「ねぇ、誰も居ないよ。店休日なんじゃない?」

「いや、貸し切った。」 


笑顔で言う男。
掘りごたつの席は見渡す限りいっぱいあるけども…
こ、ここを2人で!?


「私たちだけ?」

「おう。ほら、どこがいい?
奥でいいか?」


つくしは口が開いたままだった。
司は恐ろしいぐらいご機嫌で、つくしを奥の掘りごたつ席へとエスコートしていく。
腰を下ろす前にコートを渡すようにジェスチャーされた。
…こんなに気のつく男だっけ?
私のコートをいそいそとハンガーにかける司を見て、つくしは笑いそうになってしまった。


「コートありがとう。」

「おう。」


何でか、ここにSPさんや秘書の方が居たらまた咳が聞こえだす気もするな…。
つくしは座ると周りをゆっくりと見渡した。
いつも行く焼き鳥屋さんよりお洒落で高そう。

掘りごたつ席の反対の見せる厨房には、お店の人達が炭火で串を焼いていた。
その周りをぐるりとカウンター席が並ぶ。
つくしはカウンターで焼くのを見ながら食べるのも好きだった。
まぁ、服はくっさくなるけど。


「何が好きだ?」


メニューを手渡されるが2人だけだと落ち着かない。


「ねぇ、あんたの秘書さん…。」

「西田?何か用でもあるのか?
あいつなら車で仕事してるぞ。」

「西田さんも呼んだら?」

「は?」

「道明寺もまだって事は西田さんもご飯食べてないんでしょ。
こんなに席いっぱいあるんだしさ。
ご飯あんまり遅くなると身体に良くないよ。」


司が目を丸くしていた。


「いつもお世話になってるんでしょ?
あ、SPの人達とかもさ。
そっか!仕事中か…
でもこの中がSPさんでいっぱいだったら逆に安全じゃないの?ははは。」

「……。」

「あ、ごめん。余計な事言っちゃったね。」

「…いや…。」


メニューを真剣に見るつくしを、司はじっと見つめた。
俺たちはそんな見方はしない。
SPや使用人はあくまで使用人、仕事、それだけだ。
どうして一緒に食べなければならない?
どうして気を使わなければいけないんだ?
俺は雇い主だぞ。
給料なら気前がいいぐらい払ってる。
それで十分だろ?




司は携帯を取り出し秘書に電話した。


「SPを表に2人残して中に全員入ってきてくれ。
西田、お前もだ。」


つくしは笑った。


「おー!焼き鳥沢山焼いてもらおうか?」

「そうだな。」

「すいませーん!
おまかせでいいので、串をどんどん焼いてくださーい。
えーと?」

「11人分だな。」

「え?そんなにいた?ごめん、大出費かも…あー、11人分で。
あと、鶏皮と〜豚バラの塩を多めにお願いします!」


目をキラキラさせながらメニューを見てやがる。
司は笑いをこらえながら店内を見渡した。


「こんな感じの店が好きなのか?」

「何でも食べるけど、炭火とか家で出来ないし
色々選べるのがいいよね!
飲み物何にする?ビール?」

「お前酒飲むのか?」

「ビールは飲めないからサワーにする。いつもそれなんだ。
でもあんたには甘いと思うよ。」

「じゃあ…ビールで。」

「すいませーん!瓶ビールとカルピスサワーくださーい!」



ガラガラッと引き戸を開けて、西田が入って来た。
後から続くSP達は皆顔が強張っている。
昔から俺の警護責任者の田口が前に進みでた。


「司様、私ども何か警備の不手際がありましたでしょうか。」


SP達は一列になり、二人の前に並んだ。


「ああ、違うんだ。呼んだのは、」

「焼き鳥、皆さんもご一緒しません?」

「えっ?」


SP全員の口が開いた。
(西田でさえ瞬きが多い。)


「こんな広いお店で二人だけで食べても寂しいですし。
ね?」

「お前達にはいつも世話になってるからな。
仕事中だからアルコールは無しだ。だが好きなだけ食べてくれ。
途中で、誰か表にいる奴と変わってやればいい。」


皆ぱちぱちと瞬きをしている。
固まったままだったが、西田がすっと1人動いた。


「ありがとうございます。では我々はカウンター席で頂きます。」

「ああ。飲み物も適当に頼んでくれ。」


西田がカウンターの端に座ると、SP達も口々に礼を言ってカウンターに座っていく。


「良かったね。」

「ああ、…そうだな。」


カウンターに座ったSP達は、自分達の後ろに座っている人物が
あの道明寺司である事に驚いていた。

皆で焼き鳥?
世話になっている?
これは首になる前の何か…


「私ね、今日は20本いけるかも。」

「ぶっ…、そんなに食うのか?」

「焼きおにぎりかお茶漬けか迷うな…。道明寺どっちにする?
あ、飲み物きたよ!注ぐね。」


瓶ビールを恋人に注いでもらう。
毎日こんな夕飯だったなら…食事を抜く事などないだろう。
疲れも吹っ飛ぶとはこの事なのか。


「おう、サンキュ。」


会話を聞いていたSP達は、西田秘書が飲み物を注文した後
ようやくリラックスして頼み始めた。
(最後の晩餐ではなさそうだ。)


「はい、かんぱーい!」

「おう、乾杯。」


カルピスサワーをごくごくと飲んだ。
司は嬉しそうにつくしを見ている。


「お前ご機嫌だな。」

「ん?美味しい物食べる時に不機嫌になる人いないでしょ?」


きた料理や串を早速食べ始める。
サラダもひょいひょいっと司のを取り分けた。
店内が話し声やガラスがぶつかる音で、賑やかになっていく。
つくしがカウンターを見ると、道明寺の秘書と先程進み出たSPのベテランっぽい方が
話ながらお通しを食べている。


「ふふ、西田さんが焼き鳥食べてるの面白いよね。」

「…あいつ、食事するんだな。」

「いやいや、そりゃ食べますから。」

「今まではよ、」

「ん?」


つくねをむぐむぐ食べているつくしの唇を指で拭った。


「色んな会社で色んな仕事をしてたんだろ?」

「うん。ふわふわで美味しいよー、これ。
紹介で繋がったり、一度行ったとこは指名で声を掛けてもらったり。
これでも引っ張りだこだったんだよ〜。」

「…だろうな。
道明寺は働いてみてどうだ?」

「ん?んぐ。」


つくしが顔を上げると司がじっと見ていた。
恋人に甘い目をしていても、やはり経営者。
答えを聞き漏らすまいと身を乗り出している。


「綺麗だし働きやすいと思うよ。」

「お前の意見を聞きたい。」

「ん〜…。」


つくしが一口サワーを飲んだ。


「社員だけが社食安いのズルいと思う。」

「…は?」

「社員だけ割引あるじゃん?でもさ、出向してる人や派遣やアルバイトも働いてるわけだから
割引あっていいっしょ?
社食が高いからって外に食べに行ってる人が沢山いるんだよ。
一時間しかないのに慌ただしいし。
社食かどこかでお弁当販売したら?忙しい時は自分のデスクで食べれるし。
屋上とか開放スペースあるといいよね。
ずっと室内より気分転換は大事だよ。午後の効率にも繋がるし。」

「…西田。」

「メモしております。」

「困った事とか何かあったら上に意見を出せるってBOXあるじゃん。
あれフロアごとに集めてたら、内容とフロアで匿名でもバレそうじゃない?
上司が見たら筆跡分かる人もいるし。
セクハラやパワハラは一番バレたくないよね。
隠せたりも出来るし。
直接誰かにいくシステムがいいと思うな。」

「分かった。他にはあるか?」

「社員の数に対してトイレが少ない。
昼休みの歯磨き行列が長い、辛い。
女子トイレにパウダーコーナー欲しい。」

「パウダー?」

「お化粧直ししたり、ほら午後から蘇る為のコーナー。
歯磨きとカブると大変なんだよ。」

「ぶっ、分かった。」


つくしはお茶漬けを食べ始めた。
自分でもちょっとフワフワしてるのを感じている。
サワー一杯で酔ったかな。


「通訳や手話やCAD、マッサージもだろ。
他にも色々出来るよな。
苦手なものとかあんのか?」

「え?苦手なもの?
音楽系。楽器とか歌うとか、もーほんっとダメ。
小学生から音楽は天敵でさ、リコーダーわかる?
穴が開いてる縦笛!私だけピーピー変な音出て涙目になってたよ。
何分の何拍子とか、ト短調とか思い出しただけでも冷や汗でる。」


司は声もなく肩を震わせていた。


「あとね、センスを問われるやつ。
ファッション?インテリア?私が自信あるのは着回しのみ!
料理も作れるけど盛り付けにセンスがないとかいっつも言われる。
センスとかさどうしようもないじゃん!
磨きにパリでも行けっての?
料理って食べれれば盛り付けは適当でいいよね?
ね?」



司は焼き鳥屋の一角で呼吸困難になっていた。




やっべー。
この女面白すぎる。


店内のあちこちから咳が聞こえ、ガタガタと椅子を動かす音が聞こえてくる。


「副社長、ご馳走さまでした。」

「「「 ご馳走さまでした!!! 」」」


逃げ出すように店を出て行くSP達を見ながら
つくしはどうも〜っと笑いながら手を振っている。 
頬はピンク色でいつにもましてニコニコ…

こいつ、酔っぱらいかよ!
ジュースみてぇな酒で酔ってやがる。



司は自分の口元を手のひらで確認するように触った。





俺…ずっと笑ってんな。


こいつだ。
こいつがいると俺は笑う事が出来る。




息が出来る。








この女がめちゃくちゃ好きだ。



ああ、全てを食べてしまいたい。








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