ファブリス・メルキオ『ブリ・ミロ』

Fabrice_Melquiot

植本 今回はファブリス・メルキオさんの『ブリ・ミロ』。
坂口 フランスの方ですね。知ってました?
植本 いや、全くノーマークですわ。
坂口 タニノクロウさんがやってたんですね。
植本 6年くらい前ですね。知りませんでした。なんでこれを?
坂口 本屋さんで次のネタを探していて、お芝居の形がモノローグとダイアローグでできていて、面白そうかなと。
植本 混ざり込んでるというのか、会話の途中で突然客席に向かってセリフを言いますね。
坂口 そう。その部分はモノローグですよね。自分の心境の説明とか、場の説明を登場人物がそのまま客席に向けて語る。で、また、すぐ普通の会話に戻る。
植本 知らなかったけどかなり有名な方なんだね。youtubeとか見るとそれの舞台の映像も見れますね。
坂口 あ、見た?
植本 見た。あとそれの予告みたいなの作ってる団体とかもあって。そういうの見るとカラフルな舞台でやっぱり会話の途中で、俳優が一人でお客さんの方に向かってる映像ありましたよ。
坂口 あとは普通に芝居しているの?
植本 はい。
坂口 ちょっとね、いまどきでは風変わりなお芝居ですね。



植本 この方は1974年生まれで、この作品の初演は2003年ですね。で、お話は主人公ブリ・ミロが生まれるところからスタートします。
坂口 あ!お父さんとお母さんが出てきてね、で、お父さんはでっかい。
植本 そうです。
坂口 屠殺、、、
植本 元々肉を捌く人、、、
坂口 「牛の頭に斧を下ろして牛を殺す。」みたいなことが書いてありました。屠殺人ですね。だからデカくていい体してるお父さん。ダディ・ロトンド、ですね。
植本 お母さんがビノクラ。こちらは極度の近視。
坂口 名前は意訳すると眼鏡ママって書いてあるからそういうことなんだよね。
植本 主人公のブリ・ミロっていうのも太った眼鏡(笑)、だから、、、
坂口 これでいうとデブ近眼。そのまま名前になってる。
植本 それは親がつけたんですよ、わかりやすいようにね。
坂口 お父さんは、、、
植本 ニュアンスを意訳すると太っちょパパ。お母さんの方が眼鏡ママ。で、主人公のブリ・ミロっていうのがその両親の特徴をそのまま受け継いでいる、太ってて視力が弱い、という。



坂口 そうですね。これ思ったんですけど。これフランス語で読んだら倍面白い。
植本 (笑)。それ言ったら身も蓋もないですけどね。
坂口 そうですね(笑)。
植本 でも、、、この訳してる方すごい努力なさってるなって思った。
坂口 はい。でも、、、そうは言っても日本語とフランス語のとか、、、知識、僕らの知識。フランスならではの歴史とかがあって、それと現実の言葉、現実に対しての言葉遊びとかもいっぱい入ってるわけでしょ? それには残念ながら追いつかない。だからフランス人だったらもっともっと面白いんだな、って思いました(笑)。
植本 あ、でも面白かった! 全く予備知識なくて読んだんだけど、これはちょっとおしゃれだなって思った。
坂口 ウンウン。見ててもきっとわかりやすいが故に感じる部分があるみたいな。コミカルな部分もあるし。
植本 だって途中で、実在のシャロンストーンが出てくる(笑)。
坂口 (笑)。チャリティ活動に熱心で、高級商品のCMに出ているおばちゃんね。
植本 有名な女優さんですけどね。
坂口 しかも彼女とのシーンは、真ん中から後位になるんだけど、最初はこの、、、最初からやろうか(笑)。



植本 いいですよ(笑)、話を追ってね。まあ、産まれました。すでに特徴があってね、それこそ視力が弱かったり太ってるんですけど。産まれた時がもう9000gですからね。
坂口 生まれて一週間でブリの体重は12kgになっていた。
植本 まあそれは両親とも気にしてません、自分達の遺伝子だから。でも学校に行くようになって、いじめられたりとかして。
坂口 ものすごい太っちゃうんだよね?
植本 小学校の時に50何kgでしたっけ。
坂口 で、もう一つ要素があって、従兄弟だっけ? 父親の?
植本 奥さんの義理のお兄さんって書いてあるけど。
坂口 まあ親戚みたいなものですよね。そこの夫婦が、
植本 よくこの家に訪れているんですけど。その娘が、ペチュラ。
坂口 が、ペチュラは10歳かな。ブリは7歳。
植本 ペチュラはちょっと歳が上なんですね。
坂口 恋仲になっちゃう。
植本 早いですね
坂口 結構立派なラブシーン。
植本 そうですね。大人だね(笑)。
坂口 会話としては大人。
植本 フランス人ならそのくらいするか。みたいな感じですけど(笑)。
坂口 小学校行ったら恋愛はするわな。
植本 で、なんてーの。駆け落ちしようか、みたいなことになって。親に一応言うんですよ。でも取り合ってくれない。さすがにね。ふふふ。
坂口 彼女はブリ・ミロの太っちょさ加減に一目惚れするんですね。
植本 そうね。まあ性格も含めなんでしょうけど。



