不器用だけどキラキラしていて、甘酸っぱくて、二度と戻れない…
ふと、この時代を書いてみたくなりました。











あー…、やっぱり今日もいるよ。

つくしはカバンを持つ手をギュッと握った。



下駄箱近くで気怠そうに佇む長身。 
制服の男子女子しかいない中で、私服の男はただでさえすんごい目立つ。
しかも自分の学年の下駄箱ですらないのに。

周りはチラチラと見ながら気づいて欲しいオーラを出しているけど
その男はまるっきり無視。
ポケットに手を入れたまま、廊下の先と下駄箱周りをチラチラ見ている。

キャーキャー言われてるのは耳に入ってるのかな。
女子だけじゃない。
男子すらも憧れと恐れの眼差しで見ている。


彫刻みたいに綺麗な顔に、モデルみたいな八頭身。
ファッションに疎い私にも分かるぐらい、めっちゃお洒落で
すんごい高そう。

見た目は極上。
家柄や血筋も極上。
財産も権力も別格の、最上級ランク。

道明寺司は私とは別世界の男だ。






カタン、



下駄箱前の板に乗ると小さな音がした。


「…よいしょ、っと。」


靴を脱いで手に取り、身体を起こすと…あいつがパッと顔を上げた。


「…あ…、」


何か言いたげな声が聞こえたけど気にしない。
カバンから上靴入れを出して、さっさと取り出し履く。
今度は袋にローファーを入れた。


教室は2階にある。
階段をのぼり廊下を歩き始めると、後ろから付いてくる足音。
廊下中からキャーキャーと声が上がるのも私が通るからじゃない。
こぞって挨拶をする声が聞こえる。


ここは資産家や有力な家庭の子女が通う事で有名な超名門校だ。
この学園のヒエラルキーは勉強でもなく、見た目でもなく、人気があるからでもない。
家柄・血筋・資産・権力で決まる。


そう。
幼少期からトップに君臨する男が、つくしの後ろにいるからだ。
数メートル離れていても分かる圧倒的な存在感。
わざわざ走ってきて挨拶をする彼らは分かりやすいぐらい
権力者が誰か分かっている。
教師すら媚びを売る男。


つくしはため息をついて、何故こんな事になったのかと
毎日毎日考える。

教室が見えた。
振り返らずに教室に入ると、廊下側の自分の席に座り
何の異常もないか確認する。


「…よし。何もない。」


これで安心して少し寝れる。
バイトを掛け持ちして帰ったら勉強して。
体力だけは自信があったけど流石に短い睡眠時間が続くと辛い。
ああ、貴重な睡眠時間…
つくしは机に突っ伏そうとしたが、急に周りが静かになった事に気付いた。

そして、あいつのコロンの香り。




最初は校門にいた。
次は下駄箱入口。
今ではつくしの下駄箱真ん前にいるのが定番化している。
そして廊下までから、ちょっとずつ距離を詰めてきた。
昨日は教室入口だったのに。

道明寺がゆっくりと隣に座った。
これは初めて。



つくしは顔をしかめたまま「なに?」と聞くと
王様はサッと目線を外したまま、何かを言いかけた。


「…だから何?」


何でもねぇって小さく呟くと席を立ち、教室から出て行った。
つくしは首を小さく傾げ、出て行った先をしばらく見ていたけど
眠気には勝てずに突っ伏した。


…変なやつ。


始まるまであと15分ある。
つくしは既に眠りに落ちていた。







英徳で、つくしは異端児だ。
っていうか…ただの貧乏人はそこらへんの備品と変わらない。

つくしにとって高校生活は修行みたいなものだった。
誰もが青春という高校生活を楽しむ事は出来ない。
ただただ過ぎるのを待つ。
大人にとって3年間なんてすぐかもしれない。
でも、つくしには…。
今日も明日も明後日も、ずっとずーっと高校生が続くのだ。
早く卒業して早く制服を脱ぎたい。


こんなにかけ離れた世界にいると、“身の丈に合った”という意味がよく分かる。
小学校や中学校も色んな人が居たけど、友達も沢山いて楽しかったな。
…こんな風に移動も1人じゃなかったし。

