20年以上にわたって女性だけの出演者により、上質で極めて馬鹿馬鹿しく
ブラックなナンセンス喜劇を生み出してきた喜劇団「げんこつ団」
団長・一十口裏による妄想サーカス。

第65回「おやつの時間」

深刻な格差社会が生み出した、貧困・飢饉・差別・暴力…。
そのあらゆる社会問題に対し、運動家たちが立ち上がった。

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その「社会運動」は市民を団結させ、
世界各地で大規模な、デモ行進が始まった。
そしてそれは瞬く間に広まり、一気に熱を帯びた。

大地を揺るがして踏み鳴らされる、足音。
大気を撼わせて繰り返し轟く、シュプレヒコール。
それはやがて国境を越え、民族を越えて、一つになっていった。

奇跡のような出来事だった。
一つになったその運動は、世界中を熱狂させた。
怒りに満ちたその足並みと振り上げる拳は、一糸乱れずに揃い始めた。
畝るようなそれらは、徐々に一つのリズムを産み出していった。

世界を変えようとする夢は、もう夢ではなくなった。
それはあとほんの少しで、現実のものになろうとしていた。

その予感を感じ、我々は足をふみ鳴らした。
嗄れてしまった声を合わせて、一定のリズムで声を挙げ続けた。
共に足をふみ鳴らし、共に拳を振り上げ、共に声を挙げ、
その軽快なリズムに身を委ね、その一体感に打ち震えた。

そしてその運動はいつしか世界を席捲する、「有酸素運動」に発展。

これにより、多くのカロリーが消費された。
気づけば私は、理想のボディを手に入れていた。

スリム革命、勃発。

この世界的運動を取りまとめ、
この歴史的革命の頂点に立ち、
世界統一を果たした偉大なる指導者は、
エアロビクスチャンピオンの、サン・ジョリン。

彼こそ史上最高のパーフェクトボディ。
彼は世界統一を果たした今も、
身を粉にし、全身全霊を注ぎ、
日夜、健康的なダイエットに励んでいる。

「ご安心ください。我々は今日も、加圧トレーニングに励んでいます
 我々政府高官の平均体脂肪は、この半年12%をキープ。
 これは前年に比べて…」

私はテレビの電源を切った。

やっと配給がきたからだ。
しかし高濃度茶カテキンも大豆ペプチドももうたくさんだ。
私はその箱を床に投げつけた。
ペプチドの転がる音が虚しく響いた。

今や我が家には私一人。
妻は強制エステに連れていかれた。
奴らは全身脱毛も辞さないだろう。
或いは脂肪吸引や、小顔マッサージさえも。

街にはスローガンが掲げられている。
[脂質はアヘン][隣人の脂肪を燃やせ]
[おやつか死か][冷えとむくみは最大の敵]

ダイエットなどどうでもいい。
私は真の平等と平和を欲していたのだ。
なのにどうしてこんなことになったのか。
理想のボディを翻して、私はペプチドを蹴りつけた。

政府の横暴にはもう我慢ならない。
だから私は決意した。


おやつを食べよう。


消されても構わない。全ての、セルライトを。

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【著者プロフィール】
profile
一十口裏
いとぐちうら○ 「げんこつ団」団長
げんこつ団においては、脚本、演出のみならず、映像、音響、チラシデザインも担当。
意外性に満ちた脚本と痛烈な風刺、容赦ない馬鹿馬鹿しさが特徴。
また活動開始当初より映像をふんだんに盛り込んだ作品を作っており、現在は映像作家としても活動中。

【次回公演情報】
#16
げんこつ団『コースターター』
10月17日(水)~10月21日(日)@駅前劇場

〜発車し加速し通過する、JRナンセンス喜劇〜
ガタンゴトンと人々を乗せて、毎日、電車が走ります。
JRとはいったい何であったのか。 車両に隠された真実とは。
その事実が明るみになるこの日に、部長は有給をとりました。

コースターターサイト



▼▼▼雑誌えんぶ版『妄想危機一髪』連載中!▼▼▼

第64回 着火

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なかなか火の点かない男が居た。
路地裏の建物と建物の隙間に半分顔を突っ込んで、
しきりにライターを鳴らしていた。

一度だけ手を休めて、煙草を咥えた顔を隙間から覗かせた。
しかし息継ぎをしてまた水中に深く潜るように、
隙間に身を寄せ、安物のライターを鳴らし始めた。

それ以来、カチカチ、カチカチ、カチカチ、カチカチ。
路地裏に、その音は鳴り続けた。
今やいつからそれが聞こえているのかわからない。
路地裏は中途半端に暗くて、
陽が暮れているのか陽が昇っているのか、
いつもよくわからない。