坂口 一目惚れして、ブリ・ミロも彼女を好きになって、で、ある時期に彼女の方がスペインに行きますね。
植本 お父さんが気象予報士なんですけど。これ面白いんですね、フランスの気候にあんまり変化がなくてお父さんとしてもつまらなくてスペインなら面白いんじゃないかって言って、スペインに赴きますけど。
坂口 そこらへんも物語の作りとして面白いですよね。
植本 そこから文通が始まったりして。
坂口 その間に、ブリ・ミロのお父さんは失業しちゃいますよね。
植本 それも社会情勢が入ってるんだなと思ったんですけど
坂口 狂牛病で、、、
植本 牛が全滅してしまって、屠殺人のお父さんは首になるんです。
坂口 なんかちょっと面白いエピソードっていうか。そんで彼は失業してるんだよね。
植本 そうすると彫刻家になるんです。
坂口 ああー、なんで??なんで彫刻家??
植本 なんか、ブリ・ミロが龍を怖がるんですよ。そうすると実際に木で龍を彫って見せて、ブリ・ミロとしては「あ、こっから龍がくるんだ」と思って、そういう出てくるところを見て安心して怖く無くなるっていう。それでそれが良かったんで、そのまま彫刻家になるんです。
坂口 生業になっちゃう?
植本 それで面白いのが、ト書きで、その彫刻が龍が火を吐く。っていうところあって。ここがファンタジー。
坂口 (笑)。
植本 そしてあれですよ、それでシャロンストーンがね(笑)。まあ後々ですけど、ペチュラと離れてしまったことでブリ・ミロが急激に痩せるでしょ。そうすると愛のために痩せた。ってことが世界中に広まって、まずアメリカ大統領からお祝いがきて、で、シャロンストーンは自分のでるCMにブリ・ミロを出演させる。そうするとCMのバックには龍の彫刻が映ってたりするんですけど(笑)。
坂口 お父さんの仕事がそこで活きたってこと?
植本 ま、そうですね(笑)。それで食えてんのかどうかってのは書かれてませんけど。転職は見事になさってます。
坂口 でもさ、ブリ・ミロはあんまり太ってていじめられてて、なんか「俺はロシアの体操選手みたいになるんだ」っていう決意するときがあるよね? あれはいじめられてたから決意するの??
植本 なんか「このままじゃいけない」と思ったんですね、、、どっかでね(笑)。
坂口 でも何十キロか落とすわけでしょ?
植本 30キロかな
坂口 どうやって?
植本 なんか、書いてあったけど、、、運動とかしたんだと思う(笑)。



坂口 家庭の中シーンが多い劇なんだけど、けっこう激しいドラマがあるんだよね。
植本 スパッと読めるから、戯曲としての長さもそんなないんだけど、時間経過は早いです。
坂口 なるほどね。
植本 そうこうするうちに、スペインに行ってたいとこ家族が、フランスに戻ってくるんですけど、、、ペチュラが、ね、、、(笑)。
坂口 なんかを食いすぎて太っちゃうんだよね、、、
植本 パエリアです(笑)。
坂口 あー、パエリアがうまいから食い過ぎて太っちょになっちゃうんだね。
植本 「私の姿を見てびっくりしないで。でもあなたは外見にこだわる人じゃないから」みたいなこと言って、まだ自分が太ったとは言ってないんですけどね。
坂口 彼女が戻ってくる。その時が10歳くらいだね。
植本 そう。で、戻ってくるときの手紙っていうのがシャロンストーンのCMに出たことでブリ・ミロが有名人になるじゃないですか。それで学校の先生とかもちやほやしたりとかして、ブリ・ミロがちょっと天狗になっちゃうんですね(笑)、それに対して「私スペインであんたのCM見たけどちょっと調子にのってんじゃないの、そんなあなた好きじゃない。」みたいなこと言って。
坂口 ああ、そうか。、、、植本さんいつになくしっかりストーリーを把握してるね。
植本 2回読みましたから(笑)。いつになくは余計ですけどね!
坂口 (笑)。



植本 で、それに対してブリ・ミロは改心するんですよね。「確かに僕、調子に乗ってた」て言って手紙にも書いてね。
坂口 そこのところは気持ちいいですよね。彼が改心するっていうか「おお俺やばいじゃん」みたいに思うところはちょっといいなあって思いましたよ。、、、で、彼女が帰って来て、
植本 その後、駆け落ちするでしょ。 カレー駅ってとこに行くんですけど。
坂口 これ、具体的に出てくるのはカレー駅だけでしょ? そこに電車に乗って?あ、海だ。
植本 あ。イギリスだ。
坂口 イギリスに渡るんだよね。イギリスの女王に祝福されに行く?
植本 そうそうそう(笑)!ローマ法王じゃダメだって言って、ローマ法王は周りにも似たような衣裳を着た、誰がローマ法王かもわからないし、寝てるんだか死んでるんだかわからないって言って、イギリスのエリザベス女王じゃなきゃダメだ!彼女はクールだから!って言って、ふふふ。
坂口 (笑)、それで行こうとして、カレー市まで。これは電車に乗って行くんだよね。
植本 海が時化てたのかな? そこの駅で止まらざる得なくなってね。
坂口 そこでの話がまたいい話で。
植本 いい話っていうか急展開(笑)。



坂口 電車が止まちゃうわけですよね。
植本 そうすると駅長さんがいい人でね。自分で鬱って言ってますねこの人。そして明日定年退職だって。で、電車の中で泊まっていいよって言ってくれたのですが、そこには自分達だけじゃなくて、、、どこの国だっけ、、、
坂口 あーー戦争してたね、、、
植本 えーっと。アルバニアだ。アルバニアから逃げてきた兄妹、お兄ちゃんと妹がいて。
坂口 そこでいきなり、、、
植本 あの、、、ブリ・ミロとペチュラの二人の恋は、冷めてしまった。一気にね。
坂口 それぞれが、アルバニアの兄妹を好きになっちゃう。
植本 一目惚れ、でね。
坂口 別に理由はないんだよね? 一目惚れ。
植本 突然なんだもん。
坂口 すごいね。
植本 「私たち破局ね」って言って(笑)。
坂口 で、ブリ・ミロはその妹を好きになって、ペチュラはお兄さんを好きになっちゃったよね。、、、それありかな?
植本 、、、ありじゃないですか?
坂口 いや、いんだけどさ。おやおやって、、、ここはよくわかんなかったな。わかるけどわかんないんだよな。



植本 う~ん、なんか、きっと全然違うんでしょうね。戦争から逃れてきた兄妹は自分達が会ったことない人たちなんだろうな、と思うと、ありえるな、と思います。
坂口 そんでまあ、二人の恋は終わって、でも仲良しは仲良しなんだよね。
植本 そうなんです。あともう一つ(笑)。そこにやっぱりシャロンストーンが追っかけてきてて、どうやらブリ・ミロのことが大好きらしくてね。でも、ここでの彼女の書かれ方が酷いでしょ「ゲスで!」みたいなね(笑)。
坂口 嫌いなんだね、作家がシャロンストーンを(笑)。
植本 いいのかなっていうくらいけちょんけちょんに書かれていて。で、ブリ・ミロはお断りするんですよね。僕にはこの人がいるから、とかって。そうすると彼女は駅長さんと仲がよくなっちゃう(笑)。
坂口 駅長は独りで寂しがってたから、
植本 「明日から定年でいくらでも時間はあるから旅行に行こう」って、、、シャロンストーンと多分旅行に行くんです(笑)。
坂口 ハッピーな話で、、、良かったでしょ?
植本 えへへへ。急展開で面白いですね。



