マーティン

坂口 今回は『ウィー・トーマス』
植本 マーティン・マクドナーですね。今、っていうかずっと前からですけど注目の作家さんですね。で、原題はこっちみたいですね。『The Lieutenant of Inishmore』
坂口 イニュシュモア。北アイルランドにある島の名前ですよね。
植本 その島の中尉っていう意味なんだって。階級。軍の。
坂口 でも自分たちが作った軍だよね。
植本 ウィー・トーマスって猫の名前なんだけど、これはもしかしたら日本向けのタイトルですかね。
坂口 北アイルランドの紛争の話ですね。舞台は1993年とかって…
植本 これ、上演まで7年位かかってるのかな。一回ロンドンの劇場に脚本を提出したらダメって。やっぱり過激って言うか、デリケートな問題を扱ってるから断られて、ロイヤルシェイクスピアカンパニーに提出したらやってくれた。


坂口 デリケートというと、北アイルランド紛争があって、上演された年代だとまだ紛争がおこってる、解決してない。まあ今も解決はしてないんだけど。ていう時代の話で、しかも過激派と言われている北アイルランドのIRA、
植本 そこから分離した、分派でINLAというのがあって、
坂口 そこに所属している戦士のパドレイク、
植本 自分で中尉って言ってるけど(笑)、
坂口 の話なんですね。しかも彼はその過激派ですら物足りない。戦闘している状態が生ぬるい、と。
植本 文中にもあるけど、彼はキ○ガイって皆に言われているくらい過激な男なんだよね。
坂口 そうですね。この話は彼だけじゃなくて、バカばっかりが出てきますね、。でもユーモアたっぷりでスピード感もあって、おもしろい。
植本 そうなの!ちょっとファンタジーにも思えるでしょ?


坂口 キ○ガイの革命家が外国に行っていて、はじめのシーンは、その留守をあずかってるお父さんの家ですね。
植本 そのお父さんの友達? みたいな少年が死んだ猫を連れてくる、っていうところから始まります。
坂口 頭がぐちゃぐちゃになった猫を連れてきて。あんたんとこの猫だろって。その猫はキ○ガイ革命家...キ○ガイばっかり言っちゃいけないね(笑)なんだっけ、
植本 (笑)革命家のパドレイク。
坂口 その猫はパドレイクがもう15年も可愛がってた猫で、彼が留守の間お父さんが預かってた。で、猫が死んだのをパドレイクが知ったら「俺たちは殺されちゃう」くらいの心配をしてるわけですよね。ここで、頭の欠けた猫の死体がでてきます。
植本 脳みそがぼとっと落ちたりとかそういう描写もありましたもんね。


坂口 で、次のシーンになると、北アイルランドの本土でパドレイクが男をリンチをしてますね。
植本 (笑)しかも逆さ吊りですよ。
坂口 (笑)足の指の爪を剥いだりしている。
植本 そうそう。
坂口 結構過激で、血だらけっていうシーンになって。 そこにお父さんから電話がかかってくる。
植本 ちょうど、リンチを受けている人の乳首を切るっていうシーンでね。どっちの乳首を切る? 早く答えねえと両方切るぞ! みたいなシーンで、切られる寸前にお父さんから電話かかってきてね。でると、猫の容態が悪いって。ホントはもう死んでんだけどね(笑)。
坂口 だけど、リンチされてる男も麻薬の売人で、実は麻薬を販売したお金は、過激派組織の資金源になってるっていう、複雑な関係があって、これが後で仲間に襲われる話に関わってくる。で、飼い猫が心配なのでそのリンチは途中で終わって、
植本 彼は島に帰ります(笑)。
坂口 でもこれは罠だったんですよね。
植本 パドレイクの命を狙ってるのが同じ組織INLAの3人組なんですけど、彼が自分勝手であまりにも手に負えなくなったから、ちょっと、殺すかっていう。
坂口 で、パドレイクがかわいがっている猫を殺して、彼が心配して帰ってくるところを暗殺するっていう作戦ですね。でもこの3人組にしても、お父さんと少年にしてもものすごくマンガ的ですね。
植本 とぼけてるね。


