20年以上にわたって女性だけの出演者により、上質で極めて馬鹿馬鹿しく
ブラックなナンセンス喜劇を生み出してきた喜劇団「げんこつ団」
団長・一十口裏による妄想サーカス。

第67回 ある休日の朝

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父さんはいつものように食卓で新聞を広げていた。
「あ、おはよう、父さん」
しかしダイニングには柔らかな陽が差し込んでいて、
その手はいつもよりゆっくりと紙をめくった。
「朝ごはん、どうする?」
「んー」
父さんは新聞から目を離さない。
私は答えを急がせずに、まあいいかと、その隣に座った。

そこにバタンと冷蔵庫を閉める音がした。
「あ、おはよう、父さん」
牛乳を飲みながらやってきた父さんは、
伸びたトレーナーに、ヨレたパジャマのズボン。
ああ休日の朝だなあと、ますます思わされる風景。
「朝ごはん、どうする?」
「あー」
父さんは宙を見上げて惚けた顔をした。
私は思わず、ふふっと笑った。

そこに、トイレを流す音がした。
「あ、おはよう、父さん」
ペタペタとスリッパを鳴らして父さんが近づいてくる。
その音はなんとも平和で気が抜ける。
「朝ごはん、どうする?」
「どうって?」
「パンとご飯、どっちにする?」
「えー?」
父さんは洗った手をシャツで拭きながら眉をしかめると、
新聞を広げる父さんと、牛乳を飲む父さんに尋ねた。
「父さんと父さんは? どっちがいいんだ?」
「あー、どっちでもいいよ」
「うん、なんでもいいよ」
父さんと父さんは、こちらを見ずにそれぞれに言った。

その呑気な会話に、ますます休日の喜びを感じる。
なんて安らかな朝だろう。
このひとときのために、日々頑張っているのだなあ。
そう思いながら伸びをした私に、
父さんが振り返って言った。
「で? 父さんは? どっちがいいんだ?」
「よし! じゃあ、ご飯にしよう」
私は立ち上がった。

父さんは笑った。
「なんだ、父さん」
父さんも笑った。
「ご飯がいいなら、最初から聞くなよ」
「たまご焼いたら、食べるだろ?」
「ああ、もちろん」
声を揃えて、父さんが答える。
自然と鼻歌がこぼれ、私は台所に向かった。

しかしそこで私は気づいた。
そういえば父さんの姿がない。

「ん? どうした、父さん」
「いや、父さんは?」
「ああ、父さんなら病院だ」
「おお、そろそろか」

そこでちょうど電話が鳴った。
父さんが振り返り、父さんが立ち上がったが、
それより早く走り、私は受話器を取った。
「はい、もしもし。お、父さんか…!」

父さんは父さんと目を合わせ、
父さんは息を飲んで次の言葉を待った。

「…うん…うん、そうか、やったな!」
「なんだって?」
「産まれた!」
父さんはガッツポーズをし、
父さんと父さんはハイタッチして抱き合った。

「で?…うん…うん、そうか」
「なんだって?」
「父さんも大丈夫らしい。一週間すれば退院だ」
父さんはうなずいた。父さんはほっと息を漏らした。
父さんは受話器を奪わんとばかりに身を乗り出してきた。

「で?…うん…うん、そうか……」
「なんだって?」
受話器を持ったまま、
私はゆっくりと振り返って言った。
「…元気な、お父さんだそうだ!」

父さんは飛び上がり、父さんは雄叫びをあげた。
「でかした父さん!」
「やったな父さん!」
そして静かに立ち尽くした父さんの目には、
早くもうっすらと涙が溢れていた。

ああ。
なんと素晴らしい休日。
なんと素晴らしい朝。
父さん、父さん、
そして父さん、本当にありがとう。
父さんは、とても嬉しい。
きっと父さんも、同じ気持ちだ。

