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坂口 大竹野正典さんの『夜、ナク、鳥』
植本 さすが、実力と筆力を感じる作品でした。
坂口 大竹野正典さんは10年ほど前に亡くなっていますね。
植本 2009年に48歳で亡くなってらして。なんか海水浴の最中の事故なんですね。
坂口 はい。
植本 たぶん、関西の演劇人はよく知ってた存在なんじゃないでしょうかね。
坂口 東京でも志のある方は、よく知ってたんじゃないですか。ぼくはお名前だけで・・・。
植本 そうですね。この作品も岸田の最終選考ですもんね。
坂口 なんで佳作なんでしょうね?
植本 で、この作品、我らが、松永玲子が出演した舞台で。
坂口 珍しいですね。ここで話す前に舞台を観ている。
植本 うん。
坂口 ここは公演を評する場ではないんだけど。
植本 編集長にこの作品をやろうと言われたので、「じゃあ、見よう!」って観に行きましたよ。
坂口 チラシとかを見てたらね、大竹野さんのコメントに惹かれて。
植本 出演者も魅力的でしたしね。



植本 これ、2002年にあった九州の久留米市で起きた保険金連続殺人事件がもとになっていて。
坂口 4人の女性の看護師が夫を何人か殺しちゃってる。ぼくは実際の事件はよく分かんないんだけど。
植本 まぁ、実際は2人なのかな。未遂に終わってるものもあるらしいんですけど。事件をちょっと調べだんですけど、なかなかこの戯曲に匹敵する、それ以上かもしれないくらい。主人公が幼少の頃からのお金への執着とか、すごいんですね。
坂口 それは戯曲の最後の方でもちょっと説明されますよね。嘘つきでお金に執着するっていうのは。でもこの作品はだいぶアレンジをされていますよね。
植本 演劇的にね。
坂口 この台本が成功しているのは、関西に場所を移したっていうのがまず一つですね。
植本 大竹野さんが大阪の方なので、もしかしたら、その言葉で。それは成功してますね。
坂口 えぐいニュアンスが、なんとなくあの大阪弁で、
植本 コミカルっていうか。
坂口 受け入れやすい感じなっているし、戯曲の中での本人たちの心情も逆に立ってくるというか。
植本 標準語で言うともしかしたらおもしろくないセリフを、関西弁で言うとちょっとおもしろさが増すところはあると思いますね。
坂口 そうですね。エピソード的にも、政岡(泰志)さんがやった役かな? 関西の鹿をね。
植本 春日大社の鹿を撃つのが好きな人ね。
坂口 そうそう。あれもなんか素敵なエピソードで。実際、あんなことないわけじゃないですか。
植本 そうですね。
坂口 あれを、鹿のね、肉を、鹿を撃って殺して、
植本 「神様の使いに何をするんだ」って松永がやった役で、妻の吉田という看護師に怒られるんですけど、「お前のやってることにくらべたら、何でもねぇよ」って、言いますよね。
坂口 どこの鹿だって同じじゃんって。その通りだし。ぼくらが喰ってる肉は、じゃあいったい何なんだっていうところも、作家ならではの視点が入っていたり。その、随所に直接関係ないところからのニュアンスのお芝居がメインのテーマを引き立てていくっていうか。膨らませていくっていう感じがありますよね。



坂口 事件のことは表面的にしか分かんないけど。・・・もとから、かみさんはだんなを殺してもいいのでは、というふうに思っていて。
植本 編集長が?
坂口 はい。
植本 どうして?
坂口 なんとなく。
植本 へはははは! おもしろいなぁ。
坂口 だんながかみさんを殺すのはダメだけど、かみさんがだんなを殺すのは、わりとオッケー。
植本 この本の中では、クズしかいないからね。ふふふ。亭主連中がね。
坂口 ま、人間なんてクズしかいないから。クズじゃないやつなんていないから。



