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坂口 『海浜の午後』、アガサ・クリスティー。
植本 かいひんって読むんですね。
坂口 文庫本に3作のっていて、これが圧倒的に面白いと僕は思うんです。
植本 人が死なないのでびっくりした。アガサ・クリスティーって言ったら人が死んでなんぼみたいなとこあるじゃないですか、犯人探しでね。
坂口 あっさりした話ですね。
植本 だから若いころの習作なのかなって思ったの。そしたら70過ぎて書いていて。
坂口 これ、サービス満点で、観客が飽きないっていう部分について。ある時期の青年団の芝居を見ているようなね。
植本 あー。空間と時間を切り取ってるような感じですね。
坂口 ある時間、浜辺の海水浴場、ちょっとゆるい日常的な展開。でもそれぞれの会話にエスプリが効いている。
植本 場所はゆるいプライベートビーチっていうのかな。
坂口 昔はエリートが来ていたけど、だんだん時代とともに、普通の人も来ちゃう。
植本 浜辺にある小屋を借り切って、そこでひと夏過ごす。みたいなカンジですけど。そのエリアにやってくる若者達とかもいてね。
坂口 そんなひとがいっぱいでてくる。それがその場の雰囲気を作っていく。子供をしかるお母さんが何回もでてきたり、
植本 しょっちゅうボールを拾いにくる青年がいたりね。
坂口 不条理劇みたいな雰囲気もありますよね。
植本 舞台以外の袖に誰かがいるとか、風景が広がっているっていうのを出すの、ほほえましかった。その手法がね。
坂口 ビキニの美女が出てきたり。
植本 はいはい。



坂口 で、小屋にいる人たちは、52歳の奥さんとその旦那さんご夫婦。
植本 常套手段なんだろうけど、ステレオタイプがいっぱい出てきます。
坂口 出てきますね。これも強い奥さんと、、、
植本 決して旦那さんも弱くはなくて、皮肉が口からポロポロこぼれてくる人ではあるんですけど。それでもやっぱり奥さんのほうが強いんですね。
坂口 イギリス人っぽい? イギリス人と話したことないけど。
植本 (笑)。
坂口 真ん中の小屋にはまだ誰も出てきていない。で、その隣は、
植本 マザコンの親子ですね。というかお母さんが強い。息子を支配している。
坂口 すごい嫌な感じに書かれていて、いいですよね(笑)。
植本 「あたし他の母親みたいな、束縛したくないの」って言いながらも、何か息子が行動しようとすると、用事ができたり、気分が悪くなったり、、、それを口実に引き止める。
坂口 わかりやすい。
植本 そうなの。その親子の関係はわりと丁寧に描かれていています(笑)。
坂口 息子が女の子とボートに乗りにいこうとすると、頭が痛いとか、お前はボートが好きじゃなかったとか、、、。
植本 お前にあの女の子は合わない、みたいなこといったりとか(笑)。
坂口 うるせえババアって思いますよね。そこでとなりの旦那が面白い。
植本 ちゃちゃをいれたりしてね。



