天野天街『それいゆ』

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坂口 天野天街さんの『それいゆ』、まずは感想から。
植本 まず一番最初、この戯曲を出版したということで、えんぶは価値がある会社だなぁと思ったね。その勇気と、
坂口 ははは。
植本 冒険心と。
坂口 御本人が後書きで言ってますよね。これは「ある時空間を作るための設計図だ」って。
植本 おれも最初にそう思った! 読み進めていく時に、「これは本当に設計図だな」って思ってたら、後書きに書いてあった。その通りだった。あとさ、文字がだんだん小さくなっていったりとか。時々、一行だけ文字が大きかったりとか、その他にも図的なものがあったりとか。
坂口 配置図みたいのとかね。

配置図
『それいゆ』(天野天街著)配置図など


植本 そうそうそう、誰がはけるのとか。記号があったりとか。まぁ、本当にただの戯曲じゃないなって。
坂口 一番、思ったのは、これの頃はよく観てたんですけども、やっぱりノスタルジックな感じで、アングラっぽい不思議な雰囲気の舞台だから、そっちの方のイメージが強くて。言葉は、それにこう、ついてくるっていうか、あんまり具体的に耳に入ってこない感じがしてたですよ。仕草とか雰囲気が強い公演だったから。今回読んでみて、いろいろおもしろい言葉とか。
植本 ふふふふふふ。意味のあること言ってたみたいなね。
坂口 そう! 断片というか。短い会話の繰り返しで、しかもそれも意味のないような会話の繰り返しなんだけど。そこから受け取れそうで受け取れなさそうなもどかしさっていうか。おもしろかったです! ぼくは。
植本 今日は「どういうストーリー」って説明できないから、そういうことを話していきましょうね。
坂口 そうですね。



植本 独特の群舞があったりとか。あとは群読っていうか、多くの人数で同じセリフをしゃべったりとか。これ、あれじゃないの? ある程度のスピードを持ってやらないと、ダメな本じゃない? 本ていうか、作品。
坂口 そうですね。
植本 気持ちを込めてゆっくりやられてもダメでしょ。
坂口 かなりのスピードだったと思います。実際。
植本 だから、稽古が大変なんじゃないかなと思って。相当稽古しないとダメだし、なかなか、じゃあ、ちょっと誰かが出れなくなって代役っていうのもむずかしいんじゃない?
坂口 セリフが重なったり、言葉尻から同じ言葉でつないでいくみたいなのもいっぱいあるし。本当にスピード感っていうか、ああ言ったら、こう言う感じでずーっと進んで行きますからね。
植本 同時多発って言えば平田オリザさんのようでもあり、言葉遊びは野田秀樹さんのようでもあり。
坂口 でもどっちも全然違うっていう。すてきにナンセンスですね。

セリフ重なる

『それいゆ』(天野天街著)冒頭ページ、セリフ重なる部分(黄色)


植本 でも、あれ何て言うの? 単語を紙に書いて、それを裏にして横にすると違う言葉になってるっておもしろいね。
坂口 そういうのが随所にあって。なんとも話すのにはとても困る。あれですね。
植本 いや・・・でもまぁ避けては通れない天野天街さんだと思うんですけど。
坂口 全体のイメージみたいなものはなんとなく、こう、もの悲しいと言ったらおかしいけど、なんかこう、決してただ、言葉でふざけたりたくさんしてるけど、楽しい話が続くわけではないですね。むしろ、逆。っていうか。
植本 そうですね。もちろん原爆とか、戦争のことに触れられるし。
坂口 言葉のやり取りは、なんだろう、かなりおもしろい、ギャグっぽい感じで会話がずーっと進んで行くじゃないですか。
植本 うんうん。それがね、笑えるか笑えないかは、また別っていうか。笑えるところももちろんあるし、あの、ギャグなんだけど、たぶん、通り過ぎていくだろうなというところもあるし。
坂口 そうですよね。観客はほとんど仕草の部分では感じられるけど、言葉のやり取りではかなり分からないかもしれないですね。読めばいっぱい分かるけど。「もう6時」=「もうろくじじい」じゃねぇよとか。
植本 あれだ! 何だっけ? 「ショートケーキ、いちごの」=「消毒液イチコロ」っていう。
坂口 そういうのがいっくらでも出てくるし、書いてある言葉の中では、読めば違う意味の言葉が書いてあったりしました。
植本 たとえば、返事の「はい」っていうのが、降ってくる「灰」って漢字で書いてあったり。これたぶん、舞台上では分からないだろうな。戯曲を読まない限り。
坂口 だからそういう意味では、この戯曲は大変価値がある。
植本 わはははは!自画自賛だ。
坂口 いや、素晴らしいなって思いますよね。
植本 演劇ぶっく30年の中で一番いい仕事じゃないですか。
坂口 ひでー!
植本 わははははは。
坂口 勇気のある出版社だって思いますよ。ふふふふ。



植本 なんかね、途中から大人数対大人数になるでしょ? 愚連隊全員ていうのと、毛マンコ全員っていうやつね。そこらへんになると、なんかギリシア悲劇みたいだった。
坂口 そうですね。読みやすくなるっていうか。
植本 何かが変わるんですよね。途中から。
坂口 途中からそうですね、ずーっと読みやすく、意味は相変わらずなんですけど、読みやすくなりました。前半はもう本当に、会話そのものっていうか、セクションセクションはおもしろいんだけど、ずーっとわかんない。わかんないっすね。
植本 あの、作者の天街さんには失礼なんですけど、ぼく、上にある登場人物、読んでないんですよ。誰が何を言ってるかを。ひたすらセリフだけを読んでいったので。あ、あれ、突然これ3人で言ってるな、というのはみてるけど。そこは重要だよね、きっと。
坂口 やってればね。
植本 へへへへ。
坂口 しかもさ、「正太郎」っていうキャラクターが途中から複数になったり、別の人が正太郎になったりするでしょ。で、それが一部夢だったりとか、いろんな仕掛け、どこまでが夢で、どこが本当かわかんないですよね。一人の人物の歴史みたいなものも途中で語られて、時代も紀元2500何年とかって。戦争前の国民学校に入って、そのあとB29とかの話が入ってくるんですね。作家の感性で目配せしながら、配置してるんでしょうけど。
植本 編集長が当時観てた頃って、おもしろかったから?
坂口 すごくおもしろかったですよ。
植本 維新派とどんな感じなの? 2つを比べると。
坂口 維新派はね、外にイメージが開いていく感じですかね。逆に少年王者舘は内側に入り込んでいく感じでしょうか。どちらもそのなかに強烈な叙情が入ったりしてね。もう、分かんない中で、涙が止まんないみたいなことがありました。少年王者舘は動きもコミカルですよね。チラシを見ると、ちょっとそういうイメージが。
植本 素敵なチラシですよね、毎回。