坂口 だけど、アルバニアの兄妹は、、、
植本 国に帰りますね。
坂口 戦争してるんですよね。
植本 だからブリ・ミロやペチュラが「一緒に行く」っていうんですけど「戦争だからこない方がいいよ、ここの方がいいよ」って言って住所渡されて、「戦争終わったらくれば?」みたいな。
坂口 それでどうするの?
植本 で、別れて、最後は二人、ブリ・ミロとペチュラになって。私達やっぱり仲良しだよね。って言って、僕、将来駅長になるって言って。
坂口 え?駅長になるって言ってんだ。
植本 うん、ブリ・ミロはね。
坂口 ふ~ん。
植本 で、抱きしめてよ。って言って、あの、、、線路の砂利の上を歩く足音や、電車が出発する音が聞こえて、、、なんか最後の方読んでて、もはや日本のアングラだなって思いました(笑)。
坂口 あーーはいはい。だから僕らが説明するとわかりづらいけどさ、これ読んでると、状況がわかるようにモノローグが入るでしょ。 お父さんとお母さんとブリ・ミロの状況説明、心境説明が入る。それもなんかいいタイミングで入りますよね。それが終わるとまた会話になっていくからわかりやすい。
植本 わかりにくいとこ、どこもなかったですけどね~。これ僕今年ね、『アメリ』ていうミュージカルやったんですけど、やっぱり同じフランスだからなのかちょっと似てる。それもアメリが産まれるとこから始まって、それは女の子が主役だから。
坂口 ずいぶん昔に観た映画は面白かったです。
植本 で、奇妙な癖のある彼氏と出会って周りの人と関わって行くみたいな話で、似てるなって思って。
坂口 そうですね、あれも、断片断片の。ずーーっと物語が繋がっていなくて、場面場面みたいな形でしたよね。



植本 この方なんか調べてもあんまり日本語のものでは出てこなくて、向こうでは有名なのかもしれないけど、日本ではまだまだなんだなって思いました。
坂口 どうしてだろう。
植本 ね。せっかく本も出てるからどっかがやっても面白そうだなって思うんだけど。ボリューム的にも、登場人物の数にしてもちょうどいい感じがしてね。
坂口 わかりやすさもそうだしね。彼が太ったり痩せたり、そういうことはちょっと大変かもしれないけど。
植本 うん、この大統領にしたって、ビルゴアブッシュって色んな人の名前が入ってるみたいな人が出てくるでしょ(笑)。
坂口 フランスでいえばエスプリ?が効いてるっていうんですかね。面白いですよね。
植本 よかったぁ。編集長が自分で持ってきて「あんまり」っていうのかなって思って(笑)。



坂口 いやいや、これ、まず退屈しないのがいいです。で、突拍子も無いことがいっぱい出てくるし、言葉言葉の、、、今はストーリーをメインに話をしてるけど。夫婦の、お父さんお母さんやブリ・ミロの会話とか。従姉妹とのやりとりとかも結構ウィットに富んでる、楽しい会話ですね。ダイレクトな会話だけじゃなくてね。そこのニュアンスも楽しめる劇だと思うんです。
植本 あそこも良かった。ブリ・ミロが学校でいじめられた。それが、お父さんお母さんにしても初めて外の悪意に晒された、みたいなことを言ってて。それまでに家庭の中に悪意というものがなかった。みたいなことが読んでて面白かったですね。
坂口 そうですね。無菌状態みたいな。
植本 まあね(笑)。充分変わってるんですけどね家族としては。
坂口 なんか作家は、自由な人なんだなと思いました。
植本 多作みたいだね。この時点で、これ2008年かな?結構前なんだけど、そこでもう40作くらい書いてる。
坂口 フランス語だから世界にあんまり広まっていかないのかな?
植本 日本に、ってことかな。世界ではきっと結構やられてるんだろうし。賞もたくさん獲られてるみたいだし。だから、いいんじゃないですか。この対談、誰が読んでるか知らないけど、この方を世に広めるってことで(笑)。
坂口 この一作しかちゃんと読んで無いけど、これに関しては、もういつどこで誰がやってもいいんじゃないですか? でも、ほんとにいつになくちゃんと覚えてるね、あんた。
植本 うん、、、昨日の夜も2回目読んだし。いつも読んで、そこから何日か空いて臨むと、やっぱ忘れちゃうんだよね(笑)。ギリギリで読まないと。
坂口 じゃあ毎回ギリギリで読みなさいよ、ハハハ!
植本 忘れるでしょ?
坂口 忘れる!忘れたら植本さんに聞こうって思ってるから。まあ大丈夫。
植本 俺はね、この企画ちゃんとやらなきゃって思ってるからさ。フフフ。
坂口 ハハハ。じゃあ、今日はこれでおしまい。ありがとうございました。


植本 純米

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うえもとじゅん岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。

【出演情報】
四獣『ワンダーガーデン』
作・演出◇わかぎゑふ
出演◇桂憲一 植本純米 大井靖彦 八代進一
11/9~11◎ウィングフィールド(大阪)
11/13~18日◎シアター711(東京)


坂口眞人

さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

(文責)坂口眞人



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アガサ・クリスティー『海浜の午後』

22997001737

坂口 『海浜の午後』、アガサ・クリスティー。
植本 かいひんって読むんですね。
坂口 文庫本に3作のっていて、これが圧倒的に面白いと僕は思うんです。
植本 人が死なないのでびっくりした。アガサ・クリスティーって言ったら人が死んでなんぼみたいなとこあるじゃないですか、犯人探しでね。
坂口 あっさりした話ですね。
植本 だから若いころの習作なのかなって思ったの。そしたら70過ぎて書いていて。
坂口 これ、サービス満点で、観客が飽きないっていう部分について。ある時期の青年団の芝居を見ているようなね。
植本 あー。空間と時間を切り取ってるような感じですね。
坂口 ある時間、浜辺の海水浴場、ちょっとゆるい日常的な展開。でもそれぞれの会話にエスプリが効いている。
植本 場所はゆるいプライベートビーチっていうのかな。
坂口 昔はエリートが来ていたけど、だんだん時代とともに、普通の人も来ちゃう。
植本 浜辺にある小屋を借り切って、そこでひと夏過ごす。みたいなカンジですけど。そのエリアにやってくる若者達とかもいてね。
坂口 そんなひとがいっぱいでてくる。それがその場の雰囲気を作っていく。子供をしかるお母さんが何回もでてきたり、
植本 しょっちゅうボールを拾いにくる青年がいたりね。
坂口 不条理劇みたいな雰囲気もありますよね。
植本 舞台以外の袖に誰かがいるとか、風景が広がっているっていうのを出すの、ほほえましかった。その手法がね。
坂口 ビキニの美女が出てきたり。
植本 はいはい。