坂口 これね、現実にそういう当事者がいるのに、この島の人たちがこんなにまぬけに描かれてていいのかな? 戯曲としては面白いけど。例えば...どこでもいいけど、革命運動がおこってて、こういう場所があってそこにいる革命の戦士たちがこんなに間抜けだよって、書けないでしょう!
植本 (笑)勿論その作家のマーティン・マクドナーがそこの人っていう。イギリス育ちなんだけど両親ともアイルランド人でっていうのがあるから。自分の土地のこと書いてるんだろうけど、やっぱりご本人も過激な人らしくて、敵が多いみたいな、ね(笑)。
坂口 革命の方に心を惹かれていたら、とても許せないと思いますね。そのことで凄惨な出来事が全部わやになって面白がって観れるけど。
植本 分かってて書いてるんだろうね。挑発的な、ね。
坂口 でも戯曲は面白い。
植本 これあれですよ、イギリスのローレンス・オリビエ賞のコメディ賞を受賞してるんですよ。


坂口 一方で、女の子が出てきて、それはちょっと可愛い話でもありますよね。
植本 お父さんのところに猫の死体を持ってきた少年の、妹。
坂口 16歳っていったかな...
植本 キ○ガイのパドレイクに恋心を抱いている。
坂口 空気銃の射撃が上手。
植本 次々と牛の目を銃で撃って潰していった、っていうエピソードがあります。
坂口 で、彼女もその過激な思想側にいる、猫好きの女の子なんだよね。彼女とパドレイクの恋愛話みたいなのが現在進行形でちょくちょく入ってくる。あれはちょっと可愛い話ですね。最後はともかくとして....
植本 そうね。パドレイクも最初相手にしてないじゃない、子供だし、女の子だからって。でもそのうちに、射撃の腕を認めて(笑)。
坂口 まぁ、自分が助けてもらったんだよね。
植本 そうそう。さっき言ってた三人組が暗殺しにきた時にそいつらの目を彼女が得意の空気銃で打ち抜くっていう(笑)。
坂口 素晴らしい技を発揮するんだけどね。だんだん彼と彼女がもしかしたら好きかもしれないみたいな、感情が近づいてく...
植本 二人でタイトルにもなってるウィー・トーマスっていう軍を作ろうみたいなね(笑)。
坂口 あれ、上手に書けてるなって思いますよね。その割にまわりの男5人があまりにも間がぬけてる。くどいけど、そこが面白い部分でもあるんですけどね。


植本 お父さんおもしろいですよね。本当に。
坂口 で、まあ彼(パドレイク)が猫が心配で戻ってくるんですよね。その間、お父さんと少年は猫が死んじゃって怯えてる。
植本 どうしようかって考えて、他の猫で代用できないだろうかっていう。ウィー・トーマスは黒猫なんだけど、茶色い猫を捕まえてきて、靴墨で黒く塗ってみようって。
坂口 で、実際塗るんだよね(笑)。
植本 そう(笑)、でも全然上手に塗れない上に靴墨臭くてね。
坂口 ここのお父さんと近所の少年のやり取りも、けっこう漫才っぽいというか、どうでもいいようなバカなことが上手に作ってあるなあ、と。この猫も後でまた、とても重要な役割を、ね。
植本 そうとても重要。でまあ、酒飲みながらこの猫に靴墨を塗りたくってるんですけど眠くなって、じゃあ明日早く起きて続きやろうかっていうんだけど、そのフリがまたお笑いのフリと一緒でしょ(笑)。「絶対起こせよ、絶対起こせよ」って。頼んで...見事に二人とも寝坊しちゃう(笑)。
坂口 寝坊してると、パドレイクが来ちゃう(笑)。
植本 「おい、これはどういうことだ!」って。
坂口 彼が戻ってきて、
植本 怒り狂って、パドレイクがその靴墨を塗った代用の猫を殺しちゃうんですけど(笑)。
坂口 そこもまたポイントですよね。
植本 なんだこれ!って言って殺してバスタブに入れちゃう。
坂口 でもその猫は実際、最後でわかるんだけど女の子の
植本 付き合いかけの女の子、マレードの可愛がってた猫だったっていう。それを怒り狂ってパドレイクが殺しちゃうんだよね。
坂口 まあ、その時は誰の猫か知らなかったんだけどね。
植本 マレードが、主人公って言ったらあれですけど、パドレイクを殺しますね。
坂口 自分の猫を殺したってわかったときにね。
植本 さらに最後にオチがあるじゃない(笑)。