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チラシ画像

坂口 親しみやすいというか。
植本 ま、この作品だとちょっと下世話な話題も出てくるし、下ネタ的なね。
坂口 演じている人たちもわりと、ぼくらに近いと言ったらへんな、
植本 生活感のある?
坂口 存在そのものがもうちょっと近いっていうのかなぁ。そんな気がしました。とても楽しい、楽しいというか、おもしろがって観てるっていう感じでしたね。
植本 ただでさえトリッキーなのに、一つか二つ先のセリフを言っちゃうっていう設定があったりとか、場面をちょっと間違って先行して出てきちゃって1回袖にはけるとか台本にありますよね。
坂口 で、実際また戻ったり。
植本 そうそう。
坂口 10回繰り返すとか。
植本 あった!
坂口 同じセンテンスを、
植本 百万遍だっけ?
坂口 もあるし、10回のところもあるんですよね。よくお芝居でね、前衛的な匂いのするお芝居では繰り返したりするシーンもありますけど。これはちょっとそれとは違う、遊び心たっぷりな感じですよね。
植本 そうそう、ちょっとユーモアを含んだ。好きなだけ繰り返せっていう。
坂口 全体的にただならぬユーモアを含んでますよね。でもこれ読んでると、なんかちょっと痛いっていう。部分もけっこう伝わってくるし。切ないっていう部分も伝わってくるし。人との関係みたいのも、ふざけているわりには、シビアに書かれているような気がして。なんか。うーん。なんか夢を、悪夢とは言わないけど、あ〜おかしな夢見ちゃったなぁっていう感じはずっとしますよね。
植本 今回一番思ったのは、あ、演劇って多種多様なんだなって思った。
坂口 本当ですね。本当にそう思うし、しかもお芝居も観てると、本当にどう受け止めてもいいんだって、ぼくの勝手だ!ってすごく思いましたね。



植本 どなたかが、このお芝居の感想として書いてあったんですけど、「天野天街さんは、死から生を見てる」みたいなことを言ってる方がいて。あと、あの、一対多数でやり合うところがあるでしょ、さっきギリシア悲劇っぽいなぁって言ったけど、「ロックコンサートとかのコールアンドレスポンスに似てるね」って書いてる人もいて。
坂口 なるほどね。
植本 だからスピード感は必要なんだろうなって思うし。どうなんだろうね、出演されてる方たちはどんな思いでやってらっしゃるのかなとは思います。大変だから。これ。完成させるには。
坂口 そうですね。天野さんの世界の作り手として参加してるっていう形にならないと、ちょっとついて行けないかもしれないですね。
植本 着地点が、分かってないとっていうか。
坂口 でもね。今回読んでみると、少年王者舘のスタイルじゃなくても、もっと思い切って別のスタイリッシュな形で演じられても、成立しそうな気がしなくはなかった。
植本 設計図だからね。それこそ。
坂口 そう。だから別の家を建てちゃうっていうか、家じゃないな、タイムマシーンか何か分かんないけど。作っちゃうっていうのはあるかもしんない。
植本 労力は大変だと思うけど、設計図としたら、それをね、違う人がそれを元に作って、まったく違うものになったら、それはそれで素敵ですね。
坂口 戯曲を読んで、あ、得したかなって思いましたね。
植本 うん! これほら、しかもさ、最後にネタ帳みたいのが載ってるでしょ?
坂口 はい、そうですね。
植本 これ見ても分かんないけど。じゃあなにかって。
坂口 ふへへへへ。ああ、こうやって考えたり、イメージをしてるんだっていうのは分かりますよね。


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『それいゆ』(天野天街著)特別付録/それいゆネタ帳


植本 これどうしたの? 向こうが載せてって言ってきたの?
坂口 いやーーー。もうこの頃の記憶はまるでないんで。さっぱり分かんないんですけどね。
植本 うひゃやひゃひゃ。これ、ここにコダーイの曲って書いてあるから、おれ昨日、コダーイの曲聞いちゃった。どんなんだっけなと思って。
坂口 へー。音楽もね、
植本 こと細かに指定されてますね。たぶん、オリジナルだったりもするんだろうけど。
坂口 美空ひばりの曲とかも。
植本 『真っ赤な太陽』とか。
坂口 ありましたよね。太陽が2つあるっていうのが、けっこう出てきません?
植本 最後の最後で、ぺらっぺらの太陽が2つ出てきて、それが重なって一つになるっていうすごいイメージ。タイトルがね、「それいゆ」
坂口 そうですね。
植本 「それいゆ」は太陽。もしくはひまわり。
坂口 太陽が何のイメージなのかぁってちょっと思ったりもしますよね。太陽、太陽。
植本 不気味。月ほどじゃないけど、2つ太陽があるとちょっとおれは不気味な感じがしますけど。
坂口 もう1つは原爆?原発?って。
植本 なるほど。
坂口 自分なりに思いつつ。でもそこまでは全然ね、読み取れないんですけど。漠然とそうなのかなぁなんて思いながら読んで。でもあれですよね。どっちにしてもスピードっておっしゃりましたけど、これ読んでるときもスピード感で読むしかないっすよね。
植本 そう! グワーって飛ばして読んで。
坂口 意味とかもう考えてもしょうがないから。本当に。



