前田

植本 前田司郎さんの、これはキャベツの類(たぐい)でいいのかな。
坂口 はい。2005年に初演されてますね。植本さんに4作品入っている戯曲集を読んでもらって、これになったけど根拠は何かあるの?
植本 いやいや(笑)、逆に聞きたいわ。
坂口 何が?
植本 だって読んだんでしょう一応。
坂口 3つ読んだ。
植本 それでこの選択で間違ってなかったかを、聞きたいですわ。
坂口 お芝居にして見たいのはこれがいちばん見てみたい。
植本 なんというかアクティブというか華やかさというか…
坂口 コントみたいにもなったり、なんかこう、えもいわれぬ、よくわかんない深さというか、深さっていうといいすぎだね。でも何か隠されてる? みたいな…。
植本 いやいや(笑)。ご本人的には深さを十分考えてらっしゃると思いますけど。
坂口 そうかなぁ。このリズムでそんな深さは考えられないと思うんですよ。というかもうちょっと曖昧なもの?  作家としてずっと思っている彼の物を作るベースになっているようなものがあると思うんだけど、深さを考えてまで作ってるかと言うとちょっとニュアンスが微妙…..
植本 そーなの? 深さはすごく考えてらっしゃるんだけど、それを表出させるのがちょっと恥ずかしいんじゃないの?
坂口 ….そう、…そうかな? ま、やっぱりこれが一番お芝居になったときに、ふくらみがあるっていうか、どうなるか分かんないような奔放な作品なんじゃないでしょうか。



植本 この作品は、限りなく神話なので(笑)。神様が出てくるっていうのがね。
坂口 神様がでてくる。登場人物が男、女。
植本 夫婦っぽい、というか夫婦ですね、どうやら。
坂口 で、男は頭から記憶を取り出してしまっている。取り出した記憶は…キャベツですね。それで男はキャベツを持って、いるんですね。で女っていうのはその男の妻で、頭の中にアオムシが住み着いていて記憶が虫食い状態である。
植本 そう。どっちもどっちな感じなんですよね(笑)。
坂口 だから、夫婦なのか夫婦じゃないんだかよくわかんない。男の人は記憶がないから…
植本 そうなんです。常にないから気が付くと自分は今生まれたって思ってるんですよね。
坂口 ふと思ったんですけど、記憶がなかったらこんな会話はできないんじゃんてゆう矛盾を含んでて、でも進んでいくよね。
植本 でも普通の記憶なくす人もそうなんじゃないの?
坂口 どんなの?
植本 例えばパンダを見たらこれはパンダっていうことは分かるけど、起こった事柄は忘れてるってことじゃなくて。
坂口 っていうかパンダってことすらわかんないわけだから「それは目の周りが黒くて白毛で太ったもの」で、妻なんて概念は無いわけでしょ? でもこれ、僕の妻だっていうふうに会話すると「あ! 妻だ」ってわかる。それ過去の記憶がなかったら、妻なんてどう説明すればいいの。
植本 それいちからになるよね、そうなるとね(笑)。
坂口 まあ、神様も出てくるからね。無理な設定は至る所にあると思うんだけど、むしろそれがあるからこそ面白く作られていますよね。それで、男と女がいて…兄と妹ってのもいるんですね。で、兄はダンスを習っている、妹は棺桶から生まれてくる。これじゃ説明が全然並列しないね(笑)。
植本 どうやらこの兄と妹ってのはこの男と女の子供らしいっていう。
坂口 さらにダンスの先生というのが登場しますね。男と女とは知り合い?
植本 先生は知ってるんですよね。男と女のことをね。
坂口 あ~そっか。男は記憶がなくて女は虫食い状態っていうことだから分かんなくてオーケーってことなのか。
植本 そうそうそう。
坂口 で、名前をお呼びするのも憚られる存在、神っていうのが後から出てきますね。あとは店員が出てくる。
植本 居酒屋の店員(笑)。これ上演の時は前田君自身がやってるみたいですけど。
坂口 ここのシーンは受けますね。



