ハロルド・ピンター「温室」

ピンター

坂口 今回はハロルド・ピンターの続編。

植本 「温室」ですね。本当に、前回の『背信』っていう作品だけでこの人を判断しなくてよかった。

坂口 本当だねぇ~。全然違う!

植本 まったく、ね。しかも、なんか、ずいぶん前に書いて、初演されたのが20何年後なんだよねぇ。

坂口 ??

植本 ピンター自身が出来にあんまり満足してなくて。封印してたんだって。

坂口 我慢強い人ですね。

植本 その間に自分の考えが変わったっていうか、上演した頃から政治的な発言が増えていったのとリンクしてる。

坂口 なるほど。

 

 

植本 『背信』だけで判断したら、なんでノーベル文学賞をって思ってたけど、こんな作品があったんですね。いや~おもしろかった。

坂口 おもしろかった。ただ、突っ込みどころはありそうなね。ここは保養所?

植本 ここで出てくるのは療養所で、保養所も別なところにあるらしいですね。

坂口 何を療養してるかは分からない。ずーっとね。そこは曖昧にされていて。場面としては、この療養所の執務室と隣の居間で演じられる。

植本 途中で防音室みたいのも出てくるけど。

坂口 はい。で、執務室では、50代の男って書いてあるルートっていう、責任者・・・。

植本 軍人上がりなんですよね。

坂口 部下が出入りしてきて、その日の出来事とかを報告したり、まぁ、・・・働いてる人が愛人になってたりもしてるんですね。そのルートっていう人を中心にお芝居が進んで行くんですけども。収容されている人が、殺されちゃうっていう事件とか。

植本 男の人が殺され、女の人が出産する、施設の中でね。

坂口 それで、それなりに、ルートは責任者だから、どうしてそんなことが起こるんだとか追求するわけじゃないですか。でも、結局こいつがやったっていうことにされるんだよね? だけどそこらへんは曖昧で。最後に暴動が起こるんですけどね。そこで生き残るのが部下のギブス?

植本 はい、30代の男。

坂口 働いている職員の中ではちょっと上の方にいるのかな? 彼とルートの会話とかもおもしろいですよね。責任者と部下としての会話だけではなくて、微妙に個人的なこととかのやりとりが。

植本 そうですね、パワーバランスも。部下と上司なんですけど、言葉使いとかやりとりとか聞いてると、不思議なバランスを保ってますよね。

坂口 ちょっとハードな漫才みたいな、たぶん、訳してる人が上手なんだと思うん。

植本 この訳している方、上手ですね。

坂口 ニュアンスがとてもよく伝わってきて。この芝居、ユーモアの感覚が無いととても嫌なギスギスした芝居になっちゃうと思うんですよ。

植本 はいはい、冷たーいね。

坂口 ギスギスしたハードボイルドを気取った芝居になるととてもつまんない平面的な芝居になっちゃうと思うんですけど。これ絶妙にユーモアの感覚が入ってくる。っていうのが一つ特徴ですよね。訳した人もそうだけど、彼自身、書いた人自身もユニークなユーモア感を持ってたのかな。

 

 

植本 ルートっていう50代の男の人、所長的な感じの人が、中心的なんだけど、登場人物がバラエティに富んでいて、ミステリー的な要素も感じます。アガサクリスティみたいな、誰が犯人なんだろうっていう感じで読み進められるなぁと思って。

坂口 おや、おや? って、次に進んで行く、すごい力業かなぁと思いますね。

植本 ギブズっていう人と対抗する立場にある人が同僚のラッシュっていう人だと思うんですけど。

坂口 はい。

植本 まぁ、匂いとしては、二人とも権力を狙っているのか、上昇志向があって。もう一人ラムっていう20代の男の人は、ちょっと一見アルバイトさんみたいな、頼りな~い感じで。この人ももっといい仕事をしたい。このラムは収容されている人たちの部屋の鍵の管理をしてる。そのために殺された男の人とか、出産した女の人に対しての、責任を問われるというか、犯人に仕立て上げられる。

 

 

坂口 本当にさっきも言ったけど。ルートと部下たちの会話、おもしろいですねぇ、突っ込むところは突っ込む、仲良さそうだと思うと急に怒り出したり。でもまた部下も負けずに引いたり頑張ったりっていう。絶妙なやり取りで、妙なリアリティのある作りになってますよね。