坂口 話を最初に戻すと、まず4人の看護師とその家族と、
植本 亭主だったり、
坂口 3組は亭主、もう一組は治験コーディネーターと、
植本 患者さんね。
坂口 あの二人のエピソードも泣かせるっていうか、素敵なオリジナルの部分ですね。
植本 だと思います。ちょっとおもしろかったのは、患者の藤井びんさんにお國言葉を喋らせたのは正解だったと思いますけどね。あれ福島の言葉じゃないかな?
坂口 すごく切ないけどユーモアのある場面ですね。脇から主題をキチッと押し上げてるっていうかね。「病院の庭に木蓮の花が咲いてて、そこに夜、鳥が来てへんな声で啼くんだよ」「夜啼く鳥なんていませんよ」っていう病院の庭での二人の会話がタイトルになってるですね。夜の話だから黒く見える鳥でね。しかもそれが看護師のイメージとダブっていて。ナイチンゲールっていう名前なんですね。鳴き声の美しい鳥で、ヨナキウグイスとか、墓場鳥とか呼ばれているらしい。すごいよくできてますね。
植本 4人の看護師がちょっと話してると、「何話してるの?」とその患者が聞くと「人を殺す計画よ」みたいなことを言うでしょ。冗談でね。
坂口 「おーこわ」って。
植本 そのへんのブラックユーモアが。
坂口 だからこの人は本当に上手というか、ダイレクトに主題に行かないで、回りから状況を実に上手に絡めていってるなぁって思いますね。
植本 だって、ほら、演劇ならではのあれで、幽霊が出てくるじゃないですか。
坂口 読んでると、本当に生きている人との会話なのか、幽霊との会話なのかちょっと分かりづらい・・・。鹿の話をしてる時は死んでるの?
植本 最初に死んでますよね。登場するときに。
坂口 なるほど。
植本 ほかにも、同僚が「吉田」に相談するじゃないですか。「見えるのよ」みたいなことをね。
坂口 あ、殺しちゃった自分の夫が、ご飯食べてると出てきたり。普通に会話をするんですよね。
植本 幽霊も出てくるし、時系列も微妙なんですよね、これね。
坂口 そうですね。
植本 そこがおもしろいですけど。
坂口 そこらへんは、あんまりこだわりがない、夢の中みたいな。ある部分ね。
植本 そうそう、無理につじつま合わせる感じではなくて、そっちの方を重視っていうか。 
坂口 それも素敵ですけどね。



植本 これ、おもしろかったのは、女同士が苗字で呼び合ってるじゃないですか。あれいいですよね。新鮮でした。そんなことよくあるのかもしれませんけど、「吉田」「石井」とかね。
坂口 仲間意識が強いっていうかね。仲間のひとりが自分の夫を殺すのに抵抗するけれども、周りの説得でけっきょく殺しちゃうんだけれど。この呼び方などでも仲間意識みたいなものがよく現れてますよね。
植本 そうですね、まず吉田っていう看護師を中心にして、吉田の何が怖いって、まず同僚たちを騙してるじゃないですか。同僚の亭主が吉田から借りた金の領収書を偽造したり。
坂口 あと無言電話を1日30回、ひとに頼んでかけさせて同僚を追い詰めていく作戦とか。
植本 そうそう、それを自分がさも人助けをしているように仕向けるじゃないですか。そこがすごい。
坂口 でもその・・・、吉田が・・・、この戯曲に関してはよ、全然、全然とは言わないけど、あんまり悪い奴に見えてこないっていうのもいいなぁと思うんですよ。観てても、読んでてもね。
植本 編集長の癖が分かる話だね。
坂口 何で? 
植本 いやいやいや(笑)、女は亭主殺してもいいとかね。
坂口 よくない?
植本 いやいやいや(笑)。
坂口 みんな思ってないかな? うーん、・・・けっこう、よくない? かみさんに殺されてもいいでしょ? 植本さん。
植本 そうしたら自分が悪かったのかなと思うけど。わははは。
坂口 ははは。
植本 ははは。