植本 卓球の試合みたいだった。読みながら。
坂口 卓球上手なの?
植本 昨日、世界ランク1位、2位、5位を破って優勝したのが日本人です。そんなことを思いながら読みました。そうだ、あれ、あの、この本を読む前に、天野天街さんが、熊本の地震のときのお手紙を書いていて、あともう一つは、松本雄吉さんが亡くなったときにお手紙を書いていて。それがまるで詩のようなお手紙なんですよ。あ、こんな詩的なお手紙を書く方なんだと思ってこの台本に取りかかったので、あ、なるほどって思いました。なるほど、こういうものを書くのか。
坂口 ふ〜む。
植本 だってさ、本当にこれは戯曲を読まないと分かんないけど、さっきも言ったけど、「はい」が「灰」になったり、カタカナがいっぱい出てくるし。読みにくくはなかったですけど。そこにね、ひっかかってると読み進めないので。
坂口 これは植本さんがやってくださいって言われたら、どうするの? 役者として。
植本 なるほどね。
坂口 やれるの? やれなくはないよね。
植本 もちろん、やるんですけど。さっきも言ったように、どの役っていうので読まなかったので、それぞれの役がどういう人かっていうことではなく、書かれているセリフをガーッと読んだので、じゃこの役でお願いしますというのはないです。ふふふふふふふ。
坂口 そうだね。これはね、もう、観てるときに、「分かりやすい」「分かりにくい」とかっていう部分は超越している感じですよね。もう。本当にあるがままを楽しむっていう以外に。ぼくはちょっと一回離れたんですけどね。今、だからどういうことをやられているかは、ちょっと分かんないですけどね。



植本 後書きに書いてたけど、長年作曲されてた方がこの作品の前年に亡くなってるのかな。だから死に対しての考え方が、見え方が変わりって書いてありましたよね。それで作風がちょっと変わったから、出演者には迷惑っていうか、やりにくかった、覚えにくかったかもということも書いていらしてたけどね。
坂口 これたいへんですよね! 役者は。
植本 それこそ本当に来た球打つみたいなことだから。ひたすら稽古なんじゃない。
坂口 役者さんはそういう意味では、けなげで献身的な感じがしますもんね。ダンスとかもあるし。
植本 あ、そうだ。
坂口 独特の振付のダンスがあったりして。
植本 あのー、名古屋? 名古屋が本拠地?
坂口 そうですね。
植本 ぼく不勉強でね、観たことがないので、もし今後も東京でやってくださるなら、ぜひ観たいです。
坂口 たぶん8月にやるのでは。
植本 どこらへんでやってるんだろう。
坂口 スズナリとかじゃないですかね。
植本 ああー、いいなぁ。それくらいの小屋だったら。すごーい楽しみ。


植本 潤

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うえもとじゅん岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。


【出演情報】
こまつ座『イヌの仇討』

チラシ-thumb-262xauto-427
作◇井上ひさし
演出◇東憲司
7/5〜23◎紀伊國屋サザンシアター

こまつ座 http://www.komatsuza.co.jp/

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坂口眞人

さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

(文責)坂口眞人



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トム・ストッパード『ロックンロール』

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坂口 今回はトム・ストッパード。
植本 『ロックンロール』。
坂口 植本さんがいくつか提案して下さったなかで、なんでぼくがこれを選んだかというと、演劇ぶっくを作った頃ね、トム・ストッパードが好きな人がいて。理屈をこねるやつで。この作品、理屈こねるやつが好きそうでしょ?
植本 いや、そうね。
坂口 遅れてきた全共闘みたいなやつでね。
植本 知識が豊富っていうか。
坂口 「ブルータス」の編集とかもやってて、すごく海外のネタとかで助かった。もう死んじゃったんですけどね。
植本 そうなんですか。
坂口 そんなんで、彼に「トム・ストッパードやろうよ」って言われても「嫌だ!」って言ってたんですよ。
植本 え? 編集長が?
坂口 そう。「ストッパードの記事を書きたい」って言うんだけど、「なんか理屈っぽいネタは嫌だな」って思って。という思い出がすごくあったんで、まずはこれにしてみようと思いました。



植本 そうなんだ〜。これは読んで、今回は翻訳が小田島恒志さんなんだけど、「大変だったろうなぁ」って思って。
坂口 はい。
植本 もちろん、ソビエトと東欧の歴史も分かんなきゃいけないし、チェコ語も分かんなきゃいけないし。ト書きでいっぱい出てくる、ロックね。「ここでこれを流せ」というロックね。その知識もないと訳せないだろうなと思って。
坂口 植本さんはそこらへんは得意なの?
植本 おれね、どっちかっていうと、吹奏楽部上がりだから、クラシック派なの。
坂口 あ、じゃあ、あんまり聞いてない?
植本 もちろん、聞いたことある名前は出てきますよ。後半になれば、自分が高校生くらいだった、それこそマドンナもU2も出てくるし。
坂口 ボブ・デュランとかローリング・ストーンズとか、もうあらゆることが場面展開で、何十箇所も出てきますよね。
植本 ちゃんとした意味を持っているんだと思うんですけどね。曲によって。
坂口 でもさ、何なんですかね? 訳した人はもちろん大変だけど、観る人も大変だよね?
植本 まあ、知識量もすごいから。歴史についても。



坂口 1968年当時は自由化の波が東欧に芽生えてきて。それでチェコスロバキアのドブチェクが中心になって「プラハの春」っていって、当時だと共産主義で自由がない社会だったのを、少しでも自由な社会にしようとしたのを、ソ連が武力で介入して止めさせたっていうのが、まず背景の一つですね。
植本 「プラハの春」もね、おれ知らなくてね。名前は知ってたけど、調べると「あ、こういうことか」って。
坂口 その頃とかは、ベトナム戦争があってね。ぼくらとしてはそちらの方が圧倒的に身近な出来事でしたけどね。話を戯曲に戻すと、チェコの当時の、1968年の事件があった後ですかね? で、主人公のヤン。チェコスロバキア出身でケンブリッジ大学で博士号を取ろうとしている、29才。一応彼を中心に物語がケンブリッジとプラハで断片的に進んでいきます。20年間くらいかな。
植本 場面はだいたい順番で出てきますけど、最後は1990年くらいまで来ますかね。
坂口 ケンブリッジの場面は、ヤンの恩師マックスっていう大学の先生の家で。家族がいて、
植本 奥さんも教授で乳がんなのかな、娘がいて16才フラワー・チャイルドって書いてありますね。



