朝からちょっと、ん?って感じてた。
いつもと違うような…


「つくし、パン焼けたわよ〜!」

「はーい!」


でも…大丈夫。
昨日はバイト忙しかったからかな、そう思った。


薄い食パンに、薄くバターを塗って…と。


「また10枚切り〜!?もっと厚切りにしてくれよ。
4枚とか5枚をうちで見たことない。」

「進、何言ってるの。10枚切りなら2日は食べれるのよ。
4枚なら一日で終わっちゃうでしょ?」

「サンドイッチにおすすめって書いてるじゃん。
薄すぎるよ、これ。」

「よ〜く噛めばお腹いっぱいになるわよ。
あ!パパ!バターつけすぎ!」

「こんな薄いの、すぐお腹減っちゃうよ。
なぁ、ねーちゃん?」


いつもなら全然足りない、10枚切りの食パン。


「…へ?ああ、でも薄いパンも美味しいよ。
ほら進。
ハムマヨトーストしたげるから。」


つくしは椅子から立ち上がり、食パンにバターを塗ると冷蔵庫からハムを取り出し
ママの目を盗んで薄いハムを2枚乗せた。
進が気付き感謝の視線を送る。
そしてマヨネーズで、にこちゃんマークをかいた。
トースターに入れるとまた座る。


「焦げないように見ててよ。」

「サンキュ。」


ハムとコーンスープ、昨日の残り物のあるテーブル。
いつもなら朝から煮物もいけるのに。

つくしはカップスープをゆっくりと飲んだ。


「このコーンスープ、うっすっ!!
また1つを4人で分けたのかよ!」

「あら、ほほほ。パン焼けたわよ〜。あら?これハムが2枚!?」

「い、いっただっきまーす!!」


いつもの朝の風景。
つくしは時計を見ながらご馳走さまと伝えた。









学校にはいつもより20分も遅く着いた。
何だか身体が重い…


「遅刻じゃないけど一眠りする時間はないなぁ…。」


ゆっくり歩いていると、下駄箱の近くには長身のシルエット。
誰かは分かっている。



つくしが近づくとホッとした顔になった。


「お、遅かったな。」


言った後に、しまったって顔。
口元を手で覆う。
“待ってない、偶然ここにいるだけ” そんな嘘がバレてしまった、みたいに。



「…ああ、うん。ちょっとね。おはよ。」


つくしから挨拶をされた驚きで、王様は呆然と立ち尽くしている。


「あ、ああ。」


目を見開いた男の横を通り過ぎ、つくしは身体を引きずるように教室へと向かった。









つくしはいつもと違う事にもう知らないフリは出来なかった。

息があがるし、フラフラする。
絶えずゾクゾクと悪寒がしてたら、今度は軽くムカムカしてきた。
とにかく横になりたい。


お昼まで我慢すればなんとかなる?
食べずにお昼休みはどこかで横になって、それから帰るまでは3時間ぐらい?


ああ、横になりたい。


1時間目が終わってもよくならず、授業が全く頭に入ってこない。
3時間目の前につくしは保健室へ向かった。





ノックして入ると、先生が白衣を脱いでいた。


「あら、顔が真っ青ね。」

「具合が悪くて…休んでていいですか?」

「熱は?ちょっと測りましょう。」


ベッドに腰掛け、体温計を受け取った。


ピピピ…、


「…37'8度。おうちの人に電話して迎えにきてもらう?」


家には誰もいない。
タクシー代も持っていないし。
バスに揺られたり、歩くのを考えただけで悪寒が酷くなる。


「あの…ちょっと休んでから帰ってもいいですか?」

「いいけど、先生今から中等部の会議に行かなきゃでね。
2時間近く帰ってこれないのよ。」

「1人でもいいので。」

「大丈夫?」

「はい。」


つくしはとにかく横になりたかった。


「じゃあ…担任の先生には私から伝えておくわ。
表に不在の札も出しとくから。
良くなったら授業に出るか、帰る時は担任の先生に連絡してね。」

「はい、ありがとうございます。」


ベッドに倒れ込み、布団をかぶった。
ようやく心の底からホッとする。


冷たいシーツ。
馴染みない匂い。

バタバタと先生が用意する音を聞きながら、いつの間にか眠りに落ちていた。







「体育、だったよな。」


司は体育館の入口にいた。

会いたいわけじゃねぇ。
あの女が今も生意気なら、一言いってやんねぇとな。

おはよう、じゃなくておはようございますだろ。
俺は一つ上の先輩なんだからよ。

そうだろ?


