ピンター

坂口 今回はハロルド・ピンターの続編。

植本 「温室」ですね。本当に、前回の『背信』っていう作品だけでこの人を判断しなくてよかった。

坂口 本当だねぇ~。全然違う!

植本 まったく、ね。しかも、なんか、ずいぶん前に書いて、初演されたのが20何年後なんだよねぇ。

坂口 ??

植本 ピンター自身が出来にあんまり満足してなくて。封印してたんだって。

坂口 我慢強い人ですね。

植本 その間に自分の考えが変わったっていうか、上演した頃から政治的な発言が増えていったのとリンクしてる。

坂口 なるほど。

 

 

植本 『背信』だけで判断したら、なんでノーベル文学賞をって思ってたけど、こんな作品があったんですね。いや~おもしろかった。

坂口 おもしろかった。ただ、突っ込みどころはありそうなね。ここは保養所?

植本 ここで出てくるのは療養所で、保養所も別なところにあるらしいですね。

坂口 何を療養してるかは分からない。ずーっとね。そこは曖昧にされていて。場面としては、この療養所の執務室と隣の居間で演じられる。

植本 途中で防音室みたいのも出てくるけど。

坂口 はい。で、執務室では、50代の男って書いてあるルートっていう、責任者・・・。

植本 軍人上がりなんですよね。

坂口 部下が出入りしてきて、その日の出来事とかを報告したり、まぁ、・・・働いてる人が愛人になってたりもしてるんですね。そのルートっていう人を中心にお芝居が進んで行くんですけども。収容されている人が、殺されちゃうっていう事件とか。

植本 男の人が殺され、女の人が出産する、施設の中でね。

坂口 それで、それなりに、ルートは責任者だから、どうしてそんなことが起こるんだとか追求するわけじゃないですか。でも、結局こいつがやったっていうことにされるんだよね? だけどそこらへんは曖昧で。最後に暴動が起こるんですけどね。そこで生き残るのが部下のギブス?

植本 はい、30代の男。

坂口 働いている職員の中ではちょっと上の方にいるのかな? 彼とルートの会話とかもおもしろいですよね。責任者と部下としての会話だけではなくて、微妙に個人的なこととかのやりとりが。

植本 そうですね、パワーバランスも。部下と上司なんですけど、言葉使いとかやりとりとか聞いてると、不思議なバランスを保ってますよね。

坂口 ちょっとハードな漫才みたいな、たぶん、訳してる人が上手なんだと思うん。

植本 この訳している方、上手ですね。

坂口 ニュアンスがとてもよく伝わってきて。この芝居、ユーモアの感覚が無いととても嫌なギスギスした芝居になっちゃうと思うんですよ。

植本 はいはい、冷たーいね。

坂口 ギスギスしたハードボイルドを気取った芝居になるととてもつまんない平面的な芝居になっちゃうと思うんですけど。これ絶妙にユーモアの感覚が入ってくる。っていうのが一つ特徴ですよね。訳した人もそうだけど、彼自身、書いた人自身もユニークなユーモア感を持ってたのかな。

 

 

植本 ルートっていう50代の男の人、所長的な感じの人が、中心的なんだけど、登場人物がバラエティに富んでいて、ミステリー的な要素も感じます。アガサクリスティみたいな、誰が犯人なんだろうっていう感じで読み進められるなぁと思って。

坂口 おや、おや? って、次に進んで行く、すごい力業かなぁと思いますね。

植本 ギブズっていう人と対抗する立場にある人が同僚のラッシュっていう人だと思うんですけど。

坂口 はい。

植本 まぁ、匂いとしては、二人とも権力を狙っているのか、上昇志向があって。もう一人ラムっていう20代の男の人は、ちょっと一見アルバイトさんみたいな、頼りな~い感じで。この人ももっといい仕事をしたい。このラムは収容されている人たちの部屋の鍵の管理をしてる。そのために殺された男の人とか、出産した女の人に対しての、責任を問われるというか、犯人に仕立て上げられる。

 

 

坂口 本当にさっきも言ったけど。ルートと部下たちの会話、おもしろいですねぇ、突っ込むところは突っ込む、仲良さそうだと思うと急に怒り出したり。でもまた部下も負けずに引いたり頑張ったりっていう。絶妙なやり取りで、妙なリアリティのある作りになってますよね。

植本 ラムっていう男の子が、犯人に仕立て上げられるときに、ロボトミー手術みたいなことをされるでしょ。

坂口 はい。

植本 そういうところは近未来のSFみたいでおもしろいし。

坂口 不気味な、防音室だっけ。電極を付けられて、頭に電気を通されて。

植本 点滅する赤いランプとかがあったりとか、矢継ぎ早に質問されて追い詰められて。

坂口 電気でショックを与えて、すごい悲鳴を上げたりしますね。まぁ、全体的にはそんなに物理的なバイオレンス感はないですね。言葉のやりとりがけっこうきついですね。

 

 

植本 ま、さっき結末を言いましたけど、収容されている人たちによる暴動があって職員達が殺さるんですけど、下級職員は免れてるんですよね。

坂口 エリートの職員達は患者たちに殺される。

植本 そうそう。

坂口 ギブズが一人だけ生き残って「患者達の部屋の鍵が開いていて、そこから患者達が出てきて、みんな殺されちまった」と。おれだけラッキーで逃げてきたっていうことなんだけど。すごく怪しいわけ。