坂口 その家族の話と一緒に政治的な出来事に関してのやりとりがあって、で、ロックの音楽ネタが入るから、けっこう複雑ですよね。読んでるからある程度分かるけど、次から次にチェコとイギリスの場面が出てくる。場面転換にローリング・ストーンズとか、いろんな人たちの印象的な曲を使ってね。それがもう、すごい勢いで。
植本 一番出てくるプラスチックなんとかっていう、チェコのバンド。YouTubeで観たんだけど、おどろおどろしかった。本当にアンダーグラウンドな。呪いのようなね。ははは。ロックだったよ。
坂口 当時チェコでパージされてた人たちだね。そういう人たちを支援する若者っていうかグループが、反体制というか、独裁政権に対する批判みたいな構造になっていくんですね。断片的な内容なんですけれども。イギリスでの彼は、先生の助手みたいな形で、博士論文を書こうとしている。
植本 なぜチェコに帰ったのか。ふるさとにね。わざわざそんな情勢の悪いときにっていう。それがキーになってるのかなと思うんですけども。
坂口 そうですね。彼は彼なりの正義感、思想みたいなもので、戻るんですよね。



植本 で、まあ、本当に彼はロック好き。タイトルが『ロックンロール』ですけども。レコードもいっぱい持っていて。どうなんでしょうね。ロックで人は救えるのかってどれくらい考えているのか分かんないですけど。
坂口 ロックが時代のキーになるっていうか、変革、自由のポイントになる、とは考えている。ヨーロッパの人はけっこうそういう風に考える人がいたっていうことですかね? 日本だと、そこまではいかないですかね?
植本 反戦歌があって。
坂口 「あぁ〜ん!」って「音楽なんかで世界が変わるかい!」っていうふうにぼくらは思ってた世代。
植本 そお?
坂口 うん。
植本 でもそういうふうに思っている人もいるんでしょ? もちろん日本で活動してて。
坂口 うん、うん、もちろん。フォークソングやってたし。実際、この会話に出てくるけど、署名とかも。署名の話も出てくるよね。「そんなことやるなら、おめえ、自分で行って助けてこいよ!」
植本 ありますね。
坂口 「署名なんかしてやった気になってるんだったら」って。その自分で行って助けてこいよっていう方に近かったから。でも実際に助けに行かないんだけどね。フフフ。そういう部分では、共感っていうか。なんとなくね。



植本 登場人物が、全員主義主張は違うのに、引かないから。みんな似てるなと思いました。
坂口 日本ぽくなくておもしろいかな。
植本 そうそうそう。平気で家族間、友達間で、すごくけんかし合ってるし。
坂口 その中には恋愛的な出来事、友情とか。師弟の愛情とか。家族同士のとか。いろんな愛の話もたくさん出てくるでしょ。
植本 そうなの。難しい情報もすごく多いんだけど、下世話な話題もね、セックスのこととかもちょいちょい挿入されてくるし。
坂口 そうですね。奥さんが、
植本 乳がん。
坂口 そうですね。ケンブリッジ大学の教授は、みんなが共産党をやめてるのに、彼はがんばって、「これじゃなくちゃ世の中は最低限変わらん!」って主張しているわけですね。で、その奥さんが乳がんで、その夫婦間の軋轢とかも出てくるでしょ。
植本 なんかちょっと、腫れ物に触るようなね。
坂口 教授と娘の距離感とかもね。
植本 本人、トム・ストッパード自身も言っているんだけど、そんなに全部理解しなくてもいいって。言ってて。感じてくれればね。で、一方では、知識が、お客さんの知識があればあるほど楽しめる劇だと思うし。
坂口 そうですよね、そんなこと言うけど、あんた。この芝居はもう少しわかりたいです!
植本 はい。はい。
坂口 そういうことで言えば、井上ひさしさんのは歌謡曲が。こういう形よりもっと、劇中歌として流行歌が入ってくるね。芝居の硬度、見え方は違うけど。
植本 もちろん、オブラートに包んで、明るさの中にメッセージ性があったりするとは思うけど。
坂口 そうだ、読んでて思ったんだ。「あ、井上ひさしさんにちょっと近いのかな」って。



坂口 気になったのはさ、トム・ストッパードっていう人は、ほとんど全部、こうしてああしてこうしろっていうふうな指示をしてるけど・・・。
植本 ト書き?
坂口 うん、ト書き。で、一箇所だけさ、
植本 分かった。
坂口 分かった? どこだっけかなぁ。なんか、彼女、
植本 これじゃないの?
坂口 すごく曖昧なさ、
植本 お任せしますみたいなとこ?
坂口 そうそうそうそう。「彼女とは〜、何かするかもしれない」って。
植本 あった!これだ。
坂口 そうそう。「マックスはここで彼女に触れるかもしれない」そこ。なんでそんなふうにするんだろうって。そんなこと書く人って嫌いだなって思うんですよ。
植本 え、そう?
坂口 するかもしれないって書いてもいいけど、ここだけどうして書くの? 他は全部自分が決めてるのに。ここだけどうしてこんなふうに曖昧に書くの?
植本 嫌いなんだ。ふははは。
坂口 なんだか分かんないけどさ、ここ読んだ時に、無性に腹が立ったんですけど。
植本 ふははははは!多くの役者は、っていうか分かんないけど、若い、そんなに経験のない人は「触れるかも」って書いてあったら、「触れろ」っていうことだろうと思っちゃうと思う。
坂口 そうなんですよね! そういう強制の仕方は良くないと思うんですよ。ほかは全部言ってるんだよ! 音楽は何分で何とかとかさ、でもここだけこういう言い方をする。おれは、そんな余裕が、君たちに任せている。
植本 ゆだねるね。
坂口 オレは懐も深いみたいなさ。
植本 ふははは。そうなのか!
坂口 ここ一点。すーごく思っちゃって。ああ!嫌だなと。誤解かもしれないけど。思っちゃうことはしょうがない。
植本 おれなんかはこれを読んだ上で、「触れるかも知れない」って書いてあったら、他のやり方ってすぐに考えちゃうけどね。ふふふ。
坂口 そういうふうに考えるといいけど。でも政治って、たいがいそういうふうにして、みんなを巻き込んで行く。「そっちのほうがいいかもしんないよ」って、「するかもしんないね」って誘導していくのが政治的なやり方だと思う。
植本 はいはいはい。おれね、あと表現として面白かったのが、明日から使えるなって思ったのが、「明らかにっていう言葉は見過ごせないわね」っていう「たいてい何かが明らかじゃないときに使われる」って。ああー!って思った。