植本 ラムっていう男の子が、犯人に仕立て上げられるときに、ロボトミー手術みたいなことをされるでしょ。

坂口 はい。

植本 そういうところは近未来のSFみたいでおもしろいし。

坂口 不気味な、防音室だっけ。電極を付けられて、頭に電気を通されて。

植本 点滅する赤いランプとかがあったりとか、矢継ぎ早に質問されて追い詰められて。

坂口 電気でショックを与えて、すごい悲鳴を上げたりしますね。まぁ、全体的にはそんなに物理的なバイオレンス感はないですね。言葉のやりとりがけっこうきついですね。

 

 

植本 ま、さっき結末を言いましたけど、収容されている人たちによる暴動があって職員達が殺さるんですけど、下級職員は免れてるんですよね。

坂口 エリートの職員達は患者たちに殺される。

植本 そうそう。

坂口 ギブズが一人だけ生き残って「患者達の部屋の鍵が開いていて、そこから患者達が出てきて、みんな殺されちまった」と。おれだけラッキーで逃げてきたっていうことなんだけど。すごく怪しいわけ。

植本 そうですね。誰が本当のことを言ってるか分からないっていうのが、この本のおもしろさの一つだと。真実がどこにあるか分からないので。

坂口 ここでも妙なリアリティがある。

植本 そうなんです。

坂口 すごく今の世の中に通じてる話になりますよね。

植本 たぶん、その当時、まだピンターが世の中に理解されない頃ってそこがダメだったらしいんですけど。動機とか真理の説明とかが省かれているから。それが時代が追いついたんでしょうね。「日常ではそういうの普通でしょ」っていう考え方の変化ですね。

 

 

坂口 本当に意図しているんだか、まぁ、意図しているんでしょうねぇ。飽きさせない。次から次へいろんな仕掛けがされていて。それはお芝居を観ている人に対して、飽きさせないっていうよりも、進行していく流れとしてきちっと話が作られてるのがすごいと思いますね。

植本 この間やった『背信』もそうだったけど、「間」っていうのが多いじゃないですか。そこもね、おもしろさの一つなんだろうと。上演するときに気をつけないといけないのは、それにとらわれ過ぎちゃうとっていうのも。

坂口 上演をするとなれば。難しい・・・かなぁ。

植本 何年か前に新国立劇場で演出は亡くなった深津さんでやってますね。

坂口 ああ! そういう風に言ったら、・・・深津さん、3つくらいしか読んでないけど、ちょっとニュアンスが似てるかも。

植本 不気味な感じのね。得体の知れない不気味さがあったりとか。

坂口 そうですね。それは、ぼくに言われてたくないだろうけど。片や2作、こちら3作ぽっち読んでるだけで。

植本 なんかさ、でもさ、今回はハロルド・ピンター2作読めたからいいけど。普段、僕たちさ、1作でその作家を語ってるじゃない。怖いなって思った(笑)。

坂口 まぁ、そうね。

二人 うはははは。

植本 ごめんなさいってちょっと思って。

坂口 普通、こういう企画を立てるときって、演劇知ってる人同士の話になるよね。あまりにも知らなすぎる。

植本 うはっはっは!

 

 

坂口 この話おもしろい展開ですよね。さっき植本さんが言ったように、暴動が起きるけど結局また同じ体制に戻っていくわけですよね? 患者はまた治まって、次の

植本 ギブズっていう人が、本部のえらい人から任命される形で。

坂口 所長に任命される。また同じことが続いて行くっていうことですよね。しかもその続いて行くのに、責任者になるやつはもしかしたらこの事件の首謀者かもしれない。すごく広がりのあるお芝居なのかなって思いますよね。でも不条理芝居っていう感じではないかな。

植本 そこここに、ちょっと不条理っぽいところはあるけど、話の流れとしてはね。

坂口 ものすごく分かりやすい分かんないけど、全体的に分かる。変な言い方ですね、でもそういうふうな気がして。これけっこう理にかなうもんね。よく考えていくと。不条理って、理にかなわないから。不条理って言うんですものね。

植本 ご本人はどうなんでしょうね。不条理作家って呼ばれることに。ね。

坂口 ああ、そうですね。

植本 わりと、その、ハロルド・ピンターって言ったら、演劇界では超有名なんですけど、これが初演されたのがもう、1980年だから、そんなに昔じゃないんですよね。ノーベル賞取ったのだって2006年? 2008年くらいに亡くなってるからね。

