深刻な格差社会が生み出した、貧困・飢饉・差別・暴力…。
そのあらゆる社会問題に対し、運動家たちが立ち上がった。

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その「社会運動」は市民を団結させ、
世界各地で大規模な、デモ行進が始まった。
そしてそれは瞬く間に広まり、一気に熱を帯びた。

大地を揺るがして踏み鳴らされる、足音。
大気を撼わせて繰り返し轟く、シュプレヒコール。
それはやがて国境を越え、民族を越えて、一つになっていった。

奇跡のような出来事だった。
一つになったその運動は、世界中を熱狂させた。
怒りに満ちたその足並みと振り上げる拳は、一糸乱れずに揃い始めた。
畝るようなそれらは、徐々に一つのリズムを産み出していった。

世界を変えようとする夢は、もう夢ではなくなった。
それはあとほんの少しで、現実のものになろうとしていた。

その予感を感じ、我々は足をふみ鳴らした。
嗄れてしまった声を合わせて、一定のリズムで声を挙げ続けた。
共に足をふみ鳴らし、共に拳を振り上げ、共に声を挙げ、
その軽快なリズムに身を委ね、その一体感に打ち震えた。

そしてその運動はいつしか世界を席捲する、「有酸素運動」に発展。

これにより、多くのカロリーが消費された。
気づけば私は、理想のボディを手に入れていた。

スリム革命、勃発。

この世界的運動を取りまとめ、
この歴史的革命の頂点に立ち、
世界統一を果たした偉大なる指導者は、
エアロビクスチャンピオンの、サン・ジョリン。

彼こそ史上最高のパーフェクトボディ。
彼は世界統一を果たした今も、
身を粉にし、全身全霊を注ぎ、
日夜、健康的なダイエットに励んでいる。

「ご安心ください。我々は今日も、加圧トレーニングに励んでいます
 我々政府高官の平均体脂肪は、この半年12%をキープ。
 これは前年に比べて…」

私はテレビの電源を切った。

やっと配給がきたからだ。
しかし高濃度茶カテキンも大豆ペプチドももうたくさんだ。
私はその箱を床に投げつけた。
ペプチドの転がる音が虚しく響いた。

今や我が家には私一人。
妻は強制エステに連れていかれた。
奴らは全身脱毛も辞さないだろう。
或いは脂肪吸引や、小顔マッサージさえも。

街にはスローガンが掲げられている。
[脂質はアヘン][隣人の脂肪を燃やせ]
[おやつか死か][冷えとむくみは最大の敵]

ダイエットなどどうでもいい。
私は真の平等と平和を欲していたのだ。
なのにどうしてこんなことになったのか。
理想のボディを翻して、私はペプチドを蹴りつけた。

政府の横暴にはもう我慢ならない。
だから私は決意した。


おやつを食べよう。


消されても構わない。全ての、セルライトを。

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【著者プロフィール】
profile
一十口裏
いとぐちうら○ 「げんこつ団」団長
げんこつ団においては、脚本、演出のみならず、映像、音響、チラシデザインも担当。
意外性に満ちた脚本と痛烈な風刺、容赦ない馬鹿馬鹿しさが特徴。
また活動開始当初より映像をふんだんに盛り込んだ作品を作っており、現在は映像作家としても活動中。

【次回公演情報】
#16
げんこつ団『コースターター』
10月17日(水)~10月21日(日)@駅前劇場

〜発車し加速し通過する、JRナンセンス喜劇〜
ガタンゴトンと人々を乗せて、毎日、電車が走ります。
JRとはいったい何であったのか。 車両に隠された真実とは。
その事実が明るみになるこの日に、部長は有給をとりました。

コースターターサイト



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