そわそわ。


有能で有名な秘書が咳を一つした。 


「司様、何か問題でも?」

「…いや。」

「それは良かったです。では引き続き、流通分野の報告を致します。」

「…ああ。」


すっげー可愛かった。

白のワンピースに白の帽子。
あいつのだけ蛍光塗料が塗ってるみたいに輝いて見えた。
俺に気付いた時の顔!
ぱあっと明るくなったよな(間違いねぇ。)
いつもより化粧してたが…あんなに嫌いな化粧があいつがしてると可愛かった。
手を振ったんだぞ、俺に。
そう、彼氏に向かってだ。


「西田。」

「はい。何か質問でも?」

「受付の女達は英語は必須だよな。」

「はい。その他も中国語、韓国語、フランス語とカバー出来ます。」

「新しく入ったスタッフはどうだ?」

「…はい。英語、中国語、フランス語が堪能です。
日常会話ならタイ語、トルコ語もいいようです。」

「そんなに?」

「学生時代、タイ料理店やトルコ料理店など外国料理店のアルバイトをされていたようで…。
外国語のプロ達がチェックした所、イタリア語も日常会話でしたら大丈夫のようです。」

「イタリア料理店か…。」


有能な秘書がクスリと笑った。


「はい。」


外国語を習うならその国の文化に触れると挨拶からでも吸収しやすい。
あいつの場合は料理店があってたんだろうな。


「店によっては賄いといって食事も出ますからね。
学生には人気のアルバイトです。」

「まぁな。どうみたって料理目当てだな、あいつ。」

「評判のよい店ばかりでしたよ。家族経営店で常連客が多い。
いい選択ですね。」


司は頷いた。
そして気持ちを最上階から1階へと走らせる。
自分の恋人が真下にいるのだ。
秘書の言葉が頭に中々入らなくてもしょうがないだろう。









「牧野さん、お昼先頂くわね。」

「あ、はい。行ってらっしゃいませ。」


さすが道明寺ホールディングスといったところだろうか。
つくし以外の受付は3人いた。
皆、すごい美人でスタイル抜群で品の良さまで折り紙付き。
1人退職したばかりらしく、その補充につくしは引き抜かれた。

あの、ビルの一室のテスト。
あれは道明寺ホールディングスの面接だったらしい。
語学に対応、持っている資格の確認と1日がかりでへとへとになったけど…
派遣ではなく、道明寺と契約になった。

語学だけではなく、手話やマルチに対応出来る経験が決め手になったと言われ…
派遣の倍になった収入にはすごく有難かった。

会社名は契約の時に知ったの。
道明寺?
それって…
最初はあいつが私を就職させたのかと思った。
もしそうならどんなにいい条件でも受けたくなかったから。


困惑していると、人事の人があいつの秘書の名前を出してきた。

“副社長付き第一秘書 西田はご存知ですね。
西田からの伝言を預かっております。”

その伝言で、あいつは知らない事が分かった。
確保したい人材があったので道明寺ホールディングスとして動きました、と。




「まさか私が受付嬢なんて…。」


受付の制服を着て座っていると、この豪華な吹き抜けのロビーにいるのが
場違いみたいな…
仕事だと言われればそうなんだけどさ。
手話の出来る人が受付に欲しかったとは言われたけども…。

そんな事を考えていた時だった。



ロビーの空気が変わったの。
緊張感っていうのかな。
電話をしながらだったけど感じたんだ。

顔を上げてドキッとした。
正面から近付いてくる黒いスーツの一団に目が釘付けになる。
ロビーにいる誰もが彼らを見ていた。
受付の女性達も立ち上がって気をつけの姿勢をとっている。
屈強なボディーガードが壁になり、中心の男性を守っていた。
その人は背がすごく高くて特徴のある髪型をしている。



道明寺。



にこりともしない。
完璧に表情を消している。
だけどそれが綺麗な男を更に際立せていた。


『…それで、もし来られたらですね、』


いけない!
電話中だった。
人事課の人との会話に意識を集中する。


本当に、あの、道明寺?