坂口 これちょっとアングラっぽいかな。

植本 あらゆる演劇の手法は入ってるなと思うんですよ。突然、長台詞が始まってたりもするし。短い台詞の応酬だったところもあるんだけど、しゃべり始めたら一気にってところもある。

坂口 なかなか作劇に長けてるっていうか。またもや、ぼくに言われたくないかもしれないけどね。

植本 いやいやいや(笑)。

坂口 すごくそういう感じがしました。

植本 何て言うか、演劇的な彩りが華やかなんですよ。手法とかで言うと。いろんな技法が入ってるなと思いますね。

 

 

坂口 これで一番思ったのは、ユーモアの感覚が上手に会話のやり取りの中に出てくるっていうのが、なんとも言えずリアリティがありますよね。現実が逆に見えてくる。

植本 途中でさ、太字とか出てくるでしょ。ん! どんな意味なんだろうって。これ戯曲読む人は分かるけど、上演された場合にね、演出家はこれはどういうことなんだろうって考えるとこだし、役の人も考えるけど、お客さんに届くかどうかは分からない。ふふふふふ。

坂口 そうですよね。だからすごいって思います。ブレヒトの「異化効果」?みたいなのに比べたら、こっちの方が豊なような。気はしますね。ふーん良かった。ピンター2回目もやって。

植本 本っ当によかったと思う。読む順番もよかったでしょ。

坂口 そうだね。これやってたら、終わっちゃうから。ね。よかった。だからあれっすね。自分たちに合わないっていうか、ダメな作品に出会うことも大事ですね。

植本 『背信』も代表作って言われてるらしいよ。

坂口 分かった。素晴らしいいろんなイメージが湧いて良かったですね。

植本 私たち、この2作品を読めて、ちょっとハロルド・ピンターを分かった気になっています。

坂口 ちょっと好きになったかも。

植本 好き好き。

坂口 へんなおじさん? みたいな感じですよね。変なおじさん比べだと、トム・ストッパードに勝ってるかも。

植本 なにその比較。ふはは。トム・ストッパードも編集長にそんなこと言われたくないって思ってるから。

坂口 今回は、言われたくない満載だね。

ハロルド・ピンタ-『背信』

ピンター

坂口 ハロルド・ピンタ-の『背信』。
植本 普通の、ダブル不倫の話です(笑)。
坂口 さらにもっとトリプルとかにもいきそうなね。
植本 裏の裏はね。
坂口 イギリスの話で、エマとロバート夫婦と、その知人のジェリー。登場人物が3人の芝居ですね。エマは画廊を運営していて、旦那さんが出版社の社長。もう1人のジェリーっていうのは出版関連のエージェンシー。
植本 作家を発掘してコーディネートしたりとか。ジェリーとロバートは親友で、仕事仲間でもありますね。
坂口 この作品は最初のシーンが、この話の最後の日付になりますね。
植本 この戯曲は物語が逆行していくからね。それが不倫が終わって2年後。
坂口 はい。エマとジェリーが不倫していた。
植本 最初のシーンでは、浮気していた二人はもう別れてるんですよね。
坂口 はい。最初のシーン、本来だとラストになるべきシーンはもう別れて2年後で。エマのほうの家庭でトラブルがあって、エマとジェリーが久しぶりに会ってます。
植本 エマの旦那さんのロバートも不倫をしていて、しかもなんか女の人がたくさんいるっていうことがわかって。それで一晩中夫婦で話していたみたいなことですね。そうするとジェリーのほうが「もしかして僕たちの関係も話しちゃったの?」って聞くと「うん話した」って、「え、昨日?」「いやいや4年前に」。
坂口 そこらへんがこの話のテーマって言うか、『背信』ていうことの大きな意味を持ってくるんですかね。4年前に旦那さんはエマがジェリーと浮気してるっていうのを知ってた。