坂口 小屋の前の浜辺にいる3人の行動も不思議な。あれ夫婦と?
植本 あれどうなんだろう。二人は苗字が一緒だから夫婦なのかな?
坂口 そうだよね。
植本 で、ボブっていう若い男が、、、そこは複雑なんだけどさ、ほら、年の差があるからか「若い男と遊んでもいいよ」みたいな旦那さんなのか、、、不思議な三角関係、、、。
坂口 ね。ボブはちょっと調子のいい男。
植本 そうそう。
坂口 で、そういう海岸の日常風景みたいなことをやっていると、誰か有名な金持ちの、
植本 エメラルドのネックレスが、
坂口 盗まれた。どこか近所の別の場所でね。
植本 そう。持ち去られた。二階から侵入したらしい。っていう。
坂口 よーやっとここで事件が。でも事件が知らされる前には真ん中の小屋からビキニスタイルの美女が、ビキニスタイルって死語ですね(笑)。
植本 当時としては、ビキニっていうのは割と刺激の強いものとして描かれてますね。
坂口 大司教に説教してもらって止めさせた方がいい、みたいにババアが言うよね。ビキニスタイルの美女に男どもが釘付けになっちゃう。ってあれおかしいね。
植本 ふふふふ。
坂口 外国の男の人ってけっこうガン見する(笑)。すてきですね。
植本 うふふ、そうね(笑)。
坂口 それでカミさんに叱られたりしてますね。
植本 何か女性が物を落とすとすぐ拾ってあげたりとか、タバコのライターが必要ならサッと差し出したりとか。うふふ。
坂口 なかなか日本人はスマートにできない。
植本 まず思ったのが、ビキニになったり男どもも裸になったり、これ日本人で上演できんのかなって(笑)。
坂口 しかも72歳の時に書いてるわけでしょ、本当に退屈しないお芝居。そのことがすごい演劇的だな、と思って。



植本 これさ、一番最初に舞台配置図っていうのが載ってるじゃない。
坂口 ト書きを読むと彼女の中にすごいしっかりしたイメージができてますよね。「こういう風にやりなさい、やったらいい」っていうのが。
植本 もちろん、お芝居好きっていうのがすごく感じるし、途中で例えば「ここはアドリブでよろしく」って書いてあったりとか、、、、
坂口 そうですよね。
植本 ミステリー作家としては緻密に作っていかないと、ほころびが出てくるんだろうなって思うんですよね。
坂口 まあ芝居だからね、映画とか小説とかとはまたちょっと違った部分もあるから、多少気楽に作ってんのかなって気はしますよね。
植本 通行人の女性が海藻みたいなのを、登場人物の背中に触れさせて通行していくでしょ? そういうの引っかかるよね(笑)。
坂口 とか、ボールが飛んできてぶつかったり。
植本 結局、意味ないんだけど。
坂口 そう。意味ないんだけど。それが素敵だなっと思って。こういう芝居をみたいです。
植本 なるほどね。いや、日本人にこれができれば本当にいいと思うし。
坂口 ね。で途中から話が事件がらみになっていきます。
植本 盗まれた品らしいものが、この3つの小屋のどこかに投げ込まれたっていう子供の目撃証言が出てきて、、、
坂口 それで新しい登場人物が出てくるんだね。
植本 警部と海浜管理員。
坂口 出てきて突如うるさい母親を説得したりする。
植本 そうそう。家宅捜査を拒むご婦人にね「やれ、じゃああんたは警察に行くの? その姿みられていいの?」みたいな。
坂口 そう。だからそういうメリハリも魅力的。芝居見てたら「お!この爺さんやるじゃん」とかさ。そういう感じになってくるかなって思いますね。
植本 脇役がないっていうか、どれも一癖ある人達だから演じるにあたっては面白いと思う。この役じゃなきゃ嫌っていうのがないもんね。
坂口 見てる人も本当に退屈しないと思うんだなあ。
植本 そうね、、、、脱ぐしね(笑)へへへへ。
坂口 そう、それ重要だよね。美女が脱ぐっていうのはすごい重要だと思う。次から次へと人の出入りもあるし。
植本 で、ほら。上空を飛行機が通ったりとか。
坂口 あ、、、そうだよね。
植本 何回か通るでしょ??
坂口 、、、通る。
植本 すごく効果的だなと思って。
坂口 不安を象徴するとかでもないと思うんだよね、、。
植本 子供の声も舞台袖から聞こえてくる。犬の鳴き声も聞こえてくるとか。すごい頑張って外を表現しようとしてるから。



