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坂口 今回はトム・ストッパード。
植本 『ロックンロール』。
坂口 植本さんがいくつか提案して下さったなかで、なんでぼくがこれを選んだかというと、演劇ぶっくを作った頃ね、トム・ストッパードが好きな人がいて。理屈をこねるやつで。この作品、理屈こねるやつが好きそうでしょ?
植本 いや、そうね。
坂口 遅れてきた全共闘みたいなやつでね。
植本 知識が豊富っていうか。
坂口 「ブルータス」の編集とかもやってて、すごく海外のネタとかで助かった。もう死んじゃったんですけどね。
植本 そうなんですか。
坂口 そんなんで、彼に「トム・ストッパードやろうよ」って言われても「嫌だ!」って言ってたんですよ。
植本 え? 編集長が?
坂口 そう。「ストッパードの記事を書きたい」って言うんだけど、「なんか理屈っぽいネタは嫌だな」って思って。という思い出がすごくあったんで、まずはこれにしてみようと思いました。



植本 そうなんだ〜。これは読んで、今回は翻訳が小田島恒志さんなんだけど、「大変だったろうなぁ」って思って。
坂口 はい。
植本 もちろん、ソビエトと東欧の歴史も分かんなきゃいけないし、チェコ語も分かんなきゃいけないし。ト書きでいっぱい出てくる、ロックね。「ここでこれを流せ」というロックね。その知識もないと訳せないだろうなと思って。
坂口 植本さんはそこらへんは得意なの?
植本 おれね、どっちかっていうと、吹奏楽部上がりだから、クラシック派なの。
坂口 あ、じゃあ、あんまり聞いてない?
植本 もちろん、聞いたことある名前は出てきますよ。後半になれば、自分が高校生くらいだった、それこそマドンナもU2も出てくるし。
坂口 ボブ・デュランとかローリング・ストーンズとか、もうあらゆることが場面展開で、何十箇所も出てきますよね。
植本 ちゃんとした意味を持っているんだと思うんですけどね。曲によって。
坂口 でもさ、何なんですかね? 訳した人はもちろん大変だけど、観る人も大変だよね?
植本 まあ、知識量もすごいから。歴史についても。



坂口 1968年当時は自由化の波が東欧に芽生えてきて。それでチェコスロバキアのドブチェクが中心になって「プラハの春」っていって、当時だと共産主義で自由がない社会だったのを、少しでも自由な社会にしようとしたのを、ソ連が武力で介入して止めさせたっていうのが、まず背景の一つですね。
植本 「プラハの春」もね、おれ知らなくてね。名前は知ってたけど、調べると「あ、こういうことか」って。
坂口 その頃とかは、ベトナム戦争があってね。ぼくらとしてはそちらの方が圧倒的に身近な出来事でしたけどね。話を戯曲に戻すと、チェコの当時の、1968年の事件があった後ですかね? で、主人公のヤン。チェコスロバキア出身でケンブリッジ大学で博士号を取ろうとしている、29才。一応彼を中心に物語がケンブリッジとプラハで断片的に進んでいきます。20年間くらいかな。
植本 場面はだいたい順番で出てきますけど、最後は1990年くらいまで来ますかね。
坂口 ケンブリッジの場面は、ヤンの恩師マックスっていう大学の先生の家で。家族がいて、
植本 奥さんも教授で乳がんなのかな、娘がいて16才フラワー・チャイルドって書いてありますね。



坂口 その家族の話と一緒に政治的な出来事に関してのやりとりがあって、で、ロックの音楽ネタが入るから、けっこう複雑ですよね。読んでるからある程度分かるけど、次から次にチェコとイギリスの場面が出てくる。場面転換にローリング・ストーンズとか、いろんな人たちの印象的な曲を使ってね。それがもう、すごい勢いで。
植本 一番出てくるプラスチックなんとかっていう、チェコのバンド。YouTubeで観たんだけど、おどろおどろしかった。本当にアンダーグラウンドな。呪いのようなね。ははは。ロックだったよ。
坂口 当時チェコでパージされてた人たちだね。そういう人たちを支援する若者っていうかグループが、反体制というか、独裁政権に対する批判みたいな構造になっていくんですね。断片的な内容なんですけれども。イギリスでの彼は、先生の助手みたいな形で、博士論文を書こうとしている。
植本 なぜチェコに帰ったのか。ふるさとにね。わざわざそんな情勢の悪いときにっていう。それがキーになってるのかなと思うんですけども。
坂口 そうですね。彼は彼なりの正義感、思想みたいなもので、戻るんですよね。