植本 う~ん、はっきりいってこれを時間軸通りやったら面白い本なのかって。これでオモシロイのはやっぱり4年間ジェリーがロバートに不倫をバレてないと思ってた。でもこの男同士はかなり前から現在に至るまで親友で仕事も一緒にしてるし、遊んでもいるっていう仲で。片方は知ってるけど片方は知らなかったっていうのがちょっとオモシロイですよね、関係として。
坂口 その間にそれぞれの家に行って一緒に食事したりしてますもんね。
植本 お互いにね。
坂口 だからジェリーはそれがわかった時はショックですよね。
植本 このジェリーっていう人はすべてにおいて鈍感。
坂口 (笑)
植本 行き当たりばったりなところもあるし、物事を深く考えていない感じもします。
坂口 そういったらロバートもよくわからないですね。奥さんのエマが浮気していてもとりあえずは怒らない。
植本 そうなんですよね。何回かぶったことがあるけど、それはぶちたかったからって言ってましたけど。
坂口 それいいセリフ(笑)。
植本 浮気してることをこらしめようと思ったわけじゃない。ただぶちたかったからって書いてありました。
坂口 ぶちたかったらぶってもいいんかいっていうこともあるし。なんか話の全体よりそういうニュアンスが面白いところがありましたね。



植本 SNSとかでこの作品を調べてみると結構多くの人がジェリーとロバートの同性愛的な関係っていうのを言ってて。中にはその、スカッシュっていう競技が暗喩になっているって。
坂口 ああー。そうなんだ。
植本 ロバートも実際セリフの中で「君(エマ)と関係するんだったら僕と関係してた方が良かったんじゃないの」って「それぐらい大事に思ってるんだ、あいつのことは」みたいなね。
坂口 どうなんですか?イギリスってわりとオープンなの?
植本 どうなんだろう。実際このロバートっていう人は他にも女性いっぱいいるっていう設定にもなってるし、精神的なものなんじゃないかな。
坂口 紳士クラブみたいなとか、男の人しか入れない親ぼく会みたいなのがあったりするみたいですよね。これとかも...
植本 出てきますね。奥さんのエマが「一緒にスカッシュの試合を見たい、2人が試合してるところを見たい」みたいに言うと、いや女性はお断り。試合だけじゃないんだ、シャワーも浴びたいし、ビールも飲むし、食事もしたい。なんなら女の話とかもしたいから、君は入ってくるな。みたいなこと言いますね。
坂口 あれスカッとするセリフですね(笑)。



植本 この『背信』に限ってかもしれないですけど、上演ありきで書いてるんだなっていう感じはしますけどね。間って言うのがいっぱい出てくるじゃないですか。
坂口 そうそうそう。元俳優なんだよね。そういう意味ではきちっとお芝居のイメージを作って書いてる人なんだろうねぇ。だからあれだね、これもう1個くらい読んでみないと。
植本 この作家の戯曲をね。
坂口 ちょっと狙いてゆうか、僕らにはまだちょっと、あまりにもわからないっていうか。
_植本 この文庫に入ってる『温室』ってわかりにくいらしいですよ。
坂口 じゃあ次それやろか。それをやってなんか続きものにしようかなぁ。これこのままだと…。
植本 いいよ。
坂口 ...わかんないかも。わかんないっていうかハロルド・ピンターに僕ら知識なさ過ぎ。
植本 この『背信』っていう作品だけでハロルド・ピンターを語ってもいいのかっていうのはちょっとね...
坂口 ...何かっていう感じがするね。
植本 ハロルド・ピンター好きな人がこの企画を読んだときに「あ、『背信』選んだんだ」って言われそうじゃない(笑)



坂口 それにしてもなんか、なんていうの...話のツッコミが足りない? みたいな。何回も読めば面白いのかもしれないですが...でも劇の構造としてはあんまり興味はないなぁ。
植本 当時は新しかったのかねえ。
坂口 それでこの芝居見たいかって聞かれたら、あんまり見たいとは思わないかも。
植本 ハロルド・ピンターって不条理の代表みたいに言われてるじゃない?。だから編集長そっち系の方が好きなんだろうね(笑)。そんなわけで次、『温室』やります?
坂口 はい。
植本 こっち面白そうだよ。もう少し考えて選べばよかった? (笑)。でもいいんじゃない『背信』ってどんな話か知りたかったし。
坂口 こういう失敗って大切でさ。ただ失敗って言ってはいけないね。僕らのチョイスの失敗ね。
植本 だけど名作のうちの1つとかいわれてますよ。でもそれは他の作品があったからだと思うんだけど。これだけを書いて評価できないと思うな。
坂口 久しぶりに辛口だね(笑)。
植本 いやいやいや。裏の意図とか汲み取れてないんじゃないかと思ったりもするし。
坂口 でもそんなに意図とかないんじゃない? しかも芝居で1回だけ客席で観てもそんなに意図とかは汲み取れないしね。