いや、まてよ。
言ったらもう挨拶してくんねぇかも…


俺は心が広い男だからな。
イチイチ言わなくてもいい。

だな。



司はおかっぱ頭を探した。



…いねぇ。


ヒョロっとしたズンドーの痩せた女だから見間違うわけねぇよな。


間違いなくあいつのクラスだ。



司は自分を見て騒ぐ女達に聞くわけもいかず、教師の姿を探した。
バレーボールをしている中をズカズカと入っていく。


「おい。」

「ど、道明寺くん!」


キャーキャー騒ぐ声にかき消される前に、担任に向かって聞いた。


「あいつは?」

「あいつ?」

「牧野だよ!」

「ああ、牧野くんなら保健室だ。」


司が眉を潜めた。


「保健室!?」

「朝から体調が悪かったみたいで、って、道明寺くん?」


司は教師の言葉が耳に入らず、体育館の出口に向かって歩き出した。




保健室だと?

あいつ…今日体調悪かったのか?
だから、朝遅かったのかもしれねぇ。


苦しそうな表情が目に浮かぶ。

司は走り出していた。







「くそっ!どこだよ!?」


保健室なんざ行った事ねぇ。

場所が分からずあちこち走り回っていると、ようやく教師がいて聞く事が出来た。

他の学校だとどうかわからねぇが、英徳ではほとんど利用者がいないはずだ。
無理して来る学生は少ないし、体調が悪くなったとしても
すぐに迎えの車がくるからだ。

あいつには迎えが来るはずない。
だからここにいるんだ。


保健室のドアの前に立ち尽くす。
“不在。用事がある方は職員室まで。”とある。


誰もいないってことか?

…じゃあ、あいつ帰ったのか?



鍵は空いている。


司はゆっくりとドアを開けた。



…初めて入るな。
病院みたいな匂いはしないが、無機質さはある。
ベッドが2つ。
一つにはカーテンがかかってあった。


「…帰ったか。」


ベッドのカーテンに手をやった時…
真っ白な中に黒髪が見えた。

思わず飛び上がりそうになる。


「わ、わりぃ。居ると思わなくてよ。」


つくしからの鋭い言葉を身構えたが、何もない。
そっと…隙間から覗きみた。



横を向いたまま、ぐっすりと眠っている。



長いまつげが微かに震えている。

目を閉じていると…あの印象的な瞳が見えない事が残念だった。



はじめて。
はじめて、寝顔をみた。



「…やべ。めちゃ可愛い…。」



なんて、思ってる場合じゃねぇよな。

いつもより顔色が悪い。
朝から気付かなかった自分に腹が立つ。




保健室の教師はクビだ。
病人がいるのに何で居ないんだよ。
こいつ一人にしていていいのかよ!?

俺だったからいいものの、他の男があの寝顔を見たら…。



司は怒りで手が震えた。


そのへんにあったものを蹴飛ばしかけ…微かな声が聞こえてやめた。



起こしたか?


カーテンをそっと開けると、寝返りをうっただけみたいだった。


危ねえ…
俺が起こしてどうするんだよ。


出て行きたくないが…
ここにいると起こしちまう。



「…なぁ。俺、外にいるからな。
何かあったら呼べよ。」


司は渋々と、保健室を出た。
ずっとカーテンのかかったベッドを見つめながら。





それから1時間半。

保健室に来た人や、近くの教室に用があった人は
飛び上がって驚くのを(どうにか)こらえた。

学園イチの有名人
道明寺財閥の御曹司が、保健室のドアに持たれかかったまま
意地でも動かないからだ。


誰も入れず、誰も前を通れない。
常に威嚇するように睨みつけている。


一体、何故ここにいるのか。

一体、何を守っているのか。



それは、養護教諭が戻って来るまで続いた。



「ど、道明寺くん?ここで一体何を、」


言葉を無くした教師を、司は睨みつけた。


「病人がいるんだぞ!離れんじゃねぇよ!!」


そう小声で言いながら指をさし、保健室を振り返りながら去っていった。
名残惜しそうに。





司は正門が見える位置にずっといた。
まだ授業中だが、女子生徒が一人ゆっくりと正門に向かって歩いていく。

その横には、あいつを守る女がひとり。
自宅から車を呼び寄せていた。


黒塗りの車に乗り込むのを見て司はホッと息を吐いた。



“牧野つくしが保健室にいる”
そう、一年のクラスまで伝言させたのは自分だ。


早く…その事を実行にうつさなかったのは
ドアを隔てて向こうにあいつがいたからだ。


守っていられる。
それが嬉しかった。





…明日は来るだろうか。




司はじっと車が去っていくのを見つめていた。





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