「ねぇねぇ!ちょっと聞いた!?」
「何かあったの?」
「副社長が12階に降臨!」
「えっ?嘘!?」
「それが本当なの!新しい取引先に挨拶に来たらしいんだけど
フロア中が神々しさに失神寸前だったって。」
「分かる〜!
私もお会いできたら間抜けな顔して眺めてると思う!」
「あんな綺麗な人が側にいたら、むしろ逃亡したくなるわよね。」 
「目が潰れるっちゅーの!」
「普段は警護の人達が取り囲んでるし、副社長を見れることなんて…」




シュッ。
エレベーターが開いた。



女達3人は口をポカンと開け、エレベーターの中を凝視したまま。
185センチの長身を見上げながら、女達は瞬きを繰り返す。


「次に乗ってくれ。」


エレベーターが目の前で閉まった後も口があいていた。


「いま、ままま。」
「いたよね、いたよね。」
「…すご。近くで見ると圧倒的だわ。」
「一人で一般エレベーターに?」
「誰か他にいたの?存在感なかったけど。」


ぐんぐんと、またエレベーターは上昇していく。






…いました。

存在感なくて悪かったわね。
(なんか言われた気がしたの。)


大きな身体で隠されるように立っている私。
道明寺の左手はずっと後ろに回されているの。
私と手を繋いだままだから。


「ねぇ、手を離してよ。」

「やだね。」

「誰か乗ってくるわよ。」

「俺がいれば乗るわけねぇ。」


まぁ…そうかも。
すでに6回は停まったけど、皆ポカンと口を開けたままだった。
そんなに格好いいか?と思うけど。(ムカつくから)



ちら。

手を握ったまま離さない隣の男を見上げた。



確かに綺麗な顔してるもんね。
スーツだと近寄りがたさが更にアップ。
仕事出来ますって感じ。



唇が微かに上がった。

あ、ニヤニヤしてる。



「この顔好きか?」


つくしを見下ろしながら、くっくっと笑う。


「まぁ…、嫌いではない。」

「へぇ。」

「どちらかといえば…、」

「どちらかといえば?」

「ったく。散々褒められてるでしょーが。」

「お前が好きかどうかだ。」



なに、その顔。


「はいはい、好きですよ。」


綺麗な顔が近付いてきた。
ここ、会社だから!
ここ、エレベーターですから!
って言いたいけど、言えなくて。



甘い甘いキスを受けた。



「…お前、可愛すぎ。」

「う。」


不意打ちの言葉に顔が赤くなる。


「その上目遣い、ぜってーワザとだろ。」


あいつがもう一度キスしようと屈んだ時、エレベーターが音を立てた。






優秀で有能な秘書は、扉が開いた時
瞬時に何が起きたかわかった。
(いや、見なくても間違いないが。)

牧野様が素晴らしいスピードで司様から離れた。
まだ繋いだままの手に気付き、パッと振り払う。
そして慌てたようにエレベーターを出ていった。

一人残された司様は…
じっと手を見つめ、渋々とエレベーターを出てくる。


「残念、舌を入れる所だったのに。」


優秀な秘書は顔色を変えなかった。
そして色んな事にいち早く気付く。
自らの唇を指差したあと、ハンカチを差し出した。
美貌の御曹司はハンカチを断り、綺麗な長い指で唇を拭う。
なんと色気のある仕草だろうか。
高い天井の長い廊下を歩くと、大きな扉の前に事務員の制服が見えた。


「……やっべぇ。制服すっげー可愛い。」

「司様、心の声が漏れています。」

「スカートたまんねぇ…。」


西田は小さくため息をついて、前方を見た。
豪華な執務室の扉の前には小柄な黒髪の女性。
明らかな事務員姿だ。
地味で飾り気もなく、ヒールで女らしさを出す訳でもない。
目を引くのは艷やかで真っ直ぐな黒髪と、揺るぎない大きな瞳。

この(どちらかといえば、ただただ普通の)女性に
司様は惚れ抜いている。
飾り気のない地味な事務員の制服にも、欲情されるらしい。

蜜に群がる蝶のように、沢山の華やかな美女が司様の周りには集まる。
だがそんな女性達には見向きもしない。
(身体の反応もしないようだ。)

司様の執心は昔からただ、ただ一人に向けられる。
今の、眉を潜めて睨む姿も司様には堪らないんだろう。

人の趣味はそれぞれだと言うことだ。






「入っとけば良かったのに。」

「会社の機密とかあるし、黙って入れないわよ。」

「お前はフリーパス持ってるだろ。」

「は?何の?」

「俺。」


牧野様を先に入れ、ご機嫌な司様が扉を閉めた。
やれやれ。
西田は時計を確認した。
スケジュールを駆使して勝ち取った42分。
司様がお昼を食べて下さるといいのだが。









相変わらず凄い部屋だった。

ひろ!
天井たっか!
全部高級!!

