「真剣だったな。何考えてた?」

「へ?」

「俺のことか?」

「へ?えのきベーコン。」


きょとんとした顔のつくしを余所に、周りのSP達が一斉に咳をしだした。


「え、えのき?」


素っ頓狂な司の声に、つくしもここがどこか思い出した。 


「何でここに?ちょっと離れてよ!」

「終わったって聞いたから迎えに来たんだよ。」

「ここはね、か・い・し・ゃ!」


小さな声で訴えるつくしの声に首を小さく傾げた。


「知ってる。」


女子ロッカーのある階だ。
騒がれるに決まってる!
おずおずとエレベーターホールドを見回したが、つくしと黒いスーツの一行のみ。


「こっちに来い。」


腕を引かれ、道明寺の横を歩く。
ちらっと左上20センチを見る。
(今日のつくしは低いヒールを履いていた。)
ん?とつくしを見下ろした司は、自分の口もとを慌てて隠した。


「へ?何?」

「お前!その上目遣いやめろ!」


ん?こいつ頬が赤くない?


「だから止めろって!」

「んな事言ったって見下ろせないんだからさ。
デカいのが悪いんじゃん。」


ブツブツ言うつくしの横で司はドキドキしていた。
心臓の上に手を置くと動いているのを感じる。
何だこれ。
すげぇ、こいつといると俺は自分が生きてるのを実感出来る。



着いた先は明らかに別フロアだった。
エレベーターホールも豪華!


「役員用はキーがねぇと動かねぇ。ほら。」


司から渡されたゴールドのカード。


「え?いいよ。乗らないし。」

「いいから。IDカードのケースに入れとけ。」


しぶしぶと受け取り、IDケースに入れた。


「役員用エレベーターしか地下駐車場には行けねぇからな。
待ち合わせる時は、こっちがお前も気にならないだろ?」

「う、まぁ…。」


ポーン、と音がして開いたエレベーターをSPが抑えた。
広々としたエレベーターにつくしと司、秘書とSP二人が乗り込む。


「今日は早かったんだね。」

「おう、今日は迎えに行きたかったからよ。えのきって何だ?」

「え?ああ。」


つくしが明るい声で笑い出すと、司も顔をほころばせた。


「急に揚げ出し豆腐と焼き鳥が浮かんでね。
頭の中が焼き鳥屋さんのメニューでいっぱいだったの。
そういう事ってあるでしょ?」



司は返事をしなかった。
こいつに適当な相づちはしたくない。
メニューが浮かぶ?
酒を飲みたくなった事はあるが…食事や食べる事に興味が無かったから。
だがこれからは違う。
一緒に食事をしたい相手がいるんだ。
側にいて話をしたり、食事をしたり、触れたり。
俺の居場所はこいつの隣になる。



「夕食はそれがいいのか?」

「出来れば。進か友達に電話しようかと思ってたぐらいだったの。
1人でもいいけど、あれこれ食べたいからさ。」

「友達?」

「うん、幼馴染なんだけど電車で一本の所に住んでるからさ。
進はこないだ会ったでしょ。」

「…今度から俺に電話しろ。」


つくしの目が大きく見開くと、二人は見つめ合った。


「俺に一番に聞いてくれ。
毎回は…無理だと思うが、出来るだけ努力する。」

「ラーメンでも?」

「ああ。」

「スイーツバイキングでも?」

「ああ。」


司が僅かに顔をしかめたのが可笑しかった。


「ぷぷ、はいはい。」

「何だよ。本当だぞ。」

「わかったってば。あー、ほら着いたよ。」



扉が開く前にSPが司達の前に移動した。
司がつくしの身体の前に手を出し、待ったをかけている。
いつもの流れなんだろう。
つくしは口が開いたまま、司に肩を抱かれエレベーターを降りた。
周りにも沢山のSP達。


「…FBIみたい。」

「ガキの頃から身についてるからな。しょうがねぇ。」


リムジンまで肩を抱かれながらつくしはチラッと司を見た。
護られるのが当たり前なんだろう。
…まるで王族か首相みたい。
国をあげて守る、みたいな。
道明寺の場合も変わらないんだろう。
世界中にグループ会社を持つ、世界的な大財閥の御曹司だ。

いくら私達がお試し期間とはいっても…この違いには戸惑うよ。
道明寺の為にも良かったと思う。
二ヶ月間庶民の女がどういうものか分かるわけだし…。
豪華なリムジンにも圧倒される。
うん、そうだね。
これも期間限定の夢物語だと思えば楽しめると思う。
シンデレラは12時までだったけど、私は二ヶ月のシンデレラだ。




「何考えてる?」


隣に座っている道明寺に覗き込まれ、ハッとした。


「ううん。あ、ご飯に行くの?」

「焼鳥、だろ?」


優しく笑う司に思わず抱きつきたくなる。
あの大きな身体に抱きしめられたら…どんな感じなんだろう。
厚みのある胸板は温かいのだろうか。


つくしと司の目が合った。


なんて綺麗な男なんだろう。
この美しさ。
なのに、雰囲気は危険さを醸し出している。
鋭さと冷たさを感じる美貌。
月のようだ。
まっ暗闇と、手が届かない月のような男。


