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我が軍は不利な状況に追い込まれた。
ここで一気に反撃せねばならない。

ここで如何に踏ん張れるか。
ここで如何に敵にダメージを与えられるか。
それが戦局を大きく左右するであろう。

爆撃の続くなか、私は号令をかけた。
「敵機、前方200mに確認。陸上妊婦隊、前へ!」
私の前にはちきれそうな腹を揺らした妊婦たちが、
素早く一列に並び敬礼した。
「マタニティ!」

彼女らは訓練に訓練を重ねた精鋭部隊である。
我が軍、我が国家の未来を担う彼女らの表情と、
その大きな腹はとても頼もしい。

私の声は自信に満ちた。
「分娩用意!」
彼女らは一斉に仰向けに横たわり、
マタニティドレスを捲って足を広げ、
敵機に向けて、股を突き上げた。
「ラマーズ!」

ずらりと並び陽を受けて輝く彼女らの膝小僧。
迷うことなく狙いを定めた彼女らのつま先が、
私の次の号令を待った。

私は方角を再度確認し、その号令を発した。
「いきみ開始!」
彼女らはいきんだ。力の限りいきんだ。
そして、今だ、という瞬間に私は叫んだ。
「分娩!」

いきみ声が消え、静かになった瞬間から、
ボン、ボン、ボン、と、彼女らの股の間から、次々と赤子が発射された。
オギャー、オギャー、オギャーと、赤子らは真っ直ぐに、宙を飛んでいった。
そして、ドン、ドン、ドン、と、赤子らは次々に敵機に命中した。

「航空妊婦隊、分娩開始!」
その命中に喜ぶ間などない。私は無線に向かって叫んだ。

そして直ちに、空を切る我が爆撃機からも、
オギャー、オギャー、オギャー、と、
無数の赤子らが敵軍のもとに落とされていくのを、双眼鏡で確認した。

「海上妊婦隊、分娩開始」
更に私は無線で指示を出した。

その声は聞こえはせぬが、双眼鏡で確認できるより先の海にて、
我が軍の潜水艦から、無数の赤子が海中に放たれたであろう。

さあ、反撃の限りを尽くした。ここからだ。
ここから更に攻撃を繰り返し、一気に戦局を巻き返すのだ。

「妊娠、妊娠、全妊婦隊、速やかに妊娠!」
地面に仰向けのままの彼女らと、無線に向かって、私は叫んだ。

それを合図に彼女らは立ち上がり、バタバタと駆け出した。
無線からも、バタバタと騒めく音が聞こえた。

夫のもとに帰るか、恋人のもとに帰るか、行きずりの恋をするか、
その手段はなんでもいい。
右往左往する彼女らに、私は叫んだ。

「仕込めー!」

そう叫んで、私も妻のもとに駆け出した。
総動員で、仕込むのだ。

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【著者プロフィール】
profile
一十口裏
いとぐちうら○ 「げんこつ団」団長
げんこつ団においては、脚本、演出のみならず、映像、音響、チラシデザインも担当。
意外性に満ちた脚本と痛烈な風刺、容赦ない馬鹿馬鹿しさが特徴。
また活動開始当初より映像をふんだんに盛り込んだ作品を作っており、現在は映像作家としても活動中。

げんこつ団公式サイト



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