「おい父さん、すぐに病院行くぞ!」
父さんが車のキーを揺らしながら言った。
父さんも父さんも、すでにズボンを履き替え、上着を羽織っている。

「じゃ、父さんこれから、そっち行くからな。
 ちゃんと父さんに付き添ってるんだぞ、父さん」

私は玄関の鏡の前で、頭の天辺の残り少ない毛を撫で付けると、
眩ゆい休日の陽のもとに飛び出した。

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【著者プロフィール】
profile
一十口裏
いとぐちうら○ 「げんこつ団」団長
げんこつ団においては、脚本、演出のみならず、映像、音響、チラシデザインも担当。
意外性に満ちた脚本と痛烈な風刺、容赦ない馬鹿馬鹿しさが特徴。
また活動開始当初より映像をふんだんに盛り込んだ作品を作っており、現在は映像作家としても活動中。

げんこつ団公式サイト



▼▼▼雑誌えんぶ版『妄想危機一髪』連載中!▼▼▼

第66回 妊婦隊、前へ

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我が軍は不利な状況に追い込まれた。
ここで一気に反撃せねばならない。

ここで如何に踏ん張れるか。
ここで如何に敵にダメージを与えられるか。
それが戦局を大きく左右するであろう。

爆撃の続くなか、私は号令をかけた。
「敵機、前方200mに確認。陸上妊婦隊、前へ!」
私の前にはちきれそうな腹を揺らした妊婦たちが、
素早く一列に並び敬礼した。
「マタニティ!」

彼女らは訓練に訓練を重ねた精鋭部隊である。
我が軍、我が国家の未来を担う彼女らの表情と、
その大きな腹はとても頼もしい。

私の声は自信に満ちた。
「分娩用意!」
彼女らは一斉に仰向けに横たわり、
マタニティドレスを捲って足を広げ、
敵機に向けて、股を突き上げた。
「ラマーズ!」

ずらりと並び陽を受けて輝く彼女らの膝小僧。
迷うことなく狙いを定めた彼女らのつま先が、
私の次の号令を待った。

私は方角を再度確認し、その号令を発した。
「いきみ開始!」
彼女らはいきんだ。力の限りいきんだ。
そして、今だ、という瞬間に私は叫んだ。
「分娩!」

いきみ声が消え、静かになった瞬間から、
ボン、ボン、ボン、と、彼女らの股の間から、次々と赤子が発射された。
オギャー、オギャー、オギャーと、赤子らは真っ直ぐに、宙を飛んでいった。
そして、ドン、ドン、ドン、と、赤子らは次々に敵機に命中した。

「航空妊婦隊、分娩開始!」
その命中に喜ぶ間などない。私は無線に向かって叫んだ。

そして直ちに、空を切る我が爆撃機からも、
オギャー、オギャー、オギャー、と、
無数の赤子らが敵軍のもとに落とされていくのを、双眼鏡で確認した。

「海上妊婦隊、分娩開始」
更に私は無線で指示を出した。

その声は聞こえはせぬが、双眼鏡で確認できるより先の海にて、
我が軍の潜水艦から、無数の赤子が海中に放たれたであろう。

さあ、反撃の限りを尽くした。ここからだ。
ここから更に攻撃を繰り返し、一気に戦局を巻き返すのだ。

「妊娠、妊娠、全妊婦隊、速やかに妊娠!」
地面に仰向けのままの彼女らと、無線に向かって、私は叫んだ。

それを合図に彼女らは立ち上がり、バタバタと駆け出した。
無線からも、バタバタと騒めく音が聞こえた。

夫のもとに帰るか、恋人のもとに帰るか、行きずりの恋をするか、
その手段はなんでもいい。
右往左往する彼女らに、私は叫んだ。

「仕込めー!」

そう叫んで、私も妻のもとに駆け出した。
総動員で、仕込むのだ。

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【著者プロフィール】
profile
一十口裏
いとぐちうら○ 「げんこつ団」団長
げんこつ団においては、脚本、演出のみならず、映像、音響、チラシデザインも担当。
意外性に満ちた脚本と痛烈な風刺、容赦ない馬鹿馬鹿しさが特徴。
また活動開始当初より映像をふんだんに盛り込んだ作品を作っており、現在は映像作家としても活動中。