坂口 で、小屋にいる人たちは、52歳の奥さんとその旦那さんご夫婦。
植本 常套手段なんだろうけど、ステレオタイプがいっぱい出てきます。
坂口 出てきますね。これも強い奥さんと、、、
植本 決して旦那さんも弱くはなくて、皮肉が口からポロポロこぼれてくる人ではあるんですけど。それでもやっぱり奥さんのほうが強いんですね。
坂口 イギリス人っぽい? イギリス人と話したことないけど。
植本 (笑)。
坂口 真ん中の小屋にはまだ誰も出てきていない。で、その隣は、
植本 マザコンの親子ですね。というかお母さんが強い。息子を支配している。
坂口 すごい嫌な感じに書かれていて、いいですよね(笑)。
植本 「あたし他の母親みたいな、束縛したくないの」って言いながらも、何か息子が行動しようとすると、用事ができたり、気分が悪くなったり、、、それを口実に引き止める。
坂口 わかりやすい。
植本 そうなの。その親子の関係はわりと丁寧に描かれていています(笑)。
坂口 息子が女の子とボートに乗りにいこうとすると、頭が痛いとか、お前はボートが好きじゃなかったとか、、、。
植本 お前にあの女の子は合わない、みたいなこといったりとか(笑)。
坂口 うるせえババアって思いますよね。そこでとなりの旦那が面白い。
植本 ちゃちゃをいれたりしてね。



坂口 小屋の前の浜辺にいる3人の行動も不思議な。あれ夫婦と?
植本 あれどうなんだろう。二人は苗字が一緒だから夫婦なのかな?
坂口 そうだよね。
植本 で、ボブっていう若い男が、、、そこは複雑なんだけどさ、ほら、年の差があるからか「若い男と遊んでもいいよ」みたいな旦那さんなのか、、、不思議な三角関係、、、。
坂口 ね。ボブはちょっと調子のいい男。
植本 そうそう。
坂口 で、そういう海岸の日常風景みたいなことをやっていると、誰か有名な金持ちの、
植本 エメラルドのネックレスが、
坂口 盗まれた。どこか近所の別の場所でね。
植本 そう。持ち去られた。二階から侵入したらしい。っていう。
坂口 よーやっとここで事件が。でも事件が知らされる前には真ん中の小屋からビキニスタイルの美女が、ビキニスタイルって死語ですね(笑)。
植本 当時としては、ビキニっていうのは割と刺激の強いものとして描かれてますね。
坂口 大司教に説教してもらって止めさせた方がいい、みたいにババアが言うよね。ビキニスタイルの美女に男どもが釘付けになっちゃう。ってあれおかしいね。
植本 ふふふふ。
坂口 外国の男の人ってけっこうガン見する(笑)。すてきですね。
植本 うふふ、そうね(笑)。
坂口 それでカミさんに叱られたりしてますね。
植本 何か女性が物を落とすとすぐ拾ってあげたりとか、タバコのライターが必要ならサッと差し出したりとか。うふふ。
坂口 なかなか日本人はスマートにできない。
植本 まず思ったのが、ビキニになったり男どもも裸になったり、これ日本人で上演できんのかなって(笑)。
坂口 しかも72歳の時に書いてるわけでしょ、本当に退屈しないお芝居。そのことがすごい演劇的だな、と思って。



植本 これさ、一番最初に舞台配置図っていうのが載ってるじゃない。
坂口 ト書きを読むと彼女の中にすごいしっかりしたイメージができてますよね。「こういう風にやりなさい、やったらいい」っていうのが。
植本 もちろん、お芝居好きっていうのがすごく感じるし、途中で例えば「ここはアドリブでよろしく」って書いてあったりとか、、、、
坂口 そうですよね。
植本 ミステリー作家としては緻密に作っていかないと、ほころびが出てくるんだろうなって思うんですよね。
坂口 まあ芝居だからね、映画とか小説とかとはまたちょっと違った部分もあるから、多少気楽に作ってんのかなって気はしますよね。
植本 通行人の女性が海藻みたいなのを、登場人物の背中に触れさせて通行していくでしょ? そういうの引っかかるよね(笑)。
坂口 とか、ボールが飛んできてぶつかったり。
植本 結局、意味ないんだけど。
坂口 そう。意味ないんだけど。それが素敵だなっと思って。こういう芝居をみたいです。
植本 なるほどね。いや、日本人にこれができれば本当にいいと思うし。
坂口 ね。で途中から話が事件がらみになっていきます。
植本 盗まれた品らしいものが、この3つの小屋のどこかに投げ込まれたっていう子供の目撃証言が出てきて、、、
坂口 それで新しい登場人物が出てくるんだね。
植本 警部と海浜管理員。
坂口 出てきて突如うるさい母親を説得したりする。
植本 そうそう。家宅捜査を拒むご婦人にね「やれ、じゃああんたは警察に行くの? その姿みられていいの?」みたいな。
坂口 そう。だからそういうメリハリも魅力的。芝居見てたら「お!この爺さんやるじゃん」とかさ。そういう感じになってくるかなって思いますね。
植本 脇役がないっていうか、どれも一癖ある人達だから演じるにあたっては面白いと思う。この役じゃなきゃ嫌っていうのがないもんね。
坂口 見てる人も本当に退屈しないと思うんだなあ。
植本 そうね、、、、脱ぐしね(笑)へへへへ。
坂口 そう、それ重要だよね。美女が脱ぐっていうのはすごい重要だと思う。次から次へと人の出入りもあるし。
植本 で、ほら。上空を飛行機が通ったりとか。
坂口 あ、、、そうだよね。
植本 何回か通るでしょ??
坂口 、、、通る。
植本 すごく効果的だなと思って。
坂口 不安を象徴するとかでもないと思うんだよね、、。
植本 子供の声も舞台袖から聞こえてくる。犬の鳴き声も聞こえてくるとか。すごい頑張って外を表現しようとしてるから。



