「司くん、流石だね。ニュースでも言っていたが
例の開発事業、素晴らしいじゃないか。」

「ありがとうございます。」

「今日は娘を連れてきてるんだ。ぜひ紹介させてくれ。」


タキシード姿の司は惚れ惚れするような美男だった。
オーダーメイドのタキシードはまるで産まれた時から馴染んでるように見える。
育ちの良さからくるのだろうか。
今日は癖のある髪をスタイリッシュにセットしてある。
今日は前髪を上げている為、額の美しさや完璧な鼻がより際立っている。
きりり、と上がった眉も長い睫毛が影を落とす目元も
形のよい唇も全てが美麗だった。


「は、はじめまして。あの…。」


ほとんどの女性は目の前の美貌に言葉をなくす。
185㎝の身長も、広い肩幅も、冷たそうに微笑む御曹司そのものに怖じ気付いてしまうのだ。




これで何人目だ? 

パーティーや会食の度に娘だの妹だの姪だのを紹介される。
うんざりするぜ。
あわよくば俺の目にとまれば、って思ってるのがミエミエだ。
うるさい蠅どもめ。
金のある場所にはすぐにたかってくる。
適当にあしらい、挨拶待ちを狙っているタヌキや女狐をうまくかわした。
ちらっと時計を見ると22時を過ぎている。
顔を出すだけのつもりが捕まってしまった。
秘書に目線を送り、出口へと向かう。
このまま上に部屋を取り休みたかったが、セキュリティも信用出来ないホテルだ。
しかも誰かが使った後の部屋で寝るつもりはない。


「帰るぞ。」

「はい。」


まだまだ話したさそうな連中にさっと冷たい目線を送り
うんざりするようなパーティー会場を後にした。



出張から直行し、会場のホテルに着く前は腹が減り
何かをつまもうと思っていたが…いつの間にかすっかり食欲を無くしていた。
元々食べることに興味が薄い。
うまい、と思ったのはいつだ?
酒はうまく感じるが、食事はただエネルギーを取るだけ。
サプリだけで済ませる日もある。
西田はいい顔をしないがな。


タイを取り、タキシードを脱いだ。
時計を見ると23時を過ぎている。
もう居ねぇか。
彼女はいつも21時までだった。
忙しい時は残っているが…
流石にねぇよな。

出張で1週間あの店に行けなかった。
そうだ。
会えなくても…あの缶コーヒー買って帰るかな。
彼女から貰った(気がする)赤色のモーニングと書かれた缶はまだ飲んでいない。
邸のデスクに置いたままだった。
…新しいのは執務室に置いておくかな。


司は内線に指示を出し、リムジンに置いていたスタンドカラーのコートをさっと羽織った。
他に何か買ってみるか?と考えながら店に入る。
雑誌コーナーの前を通り、ただぶらっとしていた。


「ありがとうございました~。」


勢いよく振り向きレジを見た。
彼女がいる!
まだ帰ってなかったのか!?
いると思ってなかったからか、司は顔が赤くなった気がした。
慌てて回りに目を配る。
客は男ばかり4人ほど。
店員は…まさか一人か?今まで一人でここに?
司は回りの男を睨みつけた。
彼女はレジから動かない。
時折レジの音やありがとうという声が聞こえる。
司はいつも以上に店内をゆっくり見て回った。


するとバタバタと一人の男が駆け込んできた。


「遅くなった!ありがとう、一人だったんだよな。
大変だっただろ?
すぐ荷物置いてくるから!」

「大丈夫だよ。焦らなくていいから。」

「あいつ熱出して帰ったんだろ。昨日体調悪そうだったからなー。
ちょっと待ってて!」

「大丈夫だって。タクシーチケットも貰ったの。」


彼女が笑いかけ、男がバタバタと奥へ消えた。
レジから出て来て何かをしている。
目を細めたが後ろ姿しかわからず(何かを混ぜているようだ)
レジへと向かった。


なんだ?
おでん?そう書いてある。
そっと中を覗く。
汁の中に色んな物が沈んでいた。


「お取りしましょうか?」


彼女がじっと見ていた。
やべぇ!
すんげぇ可愛い!
目がでけぇ、ウルウルしてる。
なんだよこの生き物は!


「取ります?」

「あ、はい。」


容器を取り司の横に並ぶ。
体がちけぇ。


「何がいいですか?」

「え、えー…。」


司はおでんを食べたことがなかった。
何がいいって…。


「貴方のおすすめは?」


彼女はでっけぇ目をしぱしぱさせて笑った。


「厚揚げ、大根、牛スジ、ですかね。」

「じゃあそれを。」


湯気が出ている茶色のものを容器に入れていく。


「おでんはやっぱり厚揚げですよねー。
大根の美味しさは大人になってわかったかなぁ。
すじも欠かせませんよね。」


司は心地よい声をじっと聞いていた。


「あ、玉子忘れちゃった。しらたきも。
玉子のない、おでんなんて…。
ね?そうでしょう?」

「あ、はい。それも入れて下さい。」

「はーい。
しらたきはバイト初めてからココで食べて~。
クセになるんですよ、これ。
ロールキャベツもいい仕事してて~。」



司は、じゃあそれも。と言いながら彼女を上から見下ろしていた。
ちっせぇな。
肩とか華奢すぎて心配になるぜ。


司はおでんの会話を聞いてるようで聞いてなかった。
気が付くと大きな容器に溢れんばかりの中身が入っていた。
しかも汁多すぎだろ!!


「スープ多すぎました?」


彼女がレジの向こうから心配そうに聞く。


「あ、いえ。ちょうどいいです。」

「ですよねー!
スープたっぷりじゃないとコンビニおでんじゃないですよね。」


司は微笑み、会計を終えて礼を言うと店をでた。
ずっしりとしたビニール袋が不思議な気分だった。
リムジンに乗り込むと待機を命じた。
しばらくすると彼女が出てきた。

急遽遅くまで残ったのだろう。
回りを気にしながら明るい場所を歩いていく。
車道に近付き、手を上げた。
タクシーが停まり乗り込むのを司はじっと見ていた。
見守るように。
タクシーが小さくなっていくと、ようやく出すように伝えた。



リムジンの中でコートを脱ぎ、先ほどのおでんを手に取る。
プラスチックの蓋を開けるとあたたかな湯気が司の顔をくすぐる。
スープをこく、と一口飲んだ。


「…あったけぇ。」


不思議なスープの味は司をあたたかくした。
熱々の中身を箸で取り、次々に食べていく。
あ、そうだ玉子を崩してスープに混ぜるとうまいって言ってたな。
司は夢中で食べた。
正直、不思議な味だったが体がぽかぽかと温まり
久しぶりに食事をとった気がした。
スープも最後まで飲み干す。



「ごっそうさん。」






冷えきった身体が温まり、司は久しぶりにリラックスした。





うまかったよ。
ありがとうな。





俺は厚揚げが好きかもしれない。

肉はダシとった後みたいな味がして…次は入れねぇ。






…今度一緒に食べてぇな。


並んで食事する姿を想像しながら、司はゆっくりと目を閉じた。
 









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