすごい血みどろで凄惨な話だよね。死体刻んだり、リンチしたり。
植本 でもそれ相乗効果なんだろうね?血みどろの猫の死体持ってとぼけたこと言うって。きっとね。
坂口 舞台もかなりのスピードで進行して行きそうだしね。どうやんのかなって思って。
植本 そうそう...偽物っぽいとね...っていうのもあるし...
坂口 歌舞伎とかだったら似た顔や首が転がったりするじゃん。
植本 ああ(笑)首実検みたいなやつね。
坂口 そうそうそう(笑)でもそこまでしかできないでしょ?舞台じゃ。
植本 勿論ですよ!!
坂口 豚の内臓持ってきてんなんとかするっていうわけにはいかないでしょ?
植本 全ステージね。
坂口 そうそう。だから...そこらへんもどう面白くしてるのかなーって。
植本 作品もドロドロに反してスカッと読めました。
坂口 そうですね、僕もほんとに一気に読めちゃいました。...良かったですね。
植本 はい、ありがとうございます(笑)
坂口 まあ、これはこのあたりにしときましょ。

植本 純米

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うえもとじゅん岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。

【出演情報】
ONWARD presents
新感線☆RS『メタルマクベス』Produced by TBS
7/23〜8/31◎IHIステージアラウンド東京


坂口眞人

さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

(文責)坂口眞人



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大竹野正典『夜、ナク、鳥』

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坂口 大竹野正典さんの『夜、ナク、鳥』
植本 さすが、実力と筆力を感じる作品でした。
坂口 大竹野正典さんは10年ほど前に亡くなっていますね。
植本 2009年に48歳で亡くなってらして。なんか海水浴の最中の事故なんですね。
坂口 はい。
植本 たぶん、関西の演劇人はよく知ってた存在なんじゃないでしょうかね。
坂口 東京でも志のある方は、よく知ってたんじゃないですか。ぼくはお名前だけで・・・。
植本 そうですね。この作品も岸田の最終選考ですもんね。
坂口 なんで佳作なんでしょうね?
植本 で、この作品、我らが、松永玲子が出演した舞台で。
坂口 珍しいですね。ここで話す前に舞台を観ている。
植本 うん。
坂口 ここは公演を評する場ではないんだけど。
植本 編集長にこの作品をやろうと言われたので、「じゃあ、見よう!」って観に行きましたよ。
坂口 チラシとかを見てたらね、大竹野さんのコメントに惹かれて。
植本 出演者も魅力的でしたしね。



植本 これ、2002年にあった九州の久留米市で起きた保険金連続殺人事件がもとになっていて。
坂口 4人の女性の看護師が夫を何人か殺しちゃってる。ぼくは実際の事件はよく分かんないんだけど。
植本 まぁ、実際は2人なのかな。未遂に終わってるものもあるらしいんですけど。事件をちょっと調べだんですけど、なかなかこの戯曲に匹敵する、それ以上かもしれないくらい。主人公が幼少の頃からのお金への執着とか、すごいんですね。
坂口 それは戯曲の最後の方でもちょっと説明されますよね。嘘つきでお金に執着するっていうのは。でもこの作品はだいぶアレンジをされていますよね。
植本 演劇的にね。
坂口 この台本が成功しているのは、関西に場所を移したっていうのがまず一つですね。
植本 大竹野さんが大阪の方なので、もしかしたら、その言葉で。それは成功してますね。
坂口 えぐいニュアンスが、なんとなくあの大阪弁で、
植本 コミカルっていうか。
坂口 受け入れやすい感じなっているし、戯曲の中での本人たちの心情も逆に立ってくるというか。
植本 標準語で言うともしかしたらおもしろくないセリフを、関西弁で言うとちょっとおもしろさが増すところはあると思いますね。
坂口 そうですね。エピソード的にも、政岡(泰志)さんがやった役かな? 関西の鹿をね。
植本 春日大社の鹿を撃つのが好きな人ね。
坂口 そうそう。あれもなんか素敵なエピソードで。実際、あんなことないわけじゃないですか。
植本 そうですね。
坂口 あれを、鹿のね、肉を、鹿を撃って殺して、
植本 「神様の使いに何をするんだ」って松永がやった役で、妻の吉田という看護師に怒られるんですけど、「お前のやってることにくらべたら、何でもねぇよ」って、言いますよね。
坂口 どこの鹿だって同じじゃんって。その通りだし。ぼくらが喰ってる肉は、じゃあいったい何なんだっていうところも、作家ならではの視点が入っていたり。その、随所に直接関係ないところからのニュアンスのお芝居がメインのテーマを引き立てていくっていうか。膨らませていくっていう感じがありますよね。



