着ていたブラキャミに黒いTシャツを重ねた。
お気に入りの白いロングスカートで、足元は黒のスニーカー。
(あいつからお揃いだとプレゼントされたやつ。)
カジュアルなトートバッグに財布と携帯、みだしなみ程度の化粧品を入れた。
後は適当にポンポンとバッグに放り込む。

あ、そうそう。

紙袋にあいつの荷物を入れた後、少しよろけながら立ち上がる。
移動中 中身を見てやろーっと。
写メしてからかっちゃおうかな。
あいつが見ていたページは分かってるんだから。


さっ、行くぞ!
デレデレと鼻の下を伸ばしたあいつをこらしめてやる!!
時間を確かめ、タクシーに乗るしかないと考えながらつくしは玄関を開けた。


つくしが出ていった後の室内。
キッチンのテーブルには中を洗ったアルミ缶が二本。
アルコール飲料。


つまり、つくしはただの酔っぱらいだった。










「ヘイ、タクシー!!」

 
家から少し歩いて、つくしはタクシーに乗った。
明日は土曜日。
つまり連休だ。 
こんな日は誰だって少しハメを外すべきじゃない?
でしょ?
来週分の生活費を下ろしたばかりだ、現金は持っている。
ちょーっと聞くだけのつもりが、電話で空席ありなんだもの。
しかもギリギリ間に合う時間。
いっちゃう?
いっちゃえ!


「運転手さん、急いでください!」


堅実だの、まじめだの、そんな私にも衝動はある。
今日がいい例だよね。
タクシーの中でにんまりする。
あー!めっちゃ楽しい!
とりあえずとび乗れば後は何とかなる。

夜にお出かけっていくつになってもワクワクしちゃう♪
自由な感じ。
ママやパパにも言わなくてもパッと夜のお出かけ出来るのが
大人なんだなぁって思う。
(親よりうるさいのが約一名いるけども。)
プチ旅行みたいだよね。
どこか美味しいご飯屋さん行きたいなー。
でもまずは空いてる宿を調べて…。
駅近くなら絶対泊まる所あるよね?
ビジネスならそんなに高くないはず。


いやいやいや。
ちょっと待て、つくし。
旅行じゃないでしょ、あいつに渇を入れにいくんだってば。
デレデレすんな!仕事しろ!ってさ。
あー、でも夜はパーティーだ接待だって忙しいだろうしな。
行って居なかったら拍子抜け…。

西田さんに聞く?

あー、でもなー。
いきなり押し掛けることに意義があるんだし。

着いたらとりあえずどこかに落ち着いて…そして朝になったらあいつの所に行こうかな。
いや、でもスケジュールがビッシリか…。


…それならやっぱり、着いてすぐ奇襲かけちゃう?


たのもー!なんつって。
いいね、いいねー。
あいつの驚いた顔が見たい!
いつも涼しい顔してるからさ。


“は?お前こんなとこまで会いに来たのか?”


ニヤニヤニヤ。


“お、お前ここで何してる?”


ぶぶぶっ!
どんな顔すんだろ。


「あ、ここで降ります!ありがとうございました!」


料金を支払うと紙袋をぎゅっと握り、勢いよくタクシーを降りた。
金曜日の駅はとても賑わっている。
その中をつくしはチョロチョロと駆け抜けた。
切符を買ってアナウンスを聞きながら乗り場へと急ぐ。
ジリリリリと鳴り響くベル。
つくしは汽車に飛び乗った。



イェイ!



切符を見ながら席を探す。
あ、あったあった。
良かったぁ、窓際だ。
ストンと腰かけ、荷物を無人の隣に置いた。
発車直前には体格のいいサラリーマンや、スーツの女性が一気に入ってきたが
つくしの周りは空いている。
ぎゅうぎゅうだと気を使うのでホッとした。

隣に座る人が男性だったら…めちゃめちゃうるさいヤツがいるし。
油断するな、とか気配を察知しろだの
いつでも攻撃出来るように腰を浮かせとけだの…
あたしゃ何者だよ?
腰を浮かせてる女がいたらおかしいでしょ!




…ふう。
携帯をチラリと見た。



渇を入れる、なんて建前。
(まぁ一発殴ってもいい気もするけど。)



付き合って…まぁ短くはない期間だけどさ。
あいつが出張中とか、遠くにいる時に私から会いに行ったことはない。
(大昔のN.Y以外はだよ。)
私は待つ方だった。
あいつが行ってきますと言う。
おかえりって出迎えるのはいつも私。


あいつが帰ってくるっていつも当たり前みたいに思ってた。
当たり前の事なんてないのにね。
恋に落ちたとしても、続けていくのは努力が必要でしょ?
何もしないだけなら続かないもの。
あいつは…私と続ける努力を怠らなかった。

少しの時間しかなくても私の顔を見にくる。
会いたかったから だと。
行ってくるな、その一言を伝えに だとか。
5分抱きしめる、ただそれだけの為に時間を作って会いに来る。

あんなに、あんなに、愛情表現に飢えてる男なのにさ。
あいつから来る事が当たり前になっちゃって。
わたし、甘えてたんだなぁ。
自分から会いに行く 今、それが分かった。





外は暗闇。
眩しいほどの明かりが流れていく。
窓の外を眺めながらセンチメンタルになっている自分がわかる。
二時間後にはあいつがいる街に着く。


“ねぇ、私 どこにいると思う?”


ニヤニヤ笑う口元を隠しながら、つくしはバッグを開けた。
お菓子を取り出しポリポリと食べ始める。
旅にはポ○キーって決まってるよね♪
地方都市に向かう特急の中はまばらだった。
つくしの席の回りには誰も座っていない。
隣に誰も座らないように荷物を置き、スマホでこれから向かう都市を調べ始めた。









…ポリ。


お菓子を食べ終わる頃にはちょっとずつ頭が冷えていた。
身体も冷えている。
ごそごそとバッグからグレーのパーカーを取り出して羽織った。

…アルコールって気が大きくなるのかな。

冷静になってくると、気まずい気持ちもある。
あいつ仕事しに行ってるのに…
夜中にいきなりピンポーン。
こんなコンビニに行く格好で、テヘ、来ちゃった☆って言うのかい。
(これじゃ本当に来ちゃった感、だよね…。)



…マジで一人旅がマシ?

あー、でもなー。
一人で泊まるような事があれば絶対にメープルか、メープル系列をと言われている。
そして必ず自分に連絡しろ と。
これは約束させられた。
サプライズなら連絡ナシでいけるけどさ。


あっ、そうだ!
荷物持ってきたって手でいこう♪
あんなに真剣に見てたもん。
急いで持って行かなきゃ!

仕事を一生懸命頑張ってるんだもん。
彼女なら優しくしてあげなきゃよね!














その頃。

道明寺ホールディングスの御曹司は、華やかな女達に囲まれて笑っていた。






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