ピンター

坂口 ハロルド・ピンタ-の『背信』。
植本 普通の、ダブル不倫の話です(笑)。
坂口 さらにもっとトリプルとかにもいきそうなね。
植本 裏の裏はね。
坂口 イギリスの話で、エマとロバート夫婦と、その知人のジェリー。登場人物が3人の芝居ですね。エマは画廊を運営していて、旦那さんが出版社の社長。もう1人のジェリーっていうのは出版関連のエージェンシー。
植本 作家を発掘してコーディネートしたりとか。ジェリーとロバートは親友で、仕事仲間でもありますね。
坂口 この作品は最初のシーンが、この話の最後の日付になりますね。
植本 この戯曲は物語が逆行していくからね。それが不倫が終わって2年後。
坂口 はい。エマとジェリーが不倫していた。
植本 最初のシーンでは、浮気していた二人はもう別れてるんですよね。
坂口 はい。最初のシーン、本来だとラストになるべきシーンはもう別れて2年後で。エマのほうの家庭でトラブルがあって、エマとジェリーが久しぶりに会ってます。
植本 エマの旦那さんのロバートも不倫をしていて、しかもなんか女の人がたくさんいるっていうことがわかって。それで一晩中夫婦で話していたみたいなことですね。そうするとジェリーのほうが「もしかして僕たちの関係も話しちゃったの?」って聞くと「うん話した」って、「え、昨日?」「いやいや4年前に」。
坂口 そこらへんがこの話のテーマって言うか、『背信』ていうことの大きな意味を持ってくるんですかね。4年前に旦那さんはエマがジェリーと浮気してるっていうのを知ってた。



植本 う~ん、はっきりいってこれを時間軸通りやったら面白い本なのかって。これでオモシロイのはやっぱり4年間ジェリーがロバートに不倫をバレてないと思ってた。でもこの男同士はかなり前から現在に至るまで親友で仕事も一緒にしてるし、遊んでもいるっていう仲で。片方は知ってるけど片方は知らなかったっていうのがちょっとオモシロイですよね、関係として。
坂口 その間にそれぞれの家に行って一緒に食事したりしてますもんね。
植本 お互いにね。
坂口 だからジェリーはそれがわかった時はショックですよね。
植本 このジェリーっていう人はすべてにおいて鈍感。
坂口 (笑)
植本 行き当たりばったりなところもあるし、物事を深く考えていない感じもします。
坂口 そういったらロバートもよくわからないですね。奥さんのエマが浮気していてもとりあえずは怒らない。
植本 そうなんですよね。何回かぶったことがあるけど、それはぶちたかったからって言ってましたけど。
坂口 それいいセリフ(笑)。
植本 浮気してることをこらしめようと思ったわけじゃない。ただぶちたかったからって書いてありました。
坂口 ぶちたかったらぶってもいいんかいっていうこともあるし。なんか話の全体よりそういうニュアンスが面白いところがありましたね。



植本 SNSとかでこの作品を調べてみると結構多くの人がジェリーとロバートの同性愛的な関係っていうのを言ってて。中にはその、スカッシュっていう競技が暗喩になっているって。
坂口 ああー。そうなんだ。
植本 ロバートも実際セリフの中で「君(エマ)と関係するんだったら僕と関係してた方が良かったんじゃないの」って「それぐらい大事に思ってるんだ、あいつのことは」みたいなね。
坂口 どうなんですか?イギリスってわりとオープンなの?
植本 どうなんだろう。実際このロバートっていう人は他にも女性いっぱいいるっていう設定にもなってるし、精神的なものなんじゃないかな。
坂口 紳士クラブみたいなとか、男の人しか入れない親ぼく会みたいなのがあったりするみたいですよね。これとかも...
植本 出てきますね。奥さんのエマが「一緒にスカッシュの試合を見たい、2人が試合してるところを見たい」みたいに言うと、いや女性はお断り。試合だけじゃないんだ、シャワーも浴びたいし、ビールも飲むし、食事もしたい。なんなら女の話とかもしたいから、君は入ってくるな。みたいなこと言いますね。
坂口 あれスカッとするセリフですね(笑)。