植本 なんかこの人の作風として、説明しすぎないリアリズムと書いてあって、なぜその、そういう行動に出るのかという動機とか理由とかを省いてるみたいなのが特徴みたいなんだけど...。
坂口 それは望むところですけど。
植本 日常生活はそうでしょうって言ってるらしく、理由なんかないときあるでしょっ、ていう。
坂口 そうなんだけどね。やっぱり演劇は見せるものだから、日常生活とは違うわけだよね。そこんところが…ノーベル賞作家にそんなこと言ってもしょうがないけど。
植本 (笑)本人もわからないで行動する時があるでしょっていう。
坂口 そりゃそうだ。
植本 そりゃあるね。そんなこといま言われてもって感じですよね(笑)。
坂口 では、ハロルド・ピンターもう一個。ということで。
植本 次に『温室』読んだときに、『背信』の良さがわかるかもしれないしね。
坂口 いいかげんなこと言って(笑)
植本 いやいやいやいや(笑)。こういうこと書く人はこういうことを言いたいのかって。『背信』の裏にあるものを。
坂口 そういうことで、今回はここまで。


植本 純米

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うえもとじゅん岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。


【出演情報】

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花組芝居『黒蜥蜴』
原作◇江戸川乱歩
脚本◇演出:加納幸和
作曲◇鶴澤津賀寿 杵屋邦寿
出演◇花組芝居役者連
12/2~10◎あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)

http://hanagumi.ne.jp/

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坂口眞人

さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

(文責)坂口眞人



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『ほらんばか』秋浜悟史

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坂口 今回「ほらんばか」。喜劇って書いてありますね、うーん、なんか薄いよね。
植本 あっ、本の厚さがね。短いですね。
坂口 はい。電子版でも売っていて、やり方がよくわかんないんでこっちにしたんです。オンデマンド印刷、一冊ずつ注文すると作られてくるんですね。
植本 はいはい。青空文庫も確かそうだ。本にしてくれるよね。
坂口 これは、どこだっけ。
植本 日本劇作家協会が出しています。
坂口 そう。2シリーズかな出たと思うんですけど、その後が続かないようで。やっぱ売れないからかなぁ。
植本 あ。さすが、プロの本屋さん。
坂口 ははは。根性が足りないですね。



植本 まあ、このね、秋浜悟史さん。この方の名前は随分前から聞いていました。
坂口 そうですか。
植本 大阪芸大の先生とか、あとは兵庫のピッコロ劇団の初代の代表、なのかな?
坂口 僕は、最初の頃のいくつかの作品しか知らないんですよ。
植本 ああ、この方の?
坂口 そう。お芝居に興味をもった頃に、ちょうど上演された作品だと思うんですね。
植本 そうなんだ。これ第一回の紀伊国屋演劇賞受賞作なんですけど、僕が生まれた年でした。だから50年ですよ、もう書かれてから。
坂口 演劇への興味って新劇とかからまあ普通にね、当時は始まるじゃないないですか、観て、で、なんか「う~ん」って思ってたら、オール東北弁で、見慣れたお芝居とは全然違う感じで上演されていて「あ!」って思って、ずっと、ずーーっと気になってました。
植本 そうなんだ。
坂口 だから、僕が変な方向に行く道のとっかかり的な作品だと思うんです。
植本 なんかね、これ途中から色合いが変わってくるけど、この本、俺が20代の頃「お芝居ってこういうモノだろうな」って思っていた感じがする。
坂口 ああー!世代の差を感じますね。
植本 ちょっと不条理な感じもあって。叙情的な感じもするじゃない?
坂口 はい。
植本 「お芝居ってこういうモノなんだな。自分はこういうモノを目指すんだな。」っていう感じの本でした。これ。
坂口 はー。それはいくつの頃なの?
植本 20代。
坂口 あそっか。そうですね。そうなんだ。
植本 その頃はなんていうの、劇作家さんの年齢とか時代とか知らないから、別役さんとかね。なんかやっぱりおんなじような匂いがしましたね。



