「ちょっとポスト行ってきますね。」 

「はーい、行ってらっしゃい。」


社名が入った大きな封筒を持ち会社を出た。
とはいっても、つくしの会社は大きなビジネスビルの中にある。
同じフロアーにも他の会社が入っているので人通りは少なくない。
昔からあるビルなので階数は五階とそれほど高くないが
横が広い造りになっているので広々としていた。


「ん?」


ふと足が止まる。
1ヶ月前から募集中だった場所に業者の人が何やら運び込んでいた。

しばらくそちらを見ていたが、エレベーターが空き
つくしは先に乗っている人に小さく会釈をしながら乗り込んだ。




「ただいま戻りました。この階の空きスペース決まったみたいですよ。」

「おかえりー。え?そうなの?前の会社の人達、移転だ何だって
慌てて出て行ったよね。」

「うちより数倍広いでしょう?どんな会社ですかね。」

「前みたいにキャピキャピした女子ばっかりだったら、またトイレ混むわよねぇ。」


お昼あとが困りますよね、と相づちを打っていたつくしは
自分のデスクに置かれたメモに手を伸ばした。


「あれ?このメモ…」

「あ、牧野ちゃん!それそれ!
北川さんに来週納品予定のがあったでしょ?」

「はい、急ぎだからって言われてましたね。」

「その商品が入荷遅れるらしいのよ!」


事務の二人は顔を見合わせた。


「…マズイじゃないですか。」

「…マズイのよ。」



それからは怒涛の時間だった。
電話ばかりして、あっという間に定時の時間になっている。


ふぅ。
納品はどうにか間に合いそうだしな。腕を持ち上げぐぐっとストレッチをする。
…帰るか。

パートの中崎さんは15 時までだ。
つくしもデスクを片付け立ち上がる。


「お先に失礼します。あ、谷さん。ドーナツ美味しかったです!
ありがとうございました。」


ニコニコと笑うつくしに、奥の席から おー、と聞こえた。
月末や月初、年度末や急遽残らなければならない日を除くと
つくしはいつも定時で上がる。


ロッカーで着替え
ビルを出て、大体いつも同じぐらいのバスに乗る。
揺られながら冷蔵庫の中を思い返していた。
豚肉…白菜もあった。お鍋にする?んー、でも今日はガツンとな気分。
しめじに人参…あ!中華丼にしようかな。
明日のお弁当にもいいし。
豆腐のお味噌汁もあったから、よしそれでいこうっと。

今日はシナモンドーナツも食べれてラッキーだったな♪
そうだ、優紀から電話くるんだった。
家に着いたらいつでもいいよってメールしよう。

今日も一日いい日だったな。
窓の外を眺めた後は、優紀にメールを打ち始めた。











『…のあなた、今日のラッキーは洗濯物を干すこと。晴れやかな気分になれそうです。
山羊座のあなた、今日のラッキーアイテムはうちわです。
仰ぎながら空を見上げてみてくださいね。
水瓶座のあなた、』



「牧野さん、おはよう!」

「おはようございます。」

「ん?バックからうちわ落ちたよ。今日暑い?」

「あ!ありがとうございます。へへ。」

「きたきた!牧野ちゃん聞いた?」

「何ですか?」

「隣ね、一流企業が入るって噂よ!」

「へー。ビジネス街でもないのにですか?」

「確かにねぇ。建替えの為にとかじゃないのかしら。
エリートがいっぱいいるんじゃない?
牧野ちゃんも誰か一人捕まえなさいよ!」

「そうですねー(棒読み)」

「大体このビルには潤いがないのよね。イケメンがいなくて、」


つくしはうちわを取り出し、仰ぎながら天井を見上げた。
(空じゃなくてもいいよね?)









『射手座のあなた、今日のラッキーアイテムは白シャツ。
パリッと着こなしてね。
山羊座のあなた、今日のラッキースポットは図書館です。
ミステリーを読むと更に運気アップ!
水瓶座のあなた、今日のラッキーは焼き鳥です。』


今日はグロスをちょっと赤っぽいのにしてみた。
色白はよく褒められるけど、顔色悪くも見えちゃうんだよね…
よし、時間だ!









ヴーン…。


「もしもし。」

『あ、ねーちゃん?俺。』

「ちょっと待って、外に出る。」

『いま家の近く?』

「んーん、図書館。………ごめん、お待たせ!」

『ねーちゃんちの近くまで来たからさ、ついでに安かったから米買ってきた。
中に置いてるから。』

「ありがとう!もうそろそろ無くなる頃だった。助かる!」

『後、ねーちゃんが言ってた電球も替えたよ。
チカチカしてただろ。』


つくしはにっこり笑った。


「なんていい弟なの、あんたって。
サンキュー進!」

『俺もそう思う。』

「ぶっ!今度何か奢るから。」

『いーよ、ついでだし。じゃあね。』


電話が切れた後もつくしは微笑んでいた。
進が暮らす寮はつくしの家に近いが、ただそれだけじゃない。
2週間に一度は何やら理由をつけて、つくしの様子を見に来てくれる。
昔から優しい弟は大人になっても優しかった。


「いい子に育ったもんだよ。姉がいいからかな?」


つくしは手に持った本を借りにカウンターへと向かった。











『射手座のあなた、今日のラッキーアイテムはスニーカーです。
思い切り走ってみてはどうでしょう?
山羊座のあなた、目を瞑って靴の踵を3回合わせてみてください。
驚きの出来事に出会えるかも?
水瓶座のあなた、』




「ポストに行ってきます。」

「あ、牧野ちゃん。これも一緒にお願いしていい?」

「分かりました。普通郵便ですね。」

「ありがとう、助かる!」



郵便物を抱え、つくしはエレベーターに乗り込んだ。
エレベーターはつくし一人。
今しかない!



踵を合わせて目を瞑った。
3回鳴らす。


「ったく。私はドロシーかい。」


エレベーターの到着音がして扉が開くのと、つくしが目を開けるのは同時だった。








無音の世界。


つくしは目を見開いたまま。







……嘘。







目の前に、あいつがいた。








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