植本 この『背信』に限ってかもしれないですけど、上演ありきで書いてるんだなっていう感じはしますけどね。間って言うのがいっぱい出てくるじゃないですか。
坂口 そうそうそう。元俳優なんだよね。そういう意味ではきちっとお芝居のイメージを作って書いてる人なんだろうねぇ。だからあれだね、これもう1個くらい読んでみないと。
植本 この作家の戯曲をね。
坂口 ちょっと狙いてゆうか、僕らにはまだちょっと、あまりにもわからないっていうか。
_植本 この文庫に入ってる『温室』ってわかりにくいらしいですよ。
坂口 じゃあ次それやろか。それをやってなんか続きものにしようかなぁ。これこのままだと…。
植本 いいよ。
坂口 ...わかんないかも。わかんないっていうかハロルド・ピンターに僕ら知識なさ過ぎ。
植本 この『背信』っていう作品だけでハロルド・ピンターを語ってもいいのかっていうのはちょっとね...
坂口 ...何かっていう感じがするね。
植本 ハロルド・ピンター好きな人がこの企画を読んだときに「あ、『背信』選んだんだ」って言われそうじゃない(笑)



坂口 それにしてもなんか、なんていうの...話のツッコミが足りない? みたいな。何回も読めば面白いのかもしれないですが...でも劇の構造としてはあんまり興味はないなぁ。
植本 当時は新しかったのかねえ。
坂口 それでこの芝居見たいかって聞かれたら、あんまり見たいとは思わないかも。
植本 ハロルド・ピンターって不条理の代表みたいに言われてるじゃない?。だから編集長そっち系の方が好きなんだろうね(笑)。そんなわけで次、『温室』やります?
坂口 はい。
植本 こっち面白そうだよ。もう少し考えて選べばよかった? (笑)。でもいいんじゃない『背信』ってどんな話か知りたかったし。
坂口 こういう失敗って大切でさ。ただ失敗って言ってはいけないね。僕らのチョイスの失敗ね。
植本 だけど名作のうちの1つとかいわれてますよ。でもそれは他の作品があったからだと思うんだけど。これだけを書いて評価できないと思うな。
坂口 久しぶりに辛口だね(笑)。
植本 いやいやいや。裏の意図とか汲み取れてないんじゃないかと思ったりもするし。
坂口 でもそんなに意図とかないんじゃない? しかも芝居で1回だけ客席で観てもそんなに意図とかは汲み取れないしね。



植本 なんかこの人の作風として、説明しすぎないリアリズムと書いてあって、なぜその、そういう行動に出るのかという動機とか理由とかを省いてるみたいなのが特徴みたいなんだけど...。
坂口 それは望むところですけど。
植本 日常生活はそうでしょうって言ってるらしく、理由なんかないときあるでしょっ、ていう。
坂口 そうなんだけどね。やっぱり演劇は見せるものだから、日常生活とは違うわけだよね。そこんところが…ノーベル賞作家にそんなこと言ってもしょうがないけど。
植本 (笑)本人もわからないで行動する時があるでしょっていう。
坂口 そりゃそうだ。
植本 そりゃあるね。そんなこといま言われてもって感じですよね(笑)。
坂口 では、ハロルド・ピンターもう一個。ということで。
植本 次に『温室』読んだときに、『背信』の良さがわかるかもしれないしね。
坂口 いいかげんなこと言って(笑)
植本 いやいやいやいや(笑)。こういうこと書く人はこういうことを言いたいのかって。『背信』の裏にあるものを。
坂口 そういうことで、今回はここまで。


植本 純米

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うえもとじゅん岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。


【出演情報】

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花組芝居『黒蜥蜴』
原作◇江戸川乱歩
脚本◇演出:加納幸和
作曲◇鶴澤津賀寿 杵屋邦寿
出演◇花組芝居役者連
12/2~10◎あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)

http://hanagumi.ne.jp/

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坂口眞人

さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

(文責)坂口眞人



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