植本 最初に、翻訳の小田島さん大変だったろうなと言いましたけど、これ上演するとなったら、役者も大変だよ。ふはは。
坂口 大変だよ!
植本 直感だけでできないもん。やっぱりある程度調べないと。
坂口 その時のこの人たちの表面的な感情だけでやっても、その奥深く歴史の背景を知ってやっても見えてくる物はそんなに、たいして違わないんじゃないかな。
植本 そんなこと言わないで〜!はははは。
坂口 思うんですよ。よく言うじゃないですか。この人物はこういう背景があって、こうだからこういうふうにみたいな。
植本 それに縛られていたら全然だめですし。
坂口 あんま関係ないかなって。逆にわざとらしくなったりする場合もあるかと。
植本 あ、あれだ、演出家は分かってないとだめだ。
坂口 何を見せたいかっていう覚悟がすごくいる戯曲だよね。
植本 そうだよね。
坂口 全部見せようと思っても、たぶん。少なくとも日本でやるときは、ちょっと無理かな。何をちゃんと観客に伝えたいかっていうことを考えないとね。
植本 その点、いかようにもできるというか。背景として、政治情勢が透けてくるっていうやり方もあるだろうし。
坂口 そうですよね、家族のこともあるだろうし、ヤンさん、チェコに戻っちゃう人の心理が重要だったりもするし。
植本 実際に主人公ですよね。牢屋に入れられたりとかしますしね。
坂口 その心情がちゃんと描ければいいのかとか。見せどころはいっぱいありますよね。ただ見せどころだけだとやっぱりきつい。なんかうや〜ってギャーギャーいうやり取りだけがずっと続きそう。



植本 これおもしろいのが、全編、若者が目上の先輩方になんて言うんだろう、「あんた古いよ!」みたいなことが、いっぱい出てきますね。「それ間違ってますよ」って先輩に言う。ふふふ。
坂口 素晴らしい歴史だよね。だから、それが、「ロックンロール」ということに繋がるのかもしれないですよね。だからあんまりロックンロールもよく分かってないぼくとしては。
植本 編集長はどこ通って来たの? 音楽は。
坂口 三波春夫かな。
植本 うっそ! ふふふふ。なぜ?
坂口 分かんないけど、子供の頃、三波春夫とか三橋美智也とか弟と一緒にいつも歌ってたな。
植本 へー。ある意味ませてるよね?
坂口 そうねぇ。今、考えれば歌詞とかは「惚れた」とか「別れた」とかだよね。小学生の頃、いつも弟と歌ってたな。
植本 この本、チェコが舞台だからさ、一回、ドボルザークっていう単語が出てくるね。ドボルザークやっと出てきた! みたいな。
坂口 でもちょっとだけだよね。
植本 そうそうそう、名前だけなんだけど。



坂口 あとはこの台本、何回読んでも生かじりかなぁ。
植本 だから、この作品ね、2010年に上演されてるけど、別にそんなに大きなカンパニーじゃなくて、全然小劇場でかまわないけど、やる気骨のある方がいたら観たいなと思います。
坂口 そうですね。なんかもっと、会話劇で見せてもらったらどうなんだろうって思いましたね。装置とかもなくて。それこそ朗読劇で見せて頂戴よ。
植本 うん?
坂口 いや、うんじゃなくて。
植本 何て言うの? 役者だからさ、どんな役でもやらないといけないけど、それぞれ主義主張ね、普段の生活を持ってるときに、自分と反対の主義の役とかっていうのは大変だろうなと常々思っていたんだけど、これくらいになるとちょっと距離感があるからいいかなと思う。わははは。
坂口 そう思う。これなら主人公のヤンで、明らかにいけるんじゃないですか。
植本 ああ、そうですね。いいと思いますよ。
坂口 じゃあ、わかぎさんに提案して。
植本 なんで?
坂口 次の戯曲はトム・ストッパードにして。
植本 今だと谷賢一くんとかやればいいのになと思うけどね。
坂口 でももういい訳ができてるから。
植本 そうだなぁ、やるとなったら、谷君、きっと自分で訳し直すんだろうなぁ。
坂口 小さな劇場でやってくれたらいいですね。
植本 トム・ストッパードの『ロゼギル』とか読んだことありますけど、他の作品も今この『ロックンロール』から入って、気になっています。
坂口 ぼくはこれで、一応、天国の井上二郎君にまぁ、少しでもお返しできたかなと。
植本 取り上げたぞと。
坂口 やってみました。彼は「けっ!」って思うだろうけどね。
植本 好きな人は好きなんだろうね。本当に。
坂口 なんかなぁ。井上二郎君はすごい理屈屋だったんだよね。うるせえ!っていうくらいの。
植本 いいバランスだったんじゃないですか。きっと編集長と。
坂口 すごく信頼できる男だったんですけどね。
植本 肌触り、直観で行く編集長と。
坂口 そんなわけで個人的な感情も入って。
植本 それも分かってよかった!わははは。



植本 潤

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うえもとじゅん岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。


【出演情報】
こまつ座『イヌの仇討』

チラシ-thumb-262xauto-427
作◇井上ひさし
演出◇東憲司
7/5〜23◎紀伊國屋サザンシアター

こまつ座 http://www.komatsuza.co.jp/

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坂口眞人

さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

(文責)坂口眞人



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三島由紀夫『椿説弓張月』

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公演チラシ

坂口 今回は曲亭馬琴が原作の『椿説弓張月』ということで。
植本 三島由紀夫の作。
坂口 どうですか?思ったより簡単に読めた。
植本 うん。お互い年ね、年を重ねたっていうのは、もう、若い頃だったら何が何だかわかんなかったと思いますよ。
坂口 そうですね。でもまあ、分かんないこともいくつかありつつ、読んでいくと何となく話が繋がっていくっていう感じではありますよね。
植本 びっくりしたのは、三島由紀夫さんが亡くなったのが、自分より全然若い時なんだってことが、ショックでしたね。