坂口 凝ってるんですよ。浜辺の風景。
植本 推理ものとしては最後、、まあメインとしては男性二人ですよね。女性ももちろん一味なんだけど、、、、
坂口 男性二人ってあれ?
植本 宝石商っていうか、宝石の売買をしてる。しかも盗品の。
坂口 あの52歳のカミさんにいつも叱られてる旦那さんが盗品専門の宝石商、だったんだよね。それでもう一人は浜辺にいた3人組の歳とった旦那さんって言われてた人が泥棒の親方?
植本 プロ。
坂口 自分がやったかどうかはわかんないんだけど。で、そこが、最後、オチか。
植本 体がちょっと不自由だったのに、不自由だった足をちゃんと組んで終わる。っていう。おしゃれ。
坂口 全編おしゃれだよね。しかも自分の推理作家としてっていうテリトリーの中に持ち込んでちゃんと作ってる。このおばちゃんはすごい!
植本 綿密に色んなものを組み立てながらっていうのがよく伝わってきます。
坂口 人物の造形もパターンだからこそ活きてくる、それぞれの人物の組み合わせがコミカルじゃないですか、登場人物が。
植本 しかも人が死なないから、コミカルさが余計に浮き立つ。悲惨さがないからね。
坂口 「そうだよね、こいつら言いそうだよね!」っていうのがずーっと続いてる。変な話なのにずっとそれが納得できちゃうっていうのがね。いろんな関係がすごく上手に描かれてる。
植本 どうでもいいのに、マザコンの男の子がちょっと自立して終わるでしょ? それいる? って思いながら(笑)
坂口 (笑)でもさ、恐妻家のジョージのキャラクター作りにも役立っていて、最後の方で彼が男の子に「がんばれよ」っていう。
植本 うんうん、一歩踏み出せない若者のケツをたたく。
坂口 最後シーンで、恐妻家の男と年の離れた夫の二人が盗品を扱う仲間だったっていうのがちょっとしたオチというか、また違う面白さがあるよね。
植本 そこがわかっていると、演じる方も逆算して作ってくんだろうな、って。どこかで匂わせてね。楽しいだろうな。こういう芝居に出て演じるのは。



植本 アガサ・クリスティーがこんな小品を書いてるのは知らなかったですね。
坂口 僕は戯曲書いてることすら知らなかった。ちょっと恥ずかしい。
植本 15作品くらい書いてるんでしたっけ。100作品以上残してる方だから多くはないんでしょうけど。
坂口 良かったです。
植本 肉体美とかハダカになることを除けばやるのは楽しいな。日本人でも。
坂口 自分がハダカになるのが嫌なの?
植本 そんなに見せられるモノじゃない、、、
坂口 それはしかたない。醜い肉体も見せてなんぼ(笑)。
植本 (笑)中途半端だからなって思う。自分の肉体がね。
坂口 いい肉体を見せるためにやってるわけじゃないからね。
植本 美女の役とか除けば、ね。
坂口 (笑)そうそうそう。素晴らしいよ。ぜひ。でもあれなのか、ちょっと小劇場っぽいっていうか、大劇場ではやりづらいかもしれないね。
植本 規模的に?
坂口 規模的にというか、売りがないっていうか、、、すごく面白いけど、自分の中では小劇場で観てるみたいな気分で読んでたから、これ大劇場でやるってイメージがちょっとないかも。だから皆が手をださないのかな?
植本 この作品の名前も初めて聞いたし、やってるの勿論見たことないから、でもまあ本当になかなかそういう文化、未だに日本では根付きませんけど、会社帰りの方々とかが、ちょっと寄ってその後バーで呑んでってのに向いてると思いますけどね。、、、誰かやればいいのに(笑)。
坂口 どうなんすかね(笑)。

植本 純米

a6a4c939

うえもとじゅん岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。

【出演情報】
四獣『ワンダーガーデン』
作・演出◇わかぎゑふ
出演◇桂憲一 植本純米 大井靖彦 八代進一
11/9~11◎ウィングフィールド(大阪)
11/13~18日◎シアター711(東京)
※10月に札幌えんかん公演あり(会員限定)


坂口眞人

さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

(文責)坂口眞人



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長谷川伸『瞼の母』

Shin_Hasegawa

植本 長谷川伸『瞼の母』。なぜこれを?
坂口 映画ですね。中村錦之助主演で加藤泰監督のすごくおもしろい映画があったんですよ。
植本 あ、僕DVDで観てます。
坂口 木暮実千代がお母さん役をやって、中村錦之助の忠太郎がかっこいい。
植本 かっこいいね。キラキラしてるね。
坂口 任にあってるっていうか、早口で上っ調子の声と、切ない顔のすてきな中村錦之助がいてね。
植本 加藤泰監督って割と実験的なものを撮ったりする監督でしょ?
坂口 以前このコーナーでやった福田善之の『真田風雲録』をミュージカルで作ってますね。僕は加藤泰監督の任侠ものが大好きで、けっこう観てたんですよ。
植本 おー!俺のなかではこういう任侠モノと編集長はあんまり結びつかないんだけど(笑)。
坂口 70年頃とかに観たんですかね。池袋の文芸座とかでオールナイトでやってたりとか。
植本 一晩で名作が4、5本かかってるやつね。
坂口 そのあとで藤純子の『緋牡丹博徒』がね、何作かが彼の作品なんですね。どこを切り取ってもすごいかっこいい絵面で、しかも情感が激しく伝わってくる。ワクワクしながら観てました。