植本 そうですね。誰が本当のことを言ってるか分からないっていうのが、この本のおもしろさの一つだと。真実がどこにあるか分からないので。

坂口 ここでも妙なリアリティがある。

植本 そうなんです。

坂口 すごく今の世の中に通じてる話になりますよね。

植本 たぶん、その当時、まだピンターが世の中に理解されない頃ってそこがダメだったらしいんですけど。動機とか真理の説明とかが省かれているから。それが時代が追いついたんでしょうね。「日常ではそういうの普通でしょ」っていう考え方の変化ですね。

 

 

坂口 本当に意図しているんだか、まぁ、意図しているんでしょうねぇ。飽きさせない。次から次へいろんな仕掛けがされていて。それはお芝居を観ている人に対して、飽きさせないっていうよりも、進行していく流れとしてきちっと話が作られてるのがすごいと思いますね。

植本 この間やった『背信』もそうだったけど、「間」っていうのが多いじゃないですか。そこもね、おもしろさの一つなんだろうと。上演するときに気をつけないといけないのは、それにとらわれ過ぎちゃうとっていうのも。

坂口 上演をするとなれば。難しい・・・かなぁ。

植本 何年か前に新国立劇場で演出は亡くなった深津さんでやってますね。

坂口 ああ! そういう風に言ったら、・・・深津さん、3つくらいしか読んでないけど、ちょっとニュアンスが似てるかも。

植本 不気味な感じのね。得体の知れない不気味さがあったりとか。

坂口 そうですね。それは、ぼくに言われてたくないだろうけど。片や2作、こちら3作ぽっち読んでるだけで。

植本 なんかさ、でもさ、今回はハロルド・ピンター2作読めたからいいけど。普段、僕たちさ、1作でその作家を語ってるじゃない。怖いなって思った(笑)。

坂口 まぁ、そうね。

二人 うはははは。

植本 ごめんなさいってちょっと思って。

坂口 普通、こういう企画を立てるときって、演劇知ってる人同士の話になるよね。あまりにも知らなすぎる。

植本 うはっはっは!

 

 

坂口 この話おもしろい展開ですよね。さっき植本さんが言ったように、暴動が起きるけど結局また同じ体制に戻っていくわけですよね? 患者はまた治まって、次の

植本 ギブズっていう人が、本部のえらい人から任命される形で。

坂口 所長に任命される。また同じことが続いて行くっていうことですよね。しかもその続いて行くのに、責任者になるやつはもしかしたらこの事件の首謀者かもしれない。すごく広がりのあるお芝居なのかなって思いますよね。でも不条理芝居っていう感じではないかな。

植本 そこここに、ちょっと不条理っぽいところはあるけど、話の流れとしてはね。

坂口 ものすごく分かりやすい分かんないけど、全体的に分かる。変な言い方ですね、でもそういうふうな気がして。これけっこう理にかなうもんね。よく考えていくと。不条理って、理にかなわないから。不条理って言うんですものね。

植本 ご本人はどうなんでしょうね。不条理作家って呼ばれることに。ね。

坂口 ああ、そうですね。

植本 わりと、その、ハロルド・ピンターって言ったら、演劇界では超有名なんですけど、これが初演されたのがもう、1980年だから、そんなに昔じゃないんですよね。ノーベル賞取ったのだって2006年? 2008年くらいに亡くなってるからね。

坂口 これちょっとアングラっぽいかな。

植本 あらゆる演劇の手法は入ってるなと思うんですよ。突然、長台詞が始まってたりもするし。短い台詞の応酬だったところもあるんだけど、しゃべり始めたら一気にってところもある。

坂口 なかなか作劇に長けてるっていうか。またもや、ぼくに言われたくないかもしれないけどね。

植本 いやいやいや(笑)。

坂口 すごくそういう感じがしました。

植本 何て言うか、演劇的な彩りが華やかなんですよ。手法とかで言うと。いろんな技法が入ってるなと思いますね。

 

 

坂口 これで一番思ったのは、ユーモアの感覚が上手に会話のやり取りの中に出てくるっていうのが、なんとも言えずリアリティがありますよね。現実が逆に見えてくる。

植本 途中でさ、太字とか出てくるでしょ。ん! どんな意味なんだろうって。これ戯曲読む人は分かるけど、上演された場合にね、演出家はこれはどういうことなんだろうって考えるとこだし、役の人も考えるけど、お客さんに届くかどうかは分からない。ふふふふふ。

坂口 そうですよね。だからすごいって思います。ブレヒトの「異化効果」?みたいなのに比べたら、こっちの方が豊なような。気はしますね。ふーん良かった。ピンター2回目もやって。

植本 本っ当によかったと思う。読む順番もよかったでしょ。

坂口 そうだね。これやってたら、終わっちゃうから。ね。よかった。だからあれっすね。自分たちに合わないっていうか、ダメな作品に出会うことも大事ですね。

植本 『背信』も代表作って言われてるらしいよ。

坂口 分かった。素晴らしいいろんなイメージが湧いて良かったですね。

植本 私たち、この2作品を読めて、ちょっとハロルド・ピンターを分かった気になっています。

坂口 ちょっと好きになったかも。

植本 好き好き。

坂口 へんなおじさん? みたいな感じですよね。変なおじさん比べだと、トム・ストッパードに勝ってるかも。

植本 なにその比較。ふはは。トム・ストッパードも編集長にそんなこと言われたくないって思ってるから。

坂口 今回は、言われたくない満載だね。