三島の画像

坂口 そうですか。この作品は1年前ですよね。
植本 亡くなる、自決の1年前、昭和44年。
坂口 44年か。は〜、そうですか。亡くなる1年前に、こんなすごいものが書けるって。
植本 もちろん、三島さんは歌舞伎好きっていうのはありますけど、それにしたって、小説家がこれだけの歌舞伎の本が書けるもんかって、それも驚いた。
坂口 もう本当に天才じゃないと書けないですよね。擬古典?
植本 擬古文なんですね。
坂口 だから、歌舞伎の、あえて昔の言葉で書いている。
植本 それがやりたかったことなんですね。三島さんがね。
坂口 それが現代に歌舞伎を、もう一つ新しい歌舞伎を復活させるというイメージも彼の中にはあったようで、昔の言葉でやることに意味があった。歌舞伎のおもしろい要素、あらゆる場面を集めてきたみたいな感じ。
植本 スペクタクルですよね。大がかり。出てくる道具もいちいち大きくて。
坂口 だけどいろんな地味だけど歌舞伎になくてはならない愁嘆場とかの場面もあるという。
植本 よく計算されて書かれていますね。主人公が源為朝。
坂口 はい、ひと昔前の人だと義経なみに、みんな知っている人です。
植本 弓の名手なんですよね。
坂口 身長が7尺ってデカい。歴史的に言うと、保元の乱の頃、1000年ちょっとかな?
植本 源平の頃で。
坂口 「保元物語」に出てくる強弓の武将鎮西八郎為朝の話です。
植本 それを基に曲亭馬琴が書いた当時の大ヒット作を、三島由紀夫はばっさり前半を切ってるんです。もう為朝が伊豆大島に追放されているところから始まってますからね。
坂口 この作品はおおよそ負け組を書いてますよね。そこが彼の美学っていうか。



植本 最初が伊豆大島で、次が讃岐、最後が琉球なので、とにかく海なんですよね。
坂口 少しだけ肥後の山中の場面がありますが、またここもすばらしい。
植本 だからおのずとね、スペクタクルなんですよね。船も出てきますしね。
坂口 海の場面って華やかで気持ちがいいですよね。最初から見ていくと、上の巻っていうのが「伊豆國大嶋の場」。これはあれですね。為朝が流刑された場所で、そこの代官を追い出して、自分が島の主人になってその代官の娘を嫁にしてるのかな。で、子供もいるということですね。一応、この物語では本当の奥さん白縫姫は死んじゃってるっていうふうに言われていて。
植本 そうかそうか。
坂口 っていうことになっていて、そこで、お祝い事っていうか。「新院の御忌日」っていってますね。これ、話があれだけど後鳥羽院だっけ?誰の?
植本 え!? 崇徳じゃなくて?
坂口 崇徳が上司なのか?
植本 崇徳上皇が。
坂口 崇徳上皇がこの人の親分?
植本 そうですね。
坂口 で、彼が死んじゃっていて、その命日がまずこの場面ですかね。ま、いろいろあるんですけど、そこに今まで、管理してた代官たちが平家と組んで攻めてくるっていう。そのなかで為朝のいろんな考え方とかが披露されていくんですけどね。おもしろいですよね。
植本 祭りがあったり、その中で人形振りを見せたりして、凝ってますね。
坂口 凝ってますね〜。イベントで盛り上げつつ人間関係を知らせて。で、戦になる。
植本 奮戦するも敗れてちりぢりになるんですよね。
坂口 まあ、史実だとここで為朝は自害するのかな。で、この物語では追われてどこに行くのかっていうと、中の巻で讃岐の国。



植本 まず讃岐なんですね。
坂口 海つながりだから。もともと彼はここに来たいんですよね?
植本 そうなんだっけ?
坂口 だって上皇のお墓があるから。
植本 ああ、それが讃岐か!で、自分は負けちゃったから上皇のお墓の前で死のうとすると、崇徳院の霊が現れる。お父さんの霊も、為義だっけ?
坂口 そう。だから彼は大島で負けて、しょうがないから主人の墓の前で自決しようと思うんですよね。でも、そうすると霊が出てきて「いやいやおまえさん、待ちなさい」。
植本 「あと10年すると平家が滅びるから。ちょっと待ちなさい」って言って。しかも肥後の方に行くといいことあるみたいなことを言って。フフフ。
坂口 為朝は「武運つたなき身を恥じて、御稜の御前にて腹を切って果てん志」って言ってるからさ。これはずーっとずーっとお芝居の中に為朝の意識としてある。
植本 鮮やかですね。急展開ですし。場面も一気に違うところで。
坂口 うん、ここもお化けっていうか、怨霊?
植本 霊ですね。
坂口 カラス天狗みたいな眷属(付き添い)も来て。見所はたくさんありますよね。崇徳上皇か。「すさまじき蒼白の顔」とかおもしろいですよね。
植本 「その命に従い、肥後に行きなさい」ってね。



坂口 肥後では、何だっけ、歌舞伎の、『忠臣蔵』山崎街道の場とかでもあるような。
植本 はいはいはいはい。山のね、猪が出てくるんだよね。「肥後国、木原山中場」。人食い猪を為朝が素手でやっつけるっていう。ふふふ。怪力ぶりを示す場面です。
坂口 だけどそこにもひとひねりあって。猟師にだまされちゃうんですね。
植本 祝い事と称して、酒に入れたしびれ薬を飲まされてしまい、「う〜たばかったな」みたいなところで終わってて、次、「山塞の場」に移っていきますよね。
坂口 ここらへんも上手だよね。猟師のしきたりとかって言って、撃ち取ったら、その場で肉をさばいて食って酒を飲まないといけないとか。
植本 ふるまい肉みたいな。
坂口 ルールなんだよとか言われて。
植本 「あー、そうか」と飲んで、まんまとしびれて。
坂口 ここらへんは、もう流れは好調だよね。で「山塞の場」、御殿作りを模した山のなかにつくった砦みたいなところですね。