司の指がつくしの頬に触れた。

綺麗な指が私に触れている。
そして、この香り。
道明寺だけのコロンがつくしをふわりと包み込む。


いつの間にか つくしは目を閉じていた。
そしてつくしの手は司の腕にそっと置かれている。



くちびるがそっと触れ合った。
柔らかくて、あまい。



気付けば二人はキスをしていた。


触れ合って、離れて、また触れて。



静かな車内にはキスをする音だけが聞こえてくる。


「ど、道明寺。」

「…黙って。」 



ついばみながら、軽く触れ合って、息をして…
お互いの息遣いだけが聞こえる。



「…は、ぁ…。」



つくしが顔を離すと司はゆっくりと頬を撫でた。



「…お前とずっとキスしたかった。」



間違いなく顔が真っ赤だろう。
司の大きな手のひらが、つくしの頬を包み込む。
ひんやりとして気持ち良かった。


「他の男とは…キスしたことあるか?」


じっ、と司はつくしの目を見つめていた。
その眼差しはゆっくりとした口調とは裏腹に鋭さを持っている。
嫉妬という感情が目に見えるなら、まさにこれだろう。


「お前、今まで付き合った事があるのか?」

「え…、あの、」

「答えろよ。」


つくしの腕に綺麗な指が食い込んだ。


「つ、付き合ってない!」

「…今まで?本当に?誰とも?」

「そうだってば!」


司の大きな手からスルリと腕を引いた。
ため息が聞こえる。


「あ、あんたはどうなのよ。」


つくしの呟きが司に届いた。
すると、つくしの背中に温かな腕が回された。
気付けばまたキスを受けている。


さっきより激しく。


息をしようと唇を軽く開けた途端、熱くて柔らかなものが口の中に入ってきた。
つくしの舌をつかまえて吸い付き、舐めてむさぼる。
鼻と鼻が触れ合い、唇を離しつくしが息をするとまたキスが始まる。




司は夢中だった。
本能みてぇに、吸い付きたくて舌を入れたくてたまらなくなる。
小さく漏れるつくしの声も我を忘れさせた。
すっぽりと身体に抱え込める華奢さも、シャンプーの香りがする黒髪も
頬をすり寄せて、全てを舐め回したくなる。

ああ、俺は男だったんだな。
自分の女がいて初めてわかった。

ふにっ、と当たる柔らかな胸。

嫌悪でしか無かった女の身体。
なのに今は…こいつのシャツをたくし上げて、口に含みたい。
味と柔らかさを感じてみたい。








あたし、どうしたんだろう。
道明寺からキスされて、夢中でそれに応えてるなんて。
温かくてがっしりしてる。
なのにキスは優しくて、甘くて…ああ頭が働かない。
男の人の身体に抱きしめられながら、もっとって思ってる。
いけないことかな。
身体中が道明寺を意識していた。

この先なんてないはずなのに。
もっともっと好きになったらどうしたらいいんだろう。






「…ダメだ、止まらなくなっちまう。」

「ほぇ?」


ぽやん、としたつくしの表情は司の下半身に一撃を食らわせた。
キスの余韻でぷっくりと腫れた唇も。


「こんなにキスが気持ちいいなんて知らなかった。
…挨拶以外でキスした事がないからな。」


それは未だ頭が働かないつくしにも、甘く届いた。


「…俺は今まで女と付き合った事はねぇ。付き合いたいと思ったこともねぇ。
意味がわかるか?
身体だけの付き合いもない。」

「か、海外にいたんでしょ?」


司が笑った。


「誘いは多かった。それは否定しねぇよ。
だがな。俺は触られるのも触るのも大嫌いなんだ。」


つくしのまだ光る唇を、司がゆっくりと右手の親指で拭っていく。


「お前だけなんだ。
俺が欲しい女。触りたい女。触ってほしい女。」


つくしの顔が赤くなる。


「俺はお前が欲しい。身体だけじゃねぇ。
牧野つくしの全てが欲しい。
牧野つくしのこれからが欲しい。」



リムジンの広い車内が急に暑くなったようだった。
男の熱気にも似た思いは、まっすぐにつくしに向かってくる。


「お試しなんてクソくらえ。お前は俺の女なんだ。
そして俺はお前の男。
これからずっと。ずっとだ。
分かったな?」



この綺麗な男から目をそらせなかった。
つくしもこのビリビリとした熱を感じていたのだから。
二人は違い過ぎる。
それは分かってるよ。
ここで離れた方が利口だってことも。

だけど…




「返事がないといつまでも焼鳥は食えねぇぞ。」

「え、ええーっ!」

「返事はキスでいい。ほら。」





ゆったりと革張りのシートに背を預けながら、司は両手をつくしに向けた。





頼む。
来てくれ。




仕草とは裏腹に手には汗をかいていた。




来いよ、来い!






「…だからお試しは短くていいって言ったのに。」





甘いシャンプーの香り。
司に近づいてくる。











…ちゅ。






ああ、…ほらな。
自分の未来なんか予想しなくても分かる。

こいつのキス一つで…俺は誰よりも幸せな男になるんだろう。











「…ちなみに焼鳥と言えば九州では豚バラ!
豚バラは塩、他はタレが好き。
レバーはいつまでも飲み込めない。喉が飲み込みを拒否してる。
揚げ出し豆腐は神です。
皆さんオッケー?」

「おい、誰に言ってんだ?」

「え?メンバーたち。」



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