20年以上にわたって女性だけの出演者により、上質で極めて馬鹿馬鹿しく
ブラックなナンセンス喜劇を生み出してきた喜劇団「げんこつ団」
団長・一十口裏による妄想サーカス。

第66回 妊婦隊、前へ

ninpu1

我が軍は不利な状況に追い込まれた。
ここで一気に反撃せねばならない。

ここで如何に踏ん張れるか。
ここで如何に敵にダメージを与えられるか。
それが戦局を大きく左右するであろう。

爆撃の続くなか、私は号令をかけた。
「敵機、前方200mに確認。陸上妊婦隊、前へ!」
私の前にはちきれそうな腹を揺らした妊婦たちが、
素早く一列に並び敬礼した。
「マタニティ!」

彼女らは訓練に訓練を重ねた精鋭部隊である。
我が軍、我が国家の未来を担う彼女らの表情と、
その大きな腹はとても頼もしい。

私の声は自信に満ちた。
「分娩用意!」
彼女らは一斉に仰向けに横たわり、
マタニティドレスを捲って足を広げ、
敵機に向けて、股を突き上げた。
「ラマーズ!」

ずらりと並び陽を受けて輝く彼女らの膝小僧。
迷うことなく狙いを定めた彼女らのつま先が、
私の次の号令を待った。

私は方角を再度確認し、その号令を発した。
「いきみ開始!」
彼女らはいきんだ。力の限りいきんだ。
そして、今だ、という瞬間に私は叫んだ。
「分娩!」

いきみ声が消え、静かになった瞬間から、
ボン、ボン、ボン、と、彼女らの股の間から、次々と赤子が発射された。
オギャー、オギャー、オギャーと、赤子らは真っ直ぐに、宙を飛んでいった。
そして、ドン、ドン、ドン、と、赤子らは次々に敵機に命中した。

「航空妊婦隊、分娩開始!」
その命中に喜ぶ間などない。私は無線に向かって叫んだ。

そして直ちに、空を切る我が爆撃機からも、
オギャー、オギャー、オギャー、と、
無数の赤子らが敵軍のもとに落とされていくのを、双眼鏡で確認した。

「海上妊婦隊、分娩開始」
更に私は無線で指示を出した。

その声は聞こえはせぬが、双眼鏡で確認できるより先の海にて、
我が軍の潜水艦から、無数の赤子が海中に放たれたであろう。

さあ、反撃の限りを尽くした。ここからだ。
ここから更に攻撃を繰り返し、一気に戦局を巻き返すのだ。

「妊娠、妊娠、全妊婦隊、速やかに妊娠!」
地面に仰向けのままの彼女らと、無線に向かって、私は叫んだ。

それを合図に彼女らは立ち上がり、バタバタと駆け出した。
無線からも、バタバタと騒めく音が聞こえた。

夫のもとに帰るか、恋人のもとに帰るか、行きずりの恋をするか、
その手段はなんでもいい。
右往左往する彼女らに、私は叫んだ。

「仕込めー!」

そう叫んで、私も妻のもとに駆け出した。
総動員で、仕込むのだ。

ninpu2


【著者プロフィール】
profile
一十口裏
いとぐちうら○ 「げんこつ団」団長
げんこつ団においては、脚本、演出のみならず、映像、音響、チラシデザインも担当。
意外性に満ちた脚本と痛烈な風刺、容赦ない馬鹿馬鹿しさが特徴。
また活動開始当初より映像をふんだんに盛り込んだ作品を作っており、現在は映像作家としても活動中。

げんこつ団公式サイト



▼▼▼雑誌えんぶ版『妄想危機一髪』連載中!▼▼▼

第65回「おやつの時間」

深刻な格差社会が生み出した、貧困・飢饉・差別・暴力…。
そのあらゆる社会問題に対し、運動家たちが立ち上がった。

oyatsu1

その「社会運動」は市民を団結させ、
世界各地で大規模な、デモ行進が始まった。
そしてそれは瞬く間に広まり、一気に熱を帯びた。

大地を揺るがして踏み鳴らされる、足音。
大気を撼わせて繰り返し轟く、シュプレヒコール。
それはやがて国境を越え、民族を越えて、一つになっていった。

奇跡のような出来事だった。
一つになったその運動は、世界中を熱狂させた。
怒りに満ちたその足並みと振り上げる拳は、一糸乱れずに揃い始めた。
畝るようなそれらは、徐々に一つのリズムを産み出していった。

