「えー、番組の途中ですが、速報が入りました、
 これより内閣から全国民に向けて、
 重大発表をおこなうということです。
 えー、これより内閣から……」

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なんとなしに流していた、
華やかで騒々しい番組が急に途切れた。
俺はテレビを見てはいなかった。
いつでもほとんど、見ることはなかった。
ただ何の音もないと寂しいから、
帰宅と同時につけるのが癖になっているだけだった。

しかし今日はそれが途切れ、
明らかに急に呼び出されたアナウンサーがひとり、
多分意味もわからずに、とりあえずそう繰り返した。

いったい何事かと、
俺はテレビの音量を上げて、久々にテレビに向き合った。
その時ちょうどアナウンサーが黙ってしまったので、
ざわつくスタジオの喧噪だけが、狭い部屋に広がった。

前の大台風の時にも大地震の時にも大水害の時にも、
こんなことはなかったと思う。
どこかがどこかを爆撃したとかテロだとか宣戦布告だとか、
そうした時にも、こんなことはあっただろうか。

つまり、これは、余程のことだ。
まさか、よもや、と、
俺は浅い国際情勢の知識を頭に巡らせて見たけれど、
もしや、もっと思いも寄らない、
地底人だの宇宙人だのが攻めて来たのかもしれない。
それとも隕石だの何だのが、どうだこうだという話かもしれない。

俺はゾクゾクと同時にワクワクしてきた。
長年の一人暮らしの狭いアパートが、
なんだか華やいだ気さえした。

さあ、何が起きるんだ。
日本は、世界は、俺は、どうなってしまうんだ。

「会見が始まります!今、内閣からの重大発表が…」

アナウンサーが叫ぶように言った。
ボリュームを上げすぎていたテレビから、肌が震える程の音が響いた。
俺は一瞬、飛び上がったが、ボリュームは下げなかった。

一気にカメラのフラッシュが部屋をビカビカと照らした。
緊迫しざわつく会場に、おそらく議員や大臣達がやって来た。

彼らの顔は真剣だった。いや青ざめていた。
そして誰より割腹のいい男が、誰より青ざめた男が、
ハンカチで汗を拭いながら立ち上がり、カメラに向かって言った。

「えー、国民の皆様に重大発表を、申し上げます!
 えー、国民の皆様に、重大発表を、申し上げます!」

俺は息を飲んでテレビを見つめた。
彼はメモを見た。メモを見て震えながら言った。

「只今、今年が………2018年である事が、発覚しました…!
 えー、今年が………2018年である事が、発覚しました…!」

俺は中腰のまま、固まった。

「落ち着いて下さい、決して取り乱さないようにして下さい…!
 えー、国内外の確かな情報筋によりますと、今年は………」

彼は再びメモを見た。

「2018年…!であり、年号は………」

彼は再びメモを見た。
メモは汗でぐちゃぐちゃになっていた。

「えー、…ヘ、イ、セ、イ?、という事です、
 しかもそれも、じきに終わると言う事です…!!
 えー、我々は、いつの間に、何故、それほどの時間が経過したのか、
 直ちにその原因究明を………」

彼の肩には、巻貝がちょこんと乗っていた。
隣の男の頰には、アサリがひっ付いていた。
その隣の女の頭には、タコが貼り付いていた。

「いったい何を言っているんですか……?」

後ろ姿の記者が挙手して言った。
ああその通り。
いったいお前は何を言っているんだ。

「私はたった四日間、海外視察に行っていただけなんです…」
「私は二日間だけ、熱海へ…」
「私は親類の告別式で南房総へ…」
「何故、その間に35年もの月日が……」

彼らは弁解するように言った。
うつむく彼らの手の中には、箱があった。
黒い漆塗りの箱。
波の模様の描かれた箱には、朱色の紐が括られている。
その紐の端のフサフサを、愛おしそうに撫でている。
その箱はなんなんだ。

「ともかく!いつの間にかおよそ35年という時間が
 経過していたという事実を我々は重く受け止め、
 今後の対策について各機関より情報収集をおこないます」

ひときわ大きな箱を持った先ほどの男が、再び続けた。
脂ぎった、頼もしそうな男である。

「また現在の諸問題についても、
 ファジーな目線で問題を見つめ、
 イケイケドンドンでヤリガイを持って、
 全てをバッチシ解決に導いてまいります!」

その彼は両手の親指をグイグイと立てて、自信満々にそう言った。

35年前。
俺もまだ学生だったなと、不意に懐かしい気分にもなったが、
しかし俺は中腰をやめて、テレビを消してしまおうと思った。
リモコンを取ろうと手を伸ばした。

くだらない。
結局なにも起きやしない。
日本も、世界も、俺も、どうにもならないのだ。

この意味のない発表にワクワクさせられた自分に腹が立った。
しかしテレビを消したら、前より一層、部屋が寂しくなる。
仕方がないので、チャンネルを変えてみた。
しかしどのチャンネルもこのくだらない発表を垂れ流している。

もうため息しか出ない。
俺はただ画面を見つめた。
記者らも同じ気持ちなのだろう。
ちらほらと、力なく立ち上がる後ろ姿がテレビに映る。

「…ほっとんどビョーキだわ。頭がピーマン」
「…しっらけるわー、
 やっぱし政治家ってのはみんな、江川って田淵ってるわけね」
「あー、とらば~ゆしてえ…」

微かに聞こえた記者たちの呟きに、俺の目は自然と見開いた。
画面の端に、ぶかぶかのスーツや、肩パットのやけに入ったスーツが映る。
俺は更にボリュームを上げた。
ワンレンの髪を掻き上げて、ピンクのスーツの記者が、
いかにも可笑しそうに吹き出して言ったのが聞こえた。

「今年が2018年って…!」
「はー。くだらナイト、つまらナイト」
「さーて、帰って、てるてるワイドでも聞くかー」

彼らもあらゆる海産物を体に貼り付け、
その手にもまた、黒い箱があった。
波の模様の描かれた、綺麗な箱を、
彼女は小粋に小脇に抱えていた。

俺はリモコンを投げ捨てて、思わずテレビを掴んだ。

ちょっと待て。その箱はなんだ。

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【著者プロフィール】
profile
一十口裏
いとぐちうら○ 「げんこつ団」団長
げんこつ団においては、脚本、演出のみならず、映像、音響、チラシデザインも担当。
意外性に満ちた脚本と痛烈な風刺、容赦ない馬鹿馬鹿しさが特徴。
また活動開始当初より映像をふんだんに盛り込んだ作品を作っており、現在は映像作家としても活動中。

【次回公演情報】
10月17日(水)~10月21日(日)@駅前劇場
げんこつ団 最新作『コースターター』



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