坂口 そうですね(笑)。でもその前に、お父さんと少年の2人がパドレイクに殺されそうになるんですよね。いい感じですよね~。お父さんのことも平気で殺そうとしてるもんねパドレイクは。けど例の3人組に襲撃されて...
植本 3人だから強いんですよ、人数的に。パドレイク捕らえられてね。
坂口 そこでマレードが銃の上手さを生かして、3人の目を撃って、目を、つぶしちゃうんだね。
植本 それで形勢は逆転します。
坂口 結局、3人はパドレイクに殺されちゃうでしょ。
植本 目が見えないからさ、歌舞伎のだんまりみたいなシーンになってて(笑)。
坂口 そうですね。で、3人銃殺されますね。
植本 1人なんてバラバラにされて、ものかげに引っ張られていってぐちゃぐちゃにされてますね。
坂口 猫を殺した張本人ね。ここらへんの描写もすごい。十字架みたいなのが事前に作ってあって。
植本 お父さんと少年がいろいろごまかすために作った。
坂口 その十字架を殺した奴の口から突っ込んで、喉から後ろにいって
植本 貫通してるでしょ(笑)。
坂口 残りの2人の死体は切り刻まれてる。しかも切り刻んでる人はお父さんと少年。
植本 あ!そうそう!死んだあと、死体をね。
坂口 パドレイクに命令されて、死体を切り刻んで...
植本 埋めるんだか捨てるんだか知らないけど。
坂口 だから舞台は血だらけ...ですよね。どうやったかちょっと興味がありますよね。


植本 形勢逆転があって、さっき言ったけどマレードにパドレイクも殺されちゃって。女王誕生みたいな。「私が今日から中尉です」みたいなことを言ってます。
坂口 猫好きの少女がある日、いきなり自立するっていう。自分が可愛がっていた猫を殺されてね。
植本 そうそう。
坂口 だって、1日前は全然従順な少女みたいな感じだった。
植本 もう最後は、恋人よりも猫の方が大切だったか!っていう感じの(笑)。
坂口 怒り狂ってますもんね。そういう展開は悪かない。
植本 だって好きでしょ?ダメな男どもの頂点に立つ女性とか。
坂口 (笑)ちょっとこれは特殊だよね? いいけど。彼女は役としてとっても、
植本 かっこいい!
坂口 やるならこの役しかない!というくらいの感じですよね。で、彼女は帰っていっちゃうんですね?
植本 そう、出てっちゃう。そうするとお父さんと少年が取り残されて、そこに死んだはずのウィー・トーマスが現れる。じゃあ、最初に連れてきた猫の死体はあれはなんだったの? ああ、別の猫だったていう話で。それで二人は怒りがわいてきて「この猫、ウィー・トーマス殺してやる!」っていうんだけど殺せないのね。猫やっぱり好きなの。じゃあご飯あげようかって(笑)。