世界を変えようとする夢は、もう夢ではなくなった。
それはあとほんの少しで、現実のものになろうとしていた。

その予感を感じ、我々は足をふみ鳴らした。
嗄れてしまった声を合わせて、一定のリズムで声を挙げ続けた。
共に足をふみ鳴らし、共に拳を振り上げ、共に声を挙げ、
その軽快なリズムに身を委ね、その一体感に打ち震えた。

そしてその運動はいつしか世界を席捲する、「有酸素運動」に発展。

これにより、多くのカロリーが消費された。
気づけば私は、理想のボディを手に入れていた。

スリム革命、勃発。

この世界的運動を取りまとめ、
この歴史的革命の頂点に立ち、
世界統一を果たした偉大なる指導者は、
エアロビクスチャンピオンの、サン・ジョリン。

彼こそ史上最高のパーフェクトボディ。
彼は世界統一を果たした今も、
身を粉にし、全身全霊を注ぎ、
日夜、健康的なダイエットに励んでいる。

「ご安心ください。我々は今日も、加圧トレーニングに励んでいます
 我々政府高官の平均体脂肪は、この半年12%をキープ。
 これは前年に比べて…」

私はテレビの電源を切った。

やっと配給がきたからだ。
しかし高濃度茶カテキンも大豆ペプチドももうたくさんだ。
私はその箱を床に投げつけた。
ペプチドの転がる音が虚しく響いた。

今や我が家には私一人。
妻は強制エステに連れていかれた。
奴らは全身脱毛も辞さないだろう。
或いは脂肪吸引や、小顔マッサージさえも。

街にはスローガンが掲げられている。
[脂質はアヘン][隣人の脂肪を燃やせ]
[おやつか死か][冷えとむくみは最大の敵]

ダイエットなどどうでもいい。
私は真の平等と平和を欲していたのだ。
なのにどうしてこんなことになったのか。
理想のボディを翻して、私はペプチドを蹴りつけた。

政府の横暴にはもう我慢ならない。
だから私は決意した。


おやつを食べよう。


消されても構わない。全ての、セルライトを。

oyatsu2


【著者プロフィール】
profile
一十口裏
いとぐちうら○ 「げんこつ団」団長
げんこつ団においては、脚本、演出のみならず、映像、音響、チラシデザインも担当。
意外性に満ちた脚本と痛烈な風刺、容赦ない馬鹿馬鹿しさが特徴。
また活動開始当初より映像をふんだんに盛り込んだ作品を作っており、現在は映像作家としても活動中。

【次回公演情報】
#16
げんこつ団『コースターター』
10月17日(水)~10月21日(日)@駅前劇場

〜発車し加速し通過する、JRナンセンス喜劇〜
ガタンゴトンと人々を乗せて、毎日、電車が走ります。
JRとはいったい何であったのか。 車両に隠された真実とは。
その事実が明るみになるこの日に、部長は有給をとりました。

コースターターサイト



▼▼▼雑誌えんぶ版『妄想危機一髪』連載中!▼▼▼

第64回 着火

chakka1

なかなか火の点かない男が居た。
路地裏の建物と建物の隙間に半分顔を突っ込んで、
しきりにライターを鳴らしていた。

一度だけ手を休めて、煙草を咥えた顔を隙間から覗かせた。
しかし息継ぎをしてまた水中に深く潜るように、
隙間に身を寄せ、安物のライターを鳴らし始めた。

それ以来、カチカチ、カチカチ、カチカチ、カチカチ。
路地裏に、その音は鳴り続けた。
今やいつからそれが聞こえているのかわからない。
路地裏は中途半端に暗くて、
陽が暮れているのか陽が昇っているのか、
いつもよくわからない。

女はその音に引き寄せられて路地裏に入り、
男の横で立ち止まった。
女の手には大きなバースデーケーキが乗っていた。
ケーキには火の点いていないロウソクが沢山立っていた。
男は気付かずにライターを鳴らし続けた。
女はじっと男を見守り続けた。

