「本社の工事、あと1週間らしいぞ。」



…ピク。
指が揺れた。


「思ったより長くかかったよな。
良かった、これで通勤が楽になるよ。」

「そうか?丸の内は満員電車だから俺はここがラクだったよ。」


つくしはエレベーターの中、手に持った紙袋をギュッと握りしめた。
事務所にバッグを置き、そのまま隣の道明寺ホールディングスへと向かう。
インターフォンを鳴らす前に何故か自動ドアが開いた。
入口にいた警護の方が微笑みかける。


「おはようございます。」

「あ、おはようございます。あの、預けていきたいものがあって…、」


紙袋の中身を見せ、誰のものかを伝えようとした。
でもその必要はなく、申し訳なさそうに軽く首を振る。


「あいにく、副社長は不在ですのでこちらはお預かり出来ません。
副社長に直接お渡し下さい。」

「直接って…。」


私の顔に道明寺とでも書いてるわけ?
預かるだけだからとお願いしても、結局受け取ってくれなかった。
直接渡せって…それが嫌だから預けに行ったのに。


「牧野ちゃん、今日午後本社行ける?納品取りに来てだって。」

「あ、行けます行けます。」


デスクの横にある紙袋は圧倒的な存在感。
朝から私の気を散らさせた。









ミニバッグと社用車のキーを持ち、駐車場へと向かう。
仕事中のお出かけは大好き!
外にいるだけで不思議な感じがする。

いつものように窓を全開にした。
風を感じるのが好き。
思い切り走ってる気持ちになれるから。
しばらくすると反対車線から黒塗りの車が続いているのが見えた。

ピカピカの高級車達の長い列。
すれ違っていく。
真ん中のリムジンの窓が下がっていた。


一瞬、視線が絡み合った気がする。
あいつはじっと私を見ていた。



最近のニアミス…
もうメディアでしか見る事が出来ないと思っていたあいつに会えた。
これってご褒美だったのかな。

それとも罰?


あの目。

あの目は私を責めているのか。









本社から持ってきたのは、設計図の筒が数本。
営業には電話したから出先から取りに来るだろう。


「寄っせっと。」


荷物と自分のバッグを持って、てとてと歩く。
今日は…微かに痛みを感じる。
帰りに病院に行くべきか…
足湯とマッサージで楽になりそうな気もするな。


「あ、牧野さん持ちますよ!」


振り返ると本社のイケメン(という噂)が走ってきた。


「ちょうど営業先から戻ってきて。タイミング良かった。」

「ありがとうございます。」


荷物を引き取ってもらい、つくしはにんまりした。
(本社のお姉さま方に気配りも出来るって付け加えなきゃね。)


「いい天気ですねー。」

「ねー。気持ちよくて仕事に戻りたくなくなっちゃいますね。」

「はは、確かに。」


話しやすくて気さくで、確か1歳上なはず。
笑うと目尻に小じわが寄ってそれが愛嬌があるんだよね。
160センチのつくしとそんなに身長が変わらない。
170ぐらいかな。


「昨日寝不足で。アメ○ーーク見ませんでした?
神回過ぎて同じの2回見ましたよ。」

「録画しててまだ見てないんですね。こないだのは呼吸困難になるぐらい笑ったな〜。」

「俺も!最近DVD集めだしちゃって。見ると止まらなくなるんですよね。」


ああ、そうそう。
このひと朝ドラにでてきそうな感じ!
ドラマチックな映画でも、ラブコメでもなく朝ドラ!
気のいいタイプでね。
…あー、なんか親近感。
私も多分朝ドラ系だから。
人生山あり谷ありだけど、その中でも平凡な幸せを見つけるんだよね。


横で芸人さんの話を面白おかしく話すひとに、好感が持てた。
きっとさ。
こういう人が私には合ってるんだろうな。


穏やかで、日々を楽しんでのんびり暮らせるひと。
帰ったらご飯作って二人で一緒に食べて、洗濯物を畳みながらテレビを見るの。
休みの日は買い出しに出かけて、たまに映画見たり
近場のお出かけを楽しんだり。

ビルに入ると、エレベーターの前の集団に気付いた。





私の頭を見透かしているのだろうか。
あいつが振り返った。





興行収入過去最高!世界がこれを待っていた〜!って映画の主役。
まさにそんな奴。

かたや、朝ドラのセット(そして脇役)がめっちゃ似合いそうな私。






私達は集団の後ろに立った。
…うう、気まずい。



「さっきのぜひ見てみて下さい。
めちゃくちゃ面白いんですって!」

「はは、そうですね。」

「僕今度DVD持ってきますから。」

「えっ?いいですよ。わざわざ悪いです!」
(お姉さま達が聞いてたらニマニマしてそうだな。
皆、ドラマ見すぎでしょ!)



「牧野様。」


前から西田さんが礼をした。


「あ、ハイ。」

「今日うちに御用があったようだとお伺いしましたが…。」


へ?
うちに用?


「…あ!はい、あります!
お借りしていたものをお返しに伺ったんでした。」

「この後は2時間ほどおりますので。」


深く礼をして、優秀な秘書はエレベーターに乗って上がっていった。


「牧野さん、今 有名人いましたよ!見ました?」


DVDを忘れ、興奮気味に話す先輩の話はうわの空で聞いていた。

あいつに直接届けろって!?
さっき無理やりにでも置いてくれば良かったよ…




あーあ。
私、何してるんだろ。


終わったと思ってる相手を一番意識してるのは私だ。
自分で終わらせたはずなのに。



どうしようもなく吸い寄せられてしまう。


こんな人が自分には合ってるって…頭では分かるのに。
心が浮き立たない。
胸が締め付けられない。
バカだ、私は…。







紙袋を持って、トボトボと華やかな一角に向かった。
朝からも来たけども。
入口にある“道明寺ホールディングス”のロゴだけで、めっちゃ威圧感。
本社の人達が浮足立ってたんだ。
“あの道明寺ホールディングスが同じビル!?何とかして繋がりを持てないかな”って。
うちにとって、雲の上の会社なのは間違いない。
子会社の1つや2つは繋がっているかもしれないけどね。


インターフォンで会社と名前を言うと自動ドアが開き
目の前に西田さんが立っていた。
優秀で有名な秘書がわざわざ出迎えて、会社内を案内する姿に
皆が手を止めこちらをチラチラ見ている。


「あの、西田さん?」

「はい。」

「代わりに渡して頂けません?ほら、忙しいでしょうし、」

「大丈夫ですよ。先日のおにぎりありがとうございました。
とても助かりました。」


重厚なドアを軽くノックし、そして返事を待たずに開けた。
つくしは言われるままに足を踏み入れた。


「ささやかですが、あのおにぎりのお礼にお昼ご飯をご用意致しました。」

「…は?」

「中にお昼をご用意致しました。どうぞお召し上がり下さい。」



優秀で有名な秘書が深く頭を下げる。








…ガチャ。



は?



ガチャガチャ。

「あのっ!西田さん!?え!ウソ!?鍵かけた?
嘘でしょー!あんにゃろー!!」






重厚なドアは誰の部屋なのか。






近付いてくる足音。






分からないはずがない。
でしょ?






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