それはある会食の時の事だった。 


ある社長とお互い腹の探りあいで緊張感漂う時間。
うちか、ライバル企業のどちらかを天秤にかけてるらしく
別の日にその企業のトップとも会食をしたという調査結果がきている。

このタヌキ親父の会社は昔からある大企業じゃねぇ。 
小さな町工場からスタートし、あるボルトで特許を取った。
そのボルトはこれから重要になるはずだ。
不景気の波がきた時も、特許は決して他の企業に売らなかった。
今は生産が追い付かず、拡大も兼ねてバックアップ出来るスポンサーを探していた。
資金提供の見返りはボルトの使用許可。

道明寺財閥は色んな業種があり、その許可があれば自動車や建設など
色んな分野が助かるはずだ。
逆にライバル会社に渡れば苦戦する事もあるだろう。
色んな分野で業界トップを誇る道明寺グループの今後の安泰の為にも
そのボルトの許可が欲しかった。


会食は政治家の顧客も多い、日本料理店。
芸術と呼ばれるほど手の込んだ料理の数々だが
司は酒で料理を流し込んでいた。
こちらの提案に中々乗ってこねぇし、相手のじいさんも箸が進んでいない。
ライバル会社との会食と同レベルの店にしたんだが…
くそ、事前の調査が足りなかったか?
当たり障りのない会話で、手応えのないまま終盤に近付いている。



その時、相手のケータイが鳴った。
すまない と告げ、マナーモードにしてなかったと携帯を触る。
その時、司は気付いた。


「そのストラップ…。」

「あ、ああ、これかね?孫から貰ってね。」


白い猫がゆらゆら揺れている。
服は水色と白のストライプ。


「ローにゃんですね。」


社長がびっくりして司を見た。


「知ってるのか?」

「ええ。」


司が笑った。


「孫が好きでね、くじだったか?こればかり続いたと回ってきたんだ。
じぃじにあげるとね。」

「ああ、なるほど。一等などは中々当たらないらしいですね。」

「そうそう!いまだに当たらないらしい。
私も何回か付き合ったよ。」


和やかになった時、司は切り出した。


「箸が進んでないようですが…お口には合いませんでしたか?」


社長がすまなさそうに笑った。


「いや、旨いよ。旨いんだが、私の口には上品過ぎるというか…。」


…ああ、そうか。
かしこまりすぎる席だと会話も弾むわけがないか。


「おでんはお好きですか?」

「え?ああ、もちろん。」

「近くに旨い店があるらしいです。そちらへ移動しませんか?」


社長が嬉しそうに笑った。


「いいね。」

「すぐ車を回します、少々お待ちを。」


司は個室を出て、控えていた西田に伝える。


「近くで気軽に入れそうな店を探せ。おでんが旨い店だ。」


西田が頷きすぐに電話をかけ始めた。
司は部屋に戻り、用意出来ました と告げ
行きましょうか、と二人で車に乗り込んだ。


車が停まり、二人は路地裏の小料理屋に入った。
カウンターだけの小さな店は明るくざわついていたが、温かな雰囲気だ。
一番奥に二人は座り、おしぼりを受け取る。


「いやぁ、落ち着くな。」


じいさんが自然に笑うのを見て、間違いなかったと司は思った。


「早速だが、おでんを頂こう。熱燗もいいな。」


大将が大きなおでん鍋を指差し、何にしますか?と聞くと
二人で鍋を見に行った。

じいさんは大根、はんぺん、玉子を。
司は厚揚げと大根、玉子とコンニャクにした。
二人で熱燗を飲みながらおでんを味わう。


「いやぁ、やっぱり大根は欠かせんね。君はどれが好きだ?」


今までは答えられなかった質問だ。


「厚揚げと玉子ですね。ここにはないですが、しらたきも好きです。」

「確かに、しらたきも旨いな。」

「ロールキャベツも好きですね。次はそれにします。」


ざわつく店内で二人はゆっくりと味わって食べた。

 
「君がまさかあのストラップを知っていたとはな。
いい意味で見る目が変わったよ。」 

「ありがとうございます。」


その後二人はまたおかわりをし、つまみも頼み
酒を楽しんだ。
一時間ほど他愛もない話をした後、店を出た。
司は徒歩圏内にあのコンビニの系列店を見つけた。


「酔いざましに、少し歩きませんか?
寄りたい所があるんです。 」

「ああ、構わないよ。気持ちの良い夜だ。」 


少し歩いた先のコンビニに司は入った。
社長が驚く。
その横でまっすぐレジに向かい、くじを頼んだ。
今日は一回。










「どうぞ、お孫さんに。」


司が笑って渡すと、社長は目を見開いた。


「君は…。」

「選ぶならどうぞ我が社を。後悔はさせませんよ。」


唖然としていた社長がいきなり笑いだした。


「そうかもしれん。勝負運もあるようだ。」


司に一等のぬいぐるみの礼を言うと、笑顔で車に乗り込み去っていった。
コンビニの前で見送っていた司と西田は目線を合わせた。


「感触は良さそうですね。」

「あのまま最初の店にいるよりはな。」 


屈強な男達が近付き、司の守りを固めた。
リムジンが停まり西田と乗り込む。




「…助けられたな。」


ぼそりと呟いた意味が西田にはわかっていた。
小さな町工場から築き上げた社長に、今までの司だと対話出来なかっただろう。
財閥の御曹司はあまりにも違い過ぎる。
彼女が司様を少し…いや、かなり変えた。


「礼を言いたいが…いきなり客から声をかけられると困るよな。」


本当は礼じゃなく、デートに誘いたい。
司様はそんな顔をしている。 


「ただの客じゃないですよ。彼女も貴方と話をするでしょう。」


司が片眉を上げた。


「…道明寺の名前を出せとでも言うのか。」 

「いえ。」


司はシートに腕を乗せ、目を細めて秘書を見た。


「後輩に話かけるだけですよ。」

「…あ?」


西田は眼鏡を上げた。


「彼女は後輩です。
司様が在籍している英徳大学の3年生ですよ。」 












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