坂口 内容は東北の農家の話ですね。3人しか出てこなくて。ほらんばか? でいいんだっけ?
植本 ほらんばか。工藤充年、という名前がついてますけどね。
坂口 ほらんばかと呼ばれているんですね。と、えーっと、あとは、
植本 野間さち、なち、っていう農家の姉妹ですね。
坂口 時期が春っていうことで。彼女たちは田植えをしていて、その間にほらんばかのところに、遊びに、からかいに来るんですね。
植本 うんうん。
坂口 このほらんばかっていう主人公が事業に失敗して、頭がちょっとおかしくなっちゃてる。
植本 この中で白痴って出てきますけどね。
坂口 春になるとなんかそういう、ね。昔は春になるとそういう人が出てくるみたいなことよく言われてたけど、あんまり科学的じゃないよね。
植本 そうね(笑)。
坂口 まあそのちょうどその時期の話。なんで彼がおかしくなっちゃったかっていうところが、作者が書きたかったいくつかのポイントのひとつですね。
植本 牧畜産業なんですよね。牛をたくさん飼ってたんだけども、なんだろうね、やり方としては新しいっていうか。当時、ソ連とかにもあったけど、共同経営みたいな。
坂口 そうですね。
植本 でもそのやり方はアカとか言われ始めて、共産主義とか言われて、役所とかに折衝に行ったりしてる間に、彼が不在のときに伝染病が。
坂口 牛のね
植本 伝染病が流行って全滅してしまうという。



坂口 オープニングは彼が舞台を行ったり来たりしてるところから始まります。
植本 火山灰ブロック作りの牛舎がありますね。
坂口 あの当時でいうと新しいアイデア満載の牛舎なんですね、彼が作った。そこで彼は汚い衣服を着てうろうろしてる。
植本 白樺の木の間を行ったり来たり、ずーっとしているっていうところですよね。
坂口 これ全部のセリフが東北弁で、それにけっこう圧倒されましたね。若い僕はね。で、面白かったけど今回読んでみたらちょっと違和感があったんですよね。
植本 編集長、え? 実際観たことはあるの?
坂口 だからこれ観たんですよ。でももう細かいことは覚えてないんですけどね。
植本 どれくらい前に観たの?
坂口 当時。
植本 東京で?
坂口 東京で。
植本 ふーーん!
坂口 場所は良く覚えてないけど。
植本 でも観たのね。
坂口 うん、ものすごくインパクトがありました。



植本 前半と後半の肌合いが随分違いますよね。後半、妹がいなくなってからがガラッと変わったなって思ったんだけど、前半はなんていうんだろうね、姉妹がほらんばかの様子を見に来るっていうか、ひやかしたりとかして。
坂口 わりとのんびりした雰囲気ですね。
植本 でもだんだん読み進めていくと、お姉さんとほらんばかの工藤充年が「あっ!関係があるんだ」と。
坂口 恋仲ですよね。
植本 ところが、お姉さんのほうに縁談がもちあがり「結婚しようかな」とか言い始める。
坂口 はい。…っていうとこまでが前半かな。
植本 うんうん。
坂口 なんで彼が気が狂っちゃったかみたいなことを前半で説明していくし、あの、牛の声が妄想で聴こえてきたりするんですね。そうするとそっちに叫んで、行っちゃったりとかしつつですね。で、妹は仲間と、賭けをしているんですね。…なんていうんですか?
植本 はいはい!2回位賭けしてるのかな?
坂口 そうですね、1回目はほらんばかが本当に…、
植本 治ったか、みたいなことでしたっけ。
坂口 そう。で、お金を賭けてそれを調べにくる、っていう様な感じですね。
植本 で、2回目のほうは、ほらんばかがお姉ちゃんに惚れているに違いない。っていうので、それがまあ賭けの対象になっていって、もしそれが本当だったら、おねえちゃんの縁談がバレたらね、怒って殴ったりするんじゃないか、ってところに賭けますね。
坂口 そうですね。で、まあ妹がなんか去って二人っきりになる。
植本 そこから本当に一気に艶っぽくなるし、景色も変わる、色合い...。なんていうんだろうな。
坂口 二人の情念っていうか、結構濃い愛情のやり取りの話になってきますよね。で、SEX的なネタも。
植本 そうですね。
坂口 だからそれがどこまで...本当にこう、頭がイカれちゃってんのか、どうかっていうの…、わからない。
植本 実際でもでてきますね、姉妹のほうが「本当じゃなくて、芝居なんじゃないか」みたいなことも言ってますしね。