ひとりは平気だ。
だけど私も誰かと喋りたい時もある。
声を出すのはどうするんだっけって、当たり前の事を忘れそうになるよ。






つくしは渡り廊下で立ち止まった。
移動の時はいつもここを通る。
遠回りになるこの通路は誰も通らないから好きだった。

なのに廊下の途中に居たのは、朝からも同じように待っていた男。


「…よぉ。」


つくしは少し前にこの学園の支配者から赤紙を貼られ
壮絶な学園生活を送る事になった。

自分を偽っていた昔より、顔を上げれる今の自分が好きだ。
…それはこいつのおかげ?かもしれない。
(絶対言いたくないけど。)

あいつが面白半分に始めた遊び。
そして終わらせたのもあいつ。
あれから私達は奇妙な関係にある。


朝言えなかったことを言うチャンスだ。


「ねぇ。」


あいつは私から話しかけられた事にビックリしていた。
一瞬、ポカンとして顔がサッと赤みがさす。


「お、おぅ。何だ?」

「今度は何がしたいの?」

「な、何って…。」

「朝も待ち伏せしてるし、嫌がらせしたいわけ?」


道明寺はハッとした後、足元に視線を下げた。


「全校生徒に追いかけさせただけじゃ足りないの?
悪かったって前に謝ったのは口だけ?」

「………。」

「そんなに貧乏人ってだけで嫌がらせしたいなら、」

「違う。」


つくしは怪訝な顔をした。
目の前にいる男が真剣な眼差しだったから。


「お前は…授業終わったらすぐに帰るだろ。
逃げるみたいに一目散によ。」

「こんな所に私が居たいと思うの?」

「…いや。」

「何を言いたいか知らないけど、張り付かれてると迷惑なの。」


もう時間だ。
授業が始まってしまう。時間にうるさい先生だ、遅れるわけにはいかない。
つくしは道明寺の側を通り過ぎた。

いきなり肩を掴まれた事に驚いてパッと振り払う。


「…あ、わりぃ。思わず…。」

「触んないで。」



道明寺が苦しそうな顔をした。
傷付いた目。



「お前と話したかったんだ。」

「何をよ。」

「あ、挨拶とかよ。」


つくしは思いっきり顔に出てたに違いない。
はぁ?という表情。


「私達って気軽に挨拶する仲じゃないでしょ。
あ。ますます私を孤立させる気!?」


言いながらも少し後ずさって距離をおく。
その様子をあいつはじっと見ていた。


「…こうなったのも全部俺のせいだよな。お前がひどい目にあったのも。
俺を避けるのも。」

「分かってるならほっといて。
貧乏人は嫌いなんでしょ。あんたの目につかない所にいるから。
これで満足?」



つくしは前を見て先を急ごうとした。
まずい、もうチャイムが…!



「そうじゃねぇ!」


足が止まった。



「…挨拶ぐらい、してもいいだろ。それもダメか?」



チャイムが鳴った。
この男は一体何なの。何なわけ?



「何でよ。」

「何でって…。」

「あんたは今まで通りエラそうにしてりゃいいじゃん。
挨拶なんてしてる所見たことないわよ。
何かの罠?油断させて…また何か私にするわけ?
まだ遊び足りないの?」



道明寺の顔色が青い。



「…俺、本当に嫌われてんだな。」

「これだけしといて好きになるやついる?
今も嫌がらせしてるくせに。」

「は?何をだよ。」



この男にはチャイムは何の音でもないんだろう。
授業に出た事ないって本当なんだ。



「授業!始まったわよ!」


本当にビックリした顔をしている。
その事に今気付いたらしい。


「…ワリぃ。」



つくしは駆け出した。
ああ、この道ももう通れない。
渡り廊下に陽が入るのが綺麗で好きだったのに。


移動教室に着いて、後方のドアに手を掛ける。
目立つ事を極力避けていたのに…ああ、もう最悪!!

静かに開けたつもりでも全員がこっちを見ていた。
つくしは一瞬目をつぶる。
先生が手招きしているのが見えた。
足を引きずるように教壇の横に歩いていく。


「5分以上の遅刻だ。やる気がないなら出なくてもいいんだぞ。」

「…すみませんでした。」

「居残って片付けを手伝いなさい。それと、」


前のドアが勢いよく開いて、教室中が静まりかえった。
教室の入口よりデカい男が頭を低くして入ってきたからだ。


「ど、道明寺くん!どうし…、」

「そいつは俺が引き留めて遅くなった。だから、牧野は悪くねぇ。」


つくしは目が真ん丸になっていた。


「そ、そういう事なら…。」

「片付けは俺がする。」


教室中が息を飲んだ。


「いや、いいんだ!今日は特に無かったから、うん。」


道明寺はつくしの横に立っている。
まさかとは思うけど…庇ってるわけ?
(そして先生のこの変わりように、こいつが学園で力を持ってるのがよく分かる。)