女はその音に引き寄せられて路地裏に入り、
男の横で立ち止まった。
女の手には大きなバースデーケーキが乗っていた。
ケーキには火の点いていないロウソクが沢山立っていた。
男は気付かずにライターを鳴らし続けた。
女はじっと男を見守り続けた。

やがて両手に花火を握りしめた子供たちがやって来た。
彼らは女の後ろに大人しく並んだ。
いつ火が点くか、次の瞬間にも点くかと、
見逃さないように、じっと男を見守り続けた。

やがて松明を持った男がやって来た。
松明には油を浸した布が巻かれていた。
テカテカと光る陽に焼けた肌。下半身には腰みの一枚。
彼は逞しい裸足で、子供たちの後ろに立ち止まった。
そして彼もまた、真剣な眼差しで、固唾を飲んで見守った。

彼は火を吹きたかった。
しかし男は煙草に火を点けたかった。
そのためだけにライターを鳴らし続けた。
そのことだけに集中していた。

やがてそこに奇声が轟いた。
強張った表情の老人が一人、両掌を合わせたまま、
一歩一歩飛び上がるように、路地裏に走り込んできた。
彼の白装束は捲れ上がり、老いた膝が露わになっていた。
彼は気が違ったように叫び、そこに居た者達を蹴散らした。

彼は火を渡りたかった。
しかしそこに火はなかった。
男はライターを鳴らし続けた。
彼は火を求めて叫び続けた。
叫び疲れて、やがて倒れた。

しかし誰も老人を見なかった。
誰もがライターを鳴らし続ける男を見守っていた。

いつしかそこに、異臭を放つ者がやって来ていた。
彼はすでに何度も何度も、路地裏を往復していた。
彼の頭髪は、絡まりきったワイヤーのようだった。
彼の裸足の足裏は、革靴の靴底よりも硬かった。
彼は頑丈な肩を片方剥き出しにして、獣の毛皮を羽織っていた。

彼は時折、咆哮のような声を上げたが、
それよりも更に時折、その容貌と似つかわしくない、
理知的な声を発した。
その目には原初の知性が、宿り始めていた。
その目で彼は、人類で初めて、火を発見しようとしていた。

彼は一歩一歩、何も見逃さないように路地裏を歩いた。
音は確かに鳴り続けていた。しかし求める光はなかった。
やがて頑丈はずの身体さえ疲れ切った。彼は悲しみの咆哮を上げた。
人類は火の発見に失敗した。
彼は失意に倒れ、息を引き取った。

しかし誰も彼を見なかった。
誰もがライターを鳴らし続ける男を見守っていた。
女はケーキを持ったまま、子供たちは花火を握ったまま、
腰みのの男は松明を持ったまま、男を見守った。

火の発見が成されずに、人類は進化出来ずに退化したが、
男は煙草に火を点けたかった。

そのためだけに、ライターを鳴らし続けた。
そのことだけに、集中していた。

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【著者プロフィール】
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一十口裏
いとぐちうら○ 「げんこつ団」団長
げんこつ団においては、脚本、演出のみならず、映像、音響、チラシデザインも担当。
意外性に満ちた脚本と痛烈な風刺、容赦ない馬鹿馬鹿しさが特徴。
また活動開始当初より映像をふんだんに盛り込んだ作品を作っており、現在は映像作家としても活動中。

【次回公演情報】
10月17日(水)~10月21日(日)@駅前劇場
げんこつ団 最新作『コースターター』



▼▼▼雑誌えんぶ版『妄想危機一髪』連載中!▼▼▼


えんぶ8月号


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第63回 その箱

「えー、番組の途中ですが、速報が入りました、
 これより内閣から全国民に向けて、
 重大発表をおこなうということです。
 えー、これより内閣から……」

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なんとなしに流していた、
華やかで騒々しい番組が急に途切れた。
俺はテレビを見てはいなかった。
いつでもほとんど、見ることはなかった。
ただ何の音もないと寂しいから、
帰宅と同時につけるのが癖になっているだけだった。

しかし今日はそれが途切れ、
明らかに急に呼び出されたアナウンサーがひとり、
多分意味もわからずに、とりあえずそう繰り返した。

いったい何事かと、
俺はテレビの音量を上げて、久々にテレビに向き合った。
その時ちょうどアナウンサーが黙ってしまったので、
ざわつくスタジオの喧噪だけが、狭い部屋に広がった。

前の大台風の時にも大地震の時にも大水害の時にも、
こんなことはなかったと思う。
どこかがどこかを爆撃したとかテロだとか宣戦布告だとか、
そうした時にも、こんなことはあっただろうか。

つまり、これは、余程のことだ。
まさか、よもや、と、
俺は浅い国際情勢の知識を頭に巡らせて見たけれど、
もしや、もっと思いも寄らない、
地底人だの宇宙人だのが攻めて来たのかもしれない。
それとも隕石だの何だのが、どうだこうだという話かもしれない。