植本 この事件は2002年に起こって、この戯曲は翌年の2003年に書かれていて。
坂口 あ、そうなんですか!
植本 で、2010年に判決が出て、2016年、一昨年の今頃、死刑が執行されているんですよね。
坂口 はー残念だねぇ…。
植本 どうして?
坂口 いや、まあ、なんとなく。
植本 だから、何って言うの、最近の事件であり、その犯人が存命中に書かれた本っていうね。おもしろいなと思ってね。
坂口 これだけのイメージが作れれば。乱暴に言っちゃえば、事件にインスパイアされて別の話を作ったくらいの勢いで。その犯人たちの思いを、いっぱい引っ張ってきてるかというと、もうちょっと違う大竹野さんの意識、その事件から刺激を受けた意識が演劇という形で構築されて、表現されている。
植本 もちろん。この犯人4人に限らず、人間を描こうとしてるんだろうし。
坂口 そう! モラルとかそういうことに関係なく、演劇ってやっぱり自分が表現したいことの本質を書きたいっていう、それにすごく忠実に。しかも、でも一方では観る人に対する意識、「おもしろい場面を作ったろじゃないかい!」っていう戯作者魂みたいなものもあって、そのバランスがとっても素敵ですね。本当に細かいところまで考えて作ってたんだなぁって思いますよね。
植本 これは戯曲ももちろん素晴らしいんだけど、上演もおもしろかったので、ぼく上演を観てから台本を読んでるじゃないですか。で、全員がしゃべり出してね。
坂口 ああ、
植本 そのイメージが強いから。ずーっと頭の中でしゃべってましたよ。
坂口 得しましたね。
植本 今、コットーネの綿貫さんの仕事で大竹野さんの再評価がどんどん進んでいて、とてもいいことだと思うんですけども。
坂口 そうですね。この本いっきに読めちゃうじゃないですか。シーンシーンのエピソードもリアリティがあるっていうか。お父ちゃんのダメさ加減と、お母ちゃんの、それをけなすっていうか、なに? けなすんじゃないね、いらう感じが。



植本 お父ちゃんが子供3人の運動靴とか買ってくるんだけど、「サイズも知らないくせに」って言われちゃう。子供は留守でね。
坂口 それもさ、お父ちゃんが帰った後に、ポツって言うんだよね、そういうタイミングとかがね。
植本 でも、それも、ちょっと嬉しそうでもあるんだよね。お父ちゃんが靴を買ってきたことがね。
坂口 だから、殺されちゃったお父ちゃんに対して、全く愛情がないわけではない。まだ少しは気持ちがいってるのに、殺しちゃう。
植本 だから、劇中にも出てきますよね。「自分の亭主と仲間の吉田、どっちを選ぶの」って問い詰められるっていう。編集長と一緒になっちゃうけど、殺されただんなたちがそんなに恨んでないんですよね。ふふふ。
坂口 「ま、しょうがないな。おれ悪いことばっかししちゃったもんな」っていう。
植本 「おれを殺すのはしょうがないけど、他の人はどうだ?」 みたいなセリフがあったじゃないですか。他の人を殺すのに手を貸すかどうかっていう。
坂口 それはもう、その通り。だけど、だからこの劇に出てくる男の人たちはましな方だよね?
植本 そーお? ふへへへ。
坂口 殺されることも分からないで「なんでおれを殺すんだ」っていう人よりね。亭主は女房に対して、ろくなことしかしてないと思うんですよ。どんな人でも、世界中の亭主が。そういう制度だから。でも、この芝居に出てくる男たちは「おれ、悪いことしちゃった」っていう。反省の気持ちがあるから、こういうセリフが出てくるわけだよね。でもこういうセリフが出てこない人が世の中多いと思う。
植本 うはははは。
坂口 「おれはちゃんとやってるよ、夫として」って。でも世の中で夫としてちゃんとやってるやつなんて、いないから。
植本 でもね、ここのポイントとしては、自分が死んだら保険金がかみさんに行くっていうので、ふははは。
坂口 そう言ったって、子供がいればみんな入ってるでしょう。っていうことで、世のだんなさんみんなに読んで欲しい。
植本 あ、そう! そっちに行ったんだ。うははは。
坂口 そう。反省の書だと思う。「おれはどんだけダメなんだろう」っていうのを、まず分かって欲しいし。女の人は大丈夫、「いつかはあいつを殺っちゃっていい」って思っていると、がんばって生きていけるかなって、すごく思うんですけどね。
植本 …何なんだろうね。…カマキリとか? メスがオスを食べちゃうとか。そんな気持ちなのかな、カマキリ。ふははは。
坂口 はははは、あれはもっと生物的に単純な話だと思うけど。これ、基本、えぐい話なんだけどね。だから余計感じる部分がありますよね。ただの事件じゃないからね。いっぱいこう、…自分の気持ちにフィットする。
植本 そうですね。のぞき見してるつもりだけど、何だか自分のこと言われてるような。
坂口 そうですよね。とても素敵な戯曲でありました。
植本 読めてよかったです。


植本 純米

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うえもとじゅん岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。


坂口眞人

さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

(文責)坂口眞人



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