道明寺はつくしをチラッと見ると教室を出て行った。
席に座るように言われ、何事もなかったかのように授業が始まる。
教室中でヒソヒソ話と視線を感じたけど、つくしは授業に集中した。










…ぐー。


お腹が鳴るのを手で抑える。

今日は寝坊してお弁当を作れなかった。
失敗したぁ。
行きにパンだけでも買ってくれば良かったな。

カフェテリアは行きたくない。
ただでさえ目立つし、高いし。
ランチ代を含まれていない授業料のつくしは、一回に4000円を払わなければいけない。
一食でだよ?
(しかも女子はほとんどサラダぐらいしか食べないのに。)
何日分の食費になるか…。




…ぐー。


朝も食べてないんだよね。
さっきお水を飲んだけどお腹が膨れるわけもなし。
昼休みに敷地内回ってみようかな。
ジュースの販売機以外にもあるかもしれない。
大多数がカフェテリアに向かって行くのを眺めていた。

普通の学校なら学食で500円もあればお腹いっぱい食べれる。
パンの販売もあるし。
ママはここまで考えて無かったはず。
まさかこんなにお金がかかる学校とはね。
授業料だけじゃない。
ジャージや上靴もブランドものだし、お昼代だけで普通の学校の授業料レベルだ。

炭酸ならお腹膨れるかも。
つくしは自販機を探そうと歩き始めた。
すると前に現れたのは走ってきた様子の、またまたあいつだった。


「…ここにいたのかよ!」

「…あんたと話す気分じゃないの。消えて。」



道明寺はつくしに紙を差し出した。


「何よ。」


それは英徳の校章が入った薄いカードだった。
カフェテリアの名前が入っている。


「さっきのお詫びに…ランチ奢る。」

「いらない。」

「もう作らせてるんだ。お前が行かなきゃ捨てるだけだぞ。」




ぐっ。



「…あんたが食べりゃいいじゃん。」

「俺は食べる事はどうでもいいんだ。何食抜こうが気にしない。」

「何であんたと…、」

「お前フラフラしてるぞ。今日食ってねぇんだろ。
今日はシェフ特製ハンバーグだってよ。」




ぐっ。
ヨダレ出てきた。
肉なんて何日も食べてない。



「ほら、冷めちまう。行こうぜ!」

「ちょっと!」



手を掴まれて走り出す。
おっきな手。

大嫌いな奴。
なのに、手はあたたかくて嫌じゃない。
単なるハンバーグのせいかも。








手を繋いでいる。
すっげー小さくて、ちょっと冷たい。
つくしの隣にいる男は、顔が緩むのを抑えられなかった。









道明寺司な自分を憎んでいた。

目に入るものをめちゃめちゃにしてやりたい、ぶっ壊したい。
暴力と血の匂いだけがスッと落ち着かせてくれる。
俺はずっと暗くて冷たい水底にいた。
引きずり込めるものは何でも引きずりこんでやる。
全て道連れにしてやるよ。



なのに。

あいつだけは、したくない。
日なたが似合う女。
太陽みたいにあったかい女。

凍えさせたくないんだ。

笑う顔を見たい。
楽しそうな声を聞きたい。
側にいたい。

好きになって欲しいんだ、俺を。

 
 


ああ、胸が苦しい。







「…さっきは先生にありがとう。」


小さな声が聞こえた。
それだけで天にも昇る気持ちになる。


「あー、もう!こんなに走って馬鹿みたい。」





…笑った。
俺の横で。

シャンプーの爽やかな香り。







手をギュッと握る。
離さないようにわざとスピードを上げた。
 




暗かった世界が明るく変わる。
繋いだ手から温かさが伝わってくる。

道明寺司は恋をしていた。
この自分を、まるで虫を見るような目つきの少女に。


どうすれば許してもらえるのか。
どうすれば好きになってもらえるのか。
どうすれば側にいられるのだろう。




そうだ。

一生謝って、一生好きだと言い続ければいい。
もし。
もし、許してもらえれば…ずっと隣にいよう。


簡単な事じゃねぇか。






司はもう、冷たく暗い場所にはいなかった。
寒くない。

やっと…自分の光を見つけたのだから。







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