植本 で、まあ、本当に彼はロック好き。タイトルが『ロックンロール』ですけども。レコードもいっぱい持っていて。どうなんでしょうね。ロックで人は救えるのかってどれくらい考えているのか分かんないですけど。
坂口 ロックが時代のキーになるっていうか、変革、自由のポイントになる、とは考えている。ヨーロッパの人はけっこうそういう風に考える人がいたっていうことですかね? 日本だと、そこまではいかないですかね?
植本 反戦歌があって。
坂口 「あぁ〜ん!」って「音楽なんかで世界が変わるかい!」っていうふうにぼくらは思ってた世代。
植本 そお?
坂口 うん。
植本 でもそういうふうに思っている人もいるんでしょ? もちろん日本で活動してて。
坂口 うん、うん、もちろん。フォークソングやってたし。実際、この会話に出てくるけど、署名とかも。署名の話も出てくるよね。「そんなことやるなら、おめえ、自分で行って助けてこいよ!」
植本 ありますね。
坂口 「署名なんかしてやった気になってるんだったら」って。その自分で行って助けてこいよっていう方に近かったから。でも実際に助けに行かないんだけどね。フフフ。そういう部分では、共感っていうか。なんとなくね。



植本 登場人物が、全員主義主張は違うのに、引かないから。みんな似てるなと思いました。
坂口 日本ぽくなくておもしろいかな。
植本 そうそうそう。平気で家族間、友達間で、すごくけんかし合ってるし。
坂口 その中には恋愛的な出来事、友情とか。師弟の愛情とか。家族同士のとか。いろんな愛の話もたくさん出てくるでしょ。
植本 そうなの。難しい情報もすごく多いんだけど、下世話な話題もね、セックスのこととかもちょいちょい挿入されてくるし。
坂口 そうですね。奥さんが、
植本 乳がん。
坂口 そうですね。ケンブリッジ大学の教授は、みんなが共産党をやめてるのに、彼はがんばって、「これじゃなくちゃ世の中は最低限変わらん!」って主張しているわけですね。で、その奥さんが乳がんで、その夫婦間の軋轢とかも出てくるでしょ。
植本 なんかちょっと、腫れ物に触るようなね。
坂口 教授と娘の距離感とかもね。
植本 本人、トム・ストッパード自身も言っているんだけど、そんなに全部理解しなくてもいいって。言ってて。感じてくれればね。で、一方では、知識が、お客さんの知識があればあるほど楽しめる劇だと思うし。
坂口 そうですよね、そんなこと言うけど、あんた。この芝居はもう少しわかりたいです!
植本 はい。はい。
坂口 そういうことで言えば、井上ひさしさんのは歌謡曲が。こういう形よりもっと、劇中歌として流行歌が入ってくるね。芝居の硬度、見え方は違うけど。
植本 もちろん、オブラートに包んで、明るさの中にメッセージ性があったりするとは思うけど。
坂口 そうだ、読んでて思ったんだ。「あ、井上ひさしさんにちょっと近いのかな」って。



坂口 気になったのはさ、トム・ストッパードっていう人は、ほとんど全部、こうしてああしてこうしろっていうふうな指示をしてるけど・・・。
植本 ト書き?
坂口 うん、ト書き。で、一箇所だけさ、
植本 分かった。
坂口 分かった? どこだっけかなぁ。なんか、彼女、
植本 これじゃないの?
坂口 すごく曖昧なさ、
植本 お任せしますみたいなとこ?
坂口 そうそうそうそう。「彼女とは〜、何かするかもしれない」って。
植本 あった!これだ。
坂口 そうそう。「マックスはここで彼女に触れるかもしれない」そこ。なんでそんなふうにするんだろうって。そんなこと書く人って嫌いだなって思うんですよ。
植本 え、そう?
坂口 するかもしれないって書いてもいいけど、ここだけどうして書くの? 他は全部自分が決めてるのに。ここだけどうしてこんなふうに曖昧に書くの?
植本 嫌いなんだ。ふははは。
坂口 なんだか分かんないけどさ、ここ読んだ時に、無性に腹が立ったんですけど。
植本 ふははははは!多くの役者は、っていうか分かんないけど、若い、そんなに経験のない人は「触れるかも」って書いてあったら、「触れろ」っていうことだろうと思っちゃうと思う。
坂口 そうなんですよね! そういう強制の仕方は良くないと思うんですよ。ほかは全部言ってるんだよ! 音楽は何分で何とかとかさ、でもここだけこういう言い方をする。おれは、そんな余裕が、君たちに任せている。
植本 ゆだねるね。
坂口 オレは懐も深いみたいなさ。
植本 ふははは。そうなのか!
坂口 ここ一点。すーごく思っちゃって。ああ!嫌だなと。誤解かもしれないけど。思っちゃうことはしょうがない。
植本 おれなんかはこれを読んだ上で、「触れるかも知れない」って書いてあったら、他のやり方ってすぐに考えちゃうけどね。ふふふ。
坂口 そういうふうに考えるといいけど。でも政治って、たいがいそういうふうにして、みんなを巻き込んで行く。「そっちのほうがいいかもしんないよ」って、「するかもしんないね」って誘導していくのが政治的なやり方だと思う。
植本 はいはいはい。おれね、あと表現として面白かったのが、明日から使えるなって思ったのが、「明らかにっていう言葉は見過ごせないわね」っていう「たいてい何かが明らかじゃないときに使われる」って。ああー!って思った。