坂口 凝ってるんですよ。浜辺の風景。
植本 推理ものとしては最後、、まあメインとしては男性二人ですよね。女性ももちろん一味なんだけど、、、、
坂口 男性二人ってあれ?
植本 宝石商っていうか、宝石の売買をしてる。しかも盗品の。
坂口 あの52歳のカミさんにいつも叱られてる旦那さんが盗品専門の宝石商、だったんだよね。それでもう一人は浜辺にいた3人組の歳とった旦那さんって言われてた人が泥棒の親方?
植本 プロ。
坂口 自分がやったかどうかはわかんないんだけど。で、そこが、最後、オチか。
植本 体がちょっと不自由だったのに、不自由だった足をちゃんと組んで終わる。っていう。おしゃれ。
坂口 全編おしゃれだよね。しかも自分の推理作家としてっていうテリトリーの中に持ち込んでちゃんと作ってる。このおばちゃんはすごい!
植本 綿密に色んなものを組み立てながらっていうのがよく伝わってきます。
坂口 人物の造形もパターンだからこそ活きてくる、それぞれの人物の組み合わせがコミカルじゃないですか、登場人物が。
植本 しかも人が死なないから、コミカルさが余計に浮き立つ。悲惨さがないからね。
坂口 「そうだよね、こいつら言いそうだよね!」っていうのがずーっと続いてる。変な話なのにずっとそれが納得できちゃうっていうのがね。いろんな関係がすごく上手に描かれてる。
植本 どうでもいいのに、マザコンの男の子がちょっと自立して終わるでしょ? それいる? って思いながら(笑)
坂口 (笑)でもさ、恐妻家のジョージのキャラクター作りにも役立っていて、最後の方で彼が男の子に「がんばれよ」っていう。
植本 うんうん、一歩踏み出せない若者のケツをたたく。
坂口 最後シーンで、恐妻家の男と年の離れた夫の二人が盗品を扱う仲間だったっていうのがちょっとしたオチというか、また違う面白さがあるよね。
植本 そこがわかっていると、演じる方も逆算して作ってくんだろうな、って。どこかで匂わせてね。楽しいだろうな。こういう芝居に出て演じるのは。



植本 アガサ・クリスティーがこんな小品を書いてるのは知らなかったですね。
坂口 僕は戯曲書いてることすら知らなかった。ちょっと恥ずかしい。
植本 15作品くらい書いてるんでしたっけ。100作品以上残してる方だから多くはないんでしょうけど。
坂口 良かったです。
植本 肉体美とかハダカになることを除けばやるのは楽しいな。日本人でも。
坂口 自分がハダカになるのが嫌なの?
植本 そんなに見せられるモノじゃない、、、
坂口 それはしかたない。醜い肉体も見せてなんぼ(笑)。
植本 (笑)中途半端だからなって思う。自分の肉体がね。
坂口 いい肉体を見せるためにやってるわけじゃないからね。
植本 美女の役とか除けば、ね。
坂口 (笑)そうそうそう。素晴らしいよ。ぜひ。でもあれなのか、ちょっと小劇場っぽいっていうか、大劇場ではやりづらいかもしれないね。
植本 規模的に?
坂口 規模的にというか、売りがないっていうか、、、すごく面白いけど、自分の中では小劇場で観てるみたいな気分で読んでたから、これ大劇場でやるってイメージがちょっとないかも。だから皆が手をださないのかな?
植本 この作品の名前も初めて聞いたし、やってるの勿論見たことないから、でもまあ本当になかなかそういう文化、未だに日本では根付きませんけど、会社帰りの方々とかが、ちょっと寄ってその後バーで呑んでってのに向いてると思いますけどね。、、、誰かやればいいのに(笑)。
坂口 どうなんすかね(笑)。

植本 純米

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うえもとじゅん岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。

【出演情報】
四獣『ワンダーガーデン』
作・演出◇わかぎゑふ
出演◇桂憲一 植本純米 大井靖彦 八代進一
11/9~11◎ウィングフィールド(大阪)
11/13~18日◎シアター711(東京)
※10月に札幌えんかん公演あり(会員限定)


坂口眞人

さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

(文責)坂口眞人



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