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今回はつかこうへいの超有名戯曲『熱海殺人事件』です。つかさんと一緒に作品を作っていた長谷川康夫さんが書いた『つかこうへい正伝1968-1982』(伝記という部分を越えた、ワクワクするあの時代の青春物語です。)を最近読んだので、ちょっと“知ったか振り”が入っているかも知れません。これからも多くの人たちが演じることになると思われる作品ですが、この作品に程々はないです。「とにかく、いけるだけいってみる」こんな作品はそうはないと思います。もちろん読むだけでもたくさん刺激を受けることができます。

植本 25歳、当時岸田國士戯曲賞を最年少受賞なんですね。
坂口 どんどん読めちゃいますね。
植本 すごい熱量。
坂口 内容としては、登場人物の二人が言うところの、たいしたことない殺人事件を、
植本 ささいな事件なんですけど、それを部長刑事と刑事さんたちが一流事件に仕立て上げるという、内容はとてもシンプル。
坂口 反演劇というか、普通の演劇とは違いますよね。
植本 途中、劇中劇っぽいシーンがあるけど、刑事さんたちのシーンも役との距離がありますよね。
坂口 本庁にいる木村伝兵衛部長刑事と富山から赴任してきた刑事、
植本 熊田留吉。
坂口 それと婦人警官(ハナ子)と犯人大山金太郎の4人芝居。さっき、植本さんが言ったように、役との距離や、立場がめまぐるしく入れ替わったりして、絶妙。舞台になったら大音量で音楽がかかったり、照明がバーンと入ったり。
植本 燕尾服を着ていたり。そういうことって、ト書きとかに書いてないんですね。幕開きの、有名なチャイコフスキーの音楽とか。
坂口 そうですね。



植本 「口立て」ってよく聞きましたけど、どういうものなんでしょうね。
坂口 ダイレクトにそのお芝居のためだけじゃない稽古があって、とにかくとにかくたくさん練習をするんですって。つかさん「こんなシーンを作ってみよう」って言って、役者たちがとっかえひっかえ、ひたすら演じてみる、みたいですよ。まずベースにそれがあって、さらに作品を作るときには、そこからまた作っていく。ですから延べにしたら、ものすごいエネルギーがすでに入ってるみたいですね。
植本 つかさんは「役者の台詞術や技術はみたくない」と言っていらっしゃったようですから、こういう稽古の仕方はあってるんでしょうね。
坂口 どこのシーンをとってもすごいエネルギーがないと演じられない台本ですよね。それと繊細な部分もね。絶妙に押したり引いたりするお芝居なんだなーと改めて思います。
植本 私たちは立体化したものを知ってるから。どれが名台詞かはなんとなく分かりますね。
坂口 勢いがあるのに、作りが複雑ですよね。
植本 やせ我慢の文學だなと思うんですけど、それと差別。相手を罵倒したりとか、でもそこに愛があるということで好きな人ははまっていくんだろうなと。
坂口 真実味があると思いますね。めちゃくちゃな台詞が続いたりするんだけど、そのうえで「そうだよね」と思うシーンがたくさんありました。
植本 つかさんの作品の根底にあるのはそこですもんね。だから若い人たちもやってみたいと思うんでしょうね。
坂口 新感線も最初はこれをやってたんですもんね。



坂口 この話は、つまんない殺人事件を一流の殺人事件にしてあげるための、刑事たちのお話で。
植本 最初、犯人の大山金太郎はそんな気はないんだけど、そのうち、自供したりね。
坂口 再現シーンもありますね。コミカルな感じもあって。そのなかで口うるさい部長刑事に対して、若い方の刑事が「止めないでやらせてみたら」みたいな、稽古場の様子を揶揄するような楽屋落ち的な台詞があったりして、観客を喜ばせる仕掛けもいっぱいありますね。
植本 役者も演じていて気持ちの良い台詞がいっぱいあると思います。
坂口 上司と部下、犯人と刑事だけの関係じゃないせめぎ合いになったり。力関係が逆転したり。
植本 「今朝、ママンが死んだ」「太陽が眩しい」っていうシーン、好きでした。『異邦人』ですよね。
坂口 くすぐりがありますね。
植本 最初、木村伝兵衛役は三浦洋一さんなのね、平田満さんが熊田刑事、大山金太郎は加藤健一さん。
坂口 当時のものを見てみたかったですね。いかんせん、口立てで作っていた芝居ですから。できたて、ピチピチに新鮮なやつをね。
植本 それ言うと、一代限りの物になっちゃうよね。
坂口 作り方自体が違うからね。戯曲を読むとわかる細部にある面白さが、上手にやってくれないと見えなくなっちゃうかも。
植本 ハイテンションだけだと、そういうところは見えなくなっちゃいますね。
坂口 つかさんが自分で演出してたときは、めちゃくちゃ練習して、その部分をだしていたんだと思いますね。植本さんは別の作品で、演出も別の方ですけど、「つか作品」に出演してますけどどうでした、やってて。
植本 なんか自分をさらけ出さなきゃいけない部分があるんだなといっぱい思いました。裸でぶつからないといけない。
坂口 勢いは伝わると思うんですよ。切なさ、終わってみると切ない話だったりする。そこまで観客に伝わると、上出来なつか芝居になるのかなと思いますね。
植本 当時あった、かっこわるいがかっこいいっていう美学が、いま一周して戻ってきてる気がするんですけどね。バブルの頃とかは最先端がかっこよかったけど、いまはそういう物ではなく、人間臭い物の方がかっこいいというか。ぼくはいいことだと思ってますけど。