植本 でもまあ、その状況を考えるとね、牛が全滅したらすごい巨額な負債だと思うし。実際にこういうことがあってもおかしくはないなっていうね。
坂口 まあ多分、これに近い出来事は其処此処であったんですよね。新しく農場を開くとか、新しいやり方をする「皆で一つの仕事をがんばっていこうよ」っていうことは時代の流れとして当時は沢山あったと思うから、これは一つの象徴的な出来事っていう風にもとれますよね。
植本 まあ今だって、鳥インフルエンザで何万羽処分されたとかってのもよく聞きますしね。大変なんだろうなってことは思いました。
坂口 やっぱり新しい形で何かをしよう、っていう時には色んな障害があるんだなってすごく感じるものもありますよ。で、その後半ですが…、結局殺しちゃう。
植本 殺しちゃいますね
坂口 でね、ほらんばかが、その姉さんを、殺してしまう。
植本 まあ、はずみのようにも読めるし、女性のほうが受け入れてる感じもちょっとなんかしますし...
坂口 そうですよね。まあ他の人との縁談話が進んで行って、でも、二人はまだ好き合ってるわけだから…。
植本 うん。でもほらんばかには春になると症状がでてくるので、お姉さんはその症状を治したいんですよね。
坂口 でもまあそれはそう簡単には治らない。ということで、なんかやり取りがあって、で…。
植本 殺してしまうんですけど。その後、納屋に連れて行って納屋に火を放つっていうとってもドラマチックなね。
坂口 まあ、ドラマチックというか合理的というか。
植本 うっへへ(笑)。



坂口 なんですけどねえ。若い僕が観た舞台とはやっぱり印象が...違って当たり前なんだけど…僕も違ってるし、読む時代も違ってるしでもなんか…!どうなんですかね(笑)。
植本 ま、単純に今、この作品を上演されたときに、すごく低レベルな言い方をすると、これが流行るのかとなると、うーん、難しいかもなとも思いますけども。
坂口 そうですね。でも、何だろう。作品についていろいろ言う時にさ、ずっと不滅の名作とかっていう言い方もあるじゃないですか。一方で、その時に本当におもしろければそれでいいんだっていうのもあると思うんですよ。ぼくはどっちかっていうと、そっちの方が好きで。別に名作として残んなくって、今、観たときに傑作ならそれはそれでいいんじゃないのってすごく思うんだけどね。そこのところのわだかまりはないんだけども、でも、やっぱりちょっと、あ~、こうだったのかぁって。
植本 もしかしたら、戯曲になるとト書きも読むじゃないですか。その部分もあるのかなって。ト書きが、たとえばちょっと説明的だったりとか。本当は観てるときは入ってこない情報だから。かなと思って。
坂口 はい。
植本 ぼくは最初のト書きとか、あ~、なんか詩情溢れてるなとは思ったんですけど。
坂口 それも異存はないんですよね。だけどなんか、分かりすぎちゃうことの退屈さっていうか。作者が頭の中だけで考えているというか。そういうのをちょっとやっぱり、もうすごい昔の出来事だからね。自分の中でも違った印象があるのかもしれないですけどね。っていう気は…。
植本 もちろん、普遍的なもので、いつ上演されても、いつ読まれても「おもしろいな」っていうのもあると思うし。もちろん編集長が言ったようにその時時の流行もあると思うし、これもう一回廻ってくる場合もあるでしょ。一周して。



坂口 植本さんはかなり素直に楽しめたっていう感じ?
植本 うんうん。おもしろかったです。あのー、前情報っていうか先入観が何もなかったので。どう進んで行くんだろう、あ、こっち行った! と思っておもしろかったですね。このまま終わるんだと思った。前半の方の調子で。
坂口 えらいどんでん返しですよね。
植本 劇的な方に行ったなと思って。
坂口 性的なものも含めた情感みたいなものが、けっこう濃く出てくる作品ですね。
植本 だから、いろんな人の影響って言ったら、秋浜さんに失礼だけど。
坂口 若い秋浜さんだから。
植本 そっか。そうだね。
坂口 たぶん、ある権威に反発して作ってる作品でもあるわけだから。それは全然失礼ではないと思いますよね。
植本 最後、殺して火をつけるとか、三島の影響とかいろんな、アングラだったりとか感じたりもしますし。
坂口 東北弁のセリフに救われた作品なのかなってちょっと思ったんすよね。いざ、読んでみたら。ちょっとそう思っちゃったんだなぁ。



