少し前の設定です。







「松岡さん。…松岡さん、いらっしゃいませんか?」 

「あっ、ハイ!!」


呼ばれてたのに気付くのが遅れた。
慌てて手を上げる。


「皆さん揃いましたね。その封筒の中にアンケート用紙があります。
チェックあとに提出して下さいね。」


皆が頷く。
横に座る年上の女性が話しかけてきた。


「松岡さん…だっけ。このバイト初めて?」

「あー…えっと…、」

「私今日はどこかなぁ。2回続けて同じチェーンだったんだー。」

「へぇ〜!そんな事もあるんですねー。」


集まった20人ぐらいの人達は男女や年代もバラバラ。
話を聞いていると、1人もあればチームもあるらしい。
私はどっちかなぁ。
ちょっと面白そうな仕事内容にワクワク。


「時間内にここに戻ってきてくださいね。
予算をオーバーしたら自費になります。では封筒の中を確認して下さい。
担当店が書いてあります。」




ワクワクワク。


…へっ?


紙を持つ手がプルプルと震えた。
紙を折りたたんでまた開く。(冷静になれば内容が変わるワケない。)



…なに?


これって何かの呪い?


あんぐりと口が開いたまま。
チラッと覗き見てきた隣の女性が羨ましそうな声を出す。


「うわぁ、いいなぁ!かわりたーい!」



いやいやいや。
なら、かわってくれよ。



こんなこと…ある??












ごきゅ。


東京でも…いや、日本でもトップだと謳われる超一流ホテル。
世界ランクでも最高級。




こんなの、あり?
まさかのここ?




憧れのホテル、常にNo.1。
口を開けたまま、その姿を見上げていた。



たっけー……。

最上階まで見えないよ。


最高級ホテルには世界中から選ばれた客がやってくる。
(一泊いくらだと思う?)
そして次々に車寄せに入ってくる高級車たち。
名前も知らないけど空を飛びそうなやつとか、変身しそうなやつとか。



ふぉっっ!リムジン!!

黒塗りの車に挟まれて、ピカピカのリムジンが入ってきた。

思わず封筒で顔を隠す。


いやいやいや。
いくら何でもね…。

リムジンぐらいいくらでもいるわよね。(いや、ないか?)



近付くのに二の足を踏んでいると、前にいた3人が振り向いた。


「ほら、松岡さん行こう。」

「1時間半後には戻らなきゃ。」


肩をポンと叩かれ、中へと促される。


「気持ちわかるー。こんなホテル初めてなんでしょ?
どこから出てきたんだっけ。」

「緊張しなくても大丈夫!私たまに来るんだ。
いいホテルだよ?」

「へ?あの…ハハハ…そうですね…。」


前を向くと、入口にいた警備の方達がハッとなったのが分かった。


ひぃ!


そして皆が笑顔。

近寄ってきたのをストップ!とジェスチャーをし、一緒に入って来た人達に目線を送った。
さすが超一流の人達だ。
察してそれ以上は近付いてこない。

ただ、お辞儀が〜!
最敬礼はやめてー!



小さくため息をつき、豪奢な建物へと足を踏み入れた。


いつ見てもなんて豪華なロビー……


「松岡さん?」

「あっ!はい!行きます行きます!」


エントランスを俯きがちに歩く。
顔の横には封筒。


足音に振り返ると、そこにはコンシェルジュを従えた支配人さんの姿があった。


ひぃ!


素晴らしい笑顔で近付いてくる。

だけどまたジェスチャーでストップ!とお願いして、頭をペコリと下げた。
支配人さんもコンシェルジュさんも、ああ!という表情になり
最敬礼をして…やーめーてー!


「…何だか色んな人たちから見られてる気がするね。」

「あ、思ったー!流石だよね。
皆走ってきて挨拶しに来てるし。」

「もしかして…私達が何だか分かってるのかなぁ?」


3人のお喋りに冷や汗をかきながら、エレベーターへと向かう。




突然上がった悲鳴に、飛び上がるほど驚いた。


「な、な、な、なにっ!?」

「道明寺司よ!」




ブーッッッ!!

飲み物があったら噴水になってたに違いない。
(虹まで見えたはず。)



あのリムジン…


封筒で顔を隠しながらも…チラリ。



薄目でその方向を見た。




いた!!




黒いスーツに囲まれて、指示をしながら長い足で颯爽と歩いている。


「本物だ!きゃあ!」
「カッコイイ!!」



マジだ。
マジでいるー!





封筒に隠れてチラリ。



おー……、仕事してる。(当たり前か、)
私の前にいる時と、仕事してる時の顔って本当違うなぁ。
全く笑わないんだよね。
無表情で、冷たそう。
そしてめっちゃ仕事出来るって感じ。
…あ、内ポケットからペンだした。
サインする姿好きなんだよね、何気に。
手が綺麗だし、指長いし。
何であんなに色っぽいかね?

書類を閉じて誰かに渡す。
受け取ったのは女性。
明らかに視界に入りたがってる感じの…
だけど、あの表情にすごすごと引き下がった。
凍りつくような冷たい視線。
あーあーあー。
周りの空気、マイナスまで温度下がったな〜ありゃ。




「きゃあ!こっち見た!!」



へ?


ぶふっ!



綺麗な顔が訝しげにこちらを見ていた。



げっ!



黒いスーツの一団が全員こっちを見て…
うぎゃあ!