坂口 でもさ、そのあとすごいよね、猫がもしもご飯を食べたらこういう台詞、食べなかったらこっちの台詞って、台詞が2つありましたよね。
植本 だからこれ本物の猫使うっていうことだからね。
坂口 まあユーモアって言えばユーモア。そこで本物使うなら相当なことやってないと。
植本 え?訓練された猫ってこと?
坂口 違う違う。その前のシーンで。本当にバラバラ死体いっぱいあって血みどろになってるわけでしょ。それもかなりリアルにやっとかないと、おもしろくない。
植本 これ、本当に本物の猫でやったかな!? どうなんだろ。猫ってそんなことできんのかな。
坂口 あんまりできないよね。猫はね。犬なら...
植本 ご飯があればくるか?
坂口 別に放せばくるかもしれないけど、パニックになる奴もいるだろうし。
植本 と思うよ。萎縮して腰が引けちゃう猫だっていると思うからさ。
坂口 猫にとっては迷惑な話だよね。
植本 いやいやいやいや(笑).
坂口 少なくともナショナルシアターでは本物を使ったんじゃないの?
植本 どうかな?
坂口 これ本物使わないと劇そのものが“ちゃちく”なっちゃわない? ただのおふざけになっちゃいますよね。
植本 最後、本物の猫がいい演技をしたら、すごいいい拍手だと思う(笑)。
坂口 ね。それしかないような気がするんだけどなぁ。


植本 この作品、完成度は高いですね。まだこれを書いた頃作者は若かったと思うんですけど。
坂口 はい。
植本 ちゃんと起承転結で、読後に爽快感がある(笑)。
坂口 すごくシャレも効いてるし、ユーモアもたっぷりだし。でもなぁ...北アイルランドの人が観たらどう思うんだろう・・・。
植本 やっぱ、そこなんだ(笑)!
坂口 すごく思うんだよ。書かれた当事者が辛いっていうか...今ある出来事に対してね、あいつら馬鹿だからこうなっちゃったよっていうことはないのでは、やっぱり。
植本 実際にたくさんの人たちが亡くなってもいるわけですからね。
坂口 もっと複雑な話ではあるわけだから。それをただただお芝居の面白さを作るために単純化していって、単調な人物像が描かれちゃうと、それはやっぱり気になるんだよ。ひっかかって。だから素直には喜べないけど、でもとてもおもしろかった。
植本 すごい犠牲の上に成り立ってる本だという、実際はね。
坂口 いってみれば事件物とかじゃないですか。日本人だったらもうちょっと違った書き方をするのかなーって。でもこの人なりに違った書き方をしてるのか。だからカリカチュアライズしたりしてるのか。かもしれないよね。
植本 そっちに行ったんですよね方向的にね。
坂口 だから...いいのか。
植本 だからきっと今のことを鑑みて作品作ったとき、編集長は「つまんない」って言いそうじゃない(笑)?色んな両方に配慮した作品の時に
坂口 うーん、難しいね(笑)。配慮の仕方だと思うんだけどね。


植本 よかったです。現在進行形のバリバリ活動中の作家さんを取り上げられて。日本にはいるかもしれないけど。なかなか海外だと偉人化されたレジェンド達の作品が多いからね、このコーナー。
坂口 でも思うんだよなあ...残虐...残虐じゃん。会話のユーモアとか登場人物のアホらしさがなかったらものすごい血みどろで凄惨な話だよね。死体刻んだり、リンチしたり。
植本 でもそれ相乗効果なんだろうね?血みどろの猫の死体持ってとぼけたこと言うって。きっとね。
坂口 舞台もかなりのスピードで進行して行きそうだしね。どうやんのかなって思って。
植本 そうそう...偽物っぽいとね...っていうのもあるし...
坂口 歌舞伎とかだったら似た顔や首が転がったりするじゃん。
植本 ああ(笑)首実検みたいなやつね。
坂口 そうそうそう(笑)でもそこまでしかできないでしょ?舞台じゃ。
植本 勿論ですよ!!
坂口 豚の内臓持ってきてんなんとかするっていうわけにはいかないでしょ?
植本 全ステージね。
坂口 そうそう。だから...そこらへんもどう面白くしてるのかなーって。
植本 作品もドロドロに反してスカッと読めました。
坂口 そうですね、僕もほんとに一気に読めちゃいました。...良かったですね。
植本 はい、ありがとうございます(笑)
坂口 まあ、これはこのあたりにしときましょ。

植本 純米

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うえもとじゅん岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。

【出演情報】
ONWARD presents
新感線☆RS『メタルマクベス』Produced by TBS
7/23〜8/31◎IHIステージアラウンド東京


坂口眞人

さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

(文責)坂口眞人



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