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私たちの子供が産まれた。

それはごく自然なことであるのに、
いざ現実になると何だか不思議な感覚だ。

それはこれまでに経験した事のない、
喜びと奮起と不安が混ざり合った感覚だ。

それは撹拌され寝かされて、やがて発酵する。
そしてその肥沃な土壌から、
自分のなかに初めての何かが、芽吹くのを感じる。

私たちは、親になるのだ。

自然と身が引き締まる。文字通り引き締まる。
姿勢を伸ばし、未来を見据え、しっかりと歩んでいかねばならない。
私たちはそう、話した。何度も、話した。

ママが言う。
「これからはパパとして、ちゃんと自覚を持って。ね、パパ」

パパが言う。
「ああ、勿論だよ。俺たち家族、支え合っていこう。な、ププ」

ププが言う。
「ああ、みんなで頑張って、やって行こう。ね、ママ」

そう、この私が、ププになるのだ。
そう思うだけで、静かに奮い立つ。

しかし自分がププと呼ばれるのは、正直まだちょっと照れくさい。
パパもママもそのようで、私たちの頬は自然とニヤける。

ママになるということ、パパになるということ、ププになるということ。
それは、当たり前と言えば当たり前だが、冒険と言えば冒険だ。
初めて産まれたあの子と同様、私たちもまた、全てが初めてなのだ。

ママとしてどうあるべきか、
パパとしてどうあるべきか、
そしてププとしてどうあるべきか。
私たちはこれから学んでいくのだろう。

これまで互いに甘えて、
我がままを言ってしまったこと、
つまらないことで喧嘩をしてしまったこと、
それが何故か、遠い過去のように思える。

パパがママにキスをして、ママが私に凭れ掛かる。
私がパパの肩に手を回し、パパがママの手を握る。

そうして互いに感じる体温さえ、以前とは違うように感じる。

もう恋人気分じゃいられない。
互いを大事にしながらも、
私たちは私たちの中に芽生えたその自覚を、大事に育てる。

私たちはその一歩目に立って、互いに手を取り合った。


そうして三人で新生児室の前に立てば、あの子が微笑みかけて来る。

「ねえ、目はパパに似てるんじゃない?」
「うん、鼻はママに似てる」
「あ、口はププに似てるね」

そんなことを言い合いながら、私たちは身を寄せ合う。

パパの優しい目が私を見つめて、ママの暖かい手が私を包む。
私はパパを見つめ返し、ママの手を優しく握り返す。

それだけで、それぞれに芽吹いた自覚が、日々大きくなっていくのが分かる。

ああ、世のププも、皆、こんな感覚を抱くのか。
ああ、私のププも、こんな感覚を抱いたのか。

それは、当たり前のことなのかもしれない。
でもやはり、不思議な感覚だ。

そして、「やがてあの子もひとのププになる」
気が早過ぎるが、そんなことを思って、涙さえ出てくるのだ。

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【著者プロフィール】
profile
一十口裏
いとぐちうら○ 「げんこつ団」団長
げんこつ団においては、脚本、演出のみならず、映像、音響、チラシデザインも担当。
意外性に満ちた脚本と痛烈な風刺、容赦ない馬鹿馬鹿しさが特徴。
また活動開始当初より映像をふんだんに盛り込んだ作品を作っており、現在は映像作家としても活動中。

【次回公演情報】
一十口企画『ストラタ』
4月6日(金)~4月8日(日)@新宿眼科画廊地下
作・演出/一十口裏(げんこつ団)
出演/遠藤弘章(東京タンバリン) 皆戸麻衣(ナイロン100℃)
   春原久子(げんこつ団) 三枝 翠 望月 文
   菊川朝子(Hula-Hooper) 菊川泰然

げんこつ団 最新作
10月17日(水)~10月21日(日)@駅前劇場
作・映像・音響/一十口裏 演出/一十口裏・植木早苗 振付/植木早苗
出演/植木早苗 春原久子 大場靖子 河野美菜(以上、げんこつ団)ほか
げんこつ団サイト http://genkotu-dan.official.jp/



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