慌てて回れ右をした。
未だきゃあきゃあ言う連れの人達を追い越し、エレベーターまで早歩きする。



しゃしゃしゃしゃしゃ


音が聞こえるぐらいの早歩きでエレベーターに飛び乗った。



ふぅふぅふぅ。



あー。
焦った。



もー、さっさと終わらせて帰ろう。

エレベーターはグングンと上昇していく。
目的の階につくと、早速今日の任務に取り掛かった。







「あー、松岡さん。いたいた!」

「あ。どうも。」

「急に居なくなったからビックリしちゃった。」

「ちょっとトイレに…。あ、呼ばれましたよ!」


20代〜40代の女性4人組が名前を呼ばれ、テーブルについた。


「何にします?」

「ステーキランチ美味しそう…だけど予算オーバーするわね、これは。」

「私はケーキセット。」


予算内で収めたいけど、ちゃんと食べたい。
ランチたっかいなー。
パワーサラダって、結局サラダはサラダじゃない?
ランチが予算内だし、やっぱりこれかな。
本当はステーキランチ食べたかった…。


「私は日替わりランチにします。」


メニュー選びにはいつでも全力投球よ!
注文すると、他愛のない話をしながら3人はゆっくりと視線を走らせていた。


…あ、そうだったよ。
ただ食べに来たんじゃないんだ。


えっと、スタッフの身だしなみ、私語、目配り…
店内の清掃っと。
後は…


運ばれてきたスープを見て、笑顔になった瞬間
入口から入ってきた人物に気が付いた。


「…は?」


総支配人の後から入ってきたのは…


今度こそ、水を吹いた。
慌ててナプキンで口元を押さえる。




空いていた少し離れたテーブル席に、道明寺司が座った。
4つある席のうち、一番私と目が合う席だ。


私は開き過ぎて、目が落っこちそうになっているに違いない。


美貌の男は長い脚を優雅に組み、メニューをゆったりと開いて
指を唇に当てて考え込むような仕草をしている。
座るだけで撮影のように見える男。
レストラン中がため息をついていた。
テーブルの人達もうっとりとし、皆あっち側を見ている。


「皆さん時間!集合時間がありますよ!」

「あ、そうだった!」

「えーと、頼んだ品が出てくる時間は…しまった。覚えてないよ。」


4人とも周りをキョロキョロしながらも、どうにか食べ終え
席を立つ。


意識しないように側を通り過ぎる。


「松岡さん、封筒封筒!」

「あ、すみません!」


視界に入った美貌の男の、片眉が微かに上がった。








…何て疲れるランチだったんだ。

ご飯食べられてもこれじゃあ…



集合場所に向かい、その場でアンケートを書いて提出した。
お金の入った封筒を貰いビルを出る。







…ほら、やっぱりね。





ホテルの入口で見たリムジンがビルの横に停まっている。

目をぐるりと回し近付くとドアが開いた。
するりと中に滑り込むと…いつものコロンがつくしを出迎える。




怖いぐらい綺麗な男が微笑んだ。


「……で?何だったんだ?」


ふぅ、とつくしはため息を一つ。


「もぉ!知らんぷりしといてよ。ヒヤヒヤしたじゃない。」

「お前が何も言わずにメープルにいるからだろうが。」


つくしが頬を膨らませると、長い指が頬を軽く擦った。


「おい、タヌキ。」


膝をべしっと叩くとゲラゲラ笑ってる。


笑ったら可愛い、なんて。
誰にも教えてやらない。


「優紀の代役。急に扁桃腺腫れたらしくてさ。」

「代役?」

「そうそう。前に私も団子屋で何回も代わって貰ったからさー。
このバイト初めてだったから緊張したのに、まさかのメープル!」

「覆面調査だろ?」


つくしがビックリして叫んだ。


「何で分かったの!?そうそう、ミステリーショッパー!」

「お前ら、キョロキョロし過ぎなんだよ。素人過ぎてすぐ分かる。
お前は食べ物しか見てねぇから一人だったらバレないかもな。」

「ふん。どうせ目的を忘れて食べてましたよ。」


華やかな笑い声。




あんたの笑い声、大好きなんだ。
膨れる真似をしていても本気じゃないってお互い分かってる。



あんたは私にだけ、甘い。

くすぐったくなるんだ。
大事にされてる。
私は特別なんだって。


引き寄せられた逞しい肩に寄りかかる。
見上げながら顔に手を伸ばした。



頬を触る。




…キス、したいな。




道明寺が微笑んだ。




ゆっくりと美しい顔が近付いて…
ゾクゾクするぐらい、優しいキス。






「…調査だろ?なら次は俺を調べてくれよ。」

「ええ?何をよ。」



耳元で囁いた。
みるみるつくしの頭皮まで真っ赤になっていく。


「こんの、エロガッパ!!」

「いてっ!叩くな!」



楽しそうに笑う男。







司は深くキスしながら柔らかな頬をゆっくりと撫でた。

今日は思いがけないサプライズを貰った気分だな。
この調査員なら大歓迎。
あんな小さい封筒で顔を隠したってすぐ分かる。
俺の細胞が、意識が、いつもお前を探してるからな。

はもはも食う姿に頭痛も忘れた。



執務室じゃなくてもいい。
言った通り、俺の身体を隅々まで調べて貰おうか。

ああ、楽しみだ。










前回と続きメープルでバッタリ。
男女シリーズならどうなるかな?と思って描いてみました。


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