植本 この場面はもっとも三島っぽいひとつの見せ場ですね。裏切り者だった武藤太っていう人がここに捕らえられてきて、頼朝の本当の奥さん白縫姫と対面する。おまえのせいでっていうことで、腰元とかが、裸にして、
坂口 木の釘?
植本 竹だっけ?
坂口 身体中に、
植本 順番に打ち込まれる。
坂口 すごいシーン。
植本 惨殺な、陰惨なシーンなんですけど、その一方で白縫は琴を弾いている。
坂口 雪も降っているんだよね。
植本 はい。
坂口 だから真っ白い場面で、琴の音が流れて、歌も歌ってるんだよね。
植本 うん。
坂口 そこで、武藤太が、右肩とか、左肩とか腹とかにだんだん
植本 竹の釘を打ち込まれて。
坂口 うん。それも腰元が木槌で打つんだよね。
植本 そうです。
坂口 すごいきれいで凄惨な場面なんでしょうね。
植本 三島っぽい。
坂口 ここは少し台本を入れてみましょう。

※千草 申し、お舘様(白縫姫)、この人非人のお仕置きは、
腰元山荻 首を刎ねても飽き足らず、やつに裂いても気がすまず
腰元木實 為朝様に成り代わり、御遺恨晴らす成敗は
腰元葛木 なぶり殺しかなぶり切り
腰元椎葉 何ぞよい思案はないかいなう。
千草 ヲヽよい思案がうかんだわいなァ。
他一同 千草様、その思案とは。
千草 肥後の山賊に傅へらるる、木槌の仕置がよかろうわいなァ。
他一同 モテまあ恐ろしい。
千草 お舘様、いかがでございまする。
白縫 そちたちで宰領しや。わらははここで琴歌の手すさび、千草、琴を持っておじや。
千草 ハハァ。
(ト 腰元たち、琴を持ち來たりて、白縫の前に置く。又、木槌五本と、竹釘澤山を持ち來たり、瀧平に手つだはせ、武藤太を下帶一本の赤裸にし、下手勾欄の左柱にうしろ手に縛つて坐らせ、瀧平に目じらせして去らせる。この間、雪下ろし。雪しきりに降る)
※「椿説弓張月」中の巻より


坂口 白縫姫は板東玉三郎の若い頃。
植本 初演がそうなんですね。まだ十代って言ってましたね。
坂口 19才かな。だからここでデビューするっていうか。
植本 それも一説によると、大きな襲名イベントが同じ月にあって、みんなそっちにかり出されていて、人がいなくて。玉三郎が抜擢されたらしいんですよね。
坂口 それはでも、本当に美しい人がやった方がいい。
植本 それで一気に名声を得て。
坂口 ここは誰が見てもおもしろいでしょ。
植本 うん! 不気味だし。
坂口 きれいだし。恐いし。
植本 一方で、為朝さんが、ここに連れてこられるんだけど、相手が自分の奥さんだから、「あら、あなた」って言って、しびれ薬を飲ませた方がしかられるみたいな。
坂口 そうですね。しびれ薬を飲ませた2人組は元武士で、ここの雇われ人だったわけですね。
植本 ・・・そして息子にも会え。
坂口 ここらへんの武藤太と白縫とのやりとりとかも、長セリフだけどすごいおもしろいよね。まあ、ここで武藤太がすげえ憎たらしいやつだと思えないと、なかなかその場面にたどり着かないから。・・・だって、「首をはねても飽き足らず、八つに裂いても気が済まず」って言うくらいだからさ。このくらい人を恨んでみたいですね。



植本 他にもキャラクターとしては、高間の太郎とか、喜平次さんていう人。
坂口 付き添い。子分だよね。
植本 家臣っていうか、よく働いてくれる人ですね。喜平次さんとかはね。
坂口 この台本、割セリフとかも読んでいると、気持ちのいいセリフ回しですよね。やっててもすげぇ楽しい、おもしろいんじゃないかなって思うんだけど。
植本 義太夫狂言だしね。三味線に合わせて、セリフを謳うような、語るような感じが。歌舞伎にもよくありますけど、それはもう心地いい。
坂口 その心地よさが、彼のひとつのメインテーマでもあるんだよね。 歌舞伎って楽劇だから。そこをはずして何が歌舞伎かっていう。セリフの一つ一つの言い回しがとても気持ちがいい。
植本 演出も三島さんなので、掟破りの浄瑠璃の方々を連れてきたみたいですね。
坂口 ああ、そうなんだ。このためにわざわざ作曲してるんですよね。新作だから当たり前ですけどね。もちろん、分かんない言葉も出てくるんですけどね。それを含めてもいいなぁって。読んでて楽しくて。で、ここでまあ、もう一回家臣がそろうんですよね。大島から逃げ出して来て、ここで本妻も含めて全員集合。。
植本 そうですね。「よし!じゃあ平家を倒しに行こう!」って。
坂口 隊制を整備して、「平家の赤旗をなぎ倒さん!」って行くのが次の場。



植本 「薩南海上の場」。船です、セットは。大きな船で。
坂口 結局、最終的には琉球に流れ着いちゃうわけですよね。だから薩摩からどこに行こうとしてるの? 京都?
植本 そうだね。「海路はるばる都を目指し」だから京都に行こうとしてるんだろうね。だけど、海が荒れちゃうんでしょ。
坂口 いたるところでこう、障害が。
植本 そうそうそうそう。
坂口 彼はすごく強いのに何をやってもうまく行かない。
植本 ヒーローに障害ありみたいな感じなんだよね。
坂口 ここもいい場面ですよね。一面波布で。浄瑠璃出がたりで。気持ちのいい場面じゃないですか。
植本 でも天気が悪くなって。
坂口 まぬけな話だよね。「うおー!」って行こうとすると、途端に海が荒れちゃって。行かれなくなっちゃって。奥さんは、
植本 海に飛び込むと。
坂口 昔の話にそういうのが、ヤマトタケルの弟橘姫。
植本 ああああ。そうですね。ありますね。
坂口 それに習って自分が海に飛び込めば、波が静まるだろうっていうことで飛び込む。
植本 そうすると黒アゲハになるんです。すごいでしょ。大きさ的には、80cmくらいの黒アゲハって書いてあったような、座布団くらいあるのかな。
坂口 後書きにも書いてあるけど、あえてウソを見せることで、より劇的効果を上げたいみたいな。
植本 わかりやすく糸が見えたりとか。
坂口 ここ重要ですよね。習慣でやるのではなくて、意識してやる。
植本 すごい離れてるのに矢の大きさが向こうもこっちも同じ大きさとかね。
坂口 あえて、そういうふうにしている。