俺はゾクゾクと同時にワクワクしてきた。
長年の一人暮らしの狭いアパートが、
なんだか華やいだ気さえした。

さあ、何が起きるんだ。
日本は、世界は、俺は、どうなってしまうんだ。

「会見が始まります!今、内閣からの重大発表が…」

アナウンサーが叫ぶように言った。
ボリュームを上げすぎていたテレビから、肌が震える程の音が響いた。
俺は一瞬、飛び上がったが、ボリュームは下げなかった。

一気にカメラのフラッシュが部屋をビカビカと照らした。
緊迫しざわつく会場に、おそらく議員や大臣達がやって来た。

彼らの顔は真剣だった。いや青ざめていた。
そして誰より割腹のいい男が、誰より青ざめた男が、
ハンカチで汗を拭いながら立ち上がり、カメラに向かって言った。

「えー、国民の皆様に重大発表を、申し上げます!
 えー、国民の皆様に、重大発表を、申し上げます!」

俺は息を飲んでテレビを見つめた。
彼はメモを見た。メモを見て震えながら言った。

「只今、今年が………2018年である事が、発覚しました…!
 えー、今年が………2018年である事が、発覚しました…!」

俺は中腰のまま、固まった。

「落ち着いて下さい、決して取り乱さないようにして下さい…!
 えー、国内外の確かな情報筋によりますと、今年は………」

彼は再びメモを見た。

「2018年…!であり、年号は………」

彼は再びメモを見た。
メモは汗でぐちゃぐちゃになっていた。

「えー、…ヘ、イ、セ、イ?、という事です、
 しかもそれも、じきに終わると言う事です…!!
 えー、我々は、いつの間に、何故、それほどの時間が経過したのか、
 直ちにその原因究明を………」

彼の肩には、巻貝がちょこんと乗っていた。
隣の男の頰には、アサリがひっ付いていた。
その隣の女の頭には、タコが貼り付いていた。

「いったい何を言っているんですか……?」

後ろ姿の記者が挙手して言った。
ああその通り。
いったいお前は何を言っているんだ。

「私はたった四日間、海外視察に行っていただけなんです…」
「私は二日間だけ、熱海へ…」
「私は親類の告別式で南房総へ…」
「何故、その間に35年もの月日が……」

彼らは弁解するように言った。
うつむく彼らの手の中には、箱があった。
黒い漆塗りの箱。
波の模様の描かれた箱には、朱色の紐が括られている。
その紐の端のフサフサを、愛おしそうに撫でている。
その箱はなんなんだ。

「ともかく!いつの間にかおよそ35年という時間が
 経過していたという事実を我々は重く受け止め、
 今後の対策について各機関より情報収集をおこないます」

ひときわ大きな箱を持った先ほどの男が、再び続けた。
脂ぎった、頼もしそうな男である。

「また現在の諸問題についても、
 ファジーな目線で問題を見つめ、
 イケイケドンドンでヤリガイを持って、
 全てをバッチシ解決に導いてまいります!」

その彼は両手の親指をグイグイと立てて、自信満々にそう言った。

35年前。
俺もまだ学生だったなと、不意に懐かしい気分にもなったが、
しかし俺は中腰をやめて、テレビを消してしまおうと思った。
リモコンを取ろうと手を伸ばした。

くだらない。
結局なにも起きやしない。
日本も、世界も、俺も、どうにもならないのだ。

この意味のない発表にワクワクさせられた自分に腹が立った。
しかしテレビを消したら、前より一層、部屋が寂しくなる。
仕方がないので、チャンネルを変えてみた。
しかしどのチャンネルもこのくだらない発表を垂れ流している。

もうため息しか出ない。
俺はただ画面を見つめた。
記者らも同じ気持ちなのだろう。
ちらほらと、力なく立ち上がる後ろ姿がテレビに映る。

「…ほっとんどビョーキだわ。頭がピーマン」
「…しっらけるわー、
 やっぱし政治家ってのはみんな、江川って田淵ってるわけね」
「あー、とらば~ゆしてえ…」

微かに聞こえた記者たちの呟きに、俺の目は自然と見開いた。
画面の端に、ぶかぶかのスーツや、肩パットのやけに入ったスーツが映る。
俺は更にボリュームを上げた。
ワンレンの髪を掻き上げて、ピンクのスーツの記者が、
いかにも可笑しそうに吹き出して言ったのが聞こえた。

「今年が2018年って…!」
「はー。くだらナイト、つまらナイト」
「さーて、帰って、てるてるワイドでも聞くかー」

彼らもあらゆる海産物を体に貼り付け、
その手にもまた、黒い箱があった。
波の模様の描かれた、綺麗な箱を、
彼女は小粋に小脇に抱えていた。

俺はリモコンを投げ捨てて、思わずテレビを掴んだ。

ちょっと待て。その箱はなんだ。

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