あれから何年経ったのか。



『道明寺ホールディングスの株式総会では、株主からの質疑に対し、』


あの世界的な不況は、たくさんの会社や人々を巻き込みなぎ倒していった。
危ういとの報道ばかりだったあいつの会社は、数年かかったが持ちこたえたと。
軌道修正し、立て直しを図った結果あの巨大な企業は前より安定し
利益を産み出すようになったらしい。


私には分かるんだ。
あんた、頑張ったんだね。
必死で会社を…社員と家族を守ったんでしょう。
良かった、本当に良かったよ。
あんたがあの時アメリカに行ったのは間違って無かった。
私は間違ってなかったんだ。

皆が幸せになったはず。


私達以外は。





ずっと“道明寺”の名前を聞くだけで…心がえぐられるようだった。
あちこちで名前を聞く度に苦しかった。
悲しかった。
でも、これでいいんだとも思っていたの。
あいつの為にも。
でしょ?

世界中に支社を持ち、NYに本社を構える世界的な大企業。
日本中にも関連会社は山ほどある。
そしてその全てが一流企業と呼ばれ、それぞれの業界のトップにいた。
財閥の名は王族にも似た響きでニュースやテレビ
経済紙、もしくはゴシップで伝えられる。
計り知れない富と権力を持つ道明寺財閥。


『道明寺財閥の御曹司、道明寺司さんが婚約間近だと関係者からの…』

『お相手は、一族の中から米国大統領を出した事もある
名家のご令嬢だという事です。』


あいつは…その道明寺財閥の後継者だ。
F3が昔言っていた事を思い出す。
自分達の将来は決まっていると。



『道明寺司さんが、左手の薬指に指輪をしている写真が掲載されました。』

『株価は連日上がり続け、この婚約を世間は歓迎している様子がわかります。』

『道明寺司さんは、お相手がいると認めたそうです!』



あれから何年経ったのか、なんて忘れるわけない。
一生忘れる事など出来ない。


でも人は生きていくんだ。
生きなくちゃならない。
そうでしょう?

でもそれはなんの為に?
こうしてあいつ無しでも生きていくのは何の為なのか。


毎日ご飯を食べて、仕事をして、買い物をして
家賃を払って。
バスに乗って、洗濯をして、たまに映画を見て
風邪をひいて。
毎日の暮らしは続いていく。


あんたには幸せになって欲しい。
今は、もう目の下に影がないといいな。
笑っているといいな。
あんたを支える人が…私じゃなくても構わない。
助けられる人が側にいたらいいな。
あんたはすべてを持っているのに、不器用で真っ直ぐだから。



私は雑草のつくし。
だから、前を向いて生きていくんだ。

















ガタガタと音を立てるエレベーターの中。
つくしは呆然と昔の恋人を見つめた。




こんなに背が高かった?
こんなに逞しかった?


今も息を飲むほど美しいってありなの?


キリッとした眉毛から切れ長の瞳。
完璧な鼻筋に薄い唇。
なんって綺麗な顔。
特徴のある癖の強い髪はセットされて益々魅力的に見える。
昔より肩幅が広くなった。
身体が一回り大きくなったみたい。

オーダーメイドのスーツをさらりと着こなす、美しい男。

何事にも動じないと言われているが、表情で驚いているのが分かる。
目を見開いているからだ。










はははは。




いよいよ頭がおかしくなったかな。
白昼夢ってコレかも。


あいつは一人で歩く事はない。
しかもこんな都心とはいえ、さびれたビジネスビルに。
あの男は産まれた時から重要人物として、いつも秘書や沢山のSPに囲まれている。


つくしは顔をひょいっと斜めにして、男の後ろを見た。

…誰もいない。

やっぱり幻だな、うん。





首を小さく振りながらエレベーターを出る。
動かない幻の側をすり抜けた。



白昼夢には香りまで付いている。

あの華やかな…あいつだけに調合された特別なコロン。




ゾッとした。
私はいよいよおかしくなったのかも。




ビルの正面ドアまでもう少し…
その時。


正面の自動ドアから沢山の黒いスーツの人達が入ってきた。
耳に何かつけて叫んでいる。
つくしの側を走り抜け、エレベーターに向かっていく。








思わず振り向いた。





まさか。


まさか。











幻ではない。



一人の長身の男が、沢山の黒スーツの男達に囲まれてこちらを見ている。







「…道明寺?」







道明寺司は、つくしをじっと見つめていた。







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