歌川国芳画

 歌川国芳画


植本 喜平次さんと為朝の息子俊天丸が巨大な魚に襲われる?
坂口 あれ、よく浮世絵にある北斎の絵にあるやつじゃないですかね?
植本 そうなの!?
坂口 でっかい魚に襲われると、
植本 助けるのが黒アゲハで、魚を静めて人間2人は背に乗って
坂口 琉球に行く。
植本 すごい話ですよ。ははは。
坂口 そうだよね。その前に船が真っ二つに割れちゃう。もう一人の高間の太郎は、
植本 高間の太郎と奥さん?
坂口 は別の船で
植本 岩に流れ着いたところで死んじゃう。
坂口 このまま溺れて死んじゃったら武士の恥だからって。
植本 生き恥をさらすよりって言って、奥さんをまず殺してあげて、自分も死ぬ。
坂口 岩の上でね。しかもそれを大波がさらっていく。
植本 そう! すごいね。
坂口 だから「薩南海上の場」では、そうやって、もう彼の意思がすべて打ち砕かれる。しかもなんてことはない、天候に打ち砕かれるまぬけな話。になっちゃうんですね。
植本 でもまあ、チョウチョが現れたり、海が静まったりいくつも不思議なことは起きます。



坂口 下の巻になると、いきなり琉球。なんか、ものの本によると、当時の江戸では琉球ブームだったとか。
植本 ふーん。
坂口 ここは敵と味方がよくわかんないみたいなことになってませんか?
植本 そうですね。すでに琉球では王位継承者とそれをこばむ人がいて。
坂口 それがよく分かんない。「琉球国北谷最上の場」っていうのが最初に出てくるんですけどね。
植本 これさ、本に道具帳っていうか絵が入ってていいね。琉球になると棕櫚の木とかが出てきて。歌舞伎で棕櫚の木が生えてて不思議な感じがする。南国の植物。
植本 これおかしいね。琉球だから、ト書きでもカタカナで「ガジュマル」とか書いてあるんだけど。
坂口 それはそうだよな。
植本 豚の角煮?これもさ、猪子の角煮って書いてあるのが沖縄っぽい。
坂口 そればっかり食わされてるから嫌だって子供が言ってるよね。もういい加減にしてって。
植本 おもしろいなぁ。
坂口 そうすると、豚の耳のお吸い物ならいいだろうと。
植本 ミミガーだよ。ふふふ。
坂口 おもしろいんだけどさ、この場面は説明がしずらい。いわく因縁がたくさん交錯して、基本愛情のいい話なんだけどね。
植本 ここは唯一、ちょっと為朝とは関係ない話っていうかね。入り組んでます。
坂口 そんでラストですね。
植本 最後はもう、為朝の息子の俊天丸が琉球の国王俊天王っていうことになる。為朝は「ぜひ王様になって」って言われるんだけど、固辞して「じゃあ、うちの息子に」と。「自分はもう死にたい、崇徳上皇のところに行きたい」って言うと、海の中から白馬が現れ、それに乗って飛んで行っておしまいです!
坂口 彼は、そうずーっと思っていたわけだから、彼の望み通りにある意味なったっていうことだよね。平家をやっつけようとも思ってたんだけど、この時は平家はもう滅びているんで。
植本 そうですね。
坂口 だから一応、彼の中ではいろんな事が解決はしてる。平家は滅んで、崇徳上皇の元に行けるっていうのがね。
植本 最後、白馬出して来たかみたいなね。
坂口 で、ここで最初と繋がるんだよね。最初の大嶋の場も崇徳院の命日だったでしょ。 これもまた命日なんだよね。ちょうど対になってて、やっとここで彼の想いが遂げられるっていう。平家ももう滅びて、もう自分の役割は終わって、大好きな人のところに行って死にたいっていう、彼の思いがあるわけだから。三島的にはそれなりに気持ちが巡ったっていうか。
植本 だから三島由紀夫としては通しでの上演しか考えてないと思うんですよ。
坂口 これ素晴らしいですよ。
植本 見たことないから、ぜひ近々でやって欲しい。
坂口 うーん、でもまぁ、あんまりちゃちくやられても嫌かな。
植本 そうね。
坂口 どうやればいいのかっていう話だよね。
植本 たぶん、この通りでいいと思うんですよ。三島さんの目指したもの? さっき言ってたみたいなウソみたいなことがいっぱいあってね。
坂口 これをベストに演じられる人が、本当に本気でやってくれれば。
植本 ねー。
坂口 それこそ三島の生霊が出てきて演出して欲しいよね。
植本 はははは。そうなんですよね。天才だなと思いました。単純に。
坂口 もう本当に。これはもう誰にもできない。書けない。



坂口 花組芝居でやるかな?
植本 加納さん、興味あると思うんだ。
坂口 ね。
植本 三島がどうやりたかったかも分かってると思うんで。
坂口 歌舞伎のエッセンスがたくさんつまった台本ということで、ぜひ。
植本 前にぼくらがこのコーナーで取り上げた『四谷怪談』もすごいおもしろかったけど、これはこれで。
坂口 へんな言い方すれば、おもしろいところのダイジェストみたいな。
植本 それ本人、意識してるからね。
坂口 それを認めるかどうかっていうことでしょうね。
植本 ぜひ通しで見たいです。



植本 潤

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うえもとじゅん岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。


【出演情報】

ゼータクチク vol.2
『春宵・読ミビトツドイテ』
【構成/演出】わかぎゑふ
【出演】草彅智文 亀山ゆうみ 植本潤 粟根まこと
3/22(水)~26(日)
cafe&bar 木星劇場

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坂口眞人

さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

(文責)坂口眞人



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