植本 最初に、翻訳の小田島さん大変だったろうなと言いましたけど、これ上演するとなったら、役者も大変だよ。ふはは。
坂口 大変だよ!
植本 直感だけでできないもん。やっぱりある程度調べないと。
坂口 その時のこの人たちの表面的な感情だけでやっても、その奥深く歴史の背景を知ってやっても見えてくる物はそんなに、たいして違わないんじゃないかな。
植本 そんなこと言わないで〜!はははは。
坂口 思うんですよ。よく言うじゃないですか。この人物はこういう背景があって、こうだからこういうふうにみたいな。
植本 それに縛られていたら全然だめですし。
坂口 あんま関係ないかなって。逆にわざとらしくなったりする場合もあるかと。
植本 あ、あれだ、演出家は分かってないとだめだ。
坂口 何を見せたいかっていう覚悟がすごくいる戯曲だよね。
植本 そうだよね。
坂口 全部見せようと思っても、たぶん。少なくとも日本でやるときは、ちょっと無理かな。何をちゃんと観客に伝えたいかっていうことを考えないとね。
植本 その点、いかようにもできるというか。背景として、政治情勢が透けてくるっていうやり方もあるだろうし。
坂口 そうですよね、家族のこともあるだろうし、ヤンさん、チェコに戻っちゃう人の心理が重要だったりもするし。
植本 実際に主人公ですよね。牢屋に入れられたりとかしますしね。
坂口 その心情がちゃんと描ければいいのかとか。見せどころはいっぱいありますよね。ただ見せどころだけだとやっぱりきつい。なんかうや〜ってギャーギャーいうやり取りだけがずっと続きそう。



植本 これおもしろいのが、全編、若者が目上の先輩方になんて言うんだろう、「あんた古いよ!」みたいなことが、いっぱい出てきますね。「それ間違ってますよ」って先輩に言う。ふふふ。
坂口 素晴らしい歴史だよね。だから、それが、「ロックンロール」ということに繋がるのかもしれないですよね。だからあんまりロックンロールもよく分かってないぼくとしては。
植本 編集長はどこ通って来たの? 音楽は。
坂口 三波春夫かな。
植本 うっそ! ふふふふ。なぜ?
坂口 分かんないけど、子供の頃、三波春夫とか三橋美智也とか弟と一緒にいつも歌ってたな。
植本 へー。ある意味ませてるよね?
坂口 そうねぇ。今、考えれば歌詞とかは「惚れた」とか「別れた」とかだよね。小学生の頃、いつも弟と歌ってたな。
植本 この本、チェコが舞台だからさ、一回、ドボルザークっていう単語が出てくるね。ドボルザークやっと出てきた! みたいな。
坂口 でもちょっとだけだよね。
植本 そうそうそう、名前だけなんだけど。



坂口 あとはこの台本、何回読んでも生かじりかなぁ。
植本 だから、この作品ね、2010年に上演されてるけど、別にそんなに大きなカンパニーじゃなくて、全然小劇場でかまわないけど、やる気骨のある方がいたら観たいなと思います。
坂口 そうですね。なんかもっと、会話劇で見せてもらったらどうなんだろうって思いましたね。装置とかもなくて。それこそ朗読劇で見せて頂戴よ。
植本 うん?
坂口 いや、うんじゃなくて。
植本 何て言うの? 役者だからさ、どんな役でもやらないといけないけど、それぞれ主義主張ね、普段の生活を持ってるときに、自分と反対の主義の役とかっていうのは大変だろうなと常々思っていたんだけど、これくらいになるとちょっと距離感があるからいいかなと思う。わははは。
坂口 そう思う。これなら主人公のヤンで、明らかにいけるんじゃないですか。
植本 ああ、そうですね。いいと思いますよ。
坂口 じゃあ、わかぎさんに提案して。
植本 なんで?
坂口 次の戯曲はトム・ストッパードにして。
植本 今だと谷賢一くんとかやればいいのになと思うけどね。
坂口 でももういい訳ができてるから。
植本 そうだなぁ、やるとなったら、谷君、きっと自分で訳し直すんだろうなぁ。
坂口 小さな劇場でやってくれたらいいですね。
植本 トム・ストッパードの『ロゼギル』とか読んだことありますけど、他の作品も今この『ロックンロール』から入って、気になっています。
坂口 ぼくはこれで、一応、天国の井上二郎君にまぁ、少しでもお返しできたかなと。
植本 取り上げたぞと。
坂口 やってみました。彼は「けっ!」って思うだろうけどね。
植本 好きな人は好きなんだろうね。本当に。
坂口 なんかなぁ。井上二郎君はすごい理屈屋だったんだよね。うるせえ!っていうくらいの。
植本 いいバランスだったんじゃないですか。きっと編集長と。
坂口 すごく信頼できる男だったんですけどね。
植本 肌触り、直観で行く編集長と。
坂口 そんなわけで個人的な感情も入って。
植本 それも分かってよかった!わははは。



植本 潤

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うえもとじゅん岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。


【出演情報】
こまつ座『イヌの仇討』

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作◇井上ひさし
演出◇東憲司
7/5〜23◎紀伊國屋サザンシアター

こまつ座 http://www.komatsuza.co.jp/

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坂口眞人

さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

(文責)坂口眞人



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