坂口 事件のことは表面的にしか分かんないけど。・・・もとから、かみさんはだんなを殺してもいいのでは、というふうに思っていて。
植本 編集長が?
坂口 はい。
植本 どうして?
坂口 なんとなく。
植本 へはははは! おもしろいなぁ。
坂口 だんながかみさんを殺すのはダメだけど、かみさんがだんなを殺すのは、わりとオッケー。
植本 この本の中では、クズしかいないからね。ふふふ。亭主連中がね。
坂口 ま、人間なんてクズしかいないから。クズじゃないやつなんていないから。



坂口 話を最初に戻すと、まず4人の看護師とその家族と、
植本 亭主だったり、
坂口 3組は亭主、もう一組は治験コーディネーターと、
植本 患者さんね。
坂口 あの二人のエピソードも泣かせるっていうか、素敵なオリジナルの部分ですね。
植本 だと思います。ちょっとおもしろかったのは、患者の藤井びんさんにお國言葉を喋らせたのは正解だったと思いますけどね。あれ福島の言葉じゃないかな?
坂口 すごく切ないけどユーモアのある場面ですね。脇から主題をキチッと押し上げてるっていうかね。「病院の庭に木蓮の花が咲いてて、そこに夜、鳥が来てへんな声で啼くんだよ」「夜啼く鳥なんていませんよ」っていう病院の庭での二人の会話がタイトルになってるですね。夜の話だから黒く見える鳥でね。しかもそれが看護師のイメージとダブっていて。ナイチンゲールっていう名前なんですね。鳴き声の美しい鳥で、ヨナキウグイスとか、墓場鳥とか呼ばれているらしい。すごいよくできてますね。
植本 4人の看護師がちょっと話してると、「何話してるの?」とその患者が聞くと「人を殺す計画よ」みたいなことを言うでしょ。冗談でね。
坂口 「おーこわ」って。
植本 そのへんのブラックユーモアが。
坂口 だからこの人は本当に上手というか、ダイレクトに主題に行かないで、回りから状況を実に上手に絡めていってるなぁって思いますね。
植本 だって、ほら、演劇ならではのあれで、幽霊が出てくるじゃないですか。
坂口 読んでると、本当に生きている人との会話なのか、幽霊との会話なのかちょっと分かりづらい・・・。鹿の話をしてる時は死んでるの?
植本 最初に死んでますよね。登場するときに。
坂口 なるほど。
植本 ほかにも、同僚が「吉田」に相談するじゃないですか。「見えるのよ」みたいなことをね。
坂口 あ、殺しちゃった自分の夫が、ご飯食べてると出てきたり。普通に会話をするんですよね。
植本 幽霊も出てくるし、時系列も微妙なんですよね、これね。
坂口 そうですね。
植本 そこがおもしろいですけど。
坂口 そこらへんは、あんまりこだわりがない、夢の中みたいな。ある部分ね。
植本 そうそう、無理につじつま合わせる感じではなくて、そっちの方を重視っていうか。 
坂口 それも素敵ですけどね。



植本 これ、おもしろかったのは、女同士が苗字で呼び合ってるじゃないですか。あれいいですよね。新鮮でした。そんなことよくあるのかもしれませんけど、「吉田」「石井」とかね。
坂口 仲間意識が強いっていうかね。仲間のひとりが自分の夫を殺すのに抵抗するけれども、周りの説得でけっきょく殺しちゃうんだけれど。この呼び方などでも仲間意識みたいなものがよく現れてますよね。
植本 そうですね、まず吉田っていう看護師を中心にして、吉田の何が怖いって、まず同僚たちを騙してるじゃないですか。同僚の亭主が吉田から借りた金の領収書を偽造したり。
坂口 あと無言電話を1日30回、ひとに頼んでかけさせて同僚を追い詰めていく作戦とか。
植本 そうそう、それを自分がさも人助けをしているように仕向けるじゃないですか。そこがすごい。
坂口 でもその・・・、吉田が・・・、この戯曲に関してはよ、全然、全然とは言わないけど、あんまり悪い奴に見えてこないっていうのもいいなぁと思うんですよ。観てても、読んでてもね。
植本 編集長の癖が分かる話だね。
坂口 何で? 
植本 いやいやいや(笑)、女は亭主殺してもいいとかね。
坂口 よくない?
植本 いやいやいや(笑)。
坂口 みんな思ってないかな? うーん、・・・けっこう、よくない? かみさんに殺されてもいいでしょ? 植本さん。
植本 そうしたら自分が悪かったのかなと思うけど。わははは。
坂口 ははは。
植本 ははは。



