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いいかげんいい大人だってのに、未だお盆というものがよく分からない。
お盆というものをしたことがないので、お盆に皆どういうことをしているのか、まったく分からない。

暗い部屋でゴージャスな回り灯籠を灯し、それをぐるぐる回しながら、
大人達はお盆用のカラフルな料理やお菓子をツマミに酒を飲み交わし、
子供達はナスやキュウリで作った馬で元気に遊び回り、
夜がふけたら皆で川に行き、せーのでそれを全部、投げ捨てる。
そんなイメージである。

なんでそんなことをするのかと言ったら、ご先祖様のためである。
そんなイメージである。

まあ多分、だいたい合ってると思う。

もとは三重県に住んでいたという私の父方祖父母は、
海を渡って東京に来て、それ以前の縁は完全に切ったらしい。
いわゆる駆け落ちだ。
もとは東京に住んでいたという私の母方祖父母は、
川を渡って千葉に来て、それ以前の親戚付き合いはほぼなかった。
いわゆる核家族化の走りだ。

まあ多分、だいたいそんなパターンも多いと思う。

そんなわけで、私の場合、叔父叔母従兄弟が揃うのは正月だけであり、
親戚一同が揃うのは葬式だけだった。
そんな感じだったものだから、子供の頃の私にとっての葬式は、
知らない人のために知らない人達が、沢山集まる場所だった。

まだ小さな私は、それが、親戚だから知り合いだから集まっているのではなく、
「誰かが亡くなったから、死は辛く寂しく悲しいことだから、
だから自然と人が集まっている」、そういうものだと思っていた。

だから私は、もっと葬式に行こうと母にせがんだ。毎日喪服を着ようとせがんだ。
なんで皆、毎日のように葬式に行かないんだろうと憤った。
知らない人の葬式に勝手に行ってはいけないと知った時は、
なるほど、葬式に出るには何らかの資格を得なくてはいけないのだと思った。
「葬式検定1級」とか「プロの参列士」とかが、居るんだろうなと思った。

葬式への飛び込み参加は、遺族にとっちゃ、まあ嫌だろうというのは、大人になった今は勿論わかる。
買い物帰りにふらりと寄られても迷惑だというもの、わかる。
でも、生前をどのくらい知っていようが知っていまいが、買い物帰りだろうが何だろうが、
手を合わせ焼香し、涙するくらいは、いいじゃないかともちょっと思う。
その涙が故人のためか自己満足のためかなんぞ、どうあれ分かりゃしないのだし。

そんな私も学生時代に、父方と母方、両方の祖父母の葬式で、知っている人の葬式を経験した。
「私の父の両親だ、私の母の両親だ、皆、誰かの子供だ、皆、来てくれ」と思った。
なんなら世界中の人達が押し寄せても構わないと思ったが、
しかしその頃には当然、「勝手に友達呼んだら駄目」ということは分かっていたので、
何も言わずに大人しくしていた。誘われたとしても、友達も困ったろう。

さて、その母方祖父母の葬式は、祖父母の住んでいた千葉ではなく、
川を挟んだ、まったく知らない、都内の寺でおこなわれた。
また、その父方祖父母の葬式は、そのころ祖父母が住んでいた千葉ではなく、
何故か、そのころ私が通っていた学校のすぐ近くの寺で、おこなわれた。

まったく関係ないと思っていた場所に、ひょっこりと墓があった。
お墓ってのは、あんまりひょっこりとあるものではないだろう。
でもひょっこり。

特に、私が産まれてからは千葉の奥の方に住んでいたはずの父方祖父母の墓が、
何故、私が学校帰りに立ち寄れるような、すぐそこの場所にひょっこりあるのか。

とても不思議だったが、要は、昔、祖父母はそこに住んでいたのだ。
その街で結婚し、その街で暮らしていたのだ。

勿論理屈では重々わかっていたものの、そうしたことを初めて目の当たりにし、
この自分にもご先祖様というものが、脈々と居るんだなあと、初めて深く実感した。
それはもう、脈々だ。途絶えることなく、脈々だ。みゃっくみゃっくなのだ。

それを祀るのだから、回り灯籠をいくら回しても足りないだろう。
これ以上なく激しく、狂ったように灯しに灯して、回しに回さねばならないだろう。
さあ、ナスとキュウリを振り回せ。お盆とは、そういうものなのだ。

だから私にもお盆をする資格があるはずだ。お盆がしたいと強く思うのだ。
しかしお盆とはあまり一人でやるものではなさそうだ。
「一人お盆」を流行らせるか、或いは一人お盆の人間が集まって
「お盆ナイト」を開催すればいいのか。
いやそもそも、お盆ってのは「する」もんなのかどうかなのか。

結局よくわからない。

よくわからないから、昔ご近所に住んでいたらしい父方祖父母の墓参りに、
明日の買い物帰りにでも、またちょっと寄ろうと思う。

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【著者プロフィール】
profile
一十口裏

いとぐちうら○ 「げんこつ団」団長

げんこつ団においては、脚本、演出のみならず、映像、音響、チラシデザインも担当。

意外性に満ちた脚本と痛烈な風刺、容赦ない馬鹿馬鹿しさが特徴。

また活動開始当初より映像をふんだんに盛り込んだ作品を作っており、現在は映像作家としても活動中。


【げんこつ団公演情報】

borisyoi
2015年 11月4日(水)~11月8日(日) @駅前劇場
げんこつ団『ボリショイ・ライフ』
(9月9日(水)発売開始)
ボリショイ・サイト
http://genkotu-dan.xxxx.jp/

※次回は8月24日(毎月第2、4月曜日)更新です。


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