植本 で、設定がどこでもない、わからない場所で、ブランコが二台、上からぶら下がっている。それだけなんですね。ああ、あと棺桶ね、上手に棺桶。
坂口 男がブランコに座っていて、その前でダンスを練習している兄、先生がそれをみている。その後、女が出てくるんだっけ?
植本 どの女?
坂口 妻。
植本 あ、ウンウン。
坂口 妻が出てきて、
植本 妻が私たちは夫婦だからっていうんですけど、でも私もいい加減記憶が虫食い状態だから、虫食いのところを自分で埋めていくから、それが本当の記憶なのか、わからないみたいなことを言っていて…
坂口 なんで男がキャベツを持ってるか、っていうのがどこでわかるの?
植本 「それあんたの記憶よ」って妻が言いますね。
坂口 キャベツがね。それで手術をしてキャベツを…
植本 (笑)そう! 手術がどういうものかわからないんですけど、単語として手術っていうのがでてくるんですね。
坂口 そういう淡々とした会話があって「あ、この男の人が持ってるキャベツは自分の記憶なんだな」っていうのがわかるっていう。ありえないけど妙にリアリティが….不思議ですね。
植本 タイトルですからね、「キャベツの類」って(笑)。
坂口 「それちがうじゃん!」て言えない設定になっている、力技っていうかなんというか。
植本 まぁカフカの変身みたいなことなのかね。
坂口 はぁ。妹が棺桶から生まれてきたりもしますね。この人はこの夫婦の一応子供ってなってますね。兄もこの夫婦の子供だったんですよね。



坂口 神様が来るということで、ダンスの先生が弟子の兄に準備をさせてたりしてますね。でもさぁ…準備してるわりに居酒屋とかで注文とかをしている設定になりますよね。神様が。
植本 そうそう唐揚げとか注文したりして。
坂口 ずいぶん俗っぽい神様で。あれおかしいね(笑)。
植本 ブザーで店員を呼んでね。
坂口 いきなり神様が明太子ナントカカントカとかさ。細かいよねギャグっていうかくすぐりが。
植本 その辺はなんていうか前田君て僕より10歳ぐらい年下なんですけど、現代感覚が笑にしても違いますね。
坂口 おもしろがらせ方が俗に行って俗に行かないっていうか、とても上手なコント風なコメディになっていて…
植本 そうなんです俗のとこ行っても流行廃りではなくて普遍性はあると思うし。
坂口 絶妙に笑っちゃうっていうか。けっこう長く続きますよね、いいテンポで。はぐらかされたり。店員が来て注文を受けている間に先生たちはいなくなっちゃって、神様が取り残されて戸惑うとかね。面白い。
植本 前田くん自身が今の人だからね。ネットで当時の上演の感想書いてる人がいらっしゃって、それを読むと、ある人が書いていたのは客席でげらげら笑ってる人もいたし、ボロボロシクシク泣いてる人もいたって書いてあって。それはすごいなって思ったんです。
坂口 …まあ泣きはしないけど。
植本 へへへ。わからないよ~最後泣くかもよ。
坂口 だからこれいいですよね。全然わけわかんないけど最後に泣いちゃうみたいな。
植本 自分でもよくわからない涙が出たら最高だと思うんですよ。
坂口 まぁ泣きはしないけどね。
植本 わかったよ(笑)。



坂口 その後がクライマックスなわけですよね。ダンスの先生たちが戻ってきて、女の頭の中の青虫を退治しようって話になって、パンを…
植本 神様が何ができるかっていうとパンをこねていろんなものをつくるんですけど。
坂口 そこからがまた盛り上がる。
植本 夫婦なんで男は女の頭の中にある青虫を退治してあげたい。「神様できますか?」っていうお願いしたりするんですけど神様がいとも簡単に「できるよ」っていうんですね。神様がパンをこね出して…
坂口 動物とかいろんなものが
植本 …鹿とかだっけ(笑)。
坂口 そうそう。それで青虫がやっつけられるかって男が神様に訊くんですよね。そうすると、もちろんやっつけられるよって、それで人間を作る…?
植本 はい、パンでね。
坂口 パンで人間を作ってそいつを女に飲ませて、口の中に入って行って….
植本 そのパンの人間に脳に行ってもらって、….なんだけど、女がそれを嫌って、そのパンの人間を噛んで飲み込んでしまうので、そうするととんでもないことが起きる、という話ですね(笑)。
坂口 あ、神様が無理矢理に人間を食べさせようとすると女が拒否して、突くと神様がコケたりするでしょう。あれ素敵なコントで、コント55号の鈞ちゃんみたいな感じで。古いね(笑)。
植本 わかるわかる。払いのけられた時の神様の顔とか見たいですよね、へへへ(笑)。
坂口 鈞ちゃん、あんまり好きじゃないけどさぁ。
植本 どっち(笑)。
坂口 ここで出てきたら面白いと思うんですよ。