植本 すごく迷ったんです。『一本刀土俵入り』と『瞼の母』どっちにするって編集長に言われて。どっちも良いですけど。なんとなく『瞼の母』に。映画も観たことあったし。あとね2時間ドラマで一場面を演じたことがあるんです(笑)、お母さんのほうね。
坂口 あっはっはっはっは!
植本 ほんとに一場面ですよ。劇中劇みたいなね。それで思い入れがあって。でも戯曲として読んだときに編集長どう思うのかなって。
坂口 ヤクザのいいっぱなしのセリフみたいなのが好きですね。まあまあ、話をおっていくと、
植本 わりとシンプルですよね話自体は。
坂口 主人公の名前は…番場の忠太郎。どこ、関西?
植本 近江ですかね。よくわかってないんだけど(笑)。
坂口 お父さんが旅籠屋をやってるんだけど生活が乱れてて、五歳でお母さんが出て行っちゃう。
植本 多分暴力だったり、放蕩だったりっていうことなんですかね。
坂口 それでお父さんも12歳で死んじゃう。で、母を訪ねて諸国を巡っている。
植本 やくざになってね。
坂口 場面の最初は、千葉のほうの親分たちの諍いがあって、それに関わっていて、男友達と逃げてくる場面が金町の瓦焼きの家? そういうシーンから始まるんですね。
植本 弟分の半次郎っていうのと番場の忠太郎がね、半次郎を家に送り届ける感じなんですかね。
坂口 そうすると家には半次郎のお母さんと妹がいて。「堅気になれ」とかいろいろ言うなかで、追っ手の二人が。追っ手の二人も悪者だけど可愛いよね。
植本 そうですね。凸凹コンビみたいで。
坂口 そう。悪者だけど筋を通すというか。
植本 理由があってきてるわけだもんね。敵討ちですから。
坂口 親分のね。それをやって名をあげて出世したい。っていう1人ともう片方は乱暴者で「とにかくやっつけちゃいましょうよ」みたいなシーンがあるんだけど、ここもちゃんと定番。家の周りで子供たちが遊んでて、子供たちと乱暴者たちとのやりとりがあって。
植本 「こいつ知らねえか?」「知らない」「知らねえはずないだろ」みたいなね(笑)。
坂口 序幕としては場面をわかりやすくしつつ和ませていくみたいな。
植本 子供たちがでてくるのがいいですよねやっぱり。


坂口 番場の忠太郎は怪しい奴が来そうだからって待ってるんですね、すると二人がくる。そこで忠太郎が間に入って、
植本 半次郎を助け、
坂口 二人を斬り殺す。
植本 そうなんです。そこらへんの切った張った簡単に行われるので、
坂口 スバラシイ。
植本 ト書きでね「あ、もう死んだんだ」って思いますもんね。
坂口 争いの中だけど、ここで忠太郎が望んでること「お母さんを慕ってでてきた」事情みたいなものがみえてくる。
植本 そうなんですよね。半次郎のお母さんと妹は怪しんでるでしょ? 忠太郎のことも。だから自分の生い立ちを説明してね「親っていいな」みたいなことを(笑)。
坂口 僕ら感覚としては「親なんてそんな~」って思うけど、作家自体が母親と、
植本 3歳か4歳で生き別れになっていて。それもやっぱり父親の暴力だったりとか。
坂口 だから割と自分の感情も入ってるのかな。
植本 自叙伝的な作品って言われてますね。これね。
坂口 まあ二人をやっつけてじゃあ自分は江戸に。母親が江戸にいるらしい。といううわさで、、、。金町だからそんなに遠くない? 金町ってあの金町? 江戸川沿いなんだよね。
植本 そうなの?地理的なことはよくわからない。


坂口 次の場面は江戸ですね。ここは全体の流れとはあまり関係のない。彼の感情を説明する場面というか。
植本 もう会う人会う人がお母さんに見えてしょうがないっていう。
坂口 でも、其処此処にそれぞれの事件があって情が通ってる。で、その場面ていうのが夏の街、音曲が入るんですね。ただの劇伴じゃなくて、その場その場で実際に起こっている“音”ですね。
植本 そうかこれこんなに季節がたってるんだ。
坂口 そうそう。そういう説明もしてあったよ。場面が違って見えるようにしなさいとかね。で、夏の夜で、三味線弾く乞食ばばあみたいな人が、酔っ払いに唄わせて、それで銭を稼いでる。
植本 なのにお代を払わないで行こうとしちゃうお客とかがいて。
坂口 それをみていた忠太郎が怒って...。もしやおっかさんじゃないかって思ったりする。これあれだよね、金町から場面が変わって、つたない三味線と歌が入って、江戸の夏の街の情景があって、見てる人の気分もまたさらっと変わるじゃないですか。でも忠太郎の想いがまたひとつわかりやすくでてくる。無駄がないと思うんですよね。


植本 忠太郎はどこいっても金の無心か、とか言われたりするんですけど、お金持ってるんですよね。100両。その100両も博打で儲けたお金なんですけど。だからその三味線弾きのおばあさんにも気前よくお金あげたりしてね。
坂口 「どうせ博打で稼いだあぶく銭だ」そんなこと言ってみたい。でも考えてみれば僕らの稼いだ金なんてみんなあぶく銭だもんね。
植本 それはたぶん、長谷川伸さん自体がそうなんじゃないかな。って言ってて。お弟子さんが池波正太郎さんなのかな。
坂口 そうですね。
植本 池波さんのエッセイとかで「長谷川伸さんはそういう人だった」みたいな。「ありがとうだけじゃだめだ。ちゃんとお金なり何か一緒じゃないとだめ。」みたいな。
坂口 あ~。
植本 なかなかできませんけど(笑)。
坂口 (笑)どうせあぶく銭なんだから。
植本 ありがとうはすぐいえるんですけどね~。


