レストランを出ると出入り口にいたSPの人達が
サッと近付き、周りを再度確認した。 


「部屋に戻る。」

「かしこまりました。」


警護のプロ達は、この男を護る為に存在している。
それを当たり前だと思っている、私の恋人。
道明寺司には天文学的な価値があるから。



つくしの手を大きな手が包み込んだ。


「疲れたか?」


この男は私の気持ちに敏感だ。


「ううん。大丈夫だよ〜何で?」

「ため息ついたから。」


…う。
この男は本当によく見ている。


「足元がフワフワしてる気がして。へへ、酔っちゃったかな〜。」


道明寺が片眉を上げた。


「…何よ。その顔。」


口パクで“酔っ払い”と言ってくる。


「ワイン美味しかったんだもん。」

「好きだろ、あの味。」

「うん。お料理も綺麗で美味しかったね。」

「そうか?」


そう。
この男は料理を見ていなかった。
“違う”
“食べたいのはこれじゃねぇ”
そう目が言っていた。



道明寺が手をギュッと強く握ってくる。



…ちら。


25センチ上にある綺麗な顔を盗み見た。
うっわ。
こいつ、マジ綺麗な顔してる。
18歳の時は少年ぽさがあったけど今は…
まさに男って感じ。
どんな年代になっても更に魅力的になってそう。
腹立つよね。


見て、あの表情。
喉をゴロゴロ鳴らす音が聞こえてきそう…。
めっちゃご機嫌。

ぷぷ、分かりやすいんだ。
私といる時はすぐに顔に出る。
仕事の時や、無表情っていうか…表情を消してるのが当たり前。
何も持ってない私だけどね、道明寺には色んな表情をさせたいって思ってる。

私を見て可笑しそうに笑う時。
心配している顔。
からかってムッとした顔。
気持ちよさそうな顔。
焼きもちやいてる顔。
感じてる、あの顔も。

私はそれだけでいいんだ。


色んな事を子どもの時から我慢してきた道明寺。
愛したがりのこの男が…たまらなく好きだ。


あいつの為のスペシャルスイート。
VIP専用の階へは専用カードがないと行く事が出来ない。
SPが最上階のボタンを押した。


「5年振りだな。」

「ん。」


前に泊まった事もある。
メープルにある、道明寺の部屋。


「部屋に戻ったら足を温めろ。すぐにバス用意するから。」


顔を見上げる。
25センチ上には心配そうな顔。


「うん、ありがとう。」


気遣いが嬉しいな。

道明寺は私をたっぷりと甘やかそうとするの。
私はすぐにいい、大丈夫って意地を張ってしまうから
昔はよくケンカになったんだ。

今は…素直にありがとうって言える。
あいつの気持ちを大事にしたいから。
(私も大分、大人になったでしょ?)

 


「この靴すごく良いよ。いつもより楽なの。」

「そうか。」


道明寺が嬉しそうに笑う。


「ちょっと前に職場の人の結婚式に出てね、ヒールでいたら…」

「ヒール?おい!」

「低いやつだよ。
それでも生まれたての子鹿みたいになっちゃって。
足がなまってるなー。」

「子鹿じゃなくて子豚だろ。」

「はぁ?どんだけ足短いのよ。ったく、失礼しちゃうわね。」


プリプリ怒る私に、道明寺が笑いながら頭を撫で撫でする。
つくしは火照る頬を手で押さえたあと、片手でパタパタと顔を仰ぐ。
両手を使わないのは、片手が道明寺の手の中にあるからだ。





“コーヒーはいい。”

道明寺は食後の飲み物を断った。
美しくカットされたフルーツも味わう事なく詰め込むと
グイッと腕を引っ張られた。
ああ、ドリンクで一体いくら…



この空気。
どんどん風船が膨らんで、いつ割れるかって感じと似ている。
広くて豪華なエレベーターも狭く感じるぐらい、緊張感が高まっていた。
肌がピリピリする感じ。
身体を重ね合うのを肌が期待してるみたい。


道明寺もそうなんだろう。
握りしめる手がどんどん熱くなってきた。


視線を感じて顔を上げる。


あいつがじっと見ていた。
服を1枚ずつ脱がされているような視線。

頬がカッと熱くなる。




ポーン…
エレベーターが到着してドアが開いた。

スイートの前には別のSPさん達。
道明寺に異常なしと伝えるとドアの前から下がり
礼をした後エレベーターの方向へ歩いて行った。
キーを挿し込んだ後、ガチャッと扉が開く。
豪華な部屋に足を踏み入れると懐かしさがこみ上げた。
初めてこの部屋に来たのは17歳の時。
思いがけず道明寺と一緒に入る事になったんだよね。


「ねぇ、覚えてる?びしょ濡れになったあんたがさ、」


笑いながら振り向くと、大きな男にいきなり抱きしめられた。
すっぽりと腕に閉じ込められる幸せ。


ああ、いい匂い。
目を閉じてうっとりと厚い胸板に顔を寄せた。

抱きしめられるっていいね。
守られてるみたい。へへ。


「こっちはジリジリ終わるの待ってるのによ。
お前、フルーツまで食べやがって。」

「だってフルーツは贅沢品ですから。」



ぷ。


あ、笑った。


「ったくお前は…本当におもしれぇな。」



おわっ!!

