久しぶりの例えばシリーズ、です。
来年も皆さんと集まれることを楽しみにしています。










『明日は何してる?』


耳元で囁く低めの声。
うう、ドキッとしちゃうな。


『ん?』


ひぃー!
こんな色っぽい声、犯罪じゃないの?


「えっとね、優紀とケーキバイキング行くんだ。
大人気過ぎて一ヶ月半待ちだったんだよ?」

『ケーキバイキング?』

「そそ。めっちゃ楽しみなんだ♫
さっきも優紀から体調いいか、って連絡きてね。
準備万端、元気モリモリ!って言ったとこ。」


可笑しそうに笑う声が電話越しに聞こえてくる。


「こんな時間まで仕事?」

『ああ。まだかかる。』

「忙しいんだねぇ。」

『明日うちの新作発表があるからな。
段取りの打ち合わせに顔を出してた。』

「新作?」

「系列のソフトだ。発売前から話題でな、明日は報道陣も多いだろう。」

「へー…。」



徐々に知ったけど、道明寺財閥は多岐に及んでて
各部門に責任者はいるけど、大きな舵取りは創業者一家が行うらしい。
副社長を務める道明寺ホールディングスの経営だけじゃないんだ。
私も覚えられないぐらいグループは沢山あるみたい。
だから物凄く忙しい。
背負ってるものを考えれば、それも当然かもしれないんだけど…
どれだけの負担がかかるんだろう。


こないだ独り言かな。
あいつがぼそっと呟いてた。

“ずっと冷たい水に沈められてるみたいだった”って。
“息をするのもやっとだった”って。



でもね、秘書の西田さんに会った時に云われたの。

“司様は変わられた。貴方のおかげですね。”って。
“変わった?そう…ですか?”
“ええ。”

あの眼鏡の奥が優しくなった。
側にずっといてくれるのも、道明寺の頑張りがわかってるからだよね。
…そう思うんだ。



「明日は新記録を狙うよ。」

『ぶっ…、ケーキで新記録?食い過ぎて具合悪くなるなよ。』

「はいはい。道明寺も無理しすぎないでね。」

『おう。サンキュ。』



おやすみを言って電話を切った。



ふぅ。


会えない時も必ずメールが電話がくる。
あの美貌の男はほんっとマメなんだよねぇ。



「さてっと。」


つくしはベッドの上から降りて適当にストレッチを始めた。
なんちゃってヨガで明日の体調を万全にしとこう。
だってね?バイト一日分のチケット代なんだよ!
こんな贅沢は中々ない。

あいつにケーキの写メでも送ってやろうかな。
そう考えながら眠りについた。








「つくし〜!!」

「優紀〜!!」


道端でハイタッチ。
2人ではしゃぎながら目的地に向かった。


「そのトップス可愛い!こないだデートに着てったやつでしょ?」

「そうそう。映画デートの後にね、人気のカフェに行ってご飯食べたの。
そしたらさ、パスタのソース飛んじゃって!
恥ずかしくて気絶するかと思った!」


優紀は可愛いの。
女の子らしいのにしっかりしてて。
誰でも好きになっちゃうよ。
デートの相手もそうだろうな。


「つくし、それ前に一緒に買いに行ったよね?」

「優紀が似合う似合うって進めるから〜。でもさ、派手じゃない?」

「派手じゃないって!チュールスカート似合うよー!」


そうなんだ。
ラズベリー色のニットに、グレーのチュールスカート。
どっちも優紀にレジへと誘導されたもの。
黒のショートブーツに黒の小さめバッグで、私にしてはちょっときちんとめ。
だけど肝心なのは、スカートのウエストはゴムだってこと。


「つくしにプレゼントあるんだー。」

「ええ?」


優紀に手渡されたのは可愛い紙袋。


「ちょっと早いけど誕生日プレゼント。」

「ええ〜!ありがとう!」


中学生みたいに私ら盛り上がってる。
道の端に寄って、優紀が紙袋から黒いベレー帽を取り出した。


「モヘアのベレー、つくし絶対似合うと思って。」


優紀が調整しながら被らせてくれる。


「わー、アイドルみたい!
つくし顔小さいから似合うんだよねー、ベレー。」

「ちょっと、何がよ。早く鏡見たい〜!ありがとう優紀。」


優紀は照れたように笑った。


「つくしお腹は?」

「朝食少しにしたから、バッチリ!」

「制限時間90分だからね。時間配分が大事よね。」


ぺちゃくちゃ喋っていた2人の足がピタリと止まった。


「…すご…。」


いつもよりお洒落したのにはワケがある。
今日はね、超一流ホテルでのケーキバイキングだからだ。


「名前は聞いたことあったけど…本当に凄いね。」

「つくし入った事ある?」

「いや、ないない!こんな高そうなホテル。
ふわ、天井たっかー!」


足を踏み入れるのも躊躇するぐらい、敷居が高い。
ベルボーイもスタッフも一流のプロって感じ。
大学生でこんな所来ていいのかなぁ。
物凄く別格な感じ。

だからこのホテルのケーキバイキングは特別なんだ。
値段も高いけど、超人気で予約待ちのリストがなっがいらしい。
最初は高いから渋ったけど、優紀の熱いお誘いに私もその気になってしまった。

こんな所のケーキなんてもう食べることないよね。
味わって食べなきゃ!