植本 これ、いつ見つけたの?
坂口 つい最近ですよ。日本劇作家協会にあったなと思い出して。で、ホームページに行ってみたら、見事にあって。
植本 ほーーう。しかもこれ、ベストセレクション1。本当に最初に出たやつじゃないですか。
坂口 そうですよ。だから、もったいないね、これね。このシリーズはぜひ、ぼくとかに言われたくないだろうけど、続けて欲しい。
植本 同じ戯曲を出している会社として。
坂口 ね、ぼくらより、
植本 バラバラですよ、ラインナップがね。
坂口 それもいいですよね。
植本 次、『宮城野』ですからね。矢代静一さん、その次、畑澤聖悟さん、鐘下辰男、その次が鈴江俊郎さん、鈴木聡が入ってる!
坂口 そう! そう。だからわりといろんなね、作品、ジャンルを問わずみたいな感じで入ってるし。もったいないなぁ。これは劇作家協会の事業としてさ、ずっと続けていって欲しいですね。
植本 いいと思います。だってさぁ、こんな、矢代静一さんとか、田中千禾夫さん、宮本研さんと同じラインナップに入れるんだよ。
坂口 続けてみたらどうなのかなぁって。すごく思いました。
植本 このシリーズほかにもやりたいです。取り上げるのに。
坂口 はいはい。いいですよね。
植本 気になる。『宮城野』とか。
坂口 なかなか無いからね。戯曲を見つけるのは難しいんで。



植本 当時あった、『新劇』っていうのに発表してるんだね。初演が昭和41年ってあって。これを編集長観てるんだ。
坂口 だから観てますって。
植本 はあ~ん。なんで観に行ったのかは忘れた?
坂口 だから、新劇とか観てて物足りなくて、何かふらふらしてるうちに。
植本 でもこれさ、ほらんばかのさ、さっきもおっしゃったけど、「喜劇」ってついてるのが味噌なんでしょうね。
坂口 そうですねぇ。でも今となってはちょっと嫌味かなってぼくは思いますけど。これさ、秋浜さん好きな人に対して、ひどいことを言ってるように思われたら嫌なんだけどさ、ぼくは当時、すごく影響を受けた、おもしろかったっていうことがスタートだからね。今、50年を経てまた読んでみたら、ちょっと自分が思ってたことと違ってた。自分に対する批評みたいなもんでもあるっていう。
植本 いいところでまとめようとしてる!(笑)。なるほどなるほど。当時、秋浜さんが書いた時も若かったし、編集長も若かった。だって50年前だもん。編集長いくつさ!
坂口 知らんけども。
植本 へへへへ。
坂口 でもさ、こういうのが、ぼく秋浜さんとは一言もしゃべったことないし、面会したこともないけど、でもこういうのが出会いだと思うんですよ。この作品と出会ってそれを持ち続けてこれたっていう作品をつくってくださった。ぼくも自慢をすれば、それを持ち続けてきたっていう気持ちは、ちゃんと秋浜さんと出会ったことになるのかな、とは自負してますけどね。
植本 当時の初演を観てるということも自慢ですよ。それは。
坂口 でもそれは年取ってるっていうだけの…。
植本 いやいやいや、ぼくもこのね、秋浜さんのお名前をずいぶん前から聞いてて、今回初めて作品に触れられてよかった。どうやら劇作家としても当時からやってらしたのは知ってたけど、作品は知らなかったから。
坂口 それはよかったです。


植本 純米

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うえもとじゅん岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。


【出演情報】

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花組芝居『黒蜥蜴』
原作◇江戸川乱歩
脚本◇演出:加納幸和
作曲◇鶴澤津賀寿 杵屋邦寿
出演◇花組芝居役者連
12/2~10◎あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)

http://hanagumi.ne.jp/

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坂口眞人

さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

(文責)坂口眞人



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