ひょいっと抱き上げられた。
お姫様だっこってやつ。

ふかふかのソファーにおろされた。
うちにあるちんまりしたソファーとは違う。
こいつの為に作られたような大きくてふっかふかな…
いや。聞くのはやめよう。


「ちょっと待ってろ。バス用意してくるから。」

「えっ?」


長い足で、あっという間にバスルームへと向かって行った。

酔いは冷めたと思ったけど…
背もたれに寄りかかり目を閉じる。


ふわふわふわ。


まだ夢の中にいるみたい。




水の音がする。
身体を起こすと、足元には大きな洗面器。
湯気がゆらゆら出ていて気持ち良さそう。

いつの間にか道明寺が足元に座っていた。


「寝てていいけど寝るな。」

「ぶっ!何よそれ。」

「こういうこと。」


道明寺がゆっくりとキスしてきた。

 
んんん。
…美味しい。



ワンピースの中に入ってきた大きな手。
ビクッとした。
そっとタイツをおろしていく。

ついばむような甘いキス。

滑らかで上等のタイツはいつの間にか床に落ちていた。
素足は青白いほど白くて、細い。
怪我をした場所はまだ引き攣れたような痕がある。

ああ、今日はペディキュアをしていて良かった。
キラキラのラメ入りピンクは、近所のドラッグストアで冒険したもの。
何もしなくても超絶綺麗な男が目の前にいる。
だけど、少しでも可愛くいたいじゃない?


「可愛いじゃん。」


足の親指の小さな爪を、親指の腹でそっと撫でらてる。


ゾクゾクっとした。
大きな手のひらの上にある私の足。

何故か急に部屋の温度が上がった気がする。







「熱かったら言えよ。」


そう言うと私の両足をお湯の中に沈めた。
そして、ゆっくりと足をマッサージしていく。


「うわ…!すっごく気持ちいい。」


ほぐして、優しく揉まれて、またほぐして。


「…あー。涙出てきた。」

「あ?」

「大丈夫、ひとりごとだから。…ねぇ。」


道明寺が顔を上げた。


「あたたまってきたよ。ありがとう。」

「おう。」


額にうっすら汗をかいてる。
すごく気を使ってくれたんだろう。


こういう時、どうしたらいいのか分からなくなるんだ。
好きで好きで、苦しくなる。


「…わり、裾が少し濡れたな。」

「あ、ううん。あんたも袖が濡れちゃったね。」


道明寺がタオルで私の脚を拭いていく。
そして隣に座った。


「リハビリの先生より上手だったよ。ポカポカしてきた。」

「このぐらいしか…今となっては出来ねぇから。
悪かった。」

「なに?何であんたが謝るのよ?」

「リハビリ大変だったって聞いた。相当痛んだって事も。」

「いや、大丈夫だったよ。私の逃げ足が遅かったからだし。」


道明寺が抱きしめてきた。
全部、全部、知ってる。そんな顔をして。


「そんな顔、しないで。あんたのせいじゃない。」


つくしが大きな背中に手を回した。


いつもの匂いにホッとする。



「…あんたの方が冷えてるよ。」

「わかんねぇ。」



あいつが自分の事なんてどうでもいい、みたいな口調で言うからさ。
ちょっと明るくしたいって思っただけなんだよ。
道明寺が笑うトコ見たくて。


「お風呂沸いたの?」

「ああ。いつでもいい。」



つくしは考えた。
うーん、何かないかな。


あ。


「ね、ゲームしない?」

「ゲーム?」


道明寺が怪訝な顔をした。


「あっち向いてホイとか。」

「はぁ?ガキがするやつして何が楽しいんだよ。」

「む。じゃんけんは神聖な戦いよ。」

「もっと…楽しめるやつがいい。エロいやつとか。」


今度はつくしが眉を潜める番だった。
こいつ何言ってんの。


「あー、ほら。じゃんけんして脱いでくやつがあるだろ。」

「何で知ってるわけ?」

「総二郎が着物でしたって昔言ってた。」




野球拳?


パッと見て計算したの。
道明寺は全部で7つ。
私は…12。
それだけじゃない、これでもじゃんけんには自信あるんだ。
こどもの時に進といつもしてたからかな。
表情で読み解く奥義を持っているのだ。
ふははははは。


「は?奥義?」

「こっちのセリフ!
じゃあさ、勝った方が相手から願いを一つ叶えてもらう。
どう?」

「…願い?」



良かった。
あいつの顔から少し雲が晴れている。
むしろ目が光って…、


「あ、ささやかな願い事よ?戸籍に関する事はなし!
そこ、舌打ちしない!」



私が勝ったら…事故の事を謝らないでって言おう。



道明寺が立ち上がった。
急に目がギラギラしてる。


「女に二言はねぇだろうな。」

「男に二言はないわよね?」




奥義の出番ね。
私が勝つ!


あんたをパンツ一丁にしてやるわ。







にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村


ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村