坂口 やっぱり、部長刑事と若い刑事の力関係の探り合いがすごくおもしろく作られてるじゃないですか。この二人の関係がメインの話しですよね。ハナ子という婦人警官はちょとゆるい。
植本 そえもの感はありますよね。
坂口 事件の再現シーンで見せ場はありますけど。
植本 この作品、これからも小さい規模でもやり続けられるんだろうなと思います。セットとかを大きくしていくとかではないですから。
坂口 素舞台ですもんね。自分たちのリアリティをどう物語に落とし込めるかが勝負だと思いますね。元は口立てで作ったものですから。
植本 北区出身の方とか今も精力的に活動されていますけど、後継者、作風的にとか、作り方とかどうなんでしょうね。ぼくは出てきて欲しいと思っているんですよ。
坂口 そういうふうに言ったら、スタッフ・キャスト全員がセッションする、メタメタ一緒に作っていくしかないですよね。つかさんの芝居を作るというのではなくて、自分の芝居をね。
植本 生き方も強烈ですもんね。
坂口 お芝居の作り方として、強烈なエネルギーを落とし込む技を持っていたみたいですね。
植本 一度、インタビューしたことがあるんだけど、かわされた感じでしたね。
坂口 お芝居の話はしっかりするけど、肝心なところになるとふわっと。
植本 照れ屋さんなのかな。
坂口 面倒くさかったんじゃないの?



植本 亡くなって何年?
坂口 今年7回忌。
植本 志を継ぐ人はたくさんいますけど。
坂口 つかさんのスピリットは何だっていうのが重要ですよね。
植本 そうは言っても作品に普遍性はあると思いますよ。
坂口 テンポとか、ニールサイモンの『おかしなふたり』を思い出しました。つかさんの方がアンチ・テアトルかな。だからこそ、若い観客たちがたくさん観に行ったんだと思います。
植本 おもしろい演説を聴きに行くみたいな。
坂口 そうかもしれないね。
植本 表面的にはロックのコンサートみたいな。
坂口 これはロックンロールですよね。
植本 今後、継いでいく方はそこでしょ。
坂口 あらゆるところで斜に構えているけど。でも真正面に進むような。
植本 簡単には近づけない、お客さんが触れたら火傷するような。
坂口 演劇そのものを批判するなんてけちなことはしてないんですよね。自分がおもしろいと思うことをやったら、こういう形になったということなんでしょうね。それにしても、思ったよりト書きがないですね。
植本 そうそう、大山金太郎がいつの間にか舞台にいてビックリした!
坂口 もう少し書いてあると、読む時には楽しいと思うんだけど。本としてのサービスとしてね。
植本 今回『熱海殺人事件』やるってなると、すごい好きな人がたくさんいるから文句言われるかなと思いながら対談に臨みました。
坂口 まあ、世の中にはいろんな人がいますから。ぼくは、あんまり観てないので。
植本 演劇に何十年も足をつっこんでいるのに、つかさんに近寄らなかった2人の対談ということで。
坂口 ・・・。


植本 潤

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うえもとじゅん岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。


【出演予定】

劇団道学先生 創立20年記念公演
『丸茂芸能社の落日』
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【作/演出】中島淳彦
2016年5月27日(金)~6月5日(日)
東京芸術劇場シアターウエスト

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坂口眞人

さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

(文責)坂口眞人



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