植本 で、妻が人間のパンを食べてしまう。
坂口 ガリガリ噛んで食べてしまうと、なんだっけ….?
植本 「巨大化するよ」って神様が言うんです。
坂口 そこも面白いですね。なんとかならないの巨大化しないですまないのっていうと、だめだめって。巨大化するよっていうことになって。妻が巨大化。
植本 半端じゃない巨大化なんですよ。世界と同じくらいなんですよ。
坂口 (笑)すごいよね。哲学的だよね。わかんないけど。
植本 ただ巨大化したら、重力の問題とかあるけど、巨大化した分だけ、密度、濃度が薄まる。だからそんなに害はなさそうなんですよね。空気みたいになっちゃうから。だから最後は消えちゃうって言ってて。
坂口 消えちゃうのか。
植本 大きすぎて見えない。もちろん薄まってる。泣くポイントの一つとしては、男が「僕も巨大化してくれ」言うところじゃないかなって思うんだけど。
坂口 でも、ダメなんだよね?
植本 もし2人が巨大化しちゃうと、薄いから溶けあっちゃう。



坂口 そうですか。でもさぁ、演じてるのはブランコのところに座って演じてるわけでしょ。妻も。
植本 もちろん。そこからはかなりお客さんの想像力の世界ですよ。
坂口 そうですよね。小さくなった夫。妻が大きくなってるから。
植本 そう、巨大化した妻は、ものすごく見下ろしてますね。そのままのなりで。最後のほうは床に顔がつくぐらい。男のほうは大の字になって床に寝そべって上を見上げてますね。
坂口 それは等身大の人がやってるんですよね。そこらへん、観客はどうしたらいいんだろう….
植本 それこそ映像とか映画とかでね、いくらでもできるじゃないですか、でもそれやっちゃったらつまんないですよね。
坂口 そうですよね。演劇だから成立する場面だし、成立しないかもしれない場面ですよね。だからここで笑う人は笑うという。泣く人は泣くっていう。
植本 ああそうかも。
坂口 かもしれないですね。



植本 二人のところにまた、兄妹が出てきて。
坂口 この途中? ブランコの下に妹を寝そべらせて、ブランコ上から落とすっていう危ないことやったりしてますよね? あれなんであんなことやったりするんですか?
植本 知らないですよそんなことは!(笑)
坂口 でもそういうシーンがあったよね???あれめっちゃあぶないと思って。あれなんで落としてんだ???
植本 (笑)それ理由があるの? 俺そんな理由ないと思って。
坂口 それでお兄ちゃんエスパーなんでしょう?
植本 ふふふ、妹が言うにはね。超能力でナントカならないのって。
坂口 で、なんとかしようとして、交信してみると…
植本 タクシーの無線を拾っちゃうっていう(笑)
坂口 あれスバラシイよね。….それでブランコか。いきなりそうか。「ここお前ちょっと寝てみ」、って兄がひそひそいって。そしてブランコの下に顔をおいて、妹を寝させて、兄がブランコを上に持ち上げて落とすっていう….コワイよね…。



坂口 それで最後、キャベツを男が….
植本 うん。気づくと、なんていうの、見える風景としては隣のブランコに女の人が座っていて
坂口 これデカいままなの?
植本 いや、もう青虫になってますね。
坂口 いつ青虫になったの?
植本 それは青虫が女の人の記憶全部食べちゃったっていって……青虫なんですよ(笑)
坂口 ふーん。
植本 ただ記憶を食べたから、女の人の記憶を持った青虫なんです。女の人は死んじゃってるんです。記憶だけが残ってて。
坂口 そうか…。2回も読んだのに。
植本 (笑)俺も2回読んだけど。
坂口 それで男は青虫に会いたくなって。
植本 それでどんどんキャベツをむこうとする。
坂口 でもさぁ、そのキャベツは自分の記憶なんだろ?
植本 そう。
坂口 だから自分の記憶をむしっていって女に会いに行くっていう…強烈な….
植本 壮大な愛の話ですよ。
坂口 このキャベツをむいていく、女は青虫になって中にいるっていうのはすごく素敵な….
植本 女がキャベツの中で「サナギになるから邪魔しないで」、っていうんですけど。
坂口 ここはすごく一気に読んじゃいましたよ。
植本 結局どんどんむいていって、だんだんだんだん溶暗していって終幕。終わるんですけど、男のすすり泣く声とキャベツをむく音がするっていう…
坂口 ちゃんとクライマックスに、絵的にもね、なってるじゃないですか。これあれですよね。考え方ですよね、最後、男のすすり泣く声とキャベツをむく音っていうのはいらないような気がする。
植本 (笑)そこーーー??!
坂口 偉そうなこと言えない….けど。
植本 じゃあどう終わらせるの?
坂口 いやもう、これでいいんじゃないですか? あたりにキャベツが飛び散るで。そこで終わりたい。
植本 なるほどね。
坂口 よくわかんないけどそう思ったんですよ。


植本 純米

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うえもとじゅん岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。

【出演情報】

植本PR

『東海道四谷怪談』
原作◇鶴屋南北
脚本◇加納幸和
演出◇丸尾丸一郎
3/17〜25◎よみうり大手町ホール

坂口眞人

さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

(文責)坂口眞人



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