つくしは豪奢なビルを見上げた。

横にいた社長があまりに巨大で豪華なビルに圧倒されているのがわかる。
周りを見渡せば営業部長や、長年一緒に働いていた営業の先輩まで
微かに青ざめていた。


「一番いいスーツで良かった…!」


そう呟く先輩に皆が頷き、つくしも自分の服装をチェックする。
いつもの事務の制服だが今日は珍しくスカートだ。
タイツではなく、肌色のストッキングに低いヒールの黒パンプス。
いかにも、THE・事務員。
秘書でもないのに何故この場に呼ばれたのか…。

社長から同行を言われたのだから、まぁ考える余地もない。
仕事だ。



「契約書の不備はないだろうね。」

「大丈夫です!
事務所全員で裏まで見ましたし、予備も10枚持ってきています。」

「桁が桁だからな、念には念を入れなければ。」

「この契約が取れたら、名刺を全員作り替えるぞ!
裏の取引企業のトップに道明寺ホールディングスだ。」


男性陣は入る前から盛り上がっている。

 
「ハクがつきますね!」

「道明寺ホールディングス…。超一流企業ですよ!
凄いなぁ…。」


男性陣はビルを見ながらうっとりしている。
つくしは咳をひとつ。


「さぁ皆様、行きましょう。」

「おっと、そうだな。」

「気合いは円陣でばっちりだ。」


そうなのだ。
会社ではその場にいた全員で円陣を組み、盛大な見送りを受けた。
契約書をかわされたら、多分戻ってきたら花吹雪だろう。
(だるまに目を入れるとかもしそうな勢い。)

うちの小さな会社はこの契約書に命運がかかっている。
正面の回転ドアを抜け、受付へと向かった。



ロビーのソファ席は埋まっていて、つくし達一行は立ったまま担当者を待っていた。

沢山の人が行き交い、皆が超エリートに見える。
英語や中国語が飛び交う豪華なロビーで、つくし達一行は圧倒されていた。


「牧野さん、さっきの何語だと思うかね?」

「見た目から言うとロシア語…?」

「はー。ここは本当にグローバルだねぇ。」

「牧野くんは英語出来たよね。」

「まぁ少しは…。」

「俺は方言には強いんだけど。」


皆で笑った。
しばらくすると担当者と思しき30代ぐらいの男性が
キョロキョロと見渡した後…
うちの担当営業を見つけて笑顔を見せた。
挨拶をしたあと、エレベーターで移動する。


「綺麗なビルですねぇ。」

「ありがとうございます。」

「警備の数が凄いですね。何かあるんですか?」

「いえ、うちではこれが普通なんですよ。
…でもいつもより多かったかな。」


低層階でエレベーターが開く。
中も凄い。
ドラマの撮影みたいに綺麗なオフィスだ。

契約書を交わす会議室へ案内されていると、社長が
胸ポケットをしきりに触っているのがつくしの目に留まった。



忘れ物?

…あ!
社長の幸運の万年筆!!社用車で出してたはず…


つくしは会議室に入っていく担当営業に、耳打ちし
回れ右をして一人エレベーターへと戻った。
エレベーターへと戻ると、いつの間にか側にいた
黒いスーツのSP達がエレベーターボタンを押した。


「牧野様、何か下に御用ですか?」

「社長の万年筆を車に忘れてしまって。」

「畏まりました。」


つくしはなるべく早足で取りに行き、後部座席にあった古い万年筆を手に取った。


良かったー!
これがないと、社長の眉が段々下がっていくのよね。


ビルに再び入り、エレベーターへ向かう時セキュリティゲートに気付く。
受付でまた担当を呼ぶのは…

その時、あっと思い出し財布の中に入れてある一枚のカードを取り出した。
キラキラと輝くプラチナ色。
ゲートを突破し、役員専用エレベーターへ向かうと
その役員専用カードを使いエレベーターを動かした。






「あ、良かった。」


会議室は外からも見えるクリアな壁で、つくしはすぐに分かった。
ノックをし、中に入ると一斉に皆がつくしを見る。


「申し訳ありません、遅くなりました。」

「おお、牧野さん。待っていたよ。」


つくしが社長の後ろに周りそっと万年筆を渡すと
明らかにホッとした顔をした。
先程の営業担当と、もう二人上司(と思う)が増えている。


「外に一度出られたとか。中に入る時困られたでしょう。」

「あっ、大丈夫です。カードを持っているので。」

「え?」


道明寺ホールディングスの人達はつくしの手にある
プラチナカードをまじまじと見つめている。




社長が咳をした。


「では、そろそろ始めましょうか。」


つくしは自社側の末席に座った。
お互いの会社で紹介をし、つくしも名刺を渡す。
道明寺ホールディングスの人達は皆、仕事出来ます!って感じ。
そうだろうなぁ。
(いや、うちの会社も皆できる人ばっかりよ。)


見通しのいいフロア。
クリアになっている上の部分から、沢山の人が働いているのが見えた。

ここは12階だっけ。
それでも高い。



最上階にいるあいつは何者?