坂口 ははは。その反省は置いといて。で、夏のシーンになって、すぐ冬の街の様子、、、これはあれか、ここではまだおかみさんの家には来ないの?
植本 次じゃないの? どこだ、、、?(しばしページを一生懸命めくる二人)あ、これか。一瞬出てくる親孝行な息子がお母さんをおぶるっていうのが冬ですね。
坂口 仕事帰りの息子と、芝居かなんか見にいったお母さんが偶然に街で出会って。
植本 短いシーンだ。「疲れたかい、おぶってやるよ?」っていうと「そんなことをさせられないよ。馬鹿いってんじゃないよっ。」「息子だから恥ずかしくないよ。」みたいなね。
坂口 そんで?彼はどんな役割を果たすんだっけ?
植本 だれ?
坂口 番場の忠太郎。
植本 「いいなあ~~」て言うだけですよ。
坂口 それだけ~? ああ、、、親子の情愛。
植本 「幸せなおふくろさんと息子さんだ、羨ましいな」って一言だけ言って終わってますよこのシーン。
坂口 中村錦之介が言うといいんだよね~。本当に素晴らしい役者と監督が出会ったな、って。また映画の話になっちゃうんですけど。
植本 この、冬の夜の街、ってシーンは超短いです。
坂口 だから上手にシーンを入れて、観客の気持ちを盛り上げていくっていうかさ、気分も変えていく。すごく上手ですね。真っ黒い冬の夜ってあるでしょ? 芸者衆が出てくるでしょ? ここも歌っていうか、口三味線で、お姉さんとその仲間が小唄? を教えあったりしてる。そこで魚屋の二人と行き違う粋な場面がありますね。芸者がツンツンして行っちゃうと魚北って奴が「チェっ。業平様のお通りに気がつきゃしねえ」っていうさ、ちょこっと素敵な台詞を言ったりね。仲間が「でもお前なんか業平じゃねえよ」みたいなそういうやりとりって観客の心をくすぐる。「おっ」って思ったりしますよ。


植本 そしてこの物語の重要人物、金五郎って人が登場します。素めくらの金五郎。
坂口 これ、言っていいの?
植本 なんかね、でもこの人目が見えないわけじゃなくて“素すめくら”っていうイカサマの手法らしくて。博打用語の一つっていうか。
坂口 専門用語なんすかね。隠語が頭についてるくらいだからさ、相当だめなやつなんだよね。
植本 そうだね。悪い奴ってことがこれでもうわかってるんだね。その人が、忠太郎の本当のお母さんに恋をしてるっていうか、歳が金五郎は30歳超えたくらいなんですけど、女将さんは10も15も若く見える。っていうけど50は過ぎてる。歳の差がある。でも好き、好きっていうか。
坂口 好きっていうか店を乗っ取ろうっていう魂胆。
植本 そう。
坂口 いやったらしいよね。女将さんの設定もおかしいよね。常に若く見えるって、ずっとト書きに書いてある。
植本 そこおすんだっていう。やる女優さんも気持ちいいよね。
坂口 誰がやるんだよ~って思いますけどね。ちょっと、、、映画の木暮実千代は老けてたかな。
植本 (笑)きれいでしたけどね。


坂口 で、次の場面でやっと忠太郎のお母さんが経営している料亭「水熊」の場面になりますね。
植本 昔は仲が良かったという夜鷹が入ってきたりとか。
坂口 そうですね。
植本 夜鷹の人に対してもやっぱり忠太郎は「お母さんかな?」っていう、、、
坂口 ちょっと病気だよね。
植本 誰でもお母さんに見えちゃうから。
坂口 それで、そのおばあちゃんはお店の者とごちゃごちゃやって追い出されて。
植本 結局、忠太郎は夜鷹のおばあさんにもお金を渡すと、夜鷹のおばあさんはありがたがってね「私に最近こんなに優しい言葉をかけてくれた人はいない」って言ってお母さんの素性をちょっと話してくれるんですよ。
坂口 でも忠太郎はぐずぐずしてるんですね。立派なお店だし、自分が会いに行っていいものかどうか、店の者と門口でもめたりしている。その間に、お母さんの方にやっとフォーカスされて、、。
植本 見えないところで声だけするんでしょうね。「店先でなんかうるさいね、喧嘩かい」みたいなことがあって。
坂口 そこでは、綺麗な格好をしてお客さんに挨拶に出るため、娘が身支度をしています。
植本 看板娘っていうことですよね。
坂口 店の様子もそこでピシってわかる。娘を立てて。「そうか、そういう挨拶をするんだなー」っていうこともわかって。
植本 お客さんもそれを半分楽しみにきてるんだなあ。っていう。
坂口 お店の状況がわかっちゃう。
植本 お金があるってこともわかるしね。
坂口 そうそう。クレバーだよね彼は(笑)。そうこうしてると、わいわい言ってるのをおかみさんが聞き咎めて、
植本 連れてきなさいって。
坂口 私がこんな大所帯をはってんだから、男の一人や二人、すぐ追っ払ってやる。って。
植本 説教してやる!くらいなね。


坂口 で、連れてきて忠太郎と会います。映画だと結構、中村錦之助の忠太郎は感情過多でやりますね。泣いたり、早口でまくし立てたりするけどこの台本を読んでると、そんな感情よりもう少し抑えてやりとりをしているような、、、。
植本 内面というか。
坂口 そうですね、ちょっとこれを読んでて意外だな、この場面はこんな風に書かれているのかって思いましたね。そう、そんで、お母さんは立派な所帯を持っているから自分の息子だってわかっているんだけど「お前なんて知らないよ」って。
植本 その理由の1つは、娘のほうが可愛いっていうか、この子に何かあっちゃいけないっていうのが大きいみたいですね。
坂口 それもすごい説得力があるよね。ただお店を守ろうっていうんじゃ強欲ババアみたいに見えちゃうけど、娘がかわいい。っていうのが一つ入るとちゃんとお母さんにも気持がいきます。
植本 世間の評判だったりとかね。
坂口 お母さんもいろいろ悩んでるだな。っていうのがわかりやすく見えてくる。ここで素晴らしい台詞。「なんでヤクザになってここにくるんだい」っていう。あれは凄く印象に残りますね。「誰にしても女親は我が子を思わずにいるものかね、だがね、我が子にもよりけり。忠太郎さんお前さんも、親を訪ねるならなぜ堅気になっていないのだえ。」って「おかみさん。そのお指図は辞退すらぁ。親に放たれた小僧っ子がグレたを叱るは少し無理。」っていうのがさ、すごいかっこいい!
植本 「堅気になるのは遅まきでござんす」。ふふふ。
坂口 泣いちゃいます。読んでてもどうしようと思うようなかっこいいセリフ!
植本 上下の瞼を閉じたら昔の、幼いころの母親の記憶が蘇って瞼の裏にお母さんが見えるから、
坂口 で、それがタイトルになるんですね。
植本 だからそれでいいやって言って。