私がいると違和感ありありだけど、ほら。
この男だと 当然感があるんだよ。


「昼飯そっちだぞ。」

「どこ?あ、いい匂いが…」


つくしはソファに急いだ。
その後を司が続く。
肌色のストッキングを履いている真っ直ぐで細い足。
傷跡が見えた。


豪華な革張りのソファの前には、テーブル上に大きなお重がある。
そしてお椀とお水が2つずつ。


「ひょほー!」

「おい、興奮して変な声出てるぞ。」


笑いながら司も向かいに座った。
あれ?
てっきり隣に座るかと… まぁいい。お昼ごはんだ!
蓋を開けると…


つくしの顔が輝いた。
司が爆笑する。

それは豪華というしかない美しいお弁当だった。
飾り切りや盛り付けも美しい。
お椀は…


「蕎麦だ!!」

「おい、お前泣きそうになってるぞ。」

「駄目だ、あー涙出てきた。」

「ったく。俺を見てそのぐらい嬉しがれよ。」

「無理。いっただきまーす!!」


司からおしぼりを渡されて速攻手を拭いた。
まずは蕎麦をひとくち。




あー………ただ、ただ、幸せです。


「まいうー。」

「は?」

「いいの、忘れて。」


美味しそうに食べる姿に、ただ目が惹きつけられる。


「うっわ、このだし巻き卵凄いね!じゅわっと旨味が広がるわ。」

「良かったな。」

「うん!はー、こんなお昼ごはんを食べれるな
んて。どこの?」


道明寺がテーブル上の内線ボタンを押した。


「ちょ、そこまでは…」

「これはどこのだ?」

『メープルの賀茂川より取り寄せました。
そちらはオーダーですが牧野様の会社の皆様は
新緑というお重を召し上がっておられます。』


道明寺が内線を切った。


「だってよ。」

「あ、ありがと。」


むぐむぐ。
オーダー…
超一流ホテルのオーダー…よく味わおう。


「美味しいねぇ。」

「ああ、美味いな。」


珍しい。
西田さんから昼ごはんは滅多に食べないって聞いてるのに。


「温かいお出汁っていいよね。」

「ああ。」


ん?


「…あんた、どこ見てんの?」

「お前のスカートの中。」

「はぁ!?」

「めちゃ美味く感じる。」


つくしが真っ赤な顔して立ち上がった。


「ば、ば、ばっかじゃないの!?この変態!!」

「見えそうで見えねぇ。もっと深く座れよ。
テーブルにかぶりつくな。」

「そういう問題じゃなーい!!だから目の前に座ったのね!」


真っ赤な顔して叫ぶつくしと、ゲラゲラ笑う道明寺は
ノックの音に気付かなかった。


「…入りますよ。よろしいですか?よろしいですね?」


僅かに開いたドア。


「何もしちゃいねーよ。昼飯中はさせてくれねぇんだから。」

「何言っちゃってくれてんのよ!この変態!」

「ったく、パンツぐらい見せろよな。」


つくしがお重の蓋を手に取った。


「はいはいはい、子どもたち。ほら、お茶ですよ。」


経済界をリードする、辣腕経営者と呼ばれる希少な頭脳。
道明寺財閥を左右する御曹司。
優秀で有能な秘書は、お重の蓋攻撃からしっかりと守った。


「あんた、横に来なさい!」

「何で。」

「いいから!」


面倒くさそうな顔をしながらも、いそいそと恋人の横に座る。
西田はお茶を注ぎながら、二人のやり取りを微笑ましく見ていた。


「牧野様、お口には合いましたか?」

「…むぐ。はひ、おいひいです!」

「司様も…ちゃんと食べられていますね。」

「美味そうに食べるやつがいるとな。」

「良かったです。それでは、ごゆっくり。」

「…ほら。これも食え。」

「え?いいわよ。あんたが食べて。」


ランチは司様にとっていい気分転換になったようだ。
箸も進んでいる。
普段なら食事に興味がない方なのに。
執務室のドアノブを手にし、西田が後ろに向かって言った。


「この次の予定がありますので。
司様、くれぐれも、鍵を掛けないで下さいね。」

「どうせ、こいつ何もさせてくれねぇよ。」

「だからそういう事を言うなー!」




西田は執務室を出た。
手にはお茶の盆と、お重の蓋を2枚持って。

優秀で有能な秘書は、珍しく肩を震わせていた。






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