「つくしもうすぐ時間だね。何階だっけ?」

「えっとバイキングは…、」

「あら。珍しい。」


2人はピタッと止まった。
後ろから聞こえてくる声は…


「お久しぶりね。」


振り返った二人は、思わず顔を見合わせた。


「…あ。ほんと、久しぶり…。」


声の主は中学校で一緒だった同級生だった。


「相変わらず二人一緒ねぇ。」

「…まぁね。」

「もしかしてこのホテルに?奇遇ね。お食事かしら。
それともお手洗いでも借りに寄っただけ?」


優紀がムッとした顔で、手に持ったチケットを見せた。


「今からケーキバイキングに行くの。じゃあね。」

「あら、私もよ。
私の彼がコネがあって、急でも予約が取れたの。」


つくしと優紀は目を見合わせた。
(こういう時のアイコンタクトって、めっちゃ通じてるよね。)

またねと同級生に手を振って、スタスタと二人は歩き出した。


“相変わらず嫌味なヤツ〜!”
“優紀、声が漏れてるって!”
“一ヶ月半も予約待ちで悪かったわねぇ。”
“変わってないねー、やっぱり。”
“ちょっと美人で、中学でミスだったからってさ。根に持ち過ぎよね。
つくしはいつも相手にしてなかったけどさ。”
“うーん。”
“成績がいつも2番だったからって、イチイチつっかかってきてさー。”


つくしは肩を竦めた。


「もう小声じゃなくていいんじゃない?」

「あ、そうか。うわぁ!見て、つくし!」


2人はゆっくり、わざと遠いエレベーターへと向かった。
豪華なロビーはまさに外国みたいで、うっとりしてしまう。
外国の人が多く賑わうロビーは、まるで映画のように違う世界。


「めっちゃお洒落だねー。」

「うん。いつか泊まってみたいなぁ。朝ごはん美味しそう。」

「そっちかい!」


2人は笑いながらエレベーターに乗り込む。

その様子をじっと見ている人がいた。









女の子ばかりで混み合う店前。
列に並びながら首を伸ばして店内をのぞく。


「席なかなか空かないね。」

「でも分かるー、私達も時間ぎりぎりまでいると思うしさ。」

「まぁねぇ…。」


甘い香りにお腹が鳴った。


「見える?」

「うん、ケーキが宝石みたい!」

「私、サンドイッチとスコーンに目が吸い寄せられたよー!」

「サラダも美味しそう。甘い、しょっぱいと交互作戦でいくわ。」


二人は真剣に顔を寄せ合い作戦会議をたてていた。
その前をさっきの同級生が手を振って微笑みながら
彼氏と思しき男性と店内へ入っていく。


「イヤミ〜!聞こえた?お先にーだってさ。」

「まぁまぁ。ねね、優紀は何個予想?
私はね、今日新記録つくるよ!」


笑いあっていると、スタッフが席が空いた事を伝えに来てくれた。




「ふわぁ〜!」


キラキラ輝くカラフルなケーキたち。
これはもう…芸術だ。
そして大好きなサンドイッチやスコーン。
しょっぱい系がバイキングでは重要になる。
待て待て。
ここですぐ取るのは素人ってもんよ。
まずはじっくり一周すること。
後でコレがあったの〜!?って思いたくないからね。

つくしはゆっくりとバイキングコーナーを回ると
ようやく真っ白なお皿にヒョイヒョイっと乗せていく。
大好きなタルト。
生クリームも欠かせない。
ベストなバランスでお皿に乗せたあと、にししと笑いながら席に戻った。
優紀は…まだみたい。
私より慎重派だからね。
2周はするんだろう。

ああ、もう待てない!

小さなフォークを手に取った時、店内の時が止まるのがわかった。


え?
なに?


女の子達が皆、目を見開いたまま口に手を当てている。

芸能人?




その時。


長身の男がレストランに入って来るのが見えた。
一目でオーダーメイドと分かるぐらい、完璧にフィットしたダークネイビーのスーツ。
優雅に歩いてくる様は、自信に満ち溢れた男そのもの。


つくしも他の客と同様、口が開く。



頭に浮かんだ言葉は…
なんで?だった。


こんな女子ばっかりの甘い匂いの空間に、あんな男。
目立つなんてモンじゃない!