坂口 で、仕方がないからこれで帰るんですけど、帰るんだけど、そこで店の者が気を利かせて、さっきの素めくらの金五郎に、なんか女将さんに因縁つけてるような奴だからアイツを痛い目に合わせろて頼むんですね。
植本 点数稼ぎでね。
坂口 それで金五郎は渡りに舟っていうか「おーし、じゃあやっつけておかみさんにいい顔して中に入り込もう」っんで。渡し場の場面になるのかな。展開が早いよね。
植本 雨が降ってきます。
坂口 あ~、雨も効果的だよね。荒川堤の場面になって、台本では二人組ですね。映画だともっと大人数ですね。これは台本の方が面白いね。あの、一人はヤクザ、、、
植本 浪人?
坂口 浪人が金五郎に3両で雇われて。顔に酒毒で赤い斑点が出てる。
植本 鳥羽田要助さんでしたっけ。酒毒って何? 飲み過ぎってこと?
坂口 飲み過ぎか、なんか悪い酒。当時だから悪い酒飲んで、、、。そうするとわかりやすいですね。あーそうかって思って楽しくて。で荒川堤で忠太郎は諦めて旅に出ようと。ここもいい場面ですよね。一方でお母さんと妹が追って来て「やっぱりあんなこと言ったけど、、、」
植本 妹の言葉が強いですよね。「なんてことすんの、お母さん。あんたの息子でしょ」って言って。
坂口 それでお母さんも息子として会いたいって、
植本 思い直す。
坂口 籠で追いかけてくる。そこで斬り合いをする場所に2人とも来るんだけど。着いたときにはもうやっつけちゃってる?
植本 1人をやっつけてのかな?
坂口 まずは浪人鳥羽田要助がやられるよね。ここもいろいろ定番のセリフがあって楽しい。「痩せても枯れても鳥羽田要助」って、かわいいよね。忠太郎が「お前は親があるか」とか聞いて「ない」と答えを聞いてから斬り殺す。
植本 ふふふ。そっか。まずは浪人が殺されて、はま(母)とお登世(妹)が「あれいないいない」ってのがあったあとだ。金五郎が殺されるのは。
坂口 そうそう。
植本 うん。せっかくお母さんと妹は探しに来たんだけど、なんていうのかな、、、「今さらもういいや」っていう、忠太郎の中ではね。
坂口 結局、向こうで2人が「忠太郎さんや~い」って遠くで呼んでるのを、木陰に隠れて出て行かないで最後、反対の方向に歩いて行くっていうのでお終いですよね。
植本 結局あれですよね、自分が出ていったらやっぱり迷惑がかかるって言うのが強いんだろうなぁ。
坂口 でも意地みたいのものもあって、会いたい気持ちと葛藤が隠れてる中村錦之介のアップでぐーーっとくるとたまらんですよね。また映画ですけど。ここで泣かないやつはおらんって言うぐらいのシーンになってます。お芝居はアップができないからちょっと違った表現になるんでしょうけど。


植本 なんですけど、、、けどこれエンディングが3つありますよね。
坂口 そうですよね!
植本 それがちょっと編集長はきっとこれを蛇足ってゆうんだろうな、と(笑)。
坂口 でもこれで1番最初に書いたのがやっぱり1番いいわけですよね。あれですか? なんか記念公演みたいで人をいっぱい出したり派手にしたい、っていうのが。最後のやつかな?
植本 そうなの? 2つめは「おっかさんおっかさん」で終わってるんですよね。
坂口 会いに行くってこと?
植本 いや、遠ざかっていった2人に対して「おっかさん」って口に出してみたってことで終わるんだと思うんですよ、これが2つ目。
坂口 なるほどね。
植本 3つ目は、会いますね(笑)。親子二人と。「おっかさん」っていったら出てきますね。
坂口 僕は一番最初が良いと思うけど、でも作家がさ、色々考えてるっていうか、どうしようかってまだずっと思っている?
植本 どうなんだろうね。やればやるほどハッピーエンディングになっていくんだけど。
坂口 そうしたくなっちゃったのかなぁ。
植本 どうなんでしょう。でも定本として残ってるのはやっぱり一番最初のなんじゃないですかね。みんなそう思ってるんじゃないかなぁ?「それでいいんじゃない?」「会わなくていいんじゃない?」って。
坂口 そうですよね。それのほうが情感が残るような気がするんですよね。僕は最初の刺激が映画から始まったけどこれ台本読んでて、すごく落ち着いて、、、一方で落ち着いた台本じゃないですか。ほんとにあっという間に読めちゃう。でもいろんな感情が交錯してて多彩ですね。
植本 そうですね。ト書きの書き方が独特だなって。心情説明みたいな。例えば娘のお登世のとこで、()で心情が説明されてるんですけど(籠に乗り、心を川向こうに飛ばしている)、粋だなっておもって。
坂口 そうですね。書いてる人ののり加減っていうのがここにでてくる。説明だけじゃなくてね。
植本 こんなんでもやる側の役者としてはありがたい手がかりですよ。
坂口 へたな役者は遠くをみちゃう。
植本 あははははははは(笑)心を飛ばす、でね。
坂口 ていうのでさ、僕にとっては素敵な、ワクワクするような、、、
植本 股旅物の開祖っていわれてるじゃないですか、長谷川伸さんがね。自分好きなんだなって思って。こういうもの。渡世ものとか、ヤクザモノとか、股旅物。


坂口 僕はとっても久しぶりに心が躍った。
植本 これシンプルな話なんで割と上演時間も短いんじゃないかな。
坂口 そんなに思い込みが必要なお芝居ではないと思うから、書かれてることをちゃんとやればいいんじゃないかな。
植本 そうね。ふふふ。
坂口 誰かのこといってるわけじゃないよ(笑)。
植本 いやいや、そうねそうそう(笑)、たまにね。平均に照らし合わせて時間伸ばしたりする人いるからね。それあんまりやらなくても(笑)。
坂口 ていうかむしろ詰めてほしいよね、あらゆることにね。
植本 (笑)。

植本 純米

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うえもとじゅん岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。

【出演情報】
ONWARD presents
新感線☆RS『メタルマクベス』Produced by TBS
7/23〜8/31◎IHIステージアラウンド東京


坂口眞人

さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

(文責)坂口眞人


編集部注:長谷川伸作『瞼の母』は「青空文庫」で無料で読むことができます。

青空文庫ホームページ https://www.aozora.gr.jp/



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