植本 この事件は2002年に起こって、この戯曲は翌年の2003年に書かれていて。
坂口 あ、そうなんですか!
植本 で、2010年に判決が出て、2016年、一昨年の今頃、死刑が執行されているんですよね。
坂口 はー残念だねぇ…。
植本 どうして?
坂口 いや、まあ、なんとなく。
植本 だから、何って言うの、最近の事件であり、その犯人が存命中に書かれた本っていうね。おもしろいなと思ってね。
坂口 これだけのイメージが作れれば。乱暴に言っちゃえば、事件にインスパイアされて別の話を作ったくらいの勢いで。その犯人たちの思いを、いっぱい引っ張ってきてるかというと、もうちょっと違う大竹野さんの意識、その事件から刺激を受けた意識が演劇という形で構築されて、表現されている。
植本 もちろん。この犯人4人に限らず、人間を描こうとしてるんだろうし。
坂口 そう! モラルとかそういうことに関係なく、演劇ってやっぱり自分が表現したいことの本質を書きたいっていう、それにすごく忠実に。しかも、でも一方では観る人に対する意識、「おもしろい場面を作ったろじゃないかい!」っていう戯作者魂みたいなものもあって、そのバランスがとっても素敵ですね。本当に細かいところまで考えて作ってたんだなぁって思いますよね。
植本 これは戯曲ももちろん素晴らしいんだけど、上演もおもしろかったので、ぼく上演を観てから台本を読んでるじゃないですか。で、全員がしゃべり出してね。
坂口 ああ、
植本 そのイメージが強いから。ずーっと頭の中でしゃべってましたよ。
坂口 得しましたね。
植本 今、コットーネの綿貫さんの仕事で大竹野さんの再評価がどんどん進んでいて、とてもいいことだと思うんですけども。
坂口 そうですね。この本いっきに読めちゃうじゃないですか。シーンシーンのエピソードもリアリティがあるっていうか。お父ちゃんのダメさ加減と、お母ちゃんの、それをけなすっていうか、なに? けなすんじゃないね、いらう感じが。



植本 お父ちゃんが子供3人の運動靴とか買ってくるんだけど、「サイズも知らないくせに」って言われちゃう。子供は留守でね。
坂口 それもさ、お父ちゃんが帰った後に、ポツって言うんだよね、そういうタイミングとかがね。
植本 でも、それも、ちょっと嬉しそうでもあるんだよね。お父ちゃんが靴を買ってきたことがね。
坂口 だから、殺されちゃったお父ちゃんに対して、全く愛情がないわけではない。まだ少しは気持ちがいってるのに、殺しちゃう。
植本 だから、劇中にも出てきますよね。「自分の亭主と仲間の吉田、どっちを選ぶの」って問い詰められるっていう。編集長と一緒になっちゃうけど、殺されただんなたちがそんなに恨んでないんですよね。ふふふ。
坂口 「ま、しょうがないな。おれ悪いことばっかししちゃったもんな」っていう。
植本 「おれを殺すのはしょうがないけど、他の人はどうだ?」 みたいなセリフがあったじゃないですか。他の人を殺すのに手を貸すかどうかっていう。
坂口 それはもう、その通り。だけど、だからこの劇に出てくる男の人たちはましな方だよね?
植本 そーお? ふへへへ。
坂口 殺されることも分からないで「なんでおれを殺すんだ」っていう人よりね。亭主は女房に対して、ろくなことしかしてないと思うんですよ。どんな人でも、世界中の亭主が。そういう制度だから。でも、この芝居に出てくる男たちは「おれ、悪いことしちゃった」っていう。反省の気持ちがあるから、こういうセリフが出てくるわけだよね。でもこういうセリフが出てこない人が世の中多いと思う。
植本 うはははは。
坂口 「おれはちゃんとやってるよ、夫として」って。でも世の中で夫としてちゃんとやってるやつなんて、いないから。
植本 でもね、ここのポイントとしては、自分が死んだら保険金がかみさんに行くっていうので、ふははは。
坂口 そう言ったって、子供がいればみんな入ってるでしょう。っていうことで、世のだんなさんみんなに読んで欲しい。
植本 あ、そう! そっちに行ったんだ。うははは。
坂口 そう。反省の書だと思う。「おれはどんだけダメなんだろう」っていうのを、まず分かって欲しいし。女の人は大丈夫、「いつかはあいつを殺っちゃっていい」って思っていると、がんばって生きていけるかなって、すごく思うんですけどね。
植本 …何なんだろうね。…カマキリとか? メスがオスを食べちゃうとか。そんな気持ちなのかな、カマキリ。ふははは。
坂口 はははは、あれはもっと生物的に単純な話だと思うけど。これ、基本、えぐい話なんだけどね。だから余計感じる部分がありますよね。ただの事件じゃないからね。いっぱいこう、…自分の気持ちにフィットする。
植本 そうですね。のぞき見してるつもりだけど、何だか自分のこと言われてるような。
坂口 そうですよね。とても素敵な戯曲でありました。
植本 読めてよかったです。


植本 純米

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うえもとじゅん岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。


坂口眞人

さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

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