磨きあげられたデスクに広がる沢山の写真。
一枚一枚を手に取り、じっと眺める。


「…それで?」

「はい。定期的に検査に通われています。
痛みはまだ時折あるようですね。」


既に傷跡の写真は見ていた。
事故後の痛々しい姿も。


「司は?」

「司様は出張の時を除き、毎晩牧野様の自宅に帰られております。」

「…そう。」


右手を軽く振り、秘書を下がらせた。


予想通りのこと。
あの子はもう彼女を手放すはずがない。

写真の中にいる彼女は、真っ直ぐに私を見つめていた。








「あー、歌った。歌った。」
「牧野ちゃん、この後〆行かない?」


皆、ご機嫌だ。
急遽決まった飲み会も出席率は100%。小さな会社だが、団結力はどこにも負けないだろう。


「いえ、もうお腹いっぱいで。」


先輩達や上司に挨拶をして、〆のラーメンを食べに向かう一行を見送った。


「ふぅ〜。」


いつもより飲んだかも。
チューハイを2杯だけだけど。ん?これダジャレ?わははは
あー顔が熱い。
フワフワする。

時計を見た。
11時か…


その時、黒塗りの車がつくしの少し先に停まった。
そしてその後ろにはリムジン。
ピッカピカの超高級車たち。


「…あ。」


思わず笑顔になる。

降りてきた男は、惚れ惚れするぐらい物凄〜くいい男だった。
周り中の視線を集めているが、本人は無頓着だ。
スラックスのポケットに手を入れて首を軽く傾げる。


「酔っ払いだな。」

「いきなりそれかい!何よ、もう。」

「ほら乗れ。」

「ぷぎゃっ!」


リムジンのシートに押し込まれた。
そしてあいつも乗り、ドアが閉まる。


「あれ?なんでここが…、」

「楽しかったか?」

「うん。いっぱい食べたよ。」

「そこかよ。」


リムジンには道明寺の匂い。
ふっ、と力が抜けた。


「あのね、会社に戻ったらね、皆が花吹雪で迎えてくれてね、」

「ぶっ。それで?」

「皆で万歳三唱してねー、」

「お前さ、酔っ払うと喋り方おもしれぇよな。」

「まぁまぁ、聞きなさい。
それでね、定時で上がって皆で飲みに行ったの。」


道明寺から水を受け取り、よく冷えたミネラルウォーターをごくりと飲んだ。


「…ぷは。」

「いくら祝いだからって久しぶりの酒だろ。
2杯でも回るぞ。」

「へ?2杯って何で知って…」

「ゴホ、…それで?何食べたんだ?」


つくしが顔を輝かせた。


「炭火焼鳥!鶏皮がパリパリで凄く美味しかったんだよ。」


あいつは笑ったまま。


「お茶漬けも美味しかったなー。あ、そして二次会はカラオケに行ってね。」

「お前も歌うのか?」

「もちろん!」


逞しい腕に肩を抱かれて、つくしは肩に顔をつけた。
いい匂いにキュン、となる。


「聞きたい?聞きたい?」

「…酔っ払いめ。」

「よし、聞かせてやろう。」

「はぇえな!」

「ふっふっふ。皆からいつもリクエストが入るんだよ。」



ミネラルウォーターをマイクにしながら、つくしは上機嫌で歌い始めた。
大きな肩が微かに揺れている。



少し音程を外しながらも楽しげに歌うつくしに、司は一日の疲れも吹っ飛んだ。


明るい。
眩しい。
光のような女。
綺麗なものだけで出来ている女。


「ハイ、拍手〜!!」

「要求すんのかよ。ったく。」


笑いながらパチパチと拍手をする司に、つくしはにっこりした。


「歌ってると、皆ねーあきなちゃ〜ん!とか、せいこちゃ〜ん!って
ダミ声で言ってくれるんだよ。」

「俺にも言えってか。」

「恋も二度目なら〜って入り方がいいよねー。
そしてね、貴方のセーター袖口摘んで♫からの歌詞もいいんだよ!」

「ぶっ。はいはい。」

「グッとくるよねー。じゃあ次も神曲で!」

「まだ歌うのかよ!」

「はい!拍手〜!!」


司はゲラゲラ笑いながら、酔っ払って歌う恋人に拍手をした。




世界的大財閥の御曹司はいつもビジネススマイルだ。
この世界では狡猾で、打算的でいなくてはならない。
常に競争、競争、競争。
生きるか死ぬか。
ビジネスの世界は一分一秒たりとも気を抜けない。
どこにでも罠が張り巡らされている。

何万人という財閥で働く人の生活を背負い、それに繋がる人の生活まで
義務があった。

すべてを持っているのに、がんじがらめで動けない。

息が出来ない。
眠れねぇ。


俺に自由はねぇのかよ。


だが違う。

心だけは自由だった。


この俺の前で歌う女が他にいるか?
楽しそうに、嬉しそうに。
 

ああ、俺は愛してる。

好きで好きで好きで。
どうしようもねぇんだ。

血がめぐり、呼吸が出来る。
あたたかな身体を抱きしめるとぐっすり眠れるんだ。

ああ、この女がいるから俺は明日も生きられる。







「ね、どうだった?」


返事より先にキスがきた。
顔を大きな手で包み込まれる。



執拗で、甘くて、深い。


いつの間にかシートに倒されている。


「…酒くせぇ。」

「うん。青りんごチューハイと、ライムチューハ、」

「中に挿れたい。」

「う、ん。」



ああ、確かに私酔っ払いだわ。

ストッキングを履いた右足が、シートの背もたれに乗った。
左足は空中に見える。
さっきから当たる、興奮したあいつで私も大胆になっていたのかも。

司がジャケットを放り投げた。




熱に浮かされたように私を見ている。

そして私は…自分のシャツのボタンを外し始めた。





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