世の中の流れやイベントは、自分には関係ないと思ってた。

海外では半年も前からクリスマスの準備を始めるし
新年やバレンタインも盛り上がる。


だから何だ。


記念日や祝日ほど朝から晩まで仕事をした。



考えないように。
思い出さないように。


あいつが今、誰といるか何て。



真っ黒になる。真っ黒になる。真っ黒になる。

俺の心に光はない。









「マンションを贈るのはどうだ?」


有能で有名な秘書が、ピタリと書き込む手を止めた。


「…マンション、ですか?」

「あいつの暮らしてるマンションだよ。あ、部屋じゃねぇぞ。
丸ごとだ。」


丸の内にそびえ立つ、道明寺ホールディングス日本支社ビルの最上階。

豪華で広い執務室の中で、まるでいつも映画の撮影中のような美男が
ゆっくりとコーヒーを飲んでいた。


「プレゼント、という事でしょうか?」

「ああ。あのマンションは買い取ったし、ちょうどいいだろ?
あいつ気に入ってるみたいだからな。」

「コホ、あの方は…お喜びになるより、恐縮されると…。」


美しい男が眉を潜めた。


「マンションより他のがいいか?」

「そうですね。」

「じゃあ…、クルーザーは?」

「クルーザー…ですか?」

「イカ釣り好きだろ。魚が釣れたら食費浮くって喜ぶぞ。
…あー、くそ。船は危ねえか。」


ブツブツと呟いている。
しかも嬉しそうに。
西田は頭の中をフル回転した。


「プレゼントは何のプレゼントですか?」


アレしか思い浮かばないが…何も貰ってないはずだ。
交際を再び初めてから2週間の記念日♥
とかなのか?
ベッドを壊した記念…
いや、記念日ですらないのかも。
可愛くてたまらなくなって、メーターが振り切ったのかもしれない。
(10代の時から振り切っているようなものだが。)


「お前、大丈夫か?」

「は?」

「ホワイトデーに決まってるだろ。」


有能な秘書はたっぷり2分は黙っていた。


「牧野様からチョコは頂きましたか?申し訳ありません。
少し記憶が抜けてまして…。」


ノックの音が聞こえ、美しい男が入れ と声をかけた。
全身を磨きあげた美女が微笑みを浮かべて入ってくる。


「失礼致します。カップをお下げ…」


司は椅子を回して、秘書を視界から外した。


「司様、おかわりはいかがでしょう?」 


香水の匂いにウンザリして手を払うように振った。


「ほら、貰っただろ。あいつの会社のエレベーターの中で。」





西田は扉が閉まる音が聞こえてから、上司に向かい
聞いた。


「あれ、でございますか?」

「チョコはチョコだろ。」


西田が顔を背けた。


「…えー、そうですね。尚更、牧野様は恐縮されるかと。
もっと簡単なものはいかがでしょう?」

「簡単だと!?あいつに簡単なものなんかやれるかよ!」

「…コホ。言葉が足りませんでした。
気軽な、という意味です。」


司は訝しげな表情をしていたが、やがて渋々と頷いた。







ホワイトデーなんざ、浮かれたイベント。 

昔からイベントは大嫌いだ。
プレゼントにパーティー。


楽しそうな奴らを見て、心底ウンザリしていた。







そして羨ましかったんだ。


ここに…俺の牧野がいたら…。







ホワイトデーだとよ。  








ああ、心踊る。
 

なぁ牧野。

ホワイトデーって楽しいな。







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