やがて両手に花火を握りしめた子供たちがやって来た。
彼らは女の後ろに大人しく並んだ。
いつ火が点くか、次の瞬間にも点くかと、
見逃さないように、じっと男を見守り続けた。

やがて松明を持った男がやって来た。
松明には油を浸した布が巻かれていた。
テカテカと光る陽に焼けた肌。下半身には腰みの一枚。
彼は逞しい裸足で、子供たちの後ろに立ち止まった。
そして彼もまた、真剣な眼差しで、固唾を飲んで見守った。

彼は火を吹きたかった。
しかし男は煙草に火を点けたかった。
そのためだけにライターを鳴らし続けた。
そのことだけに集中していた。

やがてそこに奇声が轟いた。
強張った表情の老人が一人、両掌を合わせたまま、
一歩一歩飛び上がるように、路地裏に走り込んできた。
彼の白装束は捲れ上がり、老いた膝が露わになっていた。
彼は気が違ったように叫び、そこに居た者達を蹴散らした。

彼は火を渡りたかった。
しかしそこに火はなかった。
男はライターを鳴らし続けた。
彼は火を求めて叫び続けた。
叫び疲れて、やがて倒れた。

しかし誰も老人を見なかった。
誰もがライターを鳴らし続ける男を見守っていた。

いつしかそこに、異臭を放つ者がやって来ていた。
彼はすでに何度も何度も、路地裏を往復していた。
彼の頭髪は、絡まりきったワイヤーのようだった。
彼の裸足の足裏は、革靴の靴底よりも硬かった。
彼は頑丈な肩を片方剥き出しにして、獣の毛皮を羽織っていた。

彼は時折、咆哮のような声を上げたが、
それよりも更に時折、その容貌と似つかわしくない、
理知的な声を発した。
その目には原初の知性が、宿り始めていた。
その目で彼は、人類で初めて、火を発見しようとしていた。

彼は一歩一歩、何も見逃さないように路地裏を歩いた。
音は確かに鳴り続けていた。しかし求める光はなかった。
やがて頑丈はずの身体さえ疲れ切った。彼は悲しみの咆哮を上げた。
人類は火の発見に失敗した。
彼は失意に倒れ、息を引き取った。

しかし誰も彼を見なかった。
誰もがライターを鳴らし続ける男を見守っていた。
女はケーキを持ったまま、子供たちは花火を握ったまま、
腰みのの男は松明を持ったまま、男を見守った。

火の発見が成されずに、人類は進化出来ずに退化したが、
男は煙草に火を点けたかった。

そのためだけに、ライターを鳴らし続けた。
そのことだけに、集中していた。

chakka2


【著者プロフィール】
profile
一十口裏
いとぐちうら○ 「げんこつ団」団長
げんこつ団においては、脚本、演出のみならず、映像、音響、チラシデザインも担当。
意外性に満ちた脚本と痛烈な風刺、容赦ない馬鹿馬鹿しさが特徴。
また活動開始当初より映像をふんだんに盛り込んだ作品を作っており、現在は映像作家としても活動中。

【次回公演情報】
10月17日(水)~10月21日(日)@駅前劇場
げんこつ団 最新作『コースターター』



▼▼▼雑誌えんぶ版『妄想危機一髪』連載中!▼▼▼


えんぶ8月号


kick shop nikkan engeki
最新記事
日刊えんぶ
ラインナップ

池谷のぶえの人生相談の館

松崎ひとみサムナツ活動日記

一十口裏の妄想危機一髪

粟根まことのエッセイ「未確認ヒコー舞台:UFB」

松永玲子のエッセイ「今夜もネットショッピング」

ノゾエ征爾のフォトエッセー「桜の島の野添酒店」

植本潤(花組芝居)vs坂口真人(演劇ぶっく編集長)対談「『過剰な人々』を巡る♂いささかな☀冒険」

ふれあい動物電気

kugiri

小野寺ずるのお散歩エロジェニック

池谷のぶえの国語算数理科社会。

南信州・駒ヶ根だよりby劇団サムライナッツ

演劇キック
ラインナップ

演劇キック

観劇予報

宝塚ジャーナル

演劇人の活力源

えんぶ情報館

えんぶショップ

えんぶミロクル

えんぶfacebook

演劇キックツイッター