げんこつ団公式サイト



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第65回「おやつの時間」

深刻な格差社会が生み出した、貧困・飢饉・差別・暴力…。
そのあらゆる社会問題に対し、運動家たちが立ち上がった。

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その「社会運動」は市民を団結させ、
世界各地で大規模な、デモ行進が始まった。
そしてそれは瞬く間に広まり、一気に熱を帯びた。

大地を揺るがして踏み鳴らされる、足音。
大気を撼わせて繰り返し轟く、シュプレヒコール。
それはやがて国境を越え、民族を越えて、一つになっていった。

奇跡のような出来事だった。
一つになったその運動は、世界中を熱狂させた。
怒りに満ちたその足並みと振り上げる拳は、一糸乱れずに揃い始めた。
畝るようなそれらは、徐々に一つのリズムを産み出していった。

世界を変えようとする夢は、もう夢ではなくなった。
それはあとほんの少しで、現実のものになろうとしていた。

その予感を感じ、我々は足をふみ鳴らした。
嗄れてしまった声を合わせて、一定のリズムで声を挙げ続けた。
共に足をふみ鳴らし、共に拳を振り上げ、共に声を挙げ、
その軽快なリズムに身を委ね、その一体感に打ち震えた。

そしてその運動はいつしか世界を席捲する、「有酸素運動」に発展。

これにより、多くのカロリーが消費された。
気づけば私は、理想のボディを手に入れていた。

スリム革命、勃発。

この世界的運動を取りまとめ、
この歴史的革命の頂点に立ち、
世界統一を果たした偉大なる指導者は、
エアロビクスチャンピオンの、サン・ジョリン。

彼こそ史上最高のパーフェクトボディ。
彼は世界統一を果たした今も、
身を粉にし、全身全霊を注ぎ、
日夜、健康的なダイエットに励んでいる。

「ご安心ください。我々は今日も、加圧トレーニングに励んでいます
 我々政府高官の平均体脂肪は、この半年12%をキープ。
 これは前年に比べて…」

私はテレビの電源を切った。

やっと配給がきたからだ。
しかし高濃度茶カテキンも大豆ペプチドももうたくさんだ。
私はその箱を床に投げつけた。
ペプチドの転がる音が虚しく響いた。

今や我が家には私一人。
妻は強制エステに連れていかれた。
奴らは全身脱毛も辞さないだろう。
或いは脂肪吸引や、小顔マッサージさえも。

街にはスローガンが掲げられている。
[脂質はアヘン][隣人の脂肪を燃やせ]
[おやつか死か][冷えとむくみは最大の敵]

ダイエットなどどうでもいい。
私は真の平等と平和を欲していたのだ。
なのにどうしてこんなことになったのか。
理想のボディを翻して、私はペプチドを蹴りつけた。

政府の横暴にはもう我慢ならない。
だから私は決意した。


おやつを食べよう。


消されても構わない。全ての、セルライトを。

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【著者プロフィール】
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一十口裏
いとぐちうら○ 「げんこつ団」団長
げんこつ団においては、脚本、演出のみならず、映像、音響、チラシデザインも担当。
意外性に満ちた脚本と痛烈な風刺、容赦ない馬鹿馬鹿しさが特徴。
また活動開始当初より映像をふんだんに盛り込んだ作品を作っており、現在は映像作家としても活動中。

【次回公演情報】
#16
げんこつ団『コースターター』
10月17日(水)~10月21日(日)@駅前劇場

〜発車し加速し通過する、JRナンセンス喜劇〜
ガタンゴトンと人々を乗せて、毎日、電車が走ります。
JRとはいったい何であったのか。 車両に隠された真実とは。
その事実が明るみになるこの日に、部長は有給をとりました。

コースターターサイト



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