私が知ってる道明寺じゃないみたい。

ボディーガードや秘書がいつも周りにいる事は知っている。 
それこそ初対面からそうだった。
でもこんな所で見るのとは違う。
笑いながらお弁当食べたり、プリンを持ってきてくれた人とは違う。
…本当にこんな世界の人はなんだなぁって。
ガツンとやられた感じ。


電話を終えると、つくしは顔を上げた。
そしてそれを待っていたかのように、こちらを見つめる男と目が合った。
ポーカーフェイスが崩れている。
呆然としてるような、期待してるようなそんな顔。
表情が出てるのが嬉しくて、思わず小さく手を振ってしまった。
すぐにここかどこか思い出して引っ込めたけどね。





「…ふぅ。」

「初日は疲れるでしょう?」


慌てて横を向くと、受付で一番ベテランの女性が微笑んでいた。


「あ、いえ。すみません。」

「受付は初めてなんですって?」

「はい、とくにこんなに広いロビーだからか、圧倒されちゃって。」


嘘ではない。
圧倒されたのは最上階にいる男にもだけど。
黒いスーツの一団がロビーから歩み去ってからは
うっとりとしたため息があちこちから聞かれた。
それは受付でも例外ではない。


「副社長素敵ねぇ…。さっきこっちへ来たでしょう?悲鳴が出るかと思ったわ!」
「あんなに完璧な男性がこの世にいるのが信じられない。」
「ああ、お話してみたいわ。」
「無理無理。副社長にお話出来るのは西田秘書ぐらいよ。
秘書室の女性達も相手にされないみたい。
本人達はお側付きだって自慢げだけどね。」
「最上階にいらっしゃる男神だものねぇ。
ロビーを歩かれる姿を見れるだけで拝みたくなるわ。」
「話しかけられでもしたら失神するかも!」


小声できゃあきゃあと、つくし以外の3人が盛り上がっている。
背中を汗が伝う。
そ、そんなに?
神様までいってるの?

か、神様に10ペコとかまずいかな?

その時内線が鳴った。



「人事課からだけど、近くであってる展示会に誰か通訳で一名欲しいそうよ。
体調不良で早退したらしいの。」

「何語?」

「フランス語だそうよ。」

「あ!私行きます!」


つくしはサッと手を上げた。
受付の人達にはすごく感謝されたけど(皆あまり動きたくないみたい。)
私はあちこち行くのは気分転換になるし、上品な制服を着ているより動きたかった。
ロッカーで私服に着替えて、またロビーに降りると若い男性社員が待っていた。


「すみません、急にお願いしてしまって。
展示会に来られたフランスの会社の方々が興味を持たれましてね。」

「いえ、とんでもないです。専門分野の言語だとあまり自信がありませんが。」

「英語と混ぜてこちらも説明しますので。
間に入って頂けたら助かります。」

「わかりました。」


道明寺の日本支社ビルを出て、近くの道明寺ビルと書かれた高層ビルに入った。
表には展示会の看板が出されており、つくしは気を引き締める。
白いシャツに膝丈の黒いスカートのシンプルな服装だ。
肩下まであるまっすぐな黒髪がサラサラと揺れる。
そして黒曜石のような大きな瞳もキラキラと輝く。
色白で透明感のある肌と合わせ、つくしの姿は人目を引いた。


「牧野さん、こちらです。」


急ごしらえの手書きのIDを首から下げて、つくしは会場に入って行った。










「…は?」

「ええ、あの方です。
ピンチヒッターで向かった展示会では通訳だけでなく
大きな図面コピーや係が手こずっていた音響の調整など、あらゆる手助けが出来たそうです。」

「牧野がか?」

「SPの話では、希望に合った夕食の店や手土産も紹介したりと
フランスのお客様達とすっかり溶け込んでいたそうですよ。
家族と観光がてら訪日していた方には、お子さんのアレルギーにも対応した店をオススメしていたり
仕事の間に奥様やお子さんが楽しめるアクティビティを探したりと…
えらく、あちら側が感激していたとか。」

「…想像出来るな。」

「話題も豊富で、日本の文化に興味ある方には
寺で修行したエピソードも披露していたとか。」


司はコーヒーをむせそうになった。


「寺?」  

「子供の頃らしいですがね。夏休みに弟さんと放り込まれたと。
中々興味深いかたですね。」

「…まぁな。」

「興味深い事はまだございます。」

「何だ。」


真剣な秘書の声は、司の顔を上げさせた。


「東京に別の仕事でやってきていたようですね。
たまたま展示会を知ってやってきたそのグループは…
うちが取引を望んで下調べ中の、LOグループでした。」


司の目が見開いた。


「今度のプレゼンに参加資格が与えられるかもな。」

「ヨーロッパの会社に限定していた閉鎖的な会社ですが…
これで道明寺の印象が良くなったかもしれませんね。
アメリカの会社はビジネスライクだと敬遠されていましたが。」

「プレゼンにさえ出られれば、うちは他社に負けねぇよ。」

「ええ。ただそのきっかけにあの方が活躍したのは確かですね。」


西田が司にタブレットを見せた。
画面には、満面の笑みで対応している つくしの姿。



報告を聞きながら司は何か考えているようだった。
その顔は、恋人を見つめる甘い表情ではなく
日本一の大企業 道明寺ホールディングス副社長の表情をしていた。












皆、いい子にしてたかな?


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