今後の話が進む中、つくしは会議室の外に異変が起きたのが分かった。
ザワつき、皆が立ち上がっていく。


なに、なに、なに?



遠くから背の高い男が見えた。






つくしは瞬間、斜めに座る担当営業の首から下げているIDカードに集中した。

ふんふん。
正志って顔だよね。
なんとなく。
A型だ!箸置きを使うタイプでしょ。



他の用事よね。
この階にも色んな部門が入ってるって言ってたし。
背の高い人も沢山いるはず。




いきなり道明寺ホールディングス側の社員達が驚いた顔をした。
一斉にガタガタと立ち上がる。



…やっぱりか。






「失礼します。」


有能で優秀な秘書の声。


「急に申し訳ありません。副社長が御社にご挨拶したいとの事で…。」



ゆっくりと入ってきた美貌の男。


一瞬つくしを見て、ニヤッと笑った。


社長を始め、営業部長や先輩も口を開けながら慌てて立ち上がっていく。
つくしもしぶしぶと立ち上がった。

一人ずつ挨拶していく道明寺は、圧倒されるほど経営者だった。
堂々としていて自信に満ち溢れている。


ダークスーツに、あのネクタイ。
良かったぁ。
やっぱり高いのは違うね、しっくりきてるよ。
一安心。

あいつ…まさかの髪まで切ってる?
浮かれ過ぎでしょ!?


つくしは名刺入れを出さずに皆と合わせて着席した。
道明寺の片眉が上がる。


「契約に同席しても?」

「もちろんです!」


誰がだめって言うだろう。
両社の間の誕生日席に(誕生日席って言わない?)道明寺が座った。
斜め後ろに西田さんが立つ。


雑談していると、珈琲が運ばれてきた。
明らかに上等なカップ。
さっき社用車まで戻ったからか、つくしは喉がカラカラだった。
ミルクと砂糖を入れゆっくりとかき混ぜる。



ふいにミルクがもう一つ横に置かれた。


「あ、ありがとうござ…」


ギョッとする。
西田さんだった。


「副社長が砂糖もご入用かと。」

「いえ、だ、大丈夫です!」


ミルクを足してぐるぐるかき混ぜる。
珈琲ではなくミルクティーみたいな色になっていた。
つくしは甘くしないと珈琲は飲めない。
それを分かっている男からだった。


あっつ!!
軽く目を瞑る。


ゆっくりと目を開けると、可笑しそうに笑う男が目に入った。


室内は静まり返っている。




優秀な秘書が咳をし、皆がハッとなった。

ようやく契約書の内容に入り、お互いが読み込む。
うちは社長が来てるけど、大会社はトップの印待ちも多いと聞く。

だけどここには道明寺が来ている。
契約書は道明寺に渡された。



鋭い目付きで内容を読むと、胸ポケットから万年筆を取り出し…
サインをした。
そして秘書が印を渡し、押印された。


取引成立の握手があり、うちの社長は目が潤んでいる。
つくしも立ち上がってパチパチと思わず拍手をした。

海老天蕎麦に、天ぷら盛り合わせコース!!
だし巻き卵も付ける!!





「そろそろお昼ですが、皆様この後ご予定でも?」

「いえ。帰社するだけです。」


えっ!
お昼出るの?
ラッキー!一食浮く♫


「別室にお昼をご用意致しました。皆様どうぞ。」


優秀な秘書の声に浮き立つ先輩たち。
担当者と、これからよろしくと挨拶しながら席を立つ。
皆ちらちらと御曹司を見ている。
(道明寺ホールディングスの社員まで)
見とれている、が正しいかもね。

ぞろぞろと出ていく流れにつくしも入ろうとしたが…




「牧野さん。」

「はい?」


いつの間にか横にあいつがいた。


「まだ名刺を頂いてませんが。」

「は?いえ、あ、すみません。」


長年愛用している名刺入れを開けると、残り一枚だった。
目で訴える。

が、あいつが手を伸ばす。

しぶしぶと差し出しながらも指に力を入れた。


「…離してくれないと貰えません。」

「離してます。」

「…おい。」

「最後の一枚なんだってば!」


名刺を取り合う姿は、クリアな壁で周りから丸見えだった。
皆がポカンと見つめる中で
社長が、高校の先輩後輩らしいですよとフォローし続けていた。







秘書の案内で昼食会場へ移動する。

昼食って何?
お弁当かな。
蕎麦じゃないよね?




腕を引かれた。


「へ?」


柱の影にはあいつ。
喋るな、のジェスチャー。


「ちょっと、なに?」

「お前はこっちだ。」

「え?これからご飯に、」


道明寺に腕を掴まれたまま、側にあった一般用エレベーターに乗り込んだ。











皆さん、いいお昼ごはんを♫

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