鋭い目つきで広い店内を見ていく。
そして…




あいつが笑った。



スタスタと長すぎる脚で一気に近づいてくる。



ぎぃやぁぁぁぁ



「よぉ。」


つくしのテーブルに手を置いた。


「な、な、な、何でここに?エスパー?」

「新作発表会だって言ったろ。」

「あー…。こ、ここで?」

「ああ。」


目の前の椅子に腰をおろした。
長い足を優雅に組む。
周りから黄色い声が聞こえ、ハッとする。


「仕事は?」

「お前がここにいるって連絡があったからな。抜けてきた。」


身を乗り出し顔を近付けてくる。
ち、近い!近い!


「メープルだったのか。
ったく…、そう言えよな。」

「え?」

「いくらでも貸し切ってやったのによ。」

「ハハハ。いくらあんたでもそれは…」


つくしの笑顔が固まった。


「まさかここ…。」

「ああ。うちのホテルだ。」



ひっくり返りそうになる。
金持ち過ぎるだろー!!



あ。優紀!
私より口が開いてる。
手招きすると恐る恐る近づいてきた。


「道明寺、私の友達の優紀。昔から一緒なんだ。」

「は、初めまして。ま、松岡です。」


道明寺がサッと立ち上がり席を譲った。
(はー、やっぱりお坊っちゃんなのねぇ。)
優紀はピキーンと固まったまま。
あまりに周りの視線が凄くて、つくしは自分の荷物を取り席を空けた。
つくしの横に座る…って近い!


「お前らそんなに食うのか?」

「まだまだ、1回目よ。あと3回は行くからね。」

「ちょ、ちょっとつくし!」



道明寺は笑いながら手を伸ばし、サラサラと揺れるつくしの髪を耳にかけてやる。
周りから悲鳴のような声が聞こえた。


「ありんこみてぇだな、お前。」


笑っていた司が何かを見て顔を背けた。
小さな舌打ちが聞こえて…


「へ?」

「失礼致します。」


そこには、道明寺を支え続けている優秀な秘書の姿があった。


「司様、そろそろご挨拶の時間でございます。」

「…ったく。」


大きな男がゆっくりと立ち上がった。
全ての仕草がゆっくりだけど、堂々としていてオーラが目に見えるみたい。


「牧野様、ご友人の方、お食事中に申し訳ございません。」
 
「いえいえ!」

「牧野様を一階ロビーでお見かけしたと警護の者から連絡がありまして。
気付いたら、司様はこちらに。」

「こちらこそ、迷惑おかけしてすみません。もぅ!黙って抜け出してきたの?」


つくしが司の腕を軽く叩くと、肩に手を置かれた。
甘えてるんだ、この男。


「行ってくる、いっぱい食えよ。」


迎えに来た警護に囲まれながら、手をひらひらさせて
御曹司一行は立ち去って行った。


ふわぁ。
なんって派手なの。


「つ、つ、つくし!彼氏さん、いい男過ぎる!
緊張したぁぁ!」


優紀はもうケーキどころじゃなくて、ずっと興奮しっぱなし。
店内は異様な空気で、斜め前に座っているあの同級生もこっちを見て呆然としている。


ようやく食べだした時、今度はすごーくピシッとしたスーツの人が入ってきた。
深々と礼を受けて、思わず立ち上がる。


「初めまして、わたくしメープルの総支配人でございます。」


思わずナッツが口から飛んだわ。
優紀がナッツを目で追う。

メープルホテルの総支配人さんからは名刺を。
今後、メープル内で利用する時はお世話を致しますとかなんたら。
宿泊も道明寺が一年中おさえてるスイートルームがあるから
今後はここを使って欲しいと指示がありましたと言われた時は流石に口があいた。

道明寺専用のカードキーまで手渡されて…
優紀は私より口があいている。




何か…全てが飽和状態で、2人とも黙々とお皿のケーキを食べた。
会計に行くと、全てお支払いは済んでおりますと。
優紀とふたり、ケーキとサンドイッチのお土産まで貰ってしまった。



「…つくし。」

「うん…。」

「ケーキ、美味しかったね…。」

「うん…。」

「お土産、凄いね…。」

「うん…。」



豪華なロビーを抜けると、1台のリムジンが二人を待っていた。


「つくし…。本当に道明寺さん、コンビニに通ってたの…?」

「…うん…。」

「…愛だね、それ…。」

「……そうかも…。」





ケーキバイキングは、新記録には到底及ばなかったけど
記憶に残る一日になったよ。
次の日に食べたタルトはすっごく美味しかったしね。


次のケーキバイキングは、実はもう決まってる。
チョコフォンデュが人気なんだって。
都内の一流ホテルですでに予約